説明

信号分配回路の設計方法、信号分配器の設計方法、信号分配回路の設計プログラム、及び信号分配器の設計プログラム

【課題】入力信号を分配する信号分配回路又は信号分配器のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することを目的とする。
【解決手段】信号分配回路又は信号分配器を設計する場合、まず、当該分配回路又は分配器の回路パターンを示すパターンデータ、入力及び各出力の負荷インピーダンス、出力間の電力分配比、及び下側周波数に対する上側周波数の周波数比の入力を受け付ける。続いて、一方の多段変成器部に関する偶モード等価回路及び奇モード等価回路を算出する。続いて、受け付けたデータ、及び算出した二つの等価回路に基づいて、一方の多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する。続いて、算出された各特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、他方の多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する。最後に、算出された各特性インピーダンスを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波信号を分配する信号分配回路又はその回路を備える信号分配器を設計するための方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な信号分配器やその設計方法が知られている。例えば下記非特許文献1には、構造的に非対称で電力配分比を任意に設定できる単一区間構造の信号分配器が開示されている。また下記非特許文献2には、単一区間構造の非対称ウィルキンソン2分配器を設計する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H.-R. Ahn and I. Wolff, “General design equations, small-sized impedancetransformers, and their application to small-sized three-port 3-dB powerdividers,” IEEE Trans. Microw. Theory Tech., vol.49, pp. 1277-1288, July 2001.
【非特許文献2】I. Sakagami, W. Xiaolong, K. Takahashi and S. Okamura, "Re-considerationson a two-way Wilkinson power divider with different loads and power ratio,”Proc. 2009 IEEE Inter. Conf. on Antennas, Propagation and Systems, Dec. 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1,2はいずれも単一区間構造の信号分配器に関するものであるが、多周波共用(マルチバンド化)を実現したり、入力端子あるいは出力端子における反射特性を広帯域に亘って向上させたりするためには(反射特性の広帯域化)、多段構造(複数区間構造)の信号分配器が望ましい。
【0005】
そこで本発明は、入力信号を分配する信号分配回路又は信号分配器のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することが可能な信号分配回路の設計方法、信号分配器の設計方法、信号分配回路の設計プログラム、及び信号分配器の設計プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の信号分配回路の設計方法は、情報処理装置により実行される、入力信号を分配する信号分配回路の設計方法であって、入力、第1出力、第2出力、該入力と該第1出力とを接続する第1多段変成器部、及び該入力と該第2出力とを接続する第2多段変成器部を備える信号分配回路の回路パターンを示すパターンデータと、入力の負荷インピーダンスと、第1出力及び第2出力の負荷インピーダンスと、出力間の電力分配比と、下側周波数に対する上側周波数の周波数比の入力を受け付ける受付ステップと、入力、第1出力、及び第1多段変成器部を有する部分についての、偶モード等価回路及び奇モード等価回路を算出する回路算出ステップと、入力及び第1出力の負荷インピーダンスと、周波数比と、偶モード等価回路と、奇モード等価回路とに基づいて、第1多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第1インピーダンス算出ステップと、第1インピーダンス算出ステップにおいて算出された各特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、第2多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第2インピーダンス算出ステップと、第1インピーダンス算出ステップ及び第2インピーダンス算出ステップにおいて算出された各特性インピーダンスを出力する出力ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の信号分配回路の設計プログラムは、入力信号を分配する信号分配回路の設計をコンピュータに実行させるための、信号分配回路の設計プログラムであって、コンピュータに、入力、第1出力、第2出力、該入力と該第1出力とを接続する第1多段変成器部、及び該入力と該第2出力とを接続する第2多段変成器部を備える信号分配回路の回路パターンを示すパターンデータと、入力の負荷インピーダンスと、第1出力及び第2出力の負荷インピーダンスと、出力間の電力分配比と、下側周波数に対する上側周波数の周波数比の入力を受け付ける受付機能と、入力、第1出力、及び第1多段変成器部を有する部分についての、偶モード等価回路及び奇モード等価回路を算出する回路算出機能と、入力及び第1出力の負荷インピーダンスと、周波数比と、偶モード等価回路と、奇モード等価回路とに基づいて、第1多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第1インピーダンス算出機能と、第1インピーダンス算出機能により算出された各特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、第2多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第2インピーダンス算出機能と、第1インピーダンス算出機能及び第2インピーダンス算出機能により算出された各特性インピーダンスを出力する出力機能と、を実現させることを特徴とする。
【0008】
このような発明によれば、一方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出され、続いて、その特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、他方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出される。これにより、多段変成器を備え、マルチバンド化や反射特性の広帯域化を可能とする信号分配回路を設計することができる。言い換えれば、入力信号を分配する信号分配回路のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することができる。
【0009】
本発明の信号分配回路の設計方法は、第1多段変成器部及び第2多段変成器部の間に設けられた吸収抵抗の抵抗値を算出する抵抗値算出ステップを更に含み、回路算出ステップでは、入力、第1出力、第1多段変成器部、及び吸収抵抗の第1多段変成器部側の成分を有する部分についての、偶モード等価回路及び奇モード等価回路が算出され、抵抗値算出ステップでは、入力及び第1出力の負荷インピーダンスと、周波数比と、偶モード等価回路と、奇モード等価回路と、電力分配比とに基づいて、吸収抵抗の抵抗値が算出され、出力ステップでは、更に、抵抗値算出ステップにおいて算出された抵抗値が出力されてもよい。
【0010】
本発明の信号分配回路の設計プログラムは、コンピュータに更に、第1多段変成器部及び第2多段変成器部の間に設けられた吸収抵抗の抵抗値を算出する抵抗値算出機能を実現させ、回路算出機能により、入力、第1出力、第1多段変成器部、及び吸収抵抗の第1多段変成器部側の成分を有する部分についての、偶モード等価回路及び奇モード等価回路が算出され、抵抗値算出機能により、入力及び第1出力の負荷インピーダンスと、周波数比と、偶モード等価回路と、奇モード等価回路と、電力分配比とに基づいて、吸収抵抗の抵抗値が算出され、出力機能により、更に、抵抗値算出機能により算出された抵抗値が出力されてもよい。
【0011】
この場合には、更に吸収抵抗の抵抗値が算出されるので、多段変成器及び吸収抵抗を備え、マルチバンド化や反射特性の広帯域化を可能とする信号分配回路を設計することができる。
【0012】
本発明の信号分配回路の設計方法では、第1多段変成器部及び第2多段変成器部がそれぞれ、伝送線路間に設けられたスタブを含み、第1インピーダンス算出ステップでは、更に、第1多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出され、第2インピーダンス算出ステップでは、更に、第1インピーダンス算出ステップにおいて算出された各スタブの特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、第2多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出されてもよい。
【0013】
本発明の信号分配回路の設計プログラムでは、第1多段変成器部及び第2多段変成器部がそれぞれ、伝送線路間に設けられたスタブを含み、第1インピーダンス算出機能により、更に、第1多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出され、第2インピーダンス算出機能により、更に、第1インピーダンス算出機能により算出された各スタブの特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、第2多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出されてもよい。
【0014】
この場合には、更にスタブの特性インピーダンスが算出されるので、多段変成器及びスタブを備え、マルチバンド化や反射特性の広帯域化を可能とする信号分配回路を設計することができる。
【0015】
本発明の信号分配回路の設計方法では、信号分配回路が入力信号を不均等に分配してもよい。
【0016】
本発明の信号分配回路の設計プログラムでは、信号分配回路が入力信号を不均等に分配してもよい。
【0017】
本発明の信号分配器の設計方法は、情報処理装置により実行される、一又は複数の信号分配回路を備える信号分配器の設計方法であって、各信号分配回路が、上記の信号分配回路の設計方法により設計される、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の信号分配器の設計プログラムは、一又は複数の信号分配回路を備える信号分配器の設計をコンピュータに実行させるための、信号分配器の設計プログラムであって、上記の信号分配回路の設計プログラムを含み、コンピュータが、上記の信号分配回路の設計プログラムにより、各信号分配回路の設計を実行する、ことを特徴とする。
【0019】
この場合には、信号分配器を構成する各信号分配回路について、一方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出され、続いて、その特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、他方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出される。これにより、入力信号を分配する信号分配器のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することができる。
【0020】
本発明の信号分配器の設計方法では、一又は複数の信号分配回路の少なくとも一つが入力信号を不均等に分配してもよい。
【0021】
本発明の信号分配器の設計プログラムでは、一又は複数の信号分配回路の少なくとも一つが入力信号を不均等に分配してもよい。
【発明の効果】
【0022】
このような信号分配回路の設計方法及び設計プログラムによれば、一方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出され、続いて、その特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、他方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出されるので、マルチバンド化や反射特性の広帯域化を可能とする信号分配回路を設計することができる。言い換えれば、入力信号を分配する信号分配回路のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することができる。
【0023】
また、このような信号分配器の設計方法及び設計プログラムによれば、信号分配器を構成する各信号分配回路について上記と同様に特性インピーダンスが算出される。よって、入力信号を分配する信号分配器のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】単一区間ウィルキンソン2分配器の回路図である。
【図2】(a)は、図1に示す分配器のアームB(上側部分)の偶モード等価回路を示す図であり、(b)は当該分配器のアームC(下側部分)の偶モード等価回路を示す図である。
【図3】(a)は、図1に示す分配器のアームB(上側部分)の奇モード等価回路を示す図であり、(b)は当該分配器のアームC(下側部分)の奇モード等価回路を示す図である。
【図4】2区間ウィルキンソン2分配器の回路図である。
【図5】(a)は、図4に示す分配器のアームB´(上側部分)の偶モード等価回路を示す図であり、(b)は当該分配器のアームC´(下側部分)の偶モード等価回路を示す図である。
【図6】(a)は、図4に示す分配器のアームB´(上側部分)の奇モード等価回路を示す図であり、(b)は当該分配器のアームC´(下側部分)の奇モード等価回路を示す図である。
【図7】第1実施形態に係る設計方法を実行する情報処理装置のハードウェア構成を示す図である。
【図8】図7に示す情報処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【図9】電力配分比が2で、上側及び下側の周波数比が2である場合の2区間ウィルキンソン2分配器の設計図の例を示す図である。
【図10】図7に示す情報処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】図9に示す分配器の挿入損を示すグラフである。
【図12】図9に示す分配器の反射損を示すグラフである。
【図13】図9に示す分配器のアイソレーション特性を示すグラフである。
【図14】比較例として示す、電力配分比が2である場合の単一区間ウィルキンソン2分配器の設計図の例を示す図である。
【図15】(a),(b)は、図14に示す分配器の挿入損を示すグラフである。
【図16】図14に示す分配器の反射損を示すグラフである。
【図17】図14に示す分配器のアイソレーション特性を示すグラフである。
【図18】第1実施形態に係る設計プログラムの構成を示す図である。
【図19】図4に示す回路図に対応する信号分配器の写真である。
【図20】図19に示す分配器の挿入損を示すグラフである。
【図21】(a)〜(c)は、図19に示す分配器の反射損を示すグラフである。
【図22】図19に示す分配器のアイソレーション特性を示すグラフである。
【図23】図19に示す分配器の位相特性を示すグラフである。
【図24】二つの分配回路を備える信号分配器の写真である。
【図25】図24に示す信号分配器の2段目部分の等価回路を示す図である。
【図26】図24に示す分配器の挿入損を示すグラフである。
【図27】(a)〜(d)は、図24に示す分配器の反射損を示すグラフである。
【図28】(a)〜(c)は、図24に示す分配器のアイソレーション特性を示すグラフである。
【図29】図24に示す分配器の出力端子間の位相差特性を示すグラフである。
【図30】オープンスタブを備える2区間変成器の等価回路を示す図である。
【図31】図30に示す等価回路における特性インピーダンスと周波数比との関係を示すチャートである。
【図32】オープンスタブを備えた2区間ウィルキンソン2分配器の回路図である。
【図33】(a)は、図32に示すアームB”(上側部分)の偶モード等価回路を示す図であり、(b)は当該分配器のアームC”(下側部分)の偶モード等価回路を示す図である。
【図34】(a)は、図32に示すアームB”(上側部分)の奇モード等価回路を示す図であり、(b)は当該分配器のアームC”(下側部分)の奇モード等価回路を示す図である。
【図35】図32に示す回路図に対応する信号分配器の写真である。
【図36】図35に示す分配器の挿入損を示すグラフである。
【図37】(a),(b)は、図35に示す分配器の反射損を示すグラフである。
【図38】図35に示す分配器のアイソレーション特性を示すグラフである。
【図39】二つのオープンスタブ付き分配回路を備える信号分配器の回路図である。
【図40】図39に示す信号分配器の2段目部分の等価回路を示す図である。
【図41】図39に示す回路図に対応する信号分配器の写真である。
【図42】(a)〜(c)は、図41に示す分配器の挿入損を示すグラフである。
【図43】(a)〜(d)は、図41に示す分配器の反射損を示すグラフである。
【図44】(a)〜(c)は、図41に示す分配器のアイソレーション特性を示すグラフである。
【図45】図41に示す分配器の位相特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
(第1実施形態)
図1〜6を用いて、第1実施形態に係る信号分配器の設計方法の理論を説明する。理解を容易にするために、まずは単一区間ウィルキンソン2分配器の設計理論について説明する。
【0027】
図1の回路図C1で表される分配器は、入力端子#1、出力端子#2、及び出力端子#3を備えている。入力端子#1と出力端子#2とは、伝送線路L1から成る第1変成器部T1により接続されており、入力端子#1と出力端子#3とは、伝送線路L2から成る第2変成器部T2により接続されている。二つの出力端子#2,#3の間には、抵抗値がRである吸収抵抗(アイソレーション抵抗)が設けられている。以下では、第1変成器部T1をアームBともいい,第2変成器部T2をアームCともいう。
【0028】
入力端子#1、出力端子#2、出力端子#3の負荷インピーダンスはそれぞれ、R、R、Rである。また、伝送線路L1の特性インピーダンス及び電気長をそれぞれZ、θとし、伝送線路L2の特性インピーダンス及び電気長をそれぞれZ、θとする。
【0029】
回路図C1のアドミタンス行列(Y行列)は次式で与えられる。
【数1】

