説明

光学異性体用分離剤及びその製造方法

【課題】光学異性体識別能力に優れ、且つ取り扱いが容易で身体的な影響が改善された
光学異性体用分離剤とその製造方法を提供する
【解決手段】
液晶性を有するキトサン誘導体を含有することを特徴とする光学異性体用分離剤であり、
液晶性を有するキトサン誘導体が、再生キトサンより得られたキトサン誘導体で、フェニルカルバメートキトサンを用いることができる。該光学異性体用分離剤は、ジメチルアセトアミドとアセトンからなる溶剤に、液晶性を有するキトサン誘導体を溶解せしめてポリマードープとし、該ポリマードープを多孔質担体に塗布した後、減圧条件下で溶剤を除去することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異性体分離に係り、特に高速液体クロマトグラフィ用充填剤として好適な光学異性体用分離剤、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幅広い種類の光学異性体に対し、簡便、かつ、迅速に、精度良く必要成分を入手、及び分析する技術が必要とされている。高速液体クロマトグラフィによる光学分離法はその要求に応える手法として発展してきた。従来、高速液体クロマトグラフィ用光学異性体用分離剤として、セルロース、アミロース系分離剤(非特許文献1)、光学活性ポリメタクリル酸トリフェニルメチル系分離剤(特許文献1)、シクロデキストリン系分離剤(特許文献2)、オボムコイド系分離剤(特許文献3)などがある。これらの中でも特に、アミロース、セルロース系分離剤が優れた光学分離特性を示す。
【非特許文献1】Y.Okamoto,and E.Yashima,Angew Chem.Int.Ed.1998,37,1020−1043
【特許文献1】特開昭57−150432号公報
【特許文献2】特開平6−58921号公報
【特許文献3】特開昭63−307829号公報
【0003】
高速液体クロマトグラフィによる光学分離技術の発展にともない、分析はもとより、分取などにも需要が拡大し、より大きな分離係数(α)、分離度(Rs)を示す光学異性体用分離剤の開発が期待されていた。このような背景の中、従来のアミロース、セルロース誘導体による分離剤と異なった分離特性、あるいはより高度な光学異性体識別能力を得ることを目的にキチン、キトサンを原料とした光学異性体用分離剤が開示された。(特許文献4)、(特許文献5)。しかし、これらはキトサンの分子構造が不均一であるため、光学分離特性が不十分なものであった。また、溶媒に対する反応活性や反応性が低いため、ピリジン或いはトルエン等を溶媒として使用せざるを得ない。ピリジンは、短期的には目、皮膚、気道を刺激し、中枢神経、胃腸系に影響を与え、長期的には中枢神経系、肝臓、腎臓に影響を与える等毒性の大きい溶剤である。トルエンは沸点が115℃であるので、合成反応が85℃という高温で行われるため揮発し、悪臭と共に作業者の健康を害する危険がある。
【特許文献4】特開平5−148163号
【特許文献5】特開2005−17174号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は光学異性体識別能力に優れ、且つ取り扱いが容易で身体的な影響が改善された光学異性体用分離剤とその製造方法を提供することを目的とする。発明者等は、キトサン誘導体について、鋭意検討の結果、キトサン誘導体の均質な分子構造形成を達成し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明における第一の発明は、液晶性を有するキトサン誘導体を含有する光学異性体用分離剤であり、第二の発明は、液晶性を有するキトサン誘導体が再生キトサンより得られたキトサン誘導体であり、第三の発明は、液晶性を有するキトサン誘導体がフェニルカルバメートキトサンである光学異性体用分離剤である。第四の発明は、該光学異性体用分離剤が、高速液体クロマトグラフィ用光学異性体用分離剤であることを特徴とする。第五の発明は、かかる光学異性体用分離剤の製造方法であって、該方法は、ジメチルアセトアミドとアセトンからなる溶剤に、液晶性を有するキトサン誘導体を溶解せしめてポリマードープとし、該ポリマードープを多孔質担体に塗布した後、減圧条件下で溶剤を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、キトサンを再生することにより有効成分である液晶性を有するキトサン誘導体生成時の反応性を向上させ、溶媒に対する反応活性の向上や反応温度の低下を実現した。即ち、反応温度を85℃から室温までさげることが可能となった。また、多孔質担体にキトサン誘導体を溶解せしめたポリマードープを塗布する際の溶媒を、従来のピリジンからジメチルアセトアミドとアセトンに変更し、反応活性の低下を抑えつつ、安全性や臭気の問題を改善した。更に、本発明の液晶性を有するキトサン誘導体を坦持させた高速液体クロマトグラフ用光学異性体用分離剤は、分離係数(α値)及び分離度(Rs)に優れた分離能を示し、かつ取扱が容易で身体的な影響が改善された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、液晶性を有するキトサン誘導体は再生キトサンを用いて得られる。再生キトサンはキトサンを酢酸等の酸性水溶液で溶解してキトサン酸性水溶液とし、該酸性水溶液を水酸化ナトリウム等の塩基性水溶液中に滴下して得られる。 尚、キトサン原料は、脱アセチル化度80以上で平均分子量(ウベローデ粘度測定)が20,000〜200,000のものが好ましく、90,000〜170,000がより好ましい。再生キトサンの形状は、繊維状、フィルム状、ビーズ状など、何れの形状であっても構わない。
