光共振器
【課題】長い光子寿命と、モード−粒子間の相互作用の大きさを同時に満たす。
【解決手段】電磁波を共振させる原共振器103と、原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、誘電率の実数部が負の値をもちかつ実数部の絶対値が虚数部の絶対値よりも大きな物質から成り、電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体307と、構造体に対し、構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子101と、を具備する。
【解決手段】電磁波を共振させる原共振器103と、原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、誘電率の実数部が負の値をもちかつ実数部の絶対値が虚数部の絶対値よりも大きな物質から成り、電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体307と、構造体に対し、構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子101と、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子情報、および光学の分野の光共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
光や電磁波(以下、単に光と呼ぶ)を用いた量子コンピュータを実現するにあたり、その量子状態の保存・操作・読み出し等を行うために、光を原子やイオン、量子ドット等、量子情報の保存、操作が可能なもの(以下、単に粒子と呼ぶ)と関連付ける必要がある。その方法の一つとして、光共振器に粒子を閉じ込め、その共振モードと粒子が、その系の緩和速度(デコヒーレンス速度:正しい量子情報を失う速さ)に較べ充分速く(強く)結合させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。この共振モード−粒子の結合の強さはラビ振動として観測されるが、そのラビ振動を決定する重要なパラメータの一つとして光共振器のモード体積があり、この値が小さい程結合が強くなる。しかし、一般的に光共振器のモード体積が小さくなると光共振器の光子寿命(∝Q値)が下がり、その系の緩和速度が増大してしまう。したがってモード体積と光子寿命のバランスの取れた光共振器の実現が望まれる。
【0003】
現在、量子情報処理に適すると考えられる高性能な光共振器として、フォトニック結晶光共振器、微小球光共振器、トロイダル型光共振器、高性能DBRによるファブリペロー型光共振器等が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
量子コンピュータの実現にあたり、その実現性・性能の制限の目安となる量として、デコヒーレンス時間(緩和時間)と演算時間(あるいは量子ゲート操作時間)の比、すなわち、系がデコヒーレンスするまでに何回量子ゲート操作可能かが重要な目安となる。一方、量子コンピュータを実現するための方法として、光や電磁波(以下、単に光と呼ぶ)を用い、光共振器の共振モード−粒子の結合系を用いる方法がある。光共振器の持つ減衰速度をκ、粒子の持つ緩和速度をγ、共振モード−粒子間の結合の強さをgとした場合、量子ゲート操作時間はgによって制限されるので、g>κ+γを満足することが一つの指針となる。ここでgは粒子固有の物性と光共振器のモード体積で決まる。κは、光共振器における光の吸収や散乱、漏出等により決まる共振モードの光子寿命の逆数であり、Q値に反比例する。γは粒子における量子状態の緩和の速さであり、粒子の物理系とその環境(結晶場、磁場、温度等)で決まる。
【特許文献1】特開2001−209083公報
【非特許文献1】Physical Review A, 2005年 (71巻)013817-1 - 10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在提案されている光共振器のうち、フォトニック結晶共振器はモード体積こそ小さいが、現時点では光子寿命が充分長いとは言えず、利用できる物理系が制限される。逆にファブリペロー共振器は一般的に光子寿命を容易に大きくできるが、その場合他の共振器に比べモード体積が大きくなり、γに対してgが不十分である。また、微小球共振器やトロイダル型共振器は現状でも共振器性能が良いものが得られるが、更なる性能の向上が望まれる。したがってg、κ、γ間の関係が良好な光共振器の実現が望まれている。
【0006】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであり、サイズの大きな光共振器の利点である長い光子寿命と、微小光共振器の利点であるモード−粒子間の相互作用の大きさを同時に満たし得る光共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明の光共振器は、電磁波を共振させる原共振器と、前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、誘電率の実数部が負の値をもちかつ該実数部の絶対値が虚数部の絶対値よりも大きな物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする。
【0008】
本発明の光共振器は、電磁波を共振させる原共振器と、前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、光共振器の特性を示す向上度が1より大きくなる誘電率を有する物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光共振器によれば、サイズの大きな光共振器の利点である長い光子寿命と、微小光共振器の利点であるモード−粒子間の相互作用の大きさを同時に満たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る光共振器について詳細に説明する。なお、以下の実施形態中では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
最初に本実施形態の光共振器の概略を示す。
まず原共振器の型を選択する。これは目的や用いる材料系・物理系、利用可能なプロセス技術に応じて、バルク結晶を研磨した大型共振器や極小のフォトニック結晶ナノ共振器等、適当なものを選ぶ。あるいは半導体基板上に形成した平面光回路や、球状共振器等でもよい。これを「原共振器」と呼ぶ。
【0011】
ここで、貴金属等の良導体により構成された、光の波長に比して1/10以下の小さな構造体(以下単に構造体とする)に光を入射すると、この構造体の表面には局在プラズモンポラリトンが励起し、その周囲、特に入射光の電場の方向に対し、入射光の電場に較べ、強力な電場を伴った近接光場が形成されることが知られている(例えば、大津元一、小林潔著「近接場光の基礎〜ナノテクノロジーのための新光学〜」オーム社参照)。
【0012】
したがって、前述の原共振器の共振モードの電場と重なる位置に、共振波長より小さな前述した構造体を配置すると、構造体は共振モードの電場の振動方向に強力な電場を伴う。ここで、構造体は内部損失が小さく大きな双極子モーメントを持つことが要件であり、共振モードの振動数において複素誘電率(ε=ε’+iε’’)の実数部が負(ε’<0)であり虚部が小さい(ε’’<|ε’|)という条件さえ満たせば、貴金属に限らずあらゆる物質が候補となり得る。例えばsub−THzより低周波の領域では、ある種の超電導物質も利用可能である。また、構造体は複数個を組としてもよく、特に構造体同士を構造体の大きさ以下の僅かな間隙を設けて電場の振動方向(振動方向が定義できない場合は振動方向となり得る方向)に並列させると、その間隙には単独時に比べ更に強力な電場が形成される。
【0013】
