説明

光分解性高分子化合物

【課題】 高分子化合物自体として安定でありながら、光分解感度が優れ、しかも入手しやすい化合物を利用した光分解性高分子化合物を提供すること。
【解決手段】 次の基(I)
【化1】


(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シアノ基、ニトロ基、フェノキシ基、アリル基またはポリマー鎖を示し、Rは水素原子またはアルキル基を示し、Yは、酸素原子または炭素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子もしくはケイ素原子を含む結合基を、Yは、酸素原子、カルボニルオキシ基、カルボニルオキシアミノ基またはスルホニルオキシ基を示す)
で表される基を光分解性部位として含有する光分解性高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射することにより分解する光分解性高分子化合物に関し、更に詳細には、紫外光、可視光などの光を照射することにより、光分解性部位が開裂し、分解する光分解性高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染が叫ばれる中、再利用の出来る高分子化合物や、環境中で簡単に分解のできる高分子化合物の研究が種々なされおり、例えば、生分解性高分子化合物や光分解性高分子化合物等についての研究が種々なされている。
【0003】
このうち、光分解性高分子化合物を利用したものとしては、例えば、フェニルイソプロペニルケトンを共重合した電子写真用トナーが提案されている(特許文献1)。しかし、この公報に記載されているものは、合成方法が煩雑であること、フェニルイソプロペニルケトンが重合性単量体としての安定性に劣ること、重合後の高分子化合物が光分解の感度に劣る等の欠点があった。
【0004】
一方、アンモニウム塩のボレート誘導体や、ホスホニウム塩のボレート誘導体を利用した光分解性高分子化合物も報告されている(特許文献2)。しかし、この技術は、特殊な化合物を使用するため、コストが高くなったり、また、用途によっては使用が難しいなどの問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平7ー209900号公報
【特許文献2】特開平11ー315117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、高分子化合物自体として安定でありながら、光分解感度が優れ、しかも利用しやすい化合物を利用した光分解性高分子化合物の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ニトロ置換ベンジルを含む基を光分解性部位として利用すれば、それ自体は安定で、かつ、光の作用により容易に分解する光分解性高分子化合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、次の基(I)
【化2】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シアノ基、ニトロ基、フェノキシ基、アリル基またはポリマー鎖を示し、Rは水素原子またはアルキル基を示し、Yは、酸素原子または炭素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子もしくはケイ素原子を含む結合基を、Yは、酸素原子、カルボニルオキシ基、カルボニルオキシアミノ基またはスルホニルオキシ基を示す)
で表される基を光分解性部位として含有する光分解性高分子化合物である。
【0009】
また本発明は、光分解性部位が、主鎖に組み込まれたものである上記の光分解性高分子化合物である。
【0010】
更に本発明は、主鎖がブロック重合またはランダム重合で得られたコポリマーである上記の光分解性高分子化合物である。
【0011】
更にまた本発明は、光分解により分解された高分子化合物の断片にカルボキシル基、水酸基、アミノ基またはスルホニル基が形成されるものである前記のいずれかの光分解性高分子化合物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、それ自体は安定で、高感度な光分解性を有する光分解性高分子化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光分解性高分子化合物は、上記した式(I)で表される基を光分解性部位として含むものである。
【0014】
この光分解性高分子化合物は、上記光分解性部位(I)以外は、特に制約はなく、種々の種類の高分子化合物を利用し、製造することができる。
【0015】
