説明

光ファイバ用母材、その製造方法及び装置

良好な特性を有する光ファイバを材料歩留まり高く製造できる光ファイバ用母材を提供する。
【課題】
【解決手段】 光ファイバ用母材は、石英管31とコアロッド32との先端融着部分がテーパ形状を有し、融着加工前の石英管の平均外径をDとし、先端融着部の外径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部33と定義したときに、先端テーパ部33の長さLが1.0D〜3.0Dの範囲にある。石英管31とコアロッド32との間には、Arガスが封入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用母材、その製造方法及び装置に関し、更に詳しくは、線引工程に先立って、クラッドとなる石英管と光ファイバ用コアロッドとを先端部で融着して形成する先端融着部を有する光ファイバ用母材、その製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバが大量に利用されるようになるに従い、その量産化及び低コスト化が進んできた。量産化及び低コスト化のためには、大型の光ファイバ用母材を作製し、それを線引することが最も簡便な方法である。大型の光ファイバ用母材を製造する方法の一つとして、いわゆるロッドインチューブ法による光ファイバ用母材の製造方法が提案されている。ロッドインチューブ法とは、光ファイバ用母材の体積の大部分を占めるクラッド部用の石英管を作製し、この石英管の内側中空(以下、石英管内部という)にVAD(Vapor-phase Axial Deposition)法やOVD(Outside Vapor Deposition)法等で作製したコアを含む光ファイバ用コアロッド(以降、コアロッドと呼ぶ。)を挿入し、外部から加熱しこれらを融着一体化して光ファイバ用ガラス母材とする方法である。
【0003】
しかし、近年さらにクラッド用石英管の大型化が進み、ロッドインチューブ法を用いた場合、融着一体化の際に発生する母材のクラックや、融着一体化設備の大型化に伴うコストの上昇が問題になってきている。このため特許文献1で提案されているように、線引時に石英管とコアロッドとを融着一体化する方法が注目を集めている。この方法では、線引時に石英管とコアロッドとの間の隙間を減圧し融着するので、融着一体化のための大型設備が不要であり、また融着一体化時の温度が高いので、石英管の粘度が十分に低くクラックが発生しにくい利点がある。
【0004】
ところで、線引時に融着一体化を行う方法では、線引中に石英管とコアロッドとの間の隙間を減圧して融着一体化を行うため、通常は線引される側の石英管端部を予め塞いでおく必要がある。また前記石英管端部は、線引開始から定常状態に移行するまでの時間を短くするために、テーパ形状に成形しておく必要もある。前掲特許文献1では、石英管の先端部とコアロッドの先端部との融着(以下、先端融着という。)を、ダミー部材を介して行うことにより、先端形状を成形することを提案している。
【特許文献1】特開昭60−155542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、線引においては、まず、加熱炉下部の開口から、融解した母材先端が小塊となって落下する(以下、融解落下という。)。次いで、この融解落下に後続して、光ファイバが線引され、加熱炉下部の開口から出てくるため、これを、最初の段階では比較的遅い速度で巻き取り、その後、除々に線速を上げて巻き取る。線速が安定するまでは、光ファイバの特性が安定しないため、線速が安定した時点からの光ファイバを良品とし出荷している。このため、材料の歩留まりを上げるためには、融解落下から線速が安定するまでの時間を短くすることが重要になる。
【0006】
線引時に融着一体化を行う方法では、石英管の断面外径が例えば100mm以上と太い場合には、石英管の熱容量が大きくなるため、加熱開始から融解落下までの時間が60〜90分ほどになり、効率的ではない。また先端融着では、従来はコアロッドの先端部と石英管の先端部とをダミー部材を介して融着する方法も採用されてきたが、石英管の大型化に伴って、融着装置とダミー部材を大型化する必要があり、コスト上昇が問題となっている。
【0007】
更に、先端融着では、(1)コアロッドの表面、及び石英管の内外表面にファイバ断線の原因となりうる不純物が付着することを防止すること、(2)石英管内表面及びコアロッドの表面に水分が付着することを防止すること、(3)加工(先端融着及び先端成形)後の冷却時に発生するクラックを防止すること、なども、安定な光ファイバ製品を得るために重要な課題である。(2)については、先端融着部の加工時のみでなく、加工後においても外気を石英管内部に浸入させないことが重要である。水分があると、加熱中にコアロッドと石英管の界面からOHが拡散し、ファイバの伝送損失が増加する。(3)のクラックは、石英管とコアロッドとの間に生じた温度差により発生する応力が原因である。
