説明

光変調器及び光変調方法

【課題】構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の光変調器及び光変調方法を提供する。
【解決手段】入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、入射された信号光を分岐させる光分岐手段と、前記光分岐手段の出力側に接続され、前記電気信号に応じて信号光の位相を変調する少なくとも2つの位相変調手段と、分岐された信号光を合流させる光合流手段と、少なくとも2つの前記位相変調手段の全て、又は少なくとも2つの前記位相変調手段の内の1つを除いた残りの前記位相変調手段に接続され、少なくとも2つの前記位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度がそれぞれ異なるように調整する強度調整手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を光信号に変換して送信する光変調器及び光変調方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
WDM光通信システムの大容量化を実現するには、1波長あたりの伝送レートを上げることが有用である。ここで、変調方式を変えることなく光伝送路に送出するシンボルレートを上げた場合には、許容残留分散量がシンボルレートの2乗に反比例するので、光伝送路の波長分散耐力が低下するという問題点があった。また、電気信号処理を高速に実行することが必要となり、アナログ電気部品のコストが増加するという問題点もあった。
【0003】
そのため、近年では、シンボルレートを上げることなく、1シンボルあたりの信号多重度を上げることで、システムの大容量化を実現するための研究が盛んに行われている。
そして、信号多重度を上げる方式として、例えば、1シンボルに2値(多重度2)を割り当てることで伝送容量を2倍にするQPSK方式や、1シンボルに4値(多重度4)を割り当てることで伝送容量を4倍にする16QAM方式、16APSK方式等の多値変調方式が知られている。
【0004】
通常、これらの多値変調を実行する場合には、光変調器としてI/Q変調器が用いられる。I/Q変調器は別名直交変調器とも呼ばれ、直交する光電界成分(Iチャンネル、Qチャンネル)を独立して生成可能な変調器であり、マッハツェンダー(MZ:Mach−Zehnder)変調器を並列接続した特殊な構成をとるものである。
【0005】
例えば、QPSK変調を実行する場合には、MZ変調器を2個並列に接続したDual Parallel MZ変調器(DPMZM:Dual Parallel Mach−Zehnder Modulator)が用いられる(例えば、下記特許文献1参照)。
また、16QAM変調を実行する場合には、DPMZMを電気多値信号で駆動する方式が用いられる(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0006】
ここで、図を用いて従来のDPMZMの動作について説明する。
図9は、従来のDPMZMの構成を示した模式図である。
なお、図9中において、901は入力導波路、902は光分岐回路、903a,903bは接続導波路、904a,904bは光分岐回路、905a〜905dは位相変調器、906a,906bは光合流回路、907a,907bは位相調整領域、908は光合流回路、909は出力導波路をそれぞれ示している。また、図9中において、破線で囲まれた構造910a,910bはそれぞれマッハツェンダー変調器を示している。
【0007】
図9に示す構成は2つのマッハツェンダー変調器910a,910bが並列に配置され、さらに、マッハツェンダー変調器910a,910bをアームの一部に組み込んだ、いわゆる親マッハツェンダー干渉計が形成されており、Dual Parallel MZ Modulator(DPMZM)と呼ばれている。
【0008】
信号光は、まず入力導波路901から入射し、光分岐回路902により分岐比1:1で2分岐され接続導波路903a及び接続導波路903bを介してマッハツェンダー変調器910a及びマッハツェンダー変調器910bに導かれる。マッハツェンダー変調器910aは、分岐比が1:1の対称な分配比を有する第2の光分岐回路904a、位相変調器905a,905b、光合流回路906aから構成されている。
【0009】
光合流回路906aの光合流比率は、位相変調器905a及び位相変調器905bから入射した光の強度の比がそのまま出力強度の比となるように、すなわち、位相変調器905a及び位相変調器905bから入射した信号光強度が等しい場合には、等しい強度比で合流回路から出力されるような特性を有している。以下、このような特性を「1:1の合流比」と呼ぶこととする。
【0010】
マッハツェンダー変調器910bは、分岐比が1:1の光分岐回路904b、位相変調器905c,905d、合流比が1:1の光合流回路906bから構成されている。マッハツェンダー変調器910a,910bは、それぞれがプッシュプル駆動されている。
【0011】
マッハツェンダー変調器910a,910bで変調された信号光は位相調整領域907a,907bに入射し、位相関係を調整された後、光合流回路908で合流され、出力導波路909から出力される。光合流回路908としては、通常は光合流比が1:1の光合流回路が用いられる。この際の位相調整領域907a,907bでは、光合流回路908で合流された際の両信号光の位相差がπ/2となるように位相が相対的に調整される。
【0012】
光多値変調の例として、はじめに、4値のQPSK変調を例にコンスタレーション(constellation)を説明する。
図10は、光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。なお、図10(a)はプッシュプル駆動のマッハツェンダー変調器910aにより変調された光電界の軌跡を、図10(b)はDPMZMのコンスタレーションをそれぞれ示している。
【0013】
マッハツェンダー変調器910aでは、位相変調器905a,905bが差動信号により駆動されている。位相変調器の場合、信号光は、強度が一定で位相角が印加電圧に応じて変化する。QPSK信号の場合を考えると、駆動電気信号は、振幅が半波長電圧Vπの2値信号となる。
【0014】
そのため、位相変調器905aから出射される信号光の電界は、図10(a)の半円の上半分をトレースする形でI0点とI1点の間を電気信号に応じて往復する。一方、位相変調器905bについて考えると、マッハツェンダー変調器910aはプッシュプル駆動されるため、位相変調器905bは位相変調器905aの差動信号で駆動されることになる。
【0015】
したがって、位相変調器905bから出射される信号光の電界は、図10(a)の半円の下半分をトレースする形でI0点とI1点の間を電気信号に応じて往復する。そこで、光合流回路906aから出力される信号光の電界は、位相変調器905a,905bからの出力の合成となるため、図10(a)において原点0を通り直線状にI0点とI1点の間を電気信号に応じて往復する形となる。
【0016】
マッハツェンダー変調器910bについても同様に差動信号によりプッシュプル駆動されるため、出力信号のトレースは原点を通る直線となる。2つのマッハツェンダー変調器910a及びマッハツェンダー変調器910bから出力された信号光は、位相調整領域907a,907bにおいて、互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整され、光合流回路908により足し合わされる。
