説明

光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物の製造方法

【課題】工業的に安価に光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物を製造する方法の提供。
【解決手段】式(1)


(式中、Rはベンジル基または炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)で示されるテトラヒドロピラニルグリシン化合物と光学活性アミンとを接触させて該テトラヒドロピラニルグリシン化合物の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させ、次いで、該ジアステレオマー塩を酸または塩基で処理する光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物の製造方法としては、例えば不斉水添反応による方法(特許文献1参照。)や、高速液体クロマトグラフィーによる光学分割法(特許文献2参照。)等が知られている。しかしながら、前者の方法では高価な触媒を用いたり加圧条件を用いたりする必要があり、後者の方法では大量生産には対応が困難であり、いずれも工業的な製造方法として満足できるものとはいえなかった。
【0003】
【特許文献1】国際公開特許2005/118529号公報
【特許文献2】国際公開特許2006/069063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、本発明者らは、より工業的に安価に光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物を製造できる方法を開発すべく、鋭意検討を行ったところ、光学活性アミンを用いてテトラヒドロピラニルグリシン化合物を光学分割すれば、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物が製造できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、式(1)

(式中、Rはベンジル基または炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
で示されるテトラヒドロピラニルグリシン化合物と光学活性アミンとを接触させて該テトラヒドロピラニルグリシン化合物の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させ、次いで、該ジアステレオマー塩を酸または塩基で処理する式(2)

(式中、Rは上記と同一の意味を表わし、*は当該炭素原子が光学活性点であることを表わす。)
で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、加圧条件を用いることなく、工業的に実施容易な条件で、比較的安価に光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物を製造することができるため、本発明は工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、上記式(1)で示されるテトラヒドロピラニルグリシン化合物(以下、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)と略記する。)と光学活性アミンとを接触させて該テトラヒドロピラニルグリシン化合物の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させる光学分割方法について説明する。
【0008】
式(1)において、Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられ、好ましくはtert−ブチル基である。
【0009】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)としては、例えば4’−(N−メトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン、4’−(N−エトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン、4’−(N−プロポキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン、4’−(N−イソプロポキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン、4’−(N−イソブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン、4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン等が挙げられる。テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)は、例えば米国特許6900319号明細書等に記載の公知の方法によって製造することができる。
【0010】
本発明に用いるテトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)は、ラセミ体すなわちR体とS体の等量混合物であってもよいし、R体もしくはS体のどちらかが過剰量含まれていてもよい。本発明の光学分割とは、用いるテトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の鏡像体過剰率よりも、最終的に得られる上記式(2)で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(以下、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)と略記する。)の鏡像体過剰率が高くなるものである。
【0011】
光学活性アミンとしては、例えば式(3)