ここで、Y=1/Z、Y=1/Z、G=1/Rである。このY行列は次のように正規化される。
【数2】

この正規化されたY行列と単位行列[E]とを用いて、S行列は以下のように定義される。
【数3】

【0030】
回路図C1は、中心周波数において以下の条件を満たす必要がある。
ii=S23=0 (ただし、i=1,2,3)
k=|S21|/|S31
ここで、kは中心周波数における出力端子#2と出力端子#3との電力分配比であり、ここでは、出力端子#2からの出力が出力端子#3からの出力のk倍であるとする。
【0031】
これらの条件と、θ=θ=θという仮定より、
G=R
というアイソレーション条件、及び
=R/R=Z/Z
という電力分配比に関する条件が得られる。すなわち、出力端子#2からの出力が出力端子#3からの出力のk倍であるならば、出力端子#3側(アームC)の特性インピーダンスZ及び負荷インピーダンスRはそれぞれ、出力端子#2側(アームB)の特性インピーダンスZ及び負荷インピーダンスRのk倍である。
【0032】
負荷インピーダンスR、R、R及び電力分配比kより、特性インピーダンスZ、Z及び吸収抵抗の抵抗値Rはそれぞれ下記のように規定される。
=(1+k−2)R
=(1+k)R
R=(1+k)R
【0033】
図2(a)にアームBの偶モード等価回路C2を示し、図2(b)にアームCの偶モード等価回路C3を示す。Γ#1bevは等価回路C2における入力端子#1からの反射係数であり、Γ#1cevは等価回路C3における入力端子#1からの反射係数である。また、Γ#2bevは等価回路C2における出力端子#2からの反射係数であり、Γ#3cevは等価回路C3における出力端子#3からの反射係数である。偶モードにおいては、入力端子#1のアームB側の入力端子インピーダンスZb0及びアームC側の入力端子インピーダンスZc0はそれぞれ以下のように表される。
b0=(1+k)Ra/k
c0=kb0
【0034】
図3(a)にアームBの奇モード等価回路C4を示し、図3(b)にアームCの奇モード等価回路C5を示す。Γ#2bodは等価回路C4における出力端子#2からの反射係数であり、Γ#3codは等価回路C5における出力端子#3からの反射係数である。
【0035】
アームCのすべてのインピーダンスは対応するアームBのインピーダンスのk倍なので、対応する反射係数は下記式のように等しくなる。
Γ#1bev=Γ#1cev,Γ#2bev=Γ#3cev,Γ#2bod=Γ#3cod
【0036】
このことは、単一区間ウィルキンソン信号分配器の周波数特性が、アームB及びアームCのどちらか一方の、偶モード及び奇モードの等価回路により定まることを意味する。
【0037】
以上を踏まえて、次に2区間ウィルキンソン2分配器の設計理論について説明する。図4の回路図C1´で表される分配器は、入力端子#1、出力端子#2、及び出力端子#3を備えている。すなわち、この分配器は、入力端子#1から入力された信号を出力端子#2,#3に分配する一つの信号分配回路で構成されている。入力端子#1と出力端子#2とは、直列に接続された二つの伝送線路L12,L11から成る第1変成器部T1´により接続されており、入力端子#1と出力端子#3とは、直列に接続された二つの伝送線路L22,L21から成る第2変成器部T2´により接続されている。すなわち、二つの変成器部T1´,T2´はそれぞれ2段の変成器となっている。
【0038】
各伝送線路の電気長θは、中心周波数の1/4波長である。伝送線路L11及び出力端子#2の境界点と、伝送線路L21及び出力端子#3の境界点との間には、抵抗値がR1である吸収抵抗が設けられている。二つの伝送線路L11,L12の境界点と、二つの伝送線路L21,L22の境界点との間には、抵抗値がR2である吸収抵抗が設けられている。以下では、変成器部T1´,T2´をそれぞれ、アームB´,C´ともいう。
【0039】
入力端子#1、出力端子#2、出力端子#3の負荷インピーダンスはそれぞれ、R、R、Rである。また、伝送線路L11,L12の特性インピーダンスをそれぞれZb1、Zb2とし、伝送線路L21,L22の特性インピーダンスをそれぞれZc1、Zc2とする。
【0040】
図5(a)にアームB´の偶モード等価回路C2´を示し、図5(b)にアームC´の偶モード等価回路C3´を示す。Γ#1b2sevは等価回路C2´における入力端子#1からの反射係数であり、Γ#1c2sevは等価回路C3´における入力端子#1からの反射係数である。また、Γ#2b2sevは等価回路C2´における出力端子#2からの反射係数であり、Γ#3c2sevは等価回路C3´における出力端子#3からの反射係数である。入力端子#1のアームB´側の入力端子インピーダンスZb0、及びアームC´側の入力端子インピーダンスZc0は図2の場合と同様に考慮する。
【0041】
図6(a)にアームB´の奇モード等価回路C4´を示し、図6(b)にアームC´の奇モード等価回路C5´を示す。Γ#2b2sodは等価回路C4´における出力端子#2からの反射係数であり、Γ#3c2sodは等価回路C5´における出力端子#3からの反射係数である。また、抵抗値R1,R2のアームB´側の成分をそれぞれRb1,Rb2とし、抵抗値R1,R2のアームC´側の成分をそれぞれRc1,Rc2とする。
【0042】
アームB´内の特定のインピーダンスとアームC´内の対応インピーダンスとの関係が単一区間ウィルキンソン2分配器(回路図C1)の場合と同様であれば、単一区間ウィルキンソン2分配器と同様に下記の式が成り立つ。
Γ#1b2s ev=Γ#1c2s ev,Γ#2b2s ev=Γ#3c2s ev,Γ#2b2s od=Γ#3c2s od
【0043】
したがって、2区間ウィルキンソン2分配器の周波数特性は、アームB´及びアームC´のどちらか一方の、偶モード及び奇モードの等価回路により定まる。
【0044】
そこで、ここではアームB´の偶モード及び奇モードの等価回路について演算することで、下側周波数f及び上側周波数f(f<f)のデュアルバンドを実現する2区間ウィルキンソン2分配器を設計する。周波数比u=f/f、及び中心周波数f=(f+f)/2を定義すると、入力整合を実現する電気長θは次式のように定義される。
【数4】