【0008】
本発明は、石英管の先端部と、石英管内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを融着して成る先端融着部を有する光ファイバ用母材を改良し、特に大型の装置を用いなくても、材料歩留まりが高くかつ安定な光ファイバ製品が得られるように改良された光ファイバ用母材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の視点に係る光ファイバ用母材は、石英管の一方の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの該石英管の先端部と同じ側となる先端部とを融着加工して成る先端融着部を有する光ファイバ用母材において、
前記先端融着部がテーパ形状を有し、融着加工前の石英管の平均外径をDとし、前記先端融着部の外径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部と定義したときに、該先端テーパ部の長さが1.0D〜3.0Dの範囲にあることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第2の視点に係る光ファイバ用母材は、石英管の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを融着加工して成る先端融着部を有する光ファイバ用母材において、
前記石英管と前記光ファイバ用コアロッドとの間に不活性ガスが封入されていることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の光ファイバ用母材の製造方法は、石英管の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを、加熱炉内で加熱融着して先端融着部を形成する工程と、
前記先端融着部を加工する工程であって、融着加工前の石英管の平均外径をDとし、前記先端融着部の外径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部と定義したときに、該先端テーパ部の長さが1.0D〜3.0Dの範囲となるように加工する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の光ファイバ用母材の製造装置は、石英管の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを、加熱炉内で加熱融着して先端融着部を形成する融着装置と、
前記先端融着部を加工する加工装置であって、融着加工前の石英管の平均外径をDとし、前記先端融着部の径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部と定義したときに、該先端テーパ部の長さが1.0D〜3.0Dの範囲となるように加工する加工装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の視点に係る光ファイバ用母材によると、先端テーパ部の長さを上記範囲に設定することにより、この光ファイバ用母材から得られる光ファイバのクラッド非円率が小さく抑えられること、融解落下時間が短くなり作業時間が短縮できること、気泡ができる光ファイバの先端部の長さが短くなり、また、線速が安定するまでに要する線速安定時間が短縮でき、材料の歩留まりが向上すること等の効果が得られる。
【0014】
また、本発明の第2の視点に係る光ファイバ用母材によると、光ファイバ用母材の保管中における品質劣化が防止でき、特に製品となった光ファイバの先端部における損失が低下する効果がある。
【0015】
更に、本発明の光ファイバ用母材の製造方法及び製造装置によると、先端テーパ部の形状を前記形状に加工することにより、上記効果を奏する光ファイバ用母材の製造が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
また、本発明の光ファイバ用母材の製造方法では、前記先端融着部を、1800℃から室温に降温する際の平均温度変化を20℃/分以下とする徐冷工程を有することも好ましい態様である。この場合、光ファイバ用母材のクラックが防止できる。
【0017】
また、本発明の光ファイバ用母材の製造方法では、加熱炉の内部に流す雰囲気ガスを、石英管の端部を挿入している加熱炉の一方の開口部から、加熱炉の他方の開口部に向けて流すことも本発明の好ましい態様である。前記本発明の第2の視点に係る光ファイバ用母材の製造が可能となる。
【0018】
