説明

保冷手段を備えた遺体袋

【課題】自然災害地や戦災被災地の現場で遺体袋に保冷手段がセットでき、遺体を病院や検査機関まで運ぶ間、遺体袋の保冷ができ遺体の腐敗を防ぐことを可能とした遺体袋の提供。
【解決手段】遺体袋本体1に、硝酸アンモニウム、尿素等の水に溶解すると吸熱作用を示す保冷手段5,6と、水3,4が給水主管7,10と給水分管8,11で接合されており、遺体を収容した場合には、開閉弁9,12を開いて水3,4が保冷手段5,6に供給され、吸熱作用により、遺体袋本体1の温度が下がる。これにより、回収した遺体がその後それ以上腐敗せず、病院や検査機関で遺体の検査や識別が終了するまで保存されることを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自然災害地や戦災被災地から遺体を収容する際に、該遺体の腐敗防止を目的とした保冷手段を有する遺体袋に関する。さらに詳しくは遺体を収容する際に硝酸アンモニウム(以下硝安と称す)、尿素及び水から構成される保冷手段を被災地の現場でセットできる遺体袋に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな自然災害や最近の空爆が主体な戦争では、不幸にして人身に大きな被害が生じて遺体が発生する。被災地から遺体を回収する場合、最も重要な事はその遺体がその後、それ以上腐敗せず、病院や検査機関で遺体の検査や識別が終了するまで保存されることが望ましい。また、被災地から遺体を回収する場合、多くは遺体袋が用いられる。従来の遺体袋は腐敗防止を目的とした保冷手段としては一般的にはドライアイスを遺体の周りに詰め込む方法がとられている。
【0003】
しかし、ドライアイスは製造設備が必要で一旦マイナス40℃以下に冷却しなくてはならない事と、冷却状態で被災地まで運ぶ事が難しい大きな欠点があった。ドライアイスに代わる保冷手段として例えば[特許文献1]特開2003−79680に吸水性樹脂を用いる提案がされているが、この技術においても保冷手段を持たせるため冷却設備が必要で、どこかで一旦吸水性樹脂を冷却しなくてはならない事と被災地まで冷却状態で運搬しなくてはならず、これらの技術は大きな欠点があり改善が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前もって保冷手段を持たせる工程及び冷却状態で運搬しなくては有効でないドライアイスや吸水性樹脂に代わって、自然災害地や戦災被災地の現場で遺体袋に保冷手段がセットでき、遺体を病院や検査機関まで運ぶ間、遺体袋の保冷ができて遺体の腐敗を防ぐ事を可能とした遺体袋の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、上記の課題は次のような手段によって解決できる事がわかった。
即ち、自然災害地や戦災被災地の現場で、硝安、尿素等の水に溶解する時に発生する吸熱作用を利用して保冷手段をセットできる遺体袋にする事により上記課題が達成できた。
該遺体袋の提供により、前もって保冷手段を持たせる工程及び冷却状態で運搬しなくては有効でないドライアイスや吸水性樹脂を保冷手段とした遺体袋に代わって、回収した遺体がその後病院や検査機関で遺体の検査や識別が終了するまで、それ以上腐敗しないで遺体を保存できる遺体袋を提供することが可能になった。
【発明の効果】
【0006】
本発明の遺体袋は高い保冷手段を有し、自然災害地や戦災被災地で遺体を収容して保冷を開始してから遺体の腐敗を防ぎ、病院や検査機関で遺体の検査や識別が終了するまで遺体が回収時の状態で保存できる事が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の目的は、自然災害や戦災被災地で発生した遺体の腐敗を防止する事が重要で、遺体袋に収容すると同時にその場で保冷手段の機能を開始できる事にある。本発明の遺体袋は保冷手段を遺体袋と同一梱包して一体化して準備しておいてもよいし、保冷手段を別梱包しておいて遺体袋の所定の場所にセットしてもよく、被災地の現場で遺体を遺体袋に収容する際に保冷手段をセットできる特徴がある。本発明の遺体袋にセットする保冷手段は硝安、尿素の吸熱作用を利用して扱い性にも優れており、硝安、尿素及び水を必要に応じてセット量を選択する事も可能である。
【0008】