(式中、Arは炭素数6〜10のアリール基を表わし、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Rは水酸基で置換されていてもよいベンジル基または水素原子を表わし、*は当該炭素原子が光学活性点であることを表わす。)
で示される光学活性アミン(以下、光学活性アミン(3)と略記する。)が挙げられる。
【0012】
式(3)において、Arで示される炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基である。Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。Rで示される水酸基で置換されていてもよいベンジル基としては、例えばベンジル基、o−ヒドロキシベンジル基、m−ヒドロキシベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基が挙げられ、好ましくはベンジル基またはp−ヒドロキシベンジル基であり、より好ましくはp−ヒドロキシベンジル基である。
【0013】
光学活性アミンの具体例としては、(R)−N−ベンジルフェネチルアミン、(S)−N−ベンジルフェネチルアミン、(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン、(S)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン、(R)−ナフチルエチルアミン、(S)−ナフチルエチルアミン等が挙げられる。光学活性アミンは、市販のものを用いてもよいし、任意の公知の方法により得られたものを用いてもよい。
【0014】
光学活性アミンの使用量は、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)に対して0.5モル倍以上であれば特に限定されないが、収率および経済性等の点から、好ましくは、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)1モルに対して0.9〜2モル、より好ましくは1〜1.5モルの範囲である。
【0015】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)と光学活性アミンとの接触は、通常、溶媒中で実施される。かかる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル、tert−ブチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル溶媒;ヘプタン、ヘキサン、トルエン等の炭化水素溶媒;等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を同時に用いてもよい。アルコール溶媒またはケトン溶媒が好ましく、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンがより好ましく、イソプロピルアルコールまたはメチルエチルケトンがさらに好ましく、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンとを同時に用いることが最も好ましい。
【0016】
溶媒の使用量は、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩の溶解度に応じて適宜選択すればよい。通常、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)1重量部に対して1〜100重量部、好ましくは5〜40重量部の範囲である。
【0017】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)と光学活性アミンとの接触は、必要により溶媒の存在下で、それらを混合することにより実施され、混合順序は特に限定されない。得られた混合物中に結晶が存在していない場合は、そのまま該混合物を冷却処理することにより、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させればよい。また、上記接触により得られた混合物中に結晶が存在する場合には、そのまま該混合物から結晶を取り出してもよいし、そのまま該混合物を冷却処理してもよいが、最終的に得られる光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)の化学純度や光学純度の観点から、該混合物を加熱することにより結晶を溶解させた後に冷却処理することにより、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させることが好ましい。かかるジアステレオマー塩の晶出において、該ジアステレオマー塩の種晶を用いてもよい。
【0018】
混合温度は、通常、0℃以上、溶媒の沸点以下の範囲である。得られた混合物中に結晶が存在する場合の加熱温度は、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩が溶媒中で溶解する温度であればよく、通常、室温以上、溶媒の沸点以下の範囲である。冷却処理は、上記混合温度または加熱温度から混合物を徐々に冷却することにより実施され、その終点温度は、通常0〜25℃の範囲である。
【0019】
上記操作によりテトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させた混合物に、例えば濾過やデカンテーション等の固液分離処理を施すことにより、該ジアステレオマー塩を固体として取り出すことができる。取り出されたジアステレオマー塩を、そのまま酸または塩基で処理してもよいが、最終的に得られる光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)の化学純度や光学純度の観点から、洗浄や再結晶等の処理を施した後に、酸または塩基で処理することが好ましい。かかる洗浄や再結晶等の処理には、通常、上記と同じ溶媒を用いることができる。洗浄や再結晶等の処理後は、さらに乾燥処理することが好ましい。乾燥処理の条件としては、常圧もしくは減圧条件下で、通常20〜80℃の範囲である。
【0020】
光学活性アミンとして光学活性アミン(3)を用いたときに得られるテトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩は式(4)