この構造体の周辺にイオンや原子、量子ドットなど、量子情報を記録・操作するための粒子(以下単に粒子とする)を配置し、これら粒子に対しこの近接光場による強力な電場を作用させる。このとき、近接場による電場の増強は元の共振モードの電場に比して、設計・条件次第で数倍から数百倍に達する。その一方、増強電場の影響範囲は共振モードの占める空間に対して極わずかである。粒子にとってこの増強電場は原共振器の共振モードによる電場と区別が無く、したがって相対的には単純に共振モード体積が減少したのと同じ効果が得られ、光子による共振モードと粒子の間の結合を大きくすることができる。
【0014】
このとき構造体によって散乱や吸収による損失が生じるが、これらの損失が有意な影響となるかは原共振器の共振モードのQ値、モード体積等によって決まり、構造体の構成や数を注意深く設計することにより有益な効果が得られる。また、構造体を周期的、あるいは特定の意図を持つ規則性を持った並べ方で配置することにより、散乱波を互いに干渉させ、打ち消したり特定の方向に集光する設計も可能であり、散乱光の抑制や散乱方向のコントロールが可能である。共振器自体が小さい場合は共振器そのものを規則的に並べることにより同様の効果が期待できる。
【0015】
(原理)
量子コンピュータの実現において最も重要な指標は、量子ビットの持つ量子情報が失われる前に何回の量子ゲート操作を行うことが可能かである。ここで示す光共振器を用いた量子コンピュータにおいては、量子ゲート操作可能回数∝g/(κ+γ)であり、この値を如何に大きくするかが一つの課題となる。
【0016】
まず、基礎的な原理を述べる。ただし用いる各パラメータを表1のように定義する。
【0017】
【表1】
【0018】
なお、g,κはそれぞれ次式で表される。なお、ω、Qはそれぞれ共振角周波数、共振モードのQ値を示す。
【0019】
【数1】
【0020】
【数2】
【0021】
ここで、Aは用いる粒子の物理系(粒子の種類、用いるエネルギー準位、用いる物理現象等)によって決まる固有の係数である。なお、γは物理系固有の値である。Vmodeは共振器のモード体積を表し、通常、以下で定義される。
【0022】
【数3】
【0023】
したがって、粒子と共振モードの結合の強さは、用いる物理系が決まればモード体積だけで決定される。しかし、式(3)の右辺は共振モードの最強電場で規格化されており、電場が最強とならない位置にある粒子の結合強度には相応の低下がある。式(2)は共振モードにある光子の電場エネルギーのうち、粒子の位置に存在する電場の割合、すなわち、共振モード全体の電場のうちの粒子と重なる部分の割合、と見做すことができる。つまり、粒子が感じる等価的なモード体積は、式(3)の右辺の分母が粒子の位置における電場強度となり、モードの電場の弱い位置にある粒子は実際よりも大きなモード体積を感じる。
【0024】
次に、光共振器の設計手法について図1から図3を参照して説明する。図1は、光共振器103の内部での光の電場分布を模式的に示した図である。
まずは、従来の光共振器の設計手法について説明する。gを大きくするためにはモード体積を減少させる必要があるが、従来的な手法では、図2に示すように、光共振器それ自体の体積を小さくすることによってモードの広がりを減らすことに主眼が置かれている。すなわち、図1の電場振幅分布106を図2の電場振幅分布206へ電場振幅分布の広がりを減らす。図2は、図1の光共振器103に較べ光共振器の長さ方向を縮める方法を示しているが、横方向すなわち共振モードの径を縮小してもよい。この設計方法は、式(3)における電場Eの分布する範囲、すなわち式(3)の右辺の分子の積分範囲が小さくなるように設計してg/κを増大させる手法に相当する。しかし、この方法によるモード体積の縮小は、共振モードの周回長の減少や回折損失の増大等によりQ値の低下を招く場合が多く、用いる物理系によっては効果が相殺され期待する効果が得られない。特に、ファブリペロー型共振器においてはむしろ高いQ値を得るために大きな共振器長で設計する場合がある。しかし、共振器を大きくすると今度はκと共にgも小さくなるため、γの値により限界が決まってしまう。なお、良く用いられる定在波モードのビームウェストを絞る手法は式(3)の分母を大きくするが、回折損失の増大に関しては同様の問題を持つ。
【0025】
次に、本実施形態の光共振器の設計手法について図3、図4を参照して説明する。
本実施形態の光共振器では、光共振器103の内部に、その光共振器の共振波長より小さく、共振周波数の光に対し誘電率の実数部が負となる物質によって構成された“構造体”を配置する。図3に図1の共振器に適用した場合の模式図を示す。この構造体307の内側と外側の界面では誘電率の実数部の符号が互いに逆となるため、光が入射した時、この界面に局在する低次元光波308が励起する。これは表面プラズモンポラリトン(SPP)とも呼ばれ、構造体の周囲に強力な電場を形成し、構造体が球状の場合、図4の402に示すような部位に強い電場集中が見られる。この構造体に近接し、強力な電場集中の影響を受けた粒子101は、式(3)の右辺において分母が大きくなるので、この粒子が感じるモード体積は相対的に小さくなる。粒子101は、402に示す強い電場集中のある領域に配置される。すなわち、粒子101は、最も近くに位置する構造体307から粒子101への方向が、共振モードにおける電場の向きの方向若しくは縮退した共振モードのうちの何れか一つ以上において電場の向きとなる方向と同一になるように配置され、粒子101と最も近くに位置する構造体307との距離は、該構造体の大きさの半分以下である。また、粒子は、1個または複数個あり、共振モードの周波数に対し原共振器内部の他の部分と異なる双極子モーメントを持つ。一方、この強力な電場の広がる範囲は構造体に近接した極めて狭い範囲であるため、空間積分の値として式(3)の右辺の分子への寄与は無視できる程度であり、通常、式(3)の右辺の分子の増大は殆どないと考えてよい。したがって共振器のサイズを変更することなくモード体積を減少することが可能となる。
【0026】
この時、構造体は有意の吸収や散乱を持つため、多少のQ値の低下を招くが、構造体のサイズや位置、数等を注意深く設計することにより、原光共振器の持つQ値を大きく低下することなく構成することが可能である。例えば、構造体の大きさを構造体による散乱をレイリー散乱とみなせる程度にする。換言すれば、構造体の大きさを共振波長のD程度以下とする。ここで、D=0.4λ/πnであり、λは共振波長、nは共振器中の媒質の屈折率、πは円周率である。この構造体の大きさでは、構造体による散乱をレイリー散乱とみなせる程度に大きさを抑制できる。また、複数の構造体を共振モードの波長程度(1/2倍〜数倍程度)の周期で配列することで散乱波を互いに干渉させ、回折格子と同様の効果で散乱の方向や量を制御、抑制することができる。
【0027】
なお、縮退とは、固有値問題においてある固有値に対応する固有ベクトルが複数存在する状態を示す。複数の共振モードは、それぞれ固有の共振周波数(=固有値に相当)、固有の空間分布(=固有ベクトルに相当)を持つので、一般的には共振モードが決まれば共振器内の各点における電場の向きは一意に決まる。しかし、共振器の構造や共振モードの種類によっては、空間分布は互いに異なるものの、共振周波数は同じ(あるいは、共振モードの線幅よりも互いに近い周波数であり事実上区別不能なので共振周波数が「同じ」と見なせる場合も含む)である共振モードというものが存在する。これらの共振モードを縮退した共振モードと呼ぶ。この場合、各点における電場の向き(および強さ)は複数ある共振モードのうちのどれを励起するかによって変化する。具体的には、どの偏光でも共振する、円形開口を持つ直線偏光のガウスモード等はこれに当たる。
【0028】
また、本実施形態の光共振器を実際に製作する場合での問題の一つは、粒子と構造体の距離を制御しなければならない点である。例えば、上述したように、粒子を構造体の半径程度以下の距離に近接させる必要がある。これを解決するには初めから粒子と構造体を組にした物を用意し、これを共振器内に設置するのが効率的である。他に、粒子を混ぜた共振器内に構造体を設置する方法もあるが、本実施形態の光共振器による効果を受けない位置にある粒子が光共振器の性能を低下させると考えられるため、不要な粒子はないほうが良いので、粒子と構造体を組にした物を用意する。この、「粒子と構造体を組にした物」を作る方法として、例えば、
