説明

光伝送装置

【課題】 本発明は、入射光の波長以下の微細領域で、高効率にかつ安定に入力情報を伝送可能な光伝送装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の光伝送装置は、プラズモンレンズと集光用微細構造と伝送用微細構造とを有している。プラズモンレンズは、所定の規則に基づいて光学的に平坦な基板の上面に形成された金属膜上の配置に形成された複数のレンズ用微細構造(13)を含んで構成され、入力情報である入力光を金属膜に所定の入射角度で照射して金属膜の表面に励起しかつ散乱する表面プラズモン光を集光する。また、集光用微細構造(14)は、プラズモンレンズの集光点に少なくとも1つ設けられ、プラズモンレンズにより集光された表面プラズモン光により局在プラズモン光を励起する。更に、伝送用微細構造(15)は、集光用微細構造(14)の近傍に形成され、集光用微細構造(14)で励起した局在プラズモン光を入力光に対する出力光として伝送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光伝送装置に関し、詳細にはプラズモン効果を用い、微細な領域で、入力情報を安定に、かつ高効率に伝送する光伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学システムの集積化が進み、このシステムを構成するための光学素子の更なる微細化が求められている。しかし、従来用いられている、光導波路や光ファイバ、光スイッチといった光学デバイスでは、光源の回折限界のため、伝播光を使っている以上、光源の波長以下の寸法のデバイスを実現することは困難である。また、近年、誘電率の異なる2種類以上の誘電体を光の波長程度の格子定数を持つように周期的構造に形成することによって、ある波長領域の光の伝播が禁止されるフォトニックバンドギャップと呼ばれる現象が発生することが発見された。このようなフォトニックバンドギャップを持つ結晶をフォトニック結晶と呼ぶ。フォトニック結晶の中に光の通路を設けることで形成された光導波路は鋭角に光を曲げることも可能であることが非特許文献1に記載されている。フォトニック結晶内には光が全く進入できないため、効率が100%に近い光導波が可能になる。しかしながら、このようなフォトニック結晶においても、扱っている光が伝播光であるため、やはり回折限界のため、光源波長以下の寸法で、光の伝達を制御することは困難である。
【0003】
近年、このような限界を打破するため、局在プラズモン光を利用した微細球配列による電磁波伝送が提案されている。このような伝送方法では、光の回折限界以下の領域で、位置制御された配列に沿った電磁波の伝送を行うことができることが非特許文献2や非特許文献3に記載されている。
【0004】
一方、従来の光学顕微鏡では、光はレンズを用いて集光させるが、この場合、分解能は光波長により制限される。これに対し、光の回折限界以下の分解能を持つ顕微鏡として、近接場光学顕微鏡が知られている。この近接場光学顕微鏡では、レンズの代わりに、寸法がナノメートルオーダーの微細構造、例えば径が光波長以下の微細開口を用いて光を集光させる。この微細構造に光を当てると、その微細構造近傍には近接場光と呼ばれる局在した光が発生する。この近接場光を試料近傍に近づけ、試料表面上を走査させることにより、微細構造の寸法で決まる分解能で試料の形状や光学特性を測定することができる。また、この近接場光学顕微鏡は、生体試料、半導体量子構造、高分子材料等の形状測定や分光、及び高密度光記録など幅広い分野に応用され始めている。更に、この近接場光の発生効率をさらに上げるために、表面プラズモン光を利用したデバイスが非特許文献4に提案されている。
【非特許文献1】A.Mekis, J.C.Chen, I.Kurland, S.Fan, P.R.Villeneuve, and J.D.Joannopolous, Physical Review Letters, vol.77, no.18, pp3787, 1996
【非特許文献2】M.L.Brongersma, J. W.Hartman, and H.A.Atwater, Physical Review B, vol.62, no.24, pp.R16356, 2000
【非特許文献3】S.A.Maier, M.L.Brongersma, P.G.Kik, S.Meltzer, A.A.G.Requicha, and H.A. Atwater, Adv. Mater., vol.13, no.19, pp.1501, 2001
