説明

保存装置およびその保存方法

【課題】従来の冷却による保存方法では、外部からの熱伝導で冷却されるため、針状結晶となってしまい、氷結晶が大きく細胞破壊を生じてしまうという課題があった。
【解決手段】被冷凍物11を冷却する冷却手段12と、前記被冷凍物11を収納する冷凍室13と、マイクロ波を発生させて被冷凍物にマイクロ波を印加するマイクロ波発生手段14とを設け、被冷凍物11にマイクロ波を印加することで被冷凍物を凍結点以下でも未凍結状態のまま保存することで、被冷凍物を凍結点以下でも未凍結状態のまま保存できるため、冷凍に不向きな野菜やこんにゃく、豆腐などの難冷凍食材の長期保存が可能となる。
さらに、野菜や果物は凍結点以下になると生態防御反応により、栄養素やアミノ酸等の旨み成分が増加するため、より美味しい保存を実現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結点以下の温度帯における食品などの未凍結状態での保存方法およびそれを利用した保存装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品等を冷凍して、その解凍時に鮮度や味を維持するためには、組織体の細胞を破壊しないこと、濃縮(細胞外に溶質が流出する)を抑制することが重要である。通常、低温環境に該食品をおくと、表面から除々に冷却され、最終的に中心部分までが周囲温度に至るため、表面が先に凍りはじめるという現象が起こる。
【0003】
このような場合、食品表面にできた氷結晶が食品内部の未凍結状態の水分を引き出しながら拡大するため、中心部分に向かって大きな針状結晶が生成される。この大きな針状結晶は食品の細胞を破壊するため、解凍時に液汁の流出(ドリップ)が発生して品質低下を招いてしまう。このため、品質評価に肉などの解凍時のドリップ流出量を比較する方法がある。そのため、水分を有する生鮮食品、加工食品などの細胞を破壊することなく冷凍するために、最大氷結晶生成帯(一般的には0℃〜−5℃の氷結晶が最も成長する温度帯)を通過する時間を短くすることが有効である。この時間を短くすることにより、氷結晶を小さくできるので細胞の破壊を防止できるとともに、濃縮を抑制することができる。
【0004】
こういった問題を解決し、高品位な冷凍を実現するための代表的な技術としては、急速冷凍が一般に知られている。この急速冷凍の方法として、大型冷凍機や、液体窒素や液体二酸化炭素などの極低温液体が用いられている。また具体構成としては、底面に金属板を有する急速冷凍容器と、急速冷凍容器の上面開口上方に急速冷凍容器内の食品を冷却するための冷気を吐出する冷気ダクトを設け、急速冷凍容器の収納深さ寸法を70〜100mmとした急速冷凍室を設置するなどして、冷蔵庫での急速冷凍を実施しようとしているもの(例えば、特許文献1参照)がある。
【0005】
しかしながら、前者の大型冷凍機で急速冷凍すると、原理的に被冷凍体表面からの熱伝導
により内部を冷却されるため、大きな食品になると冷凍が完結するまでに数分〜 数時間要してしまう。そのため、この間に被冷凍体の表面と内部に温度差を生じ、被冷凍物の表面と内部との有効凍結期間差が大きくなり、特に被冷凍物表面の氷結晶が大きくなってしまうため、細胞が破壊されたり、濃縮がおこる場合があった。
【0006】
また、後者の極低温液体を用いる方法では、有効凍結期間を短くできるが、原料の供給が必要でコスト高になるという問題があった。さらに、急速冷凍時には極低温冷気を吹きつける必要があるため、省エネについては逆行しているといえる。また、極低温冷気をつくりだすためには、高性能で、巨大な圧縮機を搭載する必要があるなど、コスト的なデメリットも考えられる。また、被冷凍物と極低温液体との温度差が大きいので、被冷凍物の膨張収縮が急速になってしまい、被冷凍物自身に亀裂や破裂などが生じてしまい、外観を損ねてしまうという問題もあった。
【0007】
このような問題を解決する手段として、常温から氷結点付近まで比較的急速に冷却する急速冷却処理を行い、続いて、被冷凍体表面と内部との温度差を小さくするため、氷結点下まで0.01〜0.5℃/時間の緩慢な冷却速度で冷却するスロークーリング処理を行い、この後に急速冷凍を行う方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−83687号公報
【特許文献2】特開平8−252082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、冷却速度0.01〜0.5℃/時間のスロークーリングでは、冷凍完了までに時間がかかりすぎてしまうため、酸化や細菌繁殖などによって食品品質が低下する可能性があった。
