説明

偏平帯状構造体、およびその製造方法

【課題】非金属製であっても、柔軟性および可とう性に優れる偏平帯状構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の偏平帯状構造体は、同一のピッチを有する時計回りに旋回するスパイラル線状体および反時計回りに旋回するスパイラル線状体が各々のループ状部分において交互に組み合わされて一条化され、その一条化物が偏平帯状化されてなる偏平帯状構造体であって、これらのスパイラル線状体はそれぞれ低融点重合体からなる熱融着成分と、高融点重合体からなる複数の繊維形成成分とによって構成され、これらのスパイラル線状体において熱融着成分の溶融により複数の繊維形成成分が固着一体化されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏平帯状構造体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
帯形状を有する板バネやコイルボーンなどは、その弾性を活かして、衣料品の保形用部材や整形用部材、あるいは構造物の防振部材などに用いられている。なかでも、コイルボーンは、幅方向および厚み方向に弾性的に湾曲でき、長さ方向に若干の伸縮性を有するため、コルセットやブラジャーなどの補正用下着の補強用部材、あるいは免荷用具の骨材などの用途などに用いられている。
【0003】
このような構造体として、例えば、特許文献1には、形状記憶合金が用いられた衣料品用コイルボーンが開示されている。また、特許文献2には、樹脂製のコイルボーンに形状記憶合金製の芯材が挿入されたファンデーション用芯材が提案されている。また、特許文献3には、ニッケルおよびチタンからなる合金製の弾性体に、合成樹脂を含む被覆が設けられた被服用芯材が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されたコイルボーンや芯材は、いずれも金属素材を含むため、皮膚に接触した場合に金属アレルギーの問題が発現したり、装着感に劣ったり、金属疲労により破損してしまったりするという問題があった。さらに、密度が増加してしまうため、軽量性が求められる用途においては、その使用が制限されてしまう場合があった。
【0005】
このような問題を解決するため、非金属製の帯状構造体が要望されている。例えば、特許文献4では、2本の弾性線状体を偏平なコイル状とし、交互に差し込んで組み合わせることにより弾性部材を得ている。この弾性線状の素材としては、金属線のほか、合成樹脂が例示されている。また、特許文献5には、ナイロン樹脂からなる偏平形状体に、スチレン−ブタジエン系樹脂が被覆されてなる形状保持用棒状体が開示されている。また、特許文献6には、合成樹脂製のモノフィラメントを編んでなる帯状体が開示されている。さらにまた、特許文献7には、高分子重合体製のマルチフィラメントを製紐して得られた紐体を成形してなる補強用芯材が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献4〜7に開示された構造体は、可とう性に劣るという問題がある。そのため、大きな荷重が加わった場合は折れ易くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2604515号公報
【特許文献2】実公平7−14326号公報
【特許文献3】実公平4−31204号公報
【特許文献4】特開昭59−130303号公報
【特許文献5】特許第2774460号公報
【特許文献6】特許第4471570号公報
【特許文献7】特開2005−281927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、上記のような問題点を解決し、非金属製であっても、可とう性に優れる偏平帯状構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下の内容を要旨とするものである。
(1)同一のピッチを有する時計回りに旋回するスパイラル線状体および反時計回りに旋回するスパイラル線状体が各々のループ状部分において交互に組み合わされて一条化され、その一条化物が偏平帯状化されてなる偏平帯状構造体であって、これらのスパイラル線状体はそれぞれ低融点重合体からなる熱融着成分と、高融点重合体からなる複数の繊維形成成分とによって構成され、これらのスパイラル線状体において熱融着成分の溶融により複数の繊維形成成分が固着一体化されていることを特徴とする偏平帯状構造体。