【非特許文献4】I. I. Smolyaninov et al., 摘xperimental study of surface-plasmon scattering by individual surface defects Physical Review B, Vol.56, No.3, pp. 1601-1611 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、いずれの非特許文献による提案を、光情報を伝送する光伝送装置に適用しても、高効率にかつ安定に入力情報を含む入力光を伝送することについては不十分であった。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなさたものであり、入射光の波長以下の微細領域で、高効率にかつ安定に入力情報を伝送可能な光伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明の光伝送装置は、プラズモンレンズと集光用微細構造と伝送用微細構造とを有している。そして、プラズモンレンズは、所定の規則に基づいて光学的に平坦な基板の上面に形成された金属膜上の配置に形成された複数のレンズ用微細構造を含んで構成され、入力情報である入力光を金属膜に所定の入射角度で照射して金属膜の表面に励起しかつ散乱する表面プラズモン光を集光する。また、集光用微細構造は、プラズモンレンズの集光点に少なくとも1つ設けられ、プラズモンレンズにより集光された表面プラズモン光により局在プラズモン光を励起する。更に、伝送用微細構造は、集光用微細構造の近傍に形成され、集光用微細構造で励起した局在プラズモン光を入力光に対する出力光として伝送する。よって、従来困難であった微細な領域で光の伝送が高効率かつ安定に行うことができる。
【0008】
また、伝送用微細構造は、連続的にかつ互いに近傍となるような配列に形成することにより、励起された局在プラズモン光の電磁波エネルギーを連続的に配列された伝送用微細構造で伝搬していくことができる。
【0009】
更に、プラズモンレンズは、表面プラズモン光の波数をk、表面プラズモン光の入射方向と集光点とn番目のレンズ用微細構造のなす角をαとしたとき、n番目のレンズ用微細構造が、半径R上の円弧状に、kR−kRcosα=2πnなる関係を満たすような所定の規則に基づく位置に配置されて構成されている。よって、金属膜上で発生し、散乱している表面プラズモン光を集光点の集光用微細構造に集光することができ、局在プラズモン光を励起できる。
【0010】
また、プラズモンレンズは、表面プラズモン光の波数をk、表面プラズモン光の入射方向と集光点とn番目のレンズ用微細構造のなす角をαとしたとき、n番目のレンズ用微細構造が、半径R上の円弧状に、kR−kRcosα=2πn、かつα<45度なる関係を満たすような所定の規則に基づく位置に配置されて構成されている。よって、適切に散乱している表面プラズモン光を集光することができる。
【0011】
更に、金属膜が、Ag、Au又はAlのうち少なくとも1つの元素を含むことにより、安定かつ高効率に表面プラズモン光を発生できる。
【0012】
また、金属膜に入射する入力光の偏光方向が、金属膜に対して垂直であることにより、高効率に表面プラズモン光を発生可能である。
【0013】
更に、レンズ用微細構造、集光用微細構造及び伝送用微細構造は、凹部又は凸部であり、凹部の深さ又は凸部の高さが入力光の入射波長の10分1以下であることにより、高効率かつ安定に入力光を伝送させることが可能になる。
【0014】
また、レンズ用微細構造、集光用微細構造及び伝送用微細構造は、Ag、Au又はAlのうち少なくとも1つの元素を含むことにより、高効率かつ安定に入力光を伝送させることが可能になる。
【0015】
更に、少なくともプラズモンレンズと伝送用微細構造との間の金属膜上に、長手方向に凹構造である凹構造のストッパ層を形成することにより、表面プラズモン光の集光点以外で発生する表面プラズモン光を伝送用微細構造に入射することを防ぐことができ、外乱の影響を軽減でき信号のSN比を向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光伝送装置は、光源からの入力情報を含む入力光をより高効率かつ安定に伝送用微細構造の配列に伝送させることができ、高効率かつ安定に入力光を伝送することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の第1の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。図2は図1の平面図である。両図に示す本実施の形態例の光伝送装置10は、光学ガラス等の透明な直方体状の基板11と、基板11の上面に形成された金属膜12とを含んで構成されている。また、金属膜12の表面で励起された表面プラズモン光を集光するための表面プラズモンレンズを構成するための、金属膜12上に後述する式(2)で定まるような所定の規則で円弧状に配列された複数のレンズ用微細構造13が形成されている。この所定の規則に基づいて配列された複数のレンズ用微細構造13は、小さな窪みでも盛り上がりでもよく、収束イオンビームを用いたり、原子間力顕微鏡あるいはトンネル顕微鏡などで加工することができる。