説明

光学式力センサ

【課題】 同一の大きさ及び方向の外力を異なる場所に付加した場合でも、センサ特性を変化させずに測定精度を維持できる光学式力センサを提供すること。
【解決手段】 光学式力センサ10は、発光素子28及び受光素子29が内部に収容された収容体12と、収容体12に装着されるとともに、発光素子28及び受光素子29を含む光空間30を収容体12との間に形成する蓋体13とを備えており、収容体12又は蓋体13に外力が付加されたときに、光空間30の形状変化に伴う前記受光素子29の受光量の変化により、前記外力の大きさが検出可能になる。ここで、蓋体13は、外力が付加されたときに、光空間30の形状を変化させる一定方向に相対移動可能となるように、収容体12に係合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学式力センサに係り、更に詳しくは、外力の大きさに応じて変化する光空間に発光素子及び受光素子を配置し、発光素子から照射された光を受光素子で検出し、その受光量に基づいて外力の大きさを求める光学式力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、医師や救急救命士等により行われる気管挿管手技を評価する気管挿管訓練装置を既に提案している(特許文献1)。当該気管挿管訓練装置には、図7に示される光学式力センサ50が用いられている。この光学式力センサ50は、ベース51と、このベース51上に固定され、発光素子53及び受光素子54を有するフォトインタラプタ55と、このフォトインタラプタ55の周囲を覆うスポンジ等の弾性部材57と、この弾性部材57の上面に固定された遮光性の反射板59と、ベース51、弾性部材57及び反射板59で囲まれて発光素子53から照射された光が伝播する光空間60とを備えている。以上の光学式力センサ50は、次の原理で外力の大きさが検出される。つまり、発光素子53から光空間60に照射された光は、反射板59で反射されて受光素子54で検出されるが、反射板59の上面である接触面59Aに外力が加わると、その外力の大きさに応じて弾性部材57が変形し、光空間60の形状(体積)が変化して反射板59からフォトインタラプタ55までの距離が変わり、受光素子54で検出される光量が変わる。従って、接触面59Aへの外力の付加による弾性部材57の変形により、受光素子54からの電流が変化することになり、当該電流の変化による電圧変化を測定することで、接触面59Aに加わった外力を検出可能となる。この際、電圧値と外力との関係を示す特性線が図示しない測定機器に予め記憶されており、測定された電圧値に応じて外力が求められる。
【特許文献1】特開2008−64824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記光学式力センサ50にあっては、外力が付加される接触面59Aの位置が異なると、同一の大きさ及び方向で外力を加えても、検出される電圧値が一定にならず、所望の測定精度が得られないという問題がある。つまり、接触面59Aを下方に押圧する場合、当該押圧部位が接触面59Aの中央付近であると、弾性部材57が全周でほぼ均一に圧縮された状態になり、反射板59は、ほぼ水平状態を保持しながら下降する。ところが、前記押圧部位が接触面59Aの端部になると、当該端部付近の弾性部材57の圧縮量が他の部位よりも大きくなり、反射板59は、前記端部を下側にした傾斜状態で下降する。これにより、接触面59Aに同一方向で同一の大きさの押圧力を加えても、押圧部位によって光空間60の形状及び体積が変わり、受光素子54の受光量が変わってしまうため、センサの特性を一定に保てないという問題がある。このことについて、本発明者らは、後述するように、図3の(D)〜(G)に示される通り、接触面59Aの異なる位置に、同一の大きさ及び方向の押圧力をそれぞれ作用させた場合に、図5のグラフに示されるように、特性線に大きな差が出ることを実験実証した。
【0004】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、同一の大きさ及び方向の外力を異なる場所に付加した場合でも、センサ特性を変化させずに測定精度を維持できる光学式力センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、発光素子及び受光素子が内部に収容された収容体と、当該収容体に装着されるとともに、前記発光素子及び受光素子を含む光空間を前記収容体との間に形成する蓋体とを備え、前記収容体又は蓋体に外力が付加されたときに、前記光空間の形状変化に伴う前記受光素子の受光量の変化により、前記外力の大きさを検出する光学式力センサにおいて、