また、前記先端融着部を形成する工程及び前記先端融着部を加工する工程では、石英管の内部を石英管の外部と同じ圧力に保つことも本発明の好ましい態様である。この場合、加熱中の石英管の不要な変形が抑えられ、得られる光ファイバの外径変動を小さく抑えることができる。
【0019】
本発明の光ファイバ用母材の製造装置は、前記先端融着部を、1800℃から室温に降温する際の平均温度変化を20℃/分以下とする徐冷装置を更に備えることが好ましい。この場合、得られる光ファイバ用母材についてクラックの発生が抑えられる。
【0020】
また、石英管の端部を挿入している加熱炉の一方の開口部から、加熱炉の他方の開口部に向けて不活性ガスを流すガス導入装置を更に有することも本発明の光ファイバ用母材の製造装置の好ましい態様である。石英管の外表面にダストが付着することを防止できる。
【0021】
更に、前記融着装置による融着時と前記加工装置による加工時に、石英管の内部を外部と同じ圧力に保つ圧力保持手段を更に有することも好ましい。石英管の変形の防止が可能となる。
【0022】
以下、本発明の原理を説明する。図3に、先端融着部を有する光ファイバ用母材のテーパ部の長さと、この光ファイバ用母材から、線引と同時に融着一体化を行って得られた光ファイバの特性等との関係を示す。詳しくは、同図には、光ファイバ用母材の先端テーパ部の長さ(L)と光ファイバのクラッド非円率との関係(図(a))、先端テーパ部の長さと線引時の融解落下時間との関係(同図(b))、先端テーパ部の長さと得られた光ファイバ中で気泡を有する部分の長さとの関係(同図(c))、及び、先端テーパ部の長さと線引時の線速安定時間との関係(同図(d))が、それぞれグラフで示されている。ここで、図4に示すように、加工前の石英管31の平均外径をDとして(同図(a))、加工後の光ファイバ用母材(同図(b))の先端テーパ部33を、石英管31の外径が0.95Dである長手方向位置から石英管31の外径が0.10Dである長手方向位置までの母材部分であると定義し、その先端テーパ部33の長さをLとしている。
【0023】
図3のグラフから、加熱開始から融解落下までの時間を短くするためには、先端テーパ部33を長くすれば良いことが判る(図3(b))。しかし、テーパ部が長過ぎると、線速安定までの時間が伸びること(図3(d))、及び、線速安定後もしばらくの間はファイバ中に気泡が発生すること(図3(c))が判明した。ファイバ中に気泡が発生する原因は、テーパ部が長くなると、コアロッドと石英管とが不完全に融着している箇所が発生し、この部分にガスが残りやすいためである。またテーパ部が短い場合には、前述のように融解落下の時間が延びることの他に、線速安定直後のクラッド非円率が悪化することも判った(図3(a))。なお、図3(a)におけるクラッド非円率の規格上限値は一般的には1%であり、その定義はITU-T G650.1に従うものとする。上記結果から、テーパ部の長さLには適切な長さが存在することが理解できる。
【0024】
前記のように先端テーパ部33を定義すると、図3(a)から(d)までのグラフから、適切な先端テーパ部の長さLをL=1.0D〜3.0Dの範囲とすることにより、良好な光ファイバが高い歩留まりで得られる。石英管31とコアロッド32との先端融着加工、及び、その先端テーパ部33の形状加工については、コスト削減のため、ダミー部材なしに石英管31とコアロッド32とを直接融着し、先端形状を先に述べたテーパ形状に成形することが望ましい。
【0025】
上記先端テーパ部の形状を得るために以下の方法を採用した。まず、コアロッドを石英管に挿入した状態で固定し吊り下げる。双方の先端を縦型の加熱炉で加熱し、重力により石英管が伸びて石英管が縮径することにより、コアロッドと石英管との先端融着が行われる。加熱中は、加熱炉の上部から不活性ガス(例えば、Ar)を上方から下方に向けて流し、清浄な不活性ガスで石英管の先端を包むことによって、石英管とコアロッドとの間の隙間、及び、石英管外部にダストが付着するのを防止できる。
【0026】
先端融着の際には、石英管とコアロッドとの間の隙間に、水分含有率が100ppm以下の不活性ガス(例えば、Ar)を流すことで、加熱に起因する水分のコアロッドへの拡散を防ぐことができる。先端融着後、さらに加熱を続けると重力によって加熱部分が伸びる。伸びた不要な部分は、加熱炉の下に設けた切断機によって断続的に数回切断する。先端テーパ部の長さは、切断回数で制御することができ、切断回数を増やすことにより、先端テーパ部を短くすることができる。ただし、切断回数をある程度増やしていくと、先端テーパ部の長さは変化しなくなる。切断回数以外にも、先端テーパ部の長さは、切断時に母材を上方向に、連続的または断続的に引き上げることにより、短くすることができる。また、炉内の温度分布を変化させることによっても、先端テーパ部の長さを変化させることができる。
