説明

保冷剤の製造方法

【課題】 水溶性高分子材料を使用した保冷剤であって、無機塩または有機系架橋剤の影響を受けることなく、十分な硬さと保形性を有し、離水のない組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 濃度17〜40重量%のアルカリ金属塩水溶液85〜95重量部に、粒子径が0.1mm以上のものを50重量%以上含み、かつ1.0mm以下のものを80重量%以上含有する水溶性セルロースエーテル、あるいはグリオキザールを架橋剤として架橋処理した水溶性セルロースエーテルを5〜15重量部添加、分散し、流動性を有するうちに容器に充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属塩水溶液に水溶性セルロースエーテルを溶解させて得られる保冷剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水性ゲル状の保冷剤が種々の分野で使用されている。これらの保冷剤は、水性ゲル状物を密封袋あるいはプラスチック容器に充填し、これを凍結させたものが使用されている。これらのゲル状物の形成には、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩等の水溶性高分子を無機塩または有機系架橋剤で架橋して使用される。水性ゲル状の保冷剤は、凍結していない状態において、容器が破損しても流出しない程度の硬さと保形性を有している必要がある。
【0003】
これらのうち、より低価格で品質管理の容易なゲル素材として、ポリアクリル酸ナトリウム等合成素材を使用した多くのゲル状物が検討されている(特許文献1〜3)。しかし、近年、環境問題の観点から、廃棄などが容易で自然分解性に優れた天然素材に近い材料が求められるようになっている。
【0004】
また、グアーガムやカラギーナン等の天然素材の使用するゲル状物も多数検討されているが(例えば、特許文献4〜5)、価格上及び不純物等品質上の問題があった。
【0005】
カルボキシメチルセルロースまたはそのアルカリ金属塩(以下、CMC)は、天然素材であるセルロースを用いた半合成の水溶性高分子である。そのため、CMCを使用した水性ゲル組成物を得る試みはこれまでに多くなされ、アルミニウムなどの多価金属イオン等の架橋剤で架橋、ゲル化する方法が知られている(特許文献6〜7)。しかしながら、ある種の多価金属イオンは、水への溶解性が高いため、ゲル化速度が非常に速くなり、ゲル製品の製造における作業性が悪いという問題があった。また、水への溶解性が低い多価金属塩を使用した場合は、ゲル化速度が遅いという問題があった。
【0006】
一方、潮解性を有する無機塩の高濃度水溶液に、水溶性高分子を高濃度分散、溶解する方法が知られている(特許文献8)。これらを保冷剤に適用すると、無機塩の種類によっては水溶性高分子が完溶せず、粘度発現が不十分となる場合があった。
【0007】
さらに、特許文献9では、有機増粘剤に水を加えたペースト状物に、塩化ナトリウムを主成分とする塩を5〜16重量%添加する保冷剤の製造方法が紹介されている。この方法では、有機増粘剤を高濃度で使用する場合、溶解時にままこを形成し、取り扱いが非常に困難であった。
【特許文献1】特公昭57−28505号公報
【特許文献2】特開平6−25657号公報
【特許文献3】特開平10−258078号公報
【特許文献4】特許第3420607号公報
【特許文献5】特開平10−265769号公報
【特許文献6】特許第2665786号公報
【特許文献7】特許第3404232号公報
【特許文献8】特許第3149941号公報
【特許文献9】特公平1−13027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水溶性セルロースエーテルを使用した保冷剤であって、無機塩または有機系架橋剤の影響を受けることなく、十分な硬さと保形性を有する組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、水溶性セルロースエーテルとアルカリ金属塩を使用する保冷剤を製造する場合において、水溶性セルロースエーテルの固体性状と、アルカリ金属塩水溶液への溶解性の両効果を組み合わせることにより、室温で十分な硬さと保形性を有する保冷剤を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は濃度17〜40重量%以上のアルカリ金属塩水溶液85〜95重量部に、水溶性セルロースエーテルを5〜15重量部添加することを特徴とする保冷剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
濃度17〜40重量%のアルカリ金属塩水溶液85〜95重量部に、粒子径が0.1mm以上のものを50重量%以上含み、かつ1.0mm以下のものを80重量%以上含有する水溶性セルロースエーテル、あるいはグリオキザールを架橋剤として架橋処理した水溶性セルロースエーテルを添加することにより、水溶性セルロースエーテルの添加直後は系内への分散が支配的になり、その後溶解が進行する。このため、無機塩または有機系架橋剤の影響を受けることなく、十分な硬さと保形性を有する粘土状、モチ状の高粘液であって、離水がない組成物を確実にかつ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(アルカリ金属塩)本発明で使用するアルカリ金属塩は、その水溶液が水溶性セルロースエーテル類を溶解させるものであれば特に限定されるものではなく、例示すれば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウムが挙げられる。前記アルカリ金属塩は、単独で使用しても、二種類以上を混合して用いても良い。アルカリ金属塩のうち、取り扱いの容易さなどの観点から特に塩化ナトリウムが好ましい。