また、金属膜12上には、金属膜12の表面で励起された表面プラズモン光がレンズ用微細構造13で構成する表面プラズモンレンズにより集光用微細構造14で集光されて、この集光用微細構造14で励起した局在プラズモン光を伝送するための複数の伝送用微細構造15−1〜15−m(mは正の整数)が、隣接する互いの伝送用微細構造15−1〜15−mを回折限界以下の近傍となるようにして、配列されている。なお、基板11としては石英やポリカーボネート等を用いることができ、金属膜12としてはAu、Ag、Alなどの金属を用いることができる。AgやAuの金属膜12を形成する時、基板11が石英系の場合、Crの下地膜を数nm程度付けると密着度が向上する。
【0018】
このような構成を有する光伝送装置10によれば、入射光は金属膜12が形成されていない側から特定の入射角度で入射される。金属膜12に対してp偏光で、入射角が一定の条件を満たす場合、金属膜12と外側の空間の界面に、表面プラズモン光を励起することができる。例えば、金属膜12の材質をAgとし、入射光の真空中における波長λを633nmとすると、金属膜12の屈折率nは、0.065−4.0iとなる。金属膜12の上面は空気であり、その屈折率は約1.0である。この場合、金属膜12の表面に励起される表面プラズモン光の伝播定数kは、入射光の伝播定数をk=2π/λとして、下記の(1)式で与えられる。
【0019】
k=n/√(n+1)×k (1)
【0020】
ここで、金属膜12の材質をAgとし、基板11の屈折率nfを石英として1.457とすると、入射角度θは約45.1度で表面プラズモン光が励起できる。この方法は、いわゆるクレッチマン(Kretschmann)配置による表面プラズモン光の励起となっている。入射角度θは、Agの他に、例えばAuでは46.2度、Alでは43.9度となる。本実施の形態例ではAgの薄膜を100nm蒸着したものを用いた。発生した表面プラズモン光は微細構造によって散乱されるが、レンズ用微細構造13を後述するように所定の規則に基づいて規則的な配列として形成すると、ある焦点距離を有する点に表面プラズモン光を集光させる表面プラズモンレンズを形成することが可能である。この集光点に設けられた集光用微細構造14を起点として金属の伝送用微細構造15−1〜15−mが配列されている。この起点にある集光用微細構造14に、表面プラズモン光が集中し、局在プラズモン光を励起することができる。ここで、図3において、集光点を原点とし、半径R上に例えばレンズ用微細構造13が配置されているとすると、y軸+∞方向から表面プラズモン光が伝播してきた時、各レンズ用微細構造13で散乱された表面プラズモン光が原点の集光用微細構造14上で同位相で重ね合わせることにより、通常よりも増強された局在プラズモン光を得ることができる。ここでαはy軸と半径R上にあるn(nは正の整数)番目のレンズ用微細構造13とのなす角度である。このとき、集光点にある集光用微細構造14に局在プラズモン光を励起することができる。ここでn番目のレンズ用微細構造13は下記の(2)式の関係がある時、表面プラズモン光を集光するプラズモンレンズを形成することができる。
【0021】
kR−kRcosα=2πn (2)
【0022】
図3に示されているように、y軸右側に対してもy軸対称な位置にレンズ用微細構造13が配置される。この半径は、表面プラズモン光の伝播長以下に設定する必要がある。ここでの伝播長は9.1μmであったため、半径は3μmとした。また、n番目の微細構造とy軸とのなす角αは図3に示すように、45度以下であることが望ましい。
【0023】
この局在プラズモン光が励起された集光用微細構造14に隣接し、十分近接した近傍に同様の伝送用微細構造15−1がある場合、この近傍の伝送用微細構造15−1に、起点の集光用微細構造14に生じた電磁波エネルギーが結合する。この現象を繰り返すことで、配列状に形成された伝送用微細構造15−1〜15−mを電磁波エネルギーが伝搬していくことができる。ここでは図1及び図2に示すように直線状に配置された伝送用微細構造15−1〜15−mを電磁波エネルギーが伝搬し、すなわち入力された情報が直線配列の伝送用微細構造15−1から15−m上を伝送することになる。ここで、レンズ用微細構造13、集光用微細構造14及び伝送用微細構造15は凹部又は凸部の形状をなし、凹部の深さ又は凸部の高さは入射波長より十分小さい時、電子の散乱効果の影響が少なくなり、例えば入射光の波長の10分の1以下であるとき十分高効率に微細構造の配列に沿った電磁波エネルギーの伝搬が可能になる。また、レンズ用微細構造13、集光用微細構造14及び伝送用微細構造15を構成する各微細構造体は下地の金属膜12と同じでも、異なったものでも良く、Au、Ag、Alなどのうち少なくとも一つの元素の金属を用いることができる。