【0017】
したがって、マッハツェンダー変調器910aから出力された信号光の電界のトレースと、マッハツェンダー変調器910bから出力された信号光の電界のトレースは、直交する形で足し合わされることになり、出力導波路909から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは図10(b)に示されるような互いに90度ずつ角度の異なる4つの点となる。これが4値変調であるQPSKのコンスタレーションである。なお、互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整されて光合流回路908により足し合わされる際には、原理損失3dBが発生する。
【0018】
次に、16値の変調について説明する。
DPMZMを用いて16値変調を行う場合、駆動電気信号は最大振幅が半波長電圧Vπの4値信号となる。このとき、位相変調器905aから出射される信号光の電界は、位相角0からπの間を3分割する形になるため図10(c)の半円の上半分をトレースする形でa,b,c,d点の間を電気信号に応じて往復する。位相変調器105bについても上述したQPSKの議論と同様に図10(c)の半円の下半分をトレースする。
【0019】
光合流回路906aから出力される信号光の電界は、図10(c)において原点0を通り直線状にI0,I1,I2,I3点の間を電気信号に応じて直線状にトレースする形となる。ここで、I0,I1,I2,I3各点の間隔を一定間隔にするためには、位相角の間隔、すなわち、∠a0b,∠b0c,∠c0dが一定ではない点に注意を要する。すなわち、4値駆動電気信号は、不等間隔の4値であることが要求される。
【0020】
マッハツェンダー変調器910bについても同様に差動信号によりプッシュプル駆動されるため、出力信号のトレースは4点の間を通直線状にトレースする形となる。2つのマッハツェンダー変調器910a及びマッハツェンダー変調器910bから出力された信号光は、位相調整領域907a,907bにおいて互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整され、光合流回路908により足し合わされる。
【0021】
このため、マッハツェンダー変調器910aから出力された信号光の電界のトレースと、マッハツェンダー変調器910bから出力された信号光の電界のトレースは、直交する形で足し合わされることとなり、出力導波路909から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは図10(d)に示されるような互いに直交する格子状に配置された16個の点となる。これが16値変調である16QAMのコンスタレーションである。なお、この場合も互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整されて光合流回路908により足し合わされる際には、原理損失3dBが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特表2004−516743号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Lutz Molle、外4名、“Polarization Multiplexed 20 Gbaud Square 16QAM Long−Haul Transmission over 1120 km using EDFA Amplification”、ECOC2009、2009年、p.Paper8.8.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、上述した従来のDPMZM変調器を用いる場合、MZ変調器の数が増えることにより、コストが増加するとともに、バイアス制御箇所が増加するという問題点があった。
また、多値電気信号の多値の間隔を不等間隔に設定しなければならず、分解能の高いデジタル−アナログコンバータ(DAC)を使用しなくてはならないため、コストが上昇するという問題があった。
さらに、2つのマッハツェンダー変調器の位相を直交させて合流させるDPMZM構成に起因する、原理損失3dBが発生するという問題もあった。
【0025】
以上のことから、本発明は、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の光変調器及び光変調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る光変調器は、
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射された信号光を分岐させる光分岐手段と、
前記光分岐手段の出力側に接続され、前記電気信号に応じて信号光の位相を変調する少なくとも2つの位相変調手段と、
分岐された信号光を合流させる光合流手段と、
少なくとも2つの前記位相変調手段の全て、又は少なくとも2つの前記位相変調手段の内の1つを除いた残りの前記位相変調手段に接続され、少なくとも2つの前記位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度がそれぞれ異なるように調整する強度調整手段と
を備える
ことを特徴とする。
【0027】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る光変調器は、
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射された信号光を分岐させる光分岐手段と、
分岐された信号光を合流させる光合流手段と、
前記光分岐手段と光合流手段とを結びマッハツェンダー干渉計を構成する少なくとも2本の導波手段と、
少なくとも2本の前記導波手段における前記光分岐手段の出力側にそれぞれ配置される少なくとも2つの位相変調手段と、
少なくとも2本の前記導波手段の全て、又は少なくとも2本の前記導波手段の内の1つを除いた残りの前記導波手段に配置され、少なくとも2つの前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度を経路に応じて1/4倍ずつ異なるように調整する強度調整手段と
を備える
ことを特徴とする。
【0028】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る光変調器は、第1の発明又は第2の発明に係る光変調器において、
少なくとも2つの前記位相変調手段の全て、又は少なくとも2つの前記位相変調手段の内の1つを除いた残りの前記位相変調手段に、伝搬する信号光の位相を調整する位相調整手段が接続される
ことを特徴とする。
【0029】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る光変調器は、第1の発明から第3の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
少なくとも2つの前記位相変調手段の全て、又は少なくとも2つの前記位相変調手段の内の1つを除いた残りの前記位相変調手段に、少なくとも2つの前記位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の位相差を0度又は90度の整数倍となるように伝搬する信号光の位相を調整する位相差調整手段が接続される
ことを特徴とする。
【0030】
