説明

偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム

【課題】一軸配向ポリエステルフィルムにおいて、従来はフィルムの配向方向が不均一になりやすくかったフィルム両端の部位についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を有し、液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる偏光子支持基材用一軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たす偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム。
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保した偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、直交配置した偏光板間の液晶分子の配向を制御して液晶層の位相差を変化させることで、入射光の偏光方向を変化させ、出射光量を調整するものである。そのため、良好な表示画像品位を得るためには、液晶層へ入射する光の偏光方向が安定していることが求められる。
【0003】
多くの液晶ディスプレイに用いられている偏光板は、吸収型のフィルムタイプのものであり、二色性分子をマトリックス中に一軸配向させた偏光子の両面を、透明支持基材ではさんだ構成からなる。多くの場合、二色性分子としてポリヨウ素イオンを用い、偏光子としてヨウ素を含浸させたポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸したものが用いられている。
【0004】
また、偏光子を保護する支持基材として、現在ほとんどの場合、セルロールトリアセテート(TAC)フィルムが用いられている。透明性に優れた素材であるTACフィルムは、光学等方性に優れ、面内にほとんど位相差を持たないため、入射直線偏光の振動方向を変化させることが極めて少なく、偏光子支持基材として適した素材であるが、反面、現在の技術では溶液キャスト法でしか製造できないため、コスト的には不利な素材である。また、使用される用途によってはTACフィルムでは耐湿、耐熱性が十分でないことがある。
【0005】
ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルフィルムは、透明性、耐熱性、機械強度に優れ、かつ、TACに比べて安価な素材であるため、過去にTACフィルムに代わる偏光子支持基材としてポリエチレンテレフタレートを適用する色々な試みがなされている。
偏光子の支持基材によって入射直線偏光の振動方向の変化が生じないよう、支持基材としてTACフィルムのような光学等方性に優れるフィルムが用いられていたのに対し、芳香族ポリエステルフィルムは、分子鎖中に分極率の大きい芳香族環を持つため固有複屈折が極めて大きく、優れた透明性、耐熱性、機械強度を付与させるための延伸処理による分子鎖の配向に伴ってフィルム複屈折が発現しやすく、輝度斑、色シフトが発生しやすい。そこでポリエステルフィルムを支持基材として用いるべく、以下のような検討がなされている。
【0006】
例えば特許文献1において、偏光子および偏光子に接する一軸延伸プラスチックフィルムからなる一対の基板を具備する表示パネルにおいて、一軸延伸プラスチックフィルムの光学的主軸方向と偏光子の偏光軸方向とのなす角度を略±3度以下にすることが開示されており、一軸延伸フィルムとして一軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが記載されている。特許文献1によれば、一軸延伸フィルムの光学的主軸方向と偏光子の偏光軸方向とのなす角度が適切でないと複屈折現象に伴う干渉色が発生し、コントラスト比が低下し、表示品質が低下することが開示されている。
【0007】
また、膜面に平行な一方向に特に強く延伸されたポリエステルフィルムにおいて、主延伸方向の屈折率とその垂直方向の屈折率との特定の関係式を満たすフィルムが偏光フィルムの少なくとも片面に接着剤の層を介して貼りあわされた偏光板が特許文献2に開示されており、かかるフィルムを用いれば色斑が生じないことが記載されている。
【0008】
また、例えば特許文献3には偏光フィルムの表面保護フィルムとして一軸延伸ポリエステルフィルムが開示されており、また車載用などの過酷な条件下での使用に特に有利なポリエステルフィルムとして、縦または横方向のみに少なくとも5%、実用的には50〜800%延伸して約100℃で60分間〜約280℃で5分間の範囲でヒートセットしてなるものが好ましいことが記載されている。
【0009】
特許文献4には、偏光子の透明支持基材として一軸延伸ポリエステルフィルムを用い、一軸延伸親水性高分子フィルムと一軸延伸ポリエステルフィルムとの延伸方向が平行関係または直交関係となるように貼着し、その際の角度のズレを小さくするほど光透過性などの点で好ましいことが開示されている。また該一軸延伸ポリエステルフィルムとしてリタデーション値が8000nmのものが開示されている。
【0010】
このように、一軸延伸ポリエステルフィルムを用い、その主軸方向と偏光子の偏光軸方向との差を小さくすることによる色斑などの解消が従来より検討されている。一方で、偏光子支持基板に求められる配向方向の均一性の精度は非常に高く、単に一軸方向に延伸するだけではフィルム周辺部においても実用に耐える光軸の安定性が得られにくいという課題があった。さらに液晶画面の大型化に伴い、支持基材に対しても大面積化が求められ、使用される面積において均一な性能が求められており、延伸による複屈折率の増大が大きいポリエステルフィルムに対して、フィルム両端部も含めて色シフト及び色斑の発生のないフィルムが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−143305号公報
【特許文献2】特開昭60−26304号公報
【特許文献3】特開昭61−241703号公報