【0027】
先端テーパ部の加工後は、その加工部分の温度を除々に下げることで、石英管とコアロッドとの間に温度差を付けずに温度を下げることができる。また熱源として使っている加熱炉は、長手方向の温度変化が緩やかであり、温度制御が容易である。このため、バーナを使った徐冷とは異なり、比較的容易に徐冷が可能である。
【0028】
石英管とコアロッドとの間にArガスを封入すると、線引する前の光ファイバ用母材の保管期間中における界面の汚染等によるファイバ特性の劣化を防止できる。
【0029】
図5のグラフは、本実施例に係る光ファイバ用母材を線引して得られた光ファイバにおいて、該光ファイバの線引開始からの長さを該光ファイバ母材の線引開始先端部から長手方向に相当する位置に変換した数値を横軸にとり、1.38μmにおける光ファイバの損失(dB/km)との関係を示している。本発明の実施形態の光ファイバ用母材から得られた光ファイバでは、Arガスの封入によって、母材の先端部に対応する光ファイバの部分からも安定な損失特性が得られている。しかし、Arガスを封入していない従来の光ファイバ用母材から得られた光ファイバでは、母材の先端部に対応する光ファイバの部分で損失増加を示している。このような損失増加を有する光ファイバの先端部分は、予めこれを除いて製品とする必要があり、製品の歩留まり低下の要因となる。
【実施例】
【0030】
図1(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の一実施形態の光ファイバ用母材を製造するにあたり、加工前及び加工中の状態で示す、光ファイバ用母材の製造装置10の断面図である。
【0031】
製造装置の構造は以下の通りである。縦型の加熱炉11は、カーボン抵抗炉であり、加熱炉11の下方には、伸びた光ファイバ用母材の不要部を取り除く切断機12が配設される。なお、図1では省略しているが、加熱炉10の上部には石英管31を吊り下げ、石英管31を加熱炉11に挿入する長さを決める位置決め装置がある。加熱炉11より下側は、加熱炉11への外気の巻き込み防止と、炉内のガスの流れを制御することを目的として、外気と縁を切ってある。また切断機12の下には、加工中の母材の先端部が十分に伸びたことを検知するためのカメラ13があり、カメラ13で先端部を検知すると、切断機12でその先端部をカットする。カットした不要部は、真空ゲートバルブ14によって上部と縁を切ることができるペデスタル15内に落下する。加工後、真空ゲートバルブ14を閉じて、炉内とペデスタル15との間の縁を切り、ペデスタル15を外気に開放し、落下させた不要部を外部に搬出する。搬出後は、ペデスタル15の内部を不活性ガスで置換した後に、真空ゲートバルブ14を開として、次の加工を行う。
実施例1
【0032】
実施例1の光ファイバ用母材の製造に際して、まず、図1(a)に示す製造装置10において、石英管31の内部に光ファイバ用コアロッド32を挿入し、これらの先端を加熱炉11内に挿入した。石英管径はφ100〜150mm、コアロッド径はφ32〜48mm、該石英管の内面と挿入した該コアロッドの外面との間隔が0.3mm以下となるように、コアロッドの延伸外径及び石英管のサイズを選定した。コアロッド32の先端には、同図の例では石英ダミーロッド34が溶着されている。コアロッド32の先端に安価な石英ダミーロッド34を溶着すると、先端加工時に廃棄される部分を石英ダミーロッド34とすることができ、高価なコアロッドの廃棄量が減る利点がある。
【0033】
石英管31の加熱しない側の端部(上端)には、この上端を囲むチャンバ16を設け、チャンバ16内には、水分率が100ppm以下であるArガスをAr供給口17から供給した。また、チャンバ16には、先端融着が終了した後に、石英管31の内圧上昇によって石英管31が変形しないように、Arガスを吹き流すための噴出口18を配設している。Arガスは、徐冷終了後まで流し、その後に噴出口18と供給口17とを閉じて、石英管31の内部にArを封入する。これにより、加工終了後から線引までの間に水分を含んだ外気が、石英管31の内部に侵入することを防ぐ。加熱炉11には、不活性ガス、本実施例ではArガスを、加熱炉11の上部開口付近のAr供給口19より供給した。Arガスは、石英管31に当たった後2つに別れ、一方のArの流れは上方に向かって、外気が加熱炉11内に浸入することを防ぐと共に、加熱炉11内のダストが、石英管の加工部の上部付近に焼き付くことを防ぐ。もう一方のArの流れが下方に向かって流れるように、加熱炉11の下側にポンプ20を設置し、加熱炉11内のガスを加熱炉11外に排出した。
【0034】