また、図5(a)に示すパラメータに基づいて、K12=Zb2/Zb1、及びK0L=Zb0/Rを定義する。
【0045】
すると、下記参考文献1又は2に示すような手法により、下記の三式(1)〜(3)が導かれる。
(参考文献1)I.Sakagamiand T.Wuren, “Compact multi-way power dividers for dual-band, wide-band andeasy fabrication,” 2009 IEEE MTT-S Int. Microwave Symp. Dig., pp.489-492, June2009
(参考文献2)C.Monzon, “A small dual-frequency transformer in two sections,” IEEE Trans.Microw. Theory Tech., vol.51, pp.1157-1161, Apr. 2003
【0046】
【数5】

b1=Rb0/K12 …(2)
b2=Rb0/Zb1 …(3)
ただし、α=(tanθである。値αは二つの周波数f,fにより定まるので、第1変成器部T1´を構成する各伝送線路の特性インピーダンスZb1,Zb2を求めることができる。
【0047】
第2変成器部T2´を構成する伝送線路L21の特性インピーダンスZc1は、伝送線路L11の特性インピーダンスZb1に電力分配比を乗ずることで求まる。伝送線路L22の特性インピーダンスZc2は、伝送線路L12の特性インピーダンスZb2に電力分配比を乗ずることで求まる。
【0048】
吸収抵抗に関する成分Rb1,Rb2は、二つの周波数f,fにおける整合条件から求めることができる。下記参考文献3に記載されている手法を利用すると、下記の二式(4),(5)が得られる。
(参考文献3)S. B.Cohn, “A class of broadban three-port TEM-mode hybrids,” IEEE Trans. Microw.Theory Tech., vol. MTT-16, pp. 110-116, Feb.1968
【0049】
【数6】