【特許文献4】特開昭63−226603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、一軸配向ポリエステルフィルムにおいて、従来はフィルムの配向方向が不均一になりやすくかったフィルム両端の部位についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を有し、フィルム両端部まで支持基材として使用しても液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる偏光子支持基材用一軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の一軸延伸ポリエステルフィルムでは、フィルム製膜中に生じるボーイング現象のためにフィルム両端部位までフィルムの配向方向を均一に制御することが難しく、偏光子支持基材用途に提案されながら実用レベルでの使用が制限されていたところ、本願発明では延伸工程時に延伸速度および張力も含めて制御することにより、クリップ部分がスリットされる以外はフィルム両端部までフィルムの配向方向が均一に制御され光軸の安定したフィルムが得られ、偏光子支持基材用フィルムとして用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明の目的は、一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たす偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムによって達成される。
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
【0015】
また本発明の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、芳香族ポリエステルフィルムを構成する芳香族ポリエステルのモノマーユニットの75モル%以上がエチレンテレフタレートで構成されてなること、該ポリエステルフィルムの面内位相差が1000nm以上であり、かつそのばらつきが100nm以下であること、該ポリエステルフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズが下記式(3)を満足しており、かつフィルムのヘーズ値が7%以下であること、
3.0nm≦χc(100)≦4.5nm ・・・(3)
(式(3)中、χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わす)
120℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下であること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
本発明はまた、偏光子の支持基材として本発明の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムを用いた偏光板に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フィルム両端の部位についてもフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度およびそのばらつきが小さく、液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる高度な光軸の安定性を確保した偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムを提供することができ、得られたフィルムを用いた偏光板により、低コストながら色シフト及び色斑などの発生のない表示画像品位に優れた液晶ディスプレイ製品を提供でき、さらに大型化にも対応できることからその工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳しく説明する。
<芳香族ポリエステル>
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは芳香族ポリエステルで構成され、さらに熱可塑性の芳香族ポリエステルであることが好ましい。熱可塑性芳香族ポリエステルは、透明性、耐熱性、機械強度に特に優れ、かつ溶融押出製膜の容易なポリエチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステルであることが好ましい。詳しくは、熱可塑性芳香族ポリエステルのモノマーユニットの75モル%以上がエチレンテレフタレートで構成されてなることが好ましい。かかるポリエステルを用いることにより、一方向に主配向軸を有する配向結晶化によって主配向軸方向の配向度を高め、偏光子の支持基材として好適な屈折率特性のフィルムが得られるとともに、透明性、耐熱性、機械強度の高いフィルムを得ることができる。かかるモノマーユニット成分は、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが特に好ましい。
【0018】
芳香族ポリエステルは、従たる成分を含む場合、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分が例示される。
【0019】
<一軸配向芳香族ポリエステルフィルム>
本発明の芳香族ポリエステルフィルムは、一軸配向の芳香族ポリエステルフィルムである。ここで本発明における「一軸配向」の定義は、一方にのみ延伸した一軸配向フィルムのみならず、二方向に延伸したフィルムのうち主配向方向とその直交方向の配向度の差が大きいフィルムも包含され、後述のPET結晶(−105)面の配向度を満たす一軸配向性を有するフィルムであれば本定義に含まれる。
【0020】
(結晶配向度)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度が下記式(1)を満たすことが必要である。
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