すなわち、光分解性部位(I)を組み込む位置は、主鎖中でも、また分岐鎖中であっても良い。また、この主鎖ないし分岐鎖も、同じモノマーから形成されるホモポリマーであっても、異なる複数のモノマーで形成されるコポリマーであっても良い。更に、コポリマーの場合は、ランダム重合で形成されたものでもブロック重合で形成されたものであっても良い。
【0016】
本発明の光分解性高分子化合物への光分解性部位(I)の導入は、例えば、下式に従い、ニトロ置換ベンジル誘導体(II)を使用し、これを逐次、第1の高分子化合物(III)および第2の高分子化合物(IV)と反応させることにより行うことができる。
【0017】
【化3】

(式中、LおよびLは任意のポリマー鎖を示し、XおよびXは活性化基を示し、R、YおよびYは前記した意味を有する)
【0018】
すなわち、ニトロ置換ベンジル誘導体(II)を、末端が活性化された第1の高分子化合物(III)と反応させて、式(V)で表される化合物とした後、この化合物の第1の高分子が結合したのと逆側の官能基部分を式(VI)で表される化合物で活性化して式(VII)で表される化合物を得、これに第2の高分子化合物(IV)を反応させて、目的とする光分解性部位(I)が導入された光分解性高分子化合物(VIII)を得ることができる。
【0019】
上記反応において、化合物(III)や化合物(VII)の末端の活性化は、ハロゲン化合物、酸無水物、アルキルスルホニル酸、イミド化合物等を用いて行うことができる。また、反応は、公知の縮合化条件により、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム等適当な溶媒中で、ピリジン、トリエチルアミン、炭酸カリウム等の脱酸剤の存在下に行うことができる。
【0020】
なお、上記説明は、異なる高分子化合物を用いた場合を例に取り行ったが、これらが同じ高分子化合物であっても良いことはいうまでもない。また、上記では、第1の高分子化合物(III)および第2の高分子化合物(IV)の一末端に着目し、説明したが、これら高分子化合物が線状ポリマーである場合はその両末端で、あるいは3次元構造を有するポリマーである場合はそれ以上の多くの末端で同様な反応を生起させ、より長かったり、あるいはより複雑で、光分解性基を多く有する光分解性高分子化合物を得ることができる。更に、上記説明は、縮合反応による場合の例であるが、光分解性部位(I)を導入できれば、付加型重合の高分子化合物であっても良く、その反応に合わせて使用試薬等を変更することも、当業者にとって容易なことである。
【0021】
以上のようにして得られた本発明の光分解性高分子化合物は、例えば、100mW/cm程度の強度の、UVで吸収のある波長の光を、30秒から10分間程度の時間照射することにより、上記光分解性部位において開裂し、分解する。
【0022】
この光分解により分解された高分子化合物の断片には、もとのポリマーの末端であった基、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基等が形成される。
【0023】
なお、本発明の光高分子化合物において、より好ましい光分解性部位は、ニトロ基がフェニレン基の2位(m−位)に置換した構造を有するものである。
【実施例】
【0024】
次に実施例および試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。なお、下記の各実施例で得た光分解性高分子化合物の光分解性は、UVスペクトルおよびNMRスペクトルの変化にて確認した。
【0025】
実 施 例 1
光分解性高分子化合物1(m−体;Pst Mn=5,800,ドデシルアミ
ン)の合成:
(1)氷浴上において、ナスフラスコに、61%硝酸100mlを入れ、4'−ヒドロキシ−3'−メトキシアセトフェノン 10gを少しずつ加え、3時間撹拌した。その後冷水を加え、生成物を吸引ろ過にて回収した。水で洗浄後、酢酸エチル溶液中で再結晶により黄色固体として4'−ヒドロキシ−3'−メトキシ−5'−ニトロアセトフェノン(CAS No.20716−41−0)7.28g(収率 57.2%)を得た。
【0026】
(2)窒素気流下、ナスフラスコに、上で得た4'−ヒドロキシ−3'メトキシ−5'−ニトロアセトフェノン 1.53g(7.25mmol)、THF 30ml、ピリジン 1.16ml(14.2mmol)および無水酢酸 1.34g(14.2mmol)を入れ、室温で5時間撹拌した。反応終了後、水 60ml、2N塩酸 7mlを加え、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で分離し、橙色粘体として4−アセチル−2−メトキシ−6−ニトロフェニルアセテート 1.137g(4.49mmol、62%)を得た。
【0027】
