説明

保護具

【課題】作業中において手指を有効に保護しつつ、手指の作業性を有効に担保し、手指や手首に掛かる負担を軽減することができる保護具を提供する。
【解決手段】保護具は、可撓性素材からなり、使用者の手首または上腕に装着する装着部11、親指を開放する親指開放部12及び親指以外の四指の内側を当該四指が動作可能なように露出する四指露出部を有するインナー1と、硬質素材からなり、少なくとも前記四指の外側を被覆する面板部21及び当該面板部21の外縁から掌の厚みよりも大きい寸法で起立する立壁部22を有し前記四指を外側及び側方から被覆し得るアッパー2と、前記インナー1の外側と前記アッパー2の内側とを固定する固定手段3とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業中における使用者の手指を有効に保護し得る保護具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、使用者の手や指を保護するための保護具は、種々提案されている。それらの保護具には、手全体を保護するものや、手の一部に装着被覆するものとに分けられる。
【0003】
そして、上述したような、手の一部に装着するものの一例として、使用者の指に装着しておくことによって、使用者の手自体を有効に保護し得る保護具も提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のものは、確かに、一部の指に装着することによって、手を有効に保護しながら、他の指は自由に動かせるため、装着した状態でも作業性はある程度維持されたものとなっている。
【0004】
しかしながら、保護具を装着した指については保護具の自重が掛かることとなる。また他方、手全体を保護するような態様の保護具の場合には、保護具自体の自重は手全体に掛かることとなる。加えて、保護具を装着した状態で手首や腕を動かした場合は勿論保護具が手首や肘を中心に大きく移動する。上述した保護具ではこのような場合の荷重が直接手指や手首に掛かるものとなっている。つまり、保護具により外部からの手に対する衝撃や圧迫を予防しようとしてこれらの保護具を装着すれば、装着していない状態に比べ手指や手首に大きな負担が掛かり、手指や手首の疲労をも招来してしまうということも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4206103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した事項のうち、特に作業時の安全性を作業性に焦点をおいてなされたものである。すなわち本発明は作業中において手指を有効に保護しつつ、手指の作業性を有効に担保し、手指や手首に掛かる負担を軽減することができる保護具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち本発明に係る保護具は、可撓性素材からなり、使用者の手首または腕に装着する装着部、親指を開放する親指開放部及び親指以外の四指の内側を当該四指が動作可能なように露出する四指露出部を有するインナーと、硬質素材からなり、少なくとも前記四指の外側を被覆する面板部及び当該面板部の外縁から掌の厚みよりも大きい寸法で起立する立壁部を有し前記四指を外側及び側方から被覆し得るアッパーと、前記インナーの外側と前記アッパーの内側とを固定する固定手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、装着部が手自体ではなく手首または腕に装着することにより、保護具自体の自重の体部分または一部は手ではなく手首や腕に掛かることとなる。そのため、使用者の手はアッパーによって有効に保護されつつも、アッパーの自重はアッパーが保護している手指に直接掛かり難いものとなる。その結果、外部からの衝撃や圧迫から手指を有効に保護するだけの強度を保つようなアッパーを構成しても、当該アッパーによる荷重が手指に直接掛かることを緩和することにより、手指の作業を快適に行い得るものとなる。
【0009】
そして、作業者の作業目的や手の大きさに適宜応じ得る態様を実現するためにはは、固定手段を、前記アッパーと前記インナーとを着脱可能に固定し得るものとすることが望ましい。
【0010】
そして作業中に安定してアッパーとインナーを固定しつつ、容易な取り外しを実現し得る固定手段の具体的な態様としては、固定手段を、アッパー及びインナーに取り付けられた面ファスナとすることが好ましい。
【0011】
そして、装着部を確実に使用者に装着させるためには、装着部を、可撓性素材の一部を手首に周回させてなる手首周回部と当該手首周回部の一端部を前記可撓性素材の他の部位に位置決めする位置決め部とを有したものとすることが好ましい。
