説明

先芯及び安全靴

【課題】 安全靴等に装着した際の装着性が良好で、且つ荷重付加による中底の盛り上がりによる靴内の容積減少を防止し、耐圧迫性及び耐衝撃性に優れた先芯及びこれを用いた安全靴を提供する。
【解決手段】 繊維強化プラスチックからなる先芯10において、下辺折り曲げ部であるスカート部を少なくとも先端部及び後端部に係止部15を残す以外は実質的になくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全靴等に用いられる先芯及びそれを用いた安全靴に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS T 8101に規定される安全靴は、耐衝撃性及び耐圧迫性の性能によって重作業用(H)、普通作業用(S)、軽作業用(L)に分類される。この中で、重作業用(H)及び普通作業用(S)の比較的高い強度が要求される安全靴の先芯は金属製であったが、近年、軽量化の要望が高くなるにつれて、ポリプロピレン、ポリアミド等のマトリックスプラスチックをガラス繊維、炭素繊維等で強化した繊維強化プラスチック製の先芯が普及してきている。
【0003】
ところで、安全靴の先芯は、つま先部を落下物による衝撃や圧迫から保護するためのものであるので、先端部の強度が最も必要である。しかしながら、繊維強化プラスチック製先芯は金属製のものと比較して軽量化が可能であるが、金属製と同程度の強度を出すためには、製造面及びコスト面から限界があるので、金属製と同程度の強度確保を目指して色々な検討がなされている。
【0004】
例えば、実開平6−7507号公報には、少なくとも先端部に垂直壁心を形成し、且つ内方に屈曲させたスカート部と先端部との接続部を比較的大きなRをもった形状にすると共に垂直壁心の下端がスカート部の底面に到達するようにして、先端部の耐圧迫性及び耐衝撃性を向上させると共にスカート部の接続部分の強度不良を防止した構造が提案されている。
【0005】
また、実開平6−7508号公報には、スカート部の幅を先端から後端に向かうに従って漸次狭くして、荷重付加時にスカート部に亀裂が入りにくくした構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平6−7507号公報
【特許文献2】実開平6−7508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前者のように先端部とスカート部との接合部のRを大きくすると、靴型に装着した際に先芯の形状が靴型の底面エッジに合致しないでガタツキが生じる等、装着性が悪くなるという問題がある。
【0008】
また、後者のようにつま先部のスカート部の幅を広くすると甲被を釣り込んでスカート部を覆って中底に接着する際に、甲被が団子状に重なってまとまりが悪くなると共に、甲被材料の歩留まりが悪くなり、一方、幅広のスカート部の先端部まで樹脂が流れ難くなるという問題がある。
【0009】
さらに、このようなスカート部を有する先芯を用いた場合の荷重付加実験の様子を図6に示す。図6は、靴の先端の断面をつま先側から見たもので、図6(b)は無荷重の状態で、図6(c)は荷重付加状態を示す。なお、この靴は、内側から、先裏1、先芯2及び甲被3を具備し、釣り込まれた甲被3が中底4に接着され、さらに、中底4に靴底5を設けたものである。
【0010】
この実験によると、図6に示すように、荷重付加時に底材5が先芯2のスカート部2aを押し上げることによって、まず、スカート部2aが内側に向けて変形し、次いで、靴の側壁部が外側に向かって押し広げられる。これにより、靴内の空間が減り、必要な足の容積が確保できなくなるという不具合が発生する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑み、安全靴等に装着した際の装着性が良好で、且つ荷重付加による中底の盛り上がりによる靴内の容積減少を防止し、耐圧迫性及び耐衝撃性に優れた先芯及びこれを用いた安全靴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、繊維強化プラスチックからなる先芯において、下辺折り曲げ部であるスカート部を少なくとも先端部及び後端部に係止部を残す以外は実質的になくしたことを特徴とする先芯にある。
【0013】
かかる第1の態様では、スカート部が実質的にないので、荷重付加時のスカート部の変形により靴内の空間が減少するという不具合がなく、一方、係止部を介して甲被や裏材と一体的に装着される。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記スカート部の幅を必要最小限とすると共に当該スカート部の少なくとも先端部及び後端部に部分的に幅広の係止部を設けたことを特徴とする先芯にある。
【0015】
かかる第2の態様では、スカート部の幅をJIS規格等により必要とされる最低限にすることで荷重付加時のスカート部の変形により靴内の空間が減少するという不具合を低減し且つ係止部を介して甲被や裏材と一体的に装着される。
【0016】
本発明の第3の態様は、繊維強化プラスチックからなる先芯において、下辺折り曲げ部であるスカート部の強度をアーチ後端部の強度より小さくしたことを特徴とする先芯にある。
【0017】
かかる第3の態様では、スカート部の強度をアーチ後端部より低強度とすることにより、先芯の沈み込みを防止され、且つ荷重付加時の甲被及び中底の盛り上がりが防止される。
【0018】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記スカート部の厚さをアーチ後端部の厚さよりも小さくしたことを特徴とする先芯にある。
【0019】
かかる第4の態様では、スカート部の厚さを薄くすることにより強度を小さくし、これにより先芯の沈み込みが防止され、且つ荷重付加時の甲被及び中底の盛り上がりが防止される。
【0020】
本発明の第5の態様は、第3又は4の態様において、スカート部の幅を必要最小限とすると共に当該スカート部の先端部及び後端部に部分的に幅広の係止部を設けたことを特徴とする先芯にある。
【0021】
かかる第5の態様では、さらに、スカート部の幅をJIS規格等により必要とされる最低限にすることで荷重付加時のスカート部の変形により靴内の空間が減少するという不具合を低減し且つ係止部を介して甲被や裏材と一体的に装着される。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様の先芯を装着したことを特徴とする安全靴にある。
【0023】