【0024】
図4は本発明の第2の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。図5は図4の平面図である。両図に示す本実施の形態例の光伝送装置20は、光学ガラス等の透明な直方体状の基板21と、基板21の上面に形成された金属膜22とを含んで構成されている。更に、金属膜22上に上述した式(2)で定まるような所定の規則に基づいて円弧状に配列された複数のレンズ用微細構造23が形成されている。なお、このレンズ用微細構造23の詳細構造は図1に示したものと同様である。また、基板21としては図1に示した第1の実施の形態例同様、石英やポリカーボネート等を用いることができ、金属膜22としてはAu、Ag、Alのうち少なくとも一つの元素の金属を用いることができる。本実施の形態例の光伝送装置20は、図5に示すように、配列上に配置された伝送用微細構造25−1〜25−mが途中で配置を90度折り曲げたL字状に配置されている。すなわち、局在プラズモン光が励起された集光用微細構造24に、隣接して十分近接した、つまり回折限界以下の近傍に同様の伝送用微細構造25−1がある場合、この近傍の伝送用微細構造25−1に、起点の集光用微細構造24に生じた電磁波エネルギーが結合する。この現象を繰り返すことで、配列状に形成された伝送用微細構造25−1〜25−mを電磁波エネルギーが伝搬していくことができる。したがって、隣接する伝送用微細構造の配置を配列している列の方向に対して適当な角度を付け、次の隣接している伝送用微細構造を配置すれば、伝達の方向を直線状からL字状、あるいは任意の形で設定することができる。すなわち、金属膜22上を自由に配線することが可能になる。ここでも図1に示した第1の実施の形態例同様、レンズ用微細構造23、集光用微細構造24及び伝送用微細構造25は凹部又は凸部の形状をなし、凹部の深さ又は凸部の高さは入射波長より十分小さい時、電子の散乱効果の影響が少なくなり、例えば入射光の波長の10分の1以下であるとき十分高効率に微細構造の配列に沿った電磁波エネルギーの伝搬が可能になる。また、レンズ用微細構造23、集光用微細構造24及び伝送用微細構造25を構成する各微細構造体は下地の金属膜22と同じでも、異なったものでも良く、Au、Ag、Alなどのうち少なくとも一つの元素の金属を用いることができる。
【0025】
図6は本発明の第3の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。図7は図6の正面図である。両図に示す本実施の形態例の光伝送装置30は、光学ガラス等の透明な直方体状の基板31と、基板31の上面に形成された金属膜32とを含んで構成されている。更に、金属膜32上に上述した式(2)で定まるような所定の規則に基づいて円弧状に配列された複数のレンズ用微細構造33が形成されている。なお、このレンズ用詳細構造33は図1に示したものと同様である。また、基板31としては図1に示した第1の実施の形態例同様、石英やポリカーボネート等を用いることができ、金属膜32としてはAu、Ag、Alのうち少なくとも一つの元素の金属を用いることができる。本実施の形態例の光伝送装置30は、図3に示すように、配列上に配置された伝送用微細構造35は途中で2方向に分岐されT字状に配置されている。すなわち、局在プラズモン光が励起された集光用微細構造34に、隣接して十分近接した、つまり回折限界以下の近傍に同様の伝送用微細構造35−1がある場合、この近傍の伝送用微細構造35−1に、起点の集光用微細構造34に生じた電磁波エネルギーが結合する。この現象を繰り返すことで、配列状に形成された伝送用微細構造35−1〜35−mを電磁波エネルギーが伝搬していくことができる。したがって、隣接する伝送用微細構造の配置を配列している列の方向に対して適当な角度を付け、次ぎの隣接している複数の伝送用微細構造を配置すれば、伝達の方向を直線状からT字状あるいは任意の形で分岐するよう設定することができる。ここでも図1の第1の実施の形態例同様、レンズ用微細構造33、集光用微細構造34及び伝送用微細構造35は凹部又は凸部の形状をなし、凹部の深さ又は凸部の高さは入射波長より十分小さい時、電子の散乱効果の影響が少なくなり、例えば入射光の波長の10分の1以下であるとき十分高効率に微細構造の配列に沿った電磁波エネルギーの伝搬が可能になる。また、レンズ用微細構造33、集光用微細構造34及び伝送用微細構造35を構成する各微細構造体は下地の金属膜32と同じでも、異なったものでも良く、Au、Ag、Alなどのうち少なくとも一つの元素の金属を用いることができる。
【0026】