・構造体表面に粒子を静電気的に付着させる(例:有機ポリマーでコーティングされたナノ金属粒子に粒子を付着させる、あるいはナノ金属粒子に誘電体に包まれた粒子を付着させる)
・構造体表面を粒子(あるいは粒子となる原子を含む分子)で修飾する(例:ナノ金属粒子を有機ポリマーでコーティングする最、有機ポリマーに粒子の役目を果たすものを混ぜておく)
・構造体と粒子が一体化し、分子化(或いは結晶化)したものを作成する(例:酸化物超伝導結晶表面にバッファー層を積層し、さらにその上に粒子となる量子ドットを形成する)
などがある。このように、粒子が構造体に対し、付着、修飾、分子化、あるいはこれらに類する方法によって、粒子と構造体の組が物理的に一体となった新しい構造体を形成することにより、粒子と構造体の位置関係を容易に制御することが可能になる。
【0029】
ここで、光散乱が抑制されることについて図5、図6、図7、図8を参照して説明する。
図5は単一の構造体307による典型的な光散乱のパターンであり、散乱光は共振モードの光の伝搬方向(共振モードの共振方向)404に対し前後方向に発せられる。図6に示すように構造体307を共振モードの入射光に対し垂直方向(横方向)に並べることで、散乱光の垂直方向成分は互いに打ち消しあい弱められる。また、図7に示すように構造体307を共振モードの入射光に対し平行方向(すなわち、入射方向)に並べると、散乱光が干渉して散乱が抑制される。図7では構造体307は共振波長の半整数倍の間隔をもって共振方向に並べられる。
図6の配置における構造体一つあたりの散乱損失を計算した結果を図8に示す。図8は単一の構造体のときの散乱損失に対する比で示されており、1より小さいときは配列により散乱損失が抑制されていることを表している。構造体の数によらず、その互いの距離が共振波長の0.5〜0.9倍、および1.6〜2.0倍の範囲である時には抑制効果が得られることが判る。なお、ここでは散乱による損失と吸収による損失を併せてQstrで代表することとする。
【0030】
続いて、設計手法のより詳細な説明をする。一つの構造体に対し、共振モードの電場のσ倍の電場強度が得られる空間の体積をVsight(σ)、構造体の数(あるいは構造体の組の数)をNstr、共振器内(あるいは構造体周辺)における粒子の単位体積辺りの数をρparとすると、σ倍の電場強度による作用を受ける粒子の数は
【0031】
【数4】
【0032】
である。ただし、量子ドット等、構造体と比べて、無視できないあるいは同等の大きさを持つ粒子を用いる場合は、実用上の問題と対称性を勘案してNpar=Nstrまたは2Nstrとする。
【0033】
この時、構造体の設置により共振器内に発生する過剰な損失をQ値で表現すると
【0034】
【数5】
【0035】
に相当する損失が生まれる。ここでΘは構造体一つ(あるいは一組)あたりの、単位体積に対する損失をQ値で表したものとする。Q値は共振器にたまっているエネルギーと、エネルギーの散逸速度の比でもあるから、損失が決まれば単位体積あたりのQ値を定義することができる。また、損失は、κstr/ωで定義される。ここでκstr=ω/Qstrであり、損失速度を示す。
【0036】
素の状態(構造体、粒子が共振器内部にない場合を示す)の原共振器の結合強度と減衰速度をそれぞれg、κ、本実施形態の光共振器の結合強度、共振器の減衰速度をそれぞれg’、κ’とすると、
【0037】
【数6】
【0038】
【数7】
【0039】
と表せる。本実施形態の光共振器によればσ>1であるが、Qmode/Qstr>0(Qmode≠0)であるから、結合の強度が増大するとともに共振器の減衰速度も増大する。これらの式(6)、式(7)によって、構造体を入れる前の条件と比較し、本実施形態による特性の向上度をFと定義すれば、
【0040】
【数8】
【0041】
と表せる。したがって、
【0042】
【数9】
【0043】
となるように設計することで有効な効果が得られ、Fが大きいほどその効果は顕著になる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
まず、構造体の構成について図9、図10、図11、図12を参照して説明する。
構造体は銀(Ag)で構成し、その複素屈折率を波長600nm近辺においてn=0.06−4.016j(複素比誘電率ε=−17.3−0.5j)とする。構造体サイズは、散乱の影響を最小限に抑えるため、レイリー散乱とみなせるサイズとする。構造体の特性は、大きさのみならずその形状や、光の周波数、周囲の媒質によっても大きく変わるが、ここでは共振モード波長を600nm、共振器を成す媒質の屈折率をn=1.81(比誘電率ε=3.28)と仮定した。本実施例は、図9に示す直径20nmの球(以下、SPHEREと称する)の構造体901、図10に示す直径30nm厚さ10nmの扁平球(以下、EDISKと称する)の構造体1001、および、図11、図12に示すそれらを微小な間隙をおいて2つ並べた場合の光共振器についてのものである。図11の場合は、間隙が4nm、10nmであるそれぞれSPHERE W04,SPHERE W10であり、図12の場合は、間隙が4nm、10nmであるそれぞれEDISK W04,EDISK W10である。
【0045】
図10の構造体1001の場合には、図10に示すように、光波の進行方向(電場と磁場の振動方向に垂直な方向)に対しては構造体1001の断面積が円を示し(1003)、磁場の振動方向に対しては構造体1001の断面積が扁平体を示す(1004)。図11の構造体901がペアの場合には、図11に示すように、光波の進行方向に対しても、磁場の振動方向に対しても構造体901の断面積は円を示す。図12の構造体1001がペアの場合には、図10を参照して説明した場合と同様に、光波の進行方向(電場と磁場の振動方向に垂直な方向)に対しては構造体1001の断面積が円を示し(1203)、磁場の振動方向に対しては構造体1001の断面積が扁平体を示す(1204)。さらに、図10および図12に示すような真球でない構造体の場合には、構造体の寸法の最大となる方向は電場の振動方向である。
【0046】
次に、図9の構造体901の周囲の電場分布と、図12の2つ並べた構造体1001の周囲の電場分布についてそれぞれ図13、図14を参照して説明する。なお、これら電場分布の計算は分散性媒質を考慮した時間領域有限差分法(RC−FDTD法)により行った。構造体周囲の電場の分布は等高線で表示されている。
図13の等高線1目盛あたりの強度の変化は、近接光場1302においては構造体の近辺における原共振器の共振モードの電場に対し等倍である。図14の近接光場1403、1404においては指数表示とし、3目盛あたり10倍の強度変化(1目盛りあたり2倍強)に相当する。構造体から十分離れた平坦な部分は構造体の寄与は殆どなく、元の共振モードに対し概ね等倍の電場強度である。また、図14の複数の構造体を並べたもの(1401,1402)は、特にその間隙での電場の集中が顕著である。
【0047】
電場強度とその占める空間の関係について図15を参照して説明する。特にσ=10、およびσ=100におけるVsightの値を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
図15および表2では、球単体のものについては解析的に計算した結果も示しているが、FDTDの結果と非常に良い一致を示しており、計算手法の妥当性を示している。また、表2はそれぞれの構成についてΘを計算したものも載せている。総じて球型は電場増強度、損失共に低く、対して扁平球型は電場増強度、損失共に高いことがわかる。それぞれの構造体でQ値と増強度、増強できる空間の容積の間はトレードオフの関係があるため、評価の際はΘのみの値よりΘ×Vsight(σ)の値を扱うのが見通しが良い。故に、図15から求めたΘVsight(σ)とσの関係を図16に示す。この計算結果から検討すると、本事例の中では電場増強度が5倍〜100倍の範囲で使う場合は扁平球、5倍未満ではSphere、100倍以上では構造体ペアを用いるのが最良であることがわかる。なお、扁平球は平面部に向かって光が入射する場合の計算結果を載せているが、実際には半径方向さえ電場の方向に沿っていれば、入射光に対する扁平球の向きは任意でよい。