また、食品の形状や重量によっては、上記スロークリーニングでも未凍結状態を維持するのは困難な場合があった。そのため、食品の形状や重量に関わらず過冷却状態を発現させ、未凍結状態を維持させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の問題を解決するためになされたもので、被冷凍物を冷却する冷却手段と、前記被冷凍物を収納する冷凍室と、マイクロ波を発生させて被冷凍物にマイクロ波を印加するマイクロ波発生手段とを設け、冷凍室の庫内温度を0℃〜−10℃のいずれかの温度、望ましくは0℃〜−5℃とするため、冷凍に不向きな野菜やこんにゃく、豆腐などの難冷凍食材の長期保存が可能となる。このように被冷凍物の温度を通常の冷凍温度帯より上げることで、新たに解凍する必要がなく、解凍による品質劣化を心配する必要も無い。
【0011】
また、被冷凍物を凍結点以下でも未凍結状態のまま保存することができるので凍結による細胞破壊の恐れもないためドリップを抑制することが可能となる。また、万が一、過冷却が解除して凍結しても、氷結晶が小さいため細胞破壊の影響を抑制することができる。
【0012】
さらに、野菜や果物は凍結点以下になると生態防御反応により、栄養素やアミノ酸等の旨み成分が増加するため、より美味しい保存を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の冷凍方法及び冷凍装置は、被冷凍物の美味しい保存を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波発生手段の動作の有無における被冷凍物の冷却曲線を示す特性図
【図2】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波発生手段動作時の被冷凍物の温度と過冷却度の関係を示す特性図
【図3】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波発生手段動作時の冷凍室の庫内温度と過冷却維持時間の関係を示す特性図
【図4】本発明の実施の形態1における牛肉の旨み成分である遊離アミノ酸の量を初期と未凍結状態で保存した後で測定した結果を示す図
【図5】本発明の実施の形態2における冷凍装置の概略構造を表す概略図
【図6】本発明の実施の形態2におけるマイクロ波発生手段の概略構造を表す概略図
【図7】本発明の実施の形態2における他の冷凍装置の概略構造を表す概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の発明は、被冷凍物を冷却する冷却手段と、前記被冷凍物を収納する冷凍室と、マ
イクロ波を発生させて被冷凍物にマイクロ波を印加するマイクロ波発生手段とを設け、被冷凍物にマイクロ波を印加することで被冷凍物を凍結点以下でも未凍結状態のまま保存できることを特徴とする保存装置であり、冷凍に不向きな野菜やこんにゃく、豆腐などの難冷凍食材の長期保存が可能となる。
さらに未凍結なので、新たに解凍する必要がなく、解凍による品質劣化を心配する必要も無い。また、未凍結なので凍結による細胞破壊の恐れもなく、また過冷却解除時に凍結しても、氷結晶が小さいため細胞破壊の影響を抑制することができる。
【0016】
また、野菜や果物は凍結点以下になると生態防御反応により、栄養素やアミノ酸等の旨み成分が増加するため、より美味しい保存を実現することが可能となる。
【0017】
加えて、冷凍室の庫内温度を0℃〜−10℃のいずれかの温度、望ましくは0〜−5℃とすることによって、より安定的に過冷却状態を保持することができる。特に酵素反応が活性化した状態で未凍結保存できる−3℃付近の温度で保存することで、旨み成分であるアミノ酸や糖をより多く増加させることができ、美味しく長期保存することが可能となる。また、−3℃で未凍結を維持し、その後過冷却が解除されたとしても、過冷却度が低いため凍結される割合も少なく、さらに過冷却状態を経ての凍結のため氷結晶も小さいので冷凍前の状態を保持できており、生の状態を保持することができる。
【0018】
第2の発明は、マイクロ波発生手段は被冷凍物の凍結点以上で被冷凍物の温度が10℃以下、望ましくは5℃以下になった時点で印加することを特徴とするものである。特に、被冷凍物中の水分子は10℃付近から集合しはじめ、特に5℃付近から水分子凝集力が強くなるため、これらの温度域でマイクロ波を印加することで水分子の凝集を効率よく抑制することが可能となり、氷結晶核の生成も抑制できる。このため、安定して過冷却状態にすることができるとともに、過冷却の状態を保持することが可能となる。