【0021】
本発明のフィルムは一軸配向フィルムであり、延伸により得られる分子配向は、得られたフィルムの配向結晶化の挙動を広角X線回折測定で観察することで確認できる。
詳しくは、広角X線回折測定により、観察したい結晶面に対応するブラッグ角に固定したサンプルを全球にわたり回転させX線回折ポールフィギュアを測定し、得られた結晶配向方向の全球中の分布挙動から配向度を算出して求められる。
ここで結晶配向度fcは、−0.5〜1の値をとり、fcが1に近いほど測定結晶面の法線ベクトルと評価している方向が平行なものが多く分布し、fcが−0.5に近いほど法線ベクトルと評価方向が直交しているものが多く分布する。
PET結晶(−105)面の法線ベクトルは、ほぼ分子鎖に沿ったものであり、fcTD(−105)が式(1)の範囲を満たす範囲であれば、分子鎖がフィルム主延伸方向に多く配向しており、本発明においてはその方向がフィルムTD方向(以下、幅方向または横方向と称することがある)である。
【0022】
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムが、フィルムTD方向において、かかる配向度の範囲で配向結晶していることにより、TD方向に高度に配向した主配向軸を有し、本フィルムを偏光子支持基材として偏光子と積層させる際、本フィルムによる偏光光の偏光状態変化に伴う色シフト及び色斑の発生を抑制することができる。ここで、フィルムの主配向軸方向は、光の振動挙動の面からみると遅相軸に相当し、フィルム面内遅相軸と称することがある。
偏光子支持基材と偏光子とを積層させる方向性は、偏光子支持基材の主配向軸と偏光子の透過軸とが、直交方向または平行方向のいずれかであれば色シフト及び色斑を抑制できる。一方、フィルム両端部分についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を得るためには、フィルム製膜工程においてTD方向が主配向となるよう延伸する方法が必要であり、得られるフィルムの結晶配向度の主方向はTD方向となる。
【0023】
また、偏光子と偏光子支持基板とを連続して製造できる観点から、偏光子はフィルムMD方向(以下連続製膜方向、長手方向または縦方向と称することがある)と偏光子の光吸収軸とが平行になるように積層されることが好ましく、得られる直線偏光および偏光子透過軸はフィルムTD方向となることが好ましい。
fcTD(−105)で表わされる結晶配向度は、より好ましくは0.38以上であり、さらに好ましくは0.40以上である。
一方、フィルムのfcTD(−105)が下限値に満たない場合、偏光子透過軸とフィルム分子配向の角度の乖離が大きく、色シフト及び色斑が発生し、表示画像品位が低下する。
【0024】
かかる結晶配向度のフィルムを得るためには、フィルム製造方法において詳述するように、フィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比(RTD/RMD)が3.0を超え7.0以下となる範囲で延伸処理を行い、かかるフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)を0.7倍以上2.0倍以下の範囲で行うことにより一軸配向ポリエステルフィルムを得た後、該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行い、さらにTD方向の延伸速度を高め、延伸工程におけるMD方向の張力を適度に高くすることによって達成される。
【0025】
(遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβ)
また、本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度α(以下、遅相軸角度αと称することがある)およびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβ(以下、遅相軸角度のばらつきβと称することがある)の関係が下記式(2)を満たすことが必要である。
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
(α+β)で表わされる値がかかる範囲を超えるものは、フィルム両端部において色シフトが生じるのみならず色斑が生じる。
遅相軸角度α単独の値は15°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以下、さらに好ましくは8°以下、特に好ましくは5°以下、最も好ましくは3°以下である。また、遅相軸角度のばらつきβ単独の値は5°以下であることが好ましく、より好ましくは2°以下、さらに好ましくは1°以下、特に好ましくは0.5°以下、最も好ましくは0°である。式(2)で表わされる(α+β)の好ましい範囲は、α、βそれぞれの好ましい範囲内から導かれ、その中でも特に好ましくは5°以下であり、最も好ましくは3°以下である。
【0026】
本発明における遅相軸角度αは、フィルムの両端部(エッジ部と称することがある)における遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わしたものであり、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされる。また本発明における遅相軸角度のばらつきβは、フィルムの両端部におけるフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わしたものであり、αと同様、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる。
ここで、フィルムの両端部とは、フィルム製膜工程におけるテンタークリップ把持部にあたる部分をスリットした後のフィルム両端部を指し、具体的にはフィルム製膜工程におけるテンタークリップ把持部にあたる部分を除去するスリットが、スリット前のフィルムの両端から4%〜10%の範囲内で行われることにより得られたフィルムの両端部を指す。
