説明

光変調膜を備える構造体およびそれを用いた光制御素子

基板32と、基板32の上部に形成された光変調膜46とを含む構造体であって、光変調膜46は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調膜を備える構造体およびそれを用いた光制御素子に関する。
【背景技術】
【0002】
PLZTは、(Pb1−yLa)(Zr1−xTi)Oの組成を有する透明セラミックスであり、電気光学効果を有する材料として知られている。電気光学効果とは、物質に電界を印加するとその物質に分極が生じ屈折率が変化する現象をいう。電気光学効果を利用すると、印加電圧をオン、オフすることにより光の位相を切り替えることができるため、光シャッター等の光制御素子として応用することができる。
【0003】
こうした光シャッター等の素子への適用においては、従来、バルクのPLZTが広く利用されてきた(特許文献1)。しかし、バルクPLZTを用いた光シャッターは、微細化、集積化の要請や、動作電圧の低減や低コスト化の要請に応えることは困難である。また、バルク法は、原料となる金属酸化物を混合した後、1000℃以上の高温で処理する工程を含むため、素子形成プロセスに適用した場合、材料の選択や素子構造等に多くの制約が加わることとなる。
【0004】
こうしたことから、バルクPLZTに代え、基材上に形成した薄膜のPLZTを光制御素子へ応用する試みが検討されている。特許文献2には、こうした薄膜PLZTを利用した表示装置が記載されている。同文献には、ガラス等の透明基板上にPLZT膜を形成し、その上に櫛型電極を設け、かかる構造を、PLZTの二次電気光学効果を利用した光シャッターとして用いることが記載されている。この光シャッターは、低電圧で駆動し、簡易で信頼性の高い表示装置を実現するものではあったが、二次電気光学効果の大きさやその安定性の点でなお改善の余地を有していた。
【0005】
一方、大容量の記録方式として、近年、ホログラムの原理を利用したデジタル情報記録システムが注目されている(たとえば特許文献3)。こうしたシステムにPLZTを用いた光シャッターを適用すれば、従来にない優れたシステムを実現することも期待されるが、この場合、二次電気光学効果の大きさや安定性に関し、さらに高い水準の性能が要求される。すなわち、所定の光に対する屈折率変化の大きさが充分に大きく、その屈折率変化が安定的に得られる薄膜PLZTの実現が重要な技術的課題となる。
【0006】
ところが、高い二次電気光学効果を安定的に示す薄膜PLZTを作製することは、従来の技術水準では実現困難であった。また、素子の構造によっては多結晶やアモルファスの下地上にPLZTを成膜することが必要となるところ、このような成膜を行った場合、高い二次電気光学効果を安定的に示す薄膜PLZTを実現することは、より一層困難なものとなる。
【特許文献1】特開平5−257103号公報
【特許文献2】特開平7−146657号公報(段落0022〜0044)
【特許文献3】特開2002−297008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、高い二次電気光学効果を安定的に示すPLZTを基板上に形成した構造体、およびそれを用いた光制御素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第一の構造体は、基板と、該基板の上部に形成された光変調膜とを含む構造体であって、前記光変調膜は、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする。この光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下である構成を採用できる。
【0009】
本発明に係る第二の構造体は、基板と、該基板の上部に形成された光変調膜とを含む構造体であって、前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、前記多結晶PLZTを構成するグレインの平均粒子径が800nm以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る第三の構造体は、基板と、該基板の上部に形成された光変調膜とを含む構造体であって、前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、前記多結晶PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)としたときに、I(111)/I(110)の値が1以上であることを特徴とする。
【0011】
さらに本発明に係る光制御素子は、上記構造体を含み、前記光変調膜に一対の電極が設けられ、前記一対の電極の間に印加された電界により前記光変調膜の屈折率が変化するように構成されている。