【0008】
液晶性を有するキトサン誘導体は、キトサン中の水酸基およびアミノ基の活性水素原子を、該多糖の水酸基およびアミノ基と反応しうる官能基を有する化合物と反応させ、置換することによって得られ、誘導体の種類は特に限定されない。前記化合物としては、例えばエステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、尿素結合を介して多糖と結合する化合物が挙げられる。具体的には、置換基を有していてもよい脂肪族又は芳香族カルボン酸、置換基を有していてもよい酸塩化物、酸無水物、酸エステルなどのカルボン酸誘導体、置換基を有していてもよい脂肪族もしくは芳香族イソシアン酸誘導体が挙げられる。前記芳香族基は、複素環や複合環も含む。前記芳香族基が有しても良い置換基としては、例えばアルキル基、ハロゲン、アミノ基、アルコキシル基等が挙げられる。
【0009】
本発明にあっては、再生により活性化したキトサンのアミノ基、及び水酸基がカルバメート(−OCONH−R)基に変換された誘導体が特に好ましい。基Rとしては、ベンゼン、ハロゲン化ベンゼン、およびアルキル置換ベンゼンなど、種々挙げることができるが、液晶形成能の観点からフェニル基であるフェニルカルバメートキトサンが好適である。このようにして得られたキトサン誘導体は再生キトサンを用いているため分子構造が均一であり、優れた液晶性を有する。そのため反応性が向上し、溶媒に対する反応活性や反応温度の低下が可能となった。
【0010】
本発明において、多孔性担体にキトサン誘導体を担持させるが、このような形態としては、例えば、担体へのキトサン誘導体の物理的な吸着、担体と多糖誘導体との間の化学結合、担体上の多糖誘導体同士の化学結合等が挙げられ、特に限定されない。多孔性の担体としては、公知のものの中から適宜に選択され、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等の高分子物質からなる多孔質有機担体や、シリカ、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、珪酸塩、ヒドロキシアパタイト等の多孔質無機担体を挙げることが出来るが、その中でも、シリカゲルが、有利に用いられる。また、担体の粒径は、一般に、0.1μm〜10mm程度、好ましくは1μm〜300μm程度であり、平均孔径は、1nm〜100μm、好ましくは5nm〜5μm程度である。なお、担体としてシリカゲルを用いる場合において、その表面は、残存シラノール基の影響を排除するために、表面処理が施されていることが望ましいが、勿論、そのような表面処理が施されていないものであっても、使用可能であることは言うまでもないところである。
【0011】
本発明の光学異性体用分離剤は、液晶性を有するキトサン誘導体そのものを破砕及び又は球形化することによっても製造することができる。光学異性体用分離剤の粒子は、球形化処理した粒子であることが分離度を高める上で好ましく、さらに粒度が揃えられた粒子であることが好ましい。
【0012】
光学異性体用分離剤に使用する液晶性を有するキトサン誘導体の多孔性担体への担持量は、光学異性体用分離剤100重量部に対して5〜30重量部であることが好ましく、25重量部であることが最も好ましい。塗布溶剤は、液晶性を有するキトサン誘導体を溶解することができ、除去が容易であるものならよい。例えばテトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどが使用できる。この中でアセトンとジメチルアセトアミドを容量比9:1で混合した溶液を使用することが好ましい。坦体へ塗布する際の乾燥温度は、25〜80℃の間であれば構わないが、40℃での乾燥が最も良い。なお、乾燥方法は従来公知の何れの方法も使用できるが、製造効率の観点から、減圧乾燥法が好適である。
【0013】
本発明のキトサン誘導体を坦持させた高速液体クロマトグラフィ用光学異性体用分離剤は製造に有利な条件で、従来のものの分離性能(α値)を上回る優れた分離能を示した。即ち、仕込み量をキトサンモル量に対し、10モル倍量まで下げることができた。本発明の方法により得られたキトサン誘導体は、50重量%以上の濃度でジメチルアセトアミドに溶解すると、コレステリックなリオトロピック液晶を室温下で示した。なお、コレステリック反射波長は、反応条件、濃厚溶液系の濃度、および濃厚溶液系の温度などの選択で、青〜赤までコントロールできる。一方、従来技術による追試では、従来法によるキトサン誘導体においては液晶形成能は無く、高濃度溶液を調製するとゲル化するか、或いは液晶を形成しても50℃以上の高温を必要とし、溶解性の乏しさが明らかであった。従って、本発明により得られたキトサン誘導体は、均質性が向上していることが確認できた。
【0014】
そこで、液晶性を示す誘導体を使用してシリカゲル担持型の光学異性体用分離剤を調製したところ、従来よりも良好な分離性能を示した。即ち、塗布濃度を25重量%(式1から算出)とした場合、最大の光学分離特性を示すことが分かった。
【0015】
【数1】

