説明

光ファイバおよび光ファイバの製造方法

【課題】従来の空孔構造光ファイバと同等以上の光学特性を実現でき、光ファイバの接続作業時の工程の歩留まりを高めることができるとともに、接続工程やコストを低減できる光ファイバを提供することにある。
【解決手段】コア部11と、コア部11を包囲するクラッド部12と、クラッド部12内にて、光ファイバ軸心方向に連続的に、且つ光ファイバ軸方向に直交する断面で離散的に設けられるロッド部13とを備え、コア部11はクラッド部12の屈折率より高い屈折率の材料で構成され、ロッド部13はクラッド部12の屈折率よりも低い屈折率の材料で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバおよび光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは高品質かつ高速な光伝送を可能とする単一モードファイバ(以下、SMFと呼称する)が広く用いられている。SMFの特性を決定する光学特性としては主に遮断波長、曲げ損失、モードフィールド径、波長分散が挙げられる。
【0003】
しかしながら、遮断波長の短波長化、曲げ損失の低減、モードフィールド径の拡大はトレードオフの関係にあり、使用される伝送システムによって異なる特性の光ファイバが利用される。主にアクセス系では接続性、取り扱い性が重視され、曲げ損失および接続損失の低減が重視される。一方、長距離伝送系では伝送特性の改善が重視され、特に非線形効果による伝送特性劣化を抑制するためにモードフィールド径(実効断面積)の拡大が重視される傾向にある。
【0004】
従来の充実型の光ファイバでは屈折率分布を最適化することにより、それぞれの伝送システムに対応した種々の光ファイバ構造が開発され、広く用いられている。また最近では光ファイバ中に空孔を有する空孔構造光ファイバが、従来の充実型の光ファイバでは実現できない様々な特性を有することから、新しい光伝送媒体として高い関心を集めている。
【0005】
例えば非特許文献1では、空孔構造光ファイバを用いた低非線形光伝送路を実現するために、光波が伝搬する面積である実効断面積を拡大した光ファイバが報告されている。また、特許文献1では、空孔構造を用いた低曲げ損失光ファイバが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松井 隆 他著、”フォトニック結晶ファイバの実効断面積拡大に関する検討”、2008年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会、p.275、Sep.2008年
【非特許文献2】C.K.Jen. et al., "Role of guided acoustic wave properties in single-mode optical fibre design", Electronics Letters, vol.24, no.23, pp.1419-1420,Nov.1998
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3854627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、空孔構造光ファイバを製造するためには空孔構造を制御するための工程が必要となり、製造歩留まりが低くコストが大きいという課題があった。
【0009】
また、空孔構造光ファイバを接続するためには、端面における空孔封止や融着時の放電条件の調整など、特殊な接続が必要となり接続コストが高いという課題があった。
【0010】
更に、空孔構造による導波路分散は正の値になる傾向が強いため、通信波長帯における波長分散は従来の充実型の光ファイバと比べて大きくなるという課題があった。
【0011】
したがって、本発明は上述したような課題を解決するために為されたものであって、従来の空孔構造光ファイバと同等以上の光学特性を実現でき、光ファイバの接続作業時の工程の歩留まりを高めることができるとともに、接続工程やコストを低減できる光ファイバおよび光ファイバの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決する第1の発明に係る光ファイバは、
コア部と、前記コア部を包囲するクラッド部と、前記クラッド部内にて、光ファイバ軸心方向に連続的に、且つ光ファイバ軸方向に直交する断面で離散的に設けられるロッド部とを備え、
前記コア部は前記クラッド部の屈折率より高い屈折率の材料で構成され、
前記ロッド部は前記クラッド部の屈折率よりも低い屈折率の材料で構成される
ことを特徴とする。
【0013】
上述した課題を解決する第2の発明に係る光ファイバは、
第1の発明に係る光ファイバであって、
前記ロッド部は、光ファイバの軸心を中心として円環状または正多角形状に配置される