【0012】
PLZTは強誘電体であり、その分極変化速度は電界の指数関数に比例する。このため、光のオン、オフの高速化が可能となる。また、光のオン、オフのために必要な電界の増加量を小さくすることができる。また、PLZTの結晶は異方性が小さいので、結晶グレインごとの切替速度の差が小さい。このため、切替時の速度のばらつきを低減することができる。
【0013】
これにくわえ、本発明の構造体が採用するPLZTは、高いLa組成を有するため、安定で大きな二次電気光学効果を示し、光変調膜として優れた性能を発揮する。
【0014】
図8は、PLZTの組成とその膜特性の関係を示す相図である。図8において、縦軸はZrおよびTiの原子数の和に対するLaの原子数の割合を示す。図8に示されるように、二次電気光学効果が発揮されるのは比較的La含量の多い組成である。そこで本発明者は、高La組成の原料を用いてゾルゲル法によるPLZTの成膜を試みたが、得られた膜の比誘電率は低く、カー定数の値が小さかった。
【0015】
この原因は必ずしも明らかではないが、PLZT中のLaの存在状態が原因であると推察される。すなわち、上記製法で得られたPLZTでは、Laが多結晶PLZTの粒界に偏析し、グレイン中に取り込まれず、いわばPZTとLa酸化物が分離した状態で膜中に存在し、これが原因となって比誘電率が低くなったものと考えられる。仮にPZTとLa酸化物が分離して別々のドメインを形成した場合、膜の比誘電率は、各材料の比誘電率の面積平均に近い値となると予想される。ここで、La酸化膜の比誘電率は30程度であり、PZTの比誘電率(1000以上)に比べてはるかに小さい値をとる。このため、このような形態をとった場合、膜全体の比誘電率は大きく低下することとなる。
【0016】
そこでさらに、本発明者は、Laを高組成で含有する比誘電率の高い膜を作製する方法について検討を行った。その結果、ゾルゲル法による製造プロセスにおける条件設定により、比誘電率の高い膜を得ることができることを見いだした。
【0017】
具体的には、たとえば、グレイン成長のための熱処理を、高温で行うか、あるいは長時間行うことにより、グレインサイズの大きいPLZT膜が得られることが明らかになった。グレインサイズが大きいほど粒界の表面積が小さくなるため、Laの析出を確実に抑制することができる。
【0018】
また、熱処理によるグレイン成長後の冷却過程で冷却速度を大きくすることにより、Laの析出に伴う比誘電率の低下を抑制することが可能となった。このような方法を採用することにより、優れた二次電気光学効果が安定的に発揮される高誘電率膜の製造が実現される。
【0019】
上記第一の構造体は、光変調膜の周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上と高い値となっている。この比誘電率の値は、たとえば光変調膜が多結晶PLZTからなり、Laの含有率が5原子%以上30原子%以下と高いランタン組成を有する構成によって得ることが可能となる。
【0020】
前述したように、比誘電率はグレイン中にLaが取り込まれているかどうかを示す指標となる。このような高い比誘電率は、PLZTグレイン中に相当量のLaが取り込まれた形態をとることによって実現される。
【0021】
この構造体は、上記したように、熱処理によるグレイン成長後の冷却過程で冷却速度を大きくすることにより作製することができる。この構造体は、上記のように高い比誘電率を有するPLZTを用いるため、電界を付与した際の分極の変化率を大きくすることができ、高い電気光学効果を発揮する素子として好適に利用することができる。
【0022】
なお、本発明において、Laの含有率が5原子%以上30原子%以下というのは、ZrおよびTiの原子数の和に対するLaの原子数の割合が5%以上30%以下であることに相当する。
【0023】
また第二の構造体は、多結晶PLZTを構成するグレインの平均粒子径が800nm以上となっている。このため、LaがPLZTグレイン中に取り込まれやすく、高い二次電気光学効果が安定的に発揮される。また、グレインの粒子径が大きいため、粒界の密度が低減し、入射光の散乱が抑制される。このため、二次電気光学効果を利用する光制御素子に応用した場合、効率の高い優れた素子が得られる。
【0024】
また第三の構造体は、多結晶PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)としたときに、I(111)/I(110)の値が1以上となっている。すなわち、この構造体では、PLZTの結晶グレインが、(111)方向に優先配向している。
【0025】
