説明

光デバイス

【課題】集光強度の増加によってSNRを改善し高速応答を実現すると共に、パラレル光配線時にチャンネル間のクロストークを低減することができる光デバイスを提供する。
【解決手段】第1多層膜11及び第2多層膜12は、それぞれ、高屈折率層15と低屈折率層16とからなる特定パターン層Pが、入射光の波長について低屈折率バンド端近傍のフォトニックバンド特性を持つ周期で繰り返し積層された周期構造体と、この周期構造体の低屈折率層16端側にさらに積層された補助低屈折率層17とを含む構造である。金属膜13は、スーパーオシレーション条件を満足する規則的なパターンで設けられた複数の開口部14を有し、第1多層膜11の補助低屈折率層17と第2多層膜12の補助低屈折率層17との間における入射光の光軸方向に分布する光量が極大とならない位置に挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーギャップを介して光波長以下のスポット径に集光可能な光デバイスに関し、より特定的には、光集積回路のパラレル光配線の光電変換部において高速応答に必要なナノオーダーの集光ビーム径を用いつつ、チャンネル間クロストークを低減できる光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高速情報通信インフラの整備に伴い、大容量データの演算、蓄積、及び表示を行うデジタル関連機器が急速に発展してきている。この大容量データを扱うためには、電子機器内のボード間やボード上のチップ間等、比較的短距離の情報伝送において、信号伝送の高速化や信号配線の高密度化が要求される。しかしながら、電気信号を用いた配線では、配線の時定数による信号遅延やノイズ発生等の問題があるため、伝送速度の高速化や配線の高密度化にも限界がある。
【0003】
こうした問題を解決するために、光信号を用いた光配線が注目されている。この光配線とは、光信号を伝送するために用いられる光伝送路であり、典型的には光導波路である。例えば、基板に実装された第1チップから第2チップへ信号を短距離伝送する場合、第1チップと第2チップとの間に光導波路で光配線を形成する。第1チップが出力する電気信号は、レーザ光に変調されて光導波路を伝搬した後、再び電気信号に復調されて第2チップへ出力される。
【0004】
この光配線においては、微細及び集積化が要求され、光配線の線幅、線間間隔、及び導波路−受光素子間の距離は、おおよそ数百nm〜数十μmである。このため、適応可能な微小レンズの作製及び実装にコストがかかるとの理由から、屈折レンズを使用しないで光導波路と受光素子とを結合するバットジョイント(butt joint)が主流となっている。
【0005】
ところが、バットジョイントでは、光導波路から受光素子へ入射される光が拡散光となるため、受光部分でのビーム径が大きくなり受光素子の応答速度が遅くなる。また、複数の光配線(チャンネル)がパラレルに配置されたパラレル光配線においては、あるチャンネルの光導波路からの拡散光が他のチャンネルの受光素子で受信される等、チャンネル間のクロストークが問題となっている。
【0006】
受光素子を10Gbps以上で高速応答をさせるためには、受光径を波長以下のナノオーダーにする必要があり、これを実現させるために回折限界を超える光学構成が様々に提案されている。その中の1つとして、光の波長λよりも十分に小さい開口部を有する金属膜に光を入射させた時に開口部からしみ出す近接場光を利用して、金属膜の開口部近傍に配置した受光素子の受光部分に回折限界を超える波長以下のスポット径を形成する構成が提案されている。
しかしながら、この構成では、開口部が微小であるため、受光部分に受光される光量が小さく信号対雑音比(SNR)が悪いという問題がある。
【0007】
そこで、金属膜上の開口部の周囲に表面周期構造を設け、この周期構造を介して金属膜への入射光とプラズモンとを共鳴させることで、開口部から波長以下のスポット径のエバネセント波を増強して光量不足を解決する技術がある(例えば、特許文献1を参照)。
しかしながら、近接場光は開口部からの距離が離れるにつれて急速に減衰する性質があるので、いくら近接場光の強度が増強されても、開口部と受光部分との距離は、約λ/4以下に制限されてしまう。一方、光導波路と金属膜状の開口部との間は、数μm以上のバットジョイントであるため、多チャンネルのパラレル光配線の場合は、他チャンネルの光導波路からの拡散光が金属膜上の開口部に到達するためクロストークが避けられない。