【0016】
キトサンに導入するカルバメート誘導体は、該多糖であるキトサンの水酸基およびアミノ基と反応しうる化合物であればよく、その種類により分離特性は変化する。高分子量の多糖ほど1分子あたりにより多くの不斉点、および、相互作用個所が増すため高い光学異性体識別能を示すことが考えられる。再生キトサンは再生することで反応性が向上しているため、大きな分子量のキトサンに対しても誘導体化が容易である。一方、非再生キトサンは分子量が増大するにつれ、キトサン誘導体の収率が低下してしまう。本発明においては、従来困難であった高分子量キトサン誘導体を簡便な手法で得ることが可能であり、再生キトサンを使用することにより高い光学異性体分離能を有する分離剤を得ることができた。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1−a]
再生キトサン誘導体の調製
キトサン(北海道曹達(株)製、HF−1、粘度平均分子量約167000)50gを逆浸透水925gに分散させた後、酢酸25gを投入し、2時間撹拌しキトサンを溶解せしめる。水酸化ナトリウム350gを逆浸透水4650gに溶解させた凝固浴に、12μmの焼結フィルターでろ過したキトサン酢酸水溶液を滴下し、キトサンビーズを造粒した。水洗後、直径約1mmに分級したキトサンビーズをターシャリ―ブチルアルコール(関東化学(株)製)で置換後、凍結乾燥を行い、38gのキトサンビーズを得た。
【0018】
凍結乾燥後のキトサンビーズ5gをキトサン誘導体の合成樹脂製の密閉容器中でジメチルアセトアミド(和光純薬工業(株)製、有機合成用)110gに浸漬させ、フェニルイソシアネート(東京化成品(株)製)35gを混合し、25℃で72時間振とうした。所定時間経過後、溶液状態となった系にエタノール20gを投入し反応を停止させる。変性エタノール500mlと逆浸透水500mlを混合した溶液中に、生成物を投入し、再生キトサン誘導体、および、フェニルイソシアネートを析出させた。得られた生成物を変性エタノール、熱した変性エタノールの順で精製を繰り返しフェニルイソシアネートの除去を行い、再生キトサン誘導体を得た。また、液晶形成能の評価を行なうため、再生キトサン誘導体を50重量%以上の濃度でジメチルアセトアミドに溶解した。収率と液晶形成能の結果を下記の表1に示す。液晶性を有する再生キトサン誘導体は、コレステリックなリオトロピック液晶を室温下で示した。
【0019】
[実施例1−b]
再生キトサン誘導体の調製
キトサン(共和テクノス(株)製、フローナックF、粘度平均分子量約90000)について、実施例1−aと同様の処理により再生キトサン誘導体を得た。収率、および、液晶形成能を表1に示す。
【0020】
[実施例1−c]
再生キトサン誘導体の調製
キトサン(共和テクノス(株)製、フローナックF−500、粘度平均分子量約20000)100gを逆浸透水455gに分散させた後、酢酸45gを投入し、2時間撹拌しキトサンを溶解せしめる。水酸化ナトリウム200gを逆浸透水4800gに溶解させた凝固浴に、12μmの焼結フィルターでろ過したキトサン酢酸水溶液を滴下した。前記キトサン(前記HF−1やフローナックF)のようにキトサンビーズを形成せず、粒子状になるため、遠心分離機にて水洗後、ターシャリーブチルアルコールで置換し、凍結乾燥を行い、再生キトサン微粒子を得た。これを使用し、実施例1−aと同様の処理により再生キトサン誘導体を得た。収率、および、液晶形成能を表1に示す。尚、キトサン(フローナックF−500)は微粒子状であるためハンドリングが極めて悪く、分離剤への検討を中止した。
【0021】
【表1】