(3)ナスフラスコに、上で得た4−アセチル−2−メトキシ−6−ニトロフェニルアセテート 0.944g(3.73mmol)、THF 20mlおよび水素化ホウ素ナトリウム 0.300g(7.93mmol)を入れ、30分間撹拌し、室温でさらに2時間撹拌した。反応終了後水を加え、クロロホルムで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、橙色固体として4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−6−ニトロフェニルアセテート 0.500g(1.96mmol、53%)を得た。
【0028】
(4)ナスフラスコに、上で得た4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−6−ニトロフェニルアセテート 0.270g(1.06mmol)、エタノール 30mlおよび10%水酸化カリウム 10mlを入れ、3時間撹拌した。反応終了後、これを濃縮し、2N塩酸 20mlおよび水 50mlを加え、クロロホルムで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム)上で分離、精製し、橙色固体として4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−6−ニトロフェノール 0.196g(0.919mmol、87%)を得た。
【0029】
(5)室温、窒素雰囲気下において、ナスフラスコに、上で得た4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−6−ニトロフェノール 0.090g(422μmol)、DMF 5ml、炭酸カリウム 0.060g(380μmol)および下式(A)で示される末端が臭素で修飾されたポリスチレン(Mn=5800) 0.300g(51.7μmol)、を入れ、一晩撹拌した。これをメタノール中にて再沈澱し、淡黄色固体として下式(B)で示される4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−6−ニトロフェノールとポリスチレンの縮合物 0.276gを得た。
【0030】
【化4】

【化5】

【0031】
(6)窒素雰囲気下、上記の縮合物 0.264g(45.5μmol)、DMF 5ml、炭酸N,N'−ジスクシンイミジル 0.120g(468μmol)およびトリエチルアミン 0.2mlをナスフラスコに入れ、一晩撹拌した。これをメタノール中にて再沈澱し、白色固体として、式(C)で示されるスクシンイミド誘導体(Pst Mn=5800) 0.246gを得た。
【0032】
【化6】

【0033】
(7)ナスフラスコに、上で得た式(C)で示されるスクシンイミド誘導体 0.100g(17.2μmol)、ドデシルアミン(DA)0.100g(540μm)、THF 2mlおよびトリエチルアミン 5μlを入れ、室温で1日撹拌した。これをメタノール溶液で再沈澱後、真空乾燥し、白色固体として光分解性高分子化合物(Pst Mn=5,800,ドデシルアミン)0.086gを得た。
【0034】
実 施 例 2
光分解性高分子化合物(m−体;Pst Mn=5,800,PEO Mn=
750)の合成:
(1)氷浴上、窒素雰囲気下において、ナスフラスコに60%水素化ナトリウム 0.450g(11.3mmol)およびTHF 30mlを入れ、10分間加熱後、ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEO;Mn=750)7.60g(10.1mmol)を入れ、さらに10分間撹拌し、その後室温にて1時間撹拌した。これに氷浴上でp−トルエンスルフォニルクロライド 2.20g(11.5mmol)を加え、10分間撹拌した後、室温にて一晩撹拌した。これに水 50mlおよび2N塩酸 10mlを加え、クロロホルムで抽出後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。シリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)に付し、淡黄色粘体としてPEOの末端水酸基がトシル基(Ts)で修飾されたTs末端PEO 8.24gを得た。
【0035】
(2)窒素雰囲気下、ナスフラスコに、上で得たTs末端PEO 4.20g(4.72mmol)、DMF 20mlおよびフタルイミドカリウム 1.50g(8.10mmol)を入れ、150℃にて6時間環流した。これに水 50ml、2N塩酸 20mlを加え、クロロホルムで抽出後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。これをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)に付し、淡黄色粘体としてPEOの末端水酸基がフタルイミドに置換されたフタルイミド末端PEO 2.16gを得た。
【0036】