【数7】

二つの吸収抵抗の抵抗値R,Rはそれぞれ次式により求まる。
=(1+k)Rb1 …(6)
=(1+k)Rb2 …(7)
【0050】
以上により、図5,6に示す各等価回路のすべてのパラメータが定まり、その結果、図4に示す2区間ウィルキンソン2分配器の具体的な構成が得られる。
【0051】
次に、図7〜9を用いて、第1実施形態に係る信号分配器の設計に用いる情報処理装置10の構成を説明する。情報処理装置としては、例えばワークステーションやパーソナルコンピュータ(PC)等が挙げられるが、情報処理装置の種類はこれらに限定されない。
【0052】
図7に示すように、情報処理装置10は、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)11と、プログラムやデータを格納するためのハードディスク装置12と、主メモリ13と、キーボードやマウス等の入力装置14と、CRT(Cathode Ray Tube)等の表示装置15と、磁気テープやROM等の記録媒体17を読み取る読取装置16とを含んで構成されている。ハードディスク装置12、主メモリ13、入力装置14、表示装置15、及び読取装置16は、何れも中央処理装置11に接続されている。
【0053】
情報処理装置10では、プログラムを格納した記録媒体17が読取装置16に装着され、記録媒体17からプログラムが読み出されてハードディスク装置12に格納される。続いて、ハードディスク装置12に格納されたプログラムが、中央処理装置11により主メモリ13上に展開して実行されて、本実施形態に係る信号分配回路又は信号分配器の設計方法、言い換えれば以下に示す各機能的構成要素が実現される。
【0054】
図8に示すように、情報処理装置10は機能的構成要素として入力部101、回路算出部102、パラメータ算出部103、及び出力部104を備えている。
【0055】
入力部101は、信号分配回路又は信号分配器の設計に必要なデータの入力を受け付ける手段である。例えば入力部101は、図4に示すような多段ウィルキンソン2分配器の回路パターンを示すパターンデータ、及び当該分配器の条件の入力を受け付ける。多段ウィルキンソン2分配器の条件とは、入力端子#1、出力端子#2、及び出力端子#3の負荷インピーダンスR,R、R、一方の出力端子に対する他方の出力端子の電力分配比k、及び周波数比u=f/fである。入力部101は受け付けたこれらのデータを回路算出部102に出力する。
【0056】
回路算出部102は、入力されたデータに基づいて、一方の多段変成器部に関する偶モード等価回路及び奇モード等価回路を算出する手段である。図5,6に示す例の場合には、回路算出部102は、アームB´についての偶モード等価回路C2´及び奇モード等価回路C4´を算出してもよい。もちろん、回路算出部102は、アームC´についての偶モード等価回路C3´及び奇モード等価回路C5´を算出してもよい。回路算出部102は、算出した等価回路のデータと、入力された各種データとをパラメータ算出部103に出力する。
【0057】
パラメータ算出部103は、入力部101により受け付けられた各種データと回路算出部102で算出された等価回路のデータとに基づいて、入力された回路パターンの各構成要素のパラメータを算出する手段である。パラメータ算出部103は、上記式(1)〜(3)の処理などを含むプログラムを実行することで、一方の出力端子と接続する変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する。続いてパラメータ算出部103は、一方の変成器部の各特性インピーダンスに電力分配比kを乗ずることで、他方の出力端子と接続する変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する。加えて、パラメータ算出部103は、上記式(4)〜(7)の処理などを含むプログラムを実行することで各吸収抵抗の抵抗値を算出する。そして、パラメータ算出部103は算出したこれらの値を出力部104に出力する。
【0058】
出力部104は、上記のように算出されたパラメータを出力する手段である。出力部104は、入力されたパラメータと回路パターンとに基づく設計図を表示装置15に表示してもよいし、当該パラメータ及び回路パターンのデータをハードディスク12に格納したりしてもよい。また、出力部104はそれらのデータを別の情報処理装置に送信してもよい。
【0059】
例えば出力部104は、図9に示すような2区間ウィルキンソン2分配器PD1の設計図を表示装置15に表示する。この設計図は、入力端子Term1、出力端子Term2、及び出力端子Term3の負荷インピーダンスR,R、Rをそれぞれ50Ω,50Ω,100Ωとし、出力端子Term3に対する出力端子Term2の電力分配比kを2とし、周波数比uを2とした場合の結果である。分配器PD1において、出力端子Term2側の二つの伝送線路の特性インピーダンスはそれぞれ57.245Ω,65.505Ωであり、出力端子Term3側の二つの伝送線路の特性インピーダンスはその2倍、すなわち114.49Ω,131.01Ωである。また二つの吸収抵抗の抵抗値R1,R2はそれぞれ324.05Ω,149.03Ωである。
【0060】
次に、図10を用いて、図7,8に示す情報処理装置10の動作を説明するとともに本実施形態に係る信号分配回路又は信号分配器の設計方法について説明する。
【0061】
まず、入力部101が回路パターンのデータや設計に必要なパラメータ(負荷インピーダンスや電力分配比など)の入力を受け付ける(ステップS11、受付ステップ)。続いて、回路算出部102が、入力されたデータに基づいて、一方の変成器部に関する偶モード等価回路及び奇モード等価回路を算出する(ステップS12、回路算出ステップ)。
【0062】
続いて、パラメータ算出部103が、入力されたデータと算出された各等価回路とに基づいて、一方の変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する(ステップS13、第1インピーダンス算出ステップ)。続いてパラメータ算出部103は、算出した一方の変成器部の各特性インピーダンスに電力分配比kを乗ずることで、他方の変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する(ステップS14、第2インピーダンス算出ステップ)。更に、パラメータ算出部103は各吸収抵抗の抵抗値を算出する(ステップS15、抵抗値算出ステップ)。
【0063】
そして最後に、出力部104が算出結果を所定の方法で出力する(ステップS16、出力ステップ)。これにより、情報処理装置10のユーザは信号分配器の具体的な構成を得ることができる。
【0064】
次に、図11〜17を用いて、2区間ウィルキンソン2分配器の諸特性を単一区間ウィルキンソン2分配器のものと比較しつつ説明する。図11〜13はそれぞれ、図9に示す分配器PD1の挿入損(伝送特性)、反射損(反射特性)、及びアイソレーション特性を示すグラフである。図14は比較のために示す単一区間ウィルキンソン2分配器PD2の設計図であり、図15〜17はそれぞれ、当該分配器PD2の挿入損、反射損、及びアイソレーション特性を示すグラフである。図11〜13,14〜16のグラフの横軸はいずれも周波数である。
【0065】
図11のグラフにおける線a2,a3はそれぞれ、分配器PD1の出力端子Term2,Term3の挿入損を示している。図11に示すように、周波数が下側周波数f又は上側周波数fであるときには、出力端子Term2の挿入損は−1.76dBであり、出力端子Term3の挿入損は−4.77dBであった。一方、図15のグラフにおける線d2,d3はそれぞれ、分配器PD2の出力端子Term2,Term3の挿入損を示している。中心周波数がfであるときのこれら出力端子Term2,Term3の挿入損は、分配器PD1の場合と同じであった。
【0066】
図12のグラフにおける線b1,b2,b3はそれぞれ、分配器PD1の入力端子Term1、出力端子Term2、及び出力端子Term3の反射損を示している。一方、図16のグラフにおける線e1,e2,e3はそれぞれ、分配器PD2の入力端子Term1、出力端子Term2、及び出力端子Term3の反射損を示している。双方のグラフを比較すると、マイクロ波信号の分配器において一般的によく使われる仕様である−20dB以下に反射損が抑えられる周波数の範囲は、二段変成器を備える分配器PD1の方が広い。すなわち、分配器PD2よりも分配器PD1の方が広帯域に亘って良好な反射特性を示している。更に図12のグラフは、下側周波数f,上側周波数fにおいてすべての入出力端子で整合が取れ、マルチバンド化(ここではデュアルバンド化)されていることを示している。
【0067】
図13,17から分かるように、良好なアイソレーション特性を示す周波数の範囲も、二段変成器を備える分配器PD1の方が広い。すなわち、分配器PD2よりも分配器PD1の方が広帯域に亘って良好なアイソレーション特性を示している。更に、図13からは、分配器PD1の出力端子Term2,Term3間の信号伝送が二つの周波数f,fにおいて遮断される(マルチバンド化を実現できる)ことが分かる。
【0068】
次に、図18を用いて、コンピュータを上記情報処理装置10として機能させるための設計プログラムを説明する。
【0069】
設計プログラムP1は、メインモジュールP10、入力モジュールP11、回路算出モジュールP12、パラメータ算出モジュールP13、及び出力モジュールP14を備えている。
【0070】