【0050】
(実施例2)
実施例2では、イットリアシリケイト(Y2SiO5、以下YSO)単結晶を母材として高反射率ブラッグ反射鏡(DBR)により形成されたファブリペロー型共振器を基礎とした共振器を一例として挙げる。粒子はYSO中に混入したPr(プラセオジウム)イオンとする。イオンの場合、式(2)における係数Aは
【0051】
【数10】
【0052】
である。ここでμはイオンの双極子モーメント、ωは共振モードの角周波数、hはプランク定数、ε0は真空誘電率、εrは共振器内のイオンの位置における比誘電率である。
【0053】
その双極子モーメントを実験より見積もられたうちの最大値としてμ=9.0×10−32[Cm]を用い、共振器の長さL=9mm、媒質屈折率n=1.818、光の波長λ=606nm、DBRの反射率R=99.996%とする。また、原共振器の共振モードは横モードをガウシアン型の基本モードとし、ビームウェストをw=10μm、またはw=5μmの共振モード(ビームウェスト径とミラー上スポット径があからさまに異なる、高NAモード)場合を考える。このとき、Qmode=8.5×109、Vmode(w=5μm)=1.77×105μm3、Vmode(w=10μm)=7.07×105μm3である。
【0054】
構造体は実施例1に示したものを用いた。ここでYSO中にドープされたPr3+はY(イットリウム原子)との置換によって結晶中に配位するが、YSOの密度4.45g/cm3から計算すると、Yは単位結晶の容積0.107nm3あたり2個であり、ρpar=18.7個/nm3となる。
【0055】
次に、実際に必要とする量子ビット数から、この光共振器の性能を見積もる。Pr3+イオンの必要数を50個程度とし、その濃度をY比0.1%とすると、Npar=1×105個が必要となる。図15を参考にSPHERE型およびEDISK−W10型の構造体を選び、σ=10、σ=100について検討した。Vmode(w=5μm)を基にした計算結果を表3、Vmode(w=10μm)を基にした計算結果を表4に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
これらの結果より、構造体の導入により共振器の性能が改善されることが判る。特にE−DISK W10でσ=100の条件のものではg/(κ+γ)の値がそれぞれのビームウェストw=5μm、w=10μmにおいて1.01、1.15と、1を超えている。これは強結合条件と呼ばれ、量子現象を扱う上で重要な意味を持つ。
【0059】
以上に示した実施形態によれば、比較的容易に高性能化できる大型な光共振器を起点としても、原共振器内に誘電率と大きさを調整した構造体とこの構造体の近傍に粒子を配置することによって、その光子寿命が長いという利点を残しつつ、結合強度gを数倍〜数十倍程度に引き上げることが可能になる。
また、副次的効果として、構造体の設置により粒子周辺の空間の電場の対象性が崩されるため、粒子の多重極モードの励起が期待され、これはgの増大として現れる。同時に、エネルギー準位の変化も僅かな量であるが期待できる。また構造体の共振器内における局在性、構造体周囲に形成される電場の偏在性を利用することにより、同じ共振器内の粒子の量子状態を場所ごとに制御する操作法も可能となる。
これらの効果は光を用いた量子コンピュータの実現に有用である。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】光共振器の内部での光の電場分布を模式的に示す図。
【図2】光共振器の長さ方向を縮めてモードの広がりを減少した場合の光の電場分布を模式的に示す図。
【図3】本実施形態の光共振器の光の電場分布を模式的に示す図。
【図4】図3の光共振器内に配置された構造体の周囲で電場が強化される領域を示す図。
【図5】構造体に対する典型的な光散乱のパターンを示す図。
【図6】構造体を入射光に対して垂直方向に並べた場合に散乱が抑制される様子を示す図。
【図7】構造体を入射光に対して入射方向に並べた場合に散乱が抑制される様子を示す図。
【図8】図6の構造体の配置の場合での、構造体間距離に対する構造体1つ当たりの散乱損失を示す図。
【図9】実施例での構造体の一例を示す図。
【図10】実施例での構造体の一例を示す図。
【図11】図9の構造体を2つ並べた一例を示す図。
【図12】図10の構造体を2つ並べた一例を示す図。
【図13】図9の構造体の周囲の電場分布を示す図。
【図14】図12の構造体の周囲の電場分布を示す図。
【図15】図9から図12の例で間隙を代えたいくつかの例で、電場強度の増強度に対する空間体積を示す図。
【図16】図15の縦軸の数値に、構造体によって発生する損失(散乱、吸収)の単位体積当りのQ値をかけた、電場強度の増強度に対する空間体積を示す図。
【符号の説明】
【0062】
101・・・粒子、102・・・反射鏡、103,203・・・光共振器、104,204,304・・・共振モード、105,205・・・電場の振動方向、106,206,306・・・電場振幅分布、307,901,1001・・・構造体、308・・・低次元光波、402・・・電場強化領域、404・・・伝搬方向、405,1405・・・電場の振動方向、406・・・磁場の振動方向、1302,1403・・・増強された近接光場、1303・・・弱まった近接光場、1304・・・電場の振動方向、1404・・・特に増強された近接光場。
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子情報、および光学の分野の光共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
光や電磁波(以下、単に光と呼ぶ)を用いた量子コンピュータを実現するにあたり、その量子状態の保存・操作・読み出し等を行うために、光を原子やイオン、量子ドット等、量子情報の保存、操作が可能なもの(以下、単に粒子と呼ぶ)と関連付ける必要がある。その方法の一つとして、光共振器に粒子を閉じ込め、その共振モードと粒子が、その系の緩和速度(デコヒーレンス速度:正しい量子情報を失う速さ)に較べ充分速く(強く)結合させる方法がある(例えば、特許文献1参照)。この共振モード−粒子の結合の強さはラビ振動として観測されるが、そのラビ振動を決定する重要なパラメータの一つとして光共振器のモード体積があり、この値が小さい程結合が強くなる。しかし、一般的に光共振器のモード体積が小さくなると光共振器の光子寿命(∝Q値)が下がり、その系の緩和速度が増大してしまう。したがってモード体積と光子寿命のバランスの取れた光共振器の実現が望まれる。
【0003】
現在、量子情報処理に適すると考えられる高性能な光共振器として、フォトニック結晶光共振器、微小球光共振器、トロイダル型光共振器、高性能DBRによるファブリペロー型光共振器等が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
量子コンピュータの実現にあたり、その実現性・性能の制限の目安となる量として、デコヒーレンス時間(緩和時間)と演算時間(あるいは量子ゲート操作時間)の比、すなわち、系がデコヒーレンスするまでに何回量子ゲート操作可能かが重要な目安となる。一方、量子コンピュータを実現するための方法として、光や電磁波(以下、単に光と呼ぶ)を用い、光共振器の共振モード−粒子の結合系を用いる方法がある。光共振器の持つ減衰速度をκ、粒子の持つ緩和速度をγ、共振モード−粒子間の結合の強さをgとした場合、量子ゲート操作時間はgによって制限されるので、g>κ+γを満足することが一つの指針となる。ここでgは粒子固有の物性と光共振器のモード体積で決まる。κは、光共振器における光の吸収や散乱、漏出等により決まる共振モードの光子寿命の逆数であり、Q値に反比例する。γは粒子における量子状態の緩和の速さであり、粒子の物理系とその環境(結晶場、磁場、温度等)で決まる。