かかる第6の態様では、第1〜第5の態様の先芯の機能を備えた安全靴となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、安全靴等に装着した際の装着性が良好で、且つ荷重付加による中底の盛り上がりによる靴内の容積減少を防止し、耐圧迫性及び耐衝撃性に優れた先芯及びこれを用いた安全靴を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る先芯の斜視図、横断面図、縦断面図、及び背面図である。
【図2】本発明の一実施形態に先芯を装着した安全靴の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る安全靴の組み立て工程を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る先芯の斜視図、横断面図、縦断面図、及び背面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る先芯の斜視図、横断面図、縦断面図、及び背面図である。
【図6】従来技術にかかる先芯の欠点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
【0027】
(実施形態1)
図1は一実施形態に係る先芯の斜視図、横断面図、縦断面図、及び背面図であり、図2はその先芯を装着した安全靴の一例を示す図であり、図3は安全靴の組み立て工程を示す図である。
【0028】
これらの図面に示すように、先芯10は、靴のつま先の上部を覆う形状を有し、上面部11と、この上面部11から滑らかに屈曲して一体的に形成された先端部12及び両側の側面部13とを具備する。また、先端部12の略中央及び側面部13の後端のそれぞれの下端には、内側に屈曲した係止部15が一体的に形成されている。この係止部15は、部分的に設けられた下辺折り曲げ部、いわゆるスカート部であるが、先端略中央部及び後端部に設けた係止部15以外のスカート部は実質的に排除した。
【0029】
このような先芯10は、安全靴20に装着した場合には、図2に示すように、先裏21と甲被22とに挟まれた状態となり、下側の端部は中底23に接合され、さらに靴底24により保持される。
【0030】
このような安全靴10は、図3に示すように、靴型30に中底23及び先裏21を被せて、先端部以外の甲被22を靴型30に合わせて釣り込み、この状態で先芯10を被せる(図3(b)参照)。次いで、甲被22を全部釣り込むことにより、甲被22で先芯10及び先裏21を被い、端部を中底23に接合する。図3(c)は甲被22のつり上げ状態を示し、最後に靴底24を接合する。
【0031】
このような安全靴20では、先芯10にスカート部が実質的にないので、荷重付加時に中底23が押し上げられてもスカート部が壁部を押し広げることがなく、靴内の空間が減少することがない。また、係止部15が設けられているので、甲被22及び先裏21との一体性が保たれ、着用時の先芯10のガタツキが防止される。
【0032】
(実施形態2)
本実施形態の先芯の構造を図4に示す。
【0033】
JIS T 8101では、安全靴の先芯の下辺折り曲げ部、すなわち、いわゆるスカート部の幅は3mm以上と規定されている。従って、この規格を満足するためにスカート部を最低限設け且つ係止部をさらに設けるようにしてもよい。このような先芯10Aを図4に示す。
【0034】
この先芯10Aは、約3mmの幅でスカート部14を設け、先端の中央部及び後端部にさらに係止部15を設けたものである。
【0035】
このような先芯10Aでは、JIS規格を満足する最低限のスカート部14を設けてスカート部を実質的に有さないようにして、荷重付加時に中底23が押し上げられてもスカート部が壁部を押し広げることがなく、靴内の空間が減少することがないようにし、また、係止部15を設けることにより、甲被22及び先裏21との一体性が保たれ、着用時の先芯10のガタツキが防止されるという効果を奏するようにしたものである。
【0036】
(実施形態3)
本実施形態の先芯の構造を図5に示す。
【0037】
本実施形態の先芯10Bは、スカート部14Aを有するが、その強度を上面11の後端部11aの強度より小さくしたものである。すなわち、本実施形態では、スカート部14Aの肉厚を後端部11aより小さくしてスカート部14Aを低強度としている。
【0038】
このような構造とすることにより、安全靴に取り付けられたときの沈み込みが防止され、また、荷重部下時に中底が盛り上がった際にもスカート部14Aが靴の側壁等を外へ押し広げる等不具合が生じにくくなる。
【0039】
このようにスカート部を上面の後端部より低強度とするためには低強度の別材料でスカート部を形成するようにしてもよいが、成形性の面を考慮すると、薄肉とするのが好ましい。
【0040】
また、このようにスカート部を低強度とする構成は、上述した実施形態1及び2の構成に組み合わせてもよく、この場合には相乗的な効果が発揮される。
【符号の説明】
【0041】
10,10A,10B 先芯
11 上面部
12 先端部
13 側面部
14,14A スカート部
15 係止部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックからなる先芯において、下辺折り曲げ部であるスカート部を少なくとも先端部及び後端部に係止部を残す以外は実質的になくしたことを特徴とする先芯。
【請求項2】
請求項1において、前記スカート部の幅を必要最小限とすると共に当該スカート部の少なくとも先端部及び後端部に部分的に幅広の係止部を設けたことを特徴とする先芯。
【請求項3】
繊維強化プラスチックからなる先芯において、下辺折り曲げ部であるスカート部の強度をアーチ後端部の強度より小さくしたことを特徴とする先芯。
【請求項4】
請求項3において、前記スカート部の厚さをアーチ後端部の厚さよりも小さくしたことを特徴とする先芯。
【請求項5】
請求項3又は4において、スカート部の幅を必要最小限とすると共に当該スカート部の先端部及び後端部に部分的に幅広の係止部を設けたことを特徴とする先芯。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの先芯を装着したことを特徴とする安全靴。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−22851(P2010−22851A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244888(P2009−244888)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2000−69182(P2000−69182)の分割
【原出願日】平成12年3月13日(2000.3.13)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】