説明

光学シートの製造方法

【課題】溝内における着色粒子の偏在を抑制して、コントラストの向上を図ることができる光学シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一の態様によれば、所定間隔で並列して設けられた光透過部2と、光透過部2の間に並列して設けられた光吸収部5とを備えた光学シート6の製造方法であって、表面に複数の溝3が並列して設けられた光透過部2を形成する工程と、溝3に電離放射線硬化性樹脂組成物と着色粒子とを含む着色インキ組成物4を充填させる工程とを備え、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部2の表面張力との差が−1.0mN/m以下であり、着色インキ組成物4における前記着色粒子の分散度が15μm以下であり、かつ前記着色インキ組成物の表面張力と前記電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差が−4.5〜0mN/mであることを特徴とする、光学シート6の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では、通常、観察者がどのような位置から見ても良好な画像が得られるように、視野角が広いことが好まれる。一方、例えば通勤電車の中で仕事をする場合やATM等の公共の場に設置された液晶表示装置では、周りの人から画面を覗かれては困ることがあり、このような場合には液晶表示装置の観察者のみに見え、他人からは見えないようにプライバシーを保護するための覗き見防止機能が求められている。また、カーナビゲーションシステム等の車載型の液晶表示装置においては、夜間などに液晶表示装置の画面が窓ガラスに映り込み、視界を遮る現象がおこるため、映り込み防止機能が求められており、光線出光角度の制御が望まれている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、例えば、特開2006−119365号公報(特許文献1)には、光透過層と遮光層とを交互に並べた構造であるルーバータイプの光学シートが提案されており、遮光層として、光透過層を構成する材料にカーボンブラックやカーボンファイバー等の充填材を混合したものを用いることが開示されている。
【0004】
一方、上記のようなルーバー型の光学シートは、斜め方向の映像光を単純にカットするものであるため、表示装置の種類によっては、観測者に到達させるべき映像光の拡散光源を減少させてしまうことにもなるため、表示画面の輝度が低下する場合があった。
【0005】
上記の問題を解消するため、外光を遮光してコントラストを向上させ、かつ二重像の発生も減少させることができる光学シートを液晶表示装置の画像表示部に設けることが提案されている。このような光学シートとして種々の構造のものが提案されており、例えば、断面形状が台形のレンズ部を所定の間隔で配列するとともに、隣り合うレンズ部間の楔形部には、レンズ部よりも屈折率の低い材料とカーボン顔料等とを充填した構造を有するものが提案されている(例えば、特開2006−85050号公報等:特許文献2)。
【0006】
そして、光学シートの製造において、電離放射線硬化性樹脂等のレンズ材料に着色粒子を混合したインキ組成物を溝に充填し、電離放射線を照射して硬化させて光吸収部を形成することが行われている(例えば、国際出願公開公報WO2006/090784:特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−119365号公報
【特許文献2】特開2006−85050号公報
【特許文献3】国際出願公開公報WO2006/090784
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光吸収部となる溝に、上記したような着色粒子を混合したインキ組成物を充填すると、溝の上部に着色粒子が偏在してしまうことがある。溝の上部に着色粒子が偏在すると、溝の底部における着色粒子の密度が低くなるので、溝の底部に対応する光吸収部の底部においては光吸収性能が低下してしまい、コントラストの向上を図ることができないおそれがある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、溝内における着色粒子の偏在を抑制して、コントラストの向上を図ることができる光学シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、溝の上部に着色粒子が偏在する原因の一つは、溝に着色インキ組成物が流れ込む際に、電離放射線硬化性樹脂組成物のみが先に流れ込んでしまうことにあることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0011】