上記の課題を解決するための第5の発明に係る光変調器は、第1の発明から第4の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記光強度調整手段として、伝搬する信号光を吸収する吸収手段又は伝搬する信号光を増幅する増幅手段が接続される
ことを特徴とする。
【0031】
上記の課題を解決するための第6の発明に係る光変調器は、第1の発明から第5の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記光強度調整手段として、伝搬する信号光を分岐するための第2の光分岐手段が接続される
ことを特徴とする。
【0032】
上記の課題を解決するための第7の発明に係る光変調器は、第1の発明から第6の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記光強度調整手段として、マッハツェンダー干渉計が接続される
ことを特徴とする。
【0033】
上記の課題を解決するための第8の発明に係る光変調器は、第1の発明から第7の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記光分岐手段は、多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする。
【0034】
上記の課題を解決するための第9の発明に係る光変調器は、第1の発明から第8の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記光合流手段は、多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする。
【0035】
上記の課題を解決するための第10の発明に係る光変調方法は、
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調方法であって、
入射された信号光の伝搬方向に対し並列に設置され、前記電気信号に応じて信号光の位相を変調する少なくとも2つの位相変調器に対し、
少なくとも2つの前記位相変調器のそれぞれの最大振幅が半波長電圧の1.5倍となる独立した4値の電気信号で駆動し、
かつ、少なくとも2つの前記位相変調器からの出力光を、それぞれの強度関係は1/4倍ずつ異なるように、また、それぞれの位相関係は位相差が0度又は90度の整数倍となるように合流させる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の光変調器及び光変調方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る強度調整手段の構成例を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【図6】本発明の第3の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図7】本発明の第4の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図8】本発明の第4の実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【図9】従来のDPMZMの構成を示した模式図である。
【図10】従来の光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る光変調器及び光変調方法を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の第1の実施例に係る光変調器及び光変調方法について説明する。
本実施例に係る光変調器及び光変調方法は、位相変調器を2個並列に接続したMZ変調器をベースに多値変調を実現するものである。
【0040】
図1は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図1中において、101は入力導波路、102は光分岐回路、103a,103bは接続導波路、104a,104bは位相変調器、105a,105bは光強度調整手段である電界吸収領域、106a,106bは接続導波路、107は光合流回路、108は出力導波路をそれぞれ示している。
【0041】
信号光は、まず入力導波路101から入射し、光分岐回路102により2分岐され接続導波路103a及び接続導波路103bを介して位相変調器104a及び位相変調器104bに導かれる。位相変調器104a,104bは、それぞれが独立な電気信号により駆動される。そこで、ここでは差動信号によるプッシュプル駆動の変調器と区別して、デュアルドライブマッハツェンダー変調器(DDMZM:Dual Drive MZM)と呼ぶことにする。
【0042】
ここで、本実施例に係る光変調器のDDMZMの多値変調動作について説明する。
図2は、本実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
DDMZMを用いて16値の変調を行う場合、電気信号は、最大振幅が半波長電圧の1.5倍の4値の信号となる。
【0043】
いま、位相変調器104aが4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器104aから出射される信号光の電界は位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため、図2(a)の円周上をトレースする形で90度ずつ角度の異なるA,B,C,D点の間を電気信号に応じて往復する。
【0044】
ここで、図2(a)においては、IQ座標に対し45度傾いた位置、すなわちA点を基準点、すなわち位相角0に対応させた。本実施例においては、A,B,C,D各点の間隔を等間隔にするために必要な位相角の差分は全て90度一定であるため、必要な4値の電気信号の振幅の差分も等間隔となっている。
【0045】
位相変調器104bについても同様に、半波長電圧の1.5倍の4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器104bから出射される信号光の電界は位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため、図2(a)に示すような位相変調器104aからの出力と同様な電界の軌跡が得られる。
【0046】
位相変調器104a,104bから出力された信号光は、電界吸収領域105a,105bにより、光合流回路107において合流された後の電界振幅の差が3dB、すなわち、強度差が6dBとなるように強度調整される。
【0047】
いま、光合流回路107の光合流比が1:1の場合について考え、また、位相変調器104aから出力された信号光が位相変調器104bから出力された信号光よりも6dB大きな状態で出力される場合を考えると、電界吸収領域105aでは吸収が生じないように電圧を印加しない状態で、また、電界吸収領域105bでは吸収により光強度が6dB減少するように電圧を印加した状態で使用される。
【0048】
光強度調整手段である電界吸収領域105a,105bから出力された信号光は、接続導波路106a,106bを経て光合流回路107において合流され、出力導波路108から出力される。
【0049】
このとき、位相変調器104aから出力された信号光の電界のトレースと、位相変調器104bから出力された信号光の電界のトレースは、光強度調整手段である電界吸収領域105a,105bにおいて強度調整され、出力導波路108から出力される際に強度差6dBが生じる状態になるように足し合わされることになる。
【0050】