【0012】
特に、アッパーの自重が使用者の手指の動作を緩衝させず、且つ、作業中の使用者の手指並びに手首の疲労を有効に軽減し得るためには、インナーを、装着部により装着された状態で保形性を有した概略筒状をなすものとしておくことが好ましい。
【0013】
そして本発明では、インナー自体に、衝撃を緩衝し得る緩衝部を設けても、当該緩衝部の自重は勿論、使用者の手指の負担になり難くなる。
【0014】
当該保護具を使用者が両手にそれぞれ装着することを鑑みれば、アッパーを、左右対称の形状にしておけば、部品点数の削減にも寄与し得る。
【0015】
また作業を行う状況を適宜鑑みれば、インナーを難燃性の素材からなるものとしておけば、使用者の手を衝撃からも、熱からも保護し得るものとなる。
【0016】
ここで、難燃性の素材とは、例えば耐熱や防火を目的とした既存の種々の素材を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アッパーの自重はアッパーが保護している手指に直接掛かり難いものとなる。その結果、外部からの衝撃や圧迫から手指を有効に保護するだけの強度を保つようなアッパーを構成しても、当該アッパーによる荷重が手指に直接掛かることを緩和する。このことにより、作業者は手指の作業を快適に行い得るものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る平面から見た外観図。
【図2】同側面から見た外観図。
【図3】同底面から見た外観図。
【図4】同実施形態に係る構成説明図。
【図5】同実施形態に係る他の構成説明図。
【図6】同実施形態の要部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係る保護具は、図1ないし図6に示すように、インナー1を装着することで、当該インナー1に被覆された箇所を摩擦等から保護するとともに、当該インナー1に取り付けたアッパー2によって、外部からの衝撃、特に上方から強度の荷重が掛かった場合において、当該アッパー2が使用者の手を確実に保護し得るものとなっている。このような保護具は、例えば港湾や倉庫といった資材の荷下ろし作業や集約・運搬を頻繁に行うような作業現場や、又は、鋼材の溶接等や鍛造、鋳造を行うような高温のものが常に存在するような作業現場において、好適に用いられる。
【0021】
ここで、本実施形態に係る保護具は、可撓性素材からなり、使用者の手首または上腕に装着する装着部11、親指を開放する親指開放部12及び親指以外の四指の内側を当該四指が動作可能なように露出する四指露出部13を有するインナー1と、硬質素材からなり、少なくとも前記四指の外側を被覆する面板部21及び当該面板部21の外縁から掌の厚みよりも大きい寸法で起立する立壁部22を有し前記四指を外側及び側方から被覆し得るアッパー2と、前記インナー1の外側と前記アッパー2の内側とを固定する固定手段3とを具備することを特徴とするものである。
【0022】
以下、この保護具の具体的な構成について説明する。
【0023】
インナー1は、図1ないし図5に示すように、例えば難燃性を有する厚手の布材を主体とするものである。本実施形態のインナー1は、例えば上述した作業現場のうち、鋼材を溶接する作業が行われる場所で用いられる場合には、難燃性を有する厚手の布からなるインナー1を適用することが望ましい。また他方、本実施形態に係るインナー1は上記の態様の他、牛革や羊皮といった皮革を適宜縫い合わせてなるものであり、それ自体である程度の保形性を有するものとしてもよい。このようなインナー1の場合、上述した作業現場のうち、資材の荷下ろしや集約、運搬作業が頻繁に行われる作業現場において適用される事が望ましい。この場合特に、クレーン等に吊り下げられた大型の資材等を所定の場所へ正確に載置する際の「玉掛け作業」と呼ばれるような、作業者の手によって前記資材等の微細な位置合わせ作業を行うような場合に、資材による手に対する不意の圧迫や予期しない資材との摩擦の可能性を、有効に排除することができる。
【0024】
