説明

保護具を備えた滑車

【課題】巻き込まれ事故を防止できる滑車を提供する。
【解決手段】対向する一対の側板4間に支持された軸6に回転自在に装着され、外周面に溝が形成されてなる円盤8と、側板4に取り付けられた吊り具10とを備え、円盤8の外周面にワイヤーロープ12をかけ渡して用いる滑車2において、設定長さの直状部と直状部に連なり螺旋状に複数回巻回された螺旋部とを有する金属ワイヤーからなる保護具18を備え、保護具18の直状部は先端が側板4に形成された取り付け穴20に揺動可能に係止され、螺旋部はワイヤーロープ12に巻き付け可能な螺旋ピッチ及び螺旋径に形成されてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑車に係り、特に滑車とワイヤーロープとの間に手指などが巻き込まれる巻き込まれ事故防止のための保護具を備えた滑車に関する。
【背景技術】
【0002】
送電工事において、対向する一対の側板間に支持された軸に回転自在に装着され、外周面に溝が形成されてなる円盤と、側板に取り付けられた吊り具とを備え、円盤の外周面にワイヤーロープをかけ渡して用いる滑車が使用されることが多い。
【0003】
特に、送電鉄塔の組み立てにおいて、送電鉄塔の構成物品を吊り上げるために使用される。滑車の吊り具を、組み立て途中の送電鉄塔の腕金に取り付け、ワイヤーロープの一端に送電鉄塔の腕金等の物品を吊り下げ、滑車を介して他端を地上の巻き上げ機で巻き取る。作業者は、組み立て途中の送電鉄塔の腕金上で送電鉄塔の構成物品を受け取る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このとき作業者は、ワイヤーロープに手をかけて吊り上げ物品を誘導するが、誘導中も地上の巻き上げ機による巻き取りが行われている。このため、作業者が気付かない間に、ワイヤーロープにかけた手が滑車に巻き込まれ、重大な事故につながることがあった。特に、高所での作業となるため、作業者は足場の悪い中で自身の安全に注意を払う必要があり、ワイヤーロープにかけた手にまで注意が行き届かないことが多いことから、このような事故が後を絶たなかった。
【0005】
また、事故防止策としては注意喚起等しかなく、具体的な対策は講じられていなかった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、巻き込まれ事故を防止できる滑車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、対向する一対の側板間に支持された軸に回転自在に装着され、外周面に溝が形成されてなる円盤と、側板に取り付けられた吊り具とを備え、円盤の外周面にワイヤーロープをかけ渡して用いる滑車において、設定長さの直状部と該直状部に連なり螺旋状に複数回巻回された螺旋部とを有する金属ワイヤーからなる保護具を備え、該保護具の直状部は先端が側板に形成された取り付け穴に揺動可能に係止され、螺旋部はワイヤーロープに巻き付け可能な螺旋ピッチ及び螺旋径に形成されてなることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、巻き取るにつれてワイヤーロープにかけられた作業者の手が滑車方向に誘導されても、手が保護具の螺旋部に触れることにより、作業者が気付いてワイヤーロープから手を離すことができる。また、保護具の螺旋部は作業者に視認されやすいので、作業者はより早く滑車への接近に気付くことができる。さらに、保護具は、螺旋状の金属ワイヤーで形成されているため、ワイヤーロープが滑車に巻き込まれる直前に、螺旋部から見て、ワイヤーロープの外表面に損傷がないか等の状態を視認することができる。なお、直状部及び螺旋部の長さは、滑車の円盤や側板の大きさに応じて設定するのが好ましい。また、直状部の長さは、螺旋部が側板と干渉しない程度に設定することが好ましい。滑車は定滑車、動滑車でもよい。
【0009】
また、保護具は、滑車の側板に形成された取り付け穴に係止されるようになっているため、既存の滑車の側板に取り付け穴を形成すればよく、汎用性が高く、取り付けも容易である。
【0010】
保護具の取り付けは、作業者が、例えばU字型に曲げられた金属ワイヤーの一端を滑車の取り付け穴に通して回転させることにより係止し、さらに、螺旋部をワイヤーロープに巻き付けて行われる。螺旋径は、作業者が手で螺旋部をワイヤーロープに巻きつけられるように、ワイヤーロープの太さから決めることが好ましい。螺旋ピッチは、ワイヤーロープが視認できる程度であればよい。なお、保護具は、ステンレス鋼で直径3mm程度のものが扱い易く、螺旋径はワイヤーロープの直径の3倍程度であるとなお好ましい。
【0011】
この場合において、保護具は、円盤の外周から離れた位置に対向させて一対設けられ、保護具の直状部が係止される取り付け穴は、円盤に巻き付けられるワイヤーロープの位置に対応させて側板に穿設されてなる構成とすることができる。例えば、側板の、ワイヤーロープと円盤との接点近傍に設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、巻き込まれ事故を防止できる滑車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、本発明の保護具を備える前の滑車の実施例の側面図であり、(b)は、本発明の保護具を備える前の滑車の実施例の正面図であり、(c)は、本発明の保護具の構成図である。
【図2】(a)は、本発明の保護具を備えた滑車の実施例の側面図であり、(b)は、本発明の保護具を備えた滑車の実施例の正面図である。
【図3】本発明の保護具を備えた滑車のワイヤーロープの角度を広げて使用する実施例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0014】