【0027】
延伸製膜して得られたフィルムは、通常フィルムの両端になるほどボーイング現象により延伸方向と配向軸とのずれが大きくなり、遅相軸角度α及び遅相軸角度のばらつきβが大きくなる傾向にある。本発明においては、フィルムの製膜方法をコントロールすることにより、クリップ部分をスリットして得られたフィルム両端部についても遅相軸角度α及び遅相軸角度のばらつきβを小さくしたものであり、その結果、フィルム両端部まで使用しても液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保することができ、表示画像品位の画面内のばらつきの少ない、より高性能の表示画像品位が発現するものである。
【0028】
式2で表される(α+β)を得るためには、フィルム製造方法において詳述するように、フィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比(RTD/RMD)が3.0を超え7.0以下となる範囲で延伸処理を行い、かかるフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)を0.7倍以上2.0倍以下の範囲で行うことにより一軸配向ポリエステルフィルムを得た後、該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行い、さらにTD方向の延伸速度を高め、延伸工程におけるMD方向の張力を適度に高くすることによって達成される。
【0029】
(面内位相差)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、フィルムの面内位相差が1000nm以上であることが好ましい。また、かかる面内位相差は、より好ましくは3000nm以上、さらに好ましくは5000nm以上、特に好ましくは7000nm以上である。
【0030】
本発明のフィルムの用途である偏光子支持基材は、偏光子により得られる直線偏光をできる限り乱さないものであることが好ましい。そのため、TACフィルムなどにおいては、フィルムの位相差、すなわち複屈折をフィルム厚みで乗じたものが小さいほど偏光子支持基材に適していた。しかしながら芳香族ポリエステルを用いた場合、分子構造に起因する比較的大きな固有複屈折を持つため、分子鎖配向によるフィルム位相差が発現しやすく、これを小さな値に制御することが難しい。そこで一軸配向のフィルムにし、フィルムの面内位相差をかかる範囲にすることによってフィルムの位相差値を可視光線の波長を越える大きなものとし、入射する直線偏光への影響が小さくなる結果、表示画像品位に及ぼす影響が無視しうる程度に小さくなり、より優れた表示画像品位を得ることができる。
【0031】
かかる面内位相差は、得られたフィルムの両最端部、中央部、それらの中間位置、の幅方向5点、それら幅方向5箇所の位置について、フィルム製膜方向に100mmおきに5点ずつ、合計25枚のサンプルを切り出し、エリプソメーターを用いて測定を行い、サンプルごとに得られた最大位相差の平均値で表わされる。
【0032】
また、面内位相差のばらつきは100nm以下であることが好ましい。面内位相差のばらつきは表示画像品位の画面内のばらつきの直結するため、その値が小さいほど好ましく、より好ましくは50nm以下である。
これらの面内位相差は、同一厚みのフィルムにおいては、フィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比(RTD/RMD)が3.0を超え7.0以下となる範囲で延伸処理を行うことによって達成される。
【0033】
(結晶サイズ、透明性)
本発明のフィルムの用途である偏光子支持基材は、直線偏光の透過率を高めるために透明なものであることが好ましく、フィルム中の結晶化領域のサイズを特定の大きさにすることが好ましい。具体的には、該ポリエステルフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズが下記式(3)を満足していることが好ましい。
3.0nm≦χc(100)≦4.5nm ・・・(3)
(式(3)中、χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わす)
【0034】
χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わしている。広角X線回折測定を用いたχc(100)は、具体的にはサンプルを中心にX線入射角と計測器のフィルム面に対する角度が常に等しくなるようサンプルおよび計測器を回転させながらX線回折測定を行い(2θ−θスキャン)、モニターしたい結晶面に対応するブラッグ角におけるピーク半値幅から結晶サイズを算出した値で表わされる。
式(3)で表わされる結晶サイズの上限は4.0nmであることがさらに好ましい。
式(3)の値が上限を越えるものは、フィルム内の構造不均一性に基づく光散乱要因が多く、フィルムの透明性に劣り、ヘーズ値が高くなることがある。一方で式(3)の値が3.0nm未満のものは、透明ではあるものの、フィルム両端部の光軸安定性の低下につながることがある他、結晶化度が小さすぎ、その他の特性、特に後述する熱収縮率を好ましい値に制御しにくくなることがある。
【0035】
かかる結晶サイズは、フィルム延伸後の熱固定温度によって定まり、延伸後のフィルムに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましく、さらに180℃〜240℃の範囲であることが好ましい。
【0036】
フィルムの透明性に関する特性として、フィルムのヘーズ値が7%以下であることが好ましく、ヘーズ値は5%以下であるとなお好ましい。かかるヘーズ値を有する透明性の高いフィルムを達成する手段の一つとして、上述の結晶サイズを特定の大きさにすること、またフィルムが滑剤などの粒子を含有しないか、含有する場合はフィルム重量を基準として0.1重量%以下のごく少量の範囲で用いることが挙げられる。
【0037】