【特許文献1】特開2001−209083公報
【非特許文献1】Physical Review A, 2005年 (71巻)013817-1 - 10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在提案されている光共振器のうち、フォトニック結晶共振器はモード体積こそ小さいが、現時点では光子寿命が充分長いとは言えず、利用できる物理系が制限される。逆にファブリペロー共振器は一般的に光子寿命を容易に大きくできるが、その場合他の共振器に比べモード体積が大きくなり、γに対してgが不十分である。また、微小球共振器やトロイダル型共振器は現状でも共振器性能が良いものが得られるが、更なる性能の向上が望まれる。したがってg、κ、γ間の関係が良好な光共振器の実現が望まれている。
【0006】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであり、サイズの大きな光共振器の利点である長い光子寿命と、微小光共振器の利点であるモード−粒子間の相互作用の大きさを同時に満たし得る光共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明の光共振器は、電磁波を共振させる原共振器と、前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、誘電率の実数部が負の値をもちかつ該実数部の絶対値が虚数部の絶対値よりも大きな物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする。
【0008】
本発明の光共振器は、電磁波を共振させる原共振器と、前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、光共振器の特性を示す向上度が1より大きくなる誘電率を有する物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光共振器によれば、サイズの大きな光共振器の利点である長い光子寿命と、微小光共振器の利点であるモード−粒子間の相互作用の大きさを同時に満たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る光共振器について詳細に説明する。なお、以下の実施形態中では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
最初に本実施形態の光共振器の概略を示す。
まず原共振器の型を選択する。これは目的や用いる材料系・物理系、利用可能なプロセス技術に応じて、バルク結晶を研磨した大型共振器や極小のフォトニック結晶ナノ共振器等、適当なものを選ぶ。あるいは半導体基板上に形成した平面光回路や、球状共振器等でもよい。これを「原共振器」と呼ぶ。
【0011】
ここで、貴金属等の良導体により構成された、光の波長に比して1/10以下の小さな構造体(以下単に構造体とする)に光を入射すると、この構造体の表面には局在プラズモンポラリトンが励起し、その周囲、特に入射光の電場の方向に対し、入射光の電場に較べ、強力な電場を伴った近接光場が形成されることが知られている(例えば、大津元一、小林潔著「近接場光の基礎〜ナノテクノロジーのための新光学〜」オーム社参照)。
【0012】
したがって、前述の原共振器の共振モードの電場と重なる位置に、共振波長より小さな前述した構造体を配置すると、構造体は共振モードの電場の振動方向に強力な電場を伴う。ここで、構造体は内部損失が小さく大きな双極子モーメントを持つことが要件であり、共振モードの振動数において複素誘電率(ε=ε’+iε’’)の実数部が負(ε’<0)であり虚部が小さい(ε’’<|ε’|)という条件さえ満たせば、貴金属に限らずあらゆる物質が候補となり得る。例えばsub−THzより低周波の領域では、ある種の超電導物質も利用可能である。また、構造体は複数個を組としてもよく、特に構造体同士を構造体の大きさ以下の僅かな間隙を設けて電場の振動方向(振動方向が定義できない場合は振動方向となり得る方向)に並列させると、その間隙には単独時に比べ更に強力な電場が形成される。
【0013】
この構造体の周辺にイオンや原子、量子ドットなど、量子情報を記録・操作するための粒子(以下単に粒子とする)を配置し、これら粒子に対しこの近接光場による強力な電場を作用させる。このとき、近接場による電場の増強は元の共振モードの電場に比して、設計・条件次第で数倍から数百倍に達する。その一方、増強電場の影響範囲は共振モードの占める空間に対して極わずかである。粒子にとってこの増強電場は原共振器の共振モードによる電場と区別が無く、したがって相対的には単純に共振モード体積が減少したのと同じ効果が得られ、光子による共振モードと粒子の間の結合を大きくすることができる。
【0014】
このとき構造体によって散乱や吸収による損失が生じるが、これらの損失が有意な影響となるかは原共振器の共振モードのQ値、モード体積等によって決まり、構造体の構成や数を注意深く設計することにより有益な効果が得られる。また、構造体を周期的、あるいは特定の意図を持つ規則性を持った並べ方で配置することにより、散乱波を互いに干渉させ、打ち消したり特定の方向に集光する設計も可能であり、散乱光の抑制や散乱方向のコントロールが可能である。共振器自体が小さい場合は共振器そのものを規則的に並べることにより同様の効果が期待できる。
【0015】
(原理)
量子コンピュータの実現において最も重要な指標は、量子ビットの持つ量子情報が失われる前に何回の量子ゲート操作を行うことが可能かである。ここで示す光共振器を用いた量子コンピュータにおいては、量子ゲート操作可能回数∝g/(κ+γ)であり、この値を如何に大きくするかが一つの課題となる。
【0016】
まず、基礎的な原理を述べる。ただし用いる各パラメータを表1のように定義する。
【0017】
【表1】
【0018】
なお、g,κはそれぞれ次式で表される。なお、ω、Qはそれぞれ共振角周波数、共振モードのQ値を示す。
【0019】
【数1】
【0020】
【数2】
【0021】
ここで、Aは用いる粒子の物理系(粒子の種類、用いるエネルギー準位、用いる物理現象等)によって決まる固有の係数である。なお、γは物理系固有の値である。Vmodeは共振器のモード体積を表し、通常、以下で定義される。
【0022】
【数3】
【0023】
したがって、粒子と共振モードの結合の強さは、用いる物理系が決まればモード体積だけで決定される。しかし、式(3)の右辺は共振モードの最強電場で規格化されており、電場が最強とならない位置にある粒子の結合強度には相応の低下がある。式(2)は共振モードにある光子の電場エネルギーのうち、粒子の位置に存在する電場の割合、すなわち、共振モード全体の電場のうちの粒子と重なる部分の割合、と見做すことができる。つまり、粒子が感じる等価的なモード体積は、式(3)の右辺の分母が粒子の位置における電場強度となり、モードの電場の弱い位置にある粒子は実際よりも大きなモード体積を感じる。
【0024】
次に、光共振器の設計手法について図1から図3を参照して説明する。図1は、光共振器103の内部での光の電場分布を模式的に示した図である。
まずは、従来の光共振器の設計手法について説明する。gを大きくするためにはモード体積を減少させる必要があるが、従来的な手法では、図2に示すように、光共振器それ自体の体積を小さくすることによってモードの広がりを減らすことに主眼が置かれている。すなわち、図1の電場振幅分布106を図2の電場振幅分布206へ電場振幅分布の広がりを減らす。図2は、図1の光共振器103に較べ光共振器の長さ方向を縮める方法を示しているが、横方向すなわち共振モードの径を縮小してもよい。この設計方法は、式(3)における電場Eの分布する範囲、すなわち式(3)の右辺の分子の積分範囲が小さくなるように設計してg/κを増大させる手法に相当する。しかし、この方法によるモード体積の縮小は、共振モードの周回長の減少や回折損失の増大等によりQ値の低下を招く場合が多く、用いる物理系によっては効果が相殺され期待する効果が得られない。特に、ファブリペロー型共振器においてはむしろ高いQ値を得るために大きな共振器長で設計する場合がある。しかし、共振器を大きくすると今度はκと共にgも小さくなるため、γの値により限界が決まってしまう。なお、良く用いられる定在波モードのビームウェストを絞る手法は式(3)の分母を大きくするが、回折損失の増大に関しては同様の問題を持つ。