(2) スパイラル線状体の横断面が2重構造を有し、かつ低融点重合体を含有しない中心部の外周に低融点重合体を含有する外周部が配された構造であることを特徴とする(1)の偏平帯状構造体。
(3)(1)または(2)の偏平帯状構造体を製造する方法であって、低融点重合体と高融点重合体によって構成される繊維集合体を時計回りにスパイラル形状に旋回させた第1の仮成形体と、低融点重合体と高融点重合体によって構成される繊維集合体をスパイラル形状に反時計回りに旋回させた第2の仮成形体とを準備し、これらの仮成形体の繊維集合体にそれぞれ熱処理をほどこして低融点重合体を溶融させ、高融点重合体は溶融させずに繊維形態を維持させ、低融点重合体からなる熱融着成分により高融点重合体からなる複数の繊維形成成分を固着一体化させて2本のスパイラル線状体を得た後、この2本のスパイラル線状体のループ部分を相互に組み合わせた後、押し潰して偏平帯状にした状態で熱処理をほどこすことを特徴とする偏平帯状構造体の製造方法。
(4)低融点重合体からなる熱融着繊維と高融点重合体からなる繊維を含む繊維集合体を用いることを特徴とする(3)の偏平帯状構造体の製造方法。
(5)熱融着成分である低融点重合体と繊維形成成分である高融点重合体とを複合してなる複合繊維を含む繊維集合体を用いることを特徴とする(3)または(4)の偏平帯状構造体の製造方法。
(6)繊維の少なくとも一部が連続繊維であることを特徴とする(3)〜(5)のいずれかに記載の偏平帯状構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱融着成分により固着一体化された複数の繊維形成成分により構成されたスパイラル線状体からなるため、非金属製であっても、可とう性に優れる偏平帯状構造体を得ることができる。このような偏平帯状構造体は、幅方向および厚み方向に弾性的に湾曲でき、大きな荷重が加わっても折れにくいという顕著な効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の偏平帯状構造体の正面図である。
【図2】本発明の偏平帯状構造体の側面図である。
【図3】本発明の偏平帯状構造体を構成する、時計回りに旋回するスパイラル線状体の斜視図である。
【図4】本発明の偏平帯状構造体を構成する、反時計回りに旋回するスパイラル線状体の斜視図である。
【図5】芯材が用いられた本発明の偏平帯状構造体の正面図である。
【図6】芯材が用いられた本発明の偏平帯状構造体の側面図である。
【図7】本発明の幅方向への湾曲性評価において、湾曲変形させた試料の概略図のうちの一つである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の偏平帯状構造体1は、図1に示すように、同一のピッチを有する時計回りに旋回するスパイラル線状体2と反時計回りに旋回するスパイラル線状体3が、各々のループ状部分において交互に組み合わされて一条化されてなるものである。そして、図2に示すように、その一条化物が偏平帯状化されてなるものである。
【0013】
これらのスパイラル線状体2および3は、それぞれ、低融点重合体からなる熱融着成分と高融点重合体からなる複数の繊維形成成分とによって構成される。そして、熱融着成分の溶融により、複数の繊維形成成分が固着一体化されてなることを特徴とする。スパイラル線状体の具体的な構造としては、溶融によりスパイラル状の形態に固定された低融点重合体を主成分とし、この主成分中に高融点重合体からなる繊維形成成分が存在してもよいし、スパイラル線状体の表面の一部に高融点重合体からなる繊維形成成分が露出していてもよい。
【0014】
スパイラル線状体を得るために、複数本の繊維が集束した繊維集合体を用いることが好ましい。このような繊維集合体は、高融点成分および低融点成分により構成される。本発明において、スパイラル線状体を得るために繊維集合体を用いる理由は以下の通りである。
【0015】
つまり、複数の繊維を単に集束させただけの繊維集合体は、融通性があり非常に柔軟である。そのため、多様な巻き径や巻きピッチを有するスパイラル形状とすることができる。そして、このような繊維集合体をスパイラル状にした後、熱処理に付することで低融点重合体のみを溶融させて、高融点重合体は繊維形態を維持し、低融点重合体からなる熱融着成分の溶融により、高融点重合体からなる繊維形成成分が相互に固着一体化されることで、スパイラル状の形態を保持することが可能となる。
【0016】