本発明の一の態様によれば、所定間隔で並列して設けられた光透過部と、前記光透過部の間に並列して設けられた光吸収部とを備えた光学シートの製造方法であって、表面に複数の溝が並列して設けられた光透過部を形成する工程と、前記溝に電離放射線硬化性樹脂組成物と着色粒子とを含む着色インキ組成物を充填させる工程と、を備え、前記電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と前記光透過部の表面張力との差が−1.0mN/m以下であり、前記着色インキ組成物における前記着色粒子の分散度が15μm以下であり、かつ前記着色インキ組成物の表面張力と前記電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差が−4.5〜0mN/mであることを特徴とする、光学シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一の態様の光学シートの製造方法によれば、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差が−1.0mN/m以下であり、着色インキ組成物における着色粒子の分散度が15μm以下であるので、溝に着色インキ組成物が流れ込む際に、電離放射線硬化性樹脂組成物のみが先に流れ込むことを抑制できる。これにより、溝の上部に着色粒子が偏在することを抑制することができるので、コントラストの向上を図ることができる。また、着色インキ組成物の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差が−4.5〜0mN/mであるので、着色インキ組成物の掻き取り適性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る光学シートの製造工程を模式的に示した図である。
【図2】実施形態に係る光透過部の形成工程を模式的に示した図である。
【図3】実施形態に係る粘着層および剥離層を有する基材を示した図である。
【図4】実施形態に係る着色インキ組成物が溝に流れ込むときの様子を示した模式図である。
【図5】実施形態に係る光学シートの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<光学シートの製造方法>
まず、本実施形態に係る光学シートの製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1は本実施形態に係る光学シートの製造工程を模式的に示した図であり、図2は本実施形態に係る光透過部の形成工程を模式的に示した図であり、図3は本実施形態に係る粘着層および剥離層を有する基材を示した図であり、図4は本実施形態に係る着色インキ組成物が溝に流れ込むときの様子を示した模式図である。
【0015】
まず、基材1上に、表面に複数の溝3が並列して設けられた光透過部2を形成する(図1(a))。図1(a)に示される溝3の形状は略矩形状となっているが、これに限定されず、開口部が底部よりも広い略台形状、または略V字状となっていてもよい。溝3の側壁は、溝3の底面における法線方向に対して、0〜3°の範囲の角度を有していることが好ましい。なお、この側壁の角度が0度に近い場合は、溝3は実質的に矩形状となる。
【0016】
基材1は、光透過部2や後述する光吸収部5を形成するためのベースとなる層である。基材1としては、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明樹脂シートや透明ガラスを用いることができる。透明樹脂フィルムとしては、トリアセテートセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルロニトリルフィルム等を好適に使用できるが、これらの中でも、ポリエステル系フィルムが好ましく用いられる。ポリエステル系フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートの他、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0017】
光透過部2の形成は、使用する樹脂の種類によって異なる。例えば、光透過部2を透明な熱可塑性樹脂を用いて形成する場合には、加熱した金型を熱可塑性樹脂に押圧する熱プレス法や射出成型法、金型内に熱可塑性樹脂モノマーを注入して重合・固化させるキャスティング法等によって、光透過部2を形成することができる。また、電離放射線硬化型樹脂、特に紫外線硬化型樹脂を用いる場合には、当該樹脂を成形型内に注入して紫外線を照射して硬化させる、いわゆるUV法によって、光透過部2を形成することができる。これらの方法の中でも、本発明においては、量産性に優れるUV法が好適に使用できる。UV法によれば、金型ロールを用いて、光透過部2を連続的に製造することができる。
【0018】
具体的には、例えば、図2に示されるように、所定ピッチで光透過部2の形に対応した形の溝を有する金型ロール10と、ニップロール11との間に基材1を送り込む。図2中の矢印は、基材1を送り込む方向を表したものである。基材1の送り込みに合わせて、金型ロール10と基材1との間に供給部12から例えば電離放射線硬化性樹脂組成物等の光透過部用組成物13の液滴を供給し続ける。供給部12から基材1上に光透過部用組成物13を供給するとき、金型ロール10と基材1との間に、光透過部用組成物13が溜まった組成物溜まり14が形成されるようにする。この組成物溜まり14を形成することによって、光透過部用組成物13が基材1の幅方向に広がる。
【0019】
