説明

修飾基導入基板の製造方法およびリガンド固定化基板の製造方法,修飾基導入基板およびリガンド固定化基板,ならびに,分子間相互作用検出方法

【課題】基板へのリガンド固定化操作が簡便であり、かつ、リガンド固定化率の再現性が担保され易い基板の製造方法およびその基板ならびに分子間相互作用検出方法を提供することを課題とする。
【解決手段】工程(a):SiN〔窒化ケイ素〕からなる表面を有する基板を準備する工程と、工程(b):基板のSiN〔窒化ケイ素〕からなる表面に、エポキシ基,アジド基,イソシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つの修飾基を導入する工程を含み、好ましくは工程(c):チオール基,アミノ基およびヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの反応基を有するリガンドを、該反応基と上記修飾基との反応を介して、上記基板の表面に固定化する工程を含むことを特徴とする、リガンド固定化基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射干渉分光法〔Reflectometric Interference Spectroscopy;RIfS〕用のセンサーチップとして好適な修飾基導入基板およびリガンド固定化基板の製造方法,該製造方法によって得られる修飾基導入基板およびリガンド固定化基板,ならびに,該基板を使用する分子間相互作用検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体分子や有機高分子間の結合(分子間相互作用)を、標識を用いることなく直接的に検出する手法の研究開発が進められている。例えば、光学薄膜の干渉色変化を利用したRIfSが提案され、実用化もされている。RIfS方式の基本原理は特許文献1などに記載されている。その他にも、表面プラズモン共鳴〔Surface Plasmon Resonance;SPR〕法や水晶発振子マイクロバランス〔Quartz Crystal Microbalance;QCM〕法などの手法が知られている。
【0003】
これらの分子間相互作用検出装置には、被測定物質(アナライト)に対応する捕捉物質(リガンド)が表層に固定化された、センサーチップなどと呼ばれる基板状の測定用部材が用いられる。そして、被測定物質と捕捉物質との間に働く分子間相互作用としては、これまで、抗原抗体反応,DNAハイブリダイゼーション,糖・レクチン相互作用などを利用することが一般的であった。
【0004】
例えば、あるタンパク質(抗原)を被測定物質とするセンサーチップの表面には、それと特異的に結合しうるタンパク質(抗体)が捕捉物質として固定化されている。
タンパク質などのリガンドを基板に固定化する方法としては、例えば、基板表面のカルボキシル基を、水溶性カルボジイミド(1-エチル-3,4-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド〔EDC〕)を用いて、N−ヒドロキシスクシンイミド〔NHS〕のエステルとして活性化し、リガンドが有するアミノ基を反応させる方法(特許文献1,2)や基板表面のアミノ基とリガンドのアミノ基とを、二官能性試薬であるグルタルアルデヒドを用いて架橋する方法(特許文献3)などが知られている。
【0005】
しかしながら、これらの方法に用いるEDCおよびグルタルアルデヒドが加水分解や酸化などの影響を受け易く不安定になるため、固定化率の再現性の担保が困難な場合があり、取扱者によって固定化率の測定値に差異を生じてしまうという問題がある。また、固定化の手法が環境による影響を受けやすいため、センサーチップを大量生産するなどの工業化には不向きであるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−346209号公報(特許第4009721号公報)
【特許文献2】特表2007−514174号公報
【特許文献3】特許第3507048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、基板へのリガンド固定化操作が簡便であり、かつ、リガンド固定化率の再現性が担保され易い基板の製造方法およびその基板ならびに分子間相互作用検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、基板表面にエポキシ基を導入すると、活性化エステル試薬(EDC,NHC)やグルタルアルデヒドなどの試薬を用いずに、一段階でタンパク質等のリガンドを基板に固定化できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]工程(a):SiN〔窒化ケイ素〕からなる表面を有する基板を準備する工程と、工程(b):前記基板のSiNからなる表面に、エポキシ基,アジド基,イソシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つの修飾基を導入する工程と、を含むことを特徴とする、修飾基導入基板の製造方法。