【0019】
第3の発明は、加熱手段を設け、未凍結状態で保存後に加熱手段によって被冷凍物の温度を上昇させることで過冷却を解除させることなく未凍結状態にすることができるので、冷凍に不向きな野菜などの難冷凍食材の長期保存が可能となる。さらに未凍結なので、新たに解凍する必要がなく、解凍による品質劣化を心配する必要も無い。また、未凍結なので凍結による細胞破壊の恐れもないため、ドリップなどの心配も不要となる。
【0020】
第4の発明は、マイクロ波発生手段からマイクロ波を発生させる発生部を半導体素子で構成することによって、小型化設計が可能になるため、冷凍装置に搭載しても冷凍装置の容量を損わない構成にすることができる。さらに半導体素子は周波数を可変することができるので、被冷凍物の状態に応じた周波数を印加することが可能になる。
【0021】
第5の発明は、マイクロ波発生手段から発生させた出力が印加されずに戻ってくる電力を検出する反射電力検出手段を設けることによって、様々な形状・量の被加熱物に対してマイクロ波供給量を最大化する周波数を検出することができる。そのため、効率よくマイクロ波を被冷凍物に吸収させることができる。さらに、形状・量の被加熱物に対してマイクロ波供給量を最大化する周波数を検出することが可能となるため、被冷凍物の重量を検知する重量センサや大きさを検出するイメージセンサなどを新たに設ける必要もないため、小型化及び低コスト化を実現することができる。
また、周波数を一定とした場合、被冷凍物の温度によっても反射電力は異なるため、
被冷凍物の温度を検出することも可能となる。そのため、新たに温度検出手段を設ける必要もなくなり、小型化及び低コスト化を実現することも可能となる。
【0022】
第6の発明は、被冷凍物にマイクロ波を印加し、被冷凍物に吸収されるエネルギーよりも大きなエネルギーで冷却することで、被冷凍物を未凍結の状態で維持する保存方法であ
る。マイクロ波を印加することで水分子の凝集を抑制し、凍結に必要な氷結晶核の生成を抑制することができるので、未凍結状態を維持することが可能となる。
【0023】
第7の発明は、未凍結状態のまま保存し、被冷凍物を冷凍室から取り出す前に庫内温度を凍結点付近に上げるもしくはマイクロ波の印加によって被冷凍物の温度を凍結点付近に上昇させることによって、野菜や果物、豆腐、コンニャクなどの難冷凍食品を凍結させることなく長期保存することが可能になる。また、野菜や果物などは未凍結状態で保存することで、生態防除反応で糖などが上昇するため美味しく保存することができる。また肉や魚などは熟成しやすくなり旨み成分であるアミノ酸を増加させることができる。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1及び図2は本発明の実施の形態1における被冷凍物の保存方法における時間と温度の関係を示した図であり、図3はマイクロ波発生手段動作時の冷凍室の庫内温度と過冷却維持時間の関係を示す特性図であり、る。
【0026】
図1には被冷凍物として水を用い、冷却中にマイクロ波を印加した場合と印加しない場合を示している。マイクロ波は水の温度が5℃に凍結した時点で印加した。印加電力は約3Wとし、被冷凍物を冷却するエネルギーは印加電力よりも大きい、約500Wとした。
【0027】
図1に示すように、マイクロ波を印加しない場合では、水の凍結点である0℃で凍結が始まり、温度の低下は緩やかになる。これは水が凍りになる際1グラム当たり80カロリーの潜熱を出すからで、大部分の水が凍るまで熱が供給され続けるため品温の急激な低下は起こらない。この温度範囲を最大氷結晶生成帯(−1〜−5℃)と呼び、この通過時間が短ければ急速凍結であり、通過時間が短ければ緩慢凍結になる。
【0028】
一方、マイクロ波を印加した水は凍結点を過ぎても温度は低下し凍結しない過冷却状態となっている。過冷却とは凍結点以下の温度に冷却されたとき、熱力学的に安定な結晶が現れずに、不安定な液体状態で保持されている状態を言う。
【0029】
一般的に、氷が生成し、凍結するためには、氷結晶の芽となる氷結晶核が生成する必要がある。この氷結晶核および氷結晶の成長の原因として、水の水素結合による分子集合状態の存在がある。水分子は通常25℃で約85%が5量体を作っている。凍結する前に水分子の集合を抑制し、単分子にすることによって、氷結晶核の生成や氷結晶の成長を抑制することができ、過冷却状態に導くことが可能となる。本発明は単分子にする方法として、マイクロ波を印加することで水分子を活性化させ、振動させることで水分子の集合を抑制した。図1に示すようにマイクロ波を印加しない場合では過冷却は発現しないが、マイクロ波を印加した場合では、約−6℃まで過冷却状態を保持しており、マイクロ波印加の効果を確認することができた。