前記蓋体は、前記外力が付加されたときに、前記光空間の形状を変化させる一定方向に相対移動可能に前記収容体に係り合う、という構成を採っている。
【0006】
(2)また、本発明は、発光素子及び受光素子が内部に収容された収容体と、当該収容体に装着されるとともに、前記発光素子及び受光素子を含む光空間を前記収容体との間に形成する蓋体とを備え、前記収容体又は蓋体に外力が付加されたときに、前記光空間の形状変化に伴う前記受光素子の受光量の変化により、前記外力の大きさを検出する光学式力センサにおいて、
前記収容体及び前記蓋体は、その何れか一方に前記外力が付加される接触面を含むとともに、一定の大きさ及び方向の外力が前記接触面のどの領域に作用しても、前記光空間が同一の形状変化をするように相対移動可能に係り合う、という構成を採っている。
【0007】
(3)以上において、前記収容体と前記蓋体の間に、前記相対移動方向に付勢する付勢部材を設けるとよい。
【0008】
なお、本明細書において、「上」、「下」は、特に明示しない限り、図1及び図2の光学式力センサの向きにおける「上」、「下」を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記収容体及び蓋体に外力が付加されたときに、その場所に関係なく光空間の形状を一定に変化させることができるため、センサ特性を変化させずに測定精度を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1には、本実施形態に係る光学式力センサの概略斜視図が示され、図2には、図1のA−A線に沿う概略断面図が示されている。これらの図において、光学式力センサ10は、上端側が開放する筒状の収容体12と、収容体12の上端側の開放部分から装着されて当該収容体12の内部空間を閉塞する蓋体13と、収容体12の内部に収容されたフォトインタラプタ15(図2参照)と、収容体12と蓋体13との間に配置された付勢部材としてのコイルばね16とを備えて構成されている。
【0012】
前記収容体12は、外部からの光が内部に侵入しにくく、且つ、弾性変形しにくい材料によって形成されており、下側に位置する円盤状のベース18と、このベース18の上面ほぼ中央に固定された円筒状の筒状体19とからなる。
【0013】
前記蓋体13は、弾性変形しにくい材料によって形成されており、図2に示されるように、上側に位置する円盤状の板部材20と、板部材20の下面側のほぼ中央に固定されるとともに、筒状体19内に嵌め入れられる円柱状の軸部材21とからなる。
【0014】
前記板部材20の上面は、検出対象の外力(押圧力又は引張力)が付加される接触面23となっている。
【0015】
前記軸部材21は、筒状体19の内径とほぼ同一若しくは僅かに小さい外径となっており、筒状体19の軸線方向に沿って相対移動可能となるように筒状体19に嵌め入れられている。なお、筒状体19の内周面及び軸部材21の外周面は、それらの相対移動に伴って発生する摩擦力を少なくする材料で形成されている。以上から、接触面23に押圧力又は引張力が作用すると、軸部材21は、筒状体19の内周面にガイドされながら上下方向に移動することになる。このため、接触面23上のどの部分に押圧力又は引張力が作用しても、上下方向における力の大きさが同一であれば、蓋体13全体が同一の姿勢及び移動量で動くことになる。また、軸部材21の下面は、所定の遮光性を備えた反射面25となっており、この反射面25では、後述するように、フォトインタラプタ15から照射された光が反射される。
【0016】
収容体12及び蓋体13の取り付け状態においては、ベース18の上面、筒状体19の内周面及び反射面25で囲まれる光空間30が形成される。
【0017】
前記フォトインタラプタ15は、ベース18の上面に固定されており、発光ダイオード等の発光素子28と、フォトトランジスタ等の受光素子29とを備えた公知の構成となっている。発光素子28から照射された光は、光空間30を伝播して受光素子29で検出される。なお、このとき、発光素子28からの光は、僅かに筒状体19等に吸収されるが、殆どが反射面25で反射されて受光素子29で検出されることになる。