(熱収縮率)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、120℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0038】
偏光板の製造、あるいは得られた偏光板を液晶セルと複合化させる工程など、本発明のフィルムは多くの被熱工程を通るため、良好な寸法安定性が求められ、かかる範囲の熱収縮率を有することにより、該加工工程後に偏光子など貼り合せる部材との熱収縮率差が小さく、そりなどが発生しにくくなる。一方、熱収縮率の値が上限を超える場合、そりなどが発生することがある。
これらの熱収縮率特性を得るための手段として、延伸後のフィルムに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。また、ボーイング現象によりフィルム両端部の光軸安定性が損なわれない範囲内でトーインをつけてもよい。
【0039】
(フィルム厚み)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムのフィルム厚みは、10μm以上250μm以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。フィルム厚みが下限に満たない場合、偏光子支持基材として用いた場合に支持基材として十分な機能が発現しないことがある。また液晶ディスプレイのディスプレイ厚みを低減するため、使用される部材は機能を発現する範囲内でより薄さが求められており、フィルム厚みの上限値はかかる範囲であることが好ましい。
【0040】
<フィルムの製造方法>
(溶融押出キャスティング)
本発明の一軸配向フィルムは、芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸して得られる。
溶融押出には従来公知の手法を用いることができる。具体的には、乾燥した前述の芳香族ポリエステル樹脂組成物ペレットを押出機に供給し、Tダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法や、樹脂ペレットを供給した押出機にベント装置をセットし、溶融押出時に水分や発生する各種気体成分を排出しながら、同じくTダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法が挙げられる。
スリットダイより押出された溶融樹脂は、キャストされ冷却固化させる。冷却固化の方法は、従来公知のいずれの方法をとっても良いが、回転する冷却用ロール上に溶融樹脂をキャストし、シート化する方法が例示される。
【0041】
冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−100)℃〜(Tg+20)℃の範囲に設定するのが好ましい。また冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−70)℃〜(Tg−5)℃の範囲に設定するのがさらに好ましい。冷却ロールの表面温度が上限を超える場合、溶融樹脂が固化する前に該ロールに粘着することがある。また冷却ロールの表面温度が下限に満たない場合、固化が速すぎて該ロール表面を滑ってしまい、得られるシートの平面性が損なわれることがある。
冷却ロールへのキャスティングの際に、溶融樹脂が冷却ロール上へ着地する位置近傍に金属ワイヤーを張り、電流を流すことで静電場を発生させ樹脂を帯電させて、冷却ロールの金属表面上への密着性を高めることもフィルムの平面性を高める観点から有効である。その際、樹脂組成物中に、本発明の趣旨を超えない範囲で電解質性物質を添加してもよい。
【0042】
(延伸)
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも一方向に延伸することにより、フィルムの光学特性および機械特性を本発明の目的と合致させることができる。
かかる延伸の方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば縦方向に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
【0043】
ロールを用いる延伸方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、熱媒を通したロールで誘導加熱する方法、赤外加熱ヒーターなどで外部から加熱する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。またオーブン中で延伸する方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、フィルム両端をクリップなどにより把持するテンター式オーブンにてクリップ間隔を延伸倍率にしたがって広げる方法、オーブン中にロール系を設置しフィルムをパスさせて延伸する方法、オーブン内で幅方向をまったくフリーにして入側と出側の速度差のみで延伸する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。
【0044】
また、横方向に延伸する場合は、クリップなどにより端部を把持する方式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。さらに、縦、横の二方向に延伸する場合は、縦、横両方向を逐次に延伸する方法が好ましい。後述の延伸張力を満たす範囲であれば同時に縦、横方向に延伸する方法で延伸してもよい。
【0045】
(延伸温度)
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、Tg〜(Tg+40℃)の温度とするのが好ましい。フィルムの延伸温度がTg(ポリエスエルのガラス転移点温度)に満たない場合は、延伸自体が困難であり、一方延伸温度が(Tg+40℃)を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、分子鎖の配向が不足し、上述したような諸特性を確保できなくなってしまうことがある。延伸温度のより好ましい範囲は、Tg〜(Tg+20℃)である。
