説明

光学素子および光学素子の製造方法ならびに微細凹凸構造および成形型

【課題】反射防止性能等の光学性能を向上させることが可能な技術を提供する。
【解決手段】凸頂部12の稜線部13が網目状に連続する凸部11に囲まれた凹部15を有する微細凹凸構造10において、凸頂部12に、凹部15よりも微細な上部凹部18(例えば、上部凹部18a〜上部凹部18e)をランダムに形成し、凸頂部12に上部凹部18が形成された凸部11の高さが一定でないようにして、光が入射する最表面での平坦部の影響を解消して、異方性のない光の反射防止効果を向上させた微細凹凸構造10である。この微細凹凸構造10を型として逆の凹凸を有する微細凹凸構造としても同様の反射防止効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子および光学素子の製造方法ならびに微細凹凸構造および成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子を用いて構成される光学系では、個々の光学素子の光学機能面における入射光の反射は、入射光量の損失や、反射光の予期し得ない散乱による光学性能の低下等の要因となり好ましくない。
そこで、従来ではレンズ等の光学素子の表面に反射防止コーティングが行なわれていた。
【0003】
そして近年では、反射防止コーティングの代わりに、広い波長帯域および広範囲の入射角度での光の反射抑制が可能、光学素子との一体化が可能、等の種々の利点を有する表面無反射構造が提案されている。
【0004】
この表面無反射構造、すなわち反射防止構造は、光学素子の光学機能面に入射光の波長以下の微細な凹凸を形成することによって実現されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、反射防止膜製造用のスタンパを金型として用いて射出成形することにより、均一なピッチおよび高さ、あるいは深さの微細構造体を、光透過性プラスチック基板の表面に形成することで、反射防止効果を発現させようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−43203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の従来技術では以下の技術的課題が残されていた。
すなわち、反射防止効果を効果的に得るためには、光が入射する最表面部の平坦部を極力減らし鋭利な形状とすることが必要であるが、射出成形等で作製した微細構造体においては、光が入射する最表面部を鋭利な形状にすることが難しく、平坦部の占める割合が多くなり反射防止効果が減少する、という技術的課題がある。
【0008】
本発明の目的は、反射防止性能等の光学性能を向上させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、稜線部が網目状に連続する凸部と、前記凸部に囲まれた複数の凹部とを含み、隣接する前記凸部または前記凹部の中心部を通る断面における前記凸部の頂部および前記凹部の底部の少なくとも一方に、前記断面における前記凸部の第1凸部幅または前記凹部の第1凹部幅よりも小さい第2凸部幅または第2凹部幅を有する複数の微細構造体が形成された微細凹凸構造を具備した光学素子を提供する。
【0010】
本発明の第2の観点は、稜線部が網目状に連続する凸部に囲まれた複数の凹部を含み、隣接する前記凸部または前記凹部の中心部を通る断面における前記凸部の頂部および前記凹部の底部の少なくとも一方に、前記断面における前記凸部の第1凸部幅または前記凹部の第1凹部幅よりも小さい第2凸部幅または第2凹部幅を有する複数の微細構造体が形成された微細凹凸構造を、光学素子の表面に形成する光学素子の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第3の観点は、稜線部が網目状に連続する凸部と、前記凸部に囲まれた複数の凹部とを含み、隣接する前記凸部または前記凹