(式中、R、Ar、R、Rおよび*はそれぞれ上記と同一の意味を表わす。)
で示されるジアステレオマー塩(以下、ジアステレオマー塩(4)と略記する。)である。かかるジアステレオマー塩(4)としては、例えば(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩、(R)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(S)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩、(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−ベンジルフェネチルアミン塩、(R)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(S)−N−ベンジルフェネチルアミン塩、(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−ナフチルエチルアミン塩、(R)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(S)−N−ナフチルエチルアミン塩、および上記各化合物のN−tert−ブトキシカルボニルが、N−メトキシカルボニル、N−エトキシカルボニル、N−プロポキシカルボニル、N−イソプロポキシカルボニル、N−イソブトキシカルボニルに、それぞれ置き換わった化合物等が挙げられる。これらは、用いた溶媒の溶媒和物であってもよい。
【0021】
次に、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を酸または塩基で処理して、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)を得る方法について説明する。
【0022】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩の処理に用いる酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等の有機酸や、塩酸、リン酸、硫酸等の鉱酸が挙げられる。好ましくは塩酸またはクエン酸である。
【0023】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩の酸処理は、通常、有機溶媒および水の存在下に行われる。かかる有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、メチルイソブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル溶媒;等が挙げられる。好ましくは、メチルイソブチルエーテルまたは酢酸エチルである。
【0024】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩の酸処理は、該ジアステレオマー塩と酸とを混合することにより実施され、混合順序は特に限定されない。例えば、上記有機溶媒および水と、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩との混合物中に酸を加えて、混合物の水層を酸性(通常、pH3以下)とした後、得られた混合物を分液処理することにより、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)を含む有機層を得ることができる。かかる有機層を、必要により水洗処理した後、濃縮処理すれば、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)を単離することができる。得られた光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)は、例えば精留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の通常の手段により、さらに精製されてもよい。
【0025】
また、分液処理で得られた水層には、通常、光学活性アミンの酸付加塩が含まれており、該水層から光学活性アミンを回収して、本発明に再使用することができる。かかる光学活性アミンの回収方法としては、例えば、該水層を塩基で処理して、有機溶媒で抽出し、得られた有機層を、必要により水洗処理した後、濃縮処理する方法が挙げられる。
【0026】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩の処理に用いる塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0027】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩の塩基処理は、通常、有機溶媒および水の存在下に行われる。かかる有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、メチルイソブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、1,2−ジメトキシメタン等のエーテル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル、酢酸tert−ブチル等のエステル溶媒;ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等が挙げられる。エーテル溶媒が好ましく、tert−ブチルメチルエーテルがより好ましい。
【0028】
テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩の塩基処理は、該ジアステレオマー塩と塩基とを混合することにより実施され、混合順序は特に限定されない。例えば、上記有機溶媒および水と、テトラヒドロピラニルグリシン化合物(1)の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩との混合物中に塩基を加えて、混合物の水層を塩基性(通常、pH8.5以上)とした後、得られた混合物を分液処理することにより、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)の塩基性塩を含む水層を得ることができる。かかる水層を酸で処理して有機溶媒で抽出し、得られた有機層を、必要により水洗処理した後、濃縮処理すれば、光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)を単離することができる。得られた光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物(2)は、例えば精留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の通常の手段により、さらに精製されてもよい。
【0029】
また、分液処理で得られた有機層には、通常、光学活性アミンが含まれており、該有機層を、必要により水洗処理した後、濃縮処理すれば、光学活性アミンを回収することができる。回収された光学活性アミンは、本発明に再使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより、何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例1:(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩の製造
リービッヒ冷却管と温度計を備えた300mL4つ口コルベンに、4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン10.0g(38.6ミリモル)、メチルエチルケトン150mLおよびイソプロピルアルコール20mLを仕込み、内温を60℃に調整した。そこに、(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン9.1g(40.4ミリモル)を加え、同温度で攪拌し、溶解させた。該混合物を徐々に冷却し、43℃にて種晶を加えた後、同温度で50分間保温攪拌し、さらに25℃まで冷却したところ、結晶が析出した。この後、一晩、約25℃で攪拌した後、得られた混合物を濾過処理して結晶を取り出した。該結晶を、メチルエチルケトン50mlで洗浄処理した後、40℃で減圧乾燥し、(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩もしくはそのメチルエチルケトン溶媒和物9.9gを得た。
【0032】
得られた結晶の一部をサンプリングし、酢酸エチルと水との混合物中に該サンプルを加え、そこに塩酸を加えて水層を酸性(pH3以下)とした後、得られた混合物を分液処理して有機層を取り出し、該有機層を減圧濃縮した後、残渣をイソプロピルアルコールに溶解し、得られた溶液を高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する。)にて分析したところ、該結晶中の(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシンの光学純度は92.05%e.eであった。
<HPLC条件>
装置 :島津製作所 LC−10A型もしくは相当品以上
カラム :ダイセル化学 CHIRALPAK IA
(4.6mm×250mm,5μm)
カラム温度:40℃
移動相 :A液 ヘキサン/トリフルオロ酢酸=1000/1
B液 イソプロピルアルコール/トリフルオロ酢酸=1000/1
A液/B液=85/15
移動相流量:0.5mL/分
検出器 :UV210nm
試料注入量:5μL(1mg/mL)
分析時間 :20分
【0033】
得られた(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩もしくはそのメチルエチルケトン溶媒和物の結晶のうち9.0gをメチルエチルケトン164mL、イソプロピルアルコール18mLと混合し、得られた混合物を70℃まで昇温すると、結晶は溶解した。該混合物を65℃に冷却し、同温度で種晶を加えた後、50〜55℃で1時間保温撹拌したところ、結晶が析出した。室温まで冷却した後、同温度で2時間攪拌し、得られた混合物を濾過処理して結晶を取り出した。該結晶をメチルエチルケトン50mlで洗浄処理した後、40℃で減圧乾燥し、(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩を含む結晶が7.1g得られた。
得られた結晶の一部をサンプリングし、上記と同様にHPLCで分析したところ、該結晶中の(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシンの光学純度は100%e.eであった。
【0034】
<(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩の物性値>
H−NMR(DMSO−d):7.30−7.37(m,4H),7.21−7.25(m,1H),7.05(d,1H,J=8Hz),6.82−6.84(m,1H),6.67(d、2H,J=8Hz)、3.73〜3.83(m,4H,),3.41(s,2H),3.16−3.24(m,2H),1.87(br,1H),1.2−1.5(m,16H)
融点:164.9〜167.7℃
【0035】
実施例2:(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシンの製造
実施例1で得た(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩を含む結晶3.0gと酢酸エチル30mLと水15mLを混合した。3.6重量%塩酸水6.3g(1.0当量)を加え、得られた混合物を分液処理した。得られた有機層を、さらに水15mLで1回、飽和食塩水15mlで2回、順次洗浄し、得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理した。濾過処理して硫酸マグネシウムを除去し、得られた溶液を濃縮したところ、1.40gの油状物を得た。HPLC分析の結果、該油状物は光学純度100%e.eの(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシンであった。
収率73%(実施例1で用いた−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン基準)
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により得られる光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物は、医薬中間体等として有用であるため(例えば、国際公開特許2006/069063号公報参照。)、本発明は産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