ことを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決する第3の発明に係る光ファイバは、
第1または第2の発明に係る光ファイバであって、
前記ロッド部の前記クラッド部に対する占有率が70%以下である
ことを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決する第4の発明に係る光ファイバは、
第1乃至第3の発明の何れか1つに係る光ファイバであって、
前記コア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が0.333%以上である
ことを特徴とする。
【0016】
上述した課題を解決する第5の発明に係る光ファイバは、
第1乃至第4の発明の何れか1つに係る光ファイバであって、
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm〜9.5μmであり、零分散波長が1300nm〜1324nmの範囲内であり、かつ零分散波長における分散スロープが0.092ps/nm2/km以下である
ことを特徴とする。
【0017】
上述した課題を解決する第6の発明に係る光ファイバの製造方法は、
屈折率を増加させる不純物を部分的に添加した第1の石英ロッドの周囲に、屈折率を減少させる不純物を部分的に添加した第2の石英ロッドを複数配置しこれらを束ね、さらに、前記束ねられたロッド群に純石英ジャケットを装荷し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、前記光ファイバ母材を溶融延伸することによって第1乃至第5の発明の何れか1つに係る光ファイバを得る
ことを特徴とする。
【0018】
上述した課題を解決する第7の発明に係る光ファイバの製造方法は、
屈折率を増加させる不純物を添加することで形成されるコア部と純クラッド部を形成する純石英領域を有する光ファイバのコア母材の当該純石英領域に穿孔によって複数の空孔を開け、前記複数の空孔のそれぞれに屈折率を減少させる不純物を部分的に添加した石英ロッドを挿入し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、前記光ファイバ母材を溶融延伸することによって第1乃至第5の発明の何れか1つに係る光ファイバを得る
ことを特徴とする。
【0019】
上述した課題を解決する第8の発明に係る光ファイバの製造方法は、
屈折率を増加させる不純物を添加することで形成されるコア部と純クラッド部を形成する純石英領域を有する光ファイバのコア母材の周囲を部分的に且つ当該光ファイバのコア母材の長手方向にて連続的に切削して切削領域を複数設け、前記複数の切削領域のそれぞれに屈折率を減少させる不純物を部分的に添加した石英ロッドを挿入し、その周囲に純石英ジャケットを装荷し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、前記光ファイバ母材を溶融延伸することによって第1乃至第5の発明の何れか1つに係る光ファイバを得る
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光ファイバによれば、従来の空孔構造光ファイバと同等以上の光学特性を実現できる。製造時の空孔制御や特殊な接続方法が不要となり、光ファイバの接続作業時の工程の歩留まりを高めることができるとともに、接続工程やコストを低減できる。
また、空孔構造光ファイバと比較して導波路分散が小さく、従来の充実型の光ファイバと同等の波長分散特性が得られる。
【0021】
本発明に係る光ファイバの製造方法によれば、従来の空孔構造光ファイバと同等以上の光学特性を実現できる光ファイバを得ることができる。特に、空孔構造光ファイバと比較して導波路分散が小さく、従来の充実型の光ファイバと同等の波長分散特性が得られる光ファイバを得ることができる。また、製造時の空孔構造を制御する工程が不要となり、製造歩留まりを高めることができ、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一番目の実施形態に係る光ファイバの断面構造を示す概略図であって、図1(a)に6個のロッド部を有する場合を示し、図1(b)に10個のロッド部を有する場合を示す。
【図2】本発明の第一番目の実施形態に係る光ファイバにおける、波長1260nm以上の波長帯で単一モード動作を得るための構造範囲を示した図であって、図2(a)に光ファイバのコア部の直径が8.5μmの場合を示し、図2(b)に光ファイバのコア部の直径が8.0μmの場合を示し、図2(c)に光ファイバのコア部の直径が7.5μmの場合を示し、図2(d)に光ファイバのコア部の直径が7.0μmの場合を示す。