【0010】
[2]上記修飾基を有するシランカップリング剤を用いて上記工程(b)を実施する[1]に記載の製造方法。
[3]上記基板が、反射干渉分光法〔Reflectometric Interference Spectroscopy;RIfS〕用のセンサーチップである[1]または[2]に記載の製造方法。
【0011】
[4]工程(c):チオール基,アミノ基およびヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの反応基を有するリガンドを、該反応基と、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られた修飾基導入基板が有する修飾基との反応を介して、上記修飾基導入基板の表面に固定化する工程を含むことを特徴とする、リガンド固定化基板の製造方法。
【0012】
[5]上記リガンドが、タンパク質,ポリペプチド,核酸および糖からなる群から選択される少なくとも1種である[4]に記載の製造方法。
[6][1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とする、修飾基導入基板。
【0013】
[7][4]または[5]に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする、リガンド固定化基板。
[8][7]に記載のリガンド固定化基板を使用することを特徴とする、分子間相互作用検出方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板表面に導入した修飾基とリガンドとが直接反応し、基板にリガンドを固定化できることから、不安定な試薬を使用する必要がない。
修飾基を導入した基板をリガンド溶液に浸漬するだけで、基板にリガンドを固定化することができるため、取扱者による固定化率に差が生じる余地がなく、安定した操作が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施形態の基板、特にその表面がSiNからなるセンサーチップの製造方法に係る工程(b)を模式的に示した図である。
【図2】図2(a)は、アミノ基とエポキシ基との一般的な化学反応式を表し、(b)は本実施形態で用いる基板表面に導入されたエポキシ基とリガンド(抗体)が有するアミノ基とが反応し、リガンドを基板に固定化した模式図を示す。
【図3】図3は、実施例1において、RIfS方式の分子間相互作用測定装置に試薬をインジェクトしたタイミングを示すグラフ(a)、および、得られた結果のグラフ(b)を示す。
【図4】図4は、RIfS方式の分子間相互作用検出システムの一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の基板の製造方法、その製造方法により得られる基板、ならびにその基板を使用する分子間相互作用検出方法の実施形態について詳述する。
なお、本件明細書において「分子間相互作用検出方法」とは、分析用部材(センサーチップ)の表面に設けられた分子と、分析対象となる分子との間に何らかの相互作用が働いたときに現れるシグナルを検出する方法である。このような分子間相互作用検出方法としては、代表的には、RIfS,SPR,QCMが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、「分子間相互作用検出装置」とは、上記の分子間相互作用検出方法を実施するための装置である。
【0017】
<基板の製造方法およびその基板>
(製造方法)
本実施形態における基板の製造方法には2種類ある。
【0018】
第一の基板の製造方法は、修飾基導入基板の製造方法であって、下記工程(a)および工程(b)を含むことを特徴とする。
工程(a);SiN〔窒化ケイ素〕からなる表面を有する基板を準備する工程。
【0019】
工程(b):前記基板のSiNからなる表面に、エポキシ基,アジド基,イソシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つの修飾基を導入する工程。
【0020】
なお、上記工程(a)においては、典型的には、シリコンウエハなどのSi基板上に、蒸着等によってSiN層を形成することにより、SiNからなる表面を有する基板を作製する。上記工程(b)に供される基板は、通常、SiNからなる表面に未だ何の修飾も施されていない、いわゆる無修飾の基板である。例えば、Si基板およびその上層に形成されたSiN膜のみで構成される、RIfS用の無修飾のセンサーチップである。