【0030】
図2にマイクロ波を印加するタイミングとして、冷却中の被冷凍物の物温と過冷却度(凍結点―過冷却解消温度)を示す。冷却前の水の温度は20℃とした。図2に示すように、冷却と同時にマイクロ波を印加すると過冷却は発現しないが、マイクロ波を印加する時の水の温度が低いほど、過冷却度が大きくなることが解る。これは、温度が高い時にマイクロ波を印加しても冷却スピードが低下するだけであるが、温度が低くなり水分子が集合し始める時にマイクロ波を印加すると、水分子の動きが活発化され、単分子になると考えられる。このため、図2に示すようにマイクロ波の印加は被冷凍物を冷却し、凍結点以上
で10℃以下、望ましくは5℃以下で印加することが望ましい。
【0031】
本実施の形態でマイクロ波の周波数は2.45GHzとしたが、300MHz〜300GHzであれば同様の効果を得ることができる。300MHz以下では、マイクロ波を食品に効率よく吸収させるためには、電極間に挟むなどの構成にする必要があり、装置自身が大型化してしまう。さらに300MHz以下では被冷凍物の形状によって、電磁波が集中し、均一な電波印加が難しい。そのため、水分子の単分子化が可能な場所と不可能な場所ができてしまい、氷結晶核生成につながってしまう。また300GHz以上においても、電磁波が表面のみに集中し、内部まで伝達しないため、被冷凍物の内部と表面で温度差が発生してしまい、氷結晶核が生成してしまい、過冷却状態にならない。
【0032】
また、装置自身を小型にするためには、マイクロ波の印加手段をアンテナにするのが最も良い方法である。さらにアンテナを用いる場合300MHz〜300GHzではアンテナの小型化が可能なため、マイクロ波発生手段の小型化が可能となる。
【0033】
なお、本実施の形態において、冷凍室の庫内温度を−7℃で行った。この冷凍室の庫内温度と過冷却状態のままで未凍結状態を保持できる時間には、図4に示すような相関があり、庫内温度が高いほど過冷却保持時間は長く維持することが確認できた。特に庫内温度が0℃〜−10℃の範囲内では過冷却の保持時間が数日以上可能であり、上記温度範囲内でも特に0℃〜−5℃の範囲ではより安定的に長期間未凍結状態を維持することが可能となった。そのため冷凍室の庫内温度を0℃〜−10℃のいずれかの温度、望ましくは0℃〜−5℃とすることが望ましい。
【0034】
また、本実施の形態において、被冷凍物として牛肉200gを用いて庫内温度を0〜−18℃まで変化させ、各々の温度で未凍結状態を5日間保持させた。図4は牛肉の旨み成分である遊離アミノ酸の量を初期と未凍結状態で保存した後で測定した結果を示す図である。
【0035】
この結果より、0℃〜−10℃で保存中に熟成が進み、牛肉の旨み成分である遊離アミノ酸が増えることを確認した。さらに0〜−5℃の範囲ではその増加率が高い。特に0〜−5℃では過冷却が解除して、牛肉に氷結晶が瞬時に生成しても完全に凍結されていないので解凍する必要がなく、そのまま美味しく食べることができる。また、過冷却状態を経て凍結された場合は氷結晶が小さく、細胞破壊が抑制されているので、増加した旨み成分がドリップによって流出することを抑制することができ、美味しく被冷凍物を保存することが可能となる。
【0036】
また、−10℃付近まで未凍結状態を保持し、その後−5℃以上に庫内温度を上げることでも同様にアミノ酸の増量を確認することができた。特に未凍結状態の温度が低いほど菌の繁殖が抑えられ長期保存が可能となるが、(表1)で示すように遊離アミノ酸の増加は低い。そのため低温で保存し、その後ヒータ加熱やマイクロ波の印加等によって、被冷凍物の温度を−10℃あるいは−5℃以上に上げることによって、遊離アミノ酸を増加することが可能になる。未凍結温度を変化させることで、長期保存とアミノ酸増量の両方を実現することができる。
【0037】
よって、予め庫内温度を0℃〜−10℃望ましくは0℃〜−5℃にするか、もしくは未凍結保存中に加熱し、被冷凍物の温度を上昇させることによって、解凍工程が必要なく、さらにはアミノ酸の増量することができるので、美味しく被冷凍物を保存することが可能となる。
【0038】
また、未凍結状態を保持することによって冷凍に不向きな食品が凍結できるかについて