【図3】本発明の第一番目の実施形態に係る光ファイバの光学特性を表す図であって、図3(a)に比屈折率差Δcoreと零分散波長との関係を示し、図3(b)に比屈折率差Δcoreと分散スロープとの関係を示す。
【図4】本発明の第一番目の実施形態に係る光ファイバにおける、曲げ損失特性の一例を示す特性図である。
【図5】本発明の第一番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法の説明図であって、図5(a)に光ファイバ母材を構成するロッド群を束ねた状態の一例を示し、図5(b)に光ファイバ母材の一例を示す。
【図6】本発明の第二番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法の説明図であって、図6(a)に光ファイバ母材のコア部およびクラッド部を構成するロッドの一例を示し、図6(b)に光ファイバ母材を構成するロッドの一例を示し、図6(c)に光ファイバ母材を構成するロッドの他例を示す。
【図7】本発明の第三番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法の説明図であって、図7(a)に光ファイバ母材を構成するロッドのさらに他例を示し、図7(b)にそれに石英ロッドおよび純石英のジャケットを外装した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る光ファイバおよび光ファイバの製造方法について、各実施形態で具体的に説明する。
【0024】
[第一番目の実施形態]
本実施形態に係る光ファイバおよびその製造方法について、図1〜図5を参照して説明する。
【0025】
本実施形態に係る光ファイバは、図1(a)および図1(b)に示すように、コア部11と、コア部を包囲するクラッド部12と、クラッド部12中に設けられた複数のロッド部13とを具備する。コア部11は屈折率n1の材料で構成される。コア部11は光ファイバ軸心方向に延在する。クラッド部12は屈折率n2の材料で構成される。ロッド部13は屈折率nrの材料で構成される。ロッド部13は、光ファイバ軸心方向に連続し、且つ、光ファイバ軸心方向に直交する断面で離散的に、具体的には光ファイバの軸心を中心とした所定の距離に少なくとも3個以上設けられる。例えば、ロッド部13は、光ファイバ軸心を中心として、図1(a)に示すように正六角形状や、図1(b)に示すように円環状に設けられる。
【0026】
ここで、上述したコア部11の屈折率n1、クラッド部12の屈折率n2、ロッド部13の屈折率nrは以下に示す関係式(1)を満足する。
【0027】
【数1】

【0028】
すなわち、コア部11はクラッド部12の屈折率n2より高い屈折率n1の材料で構成される。ロッド部13(低屈折率領域)は、クラッド12の屈折率n2よりも低い屈折率nrの材料で構成される。上述したように離散的に配置されるロッド部13は、クラッド部12の屈折率n2よりも屈折率が低いリング層と等価的に扱うことができる。したがって光ファイバに入射する光波は、コア部11とクラッド部12の境界における全反射、および複数のロッド部13の内側で生じる全反射によって光ファイバ中を伝搬することができる。
【0029】
よって、本実施形態に係る光ファイバによれば、コア部11に対して複数のロッド部13が離散的に配置されるため、例えば、特許文献1に示される空孔付き光ファイバと同等な効果が得られる。すなわち、遮断波長の短波長化、曲げ損失の低減、モードフィールド径の拡大のトレードオフの関係が、従来の充実型の光ファイバと比較して飛躍的に改善できる。
【0030】
また、光ファイバは空孔を有せずに充実型の構造であり、製造時における空孔構造などの精密な制御工程が不要であるため、空孔構造光ファイバと比べて製造コストを低減できる。光ファイバの接続時においても特殊な接続法方が不要であり従来の充実型の光ファイバと同じ接続技術を用いることができる。これにより、光ファイバの接続作業時の工程の歩留まりを高めることができるとともに、接続工程やコストを低減できる。
【0031】
上記では、ロッド部13(低屈折率領域)の数量を6個および10個とした光ファイバを用いて説明したが、複屈折率を抑圧するためにロッド部(低屈折率領域)の数量を少なくとも3個以上とした光ファイバとすることも可能である。
【0032】
上記では、10個のロッド部を1つの円環上に配置した光ファイバを用いて説明したが、複数のロッド部を複数の層状に配置した光ファイバとすることも可能である。
【0033】
また、上記では、ロッド部を正六角形状に配置した光ファイバを用いて説明したが、ロッド部を正三角形や正方形や正八角形など正多角形状に配置した光ファイバとすることも可能である。
【0034】