【0025】
次に、本実施形態の光共振器の設計手法について図3、図4を参照して説明する。
本実施形態の光共振器では、光共振器103の内部に、その光共振器の共振波長より小さく、共振周波数の光に対し誘電率の実数部が負となる物質によって構成された“構造体”を配置する。図3に図1の共振器に適用した場合の模式図を示す。この構造体307の内側と外側の界面では誘電率の実数部の符号が互いに逆となるため、光が入射した時、この界面に局在する低次元光波308が励起する。これは表面プラズモンポラリトン(SPP)とも呼ばれ、構造体の周囲に強力な電場を形成し、構造体が球状の場合、図4の402に示すような部位に強い電場集中が見られる。この構造体に近接し、強力な電場集中の影響を受けた粒子101は、式(3)の右辺において分母が大きくなるので、この粒子が感じるモード体積は相対的に小さくなる。粒子101は、402に示す強い電場集中のある領域に配置される。すなわち、粒子101は、最も近くに位置する構造体307から粒子101への方向が、共振モードにおける電場の向きの方向若しくは縮退した共振モードのうちの何れか一つ以上において電場の向きとなる方向と同一になるように配置され、粒子101と最も近くに位置する構造体307との距離は、該構造体の大きさの半分以下である。また、粒子は、1個または複数個あり、共振モードの周波数に対し原共振器内部の他の部分と異なる双極子モーメントを持つ。一方、この強力な電場の広がる範囲は構造体に近接した極めて狭い範囲であるため、空間積分の値として式(3)の右辺の分子への寄与は無視できる程度であり、通常、式(3)の右辺の分子の増大は殆どないと考えてよい。したがって共振器のサイズを変更することなくモード体積を減少することが可能となる。
【0026】
この時、構造体は有意の吸収や散乱を持つため、多少のQ値の低下を招くが、構造体のサイズや位置、数等を注意深く設計することにより、原光共振器の持つQ値を大きく低下することなく構成することが可能である。例えば、構造体の大きさを構造体による散乱をレイリー散乱とみなせる程度にする。換言すれば、構造体の大きさを共振波長のD程度以下とする。ここで、D=0.4λ/πnであり、λは共振波長、nは共振器中の媒質の屈折率、πは円周率である。この構造体の大きさでは、構造体による散乱をレイリー散乱とみなせる程度に大きさを抑制できる。また、複数の構造体を共振モードの波長程度(1/2倍〜数倍程度)の周期で配列することで散乱波を互いに干渉させ、回折格子と同様の効果で散乱の方向や量を制御、抑制することができる。
【0027】
なお、縮退とは、固有値問題においてある固有値に対応する固有ベクトルが複数存在する状態を示す。複数の共振モードは、それぞれ固有の共振周波数(=固有値に相当)、固有の空間分布(=固有ベクトルに相当)を持つので、一般的には共振モードが決まれば共振器内の各点における電場の向きは一意に決まる。しかし、共振器の構造や共振モードの種類によっては、空間分布は互いに異なるものの、共振周波数は同じ(あるいは、共振モードの線幅よりも互いに近い周波数であり事実上区別不能なので共振周波数が「同じ」と見なせる場合も含む)である共振モードというものが存在する。これらの共振モードを縮退した共振モードと呼ぶ。この場合、各点における電場の向き(および強さ)は複数ある共振モードのうちのどれを励起するかによって変化する。具体的には、どの偏光でも共振する、円形開口を持つ直線偏光のガウスモード等はこれに当たる。
【0028】
また、本実施形態の光共振器を実際に製作する場合での問題の一つは、粒子と構造体の距離を制御しなければならない点である。例えば、上述したように、粒子を構造体の半径程度以下の距離に近接させる必要がある。これを解決するには初めから粒子と構造体を組にした物を用意し、これを共振器内に設置するのが効率的である。他に、粒子を混ぜた共振器内に構造体を設置する方法もあるが、本実施形態の光共振器による効果を受けない位置にある粒子が光共振器の性能を低下させると考えられるため、不要な粒子はないほうが良いので、粒子と構造体を組にした物を用意する。この、「粒子と構造体を組にした物」を作る方法として、例えば、
・構造体表面に粒子を静電気的に付着させる(例:有機ポリマーでコーティングされたナノ金属粒子に粒子を付着させる、あるいはナノ金属粒子に誘電体に包まれた粒子を付着させる)
・構造体表面を粒子(あるいは粒子となる原子を含む分子)で修飾する(例:ナノ金属粒子を有機ポリマーでコーティングする最、有機ポリマーに粒子の役目を果たすものを混ぜておく)
・構造体と粒子が一体化し、分子化(或いは結晶化)したものを作成する(例:酸化物超伝導結晶表面にバッファー層を積層し、さらにその上に粒子となる量子ドットを形成する)
などがある。このように、粒子が構造体に対し、付着、修飾、分子化、あるいはこれらに類する方法によって、粒子と構造体の組が物理的に一体となった新しい構造体を形成することにより、粒子と構造体の位置関係を容易に制御することが可能になる。
【0029】
ここで、光散乱が抑制されることについて図5、図6、図7、図8を参照して説明する。
図5は単一の構造体307による典型的な光散乱のパターンであり、散乱光は共振モードの光の伝搬方向(共振モードの共振方向)404に対し前後方向に発せられる。図6に示すように構造体307を共振モードの入射光に対し垂直方向(横方向)に並べることで、散乱光の垂直方向成分は互いに打ち消しあい弱められる。また、図7に示すように構造体307を共振モードの入射光に対し平行方向(すなわち、入射方向)に並べると、散乱光が干渉して散乱が抑制される。図7では構造体307は共振波長の半整数倍の間隔をもって共振方向に並べられる。
図6の配置における構造体一つあたりの散乱損失を計算した結果を図8に示す。図8は単一の構造体のときの散乱損失に対する比で示されており、1より小さいときは配列により散乱損失が抑制されていることを表している。構造体の数によらず、その互いの距離が共振波長の0.5〜0.9倍、および1.6〜2.0倍の範囲である時には抑制効果が得られることが判る。なお、ここでは散乱による損失と吸収による損失を併せてQstrで代表することとする。
【0030】
続いて、設計手法のより詳細な説明をする。一つの構造体に対し、共振モードの電場のσ倍の電場強度が得られる空間の体積をVsight(σ)、構造体の数(あるいは構造体の組の数)をNstr、共振器内(あるいは構造体周辺)における粒子の単位体積辺りの数をρparとすると、σ倍の電場強度による作用を受ける粒子の数は
【0031】
【数4】
【0032】
である。ただし、量子ドット等、構造体と比べて、無視できないあるいは同等の大きさを持つ粒子を用いる場合は、実用上の問題と対称性を勘案してNpar=Nstrまたは2Nstrとする。
【0033】
この時、構造体の設置により共振器内に発生する過剰な損失をQ値で表現すると
【0034】
【数5】
【0035】
に相当する損失が生まれる。ここでΘは構造体一つ(あるいは一組)あたりの、単位体積に対する損失をQ値で表したものとする。Q値は共振器にたまっているエネルギーと、エネルギーの散逸速度の比でもあるから、損失が決まれば単位体積あたりのQ値を定義することができる。また、損失は、κstr/ωで定義される。ここでκstr=ω/Qstrであり、損失速度を示す。
【0036】
素の状態(構造体、粒子が共振器内部にない場合を示す)の原共振器の結合強度と減衰速度をそれぞれg、κ、本実施形態の光共振器の結合強度、共振器の減衰速度をそれぞれg’、κ’とすると、
【0037】
【数6】
【0038】
【数7】
【0039】