このため、出力導波路108から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは、図2(b)中に●で示すような、大きな円周上に配置された4つの点A,B,C,Dをそれぞれ中心として、大きな円の半分の半径を有する小さな円周上に4つの点が配置された16個の点となる。
【0051】
例えば、位相変調器104aから出力された信号光のコンスタレーションが図2(b)に示されるB点であるとした時、位相変調器104bから出力された信号光が足し合わされた場合の電界のトレースは、B点を中心とした小さな半径の円周上をa,b,c,dの間で往復する。これは電界のベクトルの足し算を考えると理解しやすい。
【0052】
ここで、小さな円の半径が大きな円の半径の1/2となる理由について簡単に説明する。
上述したように、位相変調器104aを経由した信号光と、位相変調器104bを経由した信号光は、その強度差が6dBとなるように強度調整され、光合流回路107で合流され、出力導波路108から出力される。図2に示したコンスタレーションの図は、光の電界のトレースを示した図であるため、光強度差6dBに対応する電界強度差3dB、すなわち、1/2が小さい円の半径となる。
【0053】
ここで、再びコンスタレーションの説明にもどると、図2(b)におけるA点、C点、D点についても上述したB点に関する議論と同様な議論が成り立つ。したがって、本実施例におけるコンスタレーションは、図2(b)のA,B,C,Dをそれぞれ中心として、大きな円の半分の半径を有する小さな円周上に4つの点が配置された16個の点となることが理解できる。
【0054】
本実施例におけるコンスタレーションを図10(d)に示した従来のコンスタレーションと比較すると、本実施例において従来の直交変調器を用いた場合と同様な16値変調である16QAMのコンスタレーションが得られていることがわかる。すなわち、本実施例係る光変調器の構成を用いることにより、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の光変調器を実現することが可能となる。
【0055】
本実施例においては、強度調整手段として、位相変調手段に接続された電界吸収領域を用いた場合について説明したが、複数の位相変調手段からの出力光の強度を相対的に異なるように設定できさえすれば、本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることが可能であるため、強度変調手段は電界吸収領域に限定されるものではなく、電流注入による光吸収を利用するものでも良く、また、光増幅器であってもよい。
【0056】
また、図3(a)に示すようなマッハツェンダー型の光アッテネータ回路が接続されていてもよい。図3中において、301は3dBカプラ、302は位相調整領域、303は3dBカプラを示している。
【0057】
図3(a)に示すように、位相調整領域302においてマッハツェンダー干渉計の両アームの位相関係を適宜調整し、3dBカプラ303から出力される光の強度を6dB減少させることにより、本実施例に係る光変調器により奏する効果を実現することが可能となる。
【0058】
さらに、強度調整手段としては、図3(b)及び図3(c)に示されるような、伝搬する信号光を分岐するための光分岐手段が接続されていても同様な効果を得ることができる。図3中において、304,305は3dBカプラ、306は4分岐の光分岐回路を示している。
【0059】
図3(b)に示すように、3dBカプラを2段接続した場合、出力光は1/4、すなわち、6dB減少するため本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることができる。
また、図3(c)に示すように、4分岐の光分岐回路を用いた場合も、出力光は1/4となり、6dB減少するため、本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることができる。
【0060】
なお、図3(b)における3dBカプラ、又は図3(c)における4分岐回路の構成については何ら制約を設けるものではなく、3dBカプラ又は4分岐という機能を有していれば、本実施例に係る光変調器により奏する効果が得られることは言うまでもない。
【0061】
さらに、本実施例においては、光合流回路107の光合流比が1:1の場合について説明してきたが、光合流比はこれに限定されるものでなく、光合流回路の出力においてそれぞれの位相変調器を経由した光信号の強度比が6dBとなるように、光合流比に応じて強度調整手段において強度調整が行われさえすれば、本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることができる。
【0062】
また、本実施例においては、全ての位相変調手段に強度調整手段が接続された場合について説明したが、位相変調手段からの出力のうち1つは強度調整を行わないで用いることが可能である。例えば、上述した説明では、位相変調器104aに接続された電界吸収領域105aでは吸収が生じないように電圧を印加しない状態で使用している。すなわち、電界吸収領域105aは原理上必要ではない。
【0063】
すなわち、原理上は、位相変調手段のうち1つに接続された強度調整手段は使用する必要はなく、位相変調手段のうち1つを除いた残りに強度調整手段が設けられていれば本実施例に係る光変調器の動作には十分である。
【0064】
しかし、本実施例で示したような、全ての位相変調手段にそれぞれ強度調整手段が接続された構成は、光回路の幾何学的な対称性が優れているため、マッハツェンダー干渉計の両アームに光路長差が生じにくく、波長特性に優れ、また、光回路を構成する各個別要素のレイアウトが容易で回路が配置しやすいという特徴がある。
【0065】
本実施例に係る光変調器において用いる光分岐回路102及び光合流回路107については、特にその構成を限定するものではなく、Y分岐回路、方向性結合器、ファネル型カプラ、多モード導波路の干渉効果を用いたMMIカプラ等、どのような構成のものを用いても同様な効果を得ることが可能である。
【0066】
なお、本実施例に係る光変調器の構成においても、用いるマッハツェンダー変調器の構造および材質に関しては、特に制約を設けるものではなく、LiNbO3に代表されるような誘電体材料、InP系、GaAs系に代表されるような化合物半導体材料、Si等の半導体材料、ポリマー系材料等、通常変調器として使用可能なすべての材料系について本実施例に係る光変調器の構成をとることにより、同様な効果を得ることができる。
【0067】
また、導波路構造に関しても、特に制約を設けるものではなく、埋め込み構造、リッジ構造、ハイメサ構造等を信号光が伝搬可能な導波構造であれば、本実施例に係る光変調器の構成をとることにより同様な効果を得ることができる。
【実施例2】
【0068】
以下、本発明の第2の実施例に係る光変調器及び光変調方法について説明する。
図4は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図4中において、401は入力導波路、402は光分岐回路、403a,403bは接続導波路、404a,404bは位相変調器、405a,405bは光強度調整手段である電界吸収領域、406a,406bは接続導波路、407は光合流回路、408は出力導波路、409a,409bは位相調整領域をそれぞれ示している。
【0069】
本実施例に係る光変調器の動作原理は、位相調整領域409a,409bの動作に関する点を除けば、図1に示した第1の実施例と同様であり、401〜408をそれぞれ101〜108と読み替えることによりその動作を説明することができる。
【0070】
