光デバイス
【課題】光の導波領域として電気光学結晶を用い、該電気光学結晶に電界を印加する際に、該電界印加に用いる電極の材料に依存せずに、上記電界印加時に電気光学結晶の屈折率を一様に変化させることが可能な光デバイスを提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る光デバイスは、電気光学効果を有する電気光学結晶41と、電気光学結晶41の第1の面に配置された電極43と、第1の面と対向する第2の面に配置された電極44とを備えている。さらに、電極43と電気光学結晶41との間、および電極44と電気光学結晶41との間には、チタン酸バリウムからなる絶縁膜42a、42bが形成されている。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る光デバイスは、電気光学効果を有する電気光学結晶41と、電気光学結晶41の第1の面に配置された電極43と、第1の面と対向する第2の面に配置された電極44とを備えている。さらに、電極43と電気光学結晶41との間、および電極44と電気光学結晶41との間には、チタン酸バリウムからなる絶縁膜42a、42bが形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスに関し、より詳細には、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた、光強度変調器、位相変調器、可変焦点レンズ等の光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光通信システムの大容量、高速化ならびに高機能化に対する要求は、急激に高まっている。このような、光通信システムに用いられる光信号処理デバイスとして期待されているものに1つに光変調器があり、電気光学結晶を用いた光変調器の開発が進められている。
【0003】
電気光学結晶を用いた光位相変調器は、結晶の屈折率の変化により、結晶を通過する光の速度を変化させて、光の位相を変化させる。また、電気光学結晶を、マッハツェンダ干渉計、マイケルソン干渉計の一方の光導波路に設置すると、結晶に印加する電圧に応じて、干渉計の出力の光強度が変化する。これら干渉計は、光スイッチ、光変調器として用いることができる。特許文献1では、電気光学結晶としてKTN(KTa1-xNbxO3(0<x<1))及びKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1))を用いた光位相変調器や光強度変調器が開示されている。
【0004】
図1に、特許文献1に開示された、電気光学結晶を用いた光位相変調器の構成を示す。光位相変調器は、KTN(KTa1-xNbxO3(0<x<1))やKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1))等の、方形の電気光学結晶1の対向する面に、正極2と負極3とが形成されている。このような構成において、正極2と負極3との間に電圧Vを印加すると、該電圧Vに応じて、電気光学結晶1を伝搬する光の位相が変化する。
【0005】
また、図2に、特許文献1に開示された、電気光学結晶を用いた光位相変調器、偏光子、および検光子を組み合わせた光強度変調器の構成を示す。図2において、電気光学結晶1の入射側に偏光子4を配置し、出射側に検光子5を配置する。偏光子4の透過容易軸を、図2中のx軸方向から45度傾くように設定し(偏光角がx軸に対して45度となるように設定し)、検光子5の透過容易軸を、偏光子4の透過容易軸と直交するように(偏光角がx軸に対して−45度となるように)設定している。電気光学結晶1の結晶軸x,y,zを図2に示したように規定する。
【0006】
さて、電気光学結晶1は、2次の電気光学効果を有するので、該2次の電気光学効果により、屈折率が変化する。従って、正極2と負極3との間に電圧を印加すると伝搬する光の位相が変化し、上記印加電圧に応じて検光子5を通過した出射光の強度が変化する。すなわち、印加電圧に応じて、検光子5を通過した出射光の強度を0%〜100%の間で変調することができる。
【0007】
上記KTNやKLTNは、立方晶かつ大きい2次の電気光学効果を有する誘電体結晶であるので、偏波無依存で低電圧駆動を実現でき、かつ組成に応じて、大きい2次の電気光学効果を発現する温度域を調整できるので、光変調器に用いるのは好ましい。特に、強誘電転移近傍において、比誘電率が大きく変化するので、上記相転移近傍を動作温度に設定して動作させることが好ましい。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/137408号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、光強度変調器において、オーミック接触された電極が形成された電気光学結晶に電圧を印加すると電極から電気光学結晶に電子が注入され、これにより電気光学結晶内に電界傾斜が発生し、該電界傾斜により光が偏向することが知られている(特許文献1参照)。このような電界傾斜による偏向の影響により、消光比が劣化することがある。
【0010】
図3に、図2の光強度変調器において屈折率の変化に傾斜が生じた場合を示す。図3において、正極2と負極3とはオーミック接触しているとする。また、図3の電気光学結晶1は、2次の電気光学定数s11およびs12が、s11:s12=10:−1程度であるとする。
このような構成において、正極2および負極3に対して電圧を印加すると電気光学結晶1中に電界傾斜が生じる。そして、電界傾斜が生じている電気光学結晶1に入射光が入射すると、該入射光の垂直偏光成分6と水平偏光成分7とがそれぞれ偏向する。
【0011】
電気光学効果には偏光依存性があるため、垂直偏光成分に対する屈折率変化の傾斜と、水平偏光成分に対する屈折率変化の傾斜とは異なる。よって、入射光の光軸方向と、垂直偏光成分6の偏向方向との成す角(垂直偏光成分の偏向角)と、入射光の光軸方向と、水平偏光成分7の偏向方向との成す角(水平偏光成分の偏向角)とは異なる。
【0012】
なお、本明細書において、「垂直偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と一致する方向の偏光である。図3で言うと、偏光方向がx軸方向の偏光である。
また、本明細書において、「水平偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と直交する方向の偏光である。図3で言うと、偏光方向がy軸方向の偏光である。
【0013】
図6に、電界傾斜による光の偏向の原理を示す。
図6において、x軸方向は、電気光学結晶1の厚さ方向(図3における、正極2から負極3に、または負極3から正極2に向かう方向)である。電気光学結晶1の厚さ方向(x軸方向)に線形に変化する屈折率n(x)を、x=0における屈折率をnとし、xにおける屈折率nからの屈折率の変化量をΔn(x)として、n(x)=n+Δn(x)とする。光軸に対して垂直な断面における直径がDであるビームが、電気光学結晶1の中を通過する場合、ビームの上端と下端とでの屈折率差は、Δn(D)−Δn(0)で与えられる。ビームが通過する屈折率に傾斜がある部分の長さ、すなわち相互作用長Lとすると、長さLを伝搬後のビームの上端と下端とでの等位相面61にはずれ62が生じる。その上端と下端との等位相面61のずれ62の距離は、次式で与えられる。
【0014】
【数1】
【0015】
このときビームの伝搬方向63の傾きθ(偏向角)は、ずれ62の量がビームの光軸に対して垂直な断面における直径より十分小さいとすると次式となる。
【0016】
【数2】
【0017】
これが電気光学結晶1の端面から屈折率が1と近似できる外部に出射すると、電気光学結晶1と外部との境界面で屈折し、入射光の光軸からのトータルの偏向角は次式となる。
【0018】
【数3】
【0019】
ここで電気光学効果による屈折率の変化を考える。電気光学効果による屈折率の変化は、2次の電気光学効果において次式で与えられる。
【0020】
【数4】
【0021】
電気光学結晶中に電荷を生じさせ、その電荷により電極から発した電界を接地電極に到達する前に終端することによって電界が結晶の厚さ方向で変化している場合で、その電界がE(x)で表されるとすると、偏向角θは次式となる。
【0022】
【数5】
【0023】
これらの式は電界E(x)がxに依存して変化している場合には、ゼロでない偏向角が生じることを示している。
【0024】
図3において、空間電荷制限状態にある厚さdの電気光学結晶1に正極2と接地された負極3との間に電圧Vを印加すると、以下の式で表される電界Eの空間分布が現れる。
【0025】
【数6】
【0026】
ここでxは、負極3から対向する正極2に向かう方向における負極3と接する電気光学結晶1の側面からの位置であり、x0は電気光学結晶と電極の物質により決まる定数である。
【0027】
ここで、電界Eを以下の式で近似すると、
【0028】
【数7】
【0029】
電気光学効果を通じて誘起される屈折率変化Δnは、2次の電気光学効果の場合において、式(4)に式(7)を代入することによって、以下の式で与えられる。
【0030】
【数8】
【0031】
したがって式(5)、(8)から偏向角θ(x)は次式となる。
【0032】
【数9】
【0033】
以上より、電気光学結晶に電圧を印加することにより、電気光学結晶の内部に空間電荷を生じさせ、入射光の光軸に対して垂直な断面に電界の傾斜を生じさせる。この電界の傾斜により、屈折率の変化量に傾斜が生じ、入射光の光軸に対して垂直な断面上の光の進行速度分布に傾斜が生じる。結果として、光が電気光学結晶中を伝搬する間、光の進行方向は、屈折率の傾斜に応じて連続的に変化させられ、偏向角を累積することになる。
【0034】
すなわち、印加電圧により電極から電気光学結晶に電子注入が起こると、電気光学結晶内が空間電荷制御状態となりその大きさが傾斜するような電界分布が発生し、該電界分布により傾斜した屈折率分布が発生する。その結果、電気光学結晶から出射する光は偏向した光となる。
【0035】
上述のように、電気光学結晶1としてのKLTN結晶では、垂直偏光と水平偏光に対する2次の電気光学定数が、s11:s12=10:−1程度であるため、垂直偏光の出射角(偏向角)のみが大きく変化する。すなわち、電気光学結晶1の入射側に偏光子4を配置し、出射側に検光子5を配置して、図3のような光強度変調器を構成すると、上述の偏向の影響により入射光が分離して出射されることになり、消光比の劣化の原因となっていた。従って、より良好な光強度変調の実現のために、上記偏向の影響を抑え、消光比の劣化を抑えることが望まれている。
【0036】
また、位相変調器等の他の光デバイスにおいても、光を導波させる領域に電気光学効果を有する電気光学結晶を用いる場合において、対象となるデバイスの出力結果を良好なものとしたい場合は、電気光学結晶への電圧印加に応じて生じる偏向の影響を抑えることが望まれている。
【0037】
このような要望に応えるために、特許文献1では、電極から電気光学結晶への電子注入を抑えるために、白金等の比較的仕事関数が大きい金属を電極として用いている。すなわち、特許文献1では、電極を、電気光学結晶の電気伝導に寄与するキャリアに対してショットキー接触となるように選択することにより、電気光学結晶内の電界傾斜の発生を抑えている。
【0038】
このように、電極材料を比較的仕事関数が大きい金属とすることにより電極から電気光学結晶への電子注入を抑えることができるので、当時求められていた、動作特性上、出力される光への偏向を望まない光デバイスにおいて、電圧印加による偏向を抑えることが実現でき、当時の要望に十分応えるものであった。
【0039】
しかしながら、近年、上記要望を満たした次の要望として、製造にかかる制限を低減したい、という要望が挙がっている。すなわち、特許文献1では用いる電極材料に制限があるが、該電極材料にかかる制限を緩和しても、電圧印加による偏向の影響を低減できることが望まれている。すなわち、電圧印加による偏向は、上述のように電子注入による屈折率変化の傾斜に起因しているので、該傾斜を抑えるためにも、電気光学結晶への電界印加時に屈折率を一様に変化させることが求められており、これを用いる電極の自由度を向上させて実現することが望まれている。
【0040】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光の導波領域として電気光学結晶を用い、該電気光学結晶に電界を印加する際に、該電界印加に用いる電極の材料の幅を広げつつ、上記電界印加時に電気光学結晶の屈折率を一様に変化させることが可能な光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電気光学効果を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光デバイスであって、前記電気光学結晶と前記第1の電極および第2の電極の少なくとも一方の電極との間に形成され、該電極から前記電気光学結晶への電子の注入を抑制させるための電子注入抑制層を備えることを特徴とする。
【0042】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記電子注入抑制層は、前記電気光学結晶の電子親和力より小さい電子親和力を有する絶縁層であり、前記電子注入抑制層と、前記第1の電極および前記第2の電極のうち前記電子注入抑制層と接する電極とはショットキー接触していることを特徴とする。
【0043】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記電子注入抑制層の材料は、BaTiO3、BST((Ba,Sr)TiO3)、STO(SrTiO3)、SrTa2O6、Sr2Ta2O7、ZnO、HfO2、Ta2O5、SiO2、PZT(Pb(Zr,Ti)O3、PZTN(Pb(Zr,Ti)Nb2O8、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3、SBT(SrBi2Ta2O9)、SBTN(SrBi2(Ta,Nb)2O9、BTO(Bi4Ti3O12)のいずれかであることを特徴とする。