したがって、偏平帯状構造体を構成するスパイラル線状体の強度を向上させるために、繊維集合体自体を太くした場合であっても、スパイラル状に巻く際に必要とされる柔軟性が損なわれない。そのため、様々なサイズやピッチのスパイラル線状体を簡易な工程で容易に得ることができ、さらには、このスパイラル線状体を2本交互に組み合わせて一条化することにより、偏平帯状構造体を簡易な工程で容易に得ることができる。さらに、金属を主成分とするものではないため、軽量で、耐候性に優れ、かつ、皮膚に接触してもアレルギー反応が発現しない偏平帯状構造体を得ることができる。
【0017】
本発明において、熱融着成分とは、熱処理に付されて溶融固化する成分であり、低い融点を有する重合体(低融点重合体)である。一方、繊維形成成分とは、繊維形態を維持する成分であり、前記低融点重合体より高い融点を有する重合体(高融点重合体)である。
【0018】
本発明においては、繊維集合体が、低融点重合体のみからなる繊維と、高融点重合体のみからなる繊維を集束させてなるものであってもよい。または、繊維集合体が、熱融着成分である低融点重合体と、高融点重合体とを複合してなる複合繊維を集束させてなるものであってもよい。または、繊維集合体が、熱融着成分である低融点重合体と高融点重合体とを複合してなる複合繊維と、高融点重合体のみからなる繊維とを集束させてなるものであってもよい。または、繊維集合体が、低融点重合体のみからなる繊維と、高融点重合体のみからなる繊維を集束させてなるものに、さらに熱融着成分である低融点重合体と、高融点重合体とを複合してなる複合繊維を集束させたものであってもよい。
【0019】
あるいは、繊維集合体は、その横断面が、低融点重合体を含有する領域と、低融点重合体を含有しない領域とを2重構造となるように配置されたものであってもよい。このとき、繊維集合体としては、(1)低融点重合体を含有しない領域が繊維集合体の表面側に配置された繊維集合体、あるいは、(2)低融点重合体を含有しない領域が繊維集合体の中心部に配置された繊維集合体が挙げられる。
【0020】
上記の(1)の態様では、その横断面が2重構造である繊維集合体において、低融点重合体が露出していない。つまり、鞘側(表面側)の層においては、熱処理による熱の影響を受けない高融点重合体のみが存在し、低融点重合体が含有されていない。これにより、低融点重合体が熱処理により溶融露出することはないため、スパイラル形状とするための金属軸等の成型の型に低融点重合体が付着することなく、熱処理および冷却後に、容易に脱型することができる。また、例えば、ピッチが小さいスパイラル形状とされる場合などにおいて、隣合うピッチ間におけるループ部分同士が、熱処理時に溶融接着することを防止することができる。また、熱処理により得られたスパイラル線状体の表面においては、熱処理による影響を受けずに繊維の風合いを保持しているため、柔らかな風合いを有する。
【0021】
一方、上記の(2)の態様では、繊維集合体の表面に低融点重合体が露出している。そして、熱処理により得られたスパイラル線状体の表面部分は、低融点重合体によって構成されるので、表面の剛性が高いものとなる。
【0022】
このような2重構造の繊維集合体として、具体的には、エア加工糸、混紡糸、カバリング撚糸などが挙げられる。
【0023】
繊維集合体が、低融点重合体からなる繊維と、高融点重合体からなる繊維を集束させて得られた構成を有するものである場合、繊維集合体が後に熱処理に付されることにより、低融点重合体からなる繊維が溶融した後に冷却により固化され、高融点重合体からなる繊維を相互に固着一体化させることができる。そして、高融点重合体からなる繊維は溶融固化した低融点重合体中に存在したり、その一部がスパイラル線状体の表面に存在したりして、繊維形態を維持した繊維形成成分として偏平帯状構造体のスパイラル線状体の強度、特に曲げ強度を向上させることができる。
【0024】
繊維集合体が、低融点重合体および高融点重合体が複合された複合繊維を集束させてなるものである場合、複合繊維としては、鞘部に低融点重合体が配され、芯部に高融点重合体が配された芯鞘型複合繊維や、低融点重合体と高融点重合体とが半々に配されたサイドバイサイド型複合繊維などが挙げられる。
【0025】
上記の複合繊維における低融点重合体は、繊維集合体が後に熱処理に付されることにより溶融した後に、冷却により固化されて、高融点重合体からなる繊維形成成分を相互に固着一体化させる役割を担うものである。一方、高融点重合体は、熱処理に付されても溶融されることなく繊維形態を維持し、溶融固化した低融点重合体中に存在したり、その一部がスパイラル線状体の表面に存在したりして、偏平帯状構造体のスパイラル線状体の強度、特に曲げ強度を向上させることができる。