すなわち、信号光は、まず入力導波路401から入射し、光分岐回路402により2分岐され接続導波路403a及び接続導波路403bを介して位相変調器404a及び位相変調器404bに導かれる。位相変調器404a,404bはそれぞれが独立な電気信号により駆動される。電気信号は、上述した通り、最大振幅が半波長電圧の1.5倍の4値の信号となる。
【0071】
いま、位相変調器404aが4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器404aから出射される信号光の電界は位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため、第1の実施例と同様に図2(a)の円周上をトレースする形で90度ずつ角度の異なるA,B,C,D点の間を電気信号に応じて往復する。
【0072】
本実施例に係る光変調器においても、A,B,C,D各点の間隔を等間隔にするために必要な位相角の差分は全て90度一定であるため、必要な4値の電気信号の振幅の差分も等間隔となっている。
【0073】
位相変調器404bについても、同様に、半波長電圧の1.5倍の4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器404bから出射される信号光の電界は位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため、位相変調器404aからの出力と同様な電界の軌跡が得られる。
【0074】
位相変調器404a,404bから出力された信号光は、電界吸収領域405a,405bにより、光合流回路407において合流された後の電界振幅の差が3dB、すなわち、強度差が6dBとなるように強度調整される。
【0075】
いま、光合流回路407の光合流比が1:1の場合について考え、また、位相変調器404aから出力された信号光が、位相変調器404bから出力された信号光よりも6dB大きな状態で出力される場合を考えると、電界吸収領域405aでは吸収が生じないように電圧を印加しない状態で、また、電界吸収領域405bでは吸収により光強度が6dB減少するように電圧を印加した状態で使用される。
【0076】
光強度調整手段である電界吸収領域405a,405bから出力された信号光は、接続導波路406a,406bを経て光合流回路407において合流され、出力導波路408から出力される。
【0077】
このとき、位相変調器404aから出力された信号光の電界のトレースと、位相変調器404bから出力された信号光の電界のトレースは、光強度調整手段である電界吸収領域405a,405bにおいて強度調整され、出力導波路408から出力される際に強度差6dBが生じる状態になるように足し合わされることになる。
【0078】
このため、出力導波路408から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは、図2(b)において●で示されるような、大きな円周上に配置された4つの点A,B,C,Dをそれぞれ中心として、大きな円の半分の半径を有する小さな円周上に4つの点が配置された16個の点となる。すなわち、本実施例に係る光変調器の構成を用いることにより、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の変調器を実現することが可能となる。
【0079】
ここで、位相調整領域409a,409bの働きについて説明する。
素子が理想的に作製されていれば第1の実施例において説明した構成で光多値変調用の変調器を実現することが可能である。しかしながら、実際に素子を作製した場合、接続導波路103a又は接続導波路103bから接続導波路106a又は接続導波路106bまででそれぞれ構成される、マッハツェンダー干渉計のアーム領域を構成する導波路のわずかな作製誤差が両アームの光路長差となり、位相変調器104aと位相変調器104bを経由したそれぞれの信号光が光合流回路107において足し合わされる際に位相差が発生してしまう可能性がある。
【0080】
本実施例に係る光変調器においては、マッハツェンダー干渉計のアームに位相調子領域409a,409bを設けることにより、この位相差を調整可能として素子の作製トレランス、歩留まりを向上することが可能となる。
【0081】
すなわち、位相調整領域がない場合は、位相変調器104a又は位相変調器404aを経由した信号光のコンスタレーションと位相変調器104b又は位相変調器404bを経由した信号光のコンスタレーションの相対的な位相角がずれてしまい、トータルなコンスタレーションマップが図5(a)に示すように16個の●が格子状に並ばずに、傾いてしまう可能性がある。
【0082】
そこで、図4に示した本実施例に係る光変調器においては、位相調整領域609aもしくは位相調整領域609bのどちらか、又は、位相調整領域609aと位相調整領域609bの両方により光合流回路607に入射する信号光の相対的な位相差を調整することにより、図5(b)に示したような格子状のコンスタレーションマップを実現することを可能としている。
【0083】
すなわち、本実施例係る光変調器の構成によれば、作製誤差等によりマッハツェンダー干渉計の複数のアーム間に相対的な光路長差又は位相差が生じてしまった場合であっても、安定して多値変調動作を行うことが可能となる。
【0084】
位相調整領域609a,609bにおける位相の調整法は、図5(b)に示したような、A点とa点がともに右下にくるような相対位相が一致するような位相の揃え方以外にも、図5(c)〜(e)に示したように、大きな円と小さな円の方向が90度、180度、270度それぞれ異なるような場合、すなわち、互いの相対位相差が90度の整数倍になるような場合であっても同様な16個の●は格子状にきれいに配置されており、同様な動作が可能であることが理解できる。
【0085】
位相調整領域409a及び位相調整領域409bの構造としては、特に制約を設けるものではない。位相変調器404a及び位相変調器404bと同様であっても構わない。また、位相が変化する構造であればどのような構造であっても本実施例に係る光変調器により奏する効果を実現することが可能である。位相調整手段としては、電流注入、ヒーターによる局部的な温度調整、電界印加、光照射等のいずれかの手段を用いることが可能である。
【0086】
本実施例においては、全ての位相変調手段である位相変調器に位相調整領域が接続された場合について説明したが、位相変調手段からの出力のうち1つは位相調整しないで用いることが可能である。
【0087】
例えば、強度調整手段405bを介して位相変調器404bに接続された位相調整領域409bでは、位相変化が生じない状態で使用し、強度調整手段405aを介して位相変調器404aに接続された位相調整領域409aにおいて、光合流手段407に入射する信号光の相対的な位相関係を調整することが可能である。すなわち、位相調整領域409bは原理上必要ではない。
【0088】
すなわち、原理上は、位相変調手段のうち1つを除いた残りに位相調整領域が設けられていれば本実施例に係る光変調器の動作には十分である。しかし、本実施例で示したような、全ての位相変調手段にそれぞれ位相調整領域が接続された構成は、光回路の幾何学的な対称性がすぐれているため、マッハツェンダー干渉計の両アームに光路長差が生じにくく、波長特性に優れ、また、光回路を構成する各個別要素のレイアウトが容易で回路が配置しやすいという特徴があることも指摘しておく。
【0089】
本実施例においては、強度調整手段として、位相変調手段に接続された電界吸収領域を用いた場合について説明したが、強度調整手段に関しては図1に示した第1の実施例と全く同様な議論が成り立つ。