上記のようにして金型ロール10と基材1との間に供給された光透過部用組成物13は、金型ロール10とニップロール11との間の押圧力により、基材1と金型ロール10との間に充填される。その後、電離放射線照射装置15によって光透過部用組成物13に紫外線等の電離放射線を照射し、光透過部用組成物13を硬化させて、光透過部2を形成する。光透過部2を形成した後、剥離ロール16を介して、金型ロール10から光透過部2を引き剥がす。
【0020】
金型ロール10に送り込まれる基材1は、図3に示されるように粘着層7および剥離層8を備えていてもよい。粘着層7は、光学シートを表示装置の表示部に接着させるためのものである。粘着層7に用いられる粘着剤は光を透過するとともに、適切に光学シートを他に接着させることができれば、その材料は特に限定されるものではない。粘着剤としては、例えばアクリル系の共重合体を挙げることができる。
【0021】
剥離層8は、取扱時に粘着層7が他に接触しないようにするためのものであり、粘着層7上に形成されている。剥離層8としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等が挙げられる。
【0022】
なお、次の着色インキ組成物の充填工程の前に、光透過部2の溝3の表面に親水化処理を施しておくことが好ましい。溝3の表面に親水化処理を施すことにより、溝3へインキ組成物をより充填し易くなり、インキ充填率が向上する。親水化処理は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、低圧プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、エキシマランプ処理等のドライプロセスや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、エタノールアミン等によるアルカリ処理等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、大気圧プラズマ処理が、製造効率の観点から好ましい。
【0023】
基材1上に光透過部2を形成した後、光透過部2上の表面に着色インキ組成物4を塗布して、掻取部材により余剰の着色インキ組成物を掻き取りながら、溝3内に着色インキ組成物4を充填する(図1(b))。
【0024】
着色インキ組成物4は、透明な電離放射線硬化性樹脂組成物と着色粒子とを必須成分として含むものである。電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部2の表面張力との差は、−1.0mN/m以下である。電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部2の表面張力との差をこの範囲としたのは、−1.0mN/mを超えると、充填不良が発生するとなるおそれがあるからである。また、着色インキ組成物4の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差は、−4.5〜0mN/mである。この範囲外であると、掻き取り適性が悪化するからである。「電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差」とは、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力の値から光透過部の表面張力の値を引いたものである。符号の−は、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力の値の方が、光透過部の表面張力の値より小さいことを意味する。「着色インキ組成物の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差」とは、着色インキ組成物の表面張力の値から、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力の値からを引いたものであり、符号の−は、着色インキ組成物の表面張力の値の方が、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力の値より小さいことを意味する。また、「電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力」とは、Wilhelmy法(プレート法)により25℃で測定された値を意味し、測定する組成物(液体)中に、釣り下げた測定子(プレート)を浸した際の、測定子が組成物中に引き込まれる力を測定し、下記式により算出される。
P=mg+Lγ・cosθ−shρg
(式中、Pは測定子が組成物中に引き込まれる力を表し、m、L、sおよびhは、それぞれ、測定子の質量、周知長、断面積、および測定子が組成物中に沈んだ深さを表し、gは重力加速度を表し、γは表面張力を表し、θは測定子と組成物との接触角を表し、ρは組成物の密度を表す。)
【0025】
着色インキ組成物4における着色粒子の分散度は、15μm以下であることが好ましい。着色粒子の分散度をこの範囲としたのは、15μmを超えると、スジ状の充填不良が発生するおそれがあるからである。「分散度」とは、グラインドゲージ(JIS−K5600−2−5)によって測定される粒子径を意味するものとする。
【0026】