以下、本発明の保護具を備えた滑車の実施例について、図面を参照して説明する。図1(a)、(b)に示すように、本実施例の滑車2は、対向する一対の側板4間に支持されたピン6に回転自在に装着され、外周面に溝が形成されてなる円盤8と、円盤8の外周から離れた位置に対向させて側板4に取り付けられた吊り具10とを備え、円盤8の外周面にワイヤーロープ12をかけ渡して用いるように構成されている。滑車2の全長は約300mmで、横幅は約115mmであり、ワイヤーロープ12の直径は約10mmである。
【0015】
また、滑車2は止めフック3を備え、止めフック3を外すと、基端5を軸として開口部7が開口し、そこからワイヤーロープ12を入れて円盤8にかけ渡すようになっている。また、側板4の吊り具10の反対側の端には、側板4間に支持されたコロ9があり、ボルトナット11で側板4に固定されるようになっている。
【0016】
ここで、本実施例の特徴となる構成、作用について説明する。本実施例の特徴は、図1(c)に示すように、設定長さ(本実施例では90mm)の直状部14と、直状部14に連なり螺旋状に複数回巻回された螺旋部16(本実施例では260mm)とを有する金属ワイヤーからなる保護具18(本実施例では350mm)である。
【0017】
直状部14の長さは、螺旋部16が側板4と干渉しない程度に設定されている。保護具18の金属ワイヤーはステンレス鋼で、直径約3mmである。
【0018】
また、保護具18の直状部14は、先端が側板4に形成された取り付け穴20に揺動可能に係止され、螺旋部16はワイヤーロープ12に巻き付け可能な螺旋ピッチ及び螺旋径に形成されている。本実施例の螺旋部16の螺旋径はワイヤーロープ12の直径のおよそ3倍に相当する約25mmであり、螺旋ピッチは約30mmである。図2において、取り付け穴20は、2枚の側板4にそれぞれ設けられている。
【0019】
取り付け穴20は、円盤8に巻き付けられるワイヤーロープ12の位置に対応させて側板4に穿設されている。本実施例では、側板4の吊り具10近傍に設けている。
【0020】
保護具18の取り付けは、作業者がU字型に曲げられた金属ワイヤーの一端を取り付け穴20に通して回転させることにより係止し、さらに、螺旋部16をワイヤーロープ12に巻き付けて行われる。
【0021】
このようにして保護具18を取り付けた滑車2は、送電鉄塔の組み立てにおいて、送電鉄塔の構成物品を吊り上げるために使用される。滑車2の吊り具10を、組み立て途中の送電鉄塔の腕金に取り付け、ワイヤーロープ12の一端に送電鉄塔の腕金等の物品を吊り下げ、滑車2を介して他端を地上の巻き上げ機で巻き取る。作業者は、組み立て途中の送電鉄塔の腕金上で送電鉄塔の構成物品を受け取る。このとき作業者は、ワイヤーロープ12に手をかけて吊り上げ物品を誘導するが、誘導中も地上の巻き上げ機による巻き取りが行われている。このため、作業者は足場の悪い中で自身の安全に注意を払うとともに、ワイヤーロープ12にかけた手が巻き込まれないように注意する必要がある。
【0022】
ここで、本実施例によれば、巻き取るにつれてワイヤーロープ12にかけられた作業者の手が滑車2方向に誘導されても、手が保護具18の螺旋部16に触れることにより、作業者が気付いてワイヤーロープ12から手を離すことができる。また、保護具18の螺旋部16は作業者に視認されやすいので、作業者はより早く滑車2への接近に気付くことができる。さらに、保護具18は、螺旋状の金属ワイヤーで形成されているため、ワイヤーロープ12が滑車2に巻き込まれる直前に、螺旋部16から見て、ワイヤーロープ12の外表面に損傷がないか等の状態を視認することができる。
【0023】
また、保護具18は、滑車2の側板4に形成された取り付け穴20に係止されるようになっているため、既存の滑車2の側板4に取り付け穴20を形成すればよく、汎用性が高く、取り付けも容易である。
【0024】
また、図3に示すように、ワイヤーロープ12間の角度を大きくした状態で使用する場合にも対応することができる。
【0025】
以上、本実施例について説明したが、本発明は、これらに限らず適宜構成を変更して適用することができる。例えば、滑車2は定滑車でも動滑車でもよい。
【0026】
また、取り付け穴20を複数設けて、滑車2の使用状態により、保護具18を係止する穴を変えてもよい。また、滑車2及び保護具18の大きさは本実施例に限らず、適宜変更することができる。また、螺旋の回転方向は右回り、左回りのいずれでもよい。
【符号の説明】
【0027】
2 滑車
4 側板
6 ピン
8 円盤
10 吊り具
12 ワイヤーロープ
14 直状部
16 螺旋部
18 保護具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の側板間に支持された軸に回転自在に装着され、外周面に溝が形成されてなる円盤と、前記側板に取り付けられた吊り具とを備え、前記円盤の外周面にワイヤーロープをかけ渡して用いる滑車において、
設定長さの直状部と該直状部に連なり螺旋状に複数回巻回された螺旋部とを有する金属ワイヤーからなる保護具を備え、該保護具の前記直状部は先端が前記側板に形成された取り付け穴に揺動可能に係止され、前記螺旋部は前記ワイヤーロープに巻き付け可能な螺旋ピッチ及び螺旋径に形成されてなることを特徴とする保護具を備えた滑車。
【請求項2】
前記保護具は、前記円盤の外周から離れた位置に対向させて一対設けられ、前記保護具の前記直状部が係止される取り付け穴は、前記円盤に巻き付けられる前記ワイヤーロープの位置に対応させて前記側板に穿設されてなることを特徴とする請求項1に記載の保護具を備えた滑車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−111326(P2011−111326A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272516(P2009−272516)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000222015)株式会社ユアテック (26)