説明

光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法及び装置

【課題】本発明は、光通信の高速化、長距離化、大容量化に関係する問題を解消し得る光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によると、被測定用光ファイバの一端に所定の波長を有する光パルスを入射して戻ってくる後方散乱光における平行及び垂直偏波成分の少なくとも一方を含む前記被測定用光ファイバに関する偏波信号を出力し、予め、モデル化された光ファイバの所定のモデル変数に基づいて、前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号をシミュレーションにより出力し、前記両偏波信号間のフィット度を判定し、前記所定の波長下で前記両信号間の所望のフィット度が得られたとき、前記光パルスの波長を変えて測定を繰り返し、算出される前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数に基づいて、群遅延時間差(DGD)を算出し、該DGDに基づいて偏波モード分散(PMD)値を算出することを特徴とする光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバの偏波モード分散測定方法及び測定装置に係り、特に、POTDR(偏波オプチカルタイムドメインリフレクトメータ)トレースとモデル化された光ファイバのモデル変数とを用いて被測定用光ファイバの群遅延時間差(DGD)を算出すると共に、この群遅延時間差(DGD)に基づいて偏波モード分散(PMD)を算出する光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、光ファイバ内では直交する2つのモードが伝搬しているが、光ファイバの構造が完全に真円でないことに起因して生じる複屈折によって直交する2つのモード間の偏波状態の縮退が解け、偏波ごとに直交する2つのモード間の群速度(群遅延時間差:DGD)が異なる現象が発生するので、この現象を光ファイバの偏波モード分散(PMD)と呼んでいる。
【0003】
このような光ファイバのDGDに基づくPMDは、近時の光通信の高速化、長距離化にとっては、伝送品質の劣化を招く障害となるので、そのDGDを正確に測定し、それに基づくPMDを補償することが必要とされている。
【0004】
なお、一般的には、ある長さの光ファイバで測定されたDGDを光ファイバ長または光ファイバ長の平方根で正規化したものがPMD係数とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、従来より、光ファイバのDGDに基づくPMDを測定するために実施されている各種の光ファイバの偏波モード分散測定方法は、ファイバリンクのトータルPMDを測定することが可能であるのみであり、リンクの各部分を同定することができないので、近時の光通信の高速化、長距離化、大容量化に関係する問題を有している。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、POTDR(偏波オプチカルタイムドメインリフレクトメータ)トレースとモデル化された光ファイバのモデル変数とを用いて被測定用光ファイバの長手方向の偏波モード分散(PMD)の分布を算出するための群遅延時間差(DGD)を出力可能とすることにより、近時の光通信の高速化、長距離化、大容量化に関係する問題を解消し得る光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明では、POTDRトレースを取り、PMDを計算するプロセスが採用されている。
【0008】
このプロセスは、図2に示すフローチャートを用いて、その各部分が実施の形態で詳しく説明されるので、ここではその概要について説明する。
【0009】
POTDRトレースでは、まず、ある波長のOTDRパルスの幅と分解能及びOTDRパルス光源のスペクトルを充分に注意しながらPOTDRトレースが、記録される。
【0010】
そして、POTDRトレースは、光ファイバでの減衰を除去するために、偏波信号に変換される。
【0011】
この偏波信号のパワースペクトルは、フーリェ変換を用いて計算され、測定された偏波信号のパワースペクトルは、光ファイバのモデルにフィットされる。
【0012】
この場合、可能なモデルが多数あり、直線複屈折成分及び円複屈折成分と結合長さに関連するパラメータとして抽出することができる。
【0013】
このような一連のプロセスは別の波長でも繰り返され、これらのパラメータの波長依存性が得られる。
【0014】
そして、最後に、光ファイバのPMDは、波長依存性パラメータをモデルに戻して計算される。
【0015】
具体的には、本発明によると、上記課題を解決するために、
(1) 被測定用光ファイバの一端に所定の波長を有する光パルスを入射することにより、前記被測定用光ファイバの一端に戻ってくる後方散乱光における平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を含む前記被測定用光ファイバに関する偏波信号を出力する第1のステップと、
モデル化された光ファイバの所定のモデル変数に基づいて前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号をシミュレーションにより出力する第2のステップと、
前記被測定用光ファイバに関する偏波信号と前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号との両信号間のフィット度を判定する第3のステップと、
前記所定の波長下で両信号間の所望のフィット度が得られたとき、前記被測定用光ファイバの一端に入射する光パルスの波長を変えて前記第1乃至第3のステップを繰り返し、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数を算出する第4のステップと、
前記波長依存性を有するモデル変数に基づいて、前記被測定用光ファイバの群遅延時間差(DGD)を算出すると共に、該群遅延時間差(DGD)に基づいて前記被測定用の光ファイバの偏波モード分散(PMD)値を算出する第5のステップと、
を具備することを特徴とする光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法が提供される。
【0016】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(2) 前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含み、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc (λ)を含むことを特徴とする(1)に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法が提供される。
【0017】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(3) 前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数を調整して前記第2及び第3のステップを繰り返すことにより、前記両信号間のフィット度を最適化する第6のステップをさらに具備することを特徴とする(1)または(2)に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法が提供される。
【0018】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(4) 被測定用光ファイバの一端に所定の波長を有する光パルスを入射することにより、前記被測定用光ファイバの一端に戻ってくる後方散乱光における平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を含む前記被測定用光ファイバに関する偏波信号を出力する測定部と、
予め、モデル化された光ファイバの所定のモデル変数に基づいて、前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号をシミュレーションにより出力する演算部と、
前記測定部によって出力される前記被測定用光ファイバに関する偏波信号と前記演算部によって出力される前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号との両信号間のフィット度を判定する判定部と、
前記所定の波長下で前記判定部によって前記両信号間の所望のフィット度が得られたとき、前記被測定用の光ファイバの一端に入射する光パルスの波長を変えて前記測定部による測定を繰り返し、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数を算出する波長依存性モデル変数演算部と、
前記波長依存性モデル変数演算部によって算出された前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数に基づいて、前記被測定用光ファイバの群遅延時間差(DGD)を算出すると共に、該群遅延時間差(DGD)に基づいて前記被測定用の光ファイバの偏波モード分散(PMD)値を算出する偏波モード分散演算部と、
を具備することを特徴とする光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置が提供される。
【0019】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(5) 前記測定部は、
前記被測定用光ファイバの一端に予め指定されている複数の波長のうち所定の波長を有する光パルスを順次に入射する光パルス入射手段と、
前記光パルス入射手段によって前記所定の波長を有する光パルスが入射されることにより、前記被測定用光ファイバの一端に戻ってくる後方散乱光を平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を抽出する偏波成分抽出手段と、