また、本発明においては、着色インキ組成物4の粘度は、500〜4,000mPa・sであることが好ましい。この範囲とすることにより、より一層、溝3中へのインキ充填率が向上する。着色インキ組成物の粘度が4,000mPa・s以上であると、粘度が高すぎて着色インキ組成物が溝の底まで充填されない場合がある。また、着色インキ組成物の掻き取り性が悪化するおそれがある。一方、着色インキ組成物の粘度が500mPa・s未満であると、着色インキ組成物の掻き取り性は良好であるものの、溝に着色インキ組成物を充填することが困難となるおそれがある。なお、着色インキ組成物の粘度は、B型粘度計を用いて25℃の環境下にて測定した値を意味するものとする。
【0027】
着色インキ組成物4の主成分である透明な電離放射線硬化性樹脂組成物としては、例えば、アクリレート系の官能基を有するものを好適に使用することができ、具体的には、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジェン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマー又はプレポリマーを挙げることができる。上記した透明樹脂は、後記するような光学シートの光透過部を構成する材料よりも屈折率の小さい透明樹脂を適宜選択することができる。
【0028】
また、上記樹脂組成物中には、反応性希釈剤を添加してもよく、このような反応性希釈剤としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマーを使用してもよく、具体的は、リメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
電離放射線硬化型樹脂組成物を紫外線硬化型樹脂組成物とするには、組成物中に光重合開始剤としてアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチュウラムモノサルファイド、チオキサントン類や、光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ−n−ブチルホソフィン等を混合して用いることができる。特に本発明では、オリゴマーとしてウレタンアクリレート、モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を混合するのが好ましい。
【0030】
本発明において用いられる着色粒子としては、樹脂ビーズやガラスビーズに、映像光の特性に合わせて特定の波長を選択的に吸収できる着色粒子を使用してもよく、カーボンブラック、グラファイト、繊維状炭素、黒色酸化鉄等の金属塩、染料、顔料等の着色剤を練り込んだものを使用することができる。着色剤の練り込み易さの観点からは、樹脂ビーズを用いることが好ましい。樹脂ビーズとしては、メラミンビーズ、アクリルビーズ、アクリル−スチレンビーズ、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリスチレンビーズ、塩ビビーズ等を好適に使用することができる。また、ウレタン架橋微粒子やシリコン系ビーズも好適に使用することができる。これらの樹脂ビーズは、上記した電離放射線硬化型樹脂組成物の屈折率差が0.1程度のものを用いることが好ましい。また、着色剤を練り込む前の樹脂としては、透明な樹脂でも使用できるが、顔料または染料等で着色された樹脂を用いることが好ましいく、映像光の特性に合わせて特定の波長を選択的に吸収するものであってよいが、好ましくは黒色に着色された樹脂ビーズが用いられる。
【0031】
着色剤としては、上記したもののなかでもカーボンブラックが好適に使用できる。樹脂ビーズへのカーボンブラックの練り込み量は、樹脂ビーズ1質量部に対してカーボンブラックを0.1〜0.7質量部程度であり、好ましくは0.15〜0.5質量部、より好ましくは0.2〜0.35質量部である。カーボンブラックの練り込み量が0.7質量部よりも多いと樹脂ビーズが割れやすくなる場合があり、一方、0.1質量部よりも少ないと、所望の黒色性を有する着色粒子を得られない場合がある。また、カーボンブラックは、平均粒子径が10〜500nmのものを好適に使用することができ、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等が使用できる。また、市販のものを使用することもでき、例えば、HCFシリーズ、MCFシリーズ、RCFシリーズ、LFFシリーズ(いずれも三菱化学株式会社製)、バルカンシリーズ(キャボット社製)、ケッチェンシリーズ(ライオン株式会社製)を好適に使用することができる。なお、ここでの平均粒子径とは、カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径を意味する。
【0032】
電離放射線硬化型樹脂組成物への着色粒子の分散性を調製するために、着色粒子を表面処理しておくこともできる。表面処理としては、従来公知のシリカコーティングによる親水処理や、プラズマ等による表面改質が挙げられる。
【0033】
着色粒子の添加量は、着色インキ組成物4の全質量に対して15〜35%の範囲とすることが好ましく、この範囲とすることにより、よりコントラストに優れる光学シートを実現することができる。着色粒子の含有量が少なすぎると、後述する光吸収部5の光吸収性が不十分となる場合があり、着色粒子の含有量が多すぎると、着色粒子同士が接触し割れや欠けの問題が発生し易くなる。
【0034】