【0044】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は直流電圧であり、前記一方の電極は負極であることを特徴とする。
【0045】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は交流電圧であり、前記第1の電極と前記電気光学結晶との間、および前記第2の電極と前記電気光学結晶との間に前記電子注入抑制層が形成されていることを特徴とする。
【0046】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、前記第1の面が光の入射面であり、前記第2の面が光の出射面であり、前記光を前記入射面の前記第1の電極が形成されていない空隙から入射し、前記出射面の前記第2の電極が形成されていない空隙から出射するように光軸を設定し、前記第1の電極から前記第2の電極に向かう電気力線の一部が、前記空隙で屈曲し、前記光軸を中心に前記光が透過する部分の電界を変化させ、前記第1の電極と前記第2の電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学結晶を透過した光の焦点を可変することを特徴とする。
【0047】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を挟んで平行に配置された2つの方形の電極からなり、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする。
【0048】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を有するリング形状とし、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、電気光学効果を有する電気光学結晶の対向する2面に配置された電極のうち、外部回路から電子が流入することがある電極(電圧印加時にカソードとなることがある電極)と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けているので、電圧印加時に電極から電気光学結晶への電子注入を抑制することができる。よって、一様な屈折率変化を起こすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0051】
本発明の一実施形態は、光が導波する領域に、KTN(KTa1-xNbxO3(0<x<1))やKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1))等の電気光学効果を有する電気光学結晶を用い、該電気光学結晶に電界を印加するための電極を有する光デバイスにおいて、電気光学結晶に対して電界を印加する場合に、該電気光学結晶内において一様な屈折率変化を生じさせるものである。なお、上記一様な屈折率変化を生じさせるためには、電圧印加時の電極から電気光学結晶への電子注入を抑制することが重要となる。
【0052】
本発明の一実施形態では、上記電子注入の抑制のために、少なくとも、電圧印加時にカソードとして機能することが可能な電極と電気光学結晶との間に、絶縁破壊が起こりにくく、誘電率の高い絶縁膜といった、絶縁層であって、電極への電圧印加時(電気光学結晶への電界印加時)に、該電極から電気光学結晶への電子の注入を抑制させるための層(電子注入抑制層)を設けている。すなわち、対向する面にそれぞれ電極を設けた電気光学結晶を備える光デバイスにおいて、電圧印加中に、外部回路から電子が流入することがある電極(電圧印加時にカソードとして機能することが可能な電極)と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けるのである。なお、直流電圧印加時には、対向する面の一方に配置された電極がカソードとなるので、該電極が「外部回路から電子が流入することがある電極」となる。また、交流電圧印加時には、対抗する面のそれぞれに配置された電極に対して、所定時間毎にカソードとアノードとが入れ替わるので、対抗する面のそれぞれに配置された電極が「外部回路から電子が流入することがある電極」となる。
【0053】
従来では、電極と電気光学結晶とは接触しているので、電子注入抑制の観点から電気光学結晶に接する電極がショットキー接触するような材料を電極材料として選択する必要があったので、用いる電極材料に制限があった。本発明の一実施形態では、カソードとして機能する電極と電気光学結晶との間に上述のような電子注入抑制層を少なくとも設けているので、仕事関数が小さな電極材料を用いても、電極と電子注入抑制層とのショットキー接触を実現することができ、該電子注入抑制層において電子の注入を低減することができる。従って、特許文献1に比べて、用いることが可能な電極材料の幅が広がり、用いる電極材料の自由度を高めることができる。
【0054】
なお、本発明の一実施形態は、位相変調器、光強度変調器、可変焦点レンズ等といった光デバイスに適用することができる。本発明では、本発明の一実施形態をどの光デバイスに適用するかが本質ではなく、電気光学効果を有する電気光学結晶に電圧を印加した際に、該電圧印加による屈折率変化後の電気光学結晶の屈折率を一様にすることが本質である。従って、本発明の一実施形態は、光の導波領域として電気光学結晶を用い、出射光の偏向が好ましくない光デバイスであれば、いずれにも適用することができる。
【0055】
さて、KTN、KLTNは、電界を結晶軸方向に印加すると、大きな二次の電気光学効果を示す。その値は(1200〜8000pm/V)であり、1次の電気光学効果を有する材料であるLiNbO3(LN)の有する非線形定数30pm/Vに比べて著しく大きい。さらに、KTN、KLTNは、TaとNbの組成比を変化させることにより、常誘電性から強誘電性への相転移温度を、ほぼ絶対零度から400℃まで変化させることが可能である。従って、温度コントローラを用いなくても、動作温度を室温等、所望に設定することができる。このように、KTNやKLTNは、光変調器や可変焦点レンズ等の光デバイスに対して好ましい材料である。
【0056】
その他に電気光学定数の大きい電気光学結晶としては、LiNbO3(以下、LNという)、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrxNb2O6(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb2O6、Pb1-yLayTi1-xZrxO3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB2O4、LiB3O5、CsLiB6O10、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnOの電気光学結晶が挙げられる。
【0057】
また、本発明の一実施形態では、電気光学結晶に電界を印加するための電極の電極材料としては、電子注入抑制層とショットキー接触するような材料を所望に応じて選択すれば良い。これは、本発明の目的の1つが、用いる電極材料にかかる制限を緩和することであり、本発明に特徴的な電子注入抑制層を設けることによって上記目的が実現できるからである。
【0058】
(第1の実施形態)
図4は、本実施形態に係る位相変調器の構成を示す断面図である。
図4(a)において、位相変調器40は、電気光学効果を有する電気光学結晶41を備えている。本実施形態では、電気光学結晶41をKTNとして説明する。電気光学結晶41の第1の面には、チタン酸バリウム(BaTiO3)からなる絶縁膜42aが形成されており、該絶縁膜42a上には電極43が形成されている。また、電気光学結晶41の第1の面に対向した第2の面には、チタン酸バリウムからなる絶縁膜42bが形成されており、該絶縁膜42b上には電極44が形成されている。電極43、44はともに、交流電源に接続されている。従って、電極43、44は、交流電源からの電圧状態によってカソード、またはアノードとして機能するので、電極43、44は共に、電圧印加時に電圧状態に応じてカソードとして機能する電極、すなわち、カソードとして機能することが可能な電極となる。よって、図4(a)の構成では、正極として機能する電極43、44と、電気光学結晶41との間にそれぞれ、チタン酸バリウムからなる絶縁膜が形成されているのである。
【0059】
なお、本実施形態では、電極43、44は、チタン/白金/金としている。“チタン/白金/金”とは、チタン上に白金が形成され、該白金上に金が形成されている形態を指し、チタンが対応する絶縁膜上に配置することになる。
【0060】
このような構成において、位相変調時に電極43および44に電圧を印加すると、電極43、44から電気光学結晶41へと電子が移動しようとするが、絶縁膜42a、42bを構成するチタン酸バリウムの電子親和力が、電気光学結晶41を構成するKTNの電子親和力よりも小さいので、電極43、44から電気光学結晶41への電子の注入を抑えることになる。すなわち、絶縁膜42a、42bがチタン酸バリウムであるので、絶縁破壊が起こりにくく、かつ誘電率が高いので、電極43、44から電気光学結晶41へと移動しようとする電子を止めつつ、電界のみを電気光学結晶41に印加することができる。よって、電気光学結晶41中では一様な屈折率変化が起こり、所定の電界印加時の電気光学結晶41の屈折率は一様に分布することになる。すなわち、このとき電気光学結晶41中を伝搬する光は、傾斜した屈折率分布ではなく一様な屈折率を感じるので、偏向されていない光を出射することができる。
【0061】
以下に、電圧印加時に電気光学結晶へと電子が注入されることにより、電気光学結晶内に傾斜した屈折率分布が生じる原理について説明する。
図5に、結晶内部の電荷による電界傾斜の発生原理を示す。
図5示す素子も、正極52と負極53とで平行に挟まれた、電気光学結晶51を備えている。すなわち、図5の素子では、本発明に特徴的な、電子注入を抑制させるための絶縁層としてのチタン酸バリウムは設けられていない。図5において、縦軸を負極53から正極52への距離とし、横軸を電気光学結晶51内の電界の強さとするグラフを示す。
【0062】
図5は、電気光学結晶51内の空間電荷によって空間電荷制限状態が発生した場合を示す。空間電荷制限状態では、電気光学結晶51内に発生した空間電荷によって電界が終端され、電気光学結晶51内の電界分布に傾斜が生じる。この空間電荷は、電気光学結晶51の組成によって正電荷および負電荷のどちらか一方、または正電荷および負電荷の両方であり得る。
【0063】
これに対して、本実施形態では、電気光学結晶への電界印加時に、該電気光学結晶に電界を印加するための電極から電気光学結晶への電子注入を抑制するための絶縁層(図4(a)では、チタン酸バリウムである絶縁膜42a、42b)が電極と電気光学結晶との間に存在しているので、上記電極から電気光学結晶への電子の注入が阻止される。よって、図7に示すように、電気光学結晶41内には空間電荷が存在せず、電極43と電極44との間の全空間に渡って電界が一定となり、電気光学結晶41内における一様な屈折率変化が実現される。
【0064】
このように、本実施形態では、絶縁膜42aおよび42bをそれぞれ、電極43および44と、電気光学結晶41との間に設けているので、従来に比べて電極43および44に用いることができる電極材料の幅を広げつつ、電圧印加時に、電極43、44から電気光学結晶41へと電子が注入されるのを抑制することができる。すなわち、チタン酸バリウムからなる絶縁膜42a、42bの電子親和力はKTNである電気光学結晶41の電子親和力よりも小さい。よって、特許文献1に比べて仕事関数が小さい材料まで電極43、44に適用することができるので、電極43、44として用いることができる電極材料の自由度を向上させつつ、電気光学結晶41に対して一様な電界を印加することができ、電圧印加後の電気光学結晶41内の電界が印加される領域の屈折率を一様にすることができる。
【0065】
なお、本実施形態では、電極と電気光学結晶との間に設ける、電子注入を抑制させるための絶縁層として、強誘電絶縁膜であるチタン酸バリウムを用いているが、これに限定されず、例えば、BST((Ba,Sr)TiO3)、STO(SrTiO3)、SrTa2O6、Sr2Ta2O7、ZnO、HfO2、Ta2O5、SiO2、PZT(Pb(Zr,Ti)O3、PZTN(Pb(Zr,Ti)Nb2O8、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3、SBT(SrBi2Ta2O9)、SBTN(SrBi2(Ta,Nb)2O9、BTO(Bi4Ti3O12)のいずれかを用いても良い。
【0066】
本実施形態で重要なことは、電極に電圧が印加された際に、該電極から電気光学結晶へと電子が注入されるのを抑制することであり、そのために、本実施形態では、電圧印加時において電極から電気光学結晶への電子の移動を抑制するように機能する絶縁層(電子注入抑制層)を介在させている。本実施形態では、このように、少なくとも、動作時に電子が注入される電極と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けているので、該電子注入抑制層が電子注入の抑制機能を果たせる電極であればいずれの電極を用いても、偏向を抑制することができる。
【0067】
また、電子注入抑制層とショットキー障壁がある電極と組み合わせることによって電子注入抑制層において電子の注入抑制効果を大きくすることができるので、より好ましい形態である。このように機能させるためには、用いる電気光学結晶の電子親和力よりも小さい電子親和力を有する絶縁層を用いれば良い。すなわち、本実施形態では、電極が接する対象が電気光学結晶ではなく電子注入抑制層であり、該電子注入抑制層が電気光学結晶よりも小さい電子親和力を有しているので、電極をショットキー接触させる観点からすると、電極と電気光学結晶とを接触させる場合に比べて、電極と電子注入抑制層とを接触させる方が仕事関数を小さくすることができる。従って、電子注入抑制を実現する構成に適用可能な電極材料の種類を、従来よりも多くすることができる。
【0068】