(3)ナスフラスコに、上で得たフタルイミド末端PEO 1.02g(1.18mmol)、2−プロパノール 10mlおよびヒドラジン一水和物 2ml(40mmol)を入れ、80℃にて一晩撹拌した。反応終了後、水 25mlおよび2N塩酸 5mlを加え、クロロホルムで抽出後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、濃縮し、淡黄色粘体として1−アミノポリエチレングリコールメチルエーテル(NH−PEO(750))0.74gを得た。
【0037】
(4)ナスフラスコに、上で得たNH−PEO(750)0.100g(133μmol)、実施例1において得た式(C)で示されるスクシンイミド誘導体 0.105g(18.1μmol)、THF 2mlおよびトリエチルアミン 10μlを入れ、室温で1日撹拌した。これをメタノール溶液で再沈殿後、真空乾燥し、白色固体として光分解性化合物(PSt Mn=5800、PEO Mn=750)0.099gを得た。
【0038】
実 施 例 3
光分解性高分子化合物(0−体;Pst Mn=5,800,PEO Mn=
750)の合成:
(1)ナスフラスコに、4'−ヒドロキシ−3'−メトキシアセトフェノン 16.6g(0.1mmol)、アセトン 100ml、臭化ベンジル 17.1g(0.1mol)および炭酸カリウム 14.0g(0.1mol)を入れ、80℃で4時間環流した。これを濃縮し、クロロホルムで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチル溶液中で再結晶し、白色固体として 4'−(ベンジロキシ)−3'−メトキシアセトフェノン(CAS No.1835−11−6)22.0g(85.9mmol、88%)を得た。
【0039】
(2)氷浴上において、上で得た4'−ベンジロキシ−3'−メトキシアセトフェノン 14.0g(54.6mmol)、酢酸 150mlおよび発煙硝酸 15mlをナスフラスコに入れ、水浴上で一晩撹拌した。その後冷水を加え、生成物を吸引ろ過にて回収した。水で洗浄後、酢酸エチル溶液中で再結晶し、黄色固体として1−[5−メトキシ−2−ニトロ−4−(フェニルメトキシ)フェニル]−エタノン(CAS No.75665−86−2)8.86g(29.4mmol、54%)を得た。
【0040】
(3)ナスフラスコに、上で得た1−[5−メトキシ−2−ニトロ−4−(フェニルメトキシ)フェニル]−エタノン 8.00g(26.6mmol)およびトリフルオロ酢酸40mlを入れ、室温にて一晩撹拌した。次にこれを濃縮し、5%炭酸水素ナトリウム溶液 100mlおよび2N塩酸 30mlを加え、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチル溶液中で再結晶し、淡緑色固体として1−(4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロフェニル)−エタノン(CAS No.418759−58−7) 4.63g(21.9mmol、82%)を得た。
【0041】
(4)氷浴上において、上で得た1−(4−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ニトロフェニル)−エタノン 0.503g(2.38mmol)、THF 20mlおよび水素化ホウ素ナトリウム 0.301g(7.96mmol)を入れ、30分間撹拌し、室温にてさらに3時間撹拌した。反応終了後、クロロホルムにて抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮し、橙色固体として4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−5−ニトロフェノール 0.350g(1.64mmol、69%)を得た。
【0042】
(5)室温、窒素雰囲気下において、ナスフラスコに上で得た4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−5−ニトロフェノ−ル 0.030g(141μmol)、DMF 5ml、炭酸カリウム 0.060g(380μmol)および式(A)で示される末端が臭素で修飾したポリスチレン(Mn=5800) 0.270g(46.6μmol)を入れ、一晩撹拌した。これをメタノール中にて再沈澱し、淡黄色固体として下式(D)で示される4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−5−ニトロフェノールとポリスチレンの縮合物 0.240gを得た。
【0043】
【化7】

【0044】
(6)窒素雰囲気下、上記の縮合物 0.210g(36.2μmol)、DMF 5ml、炭酸N,N'−ジスクシンイミジル 0.100g(390μmol)およびトリエチルアミン 0.2mlをナスフラスコに入れ、一晩撹拌した。これをメタノール中にて再沈澱し、白色固体として、下式(E)で示されるスクシンイミド誘導体(PSt Mn=5800) 0.184gを得た。