【0021】
第二の基板の製造方法は、リガンド固定化基板の製造方法であって、第一の基板の製造方法に加えてさらに下記工程(c)を含むことを特徴とする。シランカップリング剤水溶液の濃度,pH,反応温度,浸漬時間などの諸条件は、当業者であれば適切な範囲に調整することができる。
【0022】
工程(c):チオール基,アミノ基およびヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの反応基を有するリガンドを、該反応基と、上記修飾基導入基板が有する修飾基との反応を介して、上記修飾基導入基板の表面に固定化する工程。
【0023】
このような基板としては、反射干渉分光法〔RIfS〕用のセンサーチップが好適である。しかしながら、SiNからなる表面を有する基板の用途は特に限定されるものではなく、RIfS以外の分子間相互作用検出方法に用いられる測定部材等であってもよいし、あるいは分子間相互作用検出方法以外の方法、例えば蛍光標識等のラベリングを利用する測定方法に用いられる測定部材等であってもよい。また、基板には、分子間相互作用の検出方法に応じた付加的な構造(例えば、電極など)が設けられていてもよい。
【0024】
基板表面のSiNは、空気に触れた瞬間から酸化膜が形成される。この酸化膜は少なからずヒドロキシル基(水酸基)などの官能基を有する。
工程(b)において、上記修飾基を基板表面に導入する方法としては、例えば、上記修飾基を有するシランカップリング剤を用いる方法や、上記修飾基を有するポリマーを、スピンコートを用いて塗布する方法などが挙げられるが、操作上の容易さや基板表面に共有結合により固定化することで修飾基の脱離を防ぐ観点から、シランカップリング剤を用いる方法が好ましい。
【0025】
一般的には、シランカップリング剤の水溶液に基板を所定の時間浸漬しておくことにより、SiNからなる表面に存在する空気中での酸化によって発生した水酸基と、シランカップリング剤由来のシラノール基等とが反応してシランカップリング剤が結合し、シランカップリング剤が有するエポキシ基等の修飾基で、SiNからなる表面を修飾することができる。
【0026】
また、工程(c)において、上記修飾基と上記反応基との反応は、従来の活性エステル化試薬を用いる反応と比較し、反応時間が比較的長く、かつ、反応性もやや低い傾向を示すが、反応率は一定である。
【0027】
修飾基としてのエポキシ基,アジド基,イソシアネート基またはイソチオシアネート基と、反応基としてのチオール基,アミノ基またはヒドロキシル基は、特に反応試薬を必要とすることなく反応させることができる。例えば、上記エポキシ基等で修飾された基板表面に、上記チオール基等を有するリガンドの水溶液を接触させる(例えば一定時間、当該水溶液中に当該基板を浸漬する)ことにより、それらの修飾基および反応基の間に共有結合を形成させることができる。
【0028】
上記反応基を有するリガンドとして、タンパク質,ポリペプチド,核酸および糖からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、特にタンパク質が好ましい。タンパク質およびポリペプチドは、それらを構成するアミノ酸の末端または側鎖に、チオール基,アミノ基,ヒドロキシル基などの修飾基を有する。
【0029】
一方、核酸や糖(単糖やオリゴ糖または多糖であってもよい。)は、分子構造中にアミノ基またはヒドロキシル基を有するが、通常はチオール基を有していない。エポキシ基はアミノ基やヒドロキシル基よりチオール基との反応性が高いことから、該リガンドとして核酸や糖を用いてエポキシ基と反応させる場合、その核酸や糖に予めチオール基を導入しておくことが好ましい。
【0030】
(基板)
本実施形態において製造される基板には2種類の基板がある。
第一の基板は、修飾基導入基板であって、上記のような修飾基導入基板の製造方法によって得られるものである。すなわち、本実施形態の修飾基導入基板は、SiNからなる表面が、好ましくはシランカップリング剤によって、エポキシ基,アジド基,イソシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つの修飾基で修飾されている基板である。この第一の基板は、貯蔵安定性が良好である。
【0031】
