説明

光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体とその製造方法およびその金属錯体を用いた不斉触媒反応。

【課題】
光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体とその製造方法およびその金属錯体を用いた不斉触媒反応。
【解決手段】
下記式(1)で表されるスピロ環骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体。
【化1】


(式中、mおよびnは0〜3の整数であり、RおよびRは水素、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数2〜3のアルケニル基を意味する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬等の合成中間体として有用な光学活性化合物を与える不斉触媒反応およびその触媒である光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体、更にはその触媒の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不斉合成反応の触媒としてC対称軸を持つものがさかんに用いられており、その中でも、Coreyら(非特許文献1)、Evansら(非特許文献2)によるビスオキサゾリン誘導体は、触媒能が高く、多くの不斉合成反応に用いられている。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 113, 728(1991)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 115, 5328(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、これら不斉触媒には反応目的に応じた、種々多様性が要求されるところ、本発明者らによる光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体に関しては、合成例もその触媒反応についても報告例がなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の遷移金属錯体が不斉合成反応の触媒として有効にはたらくことを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は、
下記式(1)で表されるスピロ環骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体である。
【化1】

(式中、mおよびnは0〜3の整数であり、RおよびRは水素、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数2〜3のアルケニル基を意味する。)
【0005】
また、本発明は、
下記式(2)
【化8】

(式中、Rは上述に同じである。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化9】

(式中、m、n、X、RおよびRは上述に同じである。)
で表される光学活性シクロアルケニル化合物を塩基存在下で作用させて、下記式(4)
【化10】

(式中、m、nおよびRは上述に同じである。)
で表される光学活性ジアルケニルマロン酸ジエステルを得、
次いで、該エステルを還元により下記式(5)
【化11】

(式中、mおよびnは上述に同じである。)
で表される光学活性ジアルケニルジオールとし、
さらに、該ジオールを酸化により光学活性なジアルデヒドとした後、ヒドロキシルアミンと反応させ、下記式(6)
【化12】

(式中、mおよびnは上述に同じである。、)
で表される光学活性なジアルケニルジオキシムを得、
次いで該オキシムを酸化条件下で環化することにより、下記式(1)
【化13】