【0045】
【化8】

【0046】
(7)ナスフラスコに、上で得た式(E)で示されるスクシンイミド誘導体 0.100g(17.2μmol)および実施例2で得たNH−PEO(750) 0.050g(66.7μm)、THF 2mlおよびトリエチルアミン 10μL入れ、室温で1日撹拌した。これをメタノール溶液で再沈澱後、真空乾燥し、白色固体として光分解性高分子化合物(Pst Mn=5,800,PEO Mn=750)0.090gを得た。
【0047】
実 施 例 4
光分解性高分子化合物(0−体;Pst Mn34,000,PEO Mn=
5000)の合成:
(1)室温、窒素雰囲気下において、ナスフラスコに4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−5−ニトロフェノ−ル 0.035g(165μmol)、DMF 10ml、炭酸カリウム 0.060g(380μmol)および式(A)で示される末端が臭素で修飾したポリスチレン(Mn=34000) 1.04g(30.6μmol)を入れ、一晩撹拌した。これをメタノール中にて再沈澱し、淡黄色固体として式(D)で示される4−(1−ヒドロキシエチル)−2−メトキシ−5−ニトロフェノールとポリスチレンの縮合物 0.98gを得た。
【0048】
(2)窒素雰囲気下、上記の縮合物 0.968g(28.5μmol)、DMF 10ml、炭酸N,N'−ジスクシンイミジル 0.100g(390μmol)およびトリエチルアミン 0.2mlをナスフラスコに入れ、一晩撹拌した。これをメタノール中にて再沈澱し、白色固体として、式(E)で示されるスクシンイミド誘導体(PSt Mn=34000) 0.885gを得た。
【0049】
(3)氷浴上、窒素雰囲気下において、ナスフラスコに60%水素化ナトリウム 0.225g(5.65mmol)およびTHF 60mlを入れ、10分間加熱後、ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEO;Mn=5000) 25.0g(5.0mmol)を入れ、さらに10分間撹拌し、その後室温にて1時間撹拌した。これに氷浴上でp−トルエンスルホニルクロライド 1.08g(5.65mmol)を加え、10分間撹拌した後、室温にて一晩撹拌した。これに水、2N塩酸 20mlを加え、クロロホルムで抽出後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。これをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)に付し、淡黄色粘体としてPEOの末端水酸基がトシル基で修飾されたTs末端PEO 23.25gを得た。
【0050】
(4)窒素雰囲気下、ナスフラスコに、上記Ts末端PEO 18.34g(3.56mmol)、DMF 80mlおよびフタルイミドカリウム 1.50g(8.10mmol)を入れ、150℃にて8時間環流した。これに水 100mlおよび2N塩酸 50mlを加え、クロロホルムで抽出後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。これをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)に付し、淡黄色粘体としてPEOの末端水酸基がフタルイミドに置換されたフタルイミド末端PEO 14.36gを得た。
【0051】
(5)ナスフラスコに、フタルイミド末端PEO 13.25g(2.58mmol)、2−プロパノール 30mlおよびヒドラジン−水和物 6ml(120mmol)を入れ、80℃にて一晩撹拌した。反応終了後、水 75mlおよび2N塩酸 15mlを加え、クロロホルムで抽出後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過、濃縮により淡黄色粘体として1−アミノポリエチレングリコールメチルエーテル(NH−PEO(5000))9.42gを得た。
【0052】
(6)ナスフラスコに、上記(2)で得られた式(E)で示されるスクシンイミド誘導体 0.400g(11.8μmol)、上で得たNH−PEO(5000) 0.40g(80.0μm)、THF 2mlおよびトリエチルアミン 5μLを入れ、室温で1日撹拌した。これをメタノール溶液で再沈澱後、真空乾燥し、白色固体として光分解性高分子化合物(Pst Mn34,000,PEO Mn=5000) 9.42gを得た。
【0053】
試 験 例
光分解性試験:
各実施例で得た光分解性高分子化合物について、下記のUVスペクトルおよびNMRスペクトルを用いた試験によりその光分解性を調べた。
