説明

光ピックアップ装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は光ピックアップ装置に係り、特に記録媒体に光を照射するレンズを有し、レンズの向きを制御して記録媒体に記憶された情報を光学的に読み取る光ピックアップ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えばディスク状記録媒体(以下「ディスク」と称す)が装着されるCD−ROM装置等のディスク装置では、ディスクにレーザ光を照射してディスクに記憶された情報を読み取っている。この種のディスク装置に組み込まれる光ピックアップでは、レーザダイオードから出射されたレーザ光をディスクに照射させる対物レンズを備えており、対物レンズから照射された光の焦点がディスクの記録面と一致するように対物レンズの向きを制御している。
【0003】
すなわち、光ピックアップ装置においては、対物レンズをディスクの面振れや偏芯によるトラックの変動に追従するようにフォーカス制御及びトラッキング制御を行っている。このような対物レンズの制御は、電磁気力を利用するアクチュエータで行っており、一般的には、コイルとマグネットの組み合わせにより構成されている。
【0004】
また、対物レンズを保持しているレンズホルダは、フォーカス制御及びトラッキング制御しやすいように小型化及び軽量化を図るとともに、4本のワイヤ状の弾性支持体を平行に装架してなる支持構造で支持されており、アクチュエータからの駆動力により敏感に制御動作するように設けられている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の光ピックアップ装置では、上記のようなフォーカス制御及びトラッキング制御の精度を高めるためにレンズホルダ等の可動部が揺動しやすい構成になっているので、例えば、各部品の寸法のばらつきにより、可動部の重心位置と、アクチュエータの駆動点位置が一致せず、可動部に回転モーメントが発生する。この回転モーメントにより、可動部に不要な振動が発生し、フォーカス制御及びトラッキング制御を不安定にする。
【0005】
また、レンズホルダの薄型化による可動部の剛性不足により、高次共振のレベルが大きくなり、サーボ系が発振してしまうという問題があった。
【0006】
また、部品寸法のばらつきや組み立て誤差が生じた場合、可動部の重心位置がずれたり、アクチュエータからの駆動力が作用する駆動点の位置がずれるため、可動部に回転モーメントが生じて不要な振動を誘発するおそれがある。
尚、光ピックアップ装置において、不要振動が発生する要因として固有振動数が考えられるが、固有振動数は部品の形状や部品に使用される材料によって決まるため、これらの要素を変更することにより固有振動のレベルを小さくするか、あるいは固有振動数を上げることが必要になる。
【0007】
また、部品の加工精度を高めたり、組み立て精度を高めて可動部の重心ずれや、アクチュエータの駆動点のずれをなくす方法も考えられる。しかしながら、部品の加工精度を高めたり、組み立て精度を高めると、量産コストが高くなるという問題が生じる。
【0008】
さらに、重心位置を高精度に管理しようとすると、試作評価を繰り返し、計算による重心位置と実際の重心位置との誤差を定量的に把握する必要がある。そのため、重心位置を高精度に管理する場合、上記のような試作、検証を繰り返すことにより開発期間が長期化するという問題があった。
【0009】
また、可動部の固有振動レベルを下げるには、部品単体の剛性を上げることが必要であるが、部品干渉による制約から部品の肉厚を増やし、剛性を上げることは困難であった。このような問題を解決する方法としては、レンズホルダに金属片をインサート成形して剛性を高める方法が考えられるが、製造コストが高価になってしまうという問題が生じる。
そこで、本発明は上記課題を解決した光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明では、以下のような特徴を有する。
【0011】
上記請求項1記載の発明は、レンズホルダの先端部分に振動を減衰するための錘と、錘をレンズホルダの先端部分に固定する粘弾性を有する接着剤と、からなる動吸振器を有するものであり、比較的簡単な作業によりレンズホルダの共振レベルを小さくすることができ、振動の発生を抑制することができる。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、レンズホルダの基端部がアクチュエータにより駆動され、且つ基端部の両側に片持ちばねの自由端が結合される結合部を有し、基端部と反対側の先端部に錘が接着される凹部を有するものであり、錘をレンズホルダの先端部に容易に固定することができ、作業効率を高めることができる。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、錘が剛体により形成され、レンズの取付位置より自由端側に接着されるものであり、レンズホルダの固有振動数を変化させて振動の発生を抑制すると共に、レンズホルダの剛性を高めることができる。
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
図1は本発明になる光ピックアップ装置の一実施例を示す斜視図である。図2は本発明になる光ピックアップ装置の平面図である。図3は本発明になる光ピックアップ装置の縦断面図である。
【0014】