本発明の遺体袋は遺体を収容する機能と遺体の腐敗防止機能を兼ね備えていることが重要であり、遺体袋の材質としては一般に販売されている防湿シートと断熱材で構成されている遺体袋でも良いが、好ましくは外側の防湿シートと遺体収容側の防湿シートは水不透性の材質が好ましく、両方の該シートの間には断熱機能を備えた材料を用いる態様が好ましい。又、本発明の遺体袋は遺体収容部の数箇所に保冷手段として用いる硝安、尿素の溶解液、又は硝安、尿素混合ゲル状液がセットできる態様が好ましい。
【0009】
本発明の遺体袋で保冷手段を遺体袋に同一梱包して一体化している態様については、遺体袋の所定の場所に保冷手段をセットする場所を設け、保冷手段を作成する硝安、尿素の梱包部分と水の梱包部分をパイプで接続し、該パイプの中間に硝安、尿素の梱包部分に水を導入する開閉弁を設けるか、あらかじめパイプの中間に栓をしておき、被災地で遺体袋にセットするとき開閉弁を開くか栓を抜いて水を導入する態様が好ましく、硝安、及び尿素に水を接触させる事により、硝安及び尿素が水に溶解する時に発生する吸熱反応により遺体袋が冷却される態様となる。
【0010】
遺体袋と保冷手段を別梱包する態様について、保冷手段をセットする場所を前記の一体化の場合と同様に遺体袋の所定の場所に決めておいても良いが、被災地で回収する人体の体格に合わせて必要な保冷手段量をセットする態様が好ましい。遺体袋へ別梱包の保冷手段をセットする方法は、遺体を遺体袋に収容する際に保冷手段の外袋に衝撃を与え、その衝撃によって内袋を破り、内袋内の水を硝安及び尿素と接触させる事により急激な吸熱反応が起こり、外袋内が冷却され保冷手段としての役目を果たせる態様となる。
【0011】
前記、別梱包の保冷手段はあらかじめ顆粒状の硝安、尿素を外袋に梱包し、内袋に水を比較的小さな衝撃で破壊しやすい袋材料で梱包して遺体袋にセットできる保冷手段とすることができる。該外袋の材料としては、一般的にはポリエチレンフィルムが用いられるが、片面にアルミニウム蒸着したポリエチレンフィルムを用いると更に良い。又、内袋の材料としてもポリエチレンフィルムが好ましい材料であるが、内袋としては前記した如く比較的小さな衝撃で内袋を破壊できる事が重要である為、同じ材質を用いる場合は内袋のフィルムの厚さを1/2以下にすると良い。又、これらの材料について最終的な廃棄処理まで考えると生分解性プラスチック材料例えば、バイオポール、ビオフィン、ビオグリーン、ノボン、マタビー、ドロン、セルグリーン、ビオノール、PCL、ラクティ、ルナーレ、レイシア等を用いる態様が好ましい。
【0012】
本発明の遺体袋にセットする保冷手段の構成は吸熱材としての顆粒状硝安20%から60%、顆粒状尿素10%から40%を外袋に梱包、水を吸熱材の重量の20%から60%を内袋に梱包する態様が好ましく、更に好ましくは硝安30%から50%、尿素10%から30%を外袋に梱包、水を吸熱材の20%から40%を内袋に梱包する態様が好ましい。該保冷手段の1単位の包装重量は100gから2000gが好ましく、更に好ましくは150gから1000gである。
【0013】
本発明に保冷手段として用いられる硝安、尿素は顆粒状が好ましく、吸湿性及び水に対する溶解速度が大きいことが知られている(硝安の溶解度;0℃の水100gに118.3g,尿素の溶解度;0℃の水100gに40g)。即ち、硝安や尿素は吸湿性及び水に対する溶解速度が非常に大きい為、硝安や尿素に水を注ぐと急激に溶解し始め、該溶解液は急激に冷却作用が起こり、0℃から−5℃を示す。
【0014】
硝安や尿素は吸湿性が強く湿度が加わると潮解する性質があるため、長期に保存する場合は外袋と共にシリカゲル等の乾燥剤を共存させれば良く、シリカゲルは硝安、尿素等の溶解、吸熱反応を妨害することは無いので好適に乾燥剤として利用しても良い。
【0015】
本発明の遺体袋の防湿シート材料については、一般的にはポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、不織布、ゴム等が用いられる。
これらの材料は単独で用いても良く、何層かに重ねて重層構造としても良い。又、防湿性を高める目的で水分非透過性の樹脂をスプレー塗布しても良いし、市販の防湿加工したシートを購入しても良い。又、これらの材料も最終的な廃棄処分まで考えると生分解性プラスチック材料を用いる態様が好ましい。
