説明

光ファイバの調心装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、多心光ファイバの融着接続機などにおいて、各光ファイバを個別に調心する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図3(a)に、調心装置のうちの一方の側のV溝ブロック10を模型的に示し、そのB方向矢視図を(b)に示した。もう一方の側のV溝ブロックは図示を省いているが、後記の点を除いて同じ構造である。なお、説明都合上、xyzの方向を各図に付けた矢印のように定める。本明細書の図面におけるy方向は、すべて上下方向を示しているが、y方向が鉛直方向と一致しない場合も考えられる。本発明は、そのような場合も包含する。
【0003】14はV溝で、その片方の斜面16は、V溝ブロック10に対して固定した状態である(V溝ブロック10の本体12自体を加工して形成したもの)。V溝14の他方の斜面18は、可動プレート20のy方向端面に形成されている。可動プレート20は、V溝ブロック10に形成した溝22内に納まっていて、y方向に変位可能である。24は光ファイバである。
【0004】図4のように、可動プレート20が上下する(y方向に進退する)と、V溝14の形状が変化し、光ファイバが変位する。すなわち、可動プレート20が下がると(b)光ファイバ24は右下に動き、可動プレート20が上がると(c)、光ファイバ24は左上に動く。結局、(d)の矢印26のように、光ファイバ24の位置を調節できる。そこで、もう一方のV溝ブロック(図3で図示していない)において、図4(e)のように、V溝14の片方の斜面16と他方の斜面18の位置を逆にすると、光ファイバ24の位置を矢印28(矢印26とクロスする方向)のように調節できる。よって接続しようとする光ファイバ24同士の調心が可能になる。なお、図3,図4は模型的に描いている。実際には、可動プレート20の厚さは百μm単位であり、可動プレート20を上下させる(y方向に進退させる)距離はμm単位(あるいはそれ以下)である。
【0005】[可動プレート20の駆動機構]図5に一例を示す。30は、z方向に細長いアームである。アーム30は、一端をV溝ブロック10の本体12(図示省略)に、x方向のピン32で止められて(34はリーマ孔)、揺動自在になっている。アーム30の自由端に可動プレート20を連結する。36は微動アクチュエータである。たとえばピエゾ素子の圧電アクチュエータなどを用いる。圧電アクチュエータは、印加電圧に応じて±y方向における数十μmまでの変位を、0.10μmオーダーの精度で制御できる。圧電アクチュエータの伸縮方向は、可動プレートの変位方向と一致している。38はバネ力を模型的に示したものである。
【0006】微動アクチュエータ36によりアーム30をy方向に回動させると、テコの原理で、可動プレート20がy方向に変位する。そしてその結果、上記のように光ファイバの位置が変わる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】(1)可動プレート20の変位精度は1.0μm以下が要求される。ところがアーム30のテコの支点となる部分にピン32,リーマ孔34を用いているため、それらの嵌合状態(隙間)により、支点が5〜10μm程度ずれることがある。この遊びのために安定した動作が得られない。
(2)微動アクチュエータ36の取付スペースの都合上(x方向の厚みが、アクチュエータ36>アーム30)、アーム30に対する取付け位置を、1本ずつ、z方向にずらす必要がある。そのため、支点(ピン32)から力点(アクチュエータ36)までの距離a(図5)が変わる。aが変わると、微動アクチュエータ36の変位ストロークが同じであっても、アーム30の先端に連結してある可動プレート20の変位量に大きな違いが生じる。実際の調心プロセスにおいて、各可動プレート20の変位量に大差は無い。そのため、微動アクチュエータ36に印加する電圧制御が複雑になり、その結果、光ファイバの正確な調心が難しくなる。
【0008】(3)各アーム30は互いに隣接している(図5ではわざと離して描いてある)。そのため、微小動作を1本の光ファイバにかけようとした場合、隣接するアーム30との間に摩擦が生じて、個別の調心動作が正確にできない場合がある。
【0009】
【課題を解決するための手段】図1に例示するように、(1)アーム30は一端が固定端、他端が自由端をなし、固定端は、ボルト40などにより相互に連結固定する。さらにこれらを、V溝ブロック本体に固定する。そしてアーム30の自由端に可動プレート20を連結する。
(2)アーム30に、アーム変位の起点をなすようにy方向の切欠き42を設け、その切欠き42と可動プレート20との間に、微動アクチュエータ36を設ける。
【0010】(3)アームの固定端側において、アーム30間が離隔するようにスペーサ44を挿入してもよい。
【0011】
【作 用】(1)アーム30の一端を固定しても、切欠き42があるため、切欠き42の底Aを支点(起点)として、アーム30は弾性変形し、回動できる。
(2)切欠き42の位置は自由に変えることができる。そのため、上記のように取付スペースの都合で、微動アクチュエータ36の取付け位置をアーム30ごとにz方向にずらせても、それに応じて切欠き42の位置を変えることができる。そして、・テコの作用点(可動プレート20)から力点(アクチュエータ36)までの距離bと、・テコの作用点(可動プレート20)から支点(切欠き42)までの距離c、との比を、全てのアーム30について等しくすることができる。b/cが一定であると、微動アクチュエータ36の同一ストロークに対して、可動プレート20の変位量は等しくなる。
【0012】(3)アーム30同士を離隔的に配置するために、固定部分においてアーム30間にスペーサ44を挿入すると、アーム30の実際に動作する部分(切欠き42から先)では、隣接するアーム30同士の接触はなくなる。
