説明

保護スリーブ

【課題】 保形性がよく部品組み立て時の作業性が良好であり、かつ均一な構成のモーター用保護スリーブを提供する。
【解決手段】 単繊維の繊度が30〜100dtex、組紐の1編組単位を構成するヤーンまたはコード1本に含まれる単繊維本数が4〜50本である合成繊維フィラメント糸を構成要素とし、円筒状の組紐構造からなる保護スリーブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保護スリーブ、中でもモーター部品用保護スリーブとして使用され、モーター部品(例えばコイル、ワイヤー、配線類、結束紐等)を包み込んだ状態でモーターに組み込まれるモーター用保護スリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からモーター類には、その中に使用されるモーター部品の保護を目的として、円筒状の組紐からなる保護スリーブが用いられている。モーター類の中でも地球温暖化防止の観点から近年特に注目を浴びている電気自動車、またはハイブリット車(内燃エンジンと電動モーターを組み合わせたもの)に用いられるモーターは駆動用、発電用、充電用等があるが、瞬時の加速・減速に対応しなければならず、とりわけ高効率であることが要求され、使用条件が非常に過酷になっている。その結果、モーターからの発熱が高くなり、モーターを構成する材料は高温かつ長時間の使用に耐えられるものでなければならない。このような背景から、モーター部品用保護スリーブとして耐熱性繊維を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。
【0003】
しかし上記特許文献2の通常のマルチフィラメント糸または紡績糸を用いて中空の組紐状に作成した保護スリーブは、耐熱老化性には優れるものの、スリーブ自体が僅かな外力によりすぐに扁平化し、モーター組立時(モーター部品の保護スリーブへの挿入時)の作業性が悪いという大きな問題点があった。この扁平化を防止するために、通常のマルチフィラメントとモノフィラメントを混用して円筒状の組紐に製紐したものが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
特許文献3に記載の発明においては、上述の扁平化の問題点は解決されて作業性は改良するものの、マルチフィラメントとモノフィラメントという形態の大きく異なる繊維材料を混用しているためスリーブ全体において部分的には不均一であり、以下1)〜4)の問題点を有していた。
1)マルチフィラメントとモノフィラメントは原料として同一ポリマーを用いても単に単繊維の太さが異なるだけでなく、製造設備・製造方法・製造条件の差による性能差が大きく現れる。従って、両者を混用したものは、性能が劣る側のフィラメントにより性能が決定される。
2)通常のマルチフィラメントとモノフィラメントを混用して組紐とした場合、組紐の交点(組織点)において軟らかいマルチフィラメントが大きく曲げられ、一方モノフィラメントは全く曲げられない。従って、マルチフィラメントが常にスリーブの山・谷の先端に存在してスリーブの肉厚が厚くなる。
3)マルチフィラメント部には単繊維間の空隙が多く、ワニスは大量に付着するが、モノフィラメントの回りにはワニスは付着していない。したがってワニスの付着による耐熱性の向上効果に部分的な差異が生じ、全体としてワニスによる性能改良効果が発揮されにくい。
4)モノフィラメントは通常円形であり、同一繊度で比較するとマルチフィラメントに比してヤーン巾が非常に小さい。したがって保護スリーブの空隙を埋める目的には効率が悪く、結果的に保護スリーブの重量が重くなり(必要な糸量が多くなり)コストアップにつながる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−123324号公報
【特許文献2】特開2001−248075号公報
【特許文献3】特開2004−176243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、保形性および部品組み立て時の作業性が良好であり、かつ均一な構成のモーター用保護スリーブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記問題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、組紐の1編組単位を構成するヤーン又はコードの単繊維の太さ及び単繊維本数を適切に規定し、さらに好適には繊維としてジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸成分とジアミン成分の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミン成分とからなるポリアミド繊維を用いることにより上記問題点が解決されることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、単繊維の繊度が30〜100dtex、組紐の1編組単位を構成するヤーンまたはコード1本に含まれる単繊維本数が4〜50本である合成繊維フィラメント糸を構成要素とし、円筒状の組紐構造からなる保護スリーブであり、好ましくは耐熱老化性が50%以上である上記の保護スリーブであり、より好ましくはスリーブを構成する合成繊維が、60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸成分と、60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド繊維であり、さらに好ましくは該合成繊維が、ジカルボン酸単位の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン単位の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミンである上記の保護スリーブであり、スリーブを構成する合成繊維が、ジカルボン酸単位の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン単位の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン(A)及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン(B)であり、(A)と(B)のモル比が40:60〜99:1である上記の保護スリーブである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の単繊維繊度のマルチフィラメントからなる保護スリーブは適度な圧縮弾性率を有し、扁平化しにくいため、作業性が良好である。さらには軽量化、コストダウンが図れ、特に自動車用モーター部品の保護スリーブとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の保護スリーブは単繊維繊度が30〜100dtexであることが必要である。単繊維繊度が30dtex未満では、製紐された保護スリーブの圧縮弾性率が低く(いわゆる腰が弱く)、僅かな外力または自重により容易に扁平化するので、モーター組み立て時(モーター部品の保護スリーブへの挿入時)の作業が性が不十分となる。これは単繊維繊度が30dtex未満では単繊維の曲げ硬さが小さすぎるためである。また単繊維繊度が100dtexより大きい場合は、製紐された保護スリーブの圧縮弾性率は十分であり扁平化は起こりにくいが、組紐の1編組単位を構成するヤーン又はコード1本に含まれる単繊維本数が少なくなる(4本未満となる)ため、ヤーンまたはコードの巾(広がり)が小さくスリーブに空隙が生じ、空隙部分の電気特性(破壊電圧等)が不十分となる。好ましくは35〜90dtexである。
【0010】
保護スリーブの1編組単位を構成するヤーンまたはコード1本に含まれる単繊維本数は4〜50本であることが必要である。単繊維本数が4本未満の場合は製紐後のヤーンまたはコードの巾が小さくスリーブに空隙が生じ、空隙部分の電気特性(破壊電圧等)が不十分となる。また50本より多いとヤーン自体の総繊度が大きくなり、本発明の保護スリーブに適さない。好ましくは6〜45本である。
組紐の1編組単位を構成するヤーン又はコードとは、組紐を製造する際に1個のキャリヤーボビンに巻かれるヤーン又はコードをいう。例えば次の如くである。
(A)880dtex/24fのヤーン1本をキャリヤーボビンに巻いた場合は880dtexを示す。
(B)440dtex/12fのコード(撚り糸)2本を引き揃えながらキャリヤーボビンに巻いた場合は440dtexを示す。
(C)110dtex/3fのヤーン4本を合撚して440dtexの片撚り糸(コード)として、このコード3本を引き揃えながらキャリヤーボビンに巻いた場合は440dtexを示す。
【0011】
なお本発明において、ヤーンとは販売されている原糸をそのまま用いた場合を指し、コードとは原糸を1本又は複数本引き揃えて撚りをかけたもの、あるいは撚りをかけなかったものを指す。
また本発明に用いられる合成繊維の形態はフィラメント糸であることが重要である。単繊維繊度が30〜100dtexの繊維は、通常の工業的手段では紡績糸を製造することができない。
本発明の保護スリーブは上述の構成を有する繊維を1種のみ、または必要に応じて2種以上を用いて作製することができる。
【0012】
本発明の保護スリーブは耐熱老化性が50%以上であることが好ましい。モーターの中には用途により耐熱老化性の要求度が低いものもあるが、殆どの場合耐熱老化性が必要とされる。特に電気自動車、ハイブリット車に用いられるモーターは前述のごとく使用条件が過酷であり、耐熱老化性の要求度が高い。より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上である。
ここでいう耐熱老化性とは、円筒状の組紐構造に編組された保護スリーブを200℃の熱風炉に入れ、100時間熱処理した後に熱風炉から取り出し、放冷後に保護スリーブを上述の1編組単位を構成するヤーン又はコードの状態に解体して強力を測定する。
強力測定はJIS L1013に準じて行い、耐熱老化性は次の式により求める。
耐熱老化性=(熱処理後のコード強力/熱処理前のコード強力)×100(%)
【0013】
モーター用保護スリーブには上述の耐熱老化性に加えて、下記の特性が要求される。
a)耐磨耗性
モーターへの組み込み時に狭い空間に押し込まれる時の傷つき難さ、モーター回転時の振動等により発生するスリーブ内での繊維間磨耗に対する抵抗性、保護スリーブと外部構造物との磨耗に対する抵抗性(耐磨耗性)が重要である。
b)耐油性
モーターがトランスミッションフルード等の炭化水素を含有する油類に高温状態で浸漬される場合があり、耐油性が必要である。
c)価格