【0022】
[比較例1−a、1−b、1−c]
非再生キトサン誘導体の調製
実施例1−a、1−b、1−cで使用したキトサン(HF−1、フローナックF、および、フローナックF―500)を使用し、実施例1−aと同様の方法でそれぞれ非再生キトサンの誘導体化を試みた(比較例1−a、1−b、1−c)。しかし、所定時間が経過しても開始時と反応系の外観に大きな変化はなかった。そこで、反応系の一部を抜き取り、希薄溶液を調製したが、全く溶解できず、反応は殆ど進行していないと思われた。よって、キトサン誘導体の調製は不可能であり、収率などの検討を行なうことができなかった(表2参照)。 このことから、非再生キトサンは再生キトサンよりも反応性が悪く、再生キトサンのような温和な条件で誘導体化を行なうことは不可能であることが明らかである。
【0023】
【表2】

【0024】
[比較例2]
非再生キトサンによるキトサン誘導体の調製
反応条件を過激にすることにより非再生キトサン誘導体の作製が可能である。実施例1−bで用いたキトサンを用いて非再生キトサン誘導体を調整した。
窒素雰囲気下、80℃で一晩、真空乾燥したキトサン(共和テクノス(株)製、フローナックF、粘度平均分子量約90000)2gを300mlの乾燥ピリジンと混合し、フェニルイソシアネート21.5gを投入後、反応系を85℃に昇温し、6時間攪拌を行った。所定時間経過後、得られた褐色溶液を水900mlとメタノール900mlを混合した溶液中で再沈殿し、1晩撹拌した。ろ過後、メタノールで精製し、非再生キトサン誘導体4.6gを得た。この時の収率は19.6%であった。実施例1−aと同様にして得られた非再生キトサン誘導体の液晶形成能を評価したところ、45重量%までしか非再生キトサンをジメチルアセトアミドに溶解させることができず、その系はゲル化し、液晶を示さなかった。45重量%以上非再生キトサン誘導体を添加した場合、液晶の形成はおろか、ジメチルアセトアミドに溶解しきれず未溶解の部分が残った。
【0025】
[実施例2]
再生キトサン誘導体と非再生キトサン誘導体のクロマト評価
キトサン(フローナックF)を出発原料とし、実施例1−a、および、比較例2で調製した非再生キトサンによるキトサン誘導体1.2gを、それぞれアセトンとジメチルアセトアミドを容量比9:1で混合した溶液16gに溶解せしめ、ポリマードープを得た。3.5gの多孔質シリカゲル(富士シリシア製、粒子径7μm、細孔径1000Å)に前記混合溶液の1/3量を均一に塗布した後、常温で3時間、40℃で3時間、減圧条件下で溶剤を留去した。これを3回繰り返し、キトサン誘導体を坦持した光学異性体用分離剤を得た。分離剤を2−プロパノールに分散し、115μmのメッシュで分級後、長さ250mm×内径4.6mmのステンレス製カラムに、スラリー法により充填し、再生キトサン誘導体担持型光学異性体分離用カラム、および、非再生キトサン誘導体担持型光学異性体分離用カラムを得た。作製した光学異性体分離用カラムにより、再生キトサン誘導体と非再生キトサン誘導体の表3に示した化合物1及び化合物2に対する不斉識別能を、液体クロマトグラフィ法により比較した。結果を表3に示す。分離係数(α)、および、分離度(Rs)はその数値が大きいほど高性能であることを示す。
【0026】
【表3】

【0027】
表3中の分離係数(α)、分離度(Rs)は次式で定義される。また、下式におけるデットタイムは測定サンプル中のテトラキス(トリメチルシリル)シランの溶出時間である。
【数2】