【0046】
(延伸倍率)
延伸を行うに際し、下記式(4)で表わされるフィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比は、3.0を超え7.0以下であることが必要である。
フィルム延伸倍率比=RTD/RMD ・・・(4)
かかる延伸倍率比は、好ましくは3.2以上5.5以下であり、さらに好ましくは3.2以上4.5以下である。
【0047】
TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを良好なものとするために、かかる範囲の延伸倍率比で延伸を行うことが必要である。延伸倍率比が下限に満たない場合は、これらの特性を十分なものとすることができない。一方、延伸倍率比が上限を超える場合は、縦方向(MD方向)の強度が低下して破断が生じる。
【0048】
延伸を行うに際し、かかる延伸倍率比の範囲で、かつフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)は、0.7倍以上2.0倍以下の範囲であることが必要である。
またフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)は、好ましくは0.95倍以上1.75倍以下の範囲であり、さらに好ましくは1.0倍以上1.5倍以下の範囲である。
【0049】
本発明の一軸配向フィルムを得るための製膜方法は、一軸延伸または二軸延伸によるものの他、縦方向を収縮させる製膜方法も包含しており、RMDが1未満の場合は縦方向を収縮させる製膜方法であることを意味する。
MDが下限値に満たない場合、すなわち極端な収縮は、フィルムの平面性や均一性を損なうばかりか、この場合も延伸倍率の低い方向に極端に脆くなる。またRMDが上限値を超える場合は、ボーイング現象が過大となり、TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを本発明に規定した範囲とすることができない。
フィルムTD方向の延伸倍率RTDは、上述の延伸倍率比とフィルムMD方向の延伸倍率との関係より導かれるが、3.0倍以上6.0倍以下であることが好ましい。
【0050】
(延伸速度)
MD方向の延伸速度は5〜500000%/分であることが好ましい。一方、本発明において、TD方向の延伸速度は、TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを本発明に規定した範囲とするために、従来よりも早い速度で行うことが必要であり、300%/分以上で行うことが好ましく、より好ましくは500%/分以上、さらに好ましくは700%/分以上、さらに好ましくは1200%/分以上で行われる。上限は装置の種類によるが高々500000%/分である。
【0051】
(延伸張力)
また、TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを本発明に規定した範囲とするために、延伸工程においてMD方向の張力を適度に高くすることが必要である。適度に高いMD方向の張力を得るためには、フィルム製造工程の上流のフィルム搬送速度より、下流のフィルム搬送速度を高くすることが有効である。具体的には、MD方向、TD方向の順に逐次二軸延伸を行う場合には、MD方向延伸工程の最下流の搬送速度(搬送ロール回転速度)を、TD方向延伸の搬送速度(フィルム把持クリップ移動速度)の0.995〜0.998とする。なお、TD方向に一軸延伸を行う場合は、TD方向の延伸を行う前の搬送速度をTD方向延伸の搬送速度(フィルム把持クリップ移動速度)の0.995〜0.998とする。
また、TD方向延伸終了後のフィルム引取の搬送速度(搬送ロール回転速度)を、TD方向延伸の搬送速度の1.003〜1.010とする。
【0052】
(熱固定温度)
かかる延伸方法によって得られたフィルムに、さらに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行う。また熱固定温度は、180℃以上240℃以下の範囲であることが好ましい。
かかる熱固定処理を行うことによって、本発明のTD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβ、結晶サイズおよび熱収縮率特性を得ることができる。
【0053】
(フィルムの後加工)
延伸したフィルムは、他部材との貼合時の接着性向上などの必要に応じて、表面活性化処理(コーティング、コロナ放電、プラズマ処理など)などの後加工を施しても良い。この後加工は、フィルム延伸工程中に行ってもよく、また別工程で行ってもよい。
【0054】
<偏光子支持基材>
本発明の一軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムTD方向に高い配向度を有し、かつフィルム両端部においても遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβが小さいため、偏光子支持基材として有用である。
【0055】
<偏光板>
本発明の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムを偏光子の支持基材として用い、偏光子と複合化させることで偏光板を製造することができる。本発明のフィルムを偏光子の支持基材として用いることにより、偏光子を十分に保護することができる。
【0056】
偏光子との複合化の方法については特に限定されるものでなく、二色性分子をマトリックス中に一軸配向させたフィルム状偏光子との貼合せが例示される。二色性分子は特に限定されないが、一般的にポリヨウ素イオンが用いられる。またフィルム状偏光子素材として、多くの場合はポリビニルアルコールフィルムが用いられる。
偏光子との複合化の方法について、偏光子フィルムと積層させる方法以外に塗布方法を用いてもよい。塗布タイプにおいては、液晶分子をコーティング剪断力により配向させたり、塗布した反応性液晶分子を偏光などの照射により配向固化させる方法などを例示することができる。
【0057】