本発明でいう単繊維繊度、単繊維の本数を有するフィラメント糸を有利な価格で提供できるポリマー・紡糸手段の組合せを検討することが必要である。
【0014】
耐熱老化性を満足する合成繊維としては、全芳香族ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、半芳香族ポリアミド繊維等が挙げられるが、上記の耐磨耗性、耐油性、価格を考慮すると半芳香族ポリアミド繊維が最も好ましい。
全芳香族ポリアミド繊維は前記要求特性a)〜c)の中で耐磨耗性が十分でなく、またヤーンの製造方法がいわゆる湿式紡糸であり、製造可能な単繊維の繊度が限定され、価格も高い。またポリアリレート繊維は耐磨耗性、耐油性は良好であるが、価格は高い。PPS繊維は耐磨耗性が低く、耐油性も十分ではない。
【0015】
ここでいう半芳香族ポリアミド繊維とは、ジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸とジアミン成分の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミンとからなるポリアミド繊維であることに特徴を有する。
芳香族ジカルボン酸としては、耐酸化劣化性の点からはテレフタル酸であることが好ましく、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジ安息香酸、4,4'−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸、4,4'−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を1種類または2種類以上併用して使用することもできる。かかる芳香族ジカルボン酸の含有量はジカルボン酸成分の60モル%以上であることが必要であり、75モル%以上であることが好ましい。
【0016】
上記芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としてはマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を挙げることができ、これらの酸は1種類のみならず2種類以上を用いることができる。中でも耐熱老化性の点でジカルボン酸成分が100%の芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。さらにトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸を、繊維化が容易な範囲内で含有させることもできる。
【0017】
また、ジアミン成分の60モル%以上は炭素数が6〜12の脂肪族アルキレンジアミンで構成されていることが好ましい。かかる脂肪族アルキレンジアミンとしては、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミンを挙げることができる。中でも耐熱老化性の点で1,9−ノナンジアミン、あるいは1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとの併用が好ましい。
【0018】
上述の脂肪族アルキレンジアミン以外のジアミンとしてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロへキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルジアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、キシレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン、あるいはこれらの混合物を挙げることができ、これらは1種類のみならず2種類以上を用いることができる。
【0019】
脂肪族アルキレンジアミンとして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとを併用する場合、ジアミン成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、そのモル比は前者:後者=40:60〜99:1、特に前者:後者=45:55〜95:5であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いられるポリアミドはその分子鎖における〔CONH/CH〕の比が1/2〜1/8であることが好ましく、1/3〜1/5であることがより好ましい。
また本発明のポリアミドの極限粘度(濃硫酸中30℃で測定した値)は0.6〜2.0dl/gであることが好ましく、0.6〜1.8dl/gであることがより好ましく、0.7〜1.6dl/gであることがさらに好ましい。該極限粘度の範囲内の半芳香族ポリアミドは、本発明の単繊維繊度を有する繊維を製造する際の溶融粘度特性が良好であり、また得られる繊維からなる保護スリーブは耐熱老化性、耐磨耗性、耐油性が優れたものとなる。
【0021】