【0008】
この近接場光を利用した受光系で多チャンネル時のクロストークの問題を解決する方法として、波長多重光を利用し、金属膜の表面に設けられた各波長に対応する複数の開口部と、各開口部を中心に同心円状の各波長に対応した異なる周期の周期構造とを有し、各波長をそれぞれ表面プラズモンに変換して電気的に分離された受光部で受光する技術がある(例えば、特許文献2を参照)。
しかしながら、同一導波路で伝送されかつ金属膜上の同一位置に照射される波長多重光を複数の開口部へ効率良く入射させるためには、複数の開口部の相互間隔を非常に小さくする必要がある。このため、各開口部の周囲に同心円状の各波長に対応した周期構造が他波長の周期構造と複雑に交差するため、チャンネル数の増加に伴って作製が困難になるだけでなく、各波長に対応した同心円状の周期構造の複雑な交差の増加により、異波長で励振されたプラズモンが結合してクロストークの原因となる。
【0009】
一方、近接場光を利用しないで波長以下のナノオーダーの集光スポット径を得る方法も数々報告されている。
【0010】
まず、2000年に、エバネセント波の増幅作用に起因する従来の回折限界を受けずに点光源を完全な点光源に集光できるパーフェクトレンズ効果が、理論的に証明された(非特許文献1を参照)。よって、このパーフェクトレンズ効果を有する負屈折材料をレンズとして使用すれば、光導波路からの入射光を波長以下のナノオーダーの受光径に集光できるだけでなく、多チャンネルのパラレル光配線であっても各チャンネル導波路からの入射光をクロストーク無く各チャンネルの受光素子に集光することができる。
しかしながら、現時点では、パーフェクトレンズ効果を有する負屈折材料を工業的に製造できる技術が無いので、実現するのは困難である。
【0011】
また、従来は波長以下の解像度を得るには上述のようにエバネセント光の利用が不可欠と考えられていたが、2006年に、スーパーオシレーションを利用すればエバネセント光を利用しなくても伝搬光のみで波長以下の解像度が得られることが、理論的に証明された(非特許文献2を参照)。この結果を受け、金属膜上にスーパーオシレーション条件を満足するナノホールパターン(ペンローズパターン)を設け、回折光の干渉によるTalbot効果のセルフイメージング位置(Talbot Distance =2a2/λ(a:ナノホール間最小距離、λ:波長)の倍数)に波長以下のスポット径の集光を実現した報告がある(非特許文献3を参照)。この光学的なスーパーオシレーションは、光源の周波数よりも小さな空間周波数の伝搬光で構成されるので、原理的には開口部と受光部分との間にエバネセント光を利用した場合に比較して大きなエアーギャップを実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2005/029164号パンフレット(第1図)
【特許文献2】特開2009−8724号公報(第1図)
【特許文献3】特開昭60−10685号公報(第1図)
【特許文献4】特開2001−110635号公報(第2図)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ジェー・ビー・ペンドリ(J.B.Pendry)著、「ネガティブ・リフラクション・メイクス・ア・パーフェクト・レンズ(Negative Refraction Makes a Perfect Lens)」、フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)、第85巻、第18号、2000年、第3966−3969頁
【非特許文献2】エム・ブイ・ベリー(M.V.Berry)及びエス・ポペスクー(S.Popescu)著、「エボリューション・オブ・クワンタム・スーパーオシレーションズ・アンド・オプティカル・スーパーリゾリューション・アンド・ウイザウト・エバネセント・ウエーブス(Evolution of quantum superoscillations and optical superresolution without evanescent waves)」、ジャーナル・オブ・フィジクス・エイ:マテマティカル・アンド・ジェネラル(Journal of Physics A: Mathematical and General)、第39巻、2006年、第6965−6977頁