メインモジュールP10は、信号分配器の設計を統括的に制御する部分である。入力モジュールP11、回路算出モジュールP12、パラメータ算出モジュールP13、及び出力モジュールP14を実行することにより実現される機能は、それぞれ、情報処理装置10の入力部101、回路算出部102、パラメータ算出部103、及び出力部104の機能と同様である。
【0071】
設計プログラムP1は、例えば、CD−ROM、DVDもしくはROM等の記憶媒体または半導体メモリによって提供される。また、設計プログラムP1は、搬送波に重畳されたコンピュータデータ信号としてネットワークを介して提供されてもよい。
【0072】
次に、図19〜29を用いて、上記の設計方法に基づいて試作した信号分配器について説明する。図19は、図4に示す等価回路に対応する2区間2分配の信号分配器の写真である。この分配器を作製する際には、出力端子#3(アームC´側)からの出力が出力端子#2(アームB´側)の出力の2倍となるようにした。よって、アームC´を構成する各伝送線路の特性インピーダンスZc1,Zc2は、アームB´を構成する各伝送線路の特性インピーダンスZb1,Zb2の1/2である(電力分配比k=1/2)。下側周波数f及び上側周波数fをそれぞれ0.8GHz、2.0GHzとしたので、周波数比uはf/f=2.5である。入力端子#1、出力端子#2、出力端子#3の負荷インピーダンスR,R,Rは、それぞれ50Ω、50Ω、25Ωとした。
【0073】
以上の条件に基づいて設計した結果、各伝送線路の特性インピーダンスとしてZb1=78.8Ω、Zb2=95.2Ω、Zc1=39.4Ω、Zc2=47.6Ωが得られ、吸収抵抗の抵抗値としてR=110.8Ω、R=126.9Ωが得られた。そして、これらの結果に基づいて、図19に示す信号分配器を試作した。ただし、吸収抵抗は実際にはR=110Ω、R=130Ωとした。
【0074】
この信号分配器の特性を図20〜図23に示す。図20は挿入損を示すグラフである。グラフ中の破線はコンピュータ・シミュレーション(以下では単にシミュレーションという)の結果を示し、実線は実測値を示している。下側周波数又は上側周波数における出力端子#2の挿入損S21は、配分電力が1/3であるため−4.77dBでなければならないが、実測値ではー4.77〜−5.18dBの範囲を取っている。同様に、出力端子#3の挿入損S31は、配分電力が2/3であることより−1.76dBでなければならないが、実測値では−1.76〜−2.03dBの範囲を取っている。
【0075】
図21(a)〜(c)はそれぞれ、入力端子#1、出力端子#2、出力端子#3の反射損を示すグラフである。各グラフにおいて、破線はシミュレーションの結果を示し、実線は実測値を示している。いずれの端子においても、下側周波数及び上側周波数において実測値が−20dB以下に抑えられた。
【0076】
図22はアイソレーション特性を示すグラフである。グラフ中の破線はシミュレーションの結果を示し、実線は実測値を示している。このグラフから、下側周波数及び上側周波数の周辺では良好なアイソレーション特性(−20dB以下)が得られていることがわかる。
【0077】
図23は位相特性を示すグラフである。グラフ中の実線は出力端子#2での位相特性S21の実測値を示し、破線は出力端子#3での位相特性S31の実測値を示している。このグラフから、下側周波数及び上側周波数では、各出力端子から出力される信号の位相がほぼ同一であることがわかる。
【0078】
なお、図20〜22のグラフが図11〜13のグラフと異なるのは、試作した分配器で影響を及ぼす伝送線路の線幅や導体損、薄膜抵抗のサイズ、誘電正接(タンデルタ)などが、図9に示すシミュレーション結果では考慮されていないからである。
【0079】
図24は、2区間2分配の信号分配回路を2個組み合わせて成る信号分配器の写真である。入力端子#1を含む1段目の分配回路の構成は、図19に示す信号分配器と同じである。1段目の分配回路の一方の出力はそのまま出力端子#2とし、他方の出力には2段目の分配回路を接続した。2段目の分配回路は、1段目の分配回路から入力された信号を均等に分配し、分配された信号を出力端子#3,#4を介して出力する。すなわち、2段目の分配回路の電力分配比は1である。下側周波数f及び上側周波数fをそれぞれ0.8GHz、2.0GHzとしたので、周波数比uはf/f=2.5である。2段目の分配回路における入力の負荷インピーダンスは25Ωであり、出力端子#3、出力端子#4の負荷インピーダンスは共に50Ωとした。したがって、図24の信号分配器は入力端子#1から入力された信号を均等に3分配する。出力端子#2,#3,#4に至る2段目部分の等価回路を図25に示す。
【0080】
複数の信号分配回路を備える信号分配器に関して特性インピーダンスを求める場合には、個々の信号分配回路に対して上記ステップS11〜S16の処理(上記設計プログラムP1をコンピュータに実行させることで行なわれる処理)を実行すればよい。例えば、図24に示す信号分配器の場合には、1段目、2段目の分配回路のそれぞれに対して、上記ステップS11〜S16の処理を実行すればよい。したがって、1段目の分配回路を構成する各伝送線路の特性インピーダンスや各吸収抵抗の抵抗値は、図19の例と同様に求まる。2段目の分配回路について上記の条件に基づいて設計した結果、2段目の分配回路を構成する4個の伝送線路の特性インピーダンスがすべて50Ωであり、出力側及び入力側の吸収抵抗の抵抗値がそれぞれ174.4Ω、117.2Ωであることがわかった。そして、これらの結果に基づいて、図24に示す信号分配器を試作した。ただし、2段目の吸収抵抗は実際には180Ω及び120Ωとした。
【0081】
図24に示す信号分配器の特性を図26〜図29に示す。図26は挿入損を示すグラフである。細い破線は出力端子#2の挿入損S21のシミュレーション結果を示し、太い破線は挿入損S21の実測値を示している。細い点線は出力端子#3の挿入損S31のシミュレーション結果を示し、太い点線は挿入損S31の実測値を示している。細い一点鎖線は出力端子#4の挿入損S41のシミュレーション結果を示し、太い一点鎖線は挿入損S41の実測値を示している。
【0082】
図27(a)〜(d)はそれぞれ、入力端子#1、及び出力端子#2〜#4の反射損を示すグラフである。各グラフにおいて、破線はシミュレーションの結果を示し、実線は実測値を示している。いずれの端子においても、下側周波数及び上側周波数において反射損の実測値が−20dB以下に抑えられた。
【0083】
図28(a)〜(c)はそれぞれ、出力端子#2,#3間のアイソレーション特性、出力端子#2,#4間のアイソレーション特性、出力端子#3,#4間のアイソレーション特性を示すグラフである。各グラフにおいて、破線はシミュレーションの結果を示し、実線は実測値を示している。このグラフから、下側周波数及び上側周波数の周辺では良好なアイソレーション特性(−20dB以下)が得られていることがわかる。
【0084】
図29は位相差特性を示すグラフであり、より具体的には、出力端子#2、#3間の位相差(argS21−argS31)、及び出力端子#3、#4間の位相差(argS31−argS41)を示している。グラフ中の破線はシミュレーションの結果を示し、実線は実測値を示している。このグラフから、下側周波数及び上側周波数では、各出力端子から出力される信号の位相差が0に近いこと、すなわち、各出力端子から出力される信号の位相がほぼ同じであることがわかる。
【0085】
以上説明したように、本実施形態によれば、一方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出され、続いて、その特性インピーダンスに電力分配比を乗ずることで、他方の多段変成器部を構成する伝送線路の特性インピーダンスが算出される。これにより、多段変成器を備え、マルチバンド化や反射特性の広帯域化を可能とする信号分配回路を設計することができる。言い換えれば、入力信号を分配する信号分配器のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することができる。
【0086】
複数の信号分配回路を備える信号分配器を設計する場合には、各信号分配回路について上記と同様に特性インピーダンスが算出される。したがって、信号分配器を構成する信号分配回路が一つであっても複数であっても、当該信号分配器のマルチバンド化や反射特性の広帯域化を実現することができる。
【0087】
また本実施形態によれば、吸収抵抗の抵抗値が算出されるので、多段変成器及び吸収抵抗を備え、マルチバンド化や反射特性の広帯域化を可能とする信号分配回路及び信号分配器を設計することができる。
【0088】
(第2実施形態)
第1実施形態では吸収抵抗を備える信号分配器について説明したが、吸収抵抗以外の要素を備える信号分配器の設計にも本発明を適用することができる。例えば、スタブを備える信号分配器の設計に本発明を適用してもよい。第2実施形態では、オープンスタブを備える信号分配器の設計手法を説明する。上記の情報処理装置10や設計プログラムP1は、オープンスタブを備える信号分配回路あるいは信号分配器の設計用に修正する必要はあるが、基本的な構成を変えることなく用いることができる。
【0089】
まず、図30,31を用いて、オープンスタブを備える2区間変成器の前提を説明する。図30の等価回路において、R,Rはそれぞれ、信号源側のインピーダンス、負荷側のインピーダンスを示し、Z,Zは各伝送線路の特性インピーダンスを示している。また、θは電気長であり、Zopen,θopenはそれぞれ、オープンスタブの特性インピーダンス及び電気長である。ここではθ=θopenとする。また、図30の等価回路は、中心周波数における特性インピーダンスが
【数8】