も検討を行った。一般的に冷凍に不向きな食材として、野菜や豆腐、こんにゃくなどがあげられる。特に野菜については冷凍できないため、冷蔵で保存しているのが一般的である。しかし野菜は新鮮さを長時間に亘って非常に困難な食材であり、一般の家庭用の冷蔵庫に関するアンケートなどでは、廃棄する食材の上位に上がっている。
【0039】
野菜が冷蔵温度帯で長期保存できない理由としては、野菜の乾燥や葉緑素等の有用成分の急激な分解、菌の繁殖などがあげられる。そのため肉や魚のように冷凍保存したいが、野菜などの植物の場合は肉や魚などの動物と細胞自身の構成が異なるため、細胞が破壊されやすい。つまり、肉や魚などの細胞は、脂質で作られている細胞膜に包まれているため柔軟性がある。一方、野菜などの植物は、細胞膜の外側にセルロースで作られた固い細胞壁が存在する。冷凍すると体積膨張によって柔軟性の無い細胞壁は破壊されてしまうため、解凍後には壊れた細胞壁から野菜の水分が流出し、食感が悪くなってしまう。
そのため、マイクロ波を印加することで被冷凍物を未凍結状態で保存し、調理や食事前に過冷却を解除させることなく庫内温度あるいは被冷凍物の温度を上げることで、野菜などの長期保存を実現することが可能となる。
【0040】
本実施の形態において、野菜としてほうれん草を被冷凍物として評価した。
その結果、7℃雰囲気で放置した場合では約1週間で変色と乾燥が生じて鮮度が低下したが、−5℃で未凍結状態を維持しその後、庫内温度を上げてほうれん草の温度を5℃まで上昇させた場合では、色、硬さともに変化無く、初期と同等の鮮度状態を維持していた。さらに糖を測定した結果、初期に比べ約20%の増加していることを確認した。これは未凍結の状態で保持されていたため、ホウレン草自身の生態防御反応で糖が増加したと考えられる。このように、未凍結状態を維持しその後凍結させること無く温度を上昇させることで、野菜を美味しく長期間保存することが可能となった。
【0041】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における生鮮食品等の冷凍方法を実現できる冷凍装置を示した構成図である。
【0042】
被冷凍物11を冷却する冷却手段12と、前記冷却手段12からの冷気により前記被冷凍物を収納する冷凍室13と、マイクロ波を発生させて被冷凍物12にマイクロ波を印加するマイクロ波発生手段14とを設け、冷却手段12は被冷凍物が前記マイクロ波発生手段14から吸収するエネルギーよりも大きなエネルギーで冷却する構成としている。
【0043】
さらに、冷凍室13に被冷凍物11の温度を検出する温度検知手段15を設け、被冷凍物11が所定の温度に達した時点でマイクロ波発生手段14を動作させ、発生させたマイクロをアンテナ16によって、被冷凍物11に印加する構成としている。また、重量センサや被冷凍物11の温度低下率から被冷凍物11の重量を算出し、マイクロ波のパワーを制御させる制御手段17を設けている。
【0044】
本実施の形態2において、図5に示すようにマイクロ波を発生させるマイクロ波発生手段14の発信部18は半導体素子を用いて構成している。
半導体素子としてはSiやGaAs、SiCやGaNが挙げられるが、本実施の形態においてはGaNを使用した。一般的にマイクロ波を発信させる発信部18としてはマグネトロンがあるが、半導体素子を用いることで、マグネトロンに比べて大幅に小型化が実現でき、冷凍室13内の容積を低減すること、あるいは、冷凍装置を大型化することなくマイクロ波発生手段14を搭載することが可能となる。さらにマグネトロンと違って半導体を使用することで、用意に印加電力や周波数を可変することが可能となる。
【0045】
さらに、発信部18からの出力を増幅器19によって増幅し、分配器20を介して冷凍
室13に設けられたアンテナ16からマイクロ波を印加するが、印加されずに反射される電力も存在するため、その反射電力を検出する反射電力検出手段21を設けることで、様々な形状・量の被加熱物に対してマイクロ波供給量を最大化する周波数を検出することが可能となる。さらに、制御部22を儲け、発信部18を制御することによって、最適な周波数を選択してその周波数でマイクロ波を印加することも可能になり、効率よくマイクロ波を被冷凍物に吸収させることができるという利点もある。
【0046】
さらに、形状・量の被加熱物に対してマイクロ波供給量を最大化する周波数を検出することが可能となるため、被冷凍物11の重量を検知する重量センサや大きさを検出するイメージセンサなどを新たに設ける必要もないため、小型化及び低コスト化を実現することができる。