【0026】
繊維集合体が、低融点重合体のみから構成されるものであると、熱処理の際に、低融点重合体が溶融流動してしまい、スパイラル形態を維持することができない。また、繊維集合体が、繊維形成成分である高融点重合体のみから構成されたものであると、該繊維形成成分が固着一体化されず、スパイラル形態を維持することができない。繊維集合体における、低融点重合体と高融点重合体との混合比率は、質量比で、(低融点重合体)/(高融点重合体)=10/90〜70/30であることが好ましい。
【0027】
低融点重合体としては、溶融紡糸による製糸性を有するものであればよく、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリブチラール系重合体、ポリアクリル系重合体、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン重合体が挙げられる。
【0028】
低融点重合体の融点は、高融点重合体の融点より、20℃以上低いことが好ましい。このような温度とすることにより、熱処理に付されても高融点重合体の物性は影響を受けず、スパイラル形態を良好に保持させることができるという利点がある。なお、低融点重合体の融点は、加工性や各種物性等を考慮すると、80〜160℃の範囲内であることが好ましい。なお、低融点重合体が明確な融点を有さないときは、該低融点重合体の軟化点を融点とみなす。
【0029】
高融点重合体としては、繊度や力学特性を調整しやすい観点から、熱可塑性重合体を主成分とするものであればよく、用途や目的に応じて、2種以上の熱可塑性重合体を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
このような熱可塑性重合体としては、ポリアミド系重合体、芳香族ポリエステル系重合体、脂肪族ポリエステル系重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリウレタン系重合体などが挙げられる。なかでも、耐磨耗性の観点からは、ポリアミド系重合体が好ましい。また、寸法安定性の観点からは、ポリエステル系重合体が好ましい。また、得られる連結固定用部材を、使用後に自然界で分解させることを要求される用途に用いる場合には、生分解性を有する脂肪族ポリエステル系重合体が好ましい。また、密度が低く軽量である観点からは、ポリオレフィン系重合体が好ましい。
【0031】
低融点重合体と高融点重合体の好ましい組み合わせは、両者の相容性や熱接着性を考慮すると、低融点ポリエステルと高融点ポリエステル、低融点ポリプロピレンと高融点ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレン、低融点ナイロンと高融点ナイロンなどが挙げられる。
【0032】
なお、上記の複合繊維としては、具体的には、融点が240℃以上の高融点ポリエステルが芯部に配され、融点が110〜200℃の低融点の共重合ポリエステルが鞘部に配された芯鞘型複合繊維や、融点180℃以上の高融点ポリアミドが芯部に配され、融点80〜150℃の低融点ポリアミドが鞘部に配された芯鞘型複合繊維が好適に用いられる。
【0033】
つまり、スパイラル線状体を構成する低融点重合体(熱融着成分)と高融点重合体(繊維形成成分)とは、同系の重合体であることが好ましい。その理由は、低融点重合体と高融点重合体とにおける熱接着性が良好であるため、繊維形成成分同士がより強固に固着一体化されることができ、より剛直なスパイラル線状体を得ることが可能となるからである。したがって、繊維集合体においては、繊維形成成分として、熱融着成分と熱接着性に優れる成分を選択することが肝要である。加えて、両者が同系の重合体であると、リサイクルの観点においても好ましいという利点がある。
【0034】
繊維集合体には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記の低融点重合体からなる繊維、高融点重合体からなる繊維、または低融点重合体と高融点重合体とからなる複合繊維以外の繊維(例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、金属繊維、ガラス繊維など)が含有されていてもよい。
【0035】