【0013】
(アルカリ金属塩水溶液濃度)本発明において使用するアルカリ金属塩水溶液濃度は17重量%〜40重量%、好ましいアルカリ金属塩水溶液濃度は17〜30重量%、更に好ましくは18〜27重量%である。ただし、各アルカリ金属塩の飽和水溶液となる濃度が40重量%以下である場合はこの限りではなく、17重量%から飽和水溶液濃度の範囲である。高濃度のアルカリ金属塩水溶液は、水溶性セルロースエーテル類の溶解を遅延させる効果を有している。
【0014】
(水溶性セルロースエーテル類)本発明で使用される水溶性セルロースエーテル類は特に限定されるものではなく、セルロースをエーテル化することで水溶性となる全てのセルロースエーテルを用いることができるが、例えばカルボキシアルキルセルロース類やノニオン系のセルロースエーテル類を挙げることができる。
【0015】
カルボキシアルキルセルロース類の例としては、カルボキシメチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース、カルボキシメチルメチルセルロース等のカルボキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース等のカルボキシアルキルヒドロキシアルキルセルロース、及びこれらのアルカリ金属塩が挙げられる。カルボキシアルキルセルロース類のうち、取り扱いの点でカルボキシメチルセルロースが特に好ましく、特にカルボキシアルキルセルロースのアルカリ金属塩が好ましい。
【0016】
カルボキシアルキルセルロースのアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、カルボキシアルキルセルロースのナトリウム塩が好ましい。
【0017】
本発明で使用するカルボキシアルキルセルロースのアルカリ金属塩、好ましくはカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、更に好ましくはカルボキシアルキルセルロースのナトリウム塩において、カルボキシメチル基のエーテル化度(DS)は、0.6〜3.0、好ましくは0.8〜3.0、さらに好ましくは0.7〜2.8である。エーテル化度DSは、0.6以下ではカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩がアルカリ金属塩水溶液に不溶になる。
【0018】
ノニオン系のセルロースエーテル類の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルアルキルキルセルロース等が挙げられる。ノニオン系のセルロースエーテルのうち、取り扱いの点でヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。
【0019】
本発明で使用するヒドロキシエチルセルロースの平均置換モル数MSは、例えば1.0〜2.0、好ましくは1.2〜2.5、さらに好ましくは1.2〜1.8である。
【0020】
(固体性状)水溶性セルロースエーテル類を水に溶解する場合、粉体であるとままこを生じ易いため、分散性を向上させる必要がある。分散性を向上させる手段としては、例えば造粒により顆粒状にすることや、架橋剤や界面活性剤等により表面処理を施すことなどが挙げられる。
【0021】
(造粒方法) 造粒方法としては、慣用の造粒方法、例えば転動造粒、流動層造粒、撹拌造粒、解砕造粒、圧縮造粒、押出造粒、溶解造粒などの方法から適宜選択することができる。なかでも、圧縮造粒、撹拌造粒、転動造粒が、経済性や操作の容易性などの点から好ましい。造粒温度は、例えば常温〜200℃程度の範囲から選択できるが、常温で行うことが好ましい。このようにして造粒された顆粒状物は、分級することにより所望の粒子径を有する水溶性セルロースエーテルを得ることができる。
【0022】
(粒子径) 顆粒状物の粒子径は、0.1mm以上が50%以上、かつ1.0mm以下が80%以上であり、好ましくは0.1mm以上が70%以上、かつ1.0mm以下が80%以上、更に好ましくは0.2mm以上が70%以上、かつ1.0mm以下が80%以上である。適切な粒子径を持った水溶性セルロース類を用いることで、ままこを発生させることなくアルカリ金属塩水溶液中に水溶性セルロースエーテル類を均一に分散させることができる。
【0023】
(表面処理) 水溶性セルロースエーテル類の分散性改良のための表面処理方法として、グリオキザール等のアルデヒドや界面活性剤を使用することができる。本発明で使用する水溶性セルロースエーテル類の表面処理方法は、分散性が改良されている限りにおいて特に制限されるものではない。
【0024】
(水溶性セルロースエーテル類の濃度)水溶性セルロースエーテル類の濃度は、組成物全体を100重量部とした時に、5〜15重量部、好ましくは5〜12重量部、さらに好ましくは5〜10重量部である。水溶性セルロースエーテル類の添加量により、適宜溶液粘度(硬度)を調整することができる。
【0025】
(保冷剤の製造)本発明の保冷剤製造方法の詳細は次の通りである。予め調製したアルカリ金属塩の水溶液を攪拌しながら、そこに水溶性セルロースエーテル類を添加、分散させる。この時、必要に応じて30〜50℃に加温しても良い。また、必要に応じて防腐剤、防黴剤を添加することができる。その後も引き続き攪拌を継続し、増粘が始まったら攪拌を止め、流動性を有しているうちに容器に充填する。さらに本発明の方法で製造した保冷剤は、圧縮や押出し等の方法で成型することができる。