また、周波数を一定とした場合、被冷凍物11の温度によっても反射電力は異なるため、被冷凍物11の温度を検出することも可能となる。そのため、新たに温度検出手段15を設ける必要もなくなり、小型化及び低コスト化を実現することも可能となる。
【0047】
また、図6に示すように未凍結状態を維持した後、被冷凍物11の温度を上昇させるために加熱手段21を設けた。加熱手段21として遠赤ヒータや近赤ヒータを使用しても良いが、加熱手段21として半導体を用いたマイクロ波発生手段14で構成すれば、マイクロ波の電力を可変することができるため、新たに加熱手段を設ける必要が無く、小型化が実現できる。特に、加熱手段21としてヒータを用いた場合では、冷凍室13内の庫内温度を上昇させる必要があるため、時間とエネルギーが必要となるが、マイクロ波発生手段14を用いることにより、被冷凍物11自身の温度を上げることができるので、短時間で温度を上げることができ、省エネにつながる。
この加熱手段23もしくはマイクロ波発生手段14によって未凍結状態の被冷凍物14の温度を上げることによって、実施の形態1で述べたように、冷凍に不向きな食品である野菜を長期間保存することができるとともに、生態防御反応によって糖を増加することもでき、野菜を美味しく長期間保存することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明にかかる冷凍方法およびそれを用いた冷凍装置は、マイクロ波を
被冷凍体に印加することで被冷凍物を凍結点以下でも未凍結状態のまま保存することができる。このため、冷凍に不向きな野菜やこんにゃく、豆腐などの難冷凍食材の長期保存が可能となる。さらに、野菜や果物は凍結点以下になると生態防御反応により、栄養素やアミノ酸等の旨み成分が増加するため、より美味しい保存を実現することが可能となる。
【0049】
このため、家庭用の冷蔵庫に適用できるほかに、業務用の冷蔵庫などにも適用できる。
【0050】
さらにマイクロ波発生手段で解凍も実現できるという点から、冷凍と解凍を実現できる新たな調理機器として、幅広い調理器にも適用することができる。
【0051】
また、未凍結状態で保存ができるので、例えば動物や植物細胞などの生物の組織等の保
存が可能となり、医療分野への応用にも適用できる。
【符号の説明】
【0052】

11 被冷凍物
12 冷却手段
13 冷凍室
14 マイクロ波発生手段
15 温度検知手段
16 印加手段
17 制御手段
18 発信部
19 増幅器
20 分配器
21 反射電力検出手段
22 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷凍物を冷却する冷却手段と、前記被冷凍物を収納する冷凍室と、マイクロ波を発生させて被冷凍物にマイクロ波を印加するマイクロ波発生手段とを設け、冷凍室の庫内温度を0℃〜−10℃のいずれかの温度とすることを特徴とする保存装置。
【請求項2】
マイクロ波発生手段は被冷凍物の凍結点以上で被冷凍物の温度が10℃以下、望ましくは5℃以下になった時点で印加することを特徴とする請求項1記載の保存装置。
【請求項3】
加熱手段を設け、未凍結状態で保存後に加熱手段によって被冷凍物の温度を上昇させることを特徴とした請求項1または2に記載の保存装置。
【請求項4】
マイクロ波発生手段からマイクロ波を発生させる発生部を半導体素子で構成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の保存装置。
【請求項5】
マイクロ波発生手段から発生させた出力が印加されずに戻ってくる電力を検出する反射電力検出手段を設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の保存装置。
【請求項6】
被冷凍物にマイクロ波を印加し、被冷凍物に吸収されるエネルギーよりも大きなエネルギーで冷却することで、被冷凍物を凍結点以下でも未凍結状態のまま保存させる保存方法。
【請求項7】
未凍結状態のまま保存し、被冷凍物を冷凍室から取り出す前に被冷凍物の温度を上昇させることを特徴とする保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−252635(P2011−252635A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125584(P2010−125584)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】