そして当該インナー1は、上述した装着部11、親指開放部12、四指露出部13に加え、アッパー取付部14と、インナー1の端部を適宜縫い合わせて縁取りしてなる縁取り部17と、インナー1の内部に適宜充填された難燃性且つ緩衝作用を有する中綿からなる緩衝部18とを有している。親指開放部12は、インナー1側方において親指を付け根から表出させ、親指のあらゆる動作を許容し得るものである。四指露出部13は、親指以外の四指の第二関節より先端の内側を露出することにより、これらの指の動作を円滑に行わせるためのものである。アッパー取付部14は、図5に示すようにインナー1先端部における四指の外側に該当する箇所において、後述するインナー側ループ面32を貼付してなる領域である。そして、装着部11は、インナー1基端側において使用者の手首を周回させてなる、一部に素材を変形させやすく構成した変形誘発部15aを有する手首周回部15と、この手首周回部15の先端に取り付けた先端側フック面16a及び基端側に設けた基端側ループ面16bとからなる位置決め部を有している。本実施形態では、先端側フック面16aよりも基端側ループ面16bを大きく設定しておくことにより、使用者によって手首の径が異なっても確実に手首に密着させ得るものとなっている。
【0025】
アッパー2は、図1ないし図6に示すように、全体としては通常の人の掌の厚みの、例えば二倍程度の厚み寸法を有するように形成された、使用者の親指以外の四指を外側及び側方から被覆し得るものである。
【0026】
またアッパー2は、本実施形態では左右対称に形成されている。アッパー2は、例えば硬質素材たるステンレス材を適宜絞り加工することによって概略ドーム状に形成されたステンレス部品の端部にゴム等のシール材を取り付けてなるものである。すなわち当該アッパー2は、少なくとも前記四指の外側を被覆する面板部21と、当該面板部21の外縁から掌の厚みよりも大きい寸法で起立する立壁部22と、これら面板部21並びに立壁部22の端部を被覆するシール部23と、面板部21の内面側において後述するアッパー側フック面31を接着する領域である被取付部24とを有している。
【0027】
ここで、このアッパー2が有している強度について詳述しておく。詳細には、面板部21に対する圧迫又は衝撃に対する強度は、面板部21に対して上方から衝撃や圧迫を受けた際の強度であるが、所謂安全靴と呼ばれる強度の高い作業靴に対して適用されている基準であるJIS T 8101におけるS種に準拠した強度に相当する強度か、或いはそれよりも高い強度をなすように、素材の寸法並びに厚みを適宜設定されている。これは、当該保護具を使用する作業現場において使用される作業靴に求められる基準に準じることが、使用時の安全を保証し得る強度であるとの考え方に基づくものである。
【0028】
すなわち、前記JIS T 8101におけるS種に準拠した基準を満たす安全靴を使用するような場所においては特に、足に対して掛かる衝撃と同程度の衝撃が手に対して加わるということも想定しておくことが望ましいと考える。よって当該保護具がこのような衝撃が手に加わる可能性を排除しておくことが使用者に安全のみならず安心感をも与え得るからである。
【0029】
固定手段3は、図1ないし図6に示すように、上述したアッパー2を確実にインナー1に取り付けておくためのものであり、本実施形態ではインナー1の先端部に位置付けたインナー1側のアッパー取付部14に対し面板部21の内面側を固定すべく、アッパー取付部14に例えば適宜縫い付けたインナー側ループ面32及び面板部21の内側にある被取付部24に対し例えば接着することにより取り付けたアッパー側フック面31からなるものとしている。このようにすることで、本実施形態に係る保護具は、インナー1に対してアッパー2を着脱可能に構成している。また当該固定手段3として適用し得る構造は当該面ファスナを適用した態様に限られることはなく、例えば予めインナー1及びアッパー2を離間不能に接着しておく態様や、別体の紐によって締結するような態様を適用してもよい。
【0030】
しかして本実施形態に係る保護具は、装着部11を使用者の手首に装着した状態で、保形性を有した概略筒状をなす。このようにすると、インナー1並びにアッパー2の荷重の大部分は使用者の手に掛からずに直接手首に掛かる。これにより、使用者は保護具により手を被覆した状態であっても、当該手の動作に際しては、まず親指開放部12及び四指露出部13によって各指は略自由な動作を行うことができる。
【0031】
そしてその際の手首の動きによってもインナー1は手首に固定され、且つ保形性を有しているので、使用者の手に対し追従して荷重を与えるということをせず、殆ど保護具が手指の動作に緩衝することがない。すなわち、使用者は保護具によって手を有効に保護しながら、手作業の作業性を維持することができる。
【0032】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係る保護具は、アッパー2により使用者の手を有効に保護し得るのみならず、使用者の手首に装着した装着部11、親指を開放する親指開放部12及び親指以外の四指の内側を当該四指が動作可能なように露出する四指露出部13を有するインナー1を適用することで、保護具自体の自重の体部分または一部は手ではなく手首、場合によっては前腕に掛かることとなる。そのため、使用者の手はアッパー2の自重に干渉され難いものとなっている。