と表せる。本実施形態の光共振器によればσ>1であるが、Qmode/Qstr>0(Qmode≠0)であるから、結合の強度が増大するとともに共振器の減衰速度も増大する。これらの式(6)、式(7)によって、構造体を入れる前の条件と比較し、本実施形態による特性の向上度をFと定義すれば、
【0040】
【数8】
【0041】
と表せる。したがって、
【0042】
【数9】
【0043】
となるように設計することで有効な効果が得られ、Fが大きいほどその効果は顕著になる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
まず、構造体の構成について図9、図10、図11、図12を参照して説明する。
構造体は銀(Ag)で構成し、その複素屈折率を波長600nm近辺においてn=0.06−4.016j(複素比誘電率ε=−17.3−0.5j)とする。構造体サイズは、散乱の影響を最小限に抑えるため、レイリー散乱とみなせるサイズとする。構造体の特性は、大きさのみならずその形状や、光の周波数、周囲の媒質によっても大きく変わるが、ここでは共振モード波長を600nm、共振器を成す媒質の屈折率をn=1.81(比誘電率ε=3.28)と仮定した。本実施例は、図9に示す直径20nmの球(以下、SPHEREと称する)の構造体901、図10に示す直径30nm厚さ10nmの扁平球(以下、EDISKと称する)の構造体1001、および、図11、図12に示すそれらを微小な間隙をおいて2つ並べた場合の光共振器についてのものである。図11の場合は、間隙が4nm、10nmであるそれぞれSPHERE W04,SPHERE W10であり、図12の場合は、間隙が4nm、10nmであるそれぞれEDISK W04,EDISK W10である。
【0045】
図10の構造体1001の場合には、図10に示すように、光波の進行方向(電場と磁場の振動方向に垂直な方向)に対しては構造体1001の断面積が円を示し(1003)、磁場の振動方向に対しては構造体1001の断面積が扁平体を示す(1004)。図11の構造体901がペアの場合には、図11に示すように、光波の進行方向に対しても、磁場の振動方向に対しても構造体901の断面積は円を示す。図12の構造体1001がペアの場合には、図10を参照して説明した場合と同様に、光波の進行方向(電場と磁場の振動方向に垂直な方向)に対しては構造体1001の断面積が円を示し(1203)、磁場の振動方向に対しては構造体1001の断面積が扁平体を示す(1204)。さらに、図10および図12に示すような真球でない構造体の場合には、構造体の寸法の最大となる方向は電場の振動方向である。
【0046】
次に、図9の構造体901の周囲の電場分布と、図12の2つ並べた構造体1001の周囲の電場分布についてそれぞれ図13、図14を参照して説明する。なお、これら電場分布の計算は分散性媒質を考慮した時間領域有限差分法(RC−FDTD法)により行った。構造体周囲の電場の分布は等高線で表示されている。
図13の等高線1目盛あたりの強度の変化は、近接光場1302においては構造体の近辺における原共振器の共振モードの電場に対し等倍である。図14の近接光場1403、1404においては指数表示とし、3目盛あたり10倍の強度変化(1目盛りあたり2倍強)に相当する。構造体から十分離れた平坦な部分は構造体の寄与は殆どなく、元の共振モードに対し概ね等倍の電場強度である。また、図14の複数の構造体を並べたもの(1401,1402)は、特にその間隙での電場の集中が顕著である。
【0047】
電場強度とその占める空間の関係について図15を参照して説明する。特にσ=10、およびσ=100におけるVsightの値を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
図15および表2では、球単体のものについては解析的に計算した結果も示しているが、FDTDの結果と非常に良い一致を示しており、計算手法の妥当性を示している。また、表2はそれぞれの構成についてΘを計算したものも載せている。総じて球型は電場増強度、損失共に低く、対して扁平球型は電場増強度、損失共に高いことがわかる。それぞれの構造体でQ値と増強度、増強できる空間の容積の間はトレードオフの関係があるため、評価の際はΘのみの値よりΘ×Vsight(σ)の値を扱うのが見通しが良い。故に、図15から求めたΘVsight(σ)とσの関係を図16に示す。この計算結果から検討すると、本事例の中では電場増強度が5倍〜100倍の範囲で使う場合は扁平球、5倍未満ではSphere、100倍以上では構造体ペアを用いるのが最良であることがわかる。なお、扁平球は平面部に向かって光が入射する場合の計算結果を載せているが、実際には半径方向さえ電場の方向に沿っていれば、入射光に対する扁平球の向きは任意でよい。
【0050】
(実施例2)
実施例2では、イットリアシリケイト(Y2SiO5、以下YSO)単結晶を母材として高反射率ブラッグ反射鏡(DBR)により形成されたファブリペロー型共振器を基礎とした共振器を一例として挙げる。粒子はYSO中に混入したPr(プラセオジウム)イオンとする。イオンの場合、式(2)における係数Aは
【0051】
【数10】
【0052】
である。ここでμはイオンの双極子モーメント、ωは共振モードの角周波数、hはプランク定数、ε0は真空誘電率、εrは共振器内のイオンの位置における比誘電率である。
【0053】
その双極子モーメントを実験より見積もられたうちの最大値としてμ=9.0×10−32[Cm]を用い、共振器の長さL=9mm、媒質屈折率n=1.818、光の波長λ=606nm、DBRの反射率R=99.996%とする。また、原共振器の共振モードは横モードをガウシアン型の基本モードとし、ビームウェストをw=10μm、またはw=5μmの共振モード(ビームウェスト径とミラー上スポット径があからさまに異なる、高NAモード)場合を考える。このとき、Qmode=8.5×109、Vmode(w=5μm)=1.77×105μm3、Vmode(w=10μm)=7.07×105μm3である。
【0054】
構造体は実施例1に示したものを用いた。ここでYSO中にドープされたPr3+はY(イットリウム原子)との置換によって結晶中に配位するが、YSOの密度4.45g/cm3から計算すると、Yは単位結晶の容積0.107nm3あたり2個であり、ρpar=18.7個/nm3となる。
【0055】
次に、実際に必要とする量子ビット数から、この光共振器の性能を見積もる。Pr3+イオンの必要数を50個程度とし、その濃度をY比0.1%とすると、Npar=1×105個が必要となる。図15を参考にSPHERE型およびEDISK−W10型の構造体を選び、σ=10、σ=100について検討した。Vmode(w=5μm)を基にした計算結果を表3、Vmode(w=10μm)を基にした計算結果を表4に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
これらの結果より、構造体の導入により共振器の性能が改善されることが判る。特にE−DISK W10でσ=100の条件のものではg/(κ+γ)の値がそれぞれのビームウェストw=5μm、w=10μmにおいて1.01、1.15と、1を超えている。これは強結合条件と呼ばれ、量子現象を扱う上で重要な意味を持つ。
【0059】
以上に示した実施形態によれば、比較的容易に高性能化できる大型な光共振器を起点としても、原共振器内に誘電率と大きさを調整した構造体とこの構造体の近傍に粒子を配置することによって、その光子寿命が長いという利点を残しつつ、結合強度gを数倍〜数十倍程度に引き上げることが可能になる。
また、副次的効果として、構造体の設置により粒子周辺の空間の電場の対象性が崩されるため、粒子の多重極モードの励起が期待され、これはgの増大として現れる。同時に、エネルギー準位の変化も僅かな量であるが期待できる。また構造体の共振器内における局在性、構造体周囲に形成される電場の偏在性を利用することにより、同じ共振器内の粒子の量子状態を場所ごとに制御する操作法も可能となる。