図8は本発明の第4の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。図9は図8の平面図である。両図に示す本実施の形態例の光伝送装置40は、光学ガラス等の透明な直方体状の基板41と、基板41の上面に形成された金属膜42とを含んで構成されている。更に、金属膜42上に上述した式(2)で定まるような所定の規則に基づいて円弧状に配列された複数のレンズ用微細構造43が形成されている。なお、このレンズ用微細構造43の詳細構造は図1に示したものと同様である。また、基板41としては図1に示した第1の実施の形態例同様、石英やポリカーボネート等を用いることができ、金属膜42としてはAu、Ag、Alのうち少なくとも一つの元素の金属を用いることができる。本実施の形態例の光伝送装置40は、図9に示すように、少なくともレンズ用微細構造43と伝送用微細構造45の間に長手方向に凹構造であるストッパ層46が形成されている。このストッパ層46は金属膜42を部分的に除去した凹構造である。よって、金属膜42の表面を伝搬している集光に寄与しないプラズモン成分を阻止することが可能になり、外乱等が伝送用微細構造45に入射してノイズ成分となるのを防ぐことができる。
【0027】
次に、表面プラズモン光を用いた微細構造の形成方法について説明する。図10は表面プラズモン光を用いた近接場露光による微細構造形成工程の一例を示す工程断面図である。先ず、図10の(a)に示すように、基板51上に感光性材料からなるフォトレジストをスピンコート法あるいはスプレイ法により順次塗布してフォトレジスト層52を形成する。一方、ガラス等の誘電体からなるマスク基板61上に上述した第1〜第4の実施の形態例の金属の微細構造のパターン62を形成したマスク60を用意する。このマスク60は、マスク基板61上にレジストを塗布し、電子線描画装置で露光した後、リフトオフ法などにより金、銀などの金属の微細構造を作製したものである。次に、図10の(b)に示すように、マスク基板61上のパターン62を基板51側に対向させてマスク60をフォトレジスト層52に密着させる。そして、図10の(c)に示すように、基板51にマスク60を重ねた状態で、マスク基板61の裏面側方からi線(365nm)等の光70を照射し、マスク基板61上の微細構造のパターン62にp偏光で光源からの光70が入射させる。この時の入射角度βはマスク基板鉛直方向に対して70度〜90度が望ましい。すると、図10の(c)に示すように、i線等の光70の照射によりパターン62の金属が形成されている部分に局在プラズモン光が発生し、金属の微細構造の近傍の入射光電界強度が増強される。この増強された電場によりフォトレジストに露光が行なわれ、露光されたフォトレジスト層52の部分が感光する。感光後、図10の(d)に示すように、マスク60を基板51から外し、フォトレジスト層52を現像液で現像することにより、露光された露光部分53が現像溶媒に可溶となり、ポジ型パターンを形成する。アスペクト比が小さい構造については以上の方法で簡便に形成することができる。また、マスク基板61上に入射光に対する反射防止膜(図示せず)を形成することにより、入射光量を減少させることがなく、また基板内での多重反射の影響を軽減させることができ、良好な微細構造形成が可能になる。このような反射防止膜をしては、MgF、SiO、CeFなどが使用可能である。また、マスク基板61上に形成された微細構造のパターン62に発生する局在プラズモン光の広がりは、その構造程度であるため、基板51上に形成された感光性材料からなるフォトレジスト層52の厚さは100nm以下が望ましい。更に、マスク60の基板61上に形成された微細構造のパターン62に局在プラズモン光を発生させるため、入射する光の偏光方向がマスク60の基板61に対してp偏光である必要がある。
【0028】
図11は表面プラズモン光を用いた近接場露光による微細構造形成工程の別の例を示す工程断面図である。同図において、図10と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。先ず、図11の(a)に示すように、基板51上に感光性材料からなるフォトレジストをスピンコート法あるいはスプレイ法により順次塗布してフォトレジスト層52を形成する。一方、ガラス等の誘電体からなるプリズム63の底面に上述した第1〜第4の実施の形態例の金属の微細構造のパターン62を形成したマスク60を用意する。このマスク60は、プリズム63の底面上にレジストを塗布し、電子線描画装置で露光した後、リフトオフ法などにより金、銀などの金属の微細構造を作製したものである。次に、図11の(b)に示すように、プリズム63の底面に形成されたパターン62を基板51側に対向させてマスク60をフォトレジスト層52に密着させる。図11の(c)で、このように基板51にマスク60を重ねた状態で、プリズム63の側面方向からi線(365nm)等の光70を照射する。このとき、プリズム63の底面で入射光が全反射するため、プリズム63の底面上の微細構造のパターン62にエバネッセント光が照射される。この時、微細構造のパターン62に局在プラズモン光を励起するためにp偏光で光源からの光70を入射させることが必要である。