本実施形態において、用いる電気光学結晶はKTNであり、チタン酸バリウムの電子親和力はKTNの電子親和力よりも小さいので、上記好ましい形態で述べた機能を実現することができる。また、強誘電絶縁膜であるチタン酸バリウム層は、絶縁破壊が起こりにくく、高誘電率材料であるので、電圧印加時に、電極から電気光学結晶への電子の移動を抑制しつつ、電極により発生する電界を電気光学結晶に印加させることが可能な層として機能するので好ましいのである。
【0069】
このように、本実施形態のより好ましい形態において、電子注入を抑制させるための絶縁層としては、用いる電気光学結晶の電子親和力よりも小さい電子親和力を有し、用いる電極とショットキー接触するような絶縁層であれば、いずれの材料を用いても良い。
【0070】
また、上記より好ましい形態において重要なことは、上述したように、電子注入抑制層を設けることによって使用可能な電極材料の種類を多くすること、すなわち、電子注入抑制層により、より小さな仕事関数の材料をも電極材料として使用可能にすることである。よって、電子注入抑制層に応じて使用可能な電極材料が決まるのである。例えば、本実施形態の一例として説明したチタン酸バリウムを電子注入抑制層として用いる場合は、チタン/白金/金、クロム/金、金、白金等の、チタン酸バリウムとショットキー接触するような材料を用いれば良いのである。このように、本実施形態では、電極材料は用いる電子注入抑制層に応じて決まるものであり、該電子注入抑制層とショットキー接触するような材料であればいずれの材料を用いることができる。
【0071】
さらに、特許文献1では、KTN等の電気光学結晶に対して電極を形成する前に、電気光学結晶の電極が形成される面に対して所望の平滑度となるように研磨する必要があったが、本実施形態によれば該研磨工程を必要としない。
【0072】
特許文献1における、KTN結晶作製から電極形成までの工程を簡単に説明する。
工程1;KTN結晶を作製する。
工程2;上記作製されたKTN結晶を、ダイシングソー等の物理的手段によって所望の大きさに切り出す。
工程3;上記切り出したKTN結晶の、電極を形成する面に対して、所望の平滑度になるように研磨する。
工程4;研磨された面に電極を形成する。
【0073】
このように、特許文献1では、電極形成の前に研磨工程を行っている。これは、KTN等の電気光学結晶をダイシングソーにより切断する場合、物理的に切断しているので、切断面は粗くなったり、切断面毎に平面の平滑度にばらつきが生じ、該ばらつきによって出力特性もばらつくことがあるので、上記研磨を行うのである。
【0074】
すなわち、KTNの表面に凹凸が多く粗い場合は、該表面に欠陥が多くなり、表面準位が多くなる。このとき、KTNの粗い面上に電極を形成すると、上記表面準位が多いことにより、電子注入が起こりやすくなってしまう。特許文献1では、このような電子注入を抑制することが目的なので、表面準位が多い状態、すなわち、表面が粗い状態を改善させるために研磨を行っている。つまり、特許文献1では、KTNと電極とが接しているので、KTNと電極との界面の粗さが電子注入の起こりやすさと関連することになり、電子注入を低減したいという要望から、上記界面の粗さを低減させるべく研磨を行う必要があるのである。
【0075】
これに対して、本実施形態は、電極を形成する前に、KTN等の電気光学結晶を研磨する必要が無い構成である。以下に本実施形態に係る、KTN結晶作製から電極形成までの工程を簡単に説明する。
工程(a);KTN結晶を作製する。
工程(b);上記作製されたKTN結晶を、ダイシングソー等の物理的手段によって所望の大きさに切り出す。
工程(c);スパッタリング等により、上記切り出したKTN結晶の、電極を形成する面上に、チタン酸バリウム層(電子注入抑制層)を形成する。
工程(d);チタン酸バリウム層上に電極を形成する。
【0076】
本実施形態では、電子を注入したくない層であるKTNと接するのは、電子注入抑制層であるチタン酸バリウム層である。すなわち、工程(b)において切り出されたKTN結晶の切断面上に形成されるのが電極ではなく、チタン酸バリウム層であるので、上記切断面が粗くても、KTN表面の表面準位によって電子注入が起こりやすくなる、ということは無い。従って、本実施形態によれば、工程(b)と工程(c)との間で、KTN結晶表面の研磨工程を行う必要が無いのである。なお、本実施形態では、工程(b)と工程(c)との間で、KTN結晶表面の研磨工程を行っても良いことは言うまでも無い。
【0077】
また、従来では上述のように、出力特性が電気光学結晶の表面性に依存しており、物理的な切断を行っているので、切り出された電気光学結晶毎に、表面性にばらつきが生じてしまうことがある。そこで、切り出された電気光学結晶の各々の表面性を統一するためにも、従来では、目標値となるように表面を研磨している。すなわち、従来では、電極が形成される面が、電子注入をなるべく起こしたくない電気光学結晶の一面であるので、切り出された電気光学結晶毎に出力特性を均一にするためには、研磨を行うことにより電極が形成される面の表面性を素子毎に統一する必要があるのである。
【0078】
これに対して、本実施形態では、電子注入をなるべく起こしたくない電気光学結晶ではなく、電子の注入を抑制させるための層(電子注入抑制層)であるので、切り出された電気光学結晶毎にその表面性にばらつきがあったとしても、作製後の素子毎の出力特性のばらつきを抑えることができる。
【0079】
また、本実施形態では、チタン酸バリウム等の電子注入抑制層をスパッタリング等の化学的手法によって形成しているので、電子注入抑制層の形成時の条件を同じにすれば、出来上がる電子注入抑制層の表面をほぼ統一することができる。従って、研磨を行わなくても、素子毎の電子注入抑制層の表面の表面性を統一することができ、素子毎の出力特性の統一を図ることができる。
【0080】
なお、本実施形態では、電極43、44に接続する電源を交流電源としているが、直流電源であっても良い。この場合は、電極43、44のうち、カソードとなる電極と電気光学結晶41との間に、チタン酸バリウムからなる絶縁膜を少なくとも設けるようにすれば良い。すなわち、本実施形態で重要なことは、電圧印加時に電極から電気光学結晶へと流入される電子を、上記絶縁膜によって抑制することであるので、カソードとして機能することが可能な電極と電気光学結晶との間に上記絶縁膜を設けさえすれば良いのである。ここで、アノードとして機能する電極と電気光学結晶との間にも上記絶縁膜を設けても良いことは言うまでも無い。
【0081】
図4(b)は、本実施形態に係る位相変調器に直流電源を接続した構成を示す図である。
図4(b)において、電気光学結晶41の第1の面には正極45が形成されており、該第1の面に対向する第2の面には電子注入抑制層としてのチタン酸バリウムからなる絶縁膜47が形成されており、該該絶縁膜47上には、負極46が形成されている。
【0082】
このように、図4(b)に示す位相変調器では、カソードとして機能する電極、すなわち負極46と電気光学結晶41との間に電子注入抑制層が設けられている。従って、変調時に直流電源によって各電極に電圧を印加しても、絶縁膜47により負極46から電気光学結晶41への電子注入を抑制することができるので、電圧印加の際の電気光学結晶41の屈折率変化を一様にすることができる。
【0083】
(第1の実施例)
図8に、本実施例にかかる光強度変調器80の構成を示す。
図8において、電気光学結晶41の入射側に偏光子81を配置し、出射側に検光子82を配置した。電気光学結晶41は、KTN(KTa1-xNbxO3において、x=0.4)とした。電気光学結晶41の上面と下面とにPtの正極42および負極43を形成する。電気光学結晶41のサイズは、縦6mm(z軸)×横5mm(y軸)×厚さ0.5mm(x軸)であり、正極42、負極43のサイズは、縦5mm×横3mmである。
【0084】
偏光子81の透過容易軸を、図8中のx軸方向から45度傾くように設定し(偏光角がx軸に対して45度となるように設定し)、検光子82の透過容易軸を、偏光子81の透過容易軸と直交するように(偏光角がx軸に対して−45度となるように)設定した。
【0085】
KTN結晶の相転移温度は、55℃であり、電気光学結晶41の温度を60℃に設定する。入射光は、He−Neレーザを用いた。正負電極間に・・Vの電圧を印加したとき、出射光の偏光方向が入射光の偏光方向に対して、90度回転する。電極43と電極44との間の印加電圧が増大するのに伴って、出射光がオンオフを繰り返し、図9に示した動作特性を有する光強度変調器80を構成することができる。
【0086】
(第2の実施形態)
上述したように、電気光学結晶と、該電気光学結晶に電圧を印加するための電極のうち、カソードとして機能することが可能な電極との間に、電子注入抑制層を設けることによって、電子注入を抑制、あるいは阻止することができ、電圧印加により電気光学結晶の一様な屈折率変化を実現することができる。本発明の電子注入抑制層を設ける形態は、可変焦点レンズに適用することができる。このように、本実施形態に係る可変焦点レンズにおいては、電気光学結晶に電圧を印加することにより該電気光学結晶の屈折率が下がり、焦点位置を遠方に可変することが可能となる。
【0087】
図10に、本実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。
図10において、可変焦点レンズ100は、電気光学効果を有する電気光学結晶101を備えている。本実施形態では、電気光学結晶101をKTNとして説明する。電気光学結晶101の第1の面には、チタン酸バリウムからなる、絶縁膜102aおよび絶縁膜102bが所定の距離だけ離れて形成されており、絶縁膜102a上には電極103aが形成され、絶縁膜102b上には電極103bが形成されている。また、電気光学結晶101の第1の面に対向した第2の面には、チタン酸バリウムからなる、絶縁膜102cおよび絶縁膜102dが上記所定の距離だけ離れて形成されており、絶縁膜102c上には電極104aが形成され、絶縁膜102d上には電極104bが形成されている。電極43、44はともに、交流電源に接続されている。
【0088】
ここでは、同じ大きさの電極を、電気光学結晶101の第1の面または第2の面のz軸方向の中心線に対して線対称に配置している。このような配置により、電圧を電極103a(103b)から電極104a(104b)へ、またはその逆に印加することができる。なお、電極103a,103bの各々は等しい電位とし、電極104a,104bの各々も等しい電位とする。光は、同電位の電極対の間の空隙を通過するように光軸を設定する。
【0089】
図11を参照して、本実施形態にかかる可変焦点レンズの原理を説明する。図10に示した可変焦点レンズにおいて、電極103a,103bに正の電圧、電極104a,104bに負の電圧をかける。このとき、通常のコンデンサと同様、電界は上下に向かい合った電極同士の間を、電極103a,103bから電極104a,104bに向った状態で発生する。また、電界は、上下の電極の間だけでなく、その周囲にも発生し、同電位の電極対の間にある光が透過する部分にも発生する。このはみ出した電界により、電気光学結晶101には、電気光学効果が発生し、光が透過する部分の屈折率が変調される。
【0090】
光が透過する部分の電界分布と屈折率変調について説明する。電気光学結晶は、一般的に比誘電率が1より十分に大きい。このため、電気光学結晶101の内部の電界の電気力線は、表面付近では、電気光学結晶の表面に対して平行に近くなる(符号111a,111b参照)。電極103aから図中右方向へ進む電気力線111aは、電極103aを出た後、そのまま電気光学結晶101の第1の面にほぼ平行に進む。一方、電極103bから図中左方向へ進む電気力線111bも、電極103bを出た後、そのまま電気光学結晶101の第1の面にほぼ平行に進む。2つの電気力線111a,111bは、電極103a,103bの中央でぶつかるので、そこから大きく向き変え、電気光学結晶101の図中下方向へ進む。電気力線111a,111bは、その後第2の面に達し、大きく向きを変えて、互いに反対方向に進み、それぞれ電極104a,104bまで進む。
【0091】
このように、電気光学結晶101の内部で、表面付近を進む電気力線は、同電位の電極対の間の空隙において急激に屈曲するので、この屈曲部分では電界が大きく変化し、光軸を中心に、光が透過する部分で電界が変化して、屈折率が変調される。すなわち、入射面としての第1の面に配置された電極103a(103b)から出射面としての第2の面に配置された電極104a(104b)に向かう電気力線の一部が、上記空隙で屈曲し、上記光軸を中心に光が透過する部分の電界を変化させている。
【0092】
図12(a)〜(c)に、電気光学結晶内部における電界強度を示す。
図12(a)は、電気光学結晶101の第1の面付近のx軸方向の、電界成分Exの分布を示す。横軸は、同電位の電極対の間にある光が透過する部分のx軸方向の位置を表している。図11に示すように、中央部を境に、左と右とでは電気力線の向きが180度異なるため、このような分布となる。図12(b)は、同じくx軸方向の各々の位置におけるy軸方向の電界成分Eyの分布を示す。電界成分Eyは、向きは変わらないが、電極に近づくほど大きくなる。
【0093】
このような電界分布により、図12(c)に示したように、x軸方向の屈折率が変調される。屈折率変調が起こると、電気光学結晶101の中央部付近、すなわち光軸付近は、中央部からx軸方向に離れて、電極対に近い部分よりも屈折率が低いため、光は高速で進行し、中心部から電極対に近い部分ほど、光の速度は遅くなる。このため、電気光学結晶1を透過した光の波面は、中央部付近よりも電極対に近い部分で遅れた形となり、凹レンズとして機能する。光が透過する部分をレンズとして考えると、集光または発散の効果の強いレンズを実現することができる。図10および図11の構成では、x軸方向にのみ集光または発散が起こり、z方向での集散は起こらないので、一般的な球面レンズではなく、いわゆるシリンドリカルレンズとして機能する。
【0094】
このとき、電極103a、103bと、電極104a、104bとの間の印加電圧を変えることにより、電気光学結晶101を透過した光の焦点を可変することができる。