さらに本発明のポリアミドはその分子鎖の末端基の10%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましく、末端の40%以上、さらには末端の70%以上が封止されていることが好ましい。分子鎖の末端を封止することにより、得られる繊維からなる保護スリーブの耐熱老化性が優れたものとなる。末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性、封止末端の安定性および価格の点からは特にモノカルボン酸、モノアミンが好ましく、取扱性の容易さ、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から特にモノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸などを挙げることができる。なお、末端の封止率はH−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めることができる。
【0022】
本発明のポリアミドの製造方法は特に制限されず、結晶性ポリアミドを製造する方法として公知の任意の方法を用いることができ、例えば、酸クロライドとジアミンとを原料とする溶液重合法あるいは界面重合法、ジカルボン酸またはジカルボン酸のアルキルエステルとジアミンとを原料とする溶融重合法、固相重合法等の方法により製造できる。
一例を挙げると、末端封止剤、触媒、ジアミン成分およびジカルボン酸成分を一括して反応させ、ナイロン塩を製造した後、一旦280℃以下の温度において極限粘度が0.15〜0.30dl/gのプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合を行うことにより容易に製造することができる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下または不活性ガス流通下に行うのが好ましく、重合温度が200〜250℃の範囲であれば重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができるので好ましい。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合、重合温度が370℃以下であるとポリアミドの分解がほとんどなく、劣化のないポリアミドが得られるので好ましい。
【0023】
上記方法にて重合を行う場合の重合触媒としてはリン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらのアンモニウム塩、あるいはそれらの金属塩、それらのエステル類を挙げることができ、中でも亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムが入手のし易さ、取扱性等の点で好ましい。また、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤等を重縮合反応時、またはその後に添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
【0024】
上述のようにして得られる半芳香族ポリアミドは、本発明で規定する単繊維繊度に応じてマルチフィラメント用設備やモノフィラメント用設備により、通常溶融押出機を用いて溶融紡糸されるが、その際スクリュー型押出機を使用することが好ましい。具体的には半芳香族ポリアミドの融点以上の温度で溶融し、30分以内の溶融滞留時間で口金ノズルより紡出することにより繊維化することができる。しかも、溶融温度、滞留時間は上記の範囲内であれば、紡糸時のポリアミドの熱分解を抑制することができる。
【0025】
単繊維繊度が30〜60dtexのマルチフィラメント糸は通常のマルチフィラメント用設備を用いて生産できる。具体的には前述のごとく紡出した糸条を引取りローラー等により引き取る。この時必要に応じてノズル直下に加熱または保温ゾーンを設けたり、吹付けチャンバー等による冷却ゾーンを設けて糸条を適切に冷却したり、紡出した糸条に油剤を塗布してもよい。
【0026】
次いで延伸が施されるが、ローラーヒーター、接触プレートヒーター、非接触プレートヒーター等を使用して270℃以下で行うことが好ましく、120〜230℃の範囲で行うことがより好ましい。さらに延伸倍率は2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。この時、270℃より高い温度で延伸を行うとポリアミドの劣化や結晶の再組織化等が起こり繊維強度が低下する。必要に応じて延伸に引き続いて120〜270℃で定長熱処理、緊張熱処理または弛緩熱処理を行うことができる。
また上記した方法以外にも紡糸直結延伸を行うことも可能である。
【0027】
単繊維繊度が50〜100dtexのマルチフィラメント糸はモノフィラメント用設備を用いて生産できる。具体的には前述のごとく紡出した糸条を一定の温度に制御された水中に浸漬して冷却固化する。糸条を乾燥した後、加熱浴、加熱蒸気吹付け、熱風炉等を使用して120〜270℃の温度で2倍以上、好ましくは3倍以上熱延伸する。次いで前述の加熱手段等により120〜270℃に加熱しながら定長熱処理、緊張熱処理、弛緩熱処理を行う。また適宜油剤を付与することもできる。このような延伸・熱処理後必要な単繊維本数毎にまとめて巻き取る。
【0028】
このようにして得られた繊維はヤーンをそのまま、又はリング撚糸機等の適切な設備を用いて撚りをかけてコードとして組紐工程に供する。加撚時に複数本のヤーンを合わせること(いわゆる合撚糸する)も可能である。加撚数は特に限定されるものではないが、後工程や使用時に単繊維の集束性不足の支障が起こらない範囲で低撚数とする。低撚数のほうがコードの巾が大きく、すなわちつぶれた形をしており、保護スリーブを構成する組紐中の空隙を無くするために必要な繊維量が少なくて済み、そして軽量となり価格的にも有利である。さらに組紐を構成する糸層の厚さが小さいため狭い空間にも入れ込み易い。具体的には撚係数Kが500〜5000の範囲が好ましい。ここでいう撚係数Kは次式で表される。