(式中、Rはベンジル基または炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
で示されるテトラヒドロピラニルグリシン化合物と光学活性アミンとを接触させて該テトラヒドロピラニルグリシン化合物の光学活性体と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させ、次いで、該ジアステレオマー塩を酸または塩基で処理する式(2)

(式中、Rは上記と同一の意味を表わし、*は当該炭素原子が光学活性点であることを表わす。)
で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物の製造方法。
【請求項2】
式(1)

(式中、Rはベンジル基または炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
で示されるテトラヒドロピラニルグリシン化合物と式(3)

(式中、Arは炭素数6〜10のアリール基を表わし、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Rは水酸基で置換されていてもよいベンジル基または水素原子を表わし、*は当該炭素原子が光学活性点であることを表わす。)
光学活性アミンとを接触させて式(4)

(式中、R、Ar、R、Rおよび*はそれぞれ上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させ、次いで、該ジアステレオマー塩を酸または塩基で処理する式(2)

(式中、Rおよび*はそれぞれ上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物の製造方法。
【請求項3】
式(3)におけるArがフェニル基であり、Rがメチル基であり、Rが水酸基で置換されていてもよいベンジル基である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
式(3)におけるRがp−ヒドロキシベンジル基である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
式(1)におけるRがtert−ブチル基である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
式(4)

(式中、Rはベンジル基または炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Arは炭素数6〜10のアリール基を表わし、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Rは水酸基で置換されていてもよいベンジル基または水素原子を表わし、*は当該炭素原子が光学活性点であることを表わす。)
で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物と光学活性アミンのジアステレオマー塩。
【請求項7】
式(4)におけるRがtert−ブチル基である請求項6に記載のジアステレオマー塩。
【請求項8】
式(4)におけるArがフェニル基であり、Rがメチル基である請求項6または7に記載のジアステレオマー塩。
【請求項9】
式(4)におけるRが水酸基で置換されていてもよいベンジル基である請求項6〜8のいずれかに記載のジアステレオマー塩。
【請求項10】
式(4)におけるRがp−ヒドロキシベンジル基である請求項9に記載のジアステレオマー塩。
【請求項11】
(S)−4’−(N−tert−ブトキシカルボニル)テトラヒドロピラニルグリシン・(R)−N−(p−ヒドロキシベンジル)フェネチルアミン塩。
【請求項12】
式(1)

(式中、Rはベンジル基または炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
で示されるテトラヒドロピラニルグリシン化合物と式(3)

(式中、Arは炭素数6〜10のアリール基を表わし、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Rは水酸基で置換されていてもよいベンジル基または水素原子を表わし、*は当該炭素原子が光学活性点であることを表わす。)
光学活性アミンとを接触させる式(4)

(式中、R、Ar、R、Rおよび*はそれぞれ上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物と光学活性アミンのジアステレオマー塩の製造方法。
【請求項13】
式(1)

(式中、Rはベンジル基または炭素数1〜4のアルキル基を表わす。)
で示されるテトラヒドロピラニルグリシン化合物と式(3)

(式中、Arは炭素数6〜10のアリール基を表わし、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Rは水酸基で置換されていてもよいベンジル基または水素原子を表わし、*は当該炭素原子が光学活性点であることを表わす。)
光学活性アミンとを接触させ、式(4)

(式中、R、Ar、R、Rおよび*はそれぞれ上記と同一の意味を表わす。)
で示される光学活性なテトラヒドロピラニルグリシン化合物と光学活性アミンのジアステレオマー塩を晶出させることを特徴とするテトラヒドロピラニルグリシン化合物の光学分割方法。