すなわち、本実施形態では、光が、第1の面において電極103aと電極103bとの間の第1の領域から入射し、第2の面において電極104aと電極104bとの間の第2の領域から出射するように光軸が設定されている。そして、各電極に電圧を印加することにより、第1の領域において、電極103aから電極103bに向う方向に沿って中央部付近の屈折率が、電極103a、103b付近の屈折率よりも小さくなるように電極を配置することが重要となる。このように配置することによって、電圧印加時には、電極103aおよび電極104aと、電極103bおよび電極104bとの間の領域において、電気光学結晶101の厚さ方向(図中y軸方向)に沿って電極近傍の領域から中央部に向って屈折率が低くなるようにすることができ、レンズとして機能させることができる。そして、各電極への印加電圧を変えることにより、電気光学結晶101中の屈折率も変化するので、電気光学結晶101中から出射する光の屈折も変化し、光の焦点を変えることができるのである。
【0095】
このように、本実施形態に係る可変焦点レンズ100は、電極103a、103b、104a、104bへの印加電圧により生じる電界によって、電気光学結晶101の電極に挟まれていない領域に上述の屈折率分布を持たせている。よって、可変焦点レンズを良好に機能させるためには、電圧を印加した際に、電気光学結晶41を一様に屈折率変化させることが重要となる。第1の実施形態にて説明したように、電圧印加時に、電極から電気光学結晶に電子注入があると、空間電荷制御状態となり、傾斜した電界分布が生じ、一様に屈折率変化させることができない。
【0096】
しかしながら、本実施形態では、カソードとして機能することが可能な電極103a、103b、104a、および104bと電気光学結晶101との間にそれぞれ、チタン酸バリウムからなる絶縁膜102a、102b、102c、および102dを形成している。従って、第1の実施形態と同様に、電圧印加時に各電極から電気光学結晶101へと生じる電子の注入を抑えることができ、上記一様な屈折率変化を図ることができる。
【0097】
なお、本実施形態では、2組の可変焦点レンズを用いることによって、球面レンズを実現することもできる。すなわち、図10および図11の構成の可変焦点レンズをもう一組用意し、光が透過する部分の光軸を一致させて配置する。2つの可変焦点レンズを、光軸を中心に互いに90度の角度で配置することにより、2方向で集光または発散を行うことにより、球面レンズと等価な機能を実現することができる。
【0098】
また、本実施形態において、用いる電気光学結晶は、電気光学効果を起こす透明な物質であればなんでも良い。しかし、電気光学効果の中でも、電界の自乗に比例した屈折率変化が起こる、2次の電気光学効果を有する材料が好適である。2次の電気光学効果の場合は、図12に示したように、屈折率分布Δnは電界成分Exの符号に依存しないので、レンズとして好適な左右対称形になる。
【0099】
結晶内部の電界の大きさは、電極に印加する電圧に比例する。また、屈折率変化は電界の自乗に比例するため、結局、屈折率分布の大きさは電圧の自乗に比例する。これにより、凹レンズの焦点距離は電圧によって制御できる。また、ここでは凹レンズとして機能すると説明したが、電気光学係数の符号は材料や光偏光によって異なるので、凸レンズを実現することもできる。
【0100】
さらに、本実施形態にて用いることが可能な電気光学結晶には、2次の電気光学効果よりも1次の電気光学効果が顕著なものが多い。このような材料の場合、屈折率変化は電界の1乗に比例し、電界成分Exによる屈折率変化は左右対称とならないため、レンズとしてうまく機能しない。しかし、1次の電気光学効果を有する材料でも、材料の方位を選択することなどによって、電界成分Exによる屈折率変化分をほとんどなくして、電界成分Eyによる屈折率変化分を大きくすることができる。電界成分Eyは、1乗でも左右対称となるで、レンズに好適な屈折率変調を発現させることができる。
【0101】
なお、本実施形態では、電気光学結晶101として、KTNについて説明した。KTNを主成分とする単結晶材料は、より好適な特徴を有する。KTNは、主としてタンタルとニオブの組成比により、相転移温度を選択することができる。これにより、室温付近に相転移温度を設定することができる。KTNで2次の電気光学効果を利用するためには、相転移温度よりも高い温度に使用温度を設定して、立方晶相の状態で使用する必要がある。同じ立方晶相にあっても、より相転移温度に近い方が、電気光学効果が圧倒的に大きくなる。このため、室温付近に相転移温度を設定することは、大きな2次の電気光学効果を簡便に実現する上で、非常に重要である。
【0102】
KTNにおいて、相転移温度に近づけると電気光学効果が大きくなるのは、誘電率が急激に高くなるためである。誘電率が高いと、図11に示した電気力線の屈曲が、より急激になる点で、レンズ効果を大きくする利点がある。KTNは、比誘電率が10,000を超えると、電気光学効果の増大の効果も合わせた相乗効果により、例えば、KTN基板に印加する電圧500Vで焦点距離1m以下という、実用上有効な特性が得られる。
【0103】
なお、KTNは、他の電気光学結晶と同様に、静電界の向きと光の振動電界の向きとの関係により、効果が変わる。図11の構成において、偏光は、光振動電界の向きがx軸方向の場合と、z軸方向の場合の2種類がある。それぞれの場合に、光が感じる屈折率変調成分ΔnxとΔnzとは、
【0104】
【数10】
【0105】
となって異なる。ここで、n0は変調前の屈折率である。
【0106】
また、s11とs12は電気光学係数であるが、s11は正なのに対し、s12は負の値を持ち、絶対値はs11の方が大きい。この特徴のため、x偏光の場合は凸レンズ、z偏光の場合は凹レンズと、偏光によって機能が全く変わる。
【0107】
以上説明したように、本発明によれば、入射面の電極から出射面の電極に向かう電気力線の一部が、電極の形成されていない空隙の少なくとも一部で屈曲し、光軸を中心に光が透過する部分の電界を変化させ、入射面の電極と出射面の電極との間の印加電圧を変えることにより、電気光学材料を透過した光の焦点を可変するので、焦点距離の変更を高速に行うことができ、応答時間1msをきることが可能となる。
【0108】
(第2の実施例)
図13に、本実施例にかかる可変焦点レンズの構成を示す。
板状に加工した、KTNからなる電気光学結晶131の第1の面(上面)および該第2の面に対向する第2の面(下面)に、それぞれ1対の電極133a,133bおよび電極134a,134bを設け、電極133a、133b、134a、および134bとの間のそれぞれに、チタン酸バリウムからなる絶縁膜132a、132b、133c、および134dを形成した。電気光学結晶131は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、3mm×3mm×1mmの形状に成形した。電気光学結晶131の6面とも、結晶の(100)面に平行とし、光学研磨を行った。このKTN単結晶は、相転移温度35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用することとした。この温度での比誘電率は20,000である。
【0109】
電極133a、133b、134a、および134bのそれぞれは、0.6mm×2.6mmの方形で、Auを蒸着して形成した。同電位の電極対を平行に配置して、その間の空隙の幅を1.4mmとした。
【0110】
本実施形態の可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を、電極133a,133bの間の空隙に入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向とした。上下電極間に500Vの電圧を印加すると、電極134a,134bの間から出射する光は、x軸方向に広がり、シリンドリカル凹レンズとして機能した。焦点距離は25cmである。ここで、印加電圧を250Vにすると、広がりは小さくなり、焦点距離は約1mになる。これより、印加電圧により、焦点距離を変化させることができる。焦点距離の変更は、印加電圧を変更するだけなので、応答時間は1ms以下である。
【0111】
また、光の進行方向はそのままに、偏光を90度回転させて測定を行う。つまり、光の振動電界の方向をx軸方向とする。この場合は、凸レンズとして機能する。印加電圧が500Vのとき、焦点距離は19cmであり、印加電圧によって焦点距離を変化させることができる。
【0112】
なお、本実施形態では、電極の配置方法は、図10に示した電極配置に限らない。例えば、図14に示すようなリング形状の電極142、143を用いても良い。この場合も、電極142と電気光学結晶101との間にリング形状のチタン酸バリウムからなる絶縁膜141aを配置し、電極143と電気光学結晶101との間にリング形状のチタン酸バリウムからなる絶縁膜141bとを配置する。すなわち、本実施形態では、電極が形成されていない領域の少なくとも一部において、上記電極への電圧印加時に、電極近傍から離れるに従って屈折率が小さくなるように電極を配置することが本質であり、電極の個数や形状は本質ではないのである。そして、電極から電気光学結晶への電子注入を抑制するために、カソードとして機能することが可能な電極と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けることが重要となる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】従来の、電気光学結晶を用いた光位相変調器の構成を示す断面図である。
【図2】従来の、電気光学結晶を用いた光強度変調器の構成を示す断面図である。
【図3】従来の、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた光変調器において、電界傾斜により光が偏向する様子を示す図である。
【図4】(a)および(b)は、本発明の一実施形態に係る、位相変調器の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶内部の電荷による電界傾斜の発生原理を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る、電界傾斜による光の偏向の原理を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る光デバイスにおいて、電気光学結晶への電界印加時に、該電気光学結晶内に一様な電界が印加されることを説明するための図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る、光強度変調器の構成を示す断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る、光強度変調器の動作特性を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの原理を説明するための図である。
【図12】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの電気光学結晶内部における電界強度を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0114】
40 位相変調器
41、101 電気光学結晶
42a、42b、102a、102b、102c、102d 絶縁膜
43、44、103a、103b、104a、104b 電極
100 可変焦点レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスに関し、より詳細には、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた、光強度変調器、位相変調器、可変焦点レンズ等の光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光通信システムの大容量、高速化ならびに高機能化に対する要求は、急激に高まっている。このような、光通信システムに用いられる光信号処理デバイスとして期待されているものに1つに光変調器があり、電気光学結晶を用いた光変調器の開発が進められている。
【0003】
電気光学結晶を用いた光位相変調器は、結晶の屈折率の変化により、結晶を通過する光の速度を変化させて、光の位相を変化させる。また、電気光学結晶を、マッハツェンダ干渉計、マイケルソン干渉計の一方の光導波路に設置すると、結晶に印加する電圧に応じて、干渉計の出力の光強度が変化する。これら干渉計は、光スイッチ、光変調器として用いることができる。特許文献1では、電気光学結晶としてKTN(KTa1-xNbxO3(0<x<1))及びKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1))を用いた光位相変調器や光強度変調器が開示されている。
【0004】
図1に、特許文献1に開示された、電気光学結晶を用いた光位相変調器の構成を示す。光位相変調器は、KTN(KTa1-xNbxO3(0<x<1))やKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1))等の、方形の電気光学結晶1の対向する面に、正極2と負極3とが形成されている。このような構成において、正極2と負極3との間に電圧Vを印加すると、該電圧Vに応じて、電気光学結晶1を伝搬する光の位相が変化する。
【0005】
また、図2に、特許文献1に開示された、電気光学結晶を用いた光位相変調器、偏光子、および検光子を組み合わせた光強度変調器の構成を示す。図2において、電気光学結晶1の入射側に偏光子4を配置し、出射側に検光子5を配置する。偏光子4の透過容易軸を、図2中のx軸方向から45度傾くように設定し(偏光角がx軸に対して45度となるように設定し)、検光子5の透過容易軸を、偏光子4の透過容易軸と直交するように(偏光角がx軸に対して−45度となるように)設定している。電気光学結晶1の結晶軸x,y,zを図2に示したように規定する。
【0006】
さて、電気光学結晶1は、2次の電気光学効果を有するので、該2次の電気光学効果により、屈折率が変化する。従って、正極2と負極3との間に電圧を印加すると伝搬する光の位相が変化し、上記印加電圧に応じて検光子5を通過した出射光の強度が変化する。すなわち、印加電圧に応じて、検光子5を通過した出射光の強度を0%〜100%の間で変調することができる。
【0007】