(式中、m、n、RおよびRは上述に同じである。、)
で表されるスピロ骨格を有するスピロビスイソオキサゾリン誘導体のジアステレオマー混合物を得、
次いで、該ジアステレオマーの分離精製により必要な光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体を単離することを特徴とするスピロ骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の製造法に関する。
【0006】
さらに、本発明は、
不斉触媒反応において、請求項1記載の式(1)で表される光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体に遷移金属が配位してなる錯体の触媒としての使用である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の成果である光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体は不斉合成触媒の一端としての意義を有し、また、比較的汎用な化合物から、平易な反応工程により、容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を更に詳細に検討する。
式(1)で表されるスピロ環骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体のnは0〜3を表し、特に好ましくはn=1である。この場合、1分子中の二つのmは互いに同一でも異なってもよく、またnについても同様に互いに同一でも異なってもよい。
【0009】
また、RおよびRは、水素、炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数2〜3のアルケニル基から選ばれる基を表す。
具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、イソプロペニル基、アリル基、メタリル基等が挙げられる。
特に、水素原子、アルキル基が好ましく、さらに好ましくは水素原子である。
【0010】
次に、式(1)で表される光学活性ビスイソオキサゾリン誘導体の製造方法についてさらに詳細に述べる。
【0011】
まず第1段階は、マロン酸ジエステル(2)と光学活性アルケニル化合物(3)を塩基存在下で作用させ、光学活性ジアルケニルマロン酸ジエステル(4)を得る反応である。
【0012】
ここで用いられるマロン酸ジエステル(2)としては、特に制限されないが、一般に、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジtert-ブチル、マロン酸ジベンジルが挙げられる。
【0013】
また、光学活性アルケニル化合物(3)としては、mおよびnは0〜3の整数であり、特に好ましくは1である。Xは、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、または置換もしくは無置換のアリールスルホニル基を表し、特に好ましくは、ヨウ素原子である。
【0014】
ここで用いられる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水素化物、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属アルコラート類が挙げられ、特に好ましくは水素化ナトリウムである。
【0015】
溶媒としては、非プロトン性であれば特に選ばないが、一般にジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が好ましく用いられる。
【0016】
反応温度は0〜40℃、好ましくは20〜30℃である。反応はマロン酸ジエステルに対し塩基を1.8〜3.0等量、好ましくは2.0〜2.2等量使用し、これにマロン酸ジエステルを30分間作用させ、さらに光学活性アルケニル化合物(3)を1.8〜3.0等量、好ましくは2.0〜2.2等量加え8〜12時間攪拌させることで進行し光学活性ジアルケニルマロン酸ジエステルが得られる。
【0017】
次に、第2段階は、光学活性ジアルケニルマロン酸ジエステル(4)を還元により光学活性ジアルケニルジオール(5)とする反応である。
【0018】
ここで用いられる還元剤としては、水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ビットライド、水素化ホウ素ナトリウムが挙げられるが、特に好ましくは水素化リチウムアルミニウムである。
【0019】
使用することができる有機溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましく、特にテトラヒドロフランが好ましい。
【0020】
反応温度は−10〜30℃、好ましくは0〜20℃であり、有機溶媒中の光学活性ジアルケニルマロン酸ジエステルに対し還元剤を1.0〜3.0等量、好ましくは1.4〜1.6等量加え、これを8〜12時間攪拌させることにより光学活性ジアルケニルジオールが得られる。
【0021】
次に第3段階は、第2段階で得られた光学活性ジアルケニルジオール(5)を一旦ジアルデヒドまで酸化し、その後ジオキシム(6)にする反応である。
【0022】
酸化は、1級アルコールをアルデヒドに酸化する条件であれば特に方法は選ばないが、例えば、シュウ酸ジクロライドとジメチルスルホキシドから調製される試薬と第2段階で選られたジオール(5)とを塩化メチレン中、低温で、トリエチルアミン存在下で反応させる方法が挙げられる。
【0023】
具体例を挙げれば、光学活性ジアルケニルジオールに対し1.0〜5.0等量、好ましくは3.0〜4.0等量のシュウ酸ジクロライドの塩化メチレン溶液を−80〜−50℃まで冷却し、これに1.0〜8.0等量、好ましくは3.0〜5.0等量のジメチルスルホキシドの塩化メチレン溶液を加え酸化試薬を調製し、これに光学活性ジアルケニルマロン酸ジオールの塩化メチレン溶液を滴下し40分後、さらに1.0〜15等量、好ましくは8.0〜10等量のトリエチルアミンの塩化メチレン溶液加え、−10〜40℃、好ましくは0〜20℃で1〜2時間攪拌することにより、ジアルデヒドへの酸化が進行する。
【0024】
一方、ジオキシム化は、ジアルデヒドをヒドロキシルアミンを用いてジオキシム(6)に変える反応であり、一般的な方法をとることができる。
【0025】
具体例を挙げれば、ジアルデヒドのピリジン溶液を−10〜40℃、好ましくは0〜20℃とし、これにジアルデヒドに対しヒドロキシルアミン塩酸塩を10〜40等量、好ましくは20〜25等量加え6〜7日間攪拌することによって光学活性ジアルケニルジオキシムを得ることができる。
【0026】
次に第4段階は、第4段階で得られた光学活性ジアルケニルジオキシム(6)を酸化条件下でニトリルオキシドを発生させ、2+3環化付加反応により一気にスピロ環とイソオキサゾリン環を構築し、光学活性ビスイソオキサゾリン誘導体(1)のスピロ部位ジアステレオマー混合物を得る反応である。
【0027】
ここで用いられる酸化剤は特に制限はされないが、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩が好ましい。
【0028】
使用する有機溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系炭化水素が好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。
【0029】
反応は−10〜40℃、好ましくは0〜10℃とした有機溶媒中の光学活性ジアルケニルジオキシムに対し有効塩素含量5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.0〜3.0等量、好ましくは1.5〜1.8等量加え、これを−10〜40℃、好ましくは20〜30℃で一晩攪拌させることによりオキシムのニトリルオキシドへの酸化と、引き続き環化反応が生じスピロビスイソキサゾリン生成物が得られる。
【0030】