かかる偏光板は、さらに具体的には、偏光子と本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムとが、偏光子の透過軸方向と本発明のフィルムのフィルムTD方向とが平行になるように複合化させることによって得ることができ、その場合に本フィルムによる直線偏光への影響、すなわち偏光状態の変化を小さくすることが可能となる。
また得られた偏光板は、液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保することができ、ディスプレイに組み込んだ場合に表示画像品位の画面内のばらつきが少ない、より高性能の表示画像品位が発現する。
【0058】
また偏光子との貼合せにおいて、偏光子の両側に貼り合せる支持基板のうち、一方のみに本発明のフィルムを用いてもよく、両方に用いてもよい。
偏光子と本発明とを貼合せる場合、接着剤を用いて貼合せる方法、フィルムに易接着性層を設けて貼合せる方法、フィルム表面にコロナ処理などを表面処理を行う方法、またはこれらの方法の組み合わせ、などの方法を用いて貼り合せることが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0060】
(1)結晶配向度
X線回折装置(理学電機製ROTAFLEX RINT2500HL)および極点試料台(理学電機製多目的試料台)を用いた広角X線回折極点測定により、フィルムの結晶面(−105)の法線ベクトルのTD方向における方向余弦の積分平均値、<cosΦTD,−105>、を求め、次式(5)より結晶配向度fcTD(−105)を求めた。
fcTD(−105)=2/3<cosΦTD,−105>−1/2 ・・・(5)
【0061】
(2)遅相軸角度α
得られたフィルムの最端部から、0.5°の精度でMDおよびTDに平行な、60mm四方の正方形のサンプルを切り出した。該サンプルを、エリプソメーター(日本分光製 装置名 M−220)の複屈折測定用サンプルステージに、0.5°の精度で取り付けた後、自動測定にて550nm入射光に対して最大の位相差を示すサンプルステージ回転移動角度を計測し、遅相軸角度(°)を求めた。TD方向を0°とし、反時計回りに正の値をとるようにした。
両端部にてフィルム製膜方向に100mmおきの5点、合計10点のサンプリングを行い、それらの測定値の絶対値の平均にて評価した。
【0062】
(3)遅相軸角度のばらつきβ
(2)の方法に従って得られた10点の測定結果の標準偏差を求め、この値を3倍してβとした。
【0063】
(4)面内位相差
得られたフィルムの両最端部、中央部、それらの中間位置、の幅方向5点、それら幅方向5箇所の位置について、フィルム製膜方向に100mmおきに5点ずつ、合計25枚のサンプルを切り出し、(2)と同様の測定方法で計測されたサンプルごとの最大位相差をもとに、全サンプルの平均値を求め、フィルムの面内位相差(nm)とした。
また、上記n=25測定におけるサンプルごとの最大位相差の最大値と最小値の差をもって、面内位相差のばらつきとした。
【0064】
(5)結晶サイズ
粉末X線回折装置(理学電機RINT2500HL)を用いて、以下の条件にて測定した。X線源としてCuK−αをもちいて、発散スリット1/2°、散乱スリット1/2°、受光スリット0.15mm、スキャンスピード1.000°/分の条件で2θ角度10°から80°まで測定し、Pseudo Voightピークモデルを用いた多重ピーク分離法により、結晶面由来の回折ピーク、アモルファス由来のハロー、バックグラウンドを分離する。結晶面由来の回折ピークの内、結晶(100)面に相当する回折ピークの半値幅から、下記Scherrerの式(6)を用いて、結晶サイズχc(100)(nm)を算出した。
χc(100)=(0.9λ)/(Hcosθ) ・・・(6)
ここで、λはX線の波長(nm)、Hは回折ピークの半値幅(°)、θはブラッグ角(°)である。
【0065】
(6)フィルムのヘーズ値
得られたフィルムを、ヘーズメーター(日本精密光学(株)製、POICヘーズメーター SEP−HS−D1)内にセットし、JISK7105に準拠してヘーズ値(%)を測定した。
【0066】
(7)フィルムの熱収縮率
温度120℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向および横方向がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを無荷重で入れ、30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式(7)からMD方向およびTD方向の熱収縮率(%)をそれぞれ求めた。
熱収縮率=(ΔL/L)×100 ・・・(7)
【0067】
(8)画像品位評価
(偏光板の作製)
実施例および比較例で得られたフィルム(A)、ポリビニルアルコール偏光膜および市販のTACフィルム(富士写真フィルム製、フジタック、厚み80μm)(R)をこの順で貼合せて偏光板を作製し、その耐久性を評価した。
ポリビニルアルコール偏光膜は、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1部、ヨウ化カリウム2部、ホウ酸4部を含む水溶液に浸漬し、50℃で4倍に延伸することにより得た。
また、この偏光膜に上述の2種のフィルムを貼合せて偏光板を得る手順は、下記のとおりである。
(i)40cm×30cmの長方形の形状に切り取った、上述のフィルム(A)およびフィルム(R)のそれぞれの片側の表面に、コロナ放電処理(処理電力=800W(200V、4A)、電極〜フィルム間距離=1mm、処理速度=12m/分)を施す。ここで、フィルム(A)はフィルム両端部のうちの少なくとも一方の端部を含むよう切り出した。
(ii)フィルム(A)およびフィルム(R)と同じサイズに調整した偏光膜(偏光子)を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬する。