前記偏波成分抽出手段によって抽出された前記後方散乱光の平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を電気信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段によって変換された電気信号に基づいて、前記被測定用光ファイバに関する偏波信号を算出する演算手段と、
前記演算手段によって算出された実際の測定に係る偏波信号のパワースペクトルをフーリェ変換によって算出する第1のフーリェ変換手段と、
を含むことを特徴とする(4)に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置が提供される。
【0020】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(6) 前記演算部は、
予め指定されている前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数を設定するモデル変数設定手段と、
前記モデル変数設定手段によって予め設定された前記モデル化された光ファイバのモデル変数に基づいて前記モデル化された光ファイバの偏波信号をシミュレーティングするシミュレーティング手段と、
前記シミュレーティング手段によってシミュレーティングされた前記モデル化された光ファイバの偏波信号のパワースペクトルをフーリェ変換によって算出する第2のフーリェ変換手段と、
を含むことを特徴とする(5)に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置が提供される。
【0021】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(7) 前記判定部は、
前記測定部の第1のフーリェ変換手段によって算出された前記被測定用光ファイバに関する偏波信号のパワースペクトルと前記演算部の第2のフーリェ変換手段によって算出された前記モデル化された光ファイバの偏波信号のパワースペクトルとを比較する比較手段と、
前記比較手段によって比較された比較結果に基づいて前記両偏波信号間のフィット度を判定するフィット度判定手段と、
を含むことを特徴とする(6)に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置が提供される。
【0022】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(8) 前記モデル変数設定手段は、予め、メモリに格納されている前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数から所定のモデル変数を読み出して、前記シミュレート手段に供給するを含むことを特徴とする(6)に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置が提供される。
【0023】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(9) 前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含み、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc (λ)を含むことを特徴とする(4)乃至(8)のいずれか一に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置が提供される。
【0024】
また、本発明によると、上記課題を解決するために、
(10) 前記両信号間のフィット度を最適化するために、前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数を調整するモデル変数調整部をさらに具備することを特徴とする(4)乃至(9)のいずれか一に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、POTDR(偏波オプチカルタイムドメインリフレクトメータ)トレースとモデル化された光ファイバのモデル変数とを用いて被測定用ファイバの偏波モード分散(PMD)を算出するための群遅延時間差(DGD)を出力可能とすることにより、近時の光通信の高速化、長距離化、大容量化に関係する問題を解消し得る光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施の形態による光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置の要部の構成を説明するために示すブロック図である。
【0028】
すなわち、本発明の一実施の形態による光ファイバの偏波モード分散測定装置は、大別して、測定部100と、演算部200と、判定部300と、PMD演算部400とを有している。
【0029】
ここで、測定部100は、後述するようなPOTDRトレース部101と、偏波信号演算部112と、第1のフーリェ変換手段としての第1のフーリェ(FFT)変換部113とを備えて構成されている。
【0030】
これにより、測定部100は、被測定用光ファイバ501の一端に所定の波長を有する光パルスを入射することにより、前記被測定用光ファイバ501の一端に戻ってくる後方散乱光における平行偏波成分と垂直偏波成分の少なくとも一方を含む前記被測定用の光ファイバに関する偏波信号を算出すると共に、最終的に、そのパワースペクトルを前記第1のフーリェ(FFT)変換部113から出力するようになされている。
【0031】
この第1のフーリェ(FFT)変換部113から出力される被測定用光ファイバ501に関する偏波信号のパワースペクトルは、判定部300の比較部301の一端に供給されるようになされている。
【0032】
一方、演算部200は、後述するような波長及びモデル変数設定手段としての設定部201及びモデル変数記憶部202と、シミュレート手段としての偏波信号シミュレート部203と、第2のフーリェ変換手段としての第2のフーリェ(FFT)変換部204とを備えて構成されている。
【0033】
これにより、演算部200は、予め、モデル化された光ファイバの所定のモデル変数に基づいて、前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号をシミュレーションにより算出すると共に、最終的に、そのパワースペクトルを第2のフーリェ(FFT)変換部204から出力するようになされている。
【0034】
この第2のフーリェ(FFT)変換部204からのモデル化された光ファイバに関する偏波信号のパワースペクトルは、前記判定部300の比較部301の他端に供給されるようになされている。
【0035】
この比較部301は、比較手段として前記第1のフーリェ(FFT)変換部113によって算出された前記被測定用の光ファイバに関する偏波信号のパワースペクトルと、前記第2のフーリェ(FFT)変換部204によって算出された前記モデル化された光ファイバの偏波信号のパワースペクトルとを比較するようになされている。
【0036】
そして、判定手段としての判定部300のフィット度判定部302は、前記測定部100によって出力される前記被測定用の光ファイバに関する偏波信号と、前記演算部200によって出力される前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号との両信号間のフィット度を判定するために、前記比較部301によって比較された比較結果に基づいて前記両信号のパワースペクトル間のフィット度を判定するようになされている。
【0037】
そして、この実施の形態による光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法及び装置は、前記両信号間の所望のフィット度を与える前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数に基づいて前記被測定用の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布を測定するようになされている。
【0038】
次に、以上における測定部100及び演算部200の詳細を説明する。
【0039】
まず、測定部100のPOTDRトレース部101は、パルス発生器/タイミング制御器102からのパルスに基づいて、例えば、DFBレーザ等でなる光源103から前記設定部201で設定された所定の波長を有する光パルスを出射するようになされている。
【0040】
この光源103から出射された所定の波長を有する光パルスは、必要に応じてエルビウムドープド光ファイバ増幅器104を介して所定のパワーに増幅された後、ASEフィルタ105、偏波制御器106を介して所定の波長と偏波を伴った光パルスになされる。
【0041】
この所定の波長と偏波を伴った光パルスは、この後、光ファイバサーキュレータ107及び偏波ビームスプリッタ108を介して、例えば、単一モード光ファイバ及び偏波保存光ファイバ等を含む被測定用光ファイバ501の一端に入射される。
【0042】
なお、光ファイバサーキュレータ107は、光方向性結合器や光スイッチであっても良い。
【0043】
この被測定用光ファイバ501の一端に戻ってくる後方散乱光における平行偏波成分と垂直偏波成分とが、それぞれ、光ファイバサーキュレータ107及び偏波ビームスプリッタ108を介して分離された後、それぞれ、例えば、100MHz用のPIN FET等からなる第1及び第2の光電変換器109,110によって電気信号に変換される。
【0044】
このようにして、第1及び第2の光電変換器109,110によって電気信号に変換された前記後方散乱光の平行偏波成分と垂直偏波成分とは、例えば、オシロスコープからなる表示器111に、同時に記録・表示される。
【0045】
そして、このような後方散乱光の平行偏波成分と垂直偏波成分とを同時に記録・表示する形態を本発明では、POTDRトレースと称している。
【0046】
次に、表示器111から出力される前記平行偏波成分と垂直偏波成分との両成分あるいは後述するようにそれらの少なくとも一方の成分は、偏波信号演算部112によって、前記被測定用光ファイバ501に関する偏波信号として演算されて出力される。
【0047】