加熱炉11の下側は密閉してあるので、ポンプ20を利用してガスを排出することで減圧され、加熱炉11内のガスは下降流になる。また、本実施例では、Arガスの供給口を一箇所しか設けなかったが、Arガスを加熱炉11の上方に流す供給口と、下方に流す供給口とに分けるなど複数の供給口を設けても良い。Arガスの供給により、石英管31の先端を清浄なArガスが包むように流れ、石英管31の外部にダストが付着することを防止できる。
【0035】
図1(b)は、先端形状の成形時を示している。石英管31が融解すると、その先端が重力に引っ張られて径方向に収縮し、コアロッド32と石英管31の先端が融着する。このとき加熱炉11の温度は1900〜2100℃とした。先端部が伸びると、その先端部をカメラ13が認識し、切断装置12で伸びた先端を切断した。この融解及び切断を繰り返すことにより、先端テーパ部の長さが制御できる。本実施例では、切断回数が4回で先端テーパ部の長さが2.2Dとなった。加工後、徐冷中の石英管31及びコアロッド32の変形を防止するため、加熱炉11の温度をできるだけ速やかに1800℃まで下げた。
【0036】
1800℃の温度域では、石英ガラスはまだ柔らかく、石英管31とコアロッド32に温度差が生じ応力が発生しても、自ら変形できるのでクラックは発生しない。石英管31とコアロッド32との間の温度差を無くすため、1800℃で5分間保持した後に、20℃/分の割合で室温まで下げてから、加熱炉11から取り出した。クラックは発生しなかった。しかし、温度変化を30℃/分で冷却したときには、石英管31にクラックが入ることがあった。また、加工を連続して行う場合には、加熱炉11の温度を下げ過ぎると、次に温度を上げるときに時間がかかるので経済的ではない。これを避けるために、加熱炉11の温度がある一定の温度(例えば1800℃)になった時点で、除々に石英管31を加熱炉11から引き上げても徐冷の効果がある。引上げ速度は、引き上げる際の加熱炉11の温度と炉内の温度分布にもよるが、加工部分の温度変化が30℃/分以下であればクラックは発生しない。
【0037】
本実施例に示す方法で製造した光ファイバ用母材を線引した。図3にその光ファイバ用母材から得られた光ファイバの特性を示してある。例えば、先端テーパ部33の長さLが2.2Dのプリフォーム用母材については、線引の際の加熱開始から融解落下までの時間は例えば23分(同図(b))、線速安定までの時間は57分であり(同図(d))、ファイバ中の泡の発生はなかった(同図(c))。比較のため、テーパ部の長さを4.0Dに成形した母材を線引した。加熱開始から融解落下までの時間は20分と短かったが(同図(b))、線速安定までの時間は98分であり(同図(d))、線速安定後、約120kmのファイバには泡が発生した(同図(c))。また、クラッド非円率については、両者とも規格内であり問題なかった(同図(a))。またOHが起因となる波長1.38μmにおける伝送損失においても、両者とも規格内であった(図5)。
【0038】
実施例2
先端溶着加工を施す側と反対側を密封すると、先端融着中に石英管31の内圧力が高まり、最悪の場合、石英管31が変形することがある。このため、石英管31内の圧力を一定に保つ必要がある。実施例2では、加熱中及び徐冷中の石英管31内と大気圧の差圧をモニターし、石英管31内からガスを排出することにより、圧力を制御した。図2に実施例2の光ファイバ用母材の加工の際における加熱炉11の上部構成を示す。本実施例では、目標とする圧力は大気圧とした。十分に冷却した後は、ダストの少ない不活性ガス(例えば Arガス)を封入する。
【0039】
本実施例では、圧力制御を行うため、実施例1と比較して製造装置の構成が複雑であるが、加熱中及び徐冷中にArガスを使用しないので、Arガスの使用量が少なくて済み、経済的である。
【0040】
以上、本発明をその好適な実施形態例に基づいて説明したが、本発明の光ファイバ用母材、その製造装置及び方法は、上記実施形態及び実施例の構成にのみ限定されるものではなく、上記実施形態及び実施例の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)及び(b)はそれぞれ、実施例1の光ファイバ用母材の先端部加工前及び先端部加工中の状態で示す、製造装置の一部断面側面図。
【図2】実施例2の光ファイバ用母材の加工前の状態で示す、加熱炉上部の断面図。
【図3】(a)〜(d)はそれぞれ、先端テーパ部の長さと、該光ファイバ用母材から線引して得られた光ファイバの特性との関係を示すグラフ。
【図4】(a)及び(b)はそれぞれ、光ファイバ用母材の先端テーパ部の定義を示すために、加工前及び加工後の状態における光ファイバ用母材の先端部を示す断面図。
【図5】本発明の一実施形態の光ファイバ用母材と従来技術の光ファイバ用母材の損失特性の違いを示すグラフ。
【符号の説明】
【0042】
10:製造装置
11:加熱炉
12:切断器
13:カメラ
14:真空ゲートバルブ
15:ペデスタル
16:チャンバ
17:Ar供給口