繊維集合体は、繊維が集束してなるものである。その形態は、特に限定されないが、例えば、複数本の繊維を引き揃えた糸、複数本の繊維を撚り合わせた撚糸、紡績糸、引き揃えた糸や撚糸等を合わせた合撚糸、また、これらの糸を用いて製紐した組紐、または、合撚により得られたロープなどが挙げられる。
【0036】
繊維集合体を構成する単繊維の繊度は、繊維集合体がスパイラル状に形成される際に必要とされる柔軟性の観点から、例えば、3〜20デシテックス程度がよい。また、繊維集合体の総繊度は、繊維集合体がコイル状に形成される際に必要とされる柔軟性の観点から、例えば、500〜500万デシテックス程度であればよい。
【0037】
繊維集合体のフィラメント数は、特に限定されないが、通常、25〜数百万フィラメントであればよい。
【0038】
繊維集合体を構成する繊維の形態は、短繊維であっても、連続繊維であってもよいが、連続繊維であることが好ましい。連続繊維は毛羽がないため、得られる偏平帯状構造体の表面に毛羽が立たないという利点がある。また、得られる偏平帯状構造体の曲げ強度が向上する。
【0039】
繊維集合体を構成する繊維の断面形状は、丸断面、異形断面、中空断面等のいずれであってもよい。また、繊維集合体に含有される繊維には、仮撚加工やタスラン加工などの加工が施されていてもよい。
【0040】
繊維集合体の断面形状は、特に限定されず、丸断面、異形断面、中空断面等のいずれであってもよい。
【0041】
繊維集合体を構成する繊維には、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、難燃剤、着色剤、顔料、滑剤、耐候剤、酸化防止剤、耐熱剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0042】
本発明の偏平帯状構造体の製造方法は、以下のようなものである。
低融点重合体と高融点重合体によって構成される繊維集合体を時計回りにスパイラル形状に旋回させた第1の仮成形体と、低融点重合体と高融点重合体によって構成される繊維集合体をスパイラル形状に反時計回りに旋回させた第2の仮成形体とを準備し、これらの仮成形体の繊維集合体にそれぞれ熱処理をほどこす。そして、低融点重合体を溶融させ、高融点重合体は溶融させずに繊維形態を維持させ、低融点重合体からなる熱融着成分により高融点重合体からなる複数の繊維形成成分を固着一体化させて2本のスパイラル線状体を得た後、この2本のスパイラル線状体のループ部分を相互に組み合わせた後、偏平帯状に押し潰しながら熱処理をほどこすものである。
【0043】
つまり、上述のような繊維集合体を、所定のスパイラル形状となるように、時計回りおよび反時計回りにスパイラル状に巻いて、第1の仮成形体および第2の仮成形体とする。そしてこれらの仮成形体の繊維集合体に対して、低融点重合体が溶融し、かつ高融点重合体が溶融しない温度で熱処理をほどこし、次いで、冷却させて固化する。それにより、繊維集合体中の複数の繊維形成成分(高融点成分)が、冷却固化した熱融着成分(低融点重合体)により固着一体化されてスパイラル線状体となる。
【0044】
そして、図3および図4に示すような、同一のピッチを有する時計回りに旋回するスパイラル線状体2と、反時計回りに旋回するスパイラル線状体3の、2種類の線状体を製造する。これらを各々のループ状部分において交互に組み合わせて一条化させ、この一条化物を押し潰して偏平帯状にした状態で熱処理をほどこすことで、図1および図2に示すような本発明の偏平帯状構造体を得ることができる。
【0045】
繊維集合体をスパイラル形状に巻いて仮成形体を得るにあたっては、所定の賦形軸を用いればよい。本発明においては、繊維集合体を用いているため、該繊維集合体を構成する繊維間に融通性がある。そのため、該繊維集合体は、柔軟性に優れるものとなり、どのような形状にも対応が可能となる。よって、用途に応じた所望の偏平帯状構造体を得るために、賦形軸の直径、スパイラル形状のピッチ、賦形軸の断面形状などを適宜調整することが可能であり、様々なサイズの偏平帯状構造体を得ることができる。その結果、所望の強度を良好に発現させ、用途に応じたサイズやピッチを有する偏平帯状構造体を、容易に得ることができる。
【0046】
スパイラル形状に巻かれた仮成形体の繊維集合体に熱処理をほどこすための加熱の方法は、特に限定されないが、アイロン、熱風溶接機、熱風乾燥機、テンターマシーンなど周知の手段を用いることができる。なお、熱処理温度については、熱処理時間などに応じて適宜設定すればよく、低融点重合体の融点以上の温度であって、高融点重合体の融点を超えない温度に設定する。