この偏波信号演算部112による被測定用光ファイバ501に関する偏波信号についての演算の詳細は、後述する。
【0048】
この偏波信号演算部112から出力される被測定用光ファイバ501に関する偏波信号は、前述したように、第1のフーリェ(FFT)変換部113によってそのパワースペクトルの演算に供される。
【0049】
この第1のフーリェ(FFT)変換部113による被測定用光ファイバ501に関する偏波信号のパワースペクトルについての演算の詳細は、後述する。
【0050】
一方、演算部200の設定部201は、前記POTDRトレース部101の光源103から出射される光パルスの波長を前記所定の波長に設定すると共に、前記予めモデル化された光ファイバの所定のモデル変数を設定する。
【0051】
そして、この設定部201によって設定される予めモデル化された光ファイバの所定のモデル変数として、予め、ROM等のモデル変数記憶部202に格納されている前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数から所定のモデル変数が読み出されて、前記シミュレート手段としての偏波信号シミュレート部203に供給されるようになされている。
【0052】
この偏波信号シミュレート部203は、モデル変数記憶部202から読み出される予めモデル化された光ファイバの所定のモデル変数としての前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数に基づいて、モデル化された光ファイバの偏波信号を演算して前記第2のフーリェ(FFT)変換部204に供給するようになされている。
【0053】
この偏波信号シミュレート部203からのモデル化された光ファイバに関する偏波信号は、前述したように、第2のフーリェ(FFT)変換部204によってそのパワースペクトルの演算に供される。
【0054】
この第2のフーリェ(FFT)変換部204によるモデル化された光ファイバに関する偏波信号のパワースペクトルについての演算の詳細は、後述する。
【0055】
そして、前述したように、判定部300のフィット度判定部302は、前記測定部100によって出力される前記被測定用光ファイバ501に関する偏波信号と前記演算部200によって出力される前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号との両信号のパワースペクトル間のフィット度を、前記比較部301によって比較された比較結果に基づいて判定し、前記両信号のパワースペクトル間のフィット度が所望のフィット度になっていなければ、NG信号をモデル変数調整部205に供給するようになされている。
【0056】
このモデル変数調整部205は、フィット度判定部302からのNG信号に基づいて、前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数を調整して偏波信号シミュレート部203に供給するようになされている。
【0057】
この偏波信号シミュレート部203は、モデル変数調整部205で調整された前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数に基づいて、モデル化された光ファイバの偏波信号を再度演算して前記第2のフーリェ(FFT)変換部204に供給するようになされている。
【0058】
この偏波信号シミュレート部203で再度演算されたモデル化された光ファイバに関する偏波信号は、第2のフーリェ(FFT)変換部204によってそのパワースペクトルの再度の演算に供される。
【0059】
そして、前述したように、判定部300のフィット度判定部302は、前記測定部100によって出力される前記被測定用光ファイバ501に関する偏波信号と前記演算部200によって出力される前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号との両偏波信号のパワースペクトル間のフィット度を、前記比較部301によって再度比較された比較結果に基づいて再度判定し、それが所望のフィット度になっていなければ、NG信号をモデル変数調整部205に再度供給するようになされている。
【0060】
このようにして、モデル変数調整部205でのモデル変数の調整が、フィット度判定部302における判定結果として、前記両偏波信号間のフィット度が所望のフィット度になるまで繰り返されるようになされている。
【0061】
そして、フィット度判定部302における判定結果として、前記両偏波信号間のフィット度が所望のフィット度になると、OK信号がPMD演算部400のDGD演算部401に供給されるようになされている。
【0062】
このDGD演算部401は、前記両偏波信号間のフィット度が所望のフィット度になるまでに、モデル変数調整部205で調整されたモデル変数としての前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数に基づいて、前記被測定用光ファイバ501のDGDを演算するようになされている。
【0063】
このDGD演算部401による前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数に基づく、前記被測定用光ファイバ501のDGDの演算についての詳細は、後述する。
【0064】
これにより、DGD演算部401は、前記被測定用光ファイバ501の位相複屈折に関する情報を出力することができるようになされている。
【0065】
しかるに、PMD演算を行う場合には、演算部200の設定部201の波長設定により、前記POTDRトレース部101の光源103から出射される光パルスの波長が前記所定の波長とは異なる別のいくつかの波長を有する光パルスの波長として、前記POTDRトレース部101の光源103から順次に出射されるようになされている。
【0066】
これにより、測定部100、演算部200、判定部300で、前述したような測定と、演算と、判定とが、前記所定の波長とは異なる別のいくつかの波長を有する光パルスの波長に対応して繰り返されるようになされている。
【0067】
これにより、最終的に、演算部200の波長依存性モデル変数演算部206によって、前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数が、それぞれ、波長依存性を有する前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σ(λ)としての結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc(λ)として演算される。
【0068】
この波長依存性モデル変数演算部206による波長依存性を有する前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σ(λ)としての結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc(λ)の演算についての詳細は、後述する。
【0069】
そして、DGD演算部401は、前記所定の波長とは異なる別のいくつかの波長を有する光パルスの波長に対応して、かつ、前記両偏波信号間のフィット度が所望のフィット度になるまでに、モデル変数調整部205で調整されかつ波長依存性モデル変数演算部206によって演算された波長依存性を有する前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σ(λ)としての結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc(λ)分を含むモデル変数に基づいて、前記被測定用光ファイバ501のDGDを演算して、PMD演算部400のPMD演算処理部402に供給するようになされている。
【0070】
このDGD演算部401による波長依存性を有する前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σ(λ)としての結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc(λ)分を含むモデル変数に基づく、前記被測定用光ファイバ501のDGDの演算についての詳細は、後述する。
【0071】
そして、PMD演算処理部402では、波長依存性モデル変数演算部206によって演算された波長依存性を有する前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σ(λ)としての結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc(λ)分を含むモデル変数に基づいて、DGD演算部401で演算された前記被測定用光ファイバ501のDGDに基づいて前記被測定用光ファイバ501の所定のPMD演算処理を行うようになされている。
【0072】
このPMD演算処理部402による前記被測定用光ファイバ501のDGDに基づく前記被測定用光ファイバ501の所定のPMD演算処理についての詳細は、後述する。
【0073】
図2は、以上のように構成される本発明の一実施の形態による光ファイバの偏波モード分散(PMD)測定装置及び方法の要部の動作を説明するために示すフローチャートである。
【0074】
すなわち、測定動作の開始が指示されると、ステップS1において、前述したような測定部100のPOTDRトレース部101によるPOTDRトレースが表示器111に、記録・表示される。
【0075】
このPOTDRトレースでは、前述したように、被測定用光ファイバ501の一端に所定の波長を有する光パルスを入射して、該被測定用光ファイバ501の一端に戻ってくる後方散乱光の平行偏波成分と垂直偏波成分とが、同時に記録・表示される。
【0076】
この場合、実際の光パルスの幅で決まる有効なPOTDRパルス幅及び検出器としての第1および第2の光電変換器109,110のインパルス応答は、POTDRトレースの細部を解明するために充分なものでなければならない。
【0077】
このためPOTDR光源からの光パルスのスペクトル幅は、ディ・ポラリゼションを妨げる程度に狭く、干渉性のレイリー散乱ノイズを避ける程度に広くなければならない。
【0078】
すなわち、次式(1)のような関係を満たす必要がある。
【数1】