PLZTの結晶粒子を(100)方向に優先配向させようとした場合、(100)配向した結晶の他に(001)配向した結晶が存在すると、光の散乱が大きくなる。これに対し、(111)方向に優先配向させることにより、結晶の配向方向のぶれを低減することができる。このため、結晶粒界における光の散乱を抑制し、電気光学効果を増加させることができる。なお、本発明に係るPLZT膜中の結晶構造は、主として立方晶および正方晶である。このため、これらの結晶粒子の膜中における配置状態を最適化することにより、二次電気光学効果を安定的に発揮させることができる。
【0026】
本発明において、X線回折における(111)面における回折ピークの半値幅を5度以下とすることにより、膜の結晶性を高めることができる。このため、電気光学効果を増加させることができる。
【0027】
本発明の構造体において、前記基板がシリコン基板であってもよい。たとえば、シリコン基板上に絶縁膜が形成された構成の基板とすることができる。前述したように、従来、アモルファス基板上へのPLZTの成膜は技術上困難であったが、本発明によれば、PLZTの成膜をアモルファス基板上に行うことが可能となる。このため、ドライバ等の種々の素子をシリコン基板上に集積することが可能となる。したがって、メモリとの組み合わせた表示素子等において、全画面を有効に保つことができる。
【0028】
また、シリコン基板上への集積化が可能となれば、デバイス全体を微細化することができる。微細化することにより、電極間の距離を縮めることができる。よって、所定の電界を生じさせるために必要な電圧の大きさを低下させることが可能となる。このため、動作電圧が低下する。よって、信頼性を向上させることができる。また、高速化、低コスト化も可能である。
【0029】
本発明の構造体において、前記絶縁膜上に反射膜が設けられ、該反射膜の上部に前記光変調膜が設けられていてもよい。こうすることにより、光変調膜に入射した光を反射膜上で反射させ、再度光変調膜中に誘導することができる。このため、光変調膜に印加された電圧に応じて、反射光の透過をオン、オフ切り替えすることができる。よって、反射型の光制御素子に好適に用いることができる。また、反射膜は、たとえばPtまたはIrを含むことができる。こうすることにより、光変調膜に入射した光をさらに確実に反射させることができる。
【0030】
本発明の構造体において、前記光変調膜がゾルゲル法によって形成された膜であってもよい。こうすることにより、高い二次電気光学効果を有するPLZTを確実に成膜することができる。また、PLZTの膜厚を減少させることができる。このため、必要な電圧を減少することができる。
【0031】
本発明の構造体において、前記光変調膜の633nmにおける屈折率を2.8以上とすることができる。こうすることにより、カー定数Rの値を好適に大きくすることができるため、大きな二次電気光学効果が得られる。
【0032】
さらに、本発明に係る光変調膜の製造方法は、基板の一表面にPb、Zr、TiおよびLaを含む液体を塗布、乾燥して膜を形成した後、該膜を加熱して結晶化し、次いで1200℃/minより大きい速度で冷却する工程を含むことを特徴とする。
【0033】
この製造方法は、熱処理後、急速冷却を行うものである。こうした冷却をすることにより、Laの析出に伴う比誘電率の低下を抑制することができ、優れた二次電気光学効果を発揮する高誘電率膜を安定的に製造できる。
【0034】
以上、本発明の構成について説明したが、各構成要素の任意の組合せ、および、本発明の表現を他のカテゴリーに変換したものも本発明の態様として有効である。たとえば、上記PLZT膜を有する各種素子も本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、光変調膜(PLZT膜)の二次電気光学効果を向上させることができる。また、本発明によれば、光変調膜(PLZT膜)の二次電気光学効果を安定的に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。
【図2】第一の電極および第二の電極の形状を示す上面図である。
【図3】実施例のPLZT膜の、屈折率とカー定数との関係を示す図である。
【図4】実施例のPLZT膜の、比誘電率とカー定数との関係を示す図である。
【図5】実施例のPLZT膜の、X線回折ピーク強度比とカー定数との関係を示す図である。
【図6】実施例のPLZT膜の、X線回折ピークの半値幅とカー定数との関係を示す図である。
【図7】実施の形態における光制御装置の構成を示す部分断面図である。
【図8】PLZTの相図である。
【符号の説明】
【0037】
8 光制御装置、14 トランジスタ、32 基板、34 素子分離領域、36 ソース、37 ゲート、38 絶縁膜、40 プラグ、42 配線、44 反射膜、46 光変調膜、48 第一の電極、49 第二の電極、50 保護膜、52 偏光板、53 偏光板。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下の実施形態において、La組成とは、特に断りのない限り、ZrおよびTiの原子数の和に対するLaの原子数の割合をいう。