【0026】
以下、実施例で本発明の詳細を説明するが、本発明は、これらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0027】
なお、実施例および比較例では、以下の成分を用いた。
【0028】
CMC1:カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業(株)社製、CMCダイセル2252、エーテル化度0.9、1%粘度5000mPa・s、粒子径0.2mm以上が70%以上、0.5mm以下が95%以上)
CMC2:カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業(株)社製、CMCダイセル1170、エーテル化度0.6、1%粘度700mPa・s、粒子径0.1mm以上が50%以下)
CMC3:カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業(株)社製、CMCダイセル1150、エーテル化度0.7、1%粘度200mPa・s、粒子径0.1mm以上が50%以下)
CMC4:カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業(株)社製、CMCダイセル2260、エーテル化度0.9、1%粘度5600mPa・s、粒子径0.1mm以上が50%以下)
HEC1:ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業(株)製、HECダイセルSP900、1%粘度4500mPa・s、グリオキザールによる分散性改良タイプ)
【実施例】
【0029】
(実施例1〜4)
300mlのビーカーに室温で所定量のアルカリ金属塩水溶液を調製し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、所定量の顆粒状カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を添加し、攪拌を継続した。攪拌の渦がなくなる直前に攪拌をとめ、チャック付きのポリエチレン製袋に充填し、保冷剤を100g調製した。配合量は表1に示した。
【0030】
(比較例1〜3)
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩に粉末状物を使用した以外は実施例1〜4と同様にして、保冷剤を100g調製した。配合量は表1に示した。
【0031】
(実施例5)
実施例1〜4の顆粒状CMCのナトリウム塩の代わりに、グリオキザールで処理したヒドロキシエチルセルロースを使用した以外は、実施例1〜4と同様にして、保冷剤を100g調製した。配合量は表1に示した。
【0032】
(比較例4)
アルカリ金属塩の代わりに、塩化カルシウムを使用した以外は、実施例1〜4と同様にして、保冷剤を100g調製した。配合量は表1に示した。
(保冷剤の評価)
[保冷剤の状態]
室温において、本発明の手順で製造し、48時間経過後の保冷剤の状態を目視で確認した。
【0033】
○:完全に溶解し、静置状態では流動性を有していない。
【0034】
△:静置状態では流動性を有していないが、水溶性セルロースエーテルが完全には
溶解していない。
【0035】
×:水溶性セルロースエーテルが溶解不十分またはままこを形成
[保冷時間]
チャックつきのポリエチレン製の袋に充填した保冷剤100gを、−25℃の冷凍庫で48時間静置し、完全凍結させた。次に温度25℃の恒温室内で静置し、保冷剤が解凍するまでの時間を測定し、保冷時間とした。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度17〜40重量%のアルカリ金属塩水溶液85〜95重量部に、水溶性セルロースエーテル類を5〜15重量部添加することを特徴とする保冷剤の製造方法。
【請求項2】
濃度17〜40重量%のアルカリ金属塩水溶液85〜95重量部に、粒子径が0.1mm以上のものを50重量%以上含み、かつ1.0mm以下のものを80重量%以上含有する水溶性セルロースエーテル類を5〜15重量部分散させた後、流動性を有している間に容器に充填することを特徴とする請求項1記載の保冷剤の製造方法。
【請求項3】
濃度17〜40重量%のアルカリ金属塩水溶液85〜95重量部に、グリオキザールを架橋剤として架橋処理した水溶性セルロースエーテル類を5〜15重量部分散させた後、流動性を有している間に容器に充填することを特徴とする請求項1又は2記載の保冷剤の製造方法。
【請求項4】
水溶性セルロースエーテル類が、カルボキシアルキルセルロース類、またはノニオン性セルロースエーテル類である請求項1〜3いずれかに記載の保冷剤の製造方法。
【請求項5】
カルボキシアルキルセルロース類がカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩である請求項4記載の保冷剤の製造方法。
【請求項6】
ノニオン性水溶性セルロースエーテル類がヒドロキシエチルセルロースである請求項4記載の保冷剤の製造方法。
【請求項7】
アルカリ金属塩水溶液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム又は酢酸ナトリウムから選ばれる1種以上からなる請求項1〜6いずれかに記載の保冷剤の製造方法。