本発明による着色インキ組成物4は、溝3へのインキ充填性をより向上させるために、消泡剤および/またはレベリング剤を含んでいてもよい。消泡剤としては、例えばシリコーン系、アクリル系等の各種界面活性剤が使用できる。例えば、ラムテルシリーズ(花王株式会社製)等を好適に使用できる。また、レベリング剤としては、例えばフッ素系、シリコーン系等の各種界面活性剤が使用できる。例えば、メガファックシリーズ(DIC株式会社製)等を好適に使用できる。
【0035】
上記した各成分を含む着色インキ組成物4は、電離放射線硬化性樹脂組成物に、所定量の着色粒子を混合し、所望により重合開始剤や、上記した消泡剤、レベリング剤、撥水剤等を添加することにより調製される。本発明においては、上記した各成分の配合量を適宜調整することにより、着色インキ組成物の表面張力を−1.0mN/m以下とすることができる。例えば、上記したフッ素系のレベリング剤(パーフルオロアルキル基を有するもの)では、分子構造中の−CF−基は6mN/m、−CF−CF−基は18.5mN/mの表面張力を有している。また、シリコン系のレベリング剤では、−Si(CH)−O−基は24mN/mの表面張力を有していることが知られている。これら表面張力が既知であるレベリング剤、消泡剤または等を適当な量でインキ組成物中に添加することにより、インキ組成物の表面張力を下げることができる。また、インキ組成物の表面張力が低い場合は、撥水剤等の表面張力が高い添加剤をインキ組成物に添加して、インキ組成物の表面張力を調整することができる。レベリング剤や撥水剤の添加量はインキ組成物の組成によって異なるため、インキ組成物が所望の表面張力となるように、添加量を適宜調整することができる。これらレベリング剤や撥水剤の添加量は、着色インキ組成物4の組成にもよるが、概ね0.01〜3.0質量%程度である。
【0036】
着色インキ組成物4の塗布方法としては、ディスペンサーによる滴下、ダイヘッドによる塗布、あるいはフィニッシャーロールによりインキ組成物を溝に充填することができる。これらの中でも、インキの流動性が悪くインキ跡が目立つような場合には、ダイヘッドによる塗布が適している。掻取部材としては、ドクターブレードやワイピングロール等による連続掻き取り装置などを用いることができる。
【0037】
次に、溝3に充填された着色インキ組成物4に電子線又は紫外線等の電離放射線を照射して、着色インキ組成物4を硬化させて、光吸収部5を形成する(図1(c))。これにより、光学シート6が完成する。着色インキ組成物4を電子線により硬化させる場合には、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速機から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線等が使用され、紫外線により硬化させる場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。
【0038】
本実施形態では、着色インキ組成物4中の電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部2の表面張力との差が−1.0mN/m以下であり、着色インキ組成物4における着色粒子の分散度が15μm以下であるので、図4のように着色インキ組成物4が溝3に流れ込む際に、溝3に電離放射線硬化性樹脂組成物のみが先に流れ込むことが抑制できる。したがって、溝3に電離放射線硬化性樹脂組成物のみならず、着色粒子を流れ込ませることができるので、溝3の上部3aのみならず、底部3bにも着色粒子が存在するようになる。これにより、溝3の上部3aに偏在することを抑制することができるので、コントラストの向上を図ることができる。
【0039】
<光学シート>
上記のようにして得られた光学シート6は、図5に示されるように、光透過部2と、その光透過部2の間に並列して配置された光吸収部5とを備えている。光吸収部5の上辺および光透過部2の上辺により、光学シート6の一方の面が構成されている。光吸収部5における側面は、光学シート面の法線方向Nに対して、0〜3°の範囲の角度を有していることが好ましい。なお、側面の角度が0度に近い場合は、実質的に矩形断面となる。
【0040】
例えば、図5に示すように、高さが105μmで上辺の幅が46μm、下辺の幅が48μmである略矩形断面を有する光透過部2と、上辺の幅が12μmで下辺の幅が10μmである略矩形断面を有する光吸収部5とを1ピッチとする光学シートとすることができる。光透過部2および光吸収部5の厚み(高さ)は、概ね50〜150μmとすることができる。
【0041】
光吸収部5は、光透過部2の屈折率と同じかまたは小さい屈折率を有する。光透過部2と光吸収部5との屈折率が上記のような関係となることにより、所定条件で光透過部2に入射した光源からの映像光を光吸収部5と光透過部2との境界面で適切に反射させ、観測者に明るい映像を提供することができる。また、観測者側からの外光の一部を吸収するため、コントラストも向上する。また、光吸収部5と光透過部2との境界面で反射せずに、光吸収部5の内側に入射した迷光が、光吸収部5中の着色粒子によって吸収される。また、所定角度で入射した観測者側からの外光を適切に吸収することができるため、コントラストを向上させることもできる。
【0042】