K=T×√D(T:t/mで表した撚り数、D:dtexで表したヤーン繊度)
【0029】
ヤーン又はコードは1本または適切な本数を引き揃えながら製紐機用小巻ボビン(キャリヤーボビン)に巻かれ、必要な本数が揃った時点で小巻ボビンは製紐機にセットされる。使用される製紐機は24キャリヤー、36キャリヤー、48キャリヤー、72キャリヤー、96キャリヤー等、保護スリーブの内径、キャリヤー当りのヤーン又はコードの太さにより決定される。
【0030】
製紐機により円筒状の保護スリーブが作成され巻き取られる。本発明による保護スリーブは単繊維の繊度が適切に選ばれたヤーンを用いているため、適切な圧縮弾性率を有しており、ほとんど扁平化しない。勿論、保護スリーブの内径が大きくなれば使用するヤーンを構成する単繊維繊度を大きくする必要がある。
【0031】
製紐された保護スリーブは必要に応じてヒートセット又はワニス処理を行って、扁平化し難くして中空を保つことを補助することもできる。ヒートセットは、保護スリーブを連続的に熱風炉(繊維が半芳香族ポリアミド繊維からなる場合は270℃以下の温度)で加熱してもよいし、同様の温度を有する熱風炉でバッチ処理することもできる。
ワニス処理はシリコンアルキド樹脂、シリコンフェノール樹脂、アミドイミドエステル系樹脂のほかアルキド樹脂、エポキシ樹脂、架橋ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いて行うことができる。
【0032】
ヒートセット又はワニス処理が行われた保護スリーブ、もしくはヒートセット又はワニス処理が行われなかった保護スリーブは、必要な長さ(例えば5〜50cm)に切断され、モーター部品等の引き込み等に供される。ヒートセットまたはワニス処理を行った保護スリーブは、当然ながらより扁平化が起こり難くモーター部品等の引き込み作業性が良好であり、かつ短く切断した場合の切断端でのヤーンのほつれが生じ難い。モーター部品等の引き込みが終わった保護スリーブは通常上述の如きワニス処理を施した後モーターに組み込まれる。
【0033】
以下実施例によって、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお本発明において耐扁平化、耐熱老化性、耐磨耗性は以下の測定方法により測定されたものを意味する。
【0034】
[耐扁平化]
JIS L1096に準じて製紐後の円筒状保護スリーブの圧縮弾性率を求め、次のとおりランク付けした。
○;80%以上 △;50%以上 ×;50%未満
【0035】
[耐熱老化性]
円筒状の組紐構造に編組された保護スリーブを200℃の熱風炉に入れ、100時間熱処理した後に熱風炉から取り出し、放冷後に保護スリーブを上述の1編組単位を構成するヤーン又はコードの状態に解体して強力を測定する。
強力測定はJIS L1013に準じて行い、耐熱老化性は次の式により求める。
耐熱老化性=(熱処理後のコード強力/熱処理前のコード強力)×100(%)
【0036】
[耐磨耗性]
製紐後の円筒状保護スリーブから解舒した1本のコードを二つ折りにし、互いを1回転巻きつけた状態で0.5g/dtexの荷重下で磨耗させ、切断までの回数を測定する。
【0037】
[実施例1]
(1)テレフタル酸19.7モル、1,9−ノナンジアミン17.0モル、2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.0モル、安息香酸0.6モル、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.06モルおよび蒸留水2.2リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。その後100℃で30分間攪拌し、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、オートクレーブは22kg/cmまで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後、230℃に昇温し、その後2時間温度を230℃に保ち、水蒸気を除々に抜いて圧力を22kg/cmに保ちながら反応させた。次に30分かけて圧力を10kg/cmまで下げ、さらに1時間反応させてプレポリマーを得た。これを100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.1mmHg下にて10時間固相重合することにより30℃の濃硫酸中の極限粘度が1.3dl/gの半芳香族ポリアミドを得た。
(2)このポリアミドを押出機を用いて温度330℃で溶融押出しし、0.7mmφ×12ホールの丸孔ノズルから吐出し、600m/min.で巻き取った。ついで140℃のホットローラー、220℃ホットプレートを用いて4.0倍の熱延伸、5%の収縮を含む熱固定を行い440dtex/12fのマルチフィラメントヤーンを得た。得られたヤーンの性能を表1に示す。
(3)このマルチフィラメントヤーンを440dtex/1のまま60t/m(Z方向)の撚りをかけ、保護スリーブ用コードとした。このコード2本を引き揃えながら製紐機のキャリヤーボビンに巻き取り24本を準備した。その後、製紐機にて内径5.5mmの円筒状の保護スリーブとし、その性能を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例2]