【0090】
すなわち、複数の位相変調手段からの出力光の強度を相対的に異なるように設定できさえすれば、本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることが可能であるため、強度変調手段は電界吸収領域に限定されるものではなく、電流注入による光吸収を利用するものでも良く、また、光増幅器であってもよい。また、図3(a)に示されるようなマッハツェンダー型の光アッテネータ回路が接続されていてもよい。
【0091】
さらに、強度調整手段としては、図3(b)及び図3(c)に示されるような、伝搬する信号光を分岐するための光分岐手段が接続されていても同様な効果を得ることができる。図3中において、304,305は3dBカプラ、306は4分岐の光分岐回路を示している。
【0092】
図3(b)に示すように、3dBカプラを2段接続した場合、出力光は1/4、すなわち、6dB減少するため本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることができる。
また、図3(c)に示すように、4分岐の光分岐回路を用いた場合も、出力光は1/4となり、6dB減少するため、本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることができる。
【0093】
なお、図3(b)における3dBカプラ、又は図3(c)における4分岐回路の構成については何ら制約を設けるものではなく、3dBカプラ又は4分岐という機能を有していれば、本実施例に係る光変調器により奏する効果が得られることは言うまでもない。
【0094】
さらに、本実施例においては、光合流回路107の光合流比が1:1の場合について説明してきたが、光合流比はこれに限定されるものでなく、光合流回路の出力においてそれぞれの位相変調器を経由した光信号の強度比が6dBとなるように、光合流比に応じて強度調整手段において強度調整が行われさえすれば、本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることができる。
【0095】
また、本実施例においては、全ての位相変調手段に強度調整手段が接続された場合について説明したが、図1に示した第1の実施例と同様に、位相変調手段からの出力のうち1つは強度調整をしないで用いることが可能である。例えば、上述したように位相変調器404aに接続された電界吸収領域405aでは吸収が生じないように電圧を印加しない状態で使用している。すなわち、電界吸収領域405aは原理上必要ではない。
【0096】
すなわち、原理上は、位相変調手段のうち1つに接続された強度調整手段は使用する必要はなく、位相変調手段のうち1つを除いた残りに強度調整手段が設けられていれば本実施例に係る光変調器の動作には十分である。
【0097】
さらに、本実施例において、信号光の伝搬方向に対し、位相変調手段、強度調整手段、位相調整領域の順で配置された構成について説明してきたが、配置順はこれに限定されるものではなく、順序が入れ替わっても差し支えなく、全く同様な動作が実現可能である。また、その順序は、マッハツェンダー干渉計を構成するアーム全てについて同一の順序である必要もなく、それぞれが異なった順序で配置されていても構わない。
【0098】
本実施例に係る光変調器で用いる光分岐回路402及び光合流回路407についても、第1の実施例の場合と同様に、特にその構成を限定するものではなく、Y分岐回路、方向性結合器、ファネル型カプラ、多モード導波路の干渉効果を用いたMMIカプラ等、どのような構成のものを用いても同様な効果を得ることが可能である。
【0099】
なお、本実施例に係る光変調器の構成においても、用いるマッハツェンダー変調器の構造および材質に関しては、特に制約を設けるものではなく、LiNbO3に代表されるような誘電体材料、InP系、GaAs系に代表されるような化合物半導体材料、Si等の半導体材料、ポリマー系材料等、通常変調器として使用可能なすべての材料系について本実施例に係る光変調器の構成をとることにより、同様な効果を得ることができる。
【0100】
また、導波路構造に関しても、特に制約を設けるものではなく、埋め込み構造、リッジ構造、ハイメサ構造等を信号光が伝搬可能な導波構造であれば本実施例に係る光変調器の構成をとることにより、同様な効果を得ることができる。
【実施例3】
【0101】
以下、本発明の第3の実施例に係る光変調器及び光変調方法について説明する。
図6は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図6中において、601は入力導波路、602は光分岐回路、603a,603bは接続導波路、604a,604bは位相変調器、605は光強度調整手段である電界吸収領域、606a,606bは接続導波路、607は光合流回路、608は出力導波路、609は位相調整手段である位相調整領域をそれぞれ示している。
【0102】
本実施例は図4に示した第2の実施例の構成から強度調整手段405aと位相調整領域409bを取り除いたものである。これは、第2の実施例において説明したように、原理上必要でない強度調整手段と位相調整領域を1つずつ取り除いたものであるため、本実施例に係る光変調器の動作原理は、図4に示した第2の実施例と全く同様であることが容易に理解できる。
【0103】
本実施例に係る光変調器は、位相変調手段のうち1つを除いた残りに強度調整手段が設けられており、また位相変調手段のうち1つを除いた残りに位相調整手段が設けられているもので、図6では位相変調手段604aを経由した信号光が位相調整手段609を、位相変調手段604bを経由した信号光が強度調整手段605を通過するように、強度調整手段と位相調整領域を、マッハツェンダー干渉計の異なるアームにそれぞれ配置した構成をしているが、マッハツェンダー干渉計の片側のアームのみに強度調整手段と位相調整領域が配置されていても問題ない。
【0104】
すなわち、位相変調手段604bを経由した信号光が強度調整手段605及び位相調整領域609を通過した後に光合流回路607に入射し、位相変調手段604aを通過した信号光が直接光合流回路607に入射するように配置されていても差し支えない。
【0105】
マッハツェンダー干渉計を構成するアームを伝搬する信号光の相対的な強度関係と位相関係を制御し、光合流回路の出力において所望の強度関係、位相関係が実現可能であれば強度調整手段と位相調整手段の配置の仕方についてはどのような配置を用いても差し支えない。
【実施例4】
【0106】
以下、本発明の第4の実施例に係る光変調器及び光変調方法について説明する。
図7は、本発明の第4の実施例を示した図である。
図7中において、701は入力導波路、702は光分岐回路、703a,703b,703cは接続導波路、704a,704b,704cは位相変調器、705a,705b,705cは光強度調整手段である電界吸収領域、706a,706b,706cは接続導波路、707は光合流回路、708は出力導波路、709a,709b,709cは位相変調手段である位相調整領域をそれぞれ示している。すなわち、図7においては、図4に示した第2の実施例においてマッハツェンダー干渉計のアームの数、又は位相変調手段の数が3の場合を示している。
【0107】
本実施例に係る光変調器の動作原理は、マッハツェンダー干渉計のアーム及びアーム上に配置されている位相変調手段である位相変調器、強度調整手段である電界吸収領域、位相調整領域が、アーム1本分、すなわち、各1つずつ多い点を除けば、図4に示した第2の実施例と同様であり、図4における401〜409をそれぞれ701〜709と読み替えることにより、本実施例に係る光変調器の動作を理解することが可能である。