本実施形態における第二の基板は、リガンド固定化基板であって、上記のようなリガンド固定化基板の製造方法によって得られるものである。すなわち、本実施形態発明のリガンド固定化基板は、SiNからなる表面に、当該表面を修飾していたエポキシ基,アジド基,イソシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つの修飾基と、リガンドが有していたチオール基,アミノ基およびヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの反応基との反応を介して、当該リガンドが固定化されている基板である。
【0032】
ただし、本発明の第一および第二の基板の製造方法は、前述したような本実施形態の第一および第二の基板の製造方法に限定されるものではない。それらとは異なる製造方法によって得られた場合であっても、上記と同様の構成を有するものは、本発明の第一および第二の基板に該当する。
【0033】
<分子間相互作用検出方法>
本実施形態の分子間相互作用検出方法は、上記リガンド固定化基板を使用することを特徴とする。
【0034】
(検出装置の構成)
本実施形態の分子間相互作用検出方法は、公知の一般的な構成を有するRIfS用の分子間相互作用測定装置を用いて実施することができる。このような分子間相互作用測定装置を含む測定システムの実施形態の一例の概要を図1に示す。
【0035】
本測定システム1は、主に、測定部材10,白色光源20,分光器30,および、光伝達部40等から構成される分子間相互作用測定装置100と,制御装置50などから構成されている。
【0036】
測定部材10は、少なくとも基板12aと、その上に形成された光学薄膜12bを含む、センサーチップ12を基本として構成され、通常はさらにフローセル14が当該センサーチップ12に積載される。
【0037】
基板12aは、一般的には矩形で、例えばSi〔シリコン〕製が好ましく、光学薄膜12bは例えばSiN製が好ましい。
フローセル14は、例えばシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン:PDMS)製の、透明な部材である。フローセル14はセンサーチップ12に対して貼り替え可能となっており、ディスポーザブル(使い捨て)使用が可能となっている。フローセル14には溝14aが形成されている。フローセル14をセンサーチップ12に密着させると、密閉流路14bが形成される。溝14aの両端部はフローセル14の表面から露出しており、一方の端部が送液部に接続されて試料溶液60等の各種の溶液が供給される流入口14cとして機能し、他方の端部は廃液部に接続されて試料溶液60等の各種の溶液の流出口14dとして機能するようになっている。
【0038】
光伝達部40は、白色光源20からの白色光を測定部200に導くための第一の光伝達経路としての第一の光ファイバ41と、第一の光ファイバ41からの白色光の照射による反射光を測定部200から分光器30に導くための第二の光伝達経路としての第二の光ファイバ42とを備えている。第一の光ファイバ41の白色光源20側の端部は、当該白色光源20の接続ポートに接続されている。接続ポートに接続された光ファイバ41は光入射端面がハロゲンランプ21に対向するように配置されている。第二の光ファイバ42の分光器30側の端部は、当該分光器30の受光を行う接続ポートに接続されている。
【0039】
上記各光ファイバ41,42は、いずれも微細ファイバを束ねた構造となっている。そして、第一の光ファイバ41と第二の光ファイバ42のフローセル14側の端部は、各々の微細ファイバが一つの束となるように複合的に寄り合わされている。即ち、第一の光ファイバ41を構成する微細ファイバは、フローセル14側の端面において中央に分布し、第二の光ファイバ42を構成する微細ファイバは第一の光ファイバ41の微細ファイバの束を取り囲むようにその周囲に分布している。
【0040】
白色光源20は、ハロゲンランプと、これを格納する筐体とから構成されている。筐体には、第一の光ファイバ41を接続するための接続ポートが設けられている。なお、本実施形態では白色光源を用いているが、これに限られるものではなく、後述する反射率極小波長の変化が検出でき得る波長域にわたって分布する光を発光する光源であればよい。
【0041】
白色光源20が点灯すると、その白色光が第一の光ファイバ41を介して測定部200に照射され、その反射光が光ファイバ42を介して分光器30に導かれる。この分光器30は、受光部で受光する光に含まれる一定の波長間隔ごとの光について光強度を検出し、分光強度として制御装置50に出力する。
【0042】
なお、本実施形態においては、測定部材10からの反射光を分光器30で受光するようにしているが、測定部材10として光透過性のものを用いて、白色光源20からの光を測定部材10に照射し、測定部材10を透過してきた光を受光するように分光器30を配置し、透過光の分光強度を検出するようにしても構わない。
【0043】