【0079】
ただし、Δτは全システムPMD、 λはPOTDRの作動波長、 ΔλはPOTDR光源からのスペクトル幅(単位は波長)、 Cは光の速度、 ΔνはPOTDR光源からのスペクトル幅(単位は周波数)、 ΔtはPOTDRパルス幅である。
【0080】
図3及び図4は、平行POTDRトレースと垂直POTDRトレースのそれぞれの測定例の一部分を示している。
【0081】
次に、ステップS2では、以上のようにして表示部111に記録・表示された平行POTDRトレースと垂直POTDRトレース結果に基づいて、偏波信号演算部112により、前記被測定用光ファイバ501に関する偏波信号が演算される。
【0082】
この場合、ゼロ信号がゼロの後方散乱光の強度に対応させるように、最初に二つのトレースからDCオフセットをすべて除去しなければならない。
【0083】
平行および垂直トレースの合計は、通常の非偏波OTDRに等しい。 そこで、二つのトレースを合計して、二つの検出器の間の差動利得と遅延を調整して、合計したトレース上のノイズを最小にする。
【0084】
また、偏波信号の演算においては、ゼロオフセット、差動利得および遅延を考慮して、偏波信号が計算される。
【0085】
図5は、演算された偏波信号の一例を示している。 そして、充分確実な測定を行うために、図5に示すように、偏波信号を+1から−1まで変化させるようにしている。
【0086】
DCオフセットを求める際に、POTDRパルスがファイバシステムとしての被測定用光ファイバ501に入る前に示されるトレース部分が基準のゼロレベルとして使用されている。
【0087】
図6は、区域マーク付きPOTDRトレースの一例を示している。 図6でマークを付けた二つの領域1(OP)、領域2(OO)の平均レベルは、ゼロオフセットとされる。
【0088】
領域1(OP)は平行POTDRトレースの場合、領域2(OO)は垂直POTDRトレースの場合である。
【0089】
そして、差動利得および遅延を求めるに際しては、経路が長く、平行偏波検出器としての第1の光電変換器109の挿入損失も異なるため、二つの検出器としての第1および第2の光電変換器109,110からの信号レベルと位置に相違があることに留意する必要がある。
【0090】
これは、差動利得ΔG、および遅延ΔZとして説明することができる。 この二つのパラメータは、平行及び垂直POTDRトレースを修正して、合計利得のノイズ及び遅延を最小にすることにより得られる。
【0091】
合計のトレースS(z)は、次式(2)で与えられる。
【数2】