【数3】

【数4】

【0028】
また、実施例1−aで調製し、実施例2によって得た再生キトサン誘導体を使用したカラムにおいて、化合物1を分離したときのクロマトグラムを図1に示し、比較例2で調整し実施例2によって得た非再生キトサン誘導体を使用したカラムにおいて、化合物1を分離したときのクロマトグラムを図2に示す。更に、上記再生キトサン誘導体を使用したカラムにおいて、化合物2を分離したときのクロマトグラムを図3に示し、上記非再生キトサン誘導体を使用したカラムにおいて化合物2を分離したときのクロマトグラムを図4に示す。
【0029】
[実施例3]
再生キトサン誘導体の塗布濃度
実施例1−aの出発原料であるキトサン(HF−1)から得られた再生キトサン誘導体を使用し、シリカゲルに担持させる量を分離剤に対し5〜35重量%まで5%刻みに変え、実施例2と同様にして光学異性体分離用カラムを得た。これを用いて、表4に記載の化合物3の不斉識別能を比較した。結果を表4に示す。再生キトサン誘導体を35重量%と最も多く担持した分離剤はサイズが大きく、カラムに充填するのに適した大きさの分離剤が得られず、クロマト評価を行なうことができなかった。再生キトサンを最適値以上に過剰な担持をした場合、再生キトサン誘導体が膠着し分離剤の形状が不均一になる、また、シリカゲルの細孔が埋まり、比表面積が低下するなどの理由から、分離性能が低下する。
【0030】
【表4】

【0031】
分離剤に対しキトサン担持量を5重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離したときのクロマトグラムを図5に、キトサン担持量を10重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離したときのクロマトグラムを図6に示す。更に、キトサン担持量を15重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離したときのクロマトグラムを図7に、キトサン担持量を20重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離したときのクロマトグラムを図8に、キトサン担持量を25重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離したときのクロマトグラムを図9に、キトサン担持量を30重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離したときのクロマトグラムを図10に示す。
【0032】
[実施例4]
最適塗布濃度における再生キトサン誘導体の光学異性体分離能
実施例3において塗布濃度の最適値は25重量%であることが示された。再生キトサン誘導体を25重量%塗布した光学異性体分離用カラムにより化合物1〜3を測定した。結果を表5に示す。
【0033】
【表5】

【0034】
なお、液体クロマトグラフィ評価は、nーヘキサンと2−プロパノールの体積比が95対5である混合溶媒を移動相に用い、測定試料は移動相に0.005mg/mlのテトラキス(トリメチルシリル)シラン(関東化学(株)製)をマーカーとして溶解させた溶液に化合物を0.5mg/ml溶解させたものを用いた。
移動相の流速は1.0ml/ml、検出波長は254nm、温度は25℃とした。評価装置は、液体クロマトグラフ装置((株)日立製作所製、ポンプ:L-7100、UV検出器:L−4200H、カラムオーブン:L−5030)、および、デガッサー(Lab−Quatec製,GT103)を用いた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例2の再生キトサン誘導体(実施例1−aによる)を使用したカラムにおいて化合物1を分離した時のクロマトグラムである。
【図2】実施例2の非再生キトサン誘導体(比較例2による)を使用したカラムにおいて化合物1を分離した時のクロマトグラムである。
【図3】実施例2の再生キトサン誘導体(実施例1−aによる)を使用したカラムにおいて化合物2を分離した時のクロマトグラムである。
【図4】実施例2の非再生キトサン誘導体(比較例2による)を使用したカラムにおいて化合物2を分離した時のクロマトグラムである。
【図5】実施例3において分割剤に対しキトサン誘導体担持量を5重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離した時のクロマトグラムである。
【図6】実施例3において分割剤に対しキトサン誘導体担持量を10重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離した時のクロマトグラムである。
【図7】実施例3において分割剤に対しキトサン誘導体担持量を15重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離した時のクロマトグラムである。
【図8】実施例3において分割剤に対しキトサン誘導体担持量を20重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離した時のクロマトグラムである。
【図9】実施例3において分割剤に対しキトサン誘導体担持量を25重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離した時のクロマトグラムである。
【図10】実施例3において分割剤に対しキトサン誘導体担持量を30重量%とした光学異性体分離用カラムで、化合物3を分離した時のクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性を有するキトサン誘導体を含有することを特徴とする光学異性体用分離剤。
【請求項2】
液晶性を有するキトサン誘導体が、再生キトサンより得られたキトサン誘導体であるこ
とを特徴とする請求項1に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項3】
液晶性を有するキトサン誘導体がフェニルカルバメートキトサンであることを特徴とす
る請求項1または請求項2に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項4】
該光学異性体用分離剤が、高速液体クロマトグラフィ用光学異性体用分離剤であること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学異性体用分離剤。
【請求項5】
ジメチルアセトアミドとアセトンからなる溶剤に、液晶性を有するキトサン誘導体を溶解せしめてポリマードープとし、該ポリマードープを多孔質担体に塗布した後、減圧条件下で溶剤を除去することを特徴とする光学異性体用分離剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−271436(P2007−271436A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97019(P2006−97019)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)