上記KTNやKLTNは、立方晶かつ大きい2次の電気光学効果を有する誘電体結晶であるので、偏波無依存で低電圧駆動を実現でき、かつ組成に応じて、大きい2次の電気光学効果を発現する温度域を調整できるので、光変調器に用いるのは好ましい。特に、強誘電転移近傍において、比誘電率が大きく変化するので、上記相転移近傍を動作温度に設定して動作させることが好ましい。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/137408号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、光強度変調器において、オーミック接触された電極が形成された電気光学結晶に電圧を印加すると電極から電気光学結晶に電子が注入され、これにより電気光学結晶内に電界傾斜が発生し、該電界傾斜により光が偏向することが知られている(特許文献1参照)。このような電界傾斜による偏向の影響により、消光比が劣化することがある。
【0010】
図3に、図2の光強度変調器において屈折率の変化に傾斜が生じた場合を示す。図3において、正極2と負極3とはオーミック接触しているとする。また、図3の電気光学結晶1は、2次の電気光学定数s11およびs12が、s11:s12=10:−1程度であるとする。
このような構成において、正極2および負極3に対して電圧を印加すると電気光学結晶1中に電界傾斜が生じる。そして、電界傾斜が生じている電気光学結晶1に入射光が入射すると、該入射光の垂直偏光成分6と水平偏光成分7とがそれぞれ偏向する。
【0011】
電気光学効果には偏光依存性があるため、垂直偏光成分に対する屈折率変化の傾斜と、水平偏光成分に対する屈折率変化の傾斜とは異なる。よって、入射光の光軸方向と、垂直偏光成分6の偏向方向との成す角(垂直偏光成分の偏向角)と、入射光の光軸方向と、水平偏光成分7の偏向方向との成す角(水平偏光成分の偏向角)とは異なる。
【0012】
なお、本明細書において、「垂直偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と一致する方向の偏光である。図3で言うと、偏光方向がx軸方向の偏光である。
また、本明細書において、「水平偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と直交する方向の偏光である。図3で言うと、偏光方向がy軸方向の偏光である。
【0013】
図6に、電界傾斜による光の偏向の原理を示す。
図6において、x軸方向は、電気光学結晶1の厚さ方向(図3における、正極2から負極3に、または負極3から正極2に向かう方向)である。電気光学結晶1の厚さ方向(x軸方向)に線形に変化する屈折率n(x)を、x=0における屈折率をnとし、xにおける屈折率nからの屈折率の変化量をΔn(x)として、n(x)=n+Δn(x)とする。光軸に対して垂直な断面における直径がDであるビームが、電気光学結晶1の中を通過する場合、ビームの上端と下端とでの屈折率差は、Δn(D)−Δn(0)で与えられる。ビームが通過する屈折率に傾斜がある部分の長さ、すなわち相互作用長Lとすると、長さLを伝搬後のビームの上端と下端とでの等位相面61にはずれ62が生じる。その上端と下端との等位相面61のずれ62の距離は、次式で与えられる。
【0014】
【数1】
【0015】
このときビームの伝搬方向63の傾きθ(偏向角)は、ずれ62の量がビームの光軸に対して垂直な断面における直径より十分小さいとすると次式となる。
【0016】
【数2】
【0017】
これが電気光学結晶1の端面から屈折率が1と近似できる外部に出射すると、電気光学結晶1と外部との境界面で屈折し、入射光の光軸からのトータルの偏向角は次式となる。
【0018】
【数3】
【0019】
ここで電気光学効果による屈折率の変化を考える。電気光学効果による屈折率の変化は、2次の電気光学効果において次式で与えられる。
【0020】
【数4】
【0021】
電気光学結晶中に電荷を生じさせ、その電荷により電極から発した電界を接地電極に到達する前に終端することによって電界が結晶の厚さ方向で変化している場合で、その電界がE(x)で表されるとすると、偏向角θは次式となる。
【0022】
【数5】
【0023】
これらの式は電界E(x)がxに依存して変化している場合には、ゼロでない偏向角が生じることを示している。
【0024】
図3において、空間電荷制限状態にある厚さdの電気光学結晶1に正極2と接地された負極3との間に電圧Vを印加すると、以下の式で表される電界Eの空間分布が現れる。
【0025】
【数6】
【0026】
ここでxは、負極3から対向する正極2に向かう方向における負極3と接する電気光学結晶1の側面からの位置であり、x0は電気光学結晶と電極の物質により決まる定数である。
【0027】
ここで、電界Eを以下の式で近似すると、
【0028】
【数7】
【0029】
電気光学効果を通じて誘起される屈折率変化Δnは、2次の電気光学効果の場合において、式(4)に式(7)を代入することによって、以下の式で与えられる。
【0030】
【数8】
【0031】
したがって式(5)、(8)から偏向角θ(x)は次式となる。
【0032】
【数9】
【0033】
以上より、電気光学結晶に電圧を印加することにより、電気光学結晶の内部に空間電荷を生じさせ、入射光の光軸に対して垂直な断面に電界の傾斜を生じさせる。この電界の傾斜により、屈折率の変化量に傾斜が生じ、入射光の光軸に対して垂直な断面上の光の進行速度分布に傾斜が生じる。結果として、光が電気光学結晶中を伝搬する間、光の進行方向は、屈折率の傾斜に応じて連続的に変化させられ、偏向角を累積することになる。
【0034】
すなわち、印加電圧により電極から電気光学結晶に電子注入が起こると、電気光学結晶内が空間電荷制御状態となりその大きさが傾斜するような電界分布が発生し、該電界分布により傾斜した屈折率分布が発生する。その結果、電気光学結晶から出射する光は偏向した光となる。
【0035】
上述のように、電気光学結晶1としてのKLTN結晶では、垂直偏光と水平偏光に対する2次の電気光学定数が、s11:s12=10:−1程度であるため、垂直偏光の出射角(偏向角)のみが大きく変化する。すなわち、電気光学結晶1の入射側に偏光子4を配置し、出射側に検光子5を配置して、図3のような光強度変調器を構成すると、上述の偏向の影響により入射光が分離して出射されることになり、消光比の劣化の原因となっていた。従って、より良好な光強度変調の実現のために、上記偏向の影響を抑え、消光比の劣化を抑えることが望まれている。
【0036】
また、位相変調器等の他の光デバイスにおいても、光を導波させる領域に電気光学効果を有する電気光学結晶を用いる場合において、対象となるデバイスの出力結果を良好なものとしたい場合は、電気光学結晶への電圧印加に応じて生じる偏向の影響を抑えることが望まれている。
【0037】
このような要望に応えるために、特許文献1では、電極から電気光学結晶への電子注入を抑えるために、白金等の比較的仕事関数が大きい金属を電極として用いている。すなわち、特許文献1では、電極を、電気光学結晶の電気伝導に寄与するキャリアに対してショットキー接触となるように選択することにより、電気光学結晶内の電界傾斜の発生を抑えている。
【0038】
このように、電極材料を比較的仕事関数が大きい金属とすることにより電極から電気光学結晶への電子注入を抑えることができるので、当時求められていた、動作特性上、出力される光への偏向を望まない光デバイスにおいて、電圧印加による偏向を抑えることが実現でき、当時の要望に十分応えるものであった。
【0039】
しかしながら、近年、上記要望を満たした次の要望として、製造にかかる制限を低減したい、という要望が挙がっている。すなわち、特許文献1では用いる電極材料に制限があるが、該電極材料にかかる制限を緩和しても、電圧印加による偏向の影響を低減できることが望まれている。すなわち、電圧印加による偏向は、上述のように電子注入による屈折率変化の傾斜に起因しているので、該傾斜を抑えるためにも、電気光学結晶への電界印加時に屈折率を一様に変化させることが求められており、これを用いる電極の自由度を向上させて実現することが望まれている。
【0040】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光の導波領域として電気光学結晶を用い、該電気光学結晶に電界を印加する際に、該電界印加に用いる電極の材料の幅を広げつつ、上記電界印加時に電気光学結晶の屈折率を一様に変化させることが可能な光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電気光学効果を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光デバイスであって、前記電気光学結晶と前記第1の電極および第2の電極の少なくとも一方の電極との間に形成され、該電極から前記電気光学結晶への電子の注入を抑制させるための電子注入抑制層を備えることを特徴とする。
【0042】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記電子注入抑制層は、前記電気光学結晶の電子親和力より小さい電子親和力を有する絶縁層であり、前記電子注入抑制層と、前記第1の電極および前記第2の電極のうち前記電子注入抑制層と接する電極とはショットキー接触していることを特徴とする。
【0043】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記電子注入抑制層の材料は、BaTiO3、BST((Ba,Sr)TiO3)、STO(SrTiO3)、SrTa2O6、Sr2Ta2O7、ZnO、HfO2、Ta2O5、SiO2、PZT(Pb(Zr,Ti)O3、PZTN(Pb(Zr,Ti)Nb2O8、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3、SBT(SrBi2Ta2O9)、SBTN(SrBi2(Ta,Nb)2O9、BTO(Bi4Ti3O12)のいずれかであることを特徴とする。
【0044】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は直流電圧であり、前記一方の電極は負極であることを特徴とする。
【0045】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は交流電圧であり、前記第1の電極と前記電気光学結晶との間、および前記第2の電極と前記電気光学結晶との間に前記電子注入抑制層が形成されていることを特徴とする。
【0046】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、前記第1の面が光の入射面であり、前記第2の面が光の出射面であり、前記光を前記入射面の前記第1の電極が形成されていない空隙から入射し、前記出射面の前記第2の電極が形成されていない空隙から出射するように光軸を設定し、前記第1の電極から前記第2の電極に向かう電気力線の一部が、前記空隙で屈曲し、前記光軸を中心に前記光が透過する部分の電界を変化させ、前記第1の電極と前記第2の電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学結晶を透過した光の焦点を可変することを特徴とする。
【0047】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を挟んで平行に配置された2つの方形の電極からなり、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする。
【0048】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を有するリング形状とし、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、電気光学効果を有する電気光学結晶の対向する2面に配置された電極のうち、外部回路から電子が流入することがある電極(電圧印加時にカソードとなることがある電極)と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けているので、電圧印加時に電極から電気光学結晶への電子注入を抑制することができる。よって、一様な屈折率変化を起こすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0051】
本発明の一実施形態は、光が導波する領域に、KTN(KTa1-xNbxO3(0<x<1))やKLTN(K1-yLiyTa1-xNbxO3(0<x<1、0<y<1))等の電気光学効果を有する電気光学結晶を用い、該電気光学結晶に電界を印加するための電極を有する光デバイスにおいて、電気光学結晶に対して電界を印加する場合に、該電気光学結晶内において一様な屈折率変化を生じさせるものである。なお、上記一様な屈折率変化を生じさせるためには、電圧印加時の電極から電気光学結晶への電子注入を抑制することが重要となる。
【0052】
本発明の一実施形態では、上記電子注入の抑制のために、少なくとも、電圧印加時にカソードとして機能することが可能な電極と電気光学結晶との間に、絶縁破壊が起こりにくく、誘電率の高い絶縁膜といった、絶縁層であって、電極への電圧印加時(電気光学結晶への電界印加時)に、該電極から電気光学結晶への電子の注入を抑制させるための層(電子注入抑制層)を設けている。すなわち、対向する面にそれぞれ電極を設けた電気光学結晶を備える光デバイスにおいて、電圧印加中に、外部回路から電子が流入することがある電極(電圧印加時にカソードとして機能することが可能な電極)と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けるのである。なお、直流電圧印加時には、対向する面の一方に配置された電極がカソードとなるので、該電極が「外部回路から電子が流入することがある電極」となる。また、交流電圧印加時には、対抗する面のそれぞれに配置された電極に対して、所定時間毎にカソードとアノードとが入れ替わるので、対抗する面のそれぞれに配置された電極が「外部回路から電子が流入することがある電極」となる。
【0053】