【0054】
( UVスペクトル試験 )
各光分解性高分子化合物を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解し、0.2mmol/l溶液を調製した。これらの溶液を二面石英セルに入れ、超高圧水銀灯(ウシオ製 USH-102D)およびハロゲンランプにより、それぞれ500Wの強度により、光照射を行った。所定時間ごとにUV測定し(日本分光製 UV/VIS Spectrometer V-560)、スペクトル変化を確認した。
【0055】
( NMRスペクトル試験 )
各光分解性高分子化合物に、320nm以上の光を5分間照射後、メタノールに再沈殿させた。生成した固体とメタノール溶液を濃縮したもの(メタノール可溶部)についてNMRを測定した(測定機器 JEOL EX400 FT NMR Spectrometer、溶媒 重クロロホルム)。
【0056】
この結果、UVスペクトルでは、各実施例で得られた全ての光分解性高分子化合物について、300nm付近にNO(芳香族ニトロ基)に起因する吸収が時間の経過と共に現れ、5〜20分程度で最大となったことから、何れも分解していることが確認された。また、実施例1で得た光分解性高分子化合物のNMRスペクトルでは、メタノール可溶部のスペクトルでウレタン結合のNH由来のシグナルが消失した。更に、実施例2〜4で得た光分解性高分子化合物では、メタノール不溶部として得られたPSt部分のスペクトルで、δ=3.6付近のPEO由来のピークが消失し、新たにδ=2.8付近にアセトフェノンのメチル基由来のピークが出現した。更にまた、メタノール可溶部のスペクトルからは、PEO由来のピークが認められた。これらの結果から、上記光分解性高分子化合物の分解が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の光分解性高分子化合物は、通常の使用状態では安定であるが、UVで吸収のある光を照射することにより、容易に分解するものである。
【0058】
従って、本発明の光分解性高分子化合物でプラスチック製品を製造すれば、使用後に光を照射して分解させ、ポリマーフラグメントを再使用するなど、リサイクルに適した製品を提供することが可能になる。
【0059】
また、本発明の光分解性高分子化合物は、その架橋点の結合−切断を紫外線により自由にコントロールすることができるので、例えば、粘着剤・接着剤に応用した場合、紫外線照射によりその粘着力のコントロールができる。更に、紫外線照射によって共有結合を切断することができるので、架橋密度の大きいものを小さくすることが可能となり、剥離しやすい粘着剤・接着剤を設計することができる。
【0060】
更にまた、光分解により生成する官能基の種類により、粘着性が向上することも期待されるとともに、通常は重合が困難な1級アミンを直接高分子鎖に導入でき、金属とアミンの錯体形成により、金属への粘着力が大きく向上させることも可能となる。
【0061】
更には、本発明光分解性高分子化合物を用いてマイクロカプセルを製造し、これに包接された化合物を紫外線照射により放出させる、いわゆるドラッグデリバリーシステムに応用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の基(I)
【化1】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、シアノ基、ニトロ基、フェノキシ基、アリル基またはポリマー鎖を示し、Rは水素原子またはアルキル基を示し、Yは、酸素原子または炭素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子もしくはケイ素原子を含む結合基を、Yは、酸素原子、カルボニルオキシ基、カルボニルオキシアミノ基またはスルホニルオキシ基を示す)
で表される基を光分解性部位として含有する光分解性高分子化合物。
【請求項2】
光分解性部位が、主鎖に組み込まれたものである請求項第1項記載の光分解性高分子化合物。
【請求項3】
主鎖がブロック重合またはランダム重合で得られたコポリマーである請求項2記載の光分解性高分子化合物。
【請求項4】
光分解により分解された高分子化合物の断片にカルボキシル基、水酸基、アミノ基またはスルホニル基が形成されるものである請求項第1項ないし第3項のいずれかの項記載の光分解性高分子化合物。


【公開番号】特開2006−233137(P2006−233137A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53440(P2005−53440)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻2号」に発表
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】