【0108】
すなわち、上述した第2の実施例と同様に、最大振幅が半波長電圧Vπの1.5倍になる4値の信号で駆動した場合の動作を考えると、入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703a、位相変調器704a、電界吸収領域705a、位相調整領域709a、接続導波路706a、光合流回路707、出力導波路708を経由する第1の経路で出力される信号光のコンスタレーションは、図4に示した第2の実施例と同様な原理により図8(a)に示したような半径r1の大きな円周上に等間隔に配置された○のようになる。
【0109】
また、入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703b、位相変調器704b、電界吸収領域705b、位相調整領域709b、接続導波路706b、光合流回路707、出力導波路708を経由する第2の経路で出力される信号光のコンスタレーションが、上述した第1の経路で出力されるコンスタレーションを配置する半径r1の円の1/2の半径r2を有する小さな円周上に配置された等間隔のコンスタレーションとなる。
【0110】
このため、第1の経路を経由した信号光と第2の経路を経由した信号光の位相差が0度、90度、180度、270度のいずれか、すなわち、互いの相対位相差が90度の整数倍になるように位相調整手段709a又は位相調整手段709bにおいて調整し、両者を足し合わすことにより合成された信号光のコンスタレーションは、図8(b)において◎で示されるような、○を中心とした半径r2の円周上に配置された16個の点となることは図4に示した第2の実施例と同様である。
【0111】
本実施例に係る光変調器においては、さらに、入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703c、位相変調器704c、電界吸収領域705c、位相調整領域709c、接続導波路706c、光合流回路707、出力導波路708を経由する第3の経路で出力される信号光が足し合わされる。
【0112】
接続導波路703c、位相変調器704c、電界吸収領域705c、位相調整領域709c、接続導波路706cの働きは接続導波路703a、位相変調器704a、電界吸収領域705a、位相調整領域709a、接続導波路706a、及び、接続導波路703b、位相変調器704b、電界吸収領域705b、位相調整領域709b、接続導波路706bと同様であるため、第3の経路を経由した信号光のコンスタレーションも、或る半径r3なる円周上に等間隔に配置された4つの点となることは容易に理解できる。
【0113】
ここで、半径r3がr2の1/2(電界が1/2なので強度は1/4)、したがって、r1の1/4(電界が1/4なので強度は1/16)となるように、強度調整手段である電界吸収領域705cにおいて強度調整されており、さらに、位相調整領域709cにおいて第1の経路を経由した信号光と第3の経路を経由した信号光の位相差が0度、90度、180度、270度のいずれか、すなわち、互いの相対位相差が90度の整数倍となるように調整する。
【0114】
これにより、3つの経路をそれぞれ経由した信号光の合成された信号光のコンスタレーションは、図8(c)において●で示されるような、原点を中心とした半径r1の円周上に配置された4つの点○をそれぞれ中心とした、半径r2の円周上に配置された16個の点◎をそれぞれ中心とした、半径r3の円周上に配置された64個の点で示されることが理解できる。
【0115】
ここで、第1の経路を経由した信号光と、第3の経路を経由した信号光の位相差が、90度の整数倍となるように調整することにより、自動的に第2の経路を経由した信号光と第3の経路を経由した信号光の位相差も90度の整数倍となっていることは言うまでもない。したがって、第3の経路を経由した信号光の相対位相差の調整は、第1の経路又は第2の経路を経由した信号光のどちらかに対して行えばよいことになる。
【0116】
図8(c)に示したコンスタレーションは、64個の点が等間隔で格子状に配置された64QAMのコンスタレーションであり、本実施例に係る光変調器の構成により64QAM変調が可能であることがわかる。
【0117】
本実施例においては、マッハツェンダー干渉計のアーム数が3本で、信号光の経路が3の場合について説明してきたが、アーム数がさらに増えても同様な議論が成り立ち、同様な動作が可能である。
【0118】
アーム数がn(n≧2)の場合について一般化すると、k番目(2≦k≦n)の経路を経由した信号光の強度が(k−1)番目の経路を経由した信号光の1/4の強度(電界で1/2)となるように強度調整手段で強度を調整し、k番目の経路を経由した信号光の位相が他の経路を経由した信号光に対し90度の整数倍となるように位相調整領域において位相調整することにより、4n値の多値変調である4nQAM変調を実現することが可能である。
【0119】
すなわち、本実施例に係る光変調器の構成を用いることにより、アーム数がn(n≧2)のマッハツェンダー干渉計のアームに任意の順で番号をふったとき、各アームにそれぞれ配置された位相変調手段である位相変調器を、最大振幅が半波長電圧の1.5倍となるような4値の駆動信号でそれぞれ駆動し、i番目(1≦i≦n)の経路を経由した信号光の強度が1番目のアームを経由した信号光強度の4i-1となるように強度調整し、また、i番目の経路を経由した信号光の位相が他の経路を経由した信号光に対し90度の整数倍となるように、位相調整領域において位相調整することにより4n値の多値変調である4nQAM変調が実現可能である。
【0120】
本実施例においては、全ての位相変調手段である位相変調器に強度調整手段が接続された場合について説明したが、上述した第2の実施例と同様に、位相変調手段からの出力のうち、1つは強度調整しないで用いることが可能である。すなわち、原理上は、位相変調手段を経由する信号光の経路のうち1つを除いた残りに強度調整手段が設けられていれば、本実施例に係る光変調器の動作には十分である。
【0121】
また、位相調整領域についても同様に、原理上は、位相変調手段を経由する信号光の経路のうち、1つを除いた残りに位相調整領域が設けられていれば、本実施例に係る光変調器の動作には十分である。
【0122】
しかし、本実施例において示したような、全ての位相変調手段にそれぞれ強度調整手段及び位相調整領域が接続された構成は、光回路の幾何学的な対称性が優れているため、マッハツェンダー干渉計の両アームに光路長差が生じにくく、波長特性に優れ、また光回路を構成する各個別要素のレイアウトが容易で回路が配置しやすいという特徴がある。
【0123】
本実施例においては、強度調整手段として、位相変調手段に接続された電界吸収領域を用いた場合について説明したが、複数の位相変調手段からの出力光の強度を相対的に異なるように設定できさえすれば、本実施例に係る光変調器により奏する効果を得ることが可能であるため、強度変調手段は電界吸収領域に限定されるものではなく、電流注入による光吸収を利用するものでも良く、また、光増幅器であってもよい。また、マッハツェンダー型の光アッテネータ回路が接続されていてもよい。
【0124】
本実施例に係る光変調器において用いる光分岐回路702については、特にその分岐数を限定するものではなく、必ずしも1入力n出力(n>2)である必要もない。例えば、1入力2出力の光分岐回路を用いた場合でも、必要な分岐数が得られるまで光分岐回路を多段に接続すればよい。例えば、図3(b)に示すように2つの1入力2出力光分岐回路を直列に接続し、3本の出力導波路を利用すれば、1入力3出力の分岐回路とみなすことができる。また、光合流回路707についても同様である。