なお、本実施形態においては、測定部材10からの反射光を分光器30で受光するようにしているが、測定部材10として光透過性のものを用いて、白色光源20からの光を測定部材10に照射し、測定部材10を透過してきた光を受光するように分光器30を配置し、透過光の分光強度を検出するよう変形することも可能である。
【0044】
制御装置50は、例えばPC〔Personal Computer〕から構成され、オペレータから検出動作の実行の入力を受け付けて、分子間相互作用測定装置100への検出動作制御の実行指令を出力する。これにより、制御装置50は、制御部として機能する。
【0045】
また、制御装置50は演算部としても機能する。制御装置50は、分光器30から測定光の分光強度のデータを取得し、各波長帯域ごとに、測定光の分光強度を基準となる白色光の分光強度で除して反射率を算出する。基準光の分光強度データは、予め装置組み立て調整時に測定して保有していたものでもよいし、その他の手段により例えば測定の都度取得したものでもよい。算出された反射率に基づき反射スペクトルが作成され、反射率極小波長が決定される。
【0046】
反射スペクトルの波形は、通常、微小な凹凸が繰り返されるような不規則な形状を呈しており、反射率極小波長を算出・特定するのが困難な状態となっている場合があるが、例えば、公知の手法を用いて反射スペクトルを高次関数で近似することにより波形を滑らかにし、高次多項式からその解(最小値)を求めて、これを反射率極小波長の値として特定することができる。
【0047】
白色光源20や分光器30、および、後述する温度調節手段等を制御装置50で直接制御することも可能であるが、分子間相互作用検出装置100内に、制御装置50からの指示により、白色光源20、分光器30、温度調節手段等の各部の動作を制御するためのマイコンを含む制御部(図示せず)を別途設けることが好ましい。この場合、マイコンは、制御装置50の制御指令に応じて白色光源20の点灯と消灯を切り換える制御を行ったり、制御装置50の設定温度指令に応じて温度制御部の温度制御を行ったりする。
【0048】
温度調節手段(図示せず)は、例えば、ペルチェ素子のような加温と冷却を行う温度調節素子と温度検出素子とを備え、これらは測定部材10に併設される。そして、制御装置50が、直接またはマイコンを通じて、温度検出素子から測定部材10の温度情報を取得し、温度調節素子による加温又は冷却によって、設定温度となるように直接またはマイコンを通じて温度制御を実行する。
【0049】
検出を行う際には予め測定部材10の暖気が行われる。即ち、制御装置50は、予め定めた設定温度となるように温度制御部を制御するか、または、予め定めた設定温度となるようにマイコンに指令を送り、マイコンは温度制御部の温度制御を実行する。暖気により測定部材10の温度が安定してから、分析を始める。
【0050】
制御装置50は、測定を継続するか判定を行い、継続しない場合には処理を終了する。かかる判定は、例えば、予め測定時間が設定され、当該測定時間が経過したか否かを判定してもよいし、測定の終了の入力を受けるまで測定を継続する設定として、測定終了の入力の有無を判定してもよい。測定を継続する場合には、再び、分光強度の測定が実行される。測定を繰り返すことにより、制御装置50は、周期的に反射率の算出、反射スペクトルの作成および反射率極小波長の決定を行い、その時系列的な変化を記録する。
【0051】
(分析項目)
分子間相互作用検出方法によって取得することのできる各種の情報の利用方法、例えば取得した測定値に基づいてどのような項目を分析するかは特に限定されるものではない。
【0052】
例えば、RIfSに準じた分析においては、センサーチップに被測定物質が捕捉されて層が形成された場合、当該層の形成の前後の間での、分光反射率が極小となる波長(干渉波長)の変化量(Δλ)から、被測定物質からなる層の厚さ(d1)を求めることができる。すなわち、センサーチップ表面に光学的に薄膜と見なせる被測定物質からなる層が形成されて、反射光の干渉が起きる場合、被測定物質からなる層の厚さは次式により簡易に求めることができる。
【0053】
1=Δλ/2n
nはアナライトの屈折率であり、通常、1.4〜1.6程度の範囲になる。
また、予め参照用(検量線作成用)に、濃度が既知のアナライトを含む溶液を用いて干渉波長の変化量(Δλ’)を測定ないしアナライトからなる層の厚さ(d1’)を算出しておけば、アナライトの濃度が未知の試料を用いて干渉波長の変化量(Δλ)を測定ないしアナライトからなる層の厚さ(d1)を算出した後、それらを比較することにより、サンプル中のアナライトの濃度を定量化することができる。
【0054】