図1乃至図3に示されるように、光ピックアップ装置10は、対物レンズ12を支持するレンズホルダ14と、レンズホルダ14を支持するヨークベース15と、レンズホルダ14に取り付けられたフォーカスコイル16及びトラッキングコイル18と、一対のマグネット30,32と、ヨークベース15に一体に設けられ一対のマグネット30,32を支持するヨーク22と、ヨークベース15に固定されたサスペンションホルダ(支持部)24と、サスペンションホルダ24とレンズホルダ14との間に装架された4本のワイヤ状の弾性支持体(片持ちばね)26a〜26dとを有する。
【0015】
フォーカスコイル16は、対物レンズ12を垂直方向に駆動するためのアクチュエータであり、トラッキングコイル18は対物レンズ12を水平方向に駆動するためのアクチュエータである。また、ヨークベース15の水平方向に延在する一対の腕部15a,15b間に横架された底板15cは、U字状に曲げられ垂直方向に延在する一対の腕部22a,22bを有するヨーク22が固定されている。そして、ヨーク22の一方の腕部22aには、フォーカスコイル16内を貫通するようにマグネット30が取り付けられ、他方の腕部22bにはトラッキングコイル18に対向するように配置されたマグネット32が取り付けられている。
【0016】
サスペンションホルダ24は、基板34と共にネジ36の締め付けによりヨークベース15の固定部15dに固定されている。弾性支持体26a〜26dは、水平方向に平行に延在するように配置されており、基端が基板34を貫通して固定されており、先端(自由端)がレンズホルダ14の両側に突出する連結部38a〜38dに挿通された状態で固定される。また、サスペンションホルダ24の端面には、弾性支持体26a〜26dの周囲を弾力的に固定するシリコン系からなるゲル状の接着剤40が接着されている。この接着剤40は、紫外線照射によりゲル化されたものであり、レンズホルダ14のフォーカス方向及びトラッキング方向への動きに対して粘性減衰作用を弾性支持体26a〜26dに付与する。
【0017】
また、弾性支持体26a〜26dの先端部(自由端)が挿通されたコイル中継基板42,44には、フォーカスコイル16及びトラッキングコイル18の端部が結線されており、弾性支持体26a〜26dを介してフォーカスコイル16及びトラッキングコイル18に電流が供給される。尚、フォーカス制御及びトラッキング制御される可動部46は、上記対物レンズ12、レンズホルダ14、フォーカスコイル16、トラッキングコイル18、コイル中継基板42,44から構成されている。
【0018】
レーザダイオード28から出射されたレーザ光は、反射ミラー60で反射して対物レンズ12に至り、対物レンズ12により上方で対向するディスク62に収束する。そして、一対のマグネット20は、ヨーク22のU字状に形成された取付部22b,22cに対向する向きで固着されており、レンズホルダ14に設けられたフォーカスコイル16及びトラッキングコイル18に対向する。さらに、レンズホルダ14は、水平方向に延在する4本の弾性支持体36により揺動可能に保持されている。
レンズホルダ14に支持された対物レンズ12は、一対のマグネット30,32による磁場間に設置されたフォーカスコイル16及びトラッキングコイル18に生じる電磁力と、可動部に働く重力がバランスする位置に制御される。
【0019】
レンズホルダ14は、対物レンズ12を保持するレンズ保持部14aと、レンズ保持部14aからサスペンションホルダ24側へ延在し、フォーカスコイル16及びトラッキングコイル18を保持するコイル保持部14bと、レンズ保持部14aよりフォーカスコイル16及びトラッキングコイル18と反対方向の先端14cに設けられた凹部14dとを有する。この凹部14dは、先端14cで水平方向に延在する長方形に形成されている。
【0020】
そして、凹部14dには、レンズホルダ14の振動を減衰させるのに必要な重量を有するウエイトバランサとしての錘48が接着剤50を介して接着固定される。この錘48は、レンズホルダ14よりも比重の大きい金属材(例えば、黄銅材など)により形成されており、凹部14d内に嵌合固定される長方形状に形成されている。そのため、錘48を接着する際は、接着剤50を塗布した後、凹部14d内に嵌合させるだけで容易に接着位置が位置決めされ、作業効率が高められている。
【0021】
また、錘48は、前述した可動部の重心位置を調整することにより可動部に発生する回転モーメントを最小とし、振動の発生を抑えると共に、レンズホルダ14よりも剛性の高い材料により形成されているので、樹脂材からなるレンズホルダ14の剛性を高める役目も有している。
【0022】
図4はレンズホルダ14の先端に錘48を接着した動吸振器の物理モデルを示す図である。
図4に示されるように、錘48は、レンズホルダ14の先端14cに設けられた凹部14dに接着されることにより、接着剤50が粘弾性を発生して可動部46の振動モードに対して振動を減衰させる動吸振器として機能する。動吸振器は、錘48の質量mと、接着剤50によるバネ定数kと、接着剤50による粘性減衰cを有する。
【0023】
従って、錘48をレンズホルダ14の先端14cに接着することにより、動吸振器の機能を持たせることが可能になり、錘48の振動を減衰させることができる。さらに、レンズホルダ14の先端14cは、長方形の錘48が接着されて剛性が向上するため、振動発生時の振幅を小さくすることができる。
【0024】
図5は従来のフォーカス方向の周波数特性を示すグラフである。
図5において、グラフIは従来の光ピックアップ装置のフォーカスコイルにサイン波の駆動電流を入力したときの「周波数」と「単位電圧当りの変位量」の関係を示すグラフであり、グラフIIは「周波数」と「位相」の関係を示すグラフである。
【0025】
このグラフIから、従来のものは、20KHz近傍に高次共振が発生していることが分かる。また、グラフIIから、従来のものは1KHz近傍に重心ずれにより不要振動Aが発生していることが分かる。