【0125】
本実施例に係る光変調器において用いる光分岐回路702又は光合流回路707については、特にその構成を限定するものではなく、Y分岐回路、方向性結合器、ファネル型カプラ、多モード導波路の干渉効果を用いたMMIカプラ等、どのような構成のものを用いても同様な効果を得ることが可能である。
【0126】
なお、本実施例に係る光変調器の構成において用いるマッハツェンダー変調器の構造や材質に関しては、特に制約を設けるものではなく、LiNbO3に代表されるような誘電体材料、InP系、GaAs系に代表されるような化合物半導体材料、Si等の半導体材料、ポリマー系材料等、通常変調器として使用可能なすべての材料系について本実施例に係る光変調器の構成をとることにより、同様な効果を得ることができる。
【0127】
また、導波路構造に関しても、特に制約を設けるものではなく、埋め込み構造、リッジ構造、ハイメサ構造等を信号光が伝搬可能な導波構造であれば本実施例に係る光変調器の構成をとることにより、同様な効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、例えば、電気信号を光信号に変換して送信する光変調器及び光変調方法に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0129】
101 入力導波路
102 光分岐回路
103a,103b 接続導波路
104a,104b 位相変調器
105a,105b 電界吸収領域
106a,106b 接続導波路
107 光合流回路
108 出力導波路
301,303,304,305 3dBカプラ
302 位相調整領域
306 4分岐の光分岐回路
401 入力導波路
402 光分岐回路
403a,403b 接続導波路
404a,404b 位相変調器
405a,405b 電界吸収領域
406a,406b 接続導波路
407 光合流回路
408 出力導波路
409a,409b 位相調整領域
601 入力導波路
602 光分岐回路
603a,603b 接続導波路
604a,604b 位相変調器
605 電界吸収領域
606a,606b 接続導波路
607 光合流回路
608 出力導波路
609 位相調整領域
701 入力導波路
702 光分岐回路
703a,703b,703c 接続導波路
704a,704b,704c 位相変調器
705a,705b,705c 電界吸収領域
706a,706b,706c 接続導波路
707 光合流回路
708 出力導波路
709a,709b,709c 位相調整領域
901 入力導波路
902 光分岐回路
903a,903b 接続導波路
904a,b 光分岐回路
905a,905b,905c,905d 位相変調器
906a,906b 光合流回路
907a,907b 位相調整領域
908 光合流回路
909 出力導波路
910a,910b マッハツェンダー変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射された信号光を分岐させる光分岐手段と、
前記光分岐手段の出力側に接続され、前記電気信号に応じて信号光の位相を変調する少なくとも2つの位相変調手段と、
分岐された信号光を合流させる光合流手段と、
少なくとも2つの前記位相変調手段の全て、又は少なくとも2つの前記位相変調手段の内の1つを除いた残りの前記位相変調手段に接続され、少なくとも2つの前記位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度がそれぞれ異なるように調整する強度調整手段と
を備える
ことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射された信号光を分岐させる光分岐手段と、
分岐された信号光を合流させる光合流手段と、
前記光分岐手段と光合流手段とを結びマッハツェンダー干渉計を構成する少なくとも2本の導波手段と、
少なくとも2本の前記導波手段における前記光分岐手段の出力側にそれぞれ配置される少なくとも2つの位相変調手段と、
少なくとも2本の前記導波手段の全て、又は少なくとも2本の前記導波手段の内の1つを除いた残りの前記導波手段に配置され、少なくとも2つの前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度を経路に応じて1/4倍ずつ異なるように調整する強度調整手段と
を備える
ことを特徴とする光変調器。
【請求項3】
少なくとも2つの前記位相変調手段の全て、又は少なくとも2つの前記位相変調手段の内の1つを除いた残りの前記位相変調手段に、伝搬する信号光の位相を調整する位相調整手段が接続される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光変調器。
【請求項4】
少なくとも2つの前記位相変調手段の全て、又は少なくとも2つの前記位相変調手段の内の1つを除いた残りの前記位相変調手段に、少なくとも2つの前記位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の位相差を0度又は90度の整数倍となるように伝搬する信号光の位相を調整する位相差調整手段が接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項5】
前記光強度調整手段として、伝搬する信号光を吸収する吸収手段又は伝搬する信号光を増幅する増幅手段が接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項6】
前記光強度調整手段として、伝搬する信号光を分岐するための第2の光分岐手段が接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項7】
前記光強度調整手段として、マッハツェンダー干渉計が接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項8】
前記光分岐手段は、多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項9】
前記光合流手段は、多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項10】
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調方法であって、
入射された信号光の伝搬方向に対し並列に設置され、前記電気信号に応じて信号光の位相を変調する少なくとも2つの位相変調器に対し、
少なくとも2つの前記位相変調器のそれぞれの最大振幅が半波長電圧の1.5倍となる独立した4値の電気信号で駆動し、
かつ、少なくとも2つの前記位相変調器からの出力光を、それぞれの強度関係は1/4倍ずつ異なるように、また、それぞれの位相関係は位相差が0度又は90度の整数倍となるように合流させる
ことを特徴とする光変調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−123138(P2012−123138A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273219(P2010−273219)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】