【0039】
[第一の実施形態]
本実施形態では、ゾルゲル法を用いてシリコン基板上にPLZT膜を形成する。はじめに、シリコン基板の一表面に、Pb、La、Zr、およびTiの各金属アルコキシドを含む混合溶液をスピンコートする。出発原料となる金属アルコキシドとして、たとえばPb(CHCOO)・3HO、La(O−i−C、Zr(O−t−C、Ti(O−i−C等を用いることができる。また、混合溶液中の原子組成は、図8の相図において二次電気光学効果が得られる組成とする。本実施形態では、たとえば、Pb:La:Zr:Ti=105:9:65:35とすることができる。また、混合溶液の膜厚は、たとえば100nm〜5μm程度とする。
【0040】
スピンコート後、所定の温度で乾燥を行い、次いでドライエアー雰囲気において仮焼成を行う。乾燥温度は、たとえば100℃以上250℃以下とする。ここでは200℃とする。仮焼成は、300℃以上、好ましくは400℃以上で行うことができる。こうすることにより、有機物、水分、残留炭素を確実に除去することができる。仮焼成の時間は、たとえば1分〜1時間程度とする。仮焼成までに、溶液の塗布・乾燥を所定の膜厚となるまで繰り返し行ってもよい。
【0041】
その後、O雰囲気中で熱処理を施し、PLZTを結晶化しグレインを成長させる。熱処理温度は、たとえば600℃以上750℃以下とする。こうすることにより、PLZTを確実に結晶化することができる。また、熱処理温度は、700℃以上とすることが好ましい。こうすることにより、結晶の平均粒径を大きくすることができる。このため、グレインの比表面積を減少させ、Laの析出を抑制することができる。また、熱処理時間は、たとえば10秒以上5分以下とすることができ、1分以上とすることが好ましい。こうすることにより、さらに大きくすることができる。
【0042】
熱処理終了後、結晶化したPLZT膜を急速冷却する。通常、この冷却過程は400℃/min〜1000℃/min程度の速度で行われるが、この場合、PLZTのグレイン中にLaを高濃度で導入することは困難となる。具体的には、原料組成において、ZrおよびTiの原子数の和に対し、Laの原子数の割合をたとえば7%以上とした場合、原料組成と同じ濃度でLaをグレイン中に導入することはきわめて困難となる。そこで本実施形態では、熱処理後の冷却過程において、冷却速度を大きくしている。冷却速度は、たとえば1200℃/minより大きい速度とすることができ、たとえば1800℃/minとしてもよい。
【0043】
以上の工程を経て、シリコン基板上にPLZT薄膜を形成した構造体が得られる。このPLZT薄膜は、Laの含有率が5原子%以上30原子%以下と高いLa組成を有する。上記手順で得られたPLZTについて周波数1MHzにおける比誘電率を測定したところ、1200であった。この値から判断して、本実施形態で得られるPLZTでは、グレイン中に充分な量のLaが取り込まれていると考えられる。
【0044】
[第二の実施形態]
本実施形態では、シリコン基板上にシード層を形成した後、金属アルコキシド層をスピンコートしてPLZTを形成する。シード層を形成することにより、均一で結晶性の良好なPLZT膜を得ることができる。また、グレインサイズの大きいPLZT膜を安定的に得ることができる。
【0045】
シード層を形成するための混合液は、シード粒子、0.1〜10wt%程度の界面活性剤、および有機溶剤を含む液体とする。この混合液を、シリコン基板上にスピンコート等により塗布し、シード層を形成する。このようなシード層を形成することにより、シード粒子を核として良好に結晶化が進むため、均一で結晶性の良好なPLZT膜を得ることが可能となる。
【0046】
シード粒子として、たとえばTi超微粒粉を用いることができる。Ti超微粒粉は粒径0.5nmから200nm程度とするのが望ましく、さらに望ましくは粒径1nmから50nm程度とする。ところで、超微粒粉が核になるには、ある程度の原子の数が必要であり、原子1個では核にならず、また0.1nm程度の原子よりは充分に大きいサイズであることが望ましい。一方、核が大きすぎると、核の中心はTiのままで残ってしまう。したがってTiを残さないためには高いアニール温度が必要である。また、200nmを越えると平坦で均一なPLZT膜の形成が困難となる。また核が大きくなると、溶媒中に分散しにくくなる。
【0047】
また、シード粒子の濃度は、0.00001wt%(0.1wtppm)から1wt%程度とするのが望ましい。Ti超微粒粉は、混合液中の界面活性剤で周囲を被覆される。
【0048】
有機溶剤としては、αテルピオネールが好ましく用いられる。またこのほかキシレン、トルエン、2メトキシエタノール、ブタノール等を用いることも可能である。