【0092】
ただし、Sp(z)は測定された平行偏波のトレース、
So(z)は測定された垂直偏波のトレースである。
【0093】
均一ファイバセクションのS(z)は指数関数的な遅延を示し、S(z)の対数をとると直線回帰を使うと直線に一致する。
【0094】
これは、次式(3)で与えられる。
【数3】

【0095】
ただし、aはファイバ減衰、
bは定数、
ε(z)はzにおける測定値と直線回帰の誤差である。
【0096】
RMSノイズは、測定部100全体でε(z)のRMSとして計算される。
【0097】
差動利得ΔG及び遅延ΔZは、このRMSノイズが最小になるように調整される。
【0098】
そして、偏波信号の計算に際しては、前述のようにして求められたゼロオフセット及び差動利得と遅延から、偏波信号P(z)として次式(4)を使って計算される。
【数4】

【0099】
なお、以上において、測定部100の偏波分離手段としての光方向性結合器107及び偏波ビームスプリッタ108とPOTDR検出器としての第1および第2の光電変換器109,110について、構成及び演算の簡易化のために、平行及び垂直偏波のいずれか一方だけを用いるようにしてもよい。
【0100】
このようにPOTDRが1個だけ利用できる場合、偏波信号は、ファイバでの減衰を考慮して、局部的な最大信号を用いて計算することが可能である。
【0101】
この局部的な最大信号は、局部的な平均信号に比例し、比例定数は発射と受信の偏波状態の関係から決まる。
【0102】
そして、1個の平行POTDRトレースだけが利用できる場合でも、ゼロオフセットOPは前述したようにして計算される。
【0103】
この平行POTDRトレースだけの場合、局部最大信号レベルは、局部平均信号レベルの1.5倍である。
【0104】
均一ファイバセクションでは、局部平均信号レベルは指数関数型の減衰を示すことが知られている。
【0105】
そして、次式(5)のように非直線最小二乗法を適用してRMSエラーε(z)を最小にする。
【数5】

【0106】
直線回帰の実行は対数領域では不可能であるが、それはSp(z)が大きく変動して、かなりの重み付けのある適合が行われるためである。
【0107】
この平行POTDRトレースだけの場合において、偏波信号は、次式(6)を用いて計算される。
【数6】

【0108】
また、1個の垂直POTDRトレースだけが利用できる場合でも、ゼロオフセットOOは前述したような節の方法により計算される。
【0109】
この垂直POTDRトレースだけの場合、局部最大信号レベルは、局部平均信号レベルの3倍である。
【0110】
均一ファイバーセクションでは、局部平均信号レベルは、指数関数型の減衰を示す。
【0111】
次式(7)に示すような非直線最小二乗法を適用してRMSエラーε(z)を最小にする。
【数7】

【0112】
直線回帰の実行は対数領域では不可能であるが、それはSo(z)が大きく変動して、かなりの重み付けのある適合が行われるためである。
【0113】
この垂直POTDRトレースだけの場合において、偏波信号は次式(8)を用いて計算される。
【数8】