最後の第5段階は、第4段階で得られた光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体のジアステレオマー混合物から必要な光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体を単離する工程である。例えばシリカゲルクロマトグラフを用いる方法が挙げられる。
【0031】
次に、本発明の化合物であるスピロ骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の金属錯体を用いる不斉触媒反応について説明する。
【0032】
光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の金属錯体を用いると不斉触媒反応を行うことができる。不斉求核付加反応および不斉求電子付加反応が好ましく、特にその中でもアルデヒド化合物への不斉カルボニルエン型求核付加反応および、アルケニルアルコール化合物の不斉環化反応が好ましい。
【0033】
金属錯体形成のために用いる金属としては、遷移金属が挙げられ、好ましくはMn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Pd、Znからなる群から選ばれる金属であり、さらに好ましくはPd、Cuである。
【0034】
この反応で用いられる本発明化合物である光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の金属錯体の量であるが、基質である求電子剤に対して0.5 mol%〜50 mol%が好ましく、特に好ましくは5mol%〜25 mol%である。
【0035】
[作用]
本発明のスピロビスイソオキサゾリン誘導体は、堅固なスピロ環骨格と配位性官能基であるイソオキサゾリン環、さらに両翼に張り出した環状アルキル側鎖部位からなり、その構造中にスピロ環骨格由来の軸不斉を有しており、それが不斉反応の触媒として有効にはたらく理由として考えられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(−)−2,2−ビス(2−シクロヘキセン−2−イルエチル)マロン酸ジエチルの合成。
ジメチルスルホキシド(20ml)と60%水素化ナトリウムオイルディスパージョン(538mg、13.5mmol)の混合物にマロン酸ジエチル(940ml,13.0mmol)をゆっくり滴下し、30分後さらに(R)−3−(2−ヨードエチル)シクロヘキセン(3.18g,13.5mmol)滴下した。室温で一晩攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を終結させ、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過後、濃縮し、シリカゲルクロマト精製(溶出液;ヘキサン/エーテル=10/1)により、無色オイルとして2.33g、収率100%で得た。
[α]D21−65.7°(c 1.03,CHCl3); 1H-NMR(CDCl3):δ1.05−1.28(m,8H),
1.24(t, J=7.3Hz, 6H), 1.45−1.71(m,2H),
1.74−2.17(m,12H), 4.90(q, J=7.3Hz,
4H), 5.53(dd, J=10.0Hz, 2.0Hz, 2H),
5.66(dd, J=10.0Hz, 2.0Hz, 2H); 13C-NMR(CDCl3):δ14.2,
21.5, 25.4, 28.9, 29.5, 30.4, 35.4, 57.5, 61.0, 127.2, 131.4, 171.7; IR(neat):
3020, 2925, 2854, 1732, 1456, 1253, 1176cm-1; FAB−LRMS: m/z377[M+H]+;
Anal. Calcd for C23H36O4:
C, 73.37; H, 9.64. Found: C, 73.49; H, 9.69。
【0037】
[実施例2]
(−)−2,2−ビス(2−ヘクロヘキセン−2−イルエチル)−1,3−プロパンジオールの合成。
2,2−ビス(2−シクロヘキセン−2−イルエチル)マロン酸ジエチル(2.29g,6.07mmol)のTHF(20ml)溶液に水素化リチウムアルミニウム(345.7mg,
9.11mmol)を0℃で添加した。室温で一晩攪拌し、水(1.7ml)を加え、反応を終結させた。1時間攪拌後、混合液をセライトによりろ過し、濃縮した。濃縮液をシリカゲルクロマト(溶出液;ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて精製し、表記化合物を白色結晶として1.48g、収率84%で得た。
mp47−49℃(ヘキサン−エーテル); [α]D23−84.7°(c 1.06, CHCl3); 1H-NMR(CDCl3):δ1.08−1.34(m,8H),
1.40−1.56(m,2H), 1.68−1.84(m,8H), 1.85−2.05(m,6H), 5.54(dd, J=11.0 Hz, 2.0 Hz, 2H), 5.65(dd, J=11.0 Hz, 2.0 Hz, 2H); 13C-NMR(CDCl3):δ21.6,
25.5, 27.8, 29.1, 29.4, 35.8, 40.9, 69.4, 127.1, 131.8; IR(neat): 3298, 3016,
2922, 2856, 2833, 1454, 1028, 717, 677cm-1; ESI−HRMS Calcd for C19H32NaO2
[M+Na]+: 315.2294. Found: 315.2381。
【0038】
[実施例3]
(−)−2,2−ビス(2−シクロヘキセン−2−イルエチル)マロノジオキシムの合成。
塩化オキサリル(1.68ml,19.3mmol)の塩化メチレン(16ml)溶液に、ジメチルスルホキシド(1.9ml,26.4mmol)の塩化メチレン(5ml)溶液を−78℃でゆっくり添加し、そのまま40分間攪拌した。(−)−2,2−ビス(2−シクロヘキセン−2−イルエチル)−1,3−プロパンジオール(1.48g,5.1mmol)の塩化メチレン(10ml)溶液を−78℃で加え、さらに40分間攪拌した。トリエチルアミン(6.34ml,45.6mmol)を−78℃で加え、室温にて1.5時間攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え反応を終結させた。反応液を塩化メチレンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後濃縮した。濃縮液をピリジン(12.5mL)に溶解し、ヒドロキシルアミン塩酸塩(3.5g、50.7mmol)を0℃で加え、さらに室温で6日間ヒドロキシルアミン塩酸塩(705mg、10.1mmol)を1日毎に加えながら攪拌した。反応液を塩化メチレンで希釈し、1N塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後濃縮した。濃縮液をシリカゲルクロマト(溶出液;ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、表記化合物を白色結晶として1.39g、収率86%で得た。
mp97−99℃(ヘキサン−エーテル); [α]D26−90.0°(c 1.07, CHCl3); 1H-NMR(CDCl3):δ1.14−1.32(m,6H),
1.35−1.58(m,2H), 1.64−1.79 (m,8H), 1.85−1.98 (m,6H), 5.53(d, J=10.2 Hz, 2H), 5.67(m,2H), 7.39(s,2H),
7.78 (s,2H);13C-NMR(CDCl3):δ21.5, 25.4, 28.9, 30.3, 33.2,
35.6, 45.6, 127.3, 131.3, 154.5; IR(neat): 3321, 3014, 2922, 2856, 2363, 1649,
1448, 1288, 934, 878, 754, 719, 677cm-1; FAB−LRMS: m/z 319[M+H]+;
Anal. Calcd for C19H30N2O2:
C, 71.66; H, 9.50; N, 8.80. Found: C, 71.69; H, 9.51; N, 8.64。
【0039】
[実施例4]
スピロビスイソオキサゾリン誘導体(1-A)の合成。
【化14】