【0016】
又、該遺体袋は腐敗の進行を防ぐ目的の保冷手段を長く有効に活用させる為、断熱機能を備えた防湿シートを用いることが重要なポイントとなる。即ち、遺体袋の中の温度と外気との熱交換をできるだけ小さくする必要があり、防湿シートの外側及び内側に断熱材としてガラス繊維、フェルト、発泡プラスチック、アルミニウム蒸着フィルム等のいずれか一つ、又は二つを重ねて用いる態様が好ましい。
【実施例1】
【0017】
本発明の遺体袋(1)
図−1は本発明の保冷手段を遺体袋に同一梱包した場合の具体例の一つで、遺体袋のファスナーを開けた状態図である。
【0018】
図−1について更に各所の材質や充填剤及び実際の遺体の使用方法について説明する。1は遺体袋の本体で、2は遺体袋の上蓋であり、袋の外側の材質はポリエチレンフィルムにアルミニウムを蒸着し、内側の材質は水分非透過性の樹脂をコーティングしたポリエチレンフィルムで、外側及び内側のポリエチレンフィルムの真ん中には断熱材として発泡プラスチックを用いた三層構造となっていて全体の厚さは約2000ミクロンである。
3,4は水袋で水分非透過性の樹脂をコーティングしたポリエチレンの二重構造で給水主管(1),(2)が接合されており、水袋(1),(2)の各容量は水袋(1)が900ml、水袋(2)が600mlである。5,6は保冷手段の充填袋であり、内側の材質は水分非透過性の樹脂をコーティングしたポリエチレンフィルムで構成されており、外側の材質はポリエチレンフィルムで全体の厚さは約100ミクロンで、周囲はヒートシールで接着されている。
【0019】
保冷手段充填袋は遺体袋の本体及び上蓋にヒートシールで固定されてワる。遺体袋の保冷手段材料としては、顆粒状硝安200gと顆粒状尿素150gがそれぞれ充填されており、該保冷手段袋の内部は保冷手段材料を充填した後、減圧状態にしてある。水袋3,4と保冷手段充填袋5,6の各々には給水主管7,10と給水分管8,11で接合されており、実際に自然災害地や戦災被災地で遺体を収容した場合は、開閉弁9,12を開いて充填手段袋に水を送水できる構造となっている。給水分管8,11の太さを給水主管7,10の各々1/5以下にしておくことにより、開閉弁を開き、水袋を押すと水が各充填袋に均一に送水できる工夫がされている。又、保冷手段袋の内部を減圧状態にしておくことによって開閉弁9,10を開くことにより水袋から送水が確実になる。自然災害地や戦災被災地で遺体を収容して開閉弁9,12を開いて保冷手段が働く事を確認したら遺体を腹這いに寝かせ、背中側の遺体袋上蓋2を被せてファスナー13で閉じる態様となっている。
【実施例2】
本発明の遺体袋(2)
図2は本発明の保冷手段を別梱包した場合の具体例の一つで、遺体袋のファスナーを開けた状態図である。
【0020】
図2について更に各所の材質や充填剤及び実際の遺体の使用方法について説明する。1は遺体袋の本体で、2は遺体袋の上蓋であり、遺体袋の材質及び構造は実施例1の遺体袋の材質と同様である。3,4は別梱包の冷却手段セット用マジックテープで、2×5センチメートルの面積のマジックテープが縫合してある。
保冷手段袋は別梱包する仕様であり、保冷手段袋の裏面側中央には2×5センチメートルのマジックテープが縫合してあり、自然災害地や戦災被災地で遺体袋にセットできる態様となっている。
【0021】
保冷手段袋の内部には保冷手段材料としての顆粒状硝安200gと顆粒状尿素150gが入り、保冷手段材料を溶解するために150gの水が水袋に充填されている。自然災害地や戦争被災地で遺体を収容する際に、保冷手段袋に衝撃を与えて内袋を破り保冷手段材料に溶解水を供給する事により、硝安と尿素の吸熱反応が始まり遺体を保冷するごとが可能となる態様である。
保冷手段充填袋の内側の材質は、水分非透過性の樹脂をコーティングしたポリエチレンフィルムで、外側の材質はポリエチレンフィルムで厚さは約100ミクロンである。水袋の材質は保冷材袋の材質と同じであるが厚さは小さな衝撃で破壊し易いように20ミクロンである。又、保冷手段袋、及び水袋の周囲はヒートシールで接着してある。
自然災害地や戦争被災地で遺体を収容して保冷する場合は、保冷手段袋に衝撃を与え、各内部の水袋を破壊して保冷手段が働く事を確認したら各保冷手段袋のマジックテープと遺体袋のマジックテープを合わせて保冷手段をセットした後、遺体を腹這いに寝かせ背中側の遺体袋上蓋を被せてファスナーで閉じる態様となっている。