ここで、上述した構成の光ファイバにおける、波長1260nm以上の波長帯で単一モード動作を得るための構造範囲について、図2(a)〜図2(d)を参照して説明する。図2(a)〜図2(d)にて、横軸に規格化ロッド位置R1/aを示し、横軸にロッド部のクラッド部に対する占有率Sを示す。この占有率Sを次式(2)で定義する。aはコア部の半径である。
【0035】
【数2】

【0036】
上述した式(2)にて、R1は各ロッド部と外接し、光ファイバ軸心を中心とする円の半径であり、R2は各ロッド部と内接し、光ファイバ軸心を中心とする円の半径である。dはロッド部の直径である。またNはロッド部の数量であり図2では前記Nを6とし、ロッド部のクラッド部に対する比屈折率差を−0.7%とした。
【0037】
図2(a)〜図2(d)にて、図中の実線は遮断波長が1260nmとなる構造を表し、実線より占有率が小さい領域において遮断波長は1260nm以下となる。図2(a)にて各実線はΔcore(コア部のクラッド部に対する比屈折率差)が0.30%、0.34%、0.36%である場合を示し、図2(b)にて各実線はΔcoreが0.30%、0.35%、0.39%、0.40%、0.41%である場合を示し、図2(c)にて各実線はΔcoreが0.30%、0.40%、0.44%、0.45%、0.46%である場合を示し、図2(d)にて各実線はΔcoreが0.30%、0.46%、0.50%、0.52%である場合を示す。
【0038】
図2(a)〜図2(d)に示すように、光ファイバのコア部の直径および屈折率、ロッド部の位置によって遮断波長特性は変化するが、1260nm以下の遮断波長を得るためにはどの構造であっても、大きくとも70%以下の占有率である必要があることが分かる。
【0039】
また図2では、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μmとなる構造を破線で表している。モードフィールド径はロッド部がコアから離れるほど大きくなるため、図中の破線より規格化ロッド位置が大きい構造で8.6μm以上のモードフィールド径が得られる。ITU−T G.652では標準的な単一モード光ファイバのモードフィールド径を8.6μm〜9.5μm、遮断波長を1260nmと規定している。したがって、本実施形態に係る光ファイバにおいて、図2に示す占有率Sが実線より小さく、かつロッド部の位置が破線よりも大きい構造を設計することによって、標準的な単一モード光ファイバのモードフィールド径および遮断波長に準拠した光ファイバが得られ、好ましい。
【0040】
上述した構成の光ファイバの光学特性、具体的にはコア部のクラッド部に対する比屈折率差Δcoreと零分散波長および零分散波長における分散スロープとの関係について図3(a)および図3(b)を参照して説明する。図3(a)および図3(b)では、ロッド部の位置および占有率を、図2からモードフィールド径が8.6μmとなり、かつ遮断波長が1260nmとなるように設定した。図3(a)および図3(b)にて、実線はコア部の直径が7.0μmである場合、1点鎖線はコア部の直径が7.5μmである場合、2点鎖線はコア部の直径が8.0μmである場合を示す。
【0041】
図3(a)および図3(b)に示すように、コア部のクラッド部に対する比屈折率差Δcoreを大きくするほど、零分散波長は長波長側にシフトし、かつ分散スロープが小さくなることが分かる。ITU−T G.652では標準的な単一モード光ファイバの零分散波長を1300nm〜1324nm、零分散波長における分散スロープを0.092ps/nm2/km以下と規定している。したがって、図3に示すように、比屈折率差Δcoreを0.333%以上とすることで、前記規格に準拠した零分散波長および分散スロープを得られ、好ましい。
【0042】
上述した構成の光ファイバの曲げ損失特性について図4を参照して説明する。図4では、光ファイバ構造は、コア直径7.0μm、コア部のクラッド部に対する比屈折率差0.34%、R1を8.0μm、ロッド部の占有率を64%とした。図4にて、実線は波長1625nmの場合を示し、1点鎖線は波長1550nmの場合を示し、2点鎖線は波長1310nmの場合を示す。
【0043】
図4に示すように、通信波長帯における曲げ損失は曲げ半径5.0mmにおいて約0.1dB/turnであり、従来の充実型の光ファイバと比較して優れた曲げ損失特性が得られていることがわかる。このときのモードフィールド径、遮断波長、零分散波長および分散スロープは、図2および図3から標準的な単一モード光ファイバと同等の特性が得られることがわかる。
【0044】
ここで、上述した構成の光ファイバの製造方法について、図5を参照して具体的に説明する。