【0049】
また、シード層を形成するに際し、混合液を塗布したのち、乾燥・焼成することが好ましい。乾燥は、たとえば200〜400℃程度で1〜10分間程度行うことができる。こうすることにより、溶媒を除去することができる。また、焼成は、シード層を結晶化させる温度とすることができる。概ね450〜750℃程度で約1〜10分程度加熱すればよい。
【0050】
以上述べた実施の形態によれば、以下の性状を有する膜を安定的に形成することができる。
La組成:5原子%以上30原子%以下
比誘電率(周波数1MHz):1200以上
PLZTグレイン平均粒子径:800nm以上
PLZTのX線回折特性:I(111)/I(110)が1以上
(PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)とする。)
PLZTのX線回折における(111)面の回折ピーク半値幅:5度以下
【0051】
こうした性状を有する膜は、カー定数が大きく、二次電気光学効果に優れるため、たとえばホログラフィックメモリの光変調器、ディスプレイデバイス、光通信用スイッチ、光演算装置、または暗号化回路等の光制御素子に好適に用いることができる。
【0052】
たとえば、ホログラフィックメモリの光変調器において、10kHz以上のフレームレートで動作するためには、光変調膜の切替速度を100μs以下とする必要があった。従来の液晶の応答速度は100μs〜1ms程度であり、MEMSでは数10μs程度あるため、このようなフレームレートに対応する高速切替は困難であった。一方、本発明の光変調膜によれば、光の切替におけるナノセカンドオーダーの応答時間が実現されるため、高性能のホログラフィックメモリを実現することができる。
【0053】
[第三の実施形態]
図1は、本発明の第三の実施形態における光制御装置8の構成を示す部分断面図である。光制御装置8は、基板32と、基板32上に設けられた絶縁膜38と、絶縁膜38上に設けられた反射膜44と、反射膜44上に設けられた光変調膜46と、光変調膜46上に配置された第一の電極48および第二の電極49と、第一の電極48および第二の電極49を覆うように形成された保護膜50とを含む。また、保護膜50上には偏光板52が配置される。ここで、第一の電極48および第二の電極49は、光変調膜46上に配置された構成としているが、第一の電極48および第二の電極49を反射膜44上に形成し、その上に光変調膜46を形成した構成とすることもできる。
【0054】
光変調膜46は、ゾルゲル法により形成されたPLZT膜を用いる。膜厚は、1μm程度である。PLZTは、以下の条件を満たすものとする。
La組成:5原子%以上30原子%以下
比誘電率(周波数1MHz):1200以上
PLZTグレイン平均粒子径:800nm以上
PLZTのX線回折特性:I(111)/I(110)が1以上
(PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)とする。)
PLZTのX線回折における(111)面の回折ピーク半値幅:5度以下
【0055】
本実施形態では、基板32として単結晶シリコン基板を用いる。基板32には、素子分離領域34、ドレイン(またはソース)35、およびソース(またはドレイン)36が設けられる。絶縁膜38にはゲート37が設けられ、これによりトランジスタ14が構成される。絶縁膜38は、たとえばシリコン酸化膜により構成される。また、絶縁膜38には、ソース36に接続して構成されたプラグ40および配線42が設けられる。配線42は、たとえばアルミニウムや銅により構成される。プラグ40は、たとえばタングステン、銅により構成される。
【0056】
反射膜44(膜厚約100nm)は、入射した光を反射するための膜であり、たとえばPtにより構成することができる。
【0057】
第一の電極48および第二の電極49(膜厚それぞれ約150nm)は、たとえばPt、またはITO(Indium Tin Oxide)により構成することができる。第一の電極48および第二の電極49を光変調膜46上に形成する場合は、これらの第一の電極48および第二の電極49をITO等の透明な材料により構成することが好ましい。これにより、各画素の表示領域を広くすることができる。保護膜50(膜厚約数μm)は、たとえばSiNまたはアルミナにより構成することができる。
【0058】
図2は、第一の電極48および第二の電極49の形状を示す上面図である。第一の電極48および第二の電極49は、それぞれクシ形に形成され、クシ歯の部分が他方の電極のクシ歯に挟まれるように配置される。本実施形態において、各画素は、それぞれ一組のクシ形の第一の電極48および第二の電極49により構成される。ここで、第一の電極48と第二の電極49の間隔は、たとえば0.5〜1.5μmとすることができる。第一の電極48および第二の電極49間の間隔をこのような範囲とすることにより、第一の電極48および第二の電極49間の電圧を小さくしても、光変調膜46の屈折率を精度よく制御することができる。図1は、図2のA−A’断面図に該当する。