従来では、電極と電気光学結晶とは接触しているので、電子注入抑制の観点から電気光学結晶に接する電極がショットキー接触するような材料を電極材料として選択する必要があったので、用いる電極材料に制限があった。本発明の一実施形態では、カソードとして機能する電極と電気光学結晶との間に上述のような電子注入抑制層を少なくとも設けているので、仕事関数が小さな電極材料を用いても、電極と電子注入抑制層とのショットキー接触を実現することができ、該電子注入抑制層において電子の注入を低減することができる。従って、特許文献1に比べて、用いることが可能な電極材料の幅が広がり、用いる電極材料の自由度を高めることができる。
【0054】
なお、本発明の一実施形態は、位相変調器、光強度変調器、可変焦点レンズ等といった光デバイスに適用することができる。本発明では、本発明の一実施形態をどの光デバイスに適用するかが本質ではなく、電気光学効果を有する電気光学結晶に電圧を印加した際に、該電圧印加による屈折率変化後の電気光学結晶の屈折率を一様にすることが本質である。従って、本発明の一実施形態は、光の導波領域として電気光学結晶を用い、出射光の偏向が好ましくない光デバイスであれば、いずれにも適用することができる。
【0055】
さて、KTN、KLTNは、電界を結晶軸方向に印加すると、大きな二次の電気光学効果を示す。その値は(1200〜8000pm/V)であり、1次の電気光学効果を有する材料であるLiNbO3(LN)の有する非線形定数30pm/Vに比べて著しく大きい。さらに、KTN、KLTNは、TaとNbの組成比を変化させることにより、常誘電性から強誘電性への相転移温度を、ほぼ絶対零度から400℃まで変化させることが可能である。従って、温度コントローラを用いなくても、動作温度を室温等、所望に設定することができる。このように、KTNやKLTNは、光変調器や可変焦点レンズ等の光デバイスに対して好ましい材料である。
【0056】
その他に電気光学定数の大きい電気光学結晶としては、LiNbO3(以下、LNという)、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrxNb2O6(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb2O6、Pb1-yLayTi1-xZrxO3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB2O4、LiB3O5、CsLiB6O10、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnOの電気光学結晶が挙げられる。
【0057】
また、本発明の一実施形態では、電気光学結晶に電界を印加するための電極の電極材料としては、電子注入抑制層とショットキー接触するような材料を所望に応じて選択すれば良い。これは、本発明の目的の1つが、用いる電極材料にかかる制限を緩和することであり、本発明に特徴的な電子注入抑制層を設けることによって上記目的が実現できるからである。
【0058】
(第1の実施形態)
図4は、本実施形態に係る位相変調器の構成を示す断面図である。
図4(a)において、位相変調器40は、電気光学効果を有する電気光学結晶41を備えている。本実施形態では、電気光学結晶41をKTNとして説明する。電気光学結晶41の第1の面には、チタン酸バリウム(BaTiO3)からなる絶縁膜42aが形成されており、該絶縁膜42a上には電極43が形成されている。また、電気光学結晶41の第1の面に対向した第2の面には、チタン酸バリウムからなる絶縁膜42bが形成されており、該絶縁膜42b上には電極44が形成されている。電極43、44はともに、交流電源に接続されている。従って、電極43、44は、交流電源からの電圧状態によってカソード、またはアノードとして機能するので、電極43、44は共に、電圧印加時に電圧状態に応じてカソードとして機能する電極、すなわち、カソードとして機能することが可能な電極となる。よって、図4(a)の構成では、正極として機能する電極43、44と、電気光学結晶41との間にそれぞれ、チタン酸バリウムからなる絶縁膜が形成されているのである。
【0059】
なお、本実施形態では、電極43、44は、チタン/白金/金としている。“チタン/白金/金”とは、チタン上に白金が形成され、該白金上に金が形成されている形態を指し、チタンが対応する絶縁膜上に配置することになる。
【0060】
このような構成において、位相変調時に電極43および44に電圧を印加すると、電極43、44から電気光学結晶41へと電子が移動しようとするが、絶縁膜42a、42bを構成するチタン酸バリウムの電子親和力が、電気光学結晶41を構成するKTNの電子親和力よりも小さいので、電極43、44から電気光学結晶41への電子の注入を抑えることになる。すなわち、絶縁膜42a、42bがチタン酸バリウムであるので、絶縁破壊が起こりにくく、かつ誘電率が高いので、電極43、44から電気光学結晶41へと移動しようとする電子を止めつつ、電界のみを電気光学結晶41に印加することができる。よって、電気光学結晶41中では一様な屈折率変化が起こり、所定の電界印加時の電気光学結晶41の屈折率は一様に分布することになる。すなわち、このとき電気光学結晶41中を伝搬する光は、傾斜した屈折率分布ではなく一様な屈折率を感じるので、偏向されていない光を出射することができる。
【0061】
以下に、電圧印加時に電気光学結晶へと電子が注入されることにより、電気光学結晶内に傾斜した屈折率分布が生じる原理について説明する。
図5に、結晶内部の電荷による電界傾斜の発生原理を示す。
図5示す素子も、正極52と負極53とで平行に挟まれた、電気光学結晶51を備えている。すなわち、図5の素子では、本発明に特徴的な、電子注入を抑制させるための絶縁層としてのチタン酸バリウムは設けられていない。図5において、縦軸を負極53から正極52への距離とし、横軸を電気光学結晶51内の電界の強さとするグラフを示す。
【0062】
図5は、電気光学結晶51内の空間電荷によって空間電荷制限状態が発生した場合を示す。空間電荷制限状態では、電気光学結晶51内に発生した空間電荷によって電界が終端され、電気光学結晶51内の電界分布に傾斜が生じる。この空間電荷は、電気光学結晶51の組成によって正電荷および負電荷のどちらか一方、または正電荷および負電荷の両方であり得る。
【0063】
これに対して、本実施形態では、電気光学結晶への電界印加時に、該電気光学結晶に電界を印加するための電極から電気光学結晶への電子注入を抑制するための絶縁層(図4(a)では、チタン酸バリウムである絶縁膜42a、42b)が電極と電気光学結晶との間に存在しているので、上記電極から電気光学結晶への電子の注入が阻止される。よって、図7に示すように、電気光学結晶41内には空間電荷が存在せず、電極43と電極44との間の全空間に渡って電界が一定となり、電気光学結晶41内における一様な屈折率変化が実現される。
【0064】
このように、本実施形態では、絶縁膜42aおよび42bをそれぞれ、電極43および44と、電気光学結晶41との間に設けているので、従来に比べて電極43および44に用いることができる電極材料の幅を広げつつ、電圧印加時に、電極43、44から電気光学結晶41へと電子が注入されるのを抑制することができる。すなわち、チタン酸バリウムからなる絶縁膜42a、42bの電子親和力はKTNである電気光学結晶41の電子親和力よりも小さい。よって、特許文献1に比べて仕事関数が小さい材料まで電極43、44に適用することができるので、電極43、44として用いることができる電極材料の自由度を向上させつつ、電気光学結晶41に対して一様な電界を印加することができ、電圧印加後の電気光学結晶41内の電界が印加される領域の屈折率を一様にすることができる。
【0065】
なお、本実施形態では、電極と電気光学結晶との間に設ける、電子注入を抑制させるための絶縁層として、強誘電絶縁膜であるチタン酸バリウムを用いているが、これに限定されず、例えば、BST((Ba,Sr)TiO3)、STO(SrTiO3)、SrTa2O6、Sr2Ta2O7、ZnO、HfO2、Ta2O5、SiO2、PZT(Pb(Zr,Ti)O3、PZTN(Pb(Zr,Ti)Nb2O8、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3、SBT(SrBi2Ta2O9)、SBTN(SrBi2(Ta,Nb)2O9、BTO(Bi4Ti3O12)のいずれかを用いても良い。
【0066】
本実施形態で重要なことは、電極に電圧が印加された際に、該電極から電気光学結晶へと電子が注入されるのを抑制することであり、そのために、本実施形態では、電圧印加時において電極から電気光学結晶への電子の移動を抑制するように機能する絶縁層(電子注入抑制層)を介在させている。本実施形態では、このように、少なくとも、動作時に電子が注入される電極と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けているので、該電子注入抑制層が電子注入の抑制機能を果たせる電極であればいずれの電極を用いても、偏向を抑制することができる。
【0067】
また、電子注入抑制層とショットキー障壁がある電極と組み合わせることによって電子注入抑制層において電子の注入抑制効果を大きくすることができるので、より好ましい形態である。このように機能させるためには、用いる電気光学結晶の電子親和力よりも小さい電子親和力を有する絶縁層を用いれば良い。すなわち、本実施形態では、電極が接する対象が電気光学結晶ではなく電子注入抑制層であり、該電子注入抑制層が電気光学結晶よりも小さい電子親和力を有しているので、電極をショットキー接触させる観点からすると、電極と電気光学結晶とを接触させる場合に比べて、電極と電子注入抑制層とを接触させる方が仕事関数を小さくすることができる。従って、電子注入抑制を実現する構成に適用可能な電極材料の種類を、従来よりも多くすることができる。
【0068】
本実施形態において、用いる電気光学結晶はKTNであり、チタン酸バリウムの電子親和力はKTNの電子親和力よりも小さいので、上記好ましい形態で述べた機能を実現することができる。また、強誘電絶縁膜であるチタン酸バリウム層は、絶縁破壊が起こりにくく、高誘電率材料であるので、電圧印加時に、電極から電気光学結晶への電子の移動を抑制しつつ、電極により発生する電界を電気光学結晶に印加させることが可能な層として機能するので好ましいのである。
【0069】
このように、本実施形態のより好ましい形態において、電子注入を抑制させるための絶縁層としては、用いる電気光学結晶の電子親和力よりも小さい電子親和力を有し、用いる電極とショットキー接触するような絶縁層であれば、いずれの材料を用いても良い。
【0070】
また、上記より好ましい形態において重要なことは、上述したように、電子注入抑制層を設けることによって使用可能な電極材料の種類を多くすること、すなわち、電子注入抑制層により、より小さな仕事関数の材料をも電極材料として使用可能にすることである。よって、電子注入抑制層に応じて使用可能な電極材料が決まるのである。例えば、本実施形態の一例として説明したチタン酸バリウムを電子注入抑制層として用いる場合は、チタン/白金/金、クロム/金、金、白金等の、チタン酸バリウムとショットキー接触するような材料を用いれば良いのである。このように、本実施形態では、電極材料は用いる電子注入抑制層に応じて決まるものであり、該電子注入抑制層とショットキー接触するような材料であればいずれの材料を用いることができる。
【0071】
さらに、特許文献1では、KTN等の電気光学結晶に対して電極を形成する前に、電気光学結晶の電極が形成される面に対して所望の平滑度となるように研磨する必要があったが、本実施形態によれば該研磨工程を必要としない。
【0072】
特許文献1における、KTN結晶作製から電極形成までの工程を簡単に説明する。
工程1;KTN結晶を作製する。
工程2;上記作製されたKTN結晶を、ダイシングソー等の物理的手段によって所望の大きさに切り出す。
工程3;上記切り出したKTN結晶の、電極を形成する面に対して、所望の平滑度になるように研磨する。
工程4;研磨された面に電極を形成する。
【0073】
このように、特許文献1では、電極形成の前に研磨工程を行っている。これは、KTN等の電気光学結晶をダイシングソーにより切断する場合、物理的に切断しているので、切断面は粗くなったり、切断面毎に平面の平滑度にばらつきが生じ、該ばらつきによって出力特性もばらつくことがあるので、上記研磨を行うのである。
【0074】
すなわち、KTNの表面に凹凸が多く粗い場合は、該表面に欠陥が多くなり、表面準位が多くなる。このとき、KTNの粗い面上に電極を形成すると、上記表面準位が多いことにより、電子注入が起こりやすくなってしまう。特許文献1では、このような電子注入を抑制することが目的なので、表面準位が多い状態、すなわち、表面が粗い状態を改善させるために研磨を行っている。つまり、特許文献1では、KTNと電極とが接しているので、KTNと電極との界面の粗さが電子注入の起こりやすさと関連することになり、電子注入を低減したいという要望から、上記界面の粗さを低減させるべく研磨を行う必要があるのである。
【0075】
これに対して、本実施形態は、電極を形成する前に、KTN等の電気光学結晶を研磨する必要が無い構成である。以下に本実施形態に係る、KTN結晶作製から電極形成までの工程を簡単に説明する。
工程(a);KTN結晶を作製する。
工程(b);上記作製されたKTN結晶を、ダイシングソー等の物理的手段によって所望の大きさに切り出す。
工程(c);スパッタリング等により、上記切り出したKTN結晶の、電極を形成する面上に、チタン酸バリウム層(電子注入抑制層)を形成する。
工程(d);チタン酸バリウム層上に電極を形成する。
【0076】
本実施形態では、電子を注入したくない層であるKTNと接するのは、電子注入抑制層であるチタン酸バリウム層である。すなわち、工程(b)において切り出されたKTN結晶の切断面上に形成されるのが電極ではなく、チタン酸バリウム層であるので、上記切断面が粗くても、KTN表面の表面準位によって電子注入が起こりやすくなる、ということは無い。従って、本実施形態によれば、工程(b)と工程(c)との間で、KTN結晶表面の研磨工程を行う必要が無いのである。なお、本実施形態では、工程(b)と工程(c)との間で、KTN結晶表面の研磨工程を行っても良いことは言うまでも無い。