【0026】
これに対し、本発明の光ピックアップ装置10では、前述したように、レンズホルダ14の先端14cに設けられた凹部14dに錘48が接着されるため、錘48が重心のずれを調整すると共に、動吸振器として機能して振動を減衰することができる。
【0027】
図6は本発明のフォーカス方向の周波数特性を示すグラフである。
図6において、グラフIIIは光ピックアップ装置10のフォーカスコイル16にサイン波の駆動電流を入力したときの「周波数」と「単位電圧当りの変位量」の関係を示すグラフであり、グラフIVは「周波数」と「位相」の関係を示すグラフである。
【0028】
このグラフIIIから、本発明のものは、高次共振レベルが改善していることが分かる。また、グラフIVから、本発明のものは重心のずれによる不要振動Aが殆ど発生していないことが分かる。
【0029】
従って、レンズホルダ14の先端14cに錘48を接着することにより、20KHz近傍の高次共振が5dB程度改善している。また、1KHz近傍の位相の乱れが20°程度改善している。
尚、上記実施の形態では、レンズホルダ14の先端14cに長方形の錘48を接着したが、これに限らず、例えば長方形以外の形状に形成された錘を接着しても良いし、あるいは金属以外のもの、例えば剛性が高く、且つ比重の大きい樹脂材料などを錘として使用することができるのは勿論である。
【発明の効果】
上述の如く、請求項1記載の発明によれば、レンズホルダの先端部分に振動を減衰するための錘と、錘をレンズホルダの先端部分に固定する粘弾性を有する接着剤と、からなる動吸振器を有するため、比較的簡単な作業によりレンズホルダの高次共振のレベルを小さくすることができると共に、モーメントによる不要振動の高次共振の発生を抑制することができる。そのため、部品寸法のばらつきや組み立て誤差が生じても錘により重心位置のずれを修正できると共に、接着剤の粘弾性による動吸振器効果により共振レベルを減衰することができる。
【0030】
また、請求項2記載の発明によれば、レンズホルダの基端部がアクチュエータにより駆動され、且つ基端部の両側に片持ちばねの自由端が結合される結合部を有し、基端部と反対側の先端部に錘が接着される凹部を有するため、錘をレンズホルダの先端部に容易に固定することができ、作業効率を高めることができる。
【0031】
また、請求項3記載の発明によれば、錘が剛体により形成され、レンズの取付位置より自由端側に接着されたため、レンズホルダの固有振動数を変化させて振動の発生を抑制すると共に、レンズホルダの剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明になる光ピックアップ装置の一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明になる光ピックアップ装置の平面図である。
【図3】本発明になる光ピックアップ装置の縦断面図である。
【図4】レンズホルダ14の先端に錘48を接着した動吸振器の物理モデルを示す図である。
【図5】従来のフォーカス方向の周波数特性を示すグラフである。
【図6】本発明のフォーカス方向の周波数特性を示すグラフである。
【符号の説明】
10 光ピックアップ装置
12 対物レンズ
14 レンズホルダ
15 ヨークベース
16 フォーカスコイル
18 トラッキングコイル
22 ヨーク
24 サスペンションホルダ
26a〜26d 弾性支持体
30,32 マグネット
42,44 コイル中継基板
48 錘
40,50 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に光を照射するレンズと、
該レンズを保持するレンズホルダと、
該レンズホルダの側方に対向配置された支持部と、
一端が前記レンズホルダに掛止され、他端が前記支持部に結合された複数の片持ちばねと、
前記レンズホルダと前記支持部との間に介在して前記レンズホルダを駆動するアクチュエータと、
を備えた光ピックアップ装置において、
前記レンズホルダの先端部分に振動を減衰するための錘と、
該錘を前記レンズホルダの先端部分に固定する粘弾性を有する接着剤と、
からなる動吸振器を有することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】
前記レンズホルダは、基端部が前記アクチュエータにより駆動され、且つ前記基端部の両側に前記片持ちばねの自由端が結合される結合部を有し、前記基端部と反対側の先端部に前記錘が接着される凹部を有することを特徴とする請求項1記載の光ピックアップ装置。
【請求項3】
前記錘は、剛体により形成され、前記レンズの取付位置より自由端側に接着されたことを特徴とする請求項1記載の光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】特許第3633491号(P3633491)
【登録日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【発行日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−28720(P2001−28720)
【出願日】平成13年2月5日(2001.2.5)
【公開番号】特開2002−230807(P2002−230807A)
【公開日】平成14年8月16日(2002.8.16)
【審査請求日】平成15年11月12日(2003.11.12)
【出願人】(000003676)ティアック株式会社 (339)
【参考文献】
【文献】特開平10−079128(JP,A)
【文献】実開平02−135918(JP,U)