【0059】
図1に戻り、第一の電極48は接地され、第二の電極49には輝度データが印加される。光変調膜46の一画素を構成する領域において、第二の電極49に印加される電圧に応じて、光変調膜46の屈折率が変化する。このような状態で、光制御装置8の偏光板52上から光が照射されると、照射された光は偏光板52を通過して保護膜50を介して光変調膜46に入射される。このとき、光変調膜46に入射した光は、その領域における光変調膜46の屈折率に応じて異なる角度で屈折する。光変調膜46に入射した光は反射膜44で反射され、光変調膜46を通過して保護膜50を介して偏光板52から出射する。このとき、光変調膜46の屈折率に応じて、偏光板52から出射する光の透過率が異なり、偏光板52上に各フレームの輝度データを表示することができる。
【0060】
[第四の実施形態]
図7は、透過型の光制御装置8の部分断面図を示す図である。光制御装置8を透過型とした場合、ガラス等の透明な基板31を用い、第一の電極48および第二の電極49としてもITO等の透明電極を用いるのが好ましい。また、偏光板52に加えて、基板31の光変調膜46が設けられた面とは反対側の面にも偏光板53が設けられる。これにより、偏光板52側から入射した光が光変調膜46を透過する際に変調され、偏光板53を通過する際に光のオン、オフが行われ、光変調膜46に印加された電圧に応じて所望のパターンを含む信号光を得ることができる。
【0061】
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
たとえば、第三または第四の実施形態に記載の光制御装置8において、第一の電極48および第二の電極49は、IrOとしてもよい。こうすれば、PLZTの酸素欠損を抑制することができるため、光制御装置8の信頼性を向上させることができる。また、IrOの膜厚をたとえば50nm程度と薄くすることにより、光の透過性が確保されるため、ITO等に代えて用いることも可能である。
【0063】
また、これらの電極の形状は、クシ形には限られない。たとえば、第三の実施形態に記載の反射型の光制御素子において、第一の電極48および第二の電極49に代えて、1枚の平板電極を設け、反射膜44との間に電界を形成してもよい。
【実施例】
【0064】
(PLZT膜の作製)
シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成し、シリコン酸化膜上にスパッタ法によりPt膜を形成した。そして、Pt膜上にゾルゲル法によりPLZTを成膜した。Pt膜の膜厚は150nmとした。
【0065】
PLZT成膜用の混合溶液中の金属原子比は、Pb:La:Zr:Ti=105:9:65:35とした。まずスピンコートでPt膜上に混合溶液を塗布し,プリベークとして150℃で30分加熱し、次に仮焼成として450℃で60分加熱した。この一連の工程を4回繰り返した後、最後に700℃酸素雰囲気中で1分間本焼成を行った。そして本焼成後、PLZT膜を表1に示したそれぞれの冷却速度で冷却し、PLZT膜を得た。
【0066】
(評価)
表1中の試料1〜試料3のそれぞれについて、屈折率n、比誘電率ε、カー定数R、結晶粒径D、を測定した。また、試料1および試料3については、X線回折スペクトルを取得した。
【0067】
なお、試料の屈折率は、波長633nmの光における吸光度から算出した。また、試料の比誘電率は、周波数1MHzの交流電場中で測定した。また、膜中の結晶の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察により行った。また、X線回折測定の条件はθ/2θスキャンとし、X線の波長はCuKα:1.5418Åとした。
【0068】
(結果)
表1に、各試料の物性測定結果を示した。また、図3に、試料の屈折率nとカー定数Rとの関係を示す。また、図4に、試料の比誘電率εとカー定数Rとの関係を示した。また、図5に、試料のX線回折スペクトルにおける(111)面(ピークの2θ=約38度)と(110)面(ピークの2θ=約31度)とのピーク強度比をカー定数Rとの関係でプロットした。さらに、図6に、X線回折スペクトルにおける(111)面(ピークの2θ=約38度)の半値幅とカー定数との関係を示した。
【0069】
図3、図4、および表1より、屈折率が2.8以上または比誘電率が1200以上のPLZT膜において、大きなカー定数が得られることがわかった。また、結晶の平均粒径を約1μmとすることにより、大きなカー定数が得られることがわかった。