【0013】
【実施例】アーム30は、少なくとも切欠き42を起点として弾性変形する一体的、あるいは複合的な材質・構成とした。切欠き42は、スリット状の<細長いものとした。数値例を示せば、深さeが3.5mmで、幅fが1.5mmである(アーム30の幅dが5mmのとき)。ただし切欠き42の形はスリット状だけでなく、その他の変形例として、たとえばV形などとすることもできる。要は、弾性変形が容易となるように、アームの幅を部分的に狭くすればよい。切欠き42は、アーム30の上辺からスタートして下向きに形成したが、これと反対方向(下辺からスタートして上向き)に形成してもよい。また、従来用いていたバネ38を無くした。その代わりに、微動アクチュエータ36により常時アーム30を少しy方向に持ち上げておき、アーム30自体の弾性により、戻りの力が働くようにした。微動アクチュエータ36には、スタック型の圧電アクチュエータを用いた。なお、本実施例においては、横長アームを用いたが、アームの形状には種々の変形例が存在する。また、アーム同士を離隔配列するために板状のスペーサを採用したが、他構造で代用できることは勿論である。
【0014】なおまた、図1では、発明を平易に説明する目的により、アーム30の自由端側を簡略的に図示している。図3に、可動プレート20を含んだアーム先端部の構成例を示す。可動プレート20のピッチは心線ピッチに対応して非常に狭いが、アーム30の形状はこれらに比較して大であり、アーム30間の幅も広い。そこで、アーム30の立上り31の先端内側に、必要に応じて肉厚部33を設け、この肉厚部33の内側から可動プレート20を延設することによって可動プレート20同士を近接させる。アーム30の積層時に、肉厚部33が互いに重なり合わないようにするため、肉厚部33の位置は上下にずらす。さらに、可動プレート20は上下に変位するから、肉厚部33の上下の端面が衝突するのを防止するために、隣り合った肉厚部33の端面間には所定の隙間が設けられる。
【0015】
【発明の効果】可動プレートは、一端を相互に連結固定したアームの自由端に連結されており、前記アームにアームの屈曲位置となる切欠きが設けられ、その切欠きと前記可動プレートとの間に、前記アームをy方向に駆動する微動アクチュエータが設けられているので、(1)切欠き42の底Aを支点として、アーム30は回動できる。そのため、アーム30の一端をピン止めして揺動自在としていた従来の場合のように、ピン止め部分の嵌合状態(隙間)により、テコ動作の支点がずれて(遊びができて)動作が不安定になることがない。
(2)上記のように取付スペースの都合で、微動アクチュエータ36の取付け位置を各アーム30ごとにz方向にずらす必要があつても、それに応じて切欠き42の位置を変えることができる。そのため、微動アクチュエータ36の同一ストロークに対して可動プレート20の変位量は等しくすることができ、正確な調心が可能になる。
【0016】(3)固定部分においてアーム30間を離隔した場合は、アーム30の実際に動作する切欠き42から先の部分で、隣接するアーム30同士の接触はなくなる。そのため、隣接するアーム30が摩擦によって誤動作を起すことがなくなり、個々の光ファイバごとに、正確な調心ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における可動プレートの駆動機構の模型的説明図。
【図2】本発明の可動プレートの駆動機構におけるアーム先端部の構成をより具体的に示した一例の説明図。
【図3】本発明が適用されるV溝ブロックの模型的説明図(本発明と従来技術に共通)。
【図4】可動プレートの動きと光ファイバの動きの関係を示す説明図(本発明と従来技術に共通)。
【図5】可動プレートの従来の駆動機構の一例の模型的説明図。
【符号の説明】
10 V溝ブロック
12 V溝ブロック本体
14 V溝
16 V溝の片方の斜面
18 V溝の他方の斜面
20 可動プレート
22 溝
24 光ファイバ
30 アーム
31 アーム立上り
32 ピン
33 肉厚部
34 リーマ孔
36 微動アクチュエータ
38 バネ
40 ボルト
42 切欠き(たとえばスリット状)
44 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 V溝ブロックの本体内において可動プレートが変位可能になっていて、その可動プレートの変位によって、V溝ブロックに保持している光ファイバの調心が行われる、光ファイバの調心装置において、前記可動プレートは、一端を固定したアームの自由端に連結されており、前記アームにはアーム変位の起点をなす切欠きが設けられ、その切欠きと前記可動プレートとの間に、前記アームを駆動する微動アクチュエータが設けられている、光ファイバの調心装置。
【請求項2】 アームを固定している部分において、前記アーム間が離隔されている、請求項1記載の、光ファイバの調心装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2916074号
【登録日】平成11年(1999)4月16日
【発行日】平成11年(1999)7月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−348150
【出願日】平成5年(1993)12月25日
【公開番号】特開平7−191228
【公開日】平成7年(1995)7月28日
【審査請求日】平成9年(1997)6月26日
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【参考文献】
【文献】特開 平5−273430(JP,A)
【文献】特開 平6−194537(JP,A)
【文献】特開 平7−43545(JP,A)