最初に、図5(a)に示すように、GeO2などの屈折率を増加させる添加物(不純物)を部分的(図中の中央部分)に付与した領域(コア部に相当)を有する第1の石英ロッド21と、F(フッ素)やB(ホウ素)やP(リン)などの屈折率を減少させる添加物(不純物)を部分的(図中の中央部分)に付与した領域(ロッド部に相当)を有する第2の石英ロッド22を予め作製しておく。第1の石英ロッド21の周囲に複数、図示例では6個の第2の石英ロッド22を束ねて配置する。上述した屈折率を増減させる働きをする添加物は、代表的なものが非特許文献2に示されているが、ここに記載されている物質に限定されず、屈折率を増減させる働きをする物質であれば良い。
【0045】
続いて、束ねられたロッド21,22の外側に純石英のジャケット23を装荷する。純石英のジャケット23は、軸方向に延在する穴部23aを中心に有する筒状体(管体)である。束ねられたロッド21,22と純石英のジャケット23の穴部23aとの間の隙間に細径の純石英24を複数詰める。これにより空隙を小さくしている。これらロッド21,22,24および純石英のジャケット23を一括して溶融延伸することにより、本実施形態に係る光ファイバに対応する光ファイバ母材が得られる。すなわち、図5(b)に示すように、光ファイバのコア部に相当する領域31と、この領域31を包囲し、光ファイバのクラッド部に相当する領域32と、この領域32に設けられ、光ファイバのロッド部に相当する領域33とを具備する光ファイバ母材30が得られる。この光ファイバ母材30を線引きする(溶融延伸する)ことによって、上述した構成の光ファイバが得られる。
【0046】
したがって、本実施形態に係る光ファイバの製造方法によれば、第1の石英ロッド21と、第1の石英ロッド21の周囲に複数配置した第2の石英ロッド22とを束ね、さらに、前記束ねられたロッド群に純石英のジャケット23を装荷し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材30を作製し、光ファイバ母材30を溶融延伸することによって、上述した構成の光ファイバを得ることができる。第1,第2の石英ロッド21,22および純石英のジャケット23はそれぞれ簡易な屈折率分布となっており、製造工程において複雑な屈折率分布の制御が不要である。その結果、光ファイバの母材を容易に大型化できるとともに、製造時の歩留まりを高めることができる。
【0047】
[第二番目の実施形態]
本発明の第二番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法について、図6を参照して具体的に説明する。
最初に、図6(a)に示すように、GeO2などの屈折率を増加させる添加物(不純物)を部分的(図中にて中央部分)に付与した領域(コア部に相当)41と純クラッド部を形成する純石英領域42を有する石英ロッド40(光ファイバのコア母材)の純石英領域42に穿孔などの方法によって長手方向に一様な複数、図示例では6個の空孔43を開ける。
【0048】
ここで、F(フッ素)やB(ホウ素)やP(リン)など屈折率を減少させる添加物(不純物)を付与した領域(ロッド部に相当)を部分的(図中にて中央部分)に有する石英ロッド44を予め作製しておく。続いて、図6(b)に示すように、6個の空孔43のそれぞれに石英ロッド44を挿入する。上述した屈折率を増減させる働きをする添加物は、代表的なものが非特許文献2に示されているが、ここに記載されている物質に限定されず、屈折率を増減させる働きをする物質であれば良い。
【0049】
続いて、これらロッド40,44を一括して溶融延伸することにより、第一番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法と同様に、上述した構成の光ファイバに対応する光ファイバ母材が得られ、これを線引きする(溶融延伸する)ことによって上述した構成の光ファイバを得ることができる。
【0050】
したがって、本実施形態に係る光ファイバの製造方法によれば、コア部41とクラッド部を形成する純石英領域42とを有する光ファイバのコア母材40の当該純石英領域42に穿孔によって複数の空孔43を開け、複数の空孔43のそれぞれに石英ロッド44を挿入し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、前記光ファイバ母材を溶融延伸することによって、上述した構成の光ファイバを得ることができる。よって、第一番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法と同様、光ファイバのコア母材40および石英ロッド43はそれぞれ簡易な屈折率分布となっており、製造工程において複雑な屈折率分布の制御が不要である。その結果、光ファイバの母材を容易に大型化できるとともに、製造時の歩留まりを高めることができる。
【0051】
さらに、光ファイバのコア部に相当する領域41の近傍の領域が空気などに触れずに作製できるため、光ファイバの低損失化が可能となる。
【0052】