【非特許文献3】フ・ミン・ファン(Fu.Min.Huang)、ツン・シェン・カオ(Tsung.Sheng.Kao)、ヴァシリ・エイ・フェドトフ(Vassili.A.Fedotov)、イーファン・チェン(Yifang.Chen)、及びニコライ・アイ・ゼルドフ(Nikolay I.Zheludev)著、「ナノホール・アレイ・アズ・ア・レンズ(Nanohole Array as a Lens)」、ナノ・レターズ(Nano Letters)、第8巻、第8号、2008年、第2469−2472頁、第1図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記非特許文献3に記載の技術では、パーフェクトレンズ同様に波長以下のナノオーダーの集光径を実現しつつクロストークを低減する効果はある。しかし、Talbot効果のセルフイメージングによる集光は、パーフェクトレンズとは異なり、金属膜での透過損失及び自由空間での拡散が大きいので、中心軸(光軸)からの距離で光学特性が変化する従来のバルク型レンズによる伝搬光の集光に比べてエネルギー効率が悪い。例えば、非特許文献3では、a=1200nm及びλ=660nmで金属膜から約11μmの位置に波長以下ビーム径に集光することが報告されているが、光量低下により受光部分の受光量が少なくなりSNRが悪化し、実質的に高速応答できないという問題がある。
【0015】
そこで、上記特許文献1及び2に記載された金属の表面プラズモンを増強する方法と異なる技術として、層状の発光源の半導体やファラデー素子の誘電体を光軸方向に半波長程度の屈折率の周期構造を有する多層膜で挟み込むことで共振器を形成し、半導体層や誘電体層の内部において電子とフォトンとの相互作用を増強する方法がある(例えば、特許文献3及び4を参照)。
【0016】
この方法では、図8に示すように、高屈折率層15と低屈折率層16とが繰り返し積層された第1多層膜110と、同様に高屈折率層15と低屈折率層16とが繰り返し積層された第2多層膜120との間に、半導体層/誘電体層200を挟み込んだ構造を用いる。そして、図9に示す屈折率の周期構造を有する多層膜のフォトニックバンド特性(分散特性)のフォトニックバンドギャップ部分を利用し、半導体層/誘電体層200の内部で共振させることでQ値の大きな光量の極大部分を形成し、光軸方向zにそれぞれQ値の大きな出力や大きなファラデー回転角を得るものである。
【0017】
この特許文献3及び4に記載の共振構造を非特許文献3に記載の技術に組み合わせることが考えられる。ところが、これらを組み合わせて金属膜位置に光量の極大部分を形成しても、金属はプラズマ周波数以上の光の周波数は透過できない(反射する)。このため、金属膜位置で光量を極大化しても透過損失(反射量)が増加するだけで逆効果である。
【0018】
それ故に、本発明の目的は、スーパーオシレーション条件を満足する伝搬光による波長以下の集光を使用する光配線の受光系において、集光強度の増加によってSNRを改善し高速応答を実現する光デバイスを提供することである。また、本発明の目的は、パラレル光配線時にチャンネル間のクロストークを低減することができる光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、入射光を集光する光デバイスに向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明の光デバイスは、入射光の光軸方向に屈折率が周期的に変化する第1周期構造体と、第1周期構造体と同一の屈折率及び周期で、入射光の光軸方向に屈折率が周期的に変化する第2周期構造体と、第1周期構造体と第2周期構造体との間に設けられ、光を透過する透明部分を有する膜とを備えている。第1周期構造体及び第2周期構造体は、入射光の波長について低屈折率バンド端近傍のフォトニックバンド特性を持つ周期で屈折率が変化する。膜は、第1周期構造体と第2周期構造体との間に現れる光軸方向の光量分布変化に対して、光量が極大とならない位置に配置されている。
【0020】
第1及び第2周期構造体は、高屈折率層と低屈折率層とが繰り返し積層された多層膜である。膜は、第1周期構造体端の低屈折率層と第2周期構造体端の低屈折率層との間に設けられ、光量分布変化に対して光量が極小となる位置に配置されることが好ましい。また、第1周期構造体端の低屈折率層と膜との間及び第2周期構造体端の低屈折率層と膜との間に、低屈折率層と同等以下の屈折率を有する第1及び第2補助低屈折率層をさらに備えてもよい。
【0021】