紡糸ノズルを0.7mmφ×9ホールとした以外は実施例1と同様にして440dtex/9fのマルチフィラメントヤーンを得た。得られたヤーンの性能を表1に示す。このマルチフィラメントヤーンを用いて実施例1と同様にして保護スリーブを作製し、性能評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例3]
実施例1で作製した半芳香族ポリアミドを、0.4mmφ×5ホールの紡糸ノズルから330℃にて紡出し、100mmのエアーギャップを通過させた後、90℃の熱水中で凝固させ、ついで熱風炉にて乾燥した。そして230℃の熱風炉で4.0倍の熱延伸を施し、さらに260℃の熱風炉中で5%収縮させながら熱固定し、440dtex/5fのマルチフィラメントヤーンを得た。得られたヤーンの性能を表1に示す。このマルチフィラメントヤーンを用いて実施例1と同様にして保護スリーブを作製し、性能評価した。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
実施例1で作製した半芳香族ポリアミドを0.2mmφ×96ホールの丸孔ノズルから吐出した。その後も実施例1と同様にして440dtex/96fのマルチフィラメントヤーンを得た。得られたヤーンの性能を表1に示す。
このマルチフィラメントヤーンを用いて実施例1と同様にして保護スリーブを作製し、性能評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
0.9mmφ×1ホールの紡糸ノズルを用いた以外は実施例3と同様にしてヤーンを作製し、440dtex/1fのモノフィラメントヤーンを得た。得られたヤーンの性能を表1に示す。
このモノフィラメントヤーン2本を引き揃えながら製紐機のキャリヤーボビンに巻き取り24本を準備した。その後、製紐機にて中空の保護スリーブとし、性能評価した。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例3]
ポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる440dtex/96fのマルチフィラメントヤーンを作製した。作製したマルチフィラメントヤーンの性能を表1に示す。このPPSマルチフィラメントヤーンを用いて実施例1と同様にして保護スリーブを作製し、性能評価した。結果を表1に示す。
【0043】
[比較例4]
ポリアリレート繊維〔株式会社クラレ製「ベクトラン」(登録商標)〕440dtex/80fを用いて実施例1と同様にして保護スリーブを作製し、性能評価した。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例5]
ポリエステル繊維(株式会社クラレ製)550dtex/96fを用いて、実施例1と同様にして保護スリーブを作製し、性能評価した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の単繊維繊度のマルチフィラメントからなる保護スリーブは、適度な圧縮弾性率を有し、扁平化しにくいため、作業性が良好である。加えて軽量化、コストダウンが図れるので、特に自動車用モーター部品の保護スリーブとして有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の繊度が30〜100dtex、組紐の1編組単位を構成するヤーンまたはコード1本に含まれる単繊維本数が4〜50本である合成繊維フィラメント糸を構成要素とし、円筒状の組紐構造からなる保護スリーブ。
【請求項2】
耐熱老化性が50%以上である請求項1記載の保護スリーブ。
【請求項3】
スリーブを構成する合成繊維が、60モル%以上が芳香族ジカルボン酸であるジカルボン酸成分と、60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド繊維である請求項1または2記載の保護スリーブ。
【請求項4】
スリーブを構成する合成繊維が、ジカルボン酸単位の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン単位の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミンである請求項1〜3のいずれか1項記載の保護スリーブ。
【請求項5】
スリーブを構成する合成繊維が、ジカルボン酸単位の60〜100モル%がテレフタル酸であり、ジアミン単位の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン(A)及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン(B)であり、(A)と(B)のモル比が40:60〜99:1である請求項1〜4のいずれか1項記載の保護スリーブ。

【公開番号】特開2007−63730(P2007−63730A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254317(P2005−254317)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【Fターム(参考)】