上記では、光ファイバのコア母材40の複数の空孔43のそれぞれに石英ロッド43を挿入し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、これを溶融延伸することにより光ファイバを製造する光ファイバの製造方法を用いて説明したが、コア部周辺の母材と純石英のジャケットとの2つの部材で構成することも可能である。具体的には、図5(c)に示すように、コア部51と、コア部51を包囲するクラッド部52と、軸方向に連続し、且つ軸方向に直交する断面でコア部51を中心とした正六角形状に設けられたロッド部54とを備えたコア部周辺の母材と、このコア部周辺の母材の周囲に、中心部に長手方向に延在する穴部55aを有する筒状体(管状)の純石英のジャケット55を装荷し溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、これを溶融延伸することにより光ファイバを製造する光ファイバの製造方法とすることも可能である。このような光ファイバの製造方法であっても、上述した第二番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法と同様な作用効果を奏する。
【0053】
[第三番目の実施形態]
本発明の第三番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法について、図7を参照して具体的に説明する。
最初に、図7(a)に示すように、GeO2など屈折率を増加させる添加物(不純物)を部分的(図中にて中央部分)に付与した領域71(コア部に相当)と純クラッド部を形成する純石英領域72を有しコア部の半径aとロッド部の外接円半径R2とが相似となる石英ロッド70(光ファイバのコア母材)を予め用意する。石英ロッド70の周囲を部分的に且つ石英ロッド70の長手方向にて一様に(連続的に)切削を行って石英ロッド70の外周部分に切削領域73を複数、図示例では6個設ける。
【0054】
ここでF(フッ素)やB(ホウ素)やP(リン)などの屈折率を減少させる添加物(不純物)を部分的(図中にて中央部分)に付与した領域(ロッド部に相当)を有する石英ロッド74を予め作製しておく。続いて、図7(b)に示すように、石英ロッド70の複数の切削領域73のそれぞれに石英ロッド74を挿入し、この周囲に純石英のジャケット75を装荷する。純石英のジャケット75は、中心部に長手方向に延在する穴部75aを有する筒状体(管状)である。上述した屈折率を増減させる働きをする添加物は、代表的なものが非特許文献2に示されているが、ここに記載されている物質に限定されず、屈折率を増減させる働きをする物質であれば良い。
【0055】
続いて、これらロッド70,74および純石英のジャケット75を一括して溶融延伸することにより、第一番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法と同様に、上述した構成の光ファイバに対応する光ファイバ母材が得られ、これを線引きする(溶融延伸する)ことによって上述した構成の光ファイバを得ることができる。
【0056】
したがって、本実施形態に係る光ファイバの製造方法によれば、コア部71と純クラッド部を形成する純石英領域72を有する光ファイバのコア母材70の周囲を部分的に且つ当該光ファイバのコア母材70の長手方向にて連続的に切削して切削領域73を複数設け、複数の切削領域73のそれぞれに石英ロッド74を挿入し、その周囲に純石英のジャケット75を装荷し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、光ファイバ母材を溶融延伸することによって上述した構成の光ファイバを得ることができる。よって、第一番目の実施形態に係る光ファイバの製造方法と同様、光ファイバのコア母材70、石英ロッド73、純石英のジャケット75はそれぞれ簡易な屈折率分布となっており、製造工程において複雑な屈折率分布の制御が不要である。その結果、光ファイバの母材を容易に大型化できるとともに、製造時の歩留まりを高めることができる。
【0057】
さらに、第二の実施形態に係る光ファイバの製造方法と同様に、光ファイバのコア部に相当する領域71の近傍の領域が空気に触れない上に、微小なドリルなどが不要であり大型なコア母材であってもロッド部を形成できるため、1つの光ファイバ母材から低損失かつ長距離の光ファイバを作製することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、光伝送システムにおける伝送媒体として利用できる。
【符号の説明】
【0059】
11 コア部
12 クラッド部
13 ロッド部(低屈折率領域)
21 第1の石英ロッド(GeO2等添加石英ロッド)
22 第2の石英ロッド(F等添加石英ロッド)
23 純石英のジャケット
24 細径の純石英ロッド
31 光ファイバのコア部に相当する領域
32 光ファイバのクラッド部に相当する領域