【0070】
これらのことから、試料3では、焼成後、急速冷却を行うことにより、結晶中のLaが結晶粒中に取り込まれることが示唆された。また、結晶の平均粒径が大きいほど比表面積が小さいため、Laの酸化物(たとえばLa)の析出を抑制することができると考えられる。
【0071】
一方、試料1では、PZT相の屈折率とLa相(Laの酸化物相)の屈折率について加成則が成り立つことがわかる。このため、冷却速度が遅いと、Laの酸化物の析出が生じ、膜中にPZT相とLa相が形成されていることが示唆された。
【0072】
次に、図5および図6の結果より、以下のことがわかる。なお、PLZT膜中には、立方晶と正方晶とが混在していると考えられる。
【0073】
図5の結果より、膜全体として(111)面方向への配向性を増すことにより、二次電気光学効果を向上させることができることがわかる。これは、(111)面方向への配向を増すことにより、結晶粒子間の配向のぶれを低減することができるためと推察される。また、図6より、(111)面のピーク半値幅を小さくすることによっても、二次電気光学効果を向上させることができることが明らかになった。これは、ピーク半値幅を小さくすることにより、膜全体の結晶性が向上するためであると考えられる。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、光シャッター等の光制御素子として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上部に形成された光変調膜とを含む構造体であって、
前記光変調膜は、周波数1MHzにおける比誘電率が1200以上であることを特徴とする構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体において、
前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であることを特徴とする構造体。
【請求項3】
基板と、該基板の上部に形成された光変調膜とを含む構造体であって、
前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、
膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、
前記多結晶PLZTを構成するグレインの平均粒子径が800nm以上であることを特徴とする構造体。
【請求項4】
基板と、該基板の上部に形成された光変調膜とを含む構造体であって、
前記光変調膜は、Pb、Zr、TiおよびLaを構成元素として含む多結晶PLZTからなり、
膜中のLaの含有率が5原子%以上30原子%以下であり、
前記多結晶PLZTの(110)面におけるX線回折強度をI(110)、(111)面におけるX線回折強度をI(111)としたときに、I(111)/I(110)の値が1以上であることを特徴とする構造体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の構造体において、
前記光変調膜のX線回折における(111)面の回折ピーク半値幅が5度以下であることを特徴とする構造体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の構造体において、
前記基板は、シリコン基板と、該シリコン基板上に形成された絶縁膜とを含み、
前記光変調膜は、前記絶縁膜の上部に形成されたことを特徴とする構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の構造体において、前記絶縁膜上に反射膜が設けられ、該反射膜の上部に前記光変調膜が設けられていることを特徴とする構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の構造体において、
前記光変調膜がゾルゲル法によって形成された膜であることを特徴とする構造体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の構造体を含み、
前記光変調膜に一対の電極が設けられ、
前記一対の電極の間に印加された電界により前記光変調膜の屈折率が変化するように構成されたことを特徴とする光制御素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/015292
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512979(P2005−512979)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011380
【国際出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】