【0114】
次に、ステップS4では、前述のようにして演算された偏波信号を用いて、高速フーリェ変換(FFT)による偏波パワースペクトルの計算が行われる。
【0115】
この場合、偏波信号のパワースペクトルは、偏波信号の高速フーリェ変換の結果の大きさの二乗を求めて計算される。
【0116】
そして、PMDを計算するトレースのセクションの偏波信号は、全体の偏波信号から抽出される。
【0117】
計算を容易にするため、2N 個の点の長さのセクションを取ると、高速フーリェ変換のアルゴリズムを使うことができる。
【0118】
図7は、このようにして計算された偏波パワースペクトルFm(υ)の一例を示している。
【0119】
そして、制限されたPOTDR分解能に対する補償については、この段階で行うことができる。
【0120】
これは、計算された偏波パワースペクトルを装置の応答パワースペクトルで除算することによって達成される。
【0121】
これは、POTDRトレースから装置応答のくりこみを取り除くことと等価である。
【0122】
このようなくりこみ除去により、高周波部分でノイズの大きな増加を招くこともあるので、注意を要する。
【0123】
次に、ステップS5,S6,S7での偏波信号のシミュレーションのための一連の処理が行われる。
【0124】
まず、これらの処理の概要について説明すると、偏波信号は、光ファイバ内の複屈折のシミュレーションを行うことによってシミュレートされる。
【0125】
このシミュレーションとしては、例えば、モンテカルロ・シミュレーションを行うことによってシミュレートされる。
【0126】
この場合、ファイバは短い複屈折のエレメントに分割され、各エレメントの複屈折は複屈折モデルに従って不規則に発生される。
【0127】
そして、複屈折ベクトルから各エレメントのミューラーマトリックスを計算して、n個のエレメントについてミューラー回転マトリックスの乗算から、第1エレメントから第nエレメントまでの伝播のミューラー回転マトリックスが計算される。
【0128】
また、n個のエレメントファイバを通過する二方向伝送の出力偏波信号が計算される。
【0129】
図8は、複屈折エレメントの配置を示している。
【0130】
図8において、i番目のエレメントの複屈折ベクトルはb(i)で示し、i番目のエレメントの前向きミューラー回転マトリックスはR(i)、i番目のエレメントの後向き伝送ミューラー回転マトリックスは、前向きマトリックスの転置R(i)T で示される。
【0131】
また、入力偏波状態はsi、出力偏波状態はso、後方散乱回転マトリックスはMの記号で示される。
【0132】
次に、ステップS5でのモデルパラメータの設定について説明すると、複屈折モデルは、いくつかの複屈折モデルを使うことができる。
【0133】
各モデルは、3個の入力パラメータ、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβc及び不規則な成分σの強度を示すパラメータをもっている。
【0134】
偏波モード・カップリングパラメータは、パラメータσに関連している。 各モデルには、多くの確率変数νがあり、これらはモンテカルロ・シミュレーションにおける不規則エレメントである。
【0135】
各複屈折エレメントにおいて、これらの値はガウス分布からゼロ平均およびユニット標準偏差により不規則に選ばれる。
【0136】
各エレメントの長さはδlで与えられ、計算を容易にするため、これはPOTDRトレースのサンプルの間隔と等しくなっている。
【0137】
次に、弱い摂動モデルについて説明すると、各エレメントの複屈折は、小さい摂動に対しては一定と考えられる。
【0138】
i番目のエレメントb(i)の複屈折ベクトルは、次式(9)で示される。
【数9】

【0139】
ただし、δβlは複屈折の直線成分、
δβcは複屈折の円形成分、
σは摂動の強さ、
δlはエレメントの長さ、
νiはガウス分布からゼロ平均およびユニット標準偏差により選ばれた独立した不規則な値である。
【0140】
次に、回転モデルについて説明すると、各エレメントの複屈折は、軸が不規則に変わる直線複屈折成分と、強度が不規則に変わる円複屈折成分とにより示される。
【0141】
i番目のエレメントb(i)の複屈折ベクトルは、次式(10)で示される。
【数10】

【0142】
ただし、δβlは直線複屈折成分、
δβcは円複屈折成分である。
【0143】
また、θ(i)とφ(i)は、次の関係式(11)で与えられる。
【数11】

【0144】
ただし、σは回転率強度、
δ1はエレメントの長さ、
νθとνφはガウス分布からゼロ平均およびユニット標準偏差により選ばれた独立した不規則な変数である。
【0145】
次に、拡散モデルについて説明すると、拡散プロセスは、各エレメントの複屈折を記述する。
【0146】
i番目のエレメントb(i)の複屈折ベクトルは、次式(12)で示される。
【数12】

【0147】
ただし、δβlは複屈折の直線成分、
δβcは複屈折の円成分、
δlはエレメントの長さ、
αは拡散定数、
νiはガウス分布からゼロ平均およびユニット標準偏差により選ばれた独立した不規則な値である。
【0148】
次に、ミューラー回転マトリックスの計算について説明すると、各エレメントのミューラー回転マトリックスは、各エレメントの複屈折ベクトルから計算される。
【0149】
次式(13),(14),(15)を使って、各エレメントごとに3個の回転マトリックス、Rx、RyおよびRzが計算される。
【数13】

【0150】
【数14】

【0151】
【数15】

【0152】
これらを組み合わせて、i番目のエレメントのミューラー回転マトリックスR(i)が次式(16)によって得られる。
【数16】

【0153】
次に、後方散乱偏波状態の計算について説明すると、n番目のエレメントの直後の点から受け取る後方散乱信号の偏波状態は、次式(17)で与えられる。
【数17】

【0154】
ただし、Mは次式(18)で与えられる対称行列である。
【数18】

【0155】
次に、ステップS6での偏波信号の計算について説明すると、まず、発射偏波状態si が次式(19)のように設定される。
【数19】

【0156】
そして、前述のようにして計算された偏波信号は、出力偏波状態の1番目のエレメントによりシミュレートされる。
【0157】
これは結合された回転マトリックスの左上のエレメントを取ることと等価であり、n個のエレメントによる偏波信号P(n)は、次式(20)で与えられる。
【数20】

【0158】
図9は、シミュレートされた偏波信号の一例を示している。
【0159】
次に、ステップS7でのシミュレートされた偏波信号のパワースペクトルの計算について説明すると、シミュレートされた偏波信号のパワースペクトルは、前述したようにして計算される実際に測定された偏波信号の場合と同じように高速フーリェ変換(FFT)による方法で計算される。
【0160】
そして、シミュレートされた偏波パワースペクトルのノイズを除くために、シミュレートされた偏波信号は複数回繰り返され、各シミュレーションのパワースペクトルを平均して、シミュレートされた偏波信号のパワースペクトルFs(υ)を得る。
【0161】
図10は、シミュレートされた偏波パワースペクトルの一例を示している。 次に、ステップS9でシミュレートされた偏波パワースペクトルと測定された偏波パワースペクトルとの比較が行われた後、ステップS10でモデルパラメータの調整、エラーの最小化が行われる。
【0162】
まず、ステップS9でのシミュレートされた偏波パワースペクトルと測定された偏波パワースペクトルとの比較について説明する。
【0163】
すなわち、このステップS9では、シミュレートされた偏波パワースペクトルと測定された偏波パワースペクトルとが比較される。
【0164】
この比較によるフィット度は、次式(21)で定義される適当な周波数ウインドウについて、この二つの正規化されたトレースの間の偏差の二乗の合計値から計算され得る。
【数21】