なお、RIfS用のセンサーチップの表面にアナライトが捕捉され、アナライトからなる層が形成された場合、その捕捉量または層の厚さは、RIfSにより測定される干渉波長の変化量(Δλ)という数値に反映される他、センサーチップを目視したときの色にも反映される(捕捉量または層の厚さによって見える色が変化する)。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の具体的な実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(工程(a):SiNセンサーチップの作製)
シリコンウエハの上に、光学薄膜としてSiNを66.5nmの厚さになるようにCVD蒸着してSiNセンサーチップを作製した。
【0056】
(工程(b):SiNセンサーチップ表面のエポキシ基修飾)
超純水10mLに、シランカップリング剤であるGPTS〔(3-glycidoxypropyl)trimethoxysilane〕を0.1mL、酢酸0.1mLを添加した。
【0057】
このシランカップリング剤溶液の中に、工程(a)で作製したSiNセンサーチップを室温で1時間浸漬した。
このように処理したSiNセンサーチップを、エタノール、超純水で洗浄した後に、窒素ブローにより水滴を除去した後、乾燥器により110℃にて2時間乾燥を行った(脱水縮合)。こうして、SiNセンサーチップ表面へのエポキシ基修飾を行った。
【0058】
(工程(c):リガンドの固定化)
リガンドとして抗ヒトαフェトプロテイン〔AFP〕マウスモノクローナル抗体(clone:1D5;ミクリ免疫研究所(株))を、10mMの酢酸塩緩衝液(pH6.0)を用いて10μg/mLとなるように調製した。この抗体溶液に上記工程(b)で得られた直後のセンサーチップを室温で終夜浸漬した。その後、超純水でこのセンサーチップを洗浄することで、リガンドである抗体をSiNセンサーチップ表面に固定化できた。得られたセンサーチップを以下「リガンド固定化基板」ともいう。
【0059】
(リガンド固定化基板の性能確認)
RIfS方式の分子間相互作用測定装置(MI−Affinity;コニカミノルタオプト(株)製)の電源を入れて光源が安定するまで約20分間待機した。また、リガンド固定化基板と、幅2.5mm×長さ16mm×深さ0.1mmの溝およびこの溝の両末端にそれぞれ直径1mmの貫通口を有するフローセル(コニカミノルタオプト(株)製)とをセットし、上記測定装置が備えているチップカバーを通してセンサーチップ上に液体を通過させる事が可能な状態にした。シリンジポンプ(Econoflo70−2205;Harvard Apparatus製)により、測定装置外部から、10×PBS(−)バッファ(pH7.4;和光純薬工業(株):コードNo.314−90185)を、超純水を用いて10倍希釈して調製したバッファに界面活性剤Tween20(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を0.001%添加したものを20μL/minの流量で20分間送液し、測定基準となる分光反射率が最小となる波長λ0(ベースライン)が約570nm付近で安定するのを確認した。
【0060】
(RIfS方式による抗原抗体反応)
測定を開始した後、以下に示すタイミングで上記分子間相互作用測定装置のインジェクタを介して試薬をインジェクトした。試薬の組成、及び、添加タイミング(測定開始からの経過時間で括弧内に示す)は以下の通りである。
1) 非特異吸着の有無の確認用の、1%BSAを溶解したPBSバッファ(5min);
2) 抗原抗体反応用の、PBSバッファ(pH7.4)中に溶解した1μg/mLのAFP(20min);
3) 抗原抗体反応用の濃度依存性の有無を確認するための、PBSバッファ(pH7.4)中に溶解した10μg/mLのAFP(30min);
4)抗原を解離させるための再生バッファとして10mMのGly−HCl(pH1.5)(40min)
5) 抗原抗体反応の再現性を確認するための、PBSバッファ(pH7.4)中に溶解した1μg/mLのAFP(50min);
6) 濃度依存性の有無の再現性を確認するための、PBSバッファ(pH7.4)中に溶解した10μg/mLのAFP(60min);
すなわち、測定準備を完了したリガンド固定化基板に対して、上記測定装置が備えているインジェクタを通して、1)で非特異吸着がないことを確認(後述する図3(a)において、タンパク質が添加された影響による測定値の一時的な低下後にベースラインがほぼ一定になる現象に基づいて非特異吸着がないことを確認できる)した後、2)で抗原であるAFPを導入した。続いて、3)で10倍濃度のAFPを導入した。抗原を導入した後のボトムピーク波長をλ1とした。その後、4)で再生バッファを導入し、抗体から抗原を解離させた。更に、抗原抗体反応の再現性を確認するために、5)で抗原であるAFPを2)と同じ濃度で導入し、続いて6)で10倍濃度のAFPを導入した。