(iii)偏光膜(偏光子)に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、偏光子を、フィルム(A)およびフィルム(R)が挟みこむ状態となるよう、フィルム(A)のコロナ処理面上にのせ、更にフィルム(R)のコロナ処理面と接着剤とが接する様に積層し配置する。その際、フィルム(A)のMD方向と偏光子の延伸方向が直交するよう、すなわちフィルム(A)のTD方向と偏光子の延伸方向が平行になるように配置する。
(iv)ハンドローラで、フィルム(A)、偏光膜、およびフィルム(R)からなる積層体の端部から過剰の接着剤および気泡を取り除き貼合せる。ハンドローラは、20〜30N/cmの圧力をかけて、ローラスピードは約2m/分とした。
(v)80℃の乾燥器中に得られた試料を2分間放置し、偏光板(PF)を作製した。
【0068】
次いで、偏光板(PF)を液晶セルの片面に、液晶セルの近接する基板面のラビング軸方向と偏光板透過軸が直交し、偏光板のフィルム(PF)と液晶セルとが接するように貼合し、液晶セルの反対側の面には、市販の偏光板をその吸収軸が偏光板(PF)の吸収軸と直交するように貼合し、液晶表示装置を作製した。液晶セルは、市販のLCDモニターのものを、バックライト側に貼合されていた偏光板を剥がして使用した。
得られた液晶表示装置と、バックライト側の偏光板を交換していない同機種のLCDモニターに、同時にR,G,Bの3原色と白色(W)をそれぞれモニター全面に表示したものを、目視観察、および、ELDIM社製EZ−contrastにより計測し得られた色差ΔEから、下記の基準にて評価した。
○: 比較モニター対比、R,G,B,WのいずれにおいてもΔE<0.5、かつ色斑がほとんど確認できない
×: 比較モニター対比、R,G,B,Wのいずれかにおいて0.5≦ΔE≦1.0、または、わずかな色斑が観察される
××: 比較モニター対比、R,G,B,Wのいずれかにおいて0.5≦ΔE≦1.0、および/または、顕著な色斑が観察される
【0069】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)99.93重量%に平均粒径0.15μmのシリカ粒子 0.07重量%を混合したもののペレット(帝人ファイバー(株)製、固有粘度(o−クロロフェノール、25℃)=0.6dl/g)を170℃で3時間乾燥後、一軸混練押出機に供給し、溶融温度285℃で溶融後、フィルターで濾過し、ダイから押出した。
この溶融物を、表面温度25℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み320μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、テンター直前の搬送ロールの回転速度がテンターのフィルム把持クリップ移動速度の0.996となるようにテンターに供給し、85℃にて横方向に750%/分の延伸速度で4.0倍に延伸し、引き続きテンター内で定幅を保ったまま、200℃にて1分間の熱処理を施した。テンターから出てきたフィルムを、フィルム把持クリップ移動速度の1.008倍の速度の搬送ロールにて引き取り、さらにフィルムの両端から5%の位置でスリットしてテンタークリップ把持部を取り除き、一定幅の80μm厚みの延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0070】
[実施例2〜5、比較例1〜3]
表1に示した製造条件以外は、実施例1と同様の条件で、それぞれ延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、フィルム両端の部位についてもフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度およびそのばらつきが小さく、液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる高度な光軸の安定性を確保した偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムを提供することができ、得られたフィルムを用いた偏光板により、低コストながら色シフト及び色斑などの発生のない表示画像品位に優れた液晶ディスプレイ製品を提供でき、さらに大型化にも対応できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たすことを特徴とする偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム。
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
【請求項2】
芳香族ポリエステルフィルムを構成する芳香族ポリエステルのモノマーユニットの75モル%以上がエチレンテレフタレートで構成されてなる請求項1に記載の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム。
【請求項3】
該ポリエステルフィルムの面内位相差が1000nm以上であり、かつそのばらつきが100nm以下である請求項1または2に記載の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム。
【請求項4】
該ポリエステルフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズが下記式(3)を満足しており、
3.0nm≦χc(100)≦4.5nm ・・・(3)
(式(3)中、χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わす)
かつフィルムのヘーズ値が7%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム。
【請求項5】
120℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム。
【請求項6】
偏光子の支持基材として請求項1〜5に記載の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムを用いた偏光板。