【0077】
また、従来では上述のように、出力特性が電気光学結晶の表面性に依存しており、物理的な切断を行っているので、切り出された電気光学結晶毎に、表面性にばらつきが生じてしまうことがある。そこで、切り出された電気光学結晶の各々の表面性を統一するためにも、従来では、目標値となるように表面を研磨している。すなわち、従来では、電極が形成される面が、電子注入をなるべく起こしたくない電気光学結晶の一面であるので、切り出された電気光学結晶毎に出力特性を均一にするためには、研磨を行うことにより電極が形成される面の表面性を素子毎に統一する必要があるのである。
【0078】
これに対して、本実施形態では、電子注入をなるべく起こしたくない電気光学結晶ではなく、電子の注入を抑制させるための層(電子注入抑制層)であるので、切り出された電気光学結晶毎にその表面性にばらつきがあったとしても、作製後の素子毎の出力特性のばらつきを抑えることができる。
【0079】
また、本実施形態では、チタン酸バリウム等の電子注入抑制層をスパッタリング等の化学的手法によって形成しているので、電子注入抑制層の形成時の条件を同じにすれば、出来上がる電子注入抑制層の表面をほぼ統一することができる。従って、研磨を行わなくても、素子毎の電子注入抑制層の表面の表面性を統一することができ、素子毎の出力特性の統一を図ることができる。
【0080】
なお、本実施形態では、電極43、44に接続する電源を交流電源としているが、直流電源であっても良い。この場合は、電極43、44のうち、カソードとなる電極と電気光学結晶41との間に、チタン酸バリウムからなる絶縁膜を少なくとも設けるようにすれば良い。すなわち、本実施形態で重要なことは、電圧印加時に電極から電気光学結晶へと流入される電子を、上記絶縁膜によって抑制することであるので、カソードとして機能することが可能な電極と電気光学結晶との間に上記絶縁膜を設けさえすれば良いのである。ここで、アノードとして機能する電極と電気光学結晶との間にも上記絶縁膜を設けても良いことは言うまでも無い。
【0081】
図4(b)は、本実施形態に係る位相変調器に直流電源を接続した構成を示す図である。
図4(b)において、電気光学結晶41の第1の面には正極45が形成されており、該第1の面に対向する第2の面には電子注入抑制層としてのチタン酸バリウムからなる絶縁膜47が形成されており、該該絶縁膜47上には、負極46が形成されている。
【0082】
このように、図4(b)に示す位相変調器では、カソードとして機能する電極、すなわち負極46と電気光学結晶41との間に電子注入抑制層が設けられている。従って、変調時に直流電源によって各電極に電圧を印加しても、絶縁膜47により負極46から電気光学結晶41への電子注入を抑制することができるので、電圧印加の際の電気光学結晶41の屈折率変化を一様にすることができる。
【0083】
(第1の実施例)
図8に、本実施例にかかる光強度変調器80の構成を示す。
図8において、電気光学結晶41の入射側に偏光子81を配置し、出射側に検光子82を配置した。電気光学結晶41は、KTN(KTa1-xNbxO3において、x=0.4)とした。電気光学結晶41の上面と下面とにPtの正極42および負極43を形成する。電気光学結晶41のサイズは、縦6mm(z軸)×横5mm(y軸)×厚さ0.5mm(x軸)であり、正極42、負極43のサイズは、縦5mm×横3mmである。
【0084】
偏光子81の透過容易軸を、図8中のx軸方向から45度傾くように設定し(偏光角がx軸に対して45度となるように設定し)、検光子82の透過容易軸を、偏光子81の透過容易軸と直交するように(偏光角がx軸に対して−45度となるように)設定した。
【0085】
KTN結晶の相転移温度は、55℃であり、電気光学結晶41の温度を60℃に設定する。入射光は、He−Neレーザを用いた。正負電極間に・・Vの電圧を印加したとき、出射光の偏光方向が入射光の偏光方向に対して、90度回転する。電極43と電極44との間の印加電圧が増大するのに伴って、出射光がオンオフを繰り返し、図9に示した動作特性を有する光強度変調器80を構成することができる。
【0086】
(第2の実施形態)
上述したように、電気光学結晶と、該電気光学結晶に電圧を印加するための電極のうち、カソードとして機能することが可能な電極との間に、電子注入抑制層を設けることによって、電子注入を抑制、あるいは阻止することができ、電圧印加により電気光学結晶の一様な屈折率変化を実現することができる。本発明の電子注入抑制層を設ける形態は、可変焦点レンズに適用することができる。このように、本実施形態に係る可変焦点レンズにおいては、電気光学結晶に電圧を印加することにより該電気光学結晶の屈折率が下がり、焦点位置を遠方に可変することが可能となる。
【0087】
図10に、本実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。
図10において、可変焦点レンズ100は、電気光学効果を有する電気光学結晶101を備えている。本実施形態では、電気光学結晶101をKTNとして説明する。電気光学結晶101の第1の面には、チタン酸バリウムからなる、絶縁膜102aおよび絶縁膜102bが所定の距離だけ離れて形成されており、絶縁膜102a上には電極103aが形成され、絶縁膜102b上には電極103bが形成されている。また、電気光学結晶101の第1の面に対向した第2の面には、チタン酸バリウムからなる、絶縁膜102cおよび絶縁膜102dが上記所定の距離だけ離れて形成されており、絶縁膜102c上には電極104aが形成され、絶縁膜102d上には電極104bが形成されている。電極43、44はともに、交流電源に接続されている。
【0088】
ここでは、同じ大きさの電極を、電気光学結晶101の第1の面または第2の面のz軸方向の中心線に対して線対称に配置している。このような配置により、電圧を電極103a(103b)から電極104a(104b)へ、またはその逆に印加することができる。なお、電極103a,103bの各々は等しい電位とし、電極104a,104bの各々も等しい電位とする。光は、同電位の電極対の間の空隙を通過するように光軸を設定する。
【0089】
図11を参照して、本実施形態にかかる可変焦点レンズの原理を説明する。図10に示した可変焦点レンズにおいて、電極103a,103bに正の電圧、電極104a,104bに負の電圧をかける。このとき、通常のコンデンサと同様、電界は上下に向かい合った電極同士の間を、電極103a,103bから電極104a,104bに向った状態で発生する。また、電界は、上下の電極の間だけでなく、その周囲にも発生し、同電位の電極対の間にある光が透過する部分にも発生する。このはみ出した電界により、電気光学結晶101には、電気光学効果が発生し、光が透過する部分の屈折率が変調される。
【0090】
光が透過する部分の電界分布と屈折率変調について説明する。電気光学結晶は、一般的に比誘電率が1より十分に大きい。このため、電気光学結晶101の内部の電界の電気力線は、表面付近では、電気光学結晶の表面に対して平行に近くなる(符号111a,111b参照)。電極103aから図中右方向へ進む電気力線111aは、電極103aを出た後、そのまま電気光学結晶101の第1の面にほぼ平行に進む。一方、電極103bから図中左方向へ進む電気力線111bも、電極103bを出た後、そのまま電気光学結晶101の第1の面にほぼ平行に進む。2つの電気力線111a,111bは、電極103a,103bの中央でぶつかるので、そこから大きく向き変え、電気光学結晶101の図中下方向へ進む。電気力線111a,111bは、その後第2の面に達し、大きく向きを変えて、互いに反対方向に進み、それぞれ電極104a,104bまで進む。
【0091】
このように、電気光学結晶101の内部で、表面付近を進む電気力線は、同電位の電極対の間の空隙において急激に屈曲するので、この屈曲部分では電界が大きく変化し、光軸を中心に、光が透過する部分で電界が変化して、屈折率が変調される。すなわち、入射面としての第1の面に配置された電極103a(103b)から出射面としての第2の面に配置された電極104a(104b)に向かう電気力線の一部が、上記空隙で屈曲し、上記光軸を中心に光が透過する部分の電界を変化させている。
【0092】
図12(a)〜(c)に、電気光学結晶内部における電界強度を示す。
図12(a)は、電気光学結晶101の第1の面付近のx軸方向の、電界成分Exの分布を示す。横軸は、同電位の電極対の間にある光が透過する部分のx軸方向の位置を表している。図11に示すように、中央部を境に、左と右とでは電気力線の向きが180度異なるため、このような分布となる。図12(b)は、同じくx軸方向の各々の位置におけるy軸方向の電界成分Eyの分布を示す。電界成分Eyは、向きは変わらないが、電極に近づくほど大きくなる。
【0093】
このような電界分布により、図12(c)に示したように、x軸方向の屈折率が変調される。屈折率変調が起こると、電気光学結晶101の中央部付近、すなわち光軸付近は、中央部からx軸方向に離れて、電極対に近い部分よりも屈折率が低いため、光は高速で進行し、中心部から電極対に近い部分ほど、光の速度は遅くなる。このため、電気光学結晶1を透過した光の波面は、中央部付近よりも電極対に近い部分で遅れた形となり、凹レンズとして機能する。光が透過する部分をレンズとして考えると、集光または発散の効果の強いレンズを実現することができる。図10および図11の構成では、x軸方向にのみ集光または発散が起こり、z方向での集散は起こらないので、一般的な球面レンズではなく、いわゆるシリンドリカルレンズとして機能する。
【0094】
このとき、電極103a、103bと、電極104a、104bとの間の印加電圧を変えることにより、電気光学結晶101を透過した光の焦点を可変することができる。
すなわち、本実施形態では、光が、第1の面において電極103aと電極103bとの間の第1の領域から入射し、第2の面において電極104aと電極104bとの間の第2の領域から出射するように光軸が設定されている。そして、各電極に電圧を印加することにより、第1の領域において、電極103aから電極103bに向う方向に沿って中央部付近の屈折率が、電極103a、103b付近の屈折率よりも小さくなるように電極を配置することが重要となる。このように配置することによって、電圧印加時には、電極103aおよび電極104aと、電極103bおよび電極104bとの間の領域において、電気光学結晶101の厚さ方向(図中y軸方向)に沿って電極近傍の領域から中央部に向って屈折率が低くなるようにすることができ、レンズとして機能させることができる。そして、各電極への印加電圧を変えることにより、電気光学結晶101中の屈折率も変化するので、電気光学結晶101中から出射する光の屈折も変化し、光の焦点を変えることができるのである。
【0095】
このように、本実施形態に係る可変焦点レンズ100は、電極103a、103b、104a、104bへの印加電圧により生じる電界によって、電気光学結晶101の電極に挟まれていない領域に上述の屈折率分布を持たせている。よって、可変焦点レンズを良好に機能させるためには、電圧を印加した際に、電気光学結晶41を一様に屈折率変化させることが重要となる。第1の実施形態にて説明したように、電圧印加時に、電極から電気光学結晶に電子注入があると、空間電荷制御状態となり、傾斜した電界分布が生じ、一様に屈折率変化させることができない。
【0096】
しかしながら、本実施形態では、カソードとして機能することが可能な電極103a、103b、104a、および104bと電気光学結晶101との間にそれぞれ、チタン酸バリウムからなる絶縁膜102a、102b、102c、および102dを形成している。従って、第1の実施形態と同様に、電圧印加時に各電極から電気光学結晶101へと生じる電子の注入を抑えることができ、上記一様な屈折率変化を図ることができる。
【0097】
なお、本実施形態では、2組の可変焦点レンズを用いることによって、球面レンズを実現することもできる。すなわち、図10および図11の構成の可変焦点レンズをもう一組用意し、光が透過する部分の光軸を一致させて配置する。2つの可変焦点レンズを、光軸を中心に互いに90度の角度で配置することにより、2方向で集光または発散を行うことにより、球面レンズと等価な機能を実現することができる。
【0098】
また、本実施形態において、用いる電気光学結晶は、電気光学効果を起こす透明な物質であればなんでも良い。しかし、電気光学効果の中でも、電界の自乗に比例した屈折率変化が起こる、2次の電気光学効果を有する材料が好適である。2次の電気光学効果の場合は、図12に示したように、屈折率分布Δnは電界成分Exの符号に依存しないので、レンズとして好適な左右対称形になる。
【0099】
結晶内部の電界の大きさは、電極に印加する電圧に比例する。また、屈折率変化は電界の自乗に比例するため、結局、屈折率分布の大きさは電圧の自乗に比例する。これにより、凹レンズの焦点距離は電圧によって制御できる。また、ここでは凹レンズとして機能すると説明したが、電気光学係数の符号は材料や光偏光によって異なるので、凸レンズを実現することもできる。
【0100】
さらに、本実施形態にて用いることが可能な電気光学結晶には、2次の電気光学効果よりも1次の電気光学効果が顕著なものが多い。このような材料の場合、屈折率変化は電界の1乗に比例し、電界成分Exによる屈折率変化は左右対称とならないため、レンズとしてうまく機能しない。しかし、1次の電気光学効果を有する材料でも、材料の方位を選択することなどによって、電界成分Exによる屈折率変化分をほとんどなくして、電界成分Eyによる屈折率変化分を大きくすることができる。電界成分Eyは、1乗でも左右対称となるで、レンズに好適な屈折率変調を発現させることができる。
【0101】
なお、本実施形態では、電気光学結晶101として、KTNについて説明した。KTNを主成分とする単結晶材料は、より好適な特徴を有する。KTNは、主としてタンタルとニオブの組成比により、相転移温度を選択することができる。これにより、室温付近に相転移温度を設定することができる。KTNで2次の電気光学効果を利用するためには、相転移温度よりも高い温度に使用温度を設定して、立方晶相の状態で使用する必要がある。同じ立方晶相にあっても、より相転移温度に近い方が、電気光学効果が圧倒的に大きくなる。このため、室温付近に相転移温度を設定することは、大きな2次の電気光学効果を簡便に実現する上で、非常に重要である。