すると図11の(c)に示すように、i線等の光照射によりプリズム63の底面のパターン62の金属が形成されている部分に局在プラズモン光が発生し、金属の微細構造の近傍の入射光電界強度が増強される。この増強された電場により露光が行われ、露光されたフォトレジスト層52が感光する。感光後、図11の(d)に示すように、マスク60を基板51から外し、フォトレジスト層52を現像液で現像することにより、露光された露光部分53が現像溶媒に可溶となり、ポジ型パターンを形成する。アスペクト比が小さい構造については以上の方法で簡便に形成することができる。また、プリズム63の側面に入射光に対する反射防止膜(図示せず)を形成することにより、入射光量を減少させることがなく良好な微細構造形成が可能になる。このような反射防止膜をしては、MgF、SiO、CeFなどが使用可能である。また、プリズム63の底面上に形成された微細構造のパターン62に発生する局在プラズモン光の広がりは、その構造程度であるため、基板51上に形成された感光性材料からなるフォトレジスト層52の厚さは100nm以下が望ましい。また、プリズム63の底面上に形成された微細構造のパターン62に局在プラズモン光を発生させるため、入射する光の偏光方向がマスク60の底面に対してp偏光である必要がある。
【0029】
図12は別の微細構造形成工程の一例を示す工程断面図である。同図において、図10と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。先ず、図12の(a)に示すように、基板51上の金属膜53上に感光性材料からなるフォトレジストをスピンコート法あるいはスプレイ法により順次塗布してフォトレジスト層52を形成する。一方、ガラス等の誘電体からなるマスク基板61上に上述した第1〜第4の実施の形態例の微細構造の凸パターン62を予め形成したSiO製のモールド64を用意する。次に、図12の(b)に示すように、モールド64上のパターン62を基板51側に対向させてモールド64をフォトレジスト層52に約1.3×10Paの圧力で押し付け、フォトレジスト層52に圧痕のパターンを転写する。そして、図12の(c)に示すように、フォトレジスト層52に形成された圧痕のパターンを、酸素を用いたRIE(反応性イオンエッチング)でエッチング加工して、金属のパターンを形成する。そして、図12の(d)に示すように、金属のパターンを除去することにより、基板51上に金属のパターンを形成することができる。アスペクト比が小さい構造については、以上のような微細構造形成工程を用いることにより簡便に形成することができる。
【0030】
図13は別の微細構造形成工程の一例を示す工程断面図である。同図において、図12と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。先ず、図13の(a)に示すように、基板51上に感光性材料からなるフォトレジストをスピンコート法あるいはスプレイ法により順次塗布して塗布膜52を形成する。一方、ガラス等の誘電体からなるマスク基板61上に上述した第1〜第4の実施の形態例の微細構造の凸パターン62を予め形成したSiO製のモールド64を用意する。次に、図13の(b)に示すように、モールド64上のパターン62を基板51側に対向させてモールド64を塗布膜52に型押しして、塗布膜52に圧痕のパターンを転写する。そして、図13の(c)に示すように、塗布膜52を硬化させた後、モールド64を取り除くことにより、塗布膜52に型押しパターン53が形成される。次に、図13の(d)に示すように、塗布膜52の型押しパターン53を、CF4RIEを用いた化学反応イオンエッチングすることによりエッチング後のパターン54が基板51の表面に形成することができる。また、塗布膜52としてシロキサン成分として水素化シルセスキオキサンポリマーなどが用いられ、当該ポリマーによる塗布膜52を基板51の表面に形成した後、この塗布面を150℃以下という低温でプリベークした後、モールド64を用いて型押しすることにより、基板51の表面に微細なSiOのパターン54を形成することができる。基本的には塗布膜52を形成する材料としては、従来SOG(Spin-on-Glass)技術において利用されていたものを利用できるが、シロキサン成分(RSi(OH)4−n)(但し、Rはアルキル基、nは0〜3の整数)と、これを溶解する溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール、RCOORで表されるエステル類、アセチルアセトンなどのケトン類またはこれらの混合物とからなるものが好ましい。
【0031】