(−)−2,2−ビス(2−シクロヘキセン−2−イルエチル)マロノジオキシム(866mg、2.72mmol)の塩化メチレン(54ml)溶液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(ca.5%,5.5ml)を0℃で加え、室温で24時間攪拌した。水を加えて反応を終結させ、塩化メチレンで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後、濃縮した。濃縮液をシリカゲルクロマト(溶出液;ヘキサン/酢酸エチル=1/2)により精製し、P体スピロビスイソオキサゾリン誘導体を白色結晶として69.8mg、収率8.2%で得た。
mp203℃(分解); [α]D21+95.7°(c 0.22, CHCl3); 1H-NMR(CD2Cl2):δ1.00−1.23(m,6H),
1.38−1.60(m,8H), 1.72−1.91(m,6H), 2.06−2.09(m,2H), 3.16(t, J=8.8 Hz, 2H), 4.51(ddd, J=9.4Hz,
9.3Hz, 7.1Hz, 2H); 13C-NMR(CD2Cl2):δ20.8,
25.6, 27.5, 28.3, 28.7, 32.5, 39.7, 47.5, 78.1, 160.5; IR(neat): 2934, 2853,
2245, 1452, 905, 835, 727, 648 cm-1; FAB−HRMS Calcd for C19H27N2O2
[M+H]+: 315.2073. Found: 315.2092。
【0040】
さらにシリカゲルクロマトにより得られた粗M体スピロビスイソオキサゾリン誘導体のシリカゲルクロマト精製(溶出液;ヘキサン/酢酸エチル=5/1→3/1→1/1)を再び行い、M体スピロビスイソオキサゾリン誘導体を白色結晶として531.8
mg、収率62%で得た。
mp123−125℃(エタノール); [α]D24
+40.4°(c 1.07, CHCl3); 1H-NMR(CD2Cl2):δ1.17−1.30
(m,6H), 1.40−1.63 (m,8H), 1.73−1.80 (m,2H), 1.96−2.12(m,4H), 2.43−2.55(m,2H),
3.18(dd, J=8.9 Hz, 6.7 Hz, 2H), 4.52−4.61(m,2H);
13C-NMR(CD2Cl2):δ19.4, 25.8, 27.3, 27.5, 32.4,
32.7, 39.9, 48.1, 78.1, 160.6; IR(neat): 2924, 2860, 2341, 1450, 1353, 899,
845, 729 cm-1; FAB−LRMS: m/z 315[M+H]+; Anal. Calcd for C19H26N2O2:
C, 72.58; H, 98.33; N, 8.91. Found: C, 72.51; H, 8.44; N, 9.02。
【0041】
[実施例5]
光学活性ビシクロ化合物(7)の合成。
下記式(8)で表されるジアルケニルアルコールに、式(3)で表される光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の(P)体(22mol%)とトリフルオロ酢酸パラジウム(20mol%)をパラベンゾキノン(4等量)存在下、塩化メチレン中、室温で22時間攪拌し、下記式(7)で表される光学活性化合物を、収率93%、光学純度20%eeで得た。
【化15】