また、光学シート6を2層重ね合わせてもよく、その場合、各光学シートで異なった構造となるようにしてもよい。例えば、1層目の光学シートと2層目の光学シートとで、光吸収部の幅やピッチ、深さ(楔形部の深さ)、形状を変えたり、光吸収部の厚み方向の向きを変えたり、映像光に対する光吸収部のバイアス角度(水平方向に対する光吸収部の傾斜角度)を変えたりすることができる。また、光吸収部を形成する材料(樹脂の種類や着色粒子の濃度)を変えることもできる。例えば、1層目は効率良く外光をカットし、コントラストの向上を重視した設計とし、2層目は反射を利用した正面輝度向上効果を重視した設計とするような、各層で作用効果を変えることが好ましい。
【0043】
本発明による光学シート6は、従来の光学シートや視野角拡大部材に採用されている他の機能層を含んでいてもよい。具体的には、反射防止層、粘着層、電磁波遮蔽層、波長フィルタ層、防眩層、ハードコート層などを適宜組み合わせてもよい。これらの各機能層の積層順や積層数は、使用する光学シートの用途に応じて適宜決定することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例に本発明が限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
厚みが100μmのPET基材(A4300、東洋紡製)上に、硬化後の屈折率が1.55のウレタン系紫外線硬化性樹脂を用いて、成形金型で連続賦型加工を行い、複数の光透過部と、その光透過部間に並列して設けられた矩形断面の溝を形成した。光透過部の表面張力を、Wilhelmy法を用いて25℃の環境下にて測定したところ、38.5mN/mであった。
【0046】
次いで、表面張力が32.5mN/mの着色インキ組成物1を光透過部の表面に塗布し、金属製のドクターブレードを用いて溝に充填するとともに余剰の着色インキ組成物1を掻き取った。その後、紫外線を照射して着色インキ組成物1を硬化させて、光吸収部を形成した。これにより実施例1に係る光学シートを得た。着色インキ組成物1は、分散度が10μmの樹脂ビーズと、表面張力が37.0mN/mの電離放射線硬化性樹脂組成物とを含むものであった。したがって、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差は−1.5mN/mであった。また、着色インキ組成物1の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差は、−4.5mN/mであった。
【0047】
<比較例1>
比較例1においては、着色インキ組成物1の代わりに、表面張力が36.5mN/mの着色インキ組成物2を用いた以外は、実施例1と同様の方法により光学シートを作製した。着色インキ組成物2は、分散度が10μmの樹脂ビーズと、表面張力が39.5mN/mの電離放射線硬化性樹脂組成物とを含むものであった。したがって、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差は+1.0mN/mであった。また、着色インキ組成物2の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差は、−3.5mN/mであった。
【0048】
<比較例2>
比較例2においては、着色インキ組成物1の代わりに、表面張力が36.0mN/mの着色インキ組成物3を用いた以外は、実施例1と同様の方法により光学シートを作製した。着色インキ組成物3は、分散度が15μmの樹脂ビーズと、表面張力が39.5mN/mの電離放射線硬化性樹脂組成物とを含むものであった。したがって、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差は+1.0mN/mであった。また、着色インキ組成物3の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差は、−3.0mN/mであった。
【0049】
<比較例3>
比較例3においては、着色インキ組成物1の代わりに、表面張力が34.5mN/mの着色インキ組成物4を用いた以外は、実施例1と同様の方法により光学シートを作製した。着色インキ組成物4は、分散度が25μmの樹脂ビーズと、表面張力が39.5mN/mの電離放射線硬化性樹脂組成物とを含むものであった。したがって、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差は+1.0mN/mであった。また、着色インキ組成物4の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差は、−5.0mN/mであった。
【0050】
<比較例4>
比較例4においては、着色インキ組成物1の代わりに、表面張力が33.0mN/mの着色インキ組成物5を用いた以外は、実施例1と同様の方法により光学シートを作製した。着色インキ組成物5は、分散度が15μmの樹脂ビーズと、表面張力が38.0mN/mの電離放射線硬化性樹脂組成物とを含むものであった。したがって、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差は−0.5mN/mであった。また、着色インキ組成物5の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差は、−5.0mN/mであった。