【0033】
その結果、外部からの衝撃や圧迫から手指を有効に保護するだけの強度を保つようなアッパー2を構成しても、当該アッパー2による荷重が手指に直接掛かることを緩和することにより、手指の作業を快適に行い得るものとなっている。
【0034】
また特に、使用者が腕の動作を行った場合には、装着部11により保護具は手首に装着されたものとなっているので、このような動作によって生じる荷重が手指や手首に掛かり難い。その結果、使用者は保護具の荷重による手指、手首の疲労を回避することができ、その結果、作業者による長時間の正確な手作業に寄与し得る保護具を実現している。
【0035】
そして本実施形態ではアッパー2を着脱可能に構成しているので、使用者はアッパー2を所要の際には外しておくこともできる。またサイズや材質といった仕様のことなるインナー1を作業者がその作業目的や手の大きさに適宜応じて自由に選び得る態様を実現している。特に本実施形態では固定手段3としてアッパー側フック面31及びインナー側ループ面32からなる面ファスナを適用することで、誰にでも着脱し得る容易さと、確実な固定とを両立させている。
【0036】
特に本実施形態では、装着部11を確実に使用者に装着させるために首に周回させてなる手首周回部15を有するものとしつつ、このような装着部11により使用者にインナー1を装着した際には、インナー1全体が保形性を有した概略筒形状をなすようにしているので、インナー1はアッパー2の荷重を支持していても、使用者の手の動作に対し不要に追従することなく、インナー1並びにアッパー2の荷重を手に掛けてしまうことを有効に回避して、使用者の手作業を行い易く、さらに疲労もさせ難いものとしている。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態ではインナーについて、耐熱性や耐摩擦性を有する態様について言及したが、勿論、使用する場所や作業の内容に応じて他の種々の特性を付与したインナーとしても良い。その一例として、耐油性を有する素材から構成したものであっても良い。
【0039】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は作業中に手を保護するための保護具として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…インナー
11…装着部
12…親指開放部
13…四指露出部
2…アッパー
21…面板部
22…立壁部
3…固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性素材からなり、使用者の手首または上腕に装着する装着部、親指を開放する親指開放部及び親指以外の四指の内側を当該四指が動作可能なように露出する四指露出部を有するインナーと、
硬質素材からなり、少なくとも前記四指の外側を被覆する面板部及び当該面板部の外縁から掌の厚みよりも大きい寸法で起立する立壁部を有し前記四指を外側及び側方から被覆し得るアッパーと、
前記インナーの外側と前記アッパーの内側とを固定する固定手段とを具備することを特徴とする保護具。
【請求項2】
前記固定手段が、前記アッパーと前記インナーとを着脱可能に固定し得るものである請求項1記載の保護具。
【請求項3】
前記固定手段が、前記アッパー及び前記インナーに取り付けられた面ファスナである請求項1または2記載の保護具。
【請求項4】
前記装着部が、可撓性素材の一部を手首に周回させてなる手首周回部と当該手首周回部の一端部を前記可撓性素材の他の部位に位置決めする位置決め部とを有している請求項1、2、3記載の保護具。
【請求項5】
前記インナーが、前記装着部により装着された状態で保形性を有した概略筒状をなす請求項1、2、3または4記載の保護具。
【請求項6】
前記インナーが、衝撃を緩衝し得る緩衝部を有している請求項1、2、3、4または5記載の保護具
【請求項7】
前記アッパーが、左右対称に構成されたものである請求項1、2、3、4、5または6記載の保護具。
【請求項8】
前記インナーが難燃性の素材からなる請求項1、2、3、4、5、6または7記載の保護具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−72516(P2012−72516A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217996(P2010−217996)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(508348277)桂パテントマネージメント株式会社 (8)
【Fターム(参考)】