【0102】
KTNにおいて、相転移温度に近づけると電気光学効果が大きくなるのは、誘電率が急激に高くなるためである。誘電率が高いと、図11に示した電気力線の屈曲が、より急激になる点で、レンズ効果を大きくする利点がある。KTNは、比誘電率が10,000を超えると、電気光学効果の増大の効果も合わせた相乗効果により、例えば、KTN基板に印加する電圧500Vで焦点距離1m以下という、実用上有効な特性が得られる。
【0103】
なお、KTNは、他の電気光学結晶と同様に、静電界の向きと光の振動電界の向きとの関係により、効果が変わる。図11の構成において、偏光は、光振動電界の向きがx軸方向の場合と、z軸方向の場合の2種類がある。それぞれの場合に、光が感じる屈折率変調成分ΔnxとΔnzとは、
【0104】
【数10】
【0105】
となって異なる。ここで、n0は変調前の屈折率である。
【0106】
また、s11とs12は電気光学係数であるが、s11は正なのに対し、s12は負の値を持ち、絶対値はs11の方が大きい。この特徴のため、x偏光の場合は凸レンズ、z偏光の場合は凹レンズと、偏光によって機能が全く変わる。
【0107】
以上説明したように、本発明によれば、入射面の電極から出射面の電極に向かう電気力線の一部が、電極の形成されていない空隙の少なくとも一部で屈曲し、光軸を中心に光が透過する部分の電界を変化させ、入射面の電極と出射面の電極との間の印加電圧を変えることにより、電気光学材料を透過した光の焦点を可変するので、焦点距離の変更を高速に行うことができ、応答時間1msをきることが可能となる。
【0108】
(第2の実施例)
図13に、本実施例にかかる可変焦点レンズの構成を示す。
板状に加工した、KTNからなる電気光学結晶131の第1の面(上面)および該第2の面に対向する第2の面(下面)に、それぞれ1対の電極133a,133bおよび電極134a,134bを設け、電極133a、133b、134a、および134bとの間のそれぞれに、チタン酸バリウムからなる絶縁膜132a、132b、133c、および134dを形成した。電気光学結晶131は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、3mm×3mm×1mmの形状に成形した。電気光学結晶131の6面とも、結晶の(100)面に平行とし、光学研磨を行った。このKTN単結晶は、相転移温度35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用することとした。この温度での比誘電率は20,000である。
【0109】
電極133a、133b、134a、および134bのそれぞれは、0.6mm×2.6mmの方形で、Auを蒸着して形成した。同電位の電極対を平行に配置して、その間の空隙の幅を1.4mmとした。
【0110】
本実施形態の可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を、電極133a,133bの間の空隙に入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向とした。上下電極間に500Vの電圧を印加すると、電極134a,134bの間から出射する光は、x軸方向に広がり、シリンドリカル凹レンズとして機能した。焦点距離は25cmである。ここで、印加電圧を250Vにすると、広がりは小さくなり、焦点距離は約1mになる。これより、印加電圧により、焦点距離を変化させることができる。焦点距離の変更は、印加電圧を変更するだけなので、応答時間は1ms以下である。
【0111】
また、光の進行方向はそのままに、偏光を90度回転させて測定を行う。つまり、光の振動電界の方向をx軸方向とする。この場合は、凸レンズとして機能する。印加電圧が500Vのとき、焦点距離は19cmであり、印加電圧によって焦点距離を変化させることができる。
【0112】
なお、本実施形態では、電極の配置方法は、図10に示した電極配置に限らない。例えば、図14に示すようなリング形状の電極142、143を用いても良い。この場合も、電極142と電気光学結晶101との間にリング形状のチタン酸バリウムからなる絶縁膜141aを配置し、電極143と電気光学結晶101との間にリング形状のチタン酸バリウムからなる絶縁膜141bとを配置する。すなわち、本実施形態では、電極が形成されていない領域の少なくとも一部において、上記電極への電圧印加時に、電極近傍から離れるに従って屈折率が小さくなるように電極を配置することが本質であり、電極の個数や形状は本質ではないのである。そして、電極から電気光学結晶への電子注入を抑制するために、カソードとして機能することが可能な電極と電気光学結晶との間に電子注入抑制層を設けることが重要となる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】従来の、電気光学結晶を用いた光位相変調器の構成を示す断面図である。
【図2】従来の、電気光学結晶を用いた光強度変調器の構成を示す断面図である。
【図3】従来の、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた光変調器において、電界傾斜により光が偏向する様子を示す図である。
【図4】(a)および(b)は、本発明の一実施形態に係る、位相変調器の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶内部の電荷による電界傾斜の発生原理を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る、電界傾斜による光の偏向の原理を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る光デバイスにおいて、電気光学結晶への電界印加時に、該電気光学結晶内に一様な電界が印加されることを説明するための図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る、光強度変調器の構成を示す断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る、光強度変調器の動作特性を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの原理を説明するための図である。
【図12】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの電気光学結晶内部における電界強度を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る、可変焦点レンズの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0114】
40 位相変調器
41、101 電気光学結晶
42a、42b、102a、102b、102c、102d 絶縁膜
43、44、103a、103b、104a、104b 電極
100 可変焦点レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、
前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光デバイスであって、
前記電気光学結晶と前記第1の電極および第2の電極の少なくとも一方の電極との間に形成され、該電極から前記電気光学結晶への電子の注入を抑制させるための電子注入抑制層を備えることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記電子注入抑制層は、前記電気光学結晶の電子親和力より小さい電子親和力を有する絶縁層であり、
前記電子注入抑制層と、前記第1の電極および前記第2の電極のうち前記電子注入抑制層と接する電極とはショットキー接触していることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記電子注入抑制層の材料は、BaTiO3、BST((Ba,Sr)TiO3)、STO(SrTiO3)、SrTa2O6、Sr2Ta2O7、ZnO、HfO2、Ta2O5、SiO2、PZT(Pb(Zr,Ti)O3、PZTN(Pb(Zr,Ti)Nb2O8、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3、SBT(SrBi2Ta2O9)、SBTN(SrBi2(Ta,Nb)2O9、BTO(Bi4Ti3O12)のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は直流電圧であり、
前記一方の電極は負極であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項5】
前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は交流電圧であり、
前記第1の電極と前記電気光学結晶との間、および前記第2の電極と前記電気光学結晶との間に前記電子注入抑制層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項6】
前記第1の面が光の入射面であり、前記第2の面が光の出射面であり、
前記光を前記入射面の前記第1の電極が形成されていない空隙から入射し、前記出射面の前記第2の電極が形成されていない空隙から出射するように光軸を設定し、
前記第1の電極から前記第2の電極に向かう電気力線の一部が、前記空隙で屈曲し、前記光軸を中心に前記光が透過する部分の電界を変化させ、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学結晶を透過した光の焦点を可変することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項7】
前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を挟んで平行に配置された2つの方形の電極からなり、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を有するリング形状とし、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項1】
電気光学効果を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶の第1の面に配置された第1の電極と、
前記電気光学結晶の第1の面と対向する第2の面に配置された第2の電極とを備えた光デバイスであって、
前記電気光学結晶と前記第1の電極および第2の電極の少なくとも一方の電極との間に形成され、該電極から前記電気光学結晶への電子の注入を抑制させるための電子注入抑制層を備えることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記電子注入抑制層は、前記電気光学結晶の電子親和力より小さい電子親和力を有する絶縁層であり、
前記電子注入抑制層と、前記第1の電極および前記第2の電極のうち前記電子注入抑制層と接する電極とはショットキー接触していることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記電子注入抑制層の材料は、BaTiO3、BST((Ba,Sr)TiO3)、STO(SrTiO3)、SrTa2O6、Sr2Ta2O7、ZnO、HfO2、Ta2O5、SiO2、PZT(Pb(Zr,Ti)O3、PZTN(Pb(Zr,Ti)Nb2O8、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3、SBT(SrBi2Ta2O9)、SBTN(SrBi2(Ta,Nb)2O9、BTO(Bi4Ti3O12)のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は直流電圧であり、
前記一方の電極は負極であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項5】
前記第1の電極および第2の電極に印加される電圧は交流電圧であり、
前記第1の電極と前記電気光学結晶との間、および前記第2の電極と前記電気光学結晶との間に前記電子注入抑制層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項6】
前記第1の面が光の入射面であり、前記第2の面が光の出射面であり、
前記光を前記入射面の前記第1の電極が形成されていない空隙から入射し、前記出射面の前記第2の電極が形成されていない空隙から出射するように光軸を設定し、
前記第1の電極から前記第2の電極に向かう電気力線の一部が、前記空隙で屈曲し、前記光軸を中心に前記光が透過する部分の電界を変化させ、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学結晶を透過した光の焦点を可変することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項7】
前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を挟んで平行に配置された2つの方形の電極からなり、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記第1の電極および前記第2の電極の各々は、前記空隙を有するリング形状とし、前記第1の電極および前記第2の電極を対向させて配置したことを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−26079(P2010−26079A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185039(P2008−185039)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】
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