【0051】
<比較例5>
比較例5においては、着色インキ組成物1の代わりに、表面張力が32.0mN/mの着色インキ組成物6を用いた以外は、実施例1と同様の方法により光学シートを作製した。着色インキ組成物6は、分散度が25μmの樹脂ビーズと、表面張力が38.0mN/mの電離放射線硬化性樹脂組成物とを含むものであった。したがって、電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と光透過部の表面張力との差は−0.5mN/mであった。また、着色インキ組成物6の表面張力と電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差は、−6.0mN/mであった。
【0052】
<光学シートの断面観察>
実施例1および比較例1〜5の光学シートの断面を、光学顕微鏡を用いて観察した。比較例1〜5に係る光学シートの光吸収部は上部に樹脂ビーズが偏在していた。これに対し、実施例1に係る光学シートの光吸収部においては全体に万遍なく樹脂ビーズが存在していた。
【0053】
<コントラスト評価>
実施例1および比較例1〜5の光学シートを用いて、下記のような評価方法により、コントラストを評価した。先ず、光学シートをディスプレイ画面に貼り付けた状態での黒画面の輝度と、光学シートをディスプレイ画面に貼り付ける前の状態での黒画面の輝度とを、目視により観察した。コントラストの評価基準は以下の通りとした。
○:明らかに黒い
△:ほぼ同等の黒さ
×:同等以下の黒さ
【0054】
<着色インキ組成物の掻き取り適性>
実施例1および比較例1〜5の光学シートを作製する掻取工程において、着色インキ組成物の掻き取り適性を評価した。
○:掻き取りが良好であった
×:掻き取りが良好ではなかった
【0055】
評価結果を表1に示す。
【表1】

表1に示されるように、比較例1〜5に係る光学シートにおいては、光吸収部の上部に樹脂ビーズが偏在していたため、満足するコントラストは得られなかった。これに対し、実施例に係る光学シートにおいては、光吸収部の全体に万遍なく樹脂ビーズが存在していたため、コントラストに優れていた。また、実施例に係る光学シートを作製する際の掻取工程においては、着色インキ組成物の掻き取り適性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0056】
1…基材
2…光透過部
3…溝
3a…上部
3b…底部
4…着色インキ組成物
5…光吸収部
6…光学シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔で並列して設けられた光透過部と、前記光透過部の間に並列して設けられた光吸収部とを備えた光学シートの製造方法であって、
表面に複数の溝が並列して設けられた光透過部を形成する工程と、
前記溝に電離放射線硬化性樹脂組成物と着色粒子とを含む着色インキ組成物を充填させる工程と、を備え、
前記電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力と前記光透過部の表面張力との差が−1.0mN/m以下であり、前記着色インキ組成物における前記着色粒子の分散度が15μm以下であり、かつ前記着色インキ組成物の表面張力と前記電離放射線硬化性樹脂組成物の表面張力との差が−4.5〜0mN/mであることを特徴とする、光学シートの製造方法。
【請求項2】
前記インキ組成物の粘度が500〜4,000mPa・sである、請求項1に記載の光学シートの製造方法。
【請求項3】
前記着色粒子が、樹脂中にカーボンブラックを練り込んだ樹脂ビーズからなる、請求項1または2に記載の光学シートの製造方法。
【請求項4】
前記カーボンブラックの平均粒子径が10〜500nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学シートの製造方法。
【請求項5】
前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジェン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、及び多価アルコールから選択される多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマーまたはプレポリマーからなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学シートの製造方法。
【請求項6】
前記インキ組成物が、消泡剤および/またはレベリング剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学シートの製造方法。
【請求項7】
前記溝の開口幅が、8〜12μmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学シートの製造方法。
【請求項8】
前記溝の側壁が、前記溝の底面における法線方向に対して0〜3°の角度を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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