図14は別の微細構造形成工程の一例を示す工程断面図である。同図の(a)に示すように、基板71上に金属膜72を形成する。金属膜72は真空蒸着、スパッタ、EB蒸着などの方法で形成することができる。この金属膜72上に上述した第1〜第4の実施の形態例の微細構造となる凸型のパターン73を、集束イオンビーム装置を用いて形成する。集束イオンビームには、通常、イオン源として電解電離型液体金属が用いられる。集束イオンビームは、通常、イオン注入、イオンビーム支援エッチング、イオンビームリソグラフィー、イオンビームモディフィケーションおよびデポジション等に利用されるが、このような技術の中で微細構造の形成にはデポジションおよびエッチングが特に有用である。集束イオンビームによるデポジションにおいては、例えば、基材表面に吸着したガス分子をイオンビームの照射によって分解させ、生成した不揮発性の解離原子を堆積させる方法により微細構造となるパターン73を形成することができる。この方法において、原料ガスには、例えば、ジメチルゴールドヘキサフルオロアセチルアセトネート(DMGFA)を用い、これにArビーム(イオン源:Ar)を照射することによってAuの微細構造のパターン73が形成できる。また、DMGFAを用いる方法において、Arビームの代わりに、Gaビーム(イオン源:Au−GaもしくはGa)、Heビーム(イオン源:He)またはAuビーム(イオン源:Au−Ga、Au−Be−SiもしくはAu−Si)を用いることができる。以上に挙げたビームの中で、ArビームまたはAuが90%以上を占めるAuビームがデポジションにおいてより好ましく用いられる。また、DMGFAを用いる方法において、Arビームの代わりに、Gaビーム(イオン源:Au−GaもしくはGa)、Heビーム(イオン源:He)またはAuビーム(イオン源:Au−Ga、Au−Be−SiもしくはAu−Si)を用いることができる。以上に挙げたビームの中で、ArビームまたはAuが90%以上を占めるAuビームがデポジションにおいてより好ましく用いられる。
【0032】
一方、集束イオンビームによるデポジションにおいて、原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)を用いることもできる。この場合、原料ガスにArビーム、Gaビーム、HeビームまたはAuビームを照射することによって、Alから微細構造となるパターン73を形成することができる。
【0033】
以上に示すように、有機金属化合物からなる原料ガスに集束イオンビームを照射して生成する金属を堆積させることにより、金属薄膜上に、上述した第1〜第4の実施の形態例の微細構造を精度良く、かつ簡便に形成することができる。
【0034】
また、集束イオンビーム照射装置を使用するので、付属の2次電子像観察機能などを用いてパターンの位置決めを高精度に行うことが容易にできる。この観察手段としては、特に、集束イオンビームや電子ビームなどの粒子線を試料上で走査したときに発生する2次電子を検出して走査像を得る方法がある。この方法では観察時に集束イオンビームを被加工物に照射することになる。しかし、充分に少ない量の粒子線を用いて走査像を得ることで、被加工物のパターニング位置を設定する際の集束イオンビーム照射の影響を実質的に無視することが可能である。
【0035】
なお、集束イオンビームの照射位置を移動させる方法としては、集束イオンビーム自体をスキャンするなどして照射位置を移動させる方法、被加工物を移動させる方法、あるいはその両者を組み合わせる方法などが挙げられる。ここで集束イオンビーム自体を移動させる方法は装置的に合理的であるが、移動可能な距離に制限があるので、大面積かつ高密度に所望の微細構造となるパターン73を形成したいときには両者を組み合わせる方法が適していると考えられる。また、被加工物を移動させる方法についても、高精度の位置制御が可能な試料ステージを用いれば可能である。
【0036】
また、他の例としては電子ビームを用いることも可能であり、この場合には、そのエネルギーとして、1keV以上10MeV未満のものを用いることが好ましい。したがって、電子の加速電圧としては、数kV〜数MV程度のものが挙げられる。しかし、この電子ビームのエネルギーおよび加速電圧は特に制限されるものではない。
【0037】
更に、フェナトレンガス(C14H10)を原料ガスに用い、集束イオンビームを照射することによって分解させ、生成したカーボンを堆積させる方法により微細構造となるパターン73を形成することができる。この場合は、図14の(c)に示すように、RIE(反応性イオンエッチング)でカーボンの微細構造となるパターン73をマスクに用い、エッチング加工することにより、金属パターンを形成することができる。この場合、RIE後、カーボンが残った場合、プラズマ化したガスとカーボンを反応させ、カーボンを気化させて取り除くことにより、金属からなる微細構造74を形成することができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内の記載であれば多種の変形や置換可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】レンズ用微細構造の配置の様子を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。