典型的には、第1周期構造体端の低屈折率層、第1補助低屈折率層、膜、第2補助低屈折率層、及び第2周期構造体端の低屈折率層の合計膜厚が、第1及び第2周期構造体の屈折率が変化する周期の1.2〜2.4倍に設計される。また、第1補助低屈折率層の膜厚と第2補助低屈折率層の膜厚とが等しいことが望ましい。また、第1及び第2周期構造体の屈折率が変化する周期が、入射光の波長の0.4〜0.8倍に設計される。
【0022】
また、膜は、入射光の波長以下の膜厚を有する金属膜であり、透明部分は金属膜を貫通する開口部である。この開口部を、スーパーオシレーション条件を満足する規則的なパターンで金属膜上に複数個設けておけば、光デバイスは、金属膜から出力される回折光の干渉によるTalbot効果のセルフイメージング位置で入射光の波長以下の集光径が得られる光量分布を有することになる。ここで、金属膜上に設けられる複数の開口部の形状としては、入射光の光軸を中心とする周期性の無い回転対称形状、例えばペンローズパターン形状等が挙げられる。
【0023】
さらに、本発明の光デバイスは、入射光を第1周期構造体へ出力する光導波路と、第2周期構造体から出力される光を受光する受光部を含む光電変換素子とをさらに備えることもできる。受光部は、最初のセルフイメージング位置に設けられることが望ましい。また、光導波路が並列に設けられた複数のコアから複数の入射光を出力する場合には、複数の入射光に対応して並列に設けられた複数の受光部を光電変換素子に設けて、第2周期構造体から出力される対応した光をそれぞれ受光するようにすればよい。なお、第1周期構造体、膜、及び第2周期構造体を単一の構成としてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、集光強度を増加できるので、光配線における受光素子のSNRを改善できかつ高速応答を実現できる。また、本発明によれば、パラレル光配線時にはチャンネル間のクロストークを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光デバイス1の構造を説明する図
【図2】光デバイス1の断面図及びフォトニックバンド特性制御による光量分布
【図3】光デバイス1の金属膜位置近傍のシミュレーション結果の概要図
【図4】光デバイス1の金属膜位置近傍のシミュレーション結果の概要図
【図5】光デバイス1の集光位置近傍のシミュレーション結果の概要図
【図6】本発明の第2の実施形態に係る光デバイス2の構造を説明する図
【図7】本発明の第3の実施形態に係る光デバイス3の構造を説明する図
【図8】従来の光デバイス1の構造断面図及びフォトニックバンド特性制御による光量分布
【図9】屈折率の周期構造を有する多層膜のフォトニックバンド特性を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を具体的に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光デバイス1の構造を説明する図である。図2は、図1に示す光デバイス1について、光源31から出射される光の光軸32を含む平面での水平断面をA方向から見た断面図及びフォトニックバンド特性制御による光量分布を示す図である。
【0027】
まず、第1の実施形態に係る光デバイス1の詳細な構造を説明する。
本発明の光デバイス1は、金属膜13を第1多層膜11と第2多層膜12とで挟み込んだ構造である。第1多層膜11は、高屈折率層15と低屈折率層16とからなる特定パターン層Pが2回以上繰り返して積層された(すなわち、屈折率が周期的に変化する)周期構造体と、この周期構造体の低屈折率層16端側にさらに積層された補助低屈折率層17とを含む構造である。同様に、第2多層膜12は、高屈折率層15と低屈折率層16とからなる特定パターン層Pが2回以上繰り返して積層された(すなわち、屈折率が周期的に変化する)周期構造体と、この周期構造体の低屈折率層16端側にさらに積層された補助低屈折率層17とを含む構造である。補助低屈折率層17の屈折率は、低屈折率層16以下であればよい。金属膜13は、規則的に分布した複数の開口部14(図2の白抜き部分)を有する。この金属膜13は、第1多層膜11の補助低屈折率層17と、第2多層膜12の補助低屈折率層17との間に挟まれる。
【0028】