【0047】
次いで、熱処理後に冷却することにより、溶融した低融点重合体が固化して一体化し、繊維集合体は剛直なスパイラル線状体となる。この熱処理により、スパイラル線状体が得られる。なお、冷却の手段としては、空冷、水冷などの周知の手段を用いることができる。
【0048】
また、所望のピッチを有するスパイラル線状体を得る方法として、賦形軸に所望のピッチで巻いて成形してもよいし、所望のピッチよりも短いピッチで巻いて成形し、これに適宜の荷重をかけた状態で熱処理をほどこすことでピッチを伸長させ、所望のピッチを有するスパイラル線状体を得てもよい。この際、荷重は、熱処理温度での繊維集合体の収縮応力以上、破断応力以下であることが好ましい。
【0049】
そして、スパイラル線状体2および3を、各々のループ状部分において交互に組み合わせて一条化し、その一条化物に荷重をかけた状態で熱処理をほどこして偏平化することで、本発明の偏平帯状構造体を得ることができる。または、スパイラル線状体2および3を組み合わせることなく、荷重をかけた状態で熱処理をほどこし偏平化させた後に、これらを組み合わせることで、本発明の偏平帯状構造体を得ることができる。荷重をかけた状態での熱処理方法としては、前記したスパイラル線状体を得るための熱処理手段として挙げたアイロン、熱風溶接機、熱風乾燥機、テンターマシンなどの周知の手段を用いればよい。また、高周波ウェルダー加工機、熱プレス機、熱ロールプレス機等の熱処理手段によれば、加熱手段と加圧手段の両者を備えているので好ましく用いることができる。
【0050】
偏平化させる際の熱処理温度は、熱処理時間とのバランスにより適宜設定できるが、通常は、高融点重合体の融点を超えない程度に設定する。また、偏平化させる際の荷重は、スパイラル線状体のサイズや熱処理条件などにより適宜設定することができるが、通常は、スパイラル線状体の破断応力以下の範囲で設定することが好ましい。
【0051】
偏平化させる際の熱処理温度を、低融点重合体の融点以上とする場合、スパイラル線状体同士の接着に起因する幅方向および厚さ方向の柔軟性を良好にする観点から、繊維重合体表面の少なくとも一部に、熱処理によって溶融されずに繊維形態を維持しうる繊維(高融点重合体)を配することが好ましい。
【0052】
さらに、柔軟性や強度を向上させる目的で、図5および6に示すように、直線状体からなる芯材4が、本発明の偏平帯状構造体の長さ方向に挿入されていてもよい。芯材を構成する直線状体の素材は、特に限定されず、合成樹脂からなる棒状体、モノフィラメント、金属線などが挙げられる。また、本発明における繊維集合体に対して直線状のまま熱処理をほどこすことにより低融点重合体を溶融させて得られる直線状体を、芯材として用いてもよい。なお、芯材のサイズや本数、断面形状についても、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0053】
芯材が用いられる場合には、偏平化される前の一条化物に対して芯材を挿し通し、該一条化物と芯材とを一体化させた状態で偏平化させてもよいし、一条化物を偏平化して得られた偏平帯状構造体の中に芯材を挿し通してもよい。
【0054】
さらに、本発明の偏平帯状構造体は、補強などを目的として、各種の樹脂や筒状体で被覆されていてもよい。このような樹脂は、特に限定されないが、偏平帯状構造体との接着性やリサイクル性の観点から、繊維集合体を構成する繊維と同系の樹脂が好ましい。また、筒状体は、特に限定されないが、繊維からなる筒編地や、丸打ち紐、あるいは筒状とされた織物などが挙げられる。偏平帯状構造体の外側に、接着させてもよい。
【0055】
また、本発明の偏平帯状構造体を構成するスパイラル線状体の先端部には、角が存在する場合があるが、安全性の向上や補強などを目的として、この角にカバーが取り付けられていてもよい。カバーの素材や形状は特に限定されないが、身体に触れる用途に用いられる場合には、柔らかい材質で、角を有しない形状であれば、安全に使用することができる。
【0056】
上記のようなカバーが用いられない場合は、偏平帯状構造体の先端部分の角を適宜な手段で押し潰し、角を無くすことで、安全に使用されることができる。
【0057】
本発明の偏平帯状構造体は、肌に直接触れる部分に金属が用いられていないため、軽量で、金属アレルギーの発現が防止され、さらに柔軟性に優れたものとなる。そのため、補正用下着、義手や義足の間接部分などにおいて好適に用いられる。