【化16】

【0042】
[実施例6]
光学活性α−ヒドロキシエステル化合物(9)の合成。
α−メチルスチレンとエチルオキサリルアルデヒド(6等量)に、式(3)で表される光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の(P)体(6mol%)と銅トリフラート(5mol%)およびモレキュラーシーブス4A存在下、塩化メチレン中、0℃で30時間反応させ、下記式(9)で表される光学活性α−ヒドロキシ化合物を、収率83%、光学純度70%eeで得た。
【化17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるスピロ環骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体。
【化1】

(式中、mおよびnは0〜3の整数であり、RおよびRは水素、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数2〜3のアルケニル基を意味する。)
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和アルキル基、またはアラルキル基を意味する。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化3】

(式中、m、n、RおよびRは上述と同じである。Xはハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、または置換もしくは無置換アリールスルホニル基を表す。)
で表される光学活性シクロアルケニル化合物を塩基存在下で作用させて、下記式(4)
【化4】

(式中、m、nおよびRは上述に同じである。)
で表される光学活性ジアルケニルマロン酸ジエステルを得、
次いで、該エステルを還元により下記式(5)
【化5】

(式中、mおよびnは上述に同じである。)
で表される光学活性ジアルケニルジオールとし、
さらに、該ジオールを酸化により光学活性なジアルデヒドとした後、ヒドロキシルアミンと反応させ、下記式(6)
【化6】

(式中、mおよびnは上述に同じである。)
で表される光学活性なジアルケニルジオキシムを得、
次いで該オキシムを酸化条件下で環化することを特徴とする、下記式(1)
【化7】

(式中、m、n、RおよびRは上述に同じである)
で表されるスピロ骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体のジアステレオマー混合物の製造法。
【請求項3】
下記式(2)
【化8】

(式中、Rは上述に同じである。)
で表されるマロン酸ジエステルと、下記式(3)
【化9】

(式中、m、n、X、RおよびRは上述に同じである。)
で表される光学活性シクロアルケニル化合物を塩基存在下で作用させて、下記式(4)
【化10】

(式中、m、nおよびRは上述に同じである。)
で表される光学活性ジアルケニルマロン酸ジエステルを得、
次いで、該エステルを還元により下記式(5)
【化11】

(式中、mおよびnは上述に同じである。)
で表される光学活性ジアルケニルジオールとし、
さらに、該ジオールを酸化により光学活性なジアルデヒドとした後、ヒドロキシルアミンと反応させ、下記式(6)
【化12】

(式中、mおよびnは上述に同じである。、)
で表される光学活性なジアルケニルジオキシムを得、
次いで該オキシムを酸化条件下で環化することにより、下記式(1)
【化13】

(式中、m、n、RおよびRは上述に同じである。、)
で表されるスピロ骨格を有するスピロビスイソオキサゾリン誘導体のジアステレオマー混合物を得、
次いで、該ジアステレオマーの分離精製により必要な光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体を単離することを特徴とするスピロ骨格を有する光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体の製造法。
【請求項4】
式(2)におけるXがヨウ素原子である請求項2または3記載のスピロビスイソオキサゾリン誘導体の製造法。
【請求項5】
不斉触媒反応において、請求項1記載の式(1)で表される光学活性スピロビスイソオキサゾリン誘導体に遷移金属が配位してなる錯体の触媒としての使用。
【請求項6】
不斉触媒反応が、不斉求核付加反応であることを特徴とする請求項5記載の使用。
【請求項7】
不斉求核付加反応が、アルデヒド化合物への不斉カルボニルエン型求核付加反応であることを特徴とする請求項6記載の使用。
【請求項8】
不斉求核付加反応が、アルケニルアルコール化合物の不斉環化反応である請求項6記載の使用。

【公開番号】特開2006−76939(P2006−76939A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263647(P2004−263647)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】