第1多層膜11及び第2多層膜12の特定パターン層Pは、典型的には、入射光の波長の0.4〜0.8倍の厚みに設定される。金属膜13には、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属材料が用いられ、金属膜13の膜厚は、入射光の波長以下の厚みが好ましい。また、金属膜13の複数の開口部14に用いられる分布には、規則性(回転対称型)は有るが周期性は無い、例えば非特許文献3の図1に示されるペンローズパターン等が挙げられる。さらに、第1多層膜11において補助低屈折率層17とこれに隣接する低屈折率層16とを合わせた出力端低屈折率層18の膜厚と、第2多層膜12において補助低屈折率層17とこれに隣接する低屈折率層16とを合わせた入力端低屈折率層19の膜厚とが等しく、出力端低屈折率層18、入力端低屈折率層19、及び金属膜13からなる光路長Lの膜厚が特定パターン層Pの1.2〜2.4倍であることが望ましい。
【0029】
次に、上記構造を有する光デバイス1において、金属膜13のペンローズパターン状に分布した複数の開口部14から出力される各回折光の光量が増強され、干渉によって集光する光の光量が増強されるメカニズムを、図3〜図5、及び図9を用いて説明する。なお、光源31から出射される光の光軸32が、光デバイス1の第1多層膜11の高屈折率層15に垂直に交わる場合を説明する。
【0030】
まず、光軸方向zに高屈折率層と低屈折率層とが周期的に積層した多層膜(1次元フォトニック結晶)による光軸方向zの光量分布を説明する。図9は、背景技術でも説明した通り、フォトニックバンド制御による光量分布の概要を説明する図である。
【0031】
一般的に、屈折率層が周期的に変化する多層膜の進行波のフォトニックバンド特性は、図9に示すように、周期aが半波長以下の領域(0≦ka/2π≦0.5)では、光軸方向zの波数k(横軸)の増加に従って、原点から周波数ω(縦軸)が単調増加してka/2π=0.5で飽和する、高屈折率バンド23となる。さらに、周期aが半波長以上の領域(ka/2π≧0.5)では、光軸方向zの波数k(横軸)の増加に従って、ka/2π=0.5における周波数の不連続領域(フォトニックバンドギャップ)22を経た不連続点から、周波数ω(縦軸)が単調増加してka/2π=1で再び飽和する、低屈折率バンド24となる。ただし、図9は、フォトニックバンド特性を第1ブリルアンゾーン(−0.5≦ka/2π≦0.5)へ還元した表現を用いているので、半波長以上の領域(ka/2π≧0.5)は波数kを−2π(ka/2πを−1)だけ平行移動した表現で示されている。
【0032】
そして、このフォトニックバンド特性は、多層膜の周期aが半波長近傍のバンド端では光の局在が著しく、周期aが半波長よりも少し小さい高屈折率バンド端25では、光は高屈折率層側に局在(高屈折率層内で極大かつ低屈折率層内で極小)するのに対して、周期aが半波長よりも少し大きい低屈折率バンド端26では、光は低屈折率層側に局在(高屈折率層内で極小かつ低屈折率層内で極大)することが知られている。
【0033】
このようなフォトニックバンドを利用して、図2に示すように、第1多層膜11及び第2多層膜12の特定パターン層Pを光波長の0.4〜0.8倍に設定して低屈折率バンド端26のフォトニックバンド特性を持たせ、第1多層膜11及び第2多層膜12の低屈折率層16に光を局在させ、第1多層膜11の出力端低屈折率層18と第2多層膜12の入力端低屈折率層19とでそれぞれ光量を極大化させる。これにより、出力端低屈折率層18の光量極大部分と入力端低屈折率層19の光量極大部分との間に、少なくとも1つの光量極小部分ができる。特に、出力端低屈折率層18と入力端低屈折率層19との膜厚が等しく、光路長Lの膜厚が第1多層膜11の特定パターン層Pの1.2〜2.4倍である場合は、光量極小部分は金属膜13の位置に1つだけとなる。なお、光量極小部分が複数ある場合には、何れかの光量極小位置に金属膜13を配置すればよい。
【0034】
次に、多層膜構造と光量分布との関係について説明する。図3(金属膜位置近傍:金属膜有り)、図4(金属膜位置近傍:金属膜無し)、及び図5(集光位置近傍)のシミュレーション結果で示されるように、開口部14を光軸32上に配置させれば多層膜による光の局在と集光位置での強度は、光軸32上の光量分布で評価できる。なお、図3及び図4の上部には、第1多層膜11及び第2多層膜12における高屈折率層15及び低屈折率層16の周期構造を示している。
【0035】
まず、本実施形態のように光量極小位置に金属膜13を配置させる構造における光量分布を説明する。シミュレーションに用いた定数は、入射光である点光源の波長が660nm、第1多層膜11及び第2多層膜12の特定パターン層Pの膜厚が330nm(光波長の0.5倍)、特定パターン層Pの繰り返しが3周期、高屈折率層15の屈折率が1.5、低屈折率層16の屈折率が1.0、アルミニウムの金属膜13の膜厚が100nm、出力端低屈折率層18及び入力端低屈折率層19の膜厚が247.5nm(光路長Lの膜厚が特定パターン層Pの約1.8倍)である。