【実施例3】
本発明外の遺体袋
【0022】
実施例2の遺体袋、保冷手段袋、水袋の材質でプラスチック材料の部分を生分解性のプラスチックを用いた以外は実施例2と同じである。
遺体袋の外側の材質は生分解性プラスチックのビオノールにアルミニウムを蒸着し、内側の材質は水分非透過性の樹脂をコーティングした生分解性プラスチックのビオノールで、外側及び内側のビオノールの真ん中には断熱材としてポリエチレンと澱粉の混合プラスチックを用いた三重構造となっていて、全体の厚さは約2000ミクロンである。
保冷手段充填袋の内側の材質は、水分非透過性の樹脂をコーティングした生分解性プラスチックのビオノールで、外側の材質は生分解性プラスチックのビオノールでフィルムの厚さは約100ミクロンである。水袋の材質は保冷手段袋の材質と同じであるが、厚さは小さな衝撃で破壊し易いように20ミクロンである。又、保冷手段袋、及び水袋の周囲はヒートシールで接着してある。
【実施例4】
実施例1〜3の遺体袋と実施例2の遺体袋に保冷剤としてドライアイスを用いて保冷効果の比較テストをした。
【0023】
テスト方法は遺体の代わりにプラスチックフィルムで肉汁が出ないように包装した豚肉40Kgを遺体袋の中に入れ、本発明の実施例1から3の遺体袋及び比較としてドライアイスをセットした遺体袋でテストした。保冷開始時から36時間後の遺体袋の中に入れた豚肉の温度変化を測定し、結果を表1に示した。
尚、テスト開始から終了までの温度条件は室温25℃で行なった。
【0024】
テスト結果を表1に示す。
【表1】

上記表1から本発明の実施例1から3の遺体袋は従来のドライアイス使用する保冷方法より優れており、遺体の保冷効果を長く維持することがわかった。従来のドライアイスを用いる方法は2時間から8時間の比較的短い時間では本発明の遺体袋より低い温度を保つことができたが、ドライアイスの昇華時間が経過すると急激に温度が上がり、24時間以上の保冷効果は無くなった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の遺体袋は高い保冷手段を有し、自然災害地や戦災被災地で遺体を収容して保冷を開始してから遺体の腐敗を防ぎ、病院や検査機関で遺体の検査や識別が終了するまで遺体が回収時の状態で保存できる事が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】水袋別収容型遺体袋の構造
【図2】水袋衝撃破壊型遺体袋の構造
【図3】水袋衝撃型遺体袋の半開時の斜視図
【符号の説明】
【0027】
本発明遺体袋(1)
1・・・遺体袋本体
2・・・遺体袋上蓋
3・・・水袋(1)
4・・・水袋(2)
5・・・保冷手段充填袋(遺体の腹側)
6・・・保冷手段充填袋(遺体の背中側)
7・・・給水主管(1)
8・・・給水分管(1)
9・・・開閉弁(1)
10・・・給水主管(2)
11・・・給水分管(2)
12・・・開閉弁(2)
13・・・ファスナー
本発明遺体袋(2)
1・・・遺体袋本体
2・・・遺体袋上蓋
3・・・保冷手段セット用マジックテープ(遺体の腹側)
4・・・保冷手段セット用マジックテープ(遺体の背中側)
5・・・ファスナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保冷手段を備えた事を特徴とする遺体袋
【請求項2】
前記保冷手段が遺体袋の内側に保持されている事を特徴とする請求項1記載の遺体袋
【請求項3】
前記保冷手段が硝酸アンモニウム、尿素、水で構成されている事を特徴とする請求項1及び2記載の遺体袋

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−29780(P2008−29780A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227142(P2006−227142)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.マジックテープ
【出願人】(595123081)有限会社レイノ (7)
【出願人】(506287811)
【出願人】(506287132)