これらの効果は光を用いた量子コンピュータの実現に有用である。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】光共振器の内部での光の電場分布を模式的に示す図。
【図2】光共振器の長さ方向を縮めてモードの広がりを減少した場合の光の電場分布を模式的に示す図。
【図3】本実施形態の光共振器の光の電場分布を模式的に示す図。
【図4】図3の光共振器内に配置された構造体の周囲で電場が強化される領域を示す図。
【図5】構造体に対する典型的な光散乱のパターンを示す図。
【図6】構造体を入射光に対して垂直方向に並べた場合に散乱が抑制される様子を示す図。
【図7】構造体を入射光に対して入射方向に並べた場合に散乱が抑制される様子を示す図。
【図8】図6の構造体の配置の場合での、構造体間距離に対する構造体1つ当たりの散乱損失を示す図。
【図9】実施例での構造体の一例を示す図。
【図10】実施例での構造体の一例を示す図。
【図11】図9の構造体を2つ並べた一例を示す図。
【図12】図10の構造体を2つ並べた一例を示す図。
【図13】図9の構造体の周囲の電場分布を示す図。
【図14】図12の構造体の周囲の電場分布を示す図。
【図15】図9から図12の例で間隙を代えたいくつかの例で、電場強度の増強度に対する空間体積を示す図。
【図16】図15の縦軸の数値に、構造体によって発生する損失(散乱、吸収)の単位体積当りのQ値をかけた、電場強度の増強度に対する空間体積を示す図。
【符号の説明】
【0062】
101・・・粒子、102・・・反射鏡、103,203・・・光共振器、104,204,304・・・共振モード、105,205・・・電場の振動方向、106,206,306・・・電場振幅分布、307,901,1001・・・構造体、308・・・低次元光波、402・・・電場強化領域、404・・・伝搬方向、405,1405・・・電場の振動方向、406・・・磁場の振動方向、1302,1403・・・増強された近接光場、1303・・・弱まった近接光場、1304・・・電場の振動方向、1404・・・特に増強された近接光場。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を共振させる原共振器と、
前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、誘電率の実数部が負の値をもちかつ該実数部の絶対値が虚数部の絶対値よりも大きな物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、
前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする光共振器。
【請求項2】
電磁波を共振させる原共振器と、
前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、光共振器の特性を示す向上度が1より大きくなる誘電率を有する物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、
前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする光共振器。
【請求項3】
前記構造体は真球ではない形状であり、該構造体の寸法の最大となる方向が前記共振モードにおける電場の向きの方向若しくは縮退した共振モードのうちの何れか一つ以上において電場の向きとなる方向に前記構造体を配置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光共振器。
【請求項4】
前記構造体が、原共振器内に一組または複数組散在し、前記共振モードの電場分布のうち、電場強度の増強度が1より大きくなる位置に配置されており、
前記粒子が、最も近くに位置する構造体から該粒子への方向が、前記共振モードにおける電場の向きの方向若しくは縮退した共振モードのうちの何れか一つ以上において電場の向きとなる方向と同一になるように配置され、該粒子と最も近くに位置する構造体との距離は、該構造体の大きさの半分以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光共振器。
【請求項5】
前記構造体の組のうち、一部または全てをそれぞれ互いに、共振モードの波長の0.5〜0.9倍、および、1.6〜2.0倍の範囲の間隔で規則性をもって配置していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光共振器。
【請求項6】
前記粒子が前記構造体に対し、付着、修飾、分子化によって、粒子と構造体の組が物理的に一体となった新しい構造体を形成することにより、前記粒子と前記構造体の位置関係を設定している請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光共振器。
【請求項1】
電磁波を共振させる原共振器と、
前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、誘電率の実数部が負の値をもちかつ該実数部の絶対値が虚数部の絶対値よりも大きな物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、
前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする光共振器。
【請求項2】
電磁波を共振させる原共振器と、
前記原共振器のいずれかの共振モードと重なる位置に配置され、光共振器の特性を示す向上度が1より大きくなる誘電率を有する物質から成り、前記電磁波の受ける散乱がレイリー散乱となる大きさを有する、1個または互いに近接した複数個で一組とした構造体と、
前記構造体に対し、前記構造体の大きさよりも小さい距離で近接して配置されている1個または複数個の粒子と、を具備することを特徴とする光共振器。
【請求項3】
前記構造体は真球ではない形状であり、該構造体の寸法の最大となる方向が前記共振モードにおける電場の向きの方向若しくは縮退した共振モードのうちの何れか一つ以上において電場の向きとなる方向に前記構造体を配置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光共振器。
【請求項4】
前記構造体が、原共振器内に一組または複数組散在し、前記共振モードの電場分布のうち、電場強度の増強度が1より大きくなる位置に配置されており、
前記粒子が、最も近くに位置する構造体から該粒子への方向が、前記共振モードにおける電場の向きの方向若しくは縮退した共振モードのうちの何れか一つ以上において電場の向きとなる方向と同一になるように配置され、該粒子と最も近くに位置する構造体との距離は、該構造体の大きさの半分以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光共振器。
【請求項5】
前記構造体の組のうち、一部または全てをそれぞれ互いに、共振モードの波長の0.5〜0.9倍、および、1.6〜2.0倍の範囲の間隔で規則性をもって配置していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光共振器。
【請求項6】
前記粒子が前記構造体に対し、付着、修飾、分子化によって、粒子と構造体の組が物理的に一体となった新しい構造体を形成することにより、前記粒子と前記構造体の位置関係を設定している請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光共振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−80311(P2009−80311A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249652(P2007−249652)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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