【実施例】
【0058】
次に、実施例および比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
なお、実施例および比較例における評価方法は、以下の通りである。
(1)非金属性
実施例および比較例で得られた試料を、以下の基準により評価した。
○:試料が金属材料を含まない。
×:試料が金属材料を含む。
【0060】
(2)幅方向への湾曲性
実施例および比較例で得られた試料5を平面上に載置し、図7のa〜cに示されるように、試料5の両端を、基準線6から幅方向(試料の長手方向と直交する方向)に湾曲させた。そして、湾曲させた試料5において、試料の面が同一平面状態を維持できずにねじれや反りが発生する時点での、試料の端部の外接線7と基準線6とで形成される角度8を測定した。以下の基準で評価した。
○:試料5においてねじれや反りが発生した時点における角度8の大きさが90度を超える。
△:試料5においてねじれや反りが発生した時点における角度8の大きさが、45度以上90度以下である。
×:試料5においてねじれや反りが発生した時点における角度8の大きさが、45度未満である。
なお、図7の(a)は角度8が90度未満である場合の試料を示し、図7の(b)は角度8が90度である場合の試料を示し、図7の(c)は角度8が90度未満である場合の試料を示す。
【0061】
(3)厚さ方向への湾曲
実施例および比較例で得られた試料の両端を両手でつかみ、厚さ方向に90度湾曲させ、以下の基準で評価した。
○:試料が破断しなかった。
×:試料が破断した。
【0062】
(実施例1)
まず、繊維集合体を作製した。
芯部にポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)が配され、鞘部にエチレンテレフタレートとブチレンテレフタレートから、そのモル比が1:1となるように構成されたアルキレンテレフタレートに、ε−カプロラクトンをモノマー全体に対して12モル%共重合した共重合ポリエステル(融点:161℃)が配され、かつ芯部と鞘部の質量比が、(芯部)/(鞘部)=2.7/1である複合繊維を得た。そして、この複合繊維からなるマルチフィラメントa(560dtex/48f)を得た。このマルチフィラメントaを用いて角8本打ちとして製紐を行い、直径(0.6)mmの組紐Aを得、これを繊維集合体の中心部分とした。次いで、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントb(560dtex/96f)を8本組にして組紐Aの外周に配して、2重構造の組紐からなる繊維集合体(外径:1.1mm)を得た。
【0063】
この繊維集合体を、金属製軸(ステンレス製、直径:11mm)に対して、隣り合う組紐(つまり、繊維集合体)間に隙間を設けることなく時計回りに巻いていき、スパイラル形状とし、さらに乾熱オーブンを用いて180℃×10分の熱処理をほどこした。次いで、30分間空冷した後に軸から取り外しスパイラル線状体を得た。さらに、反時計回りに巻いた以外は、上述の手法と同様にして、別のスパイラル線状体を得た。
【0064】
次いで、逆向きに旋回させた上述の2種類のスパイラル線状体に、それぞれ、100gfの引張荷重をかけ、その状態で乾熱オーブンを用いて100℃×10分の熱処理をほどこした後、空冷し、ピッチを4mmに広げた。
【0065】
この2種類のスパイラル線状体を、それらのループ状部分において交互に組み合わせて一条化した。そしてこの一条化物に、10kgf(98N)の荷重をかけて幅方向に押しつぶし、この状態で乾熱オーブンを用いて180℃×30分の熱処理をほどこした。その後、空冷し、図1に示すような偏平帯状構造体(幅:9mm、長さ:200mm、厚さ:2.7mm)を得た。この偏平帯状構造体を用い、評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
(比較例1)
市販品の金属製芯材(幅6mm、長さ200mm、厚み1.5mm)を比較例1として用い、評価をおこなった。この金属性芯材は、直径約0.75mmのステンレス製金属線がらせん状にまいてなるコイルを押し潰して偏平にしたもの2つが、互いにらせんの回転方向が逆となるように組み合わされたコイルボーンである。評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2)
市販品の熱可塑性合成樹脂からなるフィルムボーン(補正用下着に用いられる芯材)(幅5mm、長さ200mm、厚さ:0.5mm)を用い、評価をおこなった。評価結果を表1に示す。