金属膜13近傍の光量分布(図3及び図4の太実線)及び集光位置近傍での光量分布(図5の太実線)は、金属膜13の前後で絶対強度は変化するものの、光量の極大/極小位置は金属膜13の有無で変化がない。このため、金属膜13直後の開口部14からの放射光強度が従来(金属膜のみ、図5の細実線)よりも強められ、ファーフィールドの集光位置において従来比で約2.0倍の強い集光強度が得られることが分かる。
【0036】
一方、従来のように光量極大位置に金属膜13を配置させる構造における光量分布を説明する。シミュレーションに用いた定数は、出力端低屈折率層18及び入力端低屈折率層19の膜厚が82.5nm(光路長Lの膜厚が特定パターン層Pの約0.8倍)となる以外は、上述した通りである。
金属膜13近傍の光量分布(図3及び図4の点線)及び集光位置近傍での光量分布(図5の点線)は、光量極大位置に配置された金属膜13によって入射光の大部分が反射されるので、金属膜13の位置が光量極小となる。このため、金属膜13直後の開口部14からの放射光強度が従来よりも弱められ、もはやファーフィールドの集光が確認できないレベルまで低下することが分かる。
【0037】
このように、金属膜13では入射光の大半が反射されて光量が急減する。よって、金属膜13の位置では光量を極大にせず、金属膜13の前後で光量が極大になるように分布させると、回折光の干渉による集光の元となる金属膜13の開口部14の出力、つまり金属膜13直後の出力を増強することができる。
【0038】
なお、図3においては、第1多層膜11内の金属膜13近傍における光量分布の変化が、高/低屈折率層の周期とずれている。これは、点光源が発する球面波(同心円状に位相変化)が、第1多層膜11によって光軸方向zの平面波へ変化(光軸方向zに位相変化)している過程だからである。
【0039】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る光デバイス1によれば、入射光の波長に対して低屈折率バンド端26近傍のフォトニックバンド特性を持たせる周期で屈折率が変化する第1多層膜11と第2多層膜12との間に金属膜13を配置して、光量分布の極小位置を金属膜13上に合わせる。これにより、金属膜13による集光強度を増加できるので、光配線における受光素子のSNRを改善でき、かつ高速応答を実現できる。
【0040】
<第2の実施形態>
図6は、本発明の第2の実施形態に係る光デバイス2の構造を説明する図である。この第2の実施形態に係る光デバイス2は、上記第1の実施形態に係る光デバイス1を用いた具体的な光デバイス構造を示したものである。なお、図6は、図2と同様に、入射光の光軸32を含む平面での水平断面をA方向から見た断面図を示す図である。
【0041】
光デバイス2は、光導波路43と、光デバイス1と、光電変換素子58とを備える。光導波路43は、コア41及びクラッド42で構成され、コア41を伝搬してくる光を光源31からの入射光として光デバイス1へ出力する。光電変換素子58は、絶縁遮光層52、導電性の透明電極からなるアノード53、受光部分であるP層54、空乏層55、N層56、及びカソード57から構成されるPN接続型半導体である。光電変換素子58の中心軸は、光導波路43の光軸32と一致している。また、光デバイス1と光電変換素子58との距離は、光デバイス1から出力される光が最初にセルフイメージングを形成する位置にP層54が配置されるように設定される。この光デバイス1及び光電変換素子58は、遮光部51によって周囲が覆われて、金属膜13を通過する光以外の外光を遮断する。
【0042】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る光デバイス2によれば、上記第1の実施形態で述べた効果に加え、入射光を受光部分であるP層54に効果的に集光させることができる。
【0043】