【図5】図4の平面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。
【図7】図6の平面図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態例に係る光伝送装置の構成を示す斜視図である。
【図9】図8の平面図である。
【図10】別の発明の表面プラズモン光を用いた近接場露光による微細構造形成工程を示す工程断面図である。
【図11】別の発明の表面プラズモン光を用いた近接場露光による別の微細構造形成工程を示す工程断面図である。
【図12】別の微細構造形成工程の一例を示す工程断面図である。
【図13】別の微細構造形成工程の一例を示す工程断面図である。
【図14】別の微細構造形成工程の一例を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10,20,30,40;光伝送装置、
11,21,31,41,51,61,71;基板、
12,22,32,42,72;金属膜、
13,23,33,43;レンズ用微細構造、
14,24,34,44;集光用微細構造、
15,15−1〜15−m,25,25−1〜25−m,35,35−1〜35−m,35,45−1〜45−m;伝送用微細構造
46;ストッパ層、52;フォトレジスト層、53;露光部分、
60;マスク、62,73;パターン、63;プリズム、
64;モールド、70;光、74;微細構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の規則に基づいて光学的に平坦な基板の上面に形成された金属膜上の配置に形成された複数のレンズ用微細構造を含んで構成され、入力情報である入力光を前記金属膜に所定の入射角度で照射して前記金属膜の表面に励起しかつ散乱する表面プラズモン光を集光するプラズモンレンズと、
該プラズモンレンズの集光点に設けられ、前記プラズモンレンズにより集光された前記表面プラズモン光により局在プラズモン光を励起する集光用微細構造と、
該集光用微細構造の近傍に形成され、前記集光用微細構造で励起した前記局在プラズモン光を前記入力光に対する出力光として伝送する少なくとも1つの伝送用微細構造と
を有することを特徴とする光伝送装置。
【請求項2】
前記伝送用微細構造を、連続的にかつ互いに近傍となるような配列に形成する請求項1記載の光伝送装置。
【請求項3】
前記プラズモンレンズは、
前記表面プラズモン光の波数をk、表面プラズモン光の入射方向と前記集光点とn(nは正の整数)番目の前記レンズ用微細構造のなす角をαとしたとき、
n番目の前記レンズ用微細構造が、半径R上の円弧状に、kR−kRcosα=2πnなる関係を満たすような前記所定の規則に基づく位置に配置されて構成されている請求項1又は2に記載の光伝送装置。
【請求項4】
前記プラズモンレンズは、
前記表面プラズモン光の波数をk、表面プラズモン光の入射方向と前記集光点とn番目の前記レンズ用微細構造のなす角をαとしたとき、
n番目の前記レンズ用微細構造が、半径R上の円弧状に、kR−kRcosα=2πn、かつα<45度なる関係を満たすような前記所定の規則に基づく位置に配置されて構成されている請求項1又は2に記載の光伝送装置。
【請求項5】
前記金属膜が、Ag、Au又はAlのうち少なくとも1つの元素を含む請求項1〜4のいずれかに記載の光伝送装置。
【請求項6】
前記金属膜に入射する前記入力光の偏光方向が、前記金属膜に対して垂直である請求項1〜5のいずれかに記載の光伝送装置。
【請求項7】
前記レンズ用微細構造、前記集光用微細構造及び前記伝送用微細構造は、凹部又は凸部であり、該凹部の深さ又は該凸部の高さが前記入力光の入射波長の10分1以下である請求項1〜6のいずれかに記載の光伝送装置。
【請求項8】
前記レンズ用微細構造、前記集光用微細構造及び前記伝送用微細構造は、Ag、Au又はAlのうち少なくとも1つの元素を含む請求項1〜7のいずれかに記載の光伝送装置。
【請求項9】
少なくとも前記プラズモンレンズと前記伝送用微細構造との間の前記金属膜上に、長手方向に凹構造であるストッパ層を形成する請求項1〜8のいずれかに記載の光伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−23410(P2006−23410A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199980(P2004−199980)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】