【0069】
表1から明らかなように、実施例1で得られた本発明の偏平帯状構造体は、非金属の素材でできているため、軽量で、皮膚に直接触れても金属アレルギーが発現しないものであった。さらに、比較例の金属製芯材や熱可塑性合成樹脂からなるフィルムボーンと比較して厚みや幅が大きいにもかかわらず、湾曲させた場合であっても水平の状態は保持され、ねじれの発生が抑制されており、評価した際の角度は、90度をはるかに超えて、図7(c)に示すごとく、両端部が交差しても全く反り等が発生するものではなかった。また、湾曲時にも破断に耐えうるものであった。そのため、補正用下着の芯材や義足の部品などの用途に好適に用いられるものである。
【0070】
特に実施例1で得られた偏平帯状構造体は、その表面における繊維は溶融しておらず、繊維の風合いを残した柔らかなものであった。
【0071】
比較例1の芯材は、金属製であるため軽量性に劣り、皮膚に直接触れると金属アレルギーが発現する恐れがある。さらに、幅方向においては、大きな負荷をかけた場合に破損する恐れがある。
【0072】
比較例2の芯材は、幅方向へ湾曲させると、ねじれや反りが発生するものであった。よって、補正用下着の芯材や義足の部品などの用途に適用された場合には、身体の運動に追随できず、さらに、負荷がかかった場合には容易に破損する恐れがある。
【符号の説明】
【0073】
1 偏平帯状構造体
2 時計回りに旋回するスパイラル線状体
3 反時計回りに旋回するスパイラル線状体
4 直線状体からなる芯材
5 試料
6 基準線
7 試料の端部の外接線
8 試料の端部の外接線と基準線とで形成される角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一のピッチを有する時計回りに旋回するスパイラル線状体および反時計回りに旋回するスパイラル線状体が各々のループ状部分において交互に組み合わされて一条化され、その一条化物が偏平帯状化されてなる偏平帯状構造体であって、これらのスパイラル線状体はそれぞれ低融点重合体からなる熱融着成分と、高融点重合体からなる複数の繊維形成成分とによって構成され、これらのスパイラル線状体において熱融着成分の溶融により複数の繊維形成成分が固着一体化されていることを特徴とする偏平帯状構造体。
【請求項2】
スパイラル線状体の横断面が2重構造を有し、かつ低融点重合体を含有しない中心部の外周に低融点重合体を含有する外周部が配された構造であることを特徴とする請求項1に記載の偏平帯状構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の偏平帯状構造体を製造する方法であって、低融点重合体と高融点重合体によって構成される繊維集合体を時計回りにスパイラル形状に旋回させた第1の仮成形体と、低融点重合体と高融点重合体によって構成される繊維集合体をスパイラル形状に反時計回りに旋回させた第2の仮成形体とを準備し、これらの仮成形体の繊維集合体にそれぞれ熱処理をほどこして低融点重合体を溶融させ、高融点重合体は溶融させずに繊維形態を維持させ、低融点重合体からなる熱融着成分により高融点重合体からなる複数の繊維形成成分を固着一体化させて2本のスパイラル線状体を得た後、この2本のスパイラル線状体のループ部分を相互に組み合わせた後、押し潰して偏平帯状にした状態で熱処理をほどこすことを特徴とする偏平帯状構造体の製造方法。
【請求項4】
低融点重合体からなる熱融着繊維と高融点重合体からなる繊維を含む繊維集合体を用いることを特徴とする請求項3に記載の偏平帯状構造体の製造方法。
【請求項5】
熱融着成分である低融点重合体と繊維形成成分である高融点重合体とを複合してなる複合繊維を含む繊維集合体を用いることを特徴とする請求項3または4に記載の偏平帯状構造体の製造方法。
【請求項6】
繊維の少なくとも一部が連続繊維であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の偏平帯状構造体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44069(P2013−44069A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184254(P2011−184254)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】