なお、光デバイス1へ光を入射させる構成は、上述の光導波路43に限らず、光ファイバ等であってもよい。また、光導波路43の光出射端を被写体に、P層54をCCD等の撮像部にそれぞれ置き換え、照明等の外光を利用して被写体からの反射光を撮像部で受光すれば、波長以下の解像度で被写体像を撮影することができる。また、光導波路43からの光量を増強すると共に、P層54を対象物に置き換えれば、波長以下の集光効果により波長以下の精度で対象物を加工することができる。さらに、P層54を光ディスク等の光情報を記録する光メモリー部に置き換え、光導波路43等の光源31からの入射光を金属膜13へ誘導しかつ光メモリー部からの反射光を光源31以外へ誘導するホログラム等の光分離部、及び光源31以外へ誘導された反射光を受光する受光部を設ければ、光ディスク上に波長以下スポット径で光情報を記録・読み出し可能な光ピックアップを実現できる。
【0044】
<第3の実施形態>
図7は、本発明の第3の実施形態に係る光デバイス3の構造を説明する図である。この第3の実施形態に係る光デバイス3は、上記第2の実施形態に係る光デバイス2を複数並べて構成した光デバイス構造を示したものである。なお、図7も、図6と同様に、入射光の光軸32を含む平面での水平断面をA方向から見た断面図を示す図である。
【0045】
光デバイス3は、パラレル光導波路44と、光デバイス1と、パラレル光電変換素子59とを備える。パラレル光導波路44は、複数のコア41及び複数のクラッド42で構成され、複数のコア41をそれぞれ伝搬してくる複数の光を複数の光源31からの入射光として光デバイス1へ出力する。光デバイス1は、複数のコア41からの入射光を同時に受光可能な面積を有する。パラレル光電変換素子59は、複数の絶縁遮光層52、複数のアノード53、複数のP層54、複数の空乏層55、複数のN層56、複数のカソード57及び複数のブロック層60から構成されるPN接続型並列半導体である。パラレル光電変換素子59の各P層54の中心軸は、パラレル光導波路44の各光軸32とそれぞれ一致している。光デバイス1とパラレル光電変換素子59との距離は、光デバイス1から出力される複数の光が最初にセルフイメージングを形成する位置に複数のP層54がそれぞれ配置されるように設定される。この光デバイス1及びパラレル光電変換素子59は、遮光部51によって周囲が覆われて、金属膜13を通過する光以外の外光を遮断する。また、複数のブロック層60は、複数のN層56間のリーク電流を防止するために挿入される。
【0046】
上記構成による光デバイス3においてパラレル光導波路44と複数のP層54との間のクロストークを低減できるメカニズムを、複数のコア41(複数のチャンネル)の間隔が数十μm以下であるパラレル光配線を一例に説明する。
【0047】
まず、第1の実施形態で述べたように、複数のコア41から入射される複数の光は、チャンネル毎に集光強度が増強される。チャンネル間隔が数十μm以下のパラレル光配線の異チャンネル間においては、パラレル光導波路44と金属膜13との間では全チャンネルの入射光が回折により金属膜13上に拡散するが、金属膜13上に規則的に分布した開口部14によって各チャンネル上に各入射光が集光されるので、他チャンネルの入射光は集光されない。
【0048】
以上のように、本発明の第3の実施形態に係る光デバイス3によれば、複数の入射光を受光部分である複数のP層54に効果的に集光させることができる。よって、上記第1の実施形態で述べた効果に加え、パラレル光配線時にチャンネル間のクロストークを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の光デバイスは、スーパーオシレーション条件を満足する伝搬光による波長以下の集光を使用する光配線の受光系等に利用可能であり、特にパラレル光配線の光電変換部において高速応答に必要なナノオーダーの集光ビーム径を用いつつ、チャンネル間クロストークを低減したい場合等に有用である。
【符号の説明】
【0050】
1、2、3 光デバイス
11、12、110、120 多層膜
13 金属膜
14 開口部
15 高屈折率層
16、17、18、19 低屈折率層
22 フォトニックバンドギャップ
23 高屈折率バンド
24 低屈折率バンド
25 高屈折率バンド端
26 低屈折率バンド端
31 光源
32 光軸
41 コア
42 クラッド
43、44 光導波路
51 遮光部
52 絶縁遮光層
53 アノード
54 P層
55 空乏層
56 N層
57 カソード
58、59 光電変換素子
60 ブロック層
200 半導体層/誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を集光する光デバイスであって、
前記入射光の光軸方向に屈折率が周期的に変化する第1周期構造体と、
前記第1周期構造体と同一の屈折率及び周期で、前記入射光の光軸方向に屈折率が周期的に変化する第2周期構造体と、