である1区間変成器と、下側周波数f及び上側周波数fで等価になるものとする。
【0090】
このとき、図30の等価回路全体のFマトリックスは
【数9】


で示され、上記の等価性より、
【数10】


【数11】


となる。ここで、Yinはオープンスタブに対する入力アドミタンスである。
【0091】
また、回路を小型にすることを考慮して、下側周波数fに対応する電気長θ
【数12】

とする。
【0092】
θ=θopenであり、また、
【数13】


であるから、Yin=Yinopenより、
【数14】

となる。なお、Yinopenはオープンスタブの入力アドミタンスである。
【0093】
図31は、Rを50Ωとしたときの、上記式(8)〜(10)から得られる特性インピーダンスと周波数比との関係を示すチャートである。このチャートは回路設計の際に用いられる。
【0094】
ここで、式(9)よりθ<π/2である。更に、Zopen>0及び式(10)より、0<θ<π/4でなければならない。上側周波数fに対応する電気長θはθ=π−θだから、0<θ<π/4という制約条件は、周波数比uの制約条件u=f/f>3に置き換えることができる。
【0095】
このような2区間変成器の理論を前提として、オープンスタブ付きの2区間ウィルキンソン2分配器の設計理論を説明する。図32の回路図D1で示される分配器は、入力端子#1、出力端子#2、及び出力端子#3を備えている。入力端子#1と出力端子#2とは、直列に接続された二つの伝送線路L31,L32から成る第1変成器部T3(アームB”)により接続されており、入力端子#1と出力端子#3とは、直列に接続された二つの伝送線路L41,L42から成る第2変成器部T4(アームC”)により接続されている。すなわち、二つの変成器部T3,T4はそれぞれ2段の変成器となっている。伝送線路L31,L32の境界にはオープンスタブST3が設けられており、伝送線路L41,L42の境界にはオープンスタブST4が設けられている。伝送線路L32及び出力端子#2の境界点と、伝送線路L42及び出力端子#3の境界点との間には、抵抗値がRである吸収抵抗が設けられている。
【0096】
入力端子#1、出力端子#2、出力端子#3の負荷インピーダンスはそれぞれ、R、R、Rである。各伝送線路及び各オープンスタブの電気長はθである。また、伝送線路L31,L32の特性インピーダンスをそれぞれZb1、Zb2とし、伝送線路L41,L42の特性インピーダンスをそれぞれZc1、Zc2とする。
【0097】
図33(a)に第1変成器部T3の偶モード等価回路D2を示し、図33(b)に第2変成器部T4の偶モード等価回路D3を示す。また、図34(a)に第1変成器部T3の奇モード等価回路D4を示し、図34(b)に第2変成器部T4の奇モード等価回路D5を示す。図34におけるZinは、出力端子から左方向を見たときの入力インピーダンスである。
【0098】
下側周波数f及び上側周波数fにおいて、|S31/S21=kとし、出力端子#2及び出力端子#3への電力配分が1:kであるとする(電力分配比はk)。このとき、吸収抵抗の両端は同電位であることが求められるので、R/R=kでなければならない。他のパラメータに関しても、第1変成器部T3,第2変成器部T4で対称な電位分布でなければならないので、図33(a)における各パラメータは図33(b)における各パラメータのk倍となる。
【数15】