18:Ar噴出口
19:Ar供給口
20:ポンプ
31:石英管
32:ロッド
33:先端テーパ部
34:ダミーロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英管の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを融着加工して成る先端融着部を有する光ファイバ用母材において、
前記先端融着部がテーパ形状を有し、融着加工前の前記石英管の平均外径をDとし、前記先端融着部の外径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部と定義したときに、該先端テーパ部の長さが1.0D〜3.0Dの範囲にあることを特徴とする光ファイバ用母材。
【請求項2】
石英管の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを融着加工して成る先端融着部を有する光ファイバ用母材において、
前記石英管と前記光ファイバ用コアロッドとの間に不活性ガスが封入されていることを特徴とする光ファイバ用母材。
【請求項3】
前記先端融着部がテーパ形状を有し、前記融着加工前の石英管の平均外径をDとし、前記先端融着部の外径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部と定義したときに、該先端テーパ部の長さが1.0D〜3.0Dの範囲にあることを特徴とする、請求項2に記載の光ファイバ用母材。
【請求項4】
石英管の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを、加熱炉内で加熱融着して先端融着部を形成する工程と、
前記先端融着部を加工する工程であって、融着加工前の石英管の平均外径をDとし、前記先端融着部の外径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部と定義したときに、該先端テーパ部の長さが1.0D〜3.0Dの範囲となるように加工する工程とを有することを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項5】
前記加工する工程に後続して、前記先端融着部を1800℃から室温に降温する際の平均温度変化を20℃/分以下とする徐冷工程を更に有することを特徴とする、請求項4に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項6】
加熱炉の内部に流す雰囲気ガスを、石英管の端部を挿入している加熱炉の一方の開口部から、加熱炉の他方の開口部に向けて流すことを特徴とする、請求項4又は5に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項7】
前記先端融着部を形成する工程及び加工する工程では、石英管の内部を石英管の外部と同じ圧力に保つことを特徴とする、4〜6の何れか一に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項8】
石英管の先端部と該石英管の内部に挿入した光ファイバ用コアロッドの先端部とを、加熱炉内で加熱融着して先端融着部を形成する融着装置と、
前記先端融着部を加工する装置であって、融着加工前の石英管の平均外径をDとし、前記先端融着部の外径が0.95Dである長手方向位置から0.10Dである長手方向位置までを、融着加工後の先端テーパ部と定義したときに、該先端テーパ部の長さが1.0D〜3.0Dの範囲となるように加工する加工装置とを備えることを特徴とする光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項9】
前記先端融着部を、1800℃から室温に降温する際の平均温度変化を20℃/分以下として徐冷する徐冷装置を更に備えることを特徴とする、請求項8に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項10】
石英管の端部を挿入している加熱炉の一方の開口部から、加熱炉の他方の開口部に向けて不活性ガスを流すガス導入装置を更に有することを特徴とする、請求項8又は9に記載の光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項11】
前記融着装置による融着時及び前記加工装置による加工時に、石英管の内部を外部と同じ圧力に保つ圧力保持手段を更に有することを特徴とする、請求項8〜10の何れか一に記載の光ファイバ用母材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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