前記第1周期構造体と前記第2周期構造体との間に設けられ、光を透過する透明部分を有する膜とを備え、
前記第1周期構造体及び第2周期構造体は、前記入射光の波長について低屈折率バンド端近傍のフォトニックバンド特性を持つ周期で屈折率が変化し、
前記膜は、前記第1周期構造体と前記第2周期構造体との間に現れる光軸方向の光量分布変化に対して、光量が極大とならない位置に配置される、光デバイス。
【請求項2】
前記膜は、前記光量分布変化に対して、光量が極小となる位置に配置される、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記第1及び第2周期構造体は、高屈折率層と低屈折率層とが繰り返し積層された多層膜であり、
前記膜は、前記第1周期構造体端の低屈折率層と前記第2周期構造体端の低屈折率層との間に設けられる、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記第1周期構造体端の低屈折率層と前記膜との間に、前記低屈折率層と同等以下の屈折率を有する第1補助低屈折率層を、
前記第2周期構造体端の低屈折率層と前記膜との間に、前記低屈折率層と同等以下の屈折率を有する第2補助低屈折率層とをさらに備える、請求項3に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記第1周期構造体端の低屈折率層、前記第1補助低屈折率層、前記膜、前記第2補助低屈折率層、及び前記第2周期構造体端の低屈折率層の合計膜厚が、前記第1及び第2周期構造体の屈折率が変化する周期の1.2〜2.4倍である、請求項4に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記第1補助低屈折率層の膜厚と前記第2補助低屈折率層の膜厚とが等しい、請求項4に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記第1及び第2周期構造体の屈折率が変化する周期が、前記入射光の波長の0.4〜0.8倍である、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記膜は、前記入射光の波長以下の膜厚を有する金属膜であり、前記透明部分が金属膜を貫通する開口部である、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記開口部は、スーパーオシレーション条件を満足する規則的なパターンで前記金属膜上に複数個設けられており、
前記光デバイスは、前記金属膜から出力される回折光の干渉によるTalbot効果のセルフイメージング位置で前記入射光の波長以下の集光径が得られる光量分布を有する、請求項8に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記複数の開口部は、前記入射光の光軸を中心とする回転対称形状で前記金属膜上に設けられる、請求項9に記載の光デバイス。
【請求項11】
前記複数の開口部は、ペンローズパターン形状で前記金属膜上に設けられる、請求項10に記載の光デバイス。
【請求項12】
前記入射光を前記第1周期構造体へ出力する光導波路と、
前記第2周期構造体から出力される光を受光する受光部を含む光電変換素子とをさらに備える、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項13】
前記受光部は、最初のセルフイメージング位置に設けられる、請求項12に記載の光デバイス。
【請求項14】
前記光導波路は、並列に設けられた複数のコアを有し、当該複数のコアから複数の入射光を出力し、
前記光電変換素子は、前記複数の入射光に対応して並列に設けられた複数の受光部を有し、前記第2周期構造体から出力される対応した光をそれぞれ受光する、請求項12に記載の光デバイス。
【請求項15】
前記第1周期構造体、前記膜、及び前記第2周期構造体が、単一の構成である、請求項14に記載の光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−123272(P2011−123272A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280514(P2009−280514)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)