【0061】
λ1とλ0の差をΔλとして抗原導入によるボトムピーク波長変化量を測定した。測定開始以降のΔλの時間による変化の測定結果を図3(a)に示す。このように、エポキシ基を修飾したセンサーチップを用いることにより、リガンドを含んだ溶液に浸漬するという極めて簡便な操作を行うだけでリガンドを固定化でき、しかも、図3(a)において、再生バッファ導入前後の測定結果の比較から明らかなように、非常に再現性のよい結果が得られることが理解できる。なお、同じ手順で実験を数回繰り返したが、いずれも同様の結果を得ることができた。
【0062】
[比較例1]
実施例1の工程(b)において、超純水10mLに、シランカップリング剤であるGPTSを添加せず、酢酸0.1mLのみを添加した以外は実施例1と同様にしてリガンド固定化基板を製造し、その性能確認を実施した。測定結果を図3(b)に示す。
抗原をインジェクトした後にもλ1とλ0にほぼ差がなかったことから、リガンドが基板に固定化されなかったことが理解できる。
【0063】
[実施例2]
エポキシ基の修飾を行ったセンサーチップを、24時間大気中に放置した後、リガンドの固定化を行うようにした以外は実施例1と同様の手順で測定を行った。また、エポキシ基の修飾を行ったセンサーチップを、1週間大気中に放置した後、リガンドの固定化を行うようにした以外は実施例1と同様の手順で測定を行った。いずれの場合も、実施例1の測定結果と特に有意な差異は認められず、エポキシ基修飾された基板が安定性に優れたものであることが判った。
【符号の説明】
【0064】
1 測定システム
10 測定部材
12 センサーチップ
12a シリコン基板
12b SiN(窒化シリコン)膜
14 フローセル
14a 溝
14b 密閉流路
14c 流入口
14d 流出口
16 リガンド
20 白色光源
30 分光器
40 光伝達部
41 第一の光ファイバ
42 第二の光ファイバ
50 制御装置
60 試料溶液
62 アナライト
100 分子間相互作用測定装置
200 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(a):SiN〔窒化ケイ素〕からなる表面を有する基板を準備する工程と、
工程(b):前記基板のSiNからなる表面に、エポキシ基,アジド基,イソシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つの修飾基を導入する工程と、を含むことを特徴とする、修飾基導入基板の製造方法。
【請求項2】
上記修飾基を有するシランカップリング剤を用いて上記工程(b)を実施する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記基板が、反射干渉分光法〔Reflectometric Interference Spectroscopy;RIfS〕用のセンサーチップである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(c):チオール基,アミノ基およびヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの反応基を有するリガンドを、該反応基と、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られた修飾基導入基板が有する修飾基との反応を介して、上記修飾基導入基板の表面に固定化する工程を含むことを特徴とする、リガンド固定化基板の製造方法。
【請求項5】
上記リガンドが、タンパク質,ポリペプチド,核酸および糖からなる群から選択される少なくとも1種である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする、修飾基導入基板。
【請求項7】
請求項4または5に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする、リガンド固定化基板。
【請求項8】
請求項7に記載のリガンド固定化基板のリガンドが固定化された表面に、アナライトを含む媒質を接触させ、前記アナライトを含む媒質が接触された前記基板の表面の物理的特性を測定して、分子間相互作用を検出することを特徴とする、分子間相互作用検出方法。

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−11465(P2013−11465A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143128(P2011−143128)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)