ここで、RabとRacとの並列抵抗(Rab/Rac)はRと等しい。
【0099】
図33(a)に示す等価回路D2は、図30に示す変成器と同じである。また、等価回路D2,D3は対応するパラメータ値の比が同じだから、反射特性や伝送特性もこれらの等価回路間で同一である。したがって、オープンスタブを備える信号分配器を設計する際にも本発明を適用できる。
【0100】
上記式(8),(11),(12)より、
【数16】


となる。
【0101】
同様に、式(10)〜(12)より、
【数17】


となる。式(13)〜(16)は、第1変成器部T3における各パラメータが第2変成器部T4における各パラメータのk倍であることを示している。
【0102】
図34(a)の奇モード等価回路D4では、下側及び上側の二つの周波数においてZinが無限大になるから、整合のためにはR´=Rとなる必要がある。同様に、図34(b)の奇モード等価回路D5においてR´=Rとなる必要がある。よって、これらの奇モード等価回路D4,D5を合成して、R=R+Rとなる。以上により、図32に示す回路図D1のすべてのパラメータが定まる。
【0103】
次に、図35〜45を用いて、試作したオープンスタブ付き信号分配器について説明する。図35は、回路図D1に対応する2区間2分配のオープンスタブ付き信号分配器の写真である。この分配器を作製する際には、出力端子#3からの出力が出力端子#2の出力の2倍となるようにしたので、電力分配比kは2である。下側周波数f及び上側周波数fをそれぞれ0.5GHz、2.0GHzとしたので、周波数比uはf/f=4である。入力端子#1、出力端子#2、出力端子#3の負荷インピーダンスR,R,Rは、それぞれ50Ω、50Ω、25Ωとした。
【0104】
図35に示す信号分配器の特性を図36〜図38に示す。図36は挿入損を示すグラフである。グラフ中の実線は出力端子#2の挿入損S12のシミュレーション結果であり、破線は出力端子#3の挿入損S13のシミュレーション結果である。星印は挿入損S12の実測値を示し、丸印は挿入損S13の実測値を示している。
【0105】
図37(a)は入力端子#1の反射損S11を示すグラフであり、図37(b)は出力端子#2,#3の反射損S22,S33を示すグラフである。図37(a)中の実線はシミュレーションの結果を示し、丸印は実測値を示している。図37(b)中の実線は反射損S22のシミュレーション結果を示し、破線は反射損S33のシミュレーション結果を示し、星印は反射損S22の実測値を示し、丸印は反射損S33の実測値を示している。
【0106】
図38は出力端子#2,#3間のアイソレーション特性を示すグラフである。グラフ中の実線はシミュレーションの結果を示し、丸印は実測値を示している。
【0107】
オープンスタブを含む信号分配回路を複数備える信号分配器に関して特性インピーダンスを求める場合にも、第1実施形態と同様に、個々の信号分配回路に対して上記の設計方法(上記ステップS11〜S16と同様の処理)を用いればよい。例えば、図39の回路図Eで示される信号分配器の場合には、1段目の分配回路Eaと2段目の分配回路Ebのそれぞれに対して、上記の設計手法を採用すればよい。なお、回路図Eの2段目部分(分配回路Eb及び回路Ec)の等価回路を図40に示す。図39,40の例では、回路Ecにもオープンスタブを設けているが、このオープンスタブを省略して50Ωラインに置き換えてもよい。
【0108】
分配回路Ea,Ebにおける電力分配比をそれぞれ2,1とした。入力端子#1及び出力端子#2〜#4における負荷インピーダンスはいずれも50Ωであり、分配回路Eaの出力に相当するポイントB,Cにおける負荷インピーダンスはそれぞれ50Ω、25Ωである。したがって、回路図Eで示される信号分配器は入力端子#1から入力された信号を均等に3分配する。下側周波数f、上側周波数fをそれぞれ0.5GHz、2.0GHzとしたので、周波数比uはf/f=4である。
【0109】
回路図Eについて設計及び試作した信号分配器を図41に示す。また、その信号分配器の特性を図42〜図45に示す。
【0110】
図42(a)〜(c)はそれぞれ、出力端子#2,#3,#4に関する挿入損を示すグラフである。各グラフにおいて、実線はシミュレーションの結果を示し、丸印は実測値を示している。
【0111】
図43(a)〜(d)はそれぞれ、入力端子#1、及び出力端子#2〜#4の反射損を示すグラフである。各グラフにおいて、実線はシミュレーションの結果を示し、丸印は実測値を示している。いずれの端子においても、下側周波数及び上側周波数において反射損の実測値が−20dB以下に抑えられた。
【0112】
図44(a)〜(c)はそれぞれ、出力端子#2,#3間のアイソレーション特性、出力端子#2,#4間のアイソレーション特性、出力端子#3,#4間のアイソレーション特性を示すグラフである。各グラフにおいて、実線はシミュレーションの結果を示し、丸印は実測値を示している。これらのグラフから、下側周波数及び上側周波数の周辺では良好なアイソレーション特性(−20dB以下)が得られていることがわかる。
【0113】
図45は位相特性を示すグラフである。グラフ中の実線は出力端子#2での実測値を示し、破線は出力端子#3での実測値を示し、アスタリスクは出力端子#4での実測値を示している。このグラフから、下側周波数及び上側周波数では、各出力端子から出力される信号の位相がほぼ同じであることがわかる。
【0114】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0115】
上記実施形態では2区間の信号分配回路、すなわち二段の変成器部を備える信号分配回路について説明したが、三段以上の変成器部を備える分配回路や分配器の設計にも本発明を適用することができる。また、上記実施形態では電力分配比kが1あるいは2の場合について説明したが、各信号分配回路の電力分配比は任意であり、例えば3であってもよい。
【0116】
本発明による設計の自由度は高く、信号分配器を構成する分配回路の個数は任意に定めてよい。例えば、本発明により3個の分配回路を備える4分配の信号分配器を設計及び作製することもできる。
【符号の説明】
【0117】
10…情報処理装置、101…入力部、102…回路算出部、103…パラメータ算出部、104…出力部、P1…設計プログラム、P10…メインモジュール、P11…入力モジュール、P12…回路算出モジュール、P13…パラメータ算出モジュール、P14…出力モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置により実行される、入力信号を分配する信号分配回路の設計方法であって、
入力、第1出力、第2出力、該入力と該第1出力とを接続する第1多段変成器部、及び該入力と該第2出力とを接続する第2多段変成器部を備える前記信号分配回路の回路パターンを示すパターンデータと、前記入力の負荷インピーダンスと、前記第1出力及び前記第2出力の負荷インピーダンスと、前記出力間の電力分配比と、下側周波数に対する上側周波数の周波数比の入力を受け付ける受付ステップと、
前記入力、前記第1出力、及び前記第1多段変成器部を有する部分についての、偶モード等価回路及び奇モード等価回路を算出する回路算出ステップと、
前記入力及び前記第1出力の負荷インピーダンスと、前記周波数比と、前記偶モード等価回路と、前記奇モード等価回路とに基づいて、前記第1多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第1インピーダンス算出ステップと、
前記第1インピーダンス算出ステップにおいて算出された各特性インピーダンスに前記電力分配比を乗ずることで、前記第2多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第2インピーダンス算出ステップと、
前記第1インピーダンス算出ステップ及び前記第2インピーダンス算出ステップにおいて算出された各特性インピーダンスを出力する出力ステップと、
を含むことを特徴とする信号分配回路の設計方法。
【請求項2】
前記第1多段変成器部及び前記第2多段変成器部の間に設けられた吸収抵抗の抵抗値を算出する抵抗値算出ステップを更に含み、
前記回路算出ステップでは、前記入力、前記第1出力、前記第1多段変成器部、及び前記吸収抵抗の前記第1多段変成器部側の成分を有する部分についての、前記偶モード等価回路及び前記奇モード等価回路が算出され、
前記抵抗値算出ステップでは、前記入力及び前記第1出力の負荷インピーダンスと、前記周波数比と、前記偶モード等価回路と、前記奇モード等価回路と、前記電力分配比とに基づいて、前記吸収抵抗の抵抗値が算出され、
前記出力ステップでは、更に、前記抵抗値算出ステップにおいて算出された抵抗値が出力される、
請求項1に記載の信号分配回路の設計方法。
【請求項3】
前記第1多段変成器部及び前記第2多段変成器部がそれぞれ、伝送線路間に設けられたスタブを含み、
前記第1インピーダンス算出ステップでは、更に、前記第1多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出され、
前記第2インピーダンス算出ステップでは、更に、前記第1インピーダンス算出ステップにおいて算出された各スタブの特性インピーダンスに前記電力分配比を乗ずることで、前記第2多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出される、
請求項1に記載の信号分配回路の設計方法。
【請求項4】
前記信号分配回路が前記入力信号を不均等に分配する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の信号分配回路の設計方法。
【請求項5】
情報処理装置により実行される、一又は複数の信号分配回路を備える信号分配器の設計方法であって、
各信号分配回路が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の信号分配回路の設計方法により設計される、
ことを特徴とする信号分配器の設計方法。