【0165】
ただし、υ1とυ2は、DCの影響を受けずしかも高い周波数のノイズより下になる適当な周波数の範囲、
Fm(υ)は測定した偏波パワースペクトル、
Fs(υ)はシミュレートされた偏波パワースペクトルである。
【0166】
フィット度は、最も良くフィットしたときに最小値になる。
【0167】
次に、ステップS10でのモデルパラメータの調整、エラーの最小化について説明すると、モデルパラメータは、Qが最小値になるまで調整される。
【0168】
これを迅速に高い信頼度で行うため方法はかなりの作業が必要であるが、可能性のある方法の一つは、さまざまな値のδβl、δβc及びσに関してシミュレートされた偏波パワースペクトルFs(υ)を計算して、δβl、δβc及びσの関数としてQを計算することである。
【0169】
最も良くフィットするパラメータは、このQを最小にするδβl、δβc及びσとして得られる。
【0170】
次に、ステップS11での別の波長による測定について説明する。
【0171】
前述したステップS1からステップS10までは、単一の波長においてδβl、δβc及びσを計算する手順が説明されている。これから被測定用光ファイバ501についての位相複屈折に関する情報が得られる。
【0172】
しかし、被測定用光ファイバ501についてのPMDを計算する場合には、このPMDはモデルパラメータ(時間遅延があり位相の遅延のない)であるため、シミュレーション・パラメータ、δβl、δβc及びσの波長依存性が必要である。
【0173】
そこで、ステップS11では別の波長による測定を行わせることにより、前述したステップS1からステップS10までの処理を繰り返す。
【0174】
こうして、光周波数すなわち波長に依存するモデルパラメータ、δβl(ω)、δβc(ω)及びσ(ω)すなわちδβl(λ)、δβc(λ)及びσ(λ)が計算される。
【0175】
光周波数すなわち波長に依存するこれらのパラメータとして多くのモデルがあり得るが、偏波モードの結合長さに関連するσは、光周波数すなわち波長にほぼ依存しないと考えられ。
【0176】
複屈折成分δβlとδβcの光周波数すなわち波長依存の可能性のあるモデルは、位相遅延とモード遅延が一定の乗数で結合したものである。
【0177】
これは、次式(22)のように表される。
【数22】

【0178】
こうして、次式(23)に示す光周波数(すなわち波長)に依存する直線複屈折成分が得られる。
【数23】

【0179】
円複屈折成分についても同様な式を使うことができる。
【0180】
は1と2の間にあり、Xcは約0.1であると予想される。
【0181】
次に、ステップS12でのPMDの計算について説明する。
【0182】
まず、光周波数すなわち波長に依存するモデルのパラメータを用いて、被測定用光ファイバ501についてのファイバセクションから光周波数すなわち波長に依存する出力偏波状態が計算される。
【0183】
前述したような方法に従い、ただし光周波数ωの関数として、片道の出力状態だけを計算する。
【0184】
こうすると、so (ω)は、次式(24)で与えられる。
【数24】