33 光ファイバのロッド部に相当する領域
40 石英ロッド(光ファイバのコア母材)
41 GeO2等添加領域
42 純石英領域
43 空孔(穿孔領域)
44 石英ロッド(F等添加石英ロッド)
51 コア部(GeO2等添加領域)
52 クラッド部(純石英領域)
54 ロッド部(F等添加石英ロッド)
55 純石英のジャケット
70 石英ロッド(光ファイバのコア母材)
71 コア部(GeO2等添加領域)
72 純石英領域
73 切削領域
74 F等添加石英ロッド
75 純石英のジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、前記コア部を包囲するクラッド部と、前記クラッド部内にて、光ファイバ軸心方向に連続的に、且つ光ファイバ軸方向に直交する断面で離散的に設けられるロッド部とを備え、
前記コア部は前記クラッド部の屈折率より高い屈折率の材料で構成され、
前記ロッド部は前記クラッド部の屈折率よりも低い屈折率の材料で構成される
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバであって、
前記ロッド部は、光ファイバ軸心を中心として円環状または正多角形状に配置される
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光ファイバであって、
前記ロッド部の前記クラッド部に対する占有率が70%以下である
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の光ファイバであって、
前記コア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が0.333%以上である
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の光ファイバであって、
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm〜9.5μmであり、零分散波長が1300nm〜1324nmの範囲内であり、かつ零分散波長における分散スロープが0.092ps/nm2/km以下である
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項6】
屈折率を増加させる不純物を部分的に添加した第1の石英ロッドの周囲に、屈折率を減少させる不純物を部分的に添加した第2の石英ロッドを複数配置しこれらを束ね、さらに、前記束ねられたロッド群に純石英ジャケットを装荷し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、前記光ファイバ母材を溶融延伸することによって請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の光ファイバを得る
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項7】
屈折率を増加させる不純物を添加することで形成されるコア部と純クラッド部を形成する純石英領域を有する光ファイバのコア母材の当該純石英領域に穿孔によって複数の空孔を開け、前記複数の空孔のそれぞれに屈折率を減少させる不純物を部分的に添加した石英ロッドを挿入し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、前記光ファイバ母材を溶融延伸することによって請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の光ファイバを得る
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項8】
屈折率を増加させる不純物を添加することで形成されるコア部と純クラッド部を形成する純石英領域を有する光ファイバのコア母材の周囲を部分的に且つ当該光ファイバのコア母材の長手方向にて連続的に切削して切削領域を複数設け、前記複数の切削領域のそれぞれに屈折率を減少させる不純物を部分的に添加した石英ロッドを挿入し、その周囲に純石英ジャケットを装荷し一括して溶融延伸することで光ファイバ母材を作製し、前記光ファイバ母材を溶融延伸することによって請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の光ファイバを得る
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−170061(P2011−170061A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33186(P2010−33186)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】