【請求項6】
前記一又は複数の信号分配回路の少なくとも一つが前記入力信号を不均等に分配する、
請求項5に記載の信号分配器の設計方法。
【請求項7】
入力信号を分配する信号分配回路の設計をコンピュータに実行させるための、信号分配回路の設計プログラムであって、
前記コンピュータに、
入力、第1出力、第2出力、該入力と該第1出力とを接続する第1多段変成器部、及び該入力と該第2出力とを接続する第2多段変成器部を備える前記信号分配回路の回路パターンを示すパターンデータと、前記入力の負荷インピーダンスと、前記第1出力及び前記第2出力の負荷インピーダンスと、前記出力間の電力分配比と、下側周波数に対する上側周波数の周波数比の入力を受け付ける受付機能と、
前記入力、前記第1出力、及び前記第1多段変成器部を有する部分についての、偶モード等価回路及び奇モード等価回路を算出する回路算出機能と、
前記入力及び前記第1出力の負荷インピーダンスと、前記周波数比と、前記偶モード等価回路と、前記奇モード等価回路とに基づいて、前記第1多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第1インピーダンス算出機能と、
前記第1インピーダンス算出機能により算出された各特性インピーダンスに前記電力分配比を乗ずることで、前記第2多段変成器部を構成する各伝送線路の特性インピーダンスを算出する第2インピーダンス算出機能と、
前記第1インピーダンス算出機能及び前記第2インピーダンス算出機能により算出された各特性インピーダンスを出力する出力機能と、
を実現させることを特徴とする信号分配回路の設計プログラム。
【請求項8】
前記コンピュータに更に、前記第1多段変成器部及び前記第2多段変成器部の間に設けられた吸収抵抗の抵抗値を算出する抵抗値算出機能を実現させ、
前記回路算出機能により、前記入力、前記第1出力、前記第1多段変成器部、及び前記吸収抵抗の前記第1多段変成器部側の成分を有する部分についての、前記偶モード等価回路及び前記奇モード等価回路が算出され、
前記抵抗値算出機能により、前記入力及び前記第1出力の負荷インピーダンスと、前記周波数比と、前記偶モード等価回路と、前記奇モード等価回路と、前記電力分配比とに基づいて、前記吸収抵抗の抵抗値が算出され、
前記出力機能により、更に、前記抵抗値算出機能により算出された抵抗値が出力される、
請求項7に記載の信号分配回路の設計プログラム。
【請求項9】
前記第1多段変成器部及び前記第2多段変成器部がそれぞれ、伝送線路間に設けられたスタブを含み、
前記第1インピーダンス算出機能により、更に、前記第1多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出され、
前記第2インピーダンス算出機能により、更に、前記第1インピーダンス算出機能により算出された各スタブの特性インピーダンスに前記電力分配比を乗ずることで、前記第2多段変成器部に含まれる各スタブの特性インピーダンスが算出される、
請求項7に記載の信号分配回路の設計プログラム。
【請求項10】
前記信号分配回路が前記入力信号を不均等に分配する、
請求項7〜9のいずれか一項に記載の信号分配回路の設計プログラム。
【請求項11】
一又は複数の信号分配回路を備える信号分配器の設計をコンピュータに実行させるための、信号分配器の設計プログラムであって、
請求項7〜9のいずれか一項に記載の信号分配回路の設計プログラムを含み、
前記コンピュータが、請求項7〜9のいずれか一項に記載の信号分配回路の設計プログラムにより、各信号分配回路の設計を実行する、
ことを特徴とする信号分配器の設計プログラム。
【請求項12】
前記一又は複数の信号分配回路の少なくとも一つが前記入力信号を不均等に分配する、
請求項11に記載の信号分配器の設計プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図19】
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【図24】
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【図35】
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【図41】
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【公開番号】特開2011−211679(P2011−211679A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203269(P2010−203269)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)