【0185】
ファイバ・セクションに関するミューラー回転マトリックスR(ω)が計算されているので、例えば、下記のような非特許文献1乃至3等により充分に説明されている公知の技法に従い、差動グループ遅延は光周波数の関数として計算される。
【非特許文献1】C.D.POOLE,N.S.BERGANO,R.E.WAGNER,H.J.SCHULTE,″Polarization Dispersion and Principle States in a147km Undersea Lightwave Cable″J of Light Tech.,Vol 6,No7,July1988,pp1185−1190.
【非特許文献2】B.L.HEFFNER,″Automated Measurement of Polarization Mode Dispersion Using Jones Matrix Eigenanalysis″,IEEE Photonics Tech Lett,Vol4,No9,September 1992,pp1066−1069.
【非特許文献3】L.E.NELSON,R.M.JOPSON,H.KOGELNIK,″Muller Matrix Method for Determining Polarization Mode Dispersion Vectors″,ECOC 1999,Nice France,Wednesday 29 September 1999,Session PMD1. 次に、PMDが、必要とする定義に応じて、実効値(RMS)DGDまたは平均値DGDとして計算される。
【0186】
そして、このようなシミュレーションは数回繰り返すことにより、より良いPMDの推定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態による光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置の要部の構成を説明するために示すブロック図である。
【図2】図2は、以上のように構成される本発明の一実施の形態による光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置及び方法の要部の動作を説明するために示すフローチャートである。
【図3】図3は、平行POTDRトレースの測定例の一部分を示す図である。
【図4】図4は、垂直POTDRトレースの測定例の一部分を示す図である。
【図5】図5は、演算された偏波信号の一例を示す図である。
【図6】図6は、区域マーク付きPOTDRトレースの一例を示す図である。
【図7】図7は、計算された偏波パワースペクトルFm(υ)の一例を示す図である。
【図8】図8は、複屈折エレメントの配置を示す図である。
【図9】図9は、シミュレートされた偏波信号の一例を示す図である。
【図10】図10は、シミュレートされた偏波パワースペクトルを例示する図である。
【符号の説明】
【0188】
100…測定部、
200…演算部、
300…判定部、
400…PMD演算部、
401…DGD演算部、
402…PMD演算処理部、
501…被測定用光ファイバ、
101…POTDRトレース部、
112…偏波信号演算部、
113…第1のフーリェ変換手段(第1のフーリェ(FFT)変換部),
301…比較部、
302…フィット度判定部、
201…設定部、
202…モデル変数記憶部、
203…シミュレート手段(偏波信号シミュレート部)、
204…第2のフーリェ変換手段(第2のフーリェ(FFT)変換部)
205…モデル変数調整部、
102…パルス発生器/タイミング制御器、
103…光源、
104…エルビウムドープド光ファイバ増幅器、
105…ASEフィルタ、
106…偏波制御器、
107…光ファイバサーキュレータ、
108…偏波ビームスプリッタ、
109…第1の光電変換器、
110…第2の光電変換器、
111…表示器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定用光ファイバの一端に所定の波長を有する光パルスを入射することにより、前記被測定用光ファイバの一端に戻ってくる後方散乱光における平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を含む前記被測定用光ファイバに関する偏波信号を出力する第1のステップと、
モデル化された光ファイバの所定のモデル変数に基づいて前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号をシミュレーションにより出力する第2のステップと、
前記被測定用光ファイバに関する偏波信号と前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号との両信号間のフィット度を判定する第3のステップと、
前記所定の波長下で前記両信号間の所望のフィット度が得られたとき、前記被測定用光ファイバの一端に入射する光パルスの波長を変えて前記第1乃至第3のステップを繰り返し、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数を算出する第4のステップと、
前記波長依存性を有するモデル変数に基づいて、前記被測定用光ファイバの群遅延時間差(DGD)を算出すると共に、該群遅延時間差(DGD)に基づいて前記被測定用の光ファイバの偏波モード分散(PMD)値を算出する第5のステップと、
を具備することを特徴とする光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法。
【請求項2】
前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含み、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc(λ)を含むことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法。
【請求項3】
前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数を調整して前記第2及び第3のステップを繰り返すことにより、前記両信号間のフィット度を最適化する第6のステップをさらに具備することを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定方法。
【請求項4】
被測定用光ファイバの一端に所定の波長を有する光パルスを入射することにより、前記被測定用光ファイバの一端に戻ってくる後方散乱光における平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を含む前記被測定用の光ファイバに関する偏波信号を出力する測定部と、
予め、モデル化された光ファイバの所定のモデル変数に基づいて、前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号をシミュレーションにより出力する演算部と、
前記測定部によって出力される前記被測定用光ファイバに関する偏波信号と前記演算部によって出力される前記モデル化された光ファイバに関する偏波信号との両信号間のフィット度を判定する判定部と、
前記所定の波長下で前記判定部によって前記両信号間の所望のフィット度が得られたとき、前記被測定用光ファイバの一端に入射する光パルスの波長を変えて前記測定部による測定を繰り返し、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数を算出する波長依存性モデル変数演算部と、
前記波長依存性モデル変数演算部によって算出された前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数に基づいて、前記被測定用光ファイバの群遅延時間差(DGD)を算出すると共に、該群遅延時間差(DGD)に基づいて前記被測定用光ファイバの偏波モード分散(PMD)値を算出する偏波モード分散演算部と、
を具備することを特徴とする光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置。
【請求項5】
前記測定部は、
前記被測定用光ファイバの一端に予め指定されている複数の波長のうち所定の波長を有する光パルスを順次に入射する光パルス入射手段と、
前記光パルス入射手段によって前記所定の波長を有する光パルスが入射されることにより、前記被測定用光ファイバの一端に戻ってくる後方散乱光を平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を抽出する偏波成分抽出手段と、
前記偏波成分抽出手段によって抽出された前記後方散乱光の平行偏波成分と垂直偏波成分との少なくとも一方を電気信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段によって変換された電気信号に基づいて、前記被測定用光ファイバに関する偏波信号を算出する演算手段と、
前記演算手段によって算出された実際の測定に係る偏波信号のパワースペクトルをフーリェ変換によって算出する第1のフーリェ変換手段と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置。
【請求項6】
前記演算部は、
予め指定されている前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数を設定するモデル変数設定手段と、
前記モデル変数設定手段によって予め設定された前記モデル化された光ファイバのモデル変数に基づいて前記モデル化された光ファイバの偏波信号をシミュレーティングするシミュレーティング段と、
前記シミュレーティング手段によってシミュレーティングされた前記モデル化された光ファイバの偏波信号のパワースペクトルをフーリェ変換によって算出する第2のフーリェ変換手段と、
を含むことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置。
【請求項7】
前記判定部は、
前記測定部の第1のフーリェ変換手段によって算出された前記被測定用光ファイバに関する偏波信号のパワースペクトルと前記演算部の第2のフーリェ変換手段によって算出された前記モデル化された光ファイバの偏波信号のパワースペクトルとを比較する比較手段と、
前記比較手段によって比較された比較結果に基づいて前記両偏波信号間のフィット度を判定するフィット度判定手段と、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置。
【請求項8】
前記モデル変数設定手段は、予め、メモリに格納されている前記モデル化された光ファイバの不規則な成分σとしての結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含むモデル変数から所定のモデル変数を読み出して、前記シミュレーティング手段に供給する請求項6に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置。
【請求項9】
前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc、直線複屈折成分δβl、円複屈折成分δβcを含み、前記モデル化された光ファイバの波長依存性を有するモデル変数は、不規則な成分σとしての光ファイバの結合長さLc(λ)、直線複屈折成分δβl(λ)、円複屈折成分δβc(λ)を含むことを特徴とする請求項4乃至8のいずれかに一に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置。
【請求項10】
前記両信号間のフィット度を最適化するために、前記モデル化された光ファイバの所定のモデル変数を調整するモデル変数調整部をさらに具備することを特徴とする請求項4乃至9のいずれか一に記載の光ファイバの長手方向の偏波モード分散分布測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−214875(P2006−214875A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28022(P2005−28022)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)