【0018】
前記コイルばね16は、その両端部分がベース18の上面と板部材20の下面に固定されるとともに、筒状体19及び軸部材21の外方に巻回されて、収容体12と蓋体13の相対移動方向に付勢するようになっている。従って、接触面23への外力の付加が解除されると、コイルばね16が自然長となる収容体12及び蓋体13の初期位置に復元されることになる。なお、このような付勢を可能にする限り、他のばねや弾性体等の他の付勢部材に代替してもよい。
【0019】
以上の構成により、発光素子28から照射された光は、光空間30内を伝播し、反射面25で反射されて受光素子29で検出される。ここで、接触面23に外力が加わると、その外力の大きさに応じて軸部材21が上下動し、反射面25からフォトインタラプタ15までの距離が変わる。すると、受光素子29で検出される光量が変わり、受光素子29から出力される電流値が変化することになる。つまり、接触面23にかかる押圧力が大きい程、反射面25がフォトインタラプタ15に近づき、受光素子29で検出される光量が増えて、当該受光素子29から出力される電流値が増える。逆に、接触面23にかかる引張力が大きい程、反射面25がフォトインタラプタ15から遠ざかり、受光素子29で検出される光量が減って、当該受光素子29から出力される電流値が減少する。
【0020】
このように、光学式力センサ10は、外力の付加によって光空間30の形状(体積)が変化し、それに伴い受光素子29から出力される電流値が変化し、当該電流の変化に対応した電圧値の変化を図示しない測定機器で測定することで、接触面23に加わった力の大きさを特定可能となる。つまり、接触面23に付加される外力と受光素子29の受光量に対応する電圧値との関係データを予め実験等で取得して前記測定機器に記憶させ、前記関係データを使って、測定した電圧値から、付加された外力の大きさが求められる。なお、特に限定されるものではないが、本実施形態では、外力が作用していないときに検出される電圧値を基準(ゼロ)とするようにキャリブレーションされ、押圧力が作用したときにプラスの電圧値、引張力が作用したときにマイナスの電圧値とされ、外力の大きさと電圧値とがほぼ比例関係になっている。
【0021】
本実施形態の光学式力センサ10の効果を実証するための次の実験を行った。
【0022】
本実験においては、本実施形態の光学式力センサ10と、図7を用いて既述した従来の光学式力センサ50との間で、電圧値と押圧力との関係を示す特性線の相違を確認した。ここでは、本実施形態のセンサ10は、全体の高さを15mm程度とし、筒状体19の内径を5mm程度とし、押圧力が作用していない初期状態の光空間30の高さを2.5mmとした。一方、比較例となる従来のセンサは、各辺が10mm程度となる立方体状のものを使用した。各光空間30,60内のフォトインタラプタ15,55は同一のものを使用した。
【0023】
実験条件としては、本実施形態のセンサ10及び従来のセンサ50について、何れも同一となる大きさの押圧力を鉛直方向に付加し、図3に示されるように、各センサ10,50において、それぞれ押圧力を付加する位置を変え、それぞれの位置について前記特性線を求めた。つまり、本実施形態のセンサ10では、接触面23に作用する押圧力の位置を図3中(A)〜(C)に示される3種類とし、それぞれの押圧位置における特性線を求めた。一方、従来のセンサ50では、接触面59Aに作用する押圧力の位置を同図中(D)〜(G)に示される4種類とし、それぞれの押圧位置における特性線を求めた。
【0024】
この結果、本実施形態のセンサ10では、図4に示されるように、押圧位置が変わってもほぼ同一の特性線が得られたのに対し、従来のセンサ50では、図5に示されるように、押圧位置が変わると全く異なる特性線が得られた。このため、従来のセンサ50で外力の大きさを正確に検出するには、接触面59Aの押圧位置毎に特性線を予め定めなければならず、また、外力が作用する接触面59Aの位置を正確に把握しなければならない。ところが、本実施形態のセンサ10では、接触面23のどこに押圧力が作用しても、同一の特性が得られ、接触面23に対する外力の作用位置を把握しなくても、一つの特性線によりセンサ10に作用した外力の大きさを正確に検出することができる。
【0025】
なお、本実施形態に対する変形例として、以下の態様を例示できる。第1の変形例としては、図6(A)に示されるように、コイルばね16を光空間30内に配置することができる。第2の変形例としては、同図(B)に示されるように、前記実施形態に対し、収容体12と蓋体13との位置関係を上下反転させて、軸部材21の同図中上端面にフォトインタラプタ15を取り付け、ベース18の下面側を反射材からなる反射面25とした構造としてもよい。要するに、前記実施形態や第1及び第2の変形例のように、接触面23のどの部分に外力を付加しても、光空間30が同一に変形できる限り、種々の構造を採用することができる。
【0026】
また、前記実施形態や第1及び第2の変形例では、蓋体13側の接触面23に外力が付加されるようになっているが、収容体12のベース18を接触面23として、収容体12側に外力を付加させることもでき、この場合も前述と同様の作用効果を奏する。
【0027】
更に、コイルばね16の代わりに、透光性を有するスポンジ等の弾性体を光空間30内に充填してもよい。
【0028】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る光学式力センサの概略斜視図。
【図2】図1のA−A線に沿う概略断面図。
【図3】本実施形態のセンサの効果を実証する実験において、(A)〜(C)は、本実施形態のセンサにおける押圧位置を説明するための図であり、(D)〜(G)は、従来のセンサにおける押圧位置を説明するための図である。
【図4】実験の結果得られた本実施形態のセンサの特性線を示すグラフ。
【図5】実験の結果得られた従来のセンサの特性線を示すグラフ。
【図6】(A)は、第1変形例に係る光学式力センサの概略断面図であり、(B)は、第2変形例に係る光学式力センサの概略断面図である。
【図7】従来の光学式力センサの概略断面図。
【符号の説明】
【0030】
10 光学式力センサ
12 収容体
13 蓋体
15 フォトインタラプタ
16 コイルばね(付勢部材)
23 接触面
28 発光素子
29 受光素子
30 光空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子及び受光素子が内部に収容された収容体と、当該収容体に装着されるとともに、前記発光素子及び受光素子を含む光空間を前記収容体との間に形成する蓋体とを備え、前記収容体又は蓋体に外力が付加されたときに、前記光空間の形状変化に伴う前記受光素子の受光量の変化により、前記外力の大きさを検出する光学式力センサにおいて、
前記蓋体は、前記外力が付加されたときに、前記光空間の形状を変化させる一定方向に相対移動可能に前記収容体に係り合うことを特徴とする光学式力センサ。
【請求項2】
発光素子及び受光素子が内部に収容された収容体と、当該収容体に装着されるとともに、前記発光素子及び受光素子を含む光空間を前記収容体との間に形成する蓋体とを備え、前記収容体又は蓋体に外力が付加されたときに、前記光空間の形状変化に伴う前記受光素子の受光量の変化により、前記外力の大きさを検出する光学式力センサにおいて、
前記収容体及び前記蓋体は、その何れか一方に前記外力が付加される接触面を含むとともに、一定の大きさ及び方向の外力が前記接触面のどの領域に作用しても、前記光空間が同一の形状変化をするように相対移動可能に係り合うことを特徴とする光学式力センサ。
【請求項3】
前記収容体と前記蓋体の間には、前記相対移動方向に付勢する付勢部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の光学式力センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−236799(P2009−236799A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85233(P2008−85233)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜19年度、文部科学省 地域科学技術振興事業費補助金に係る委託研究(知的クラスター創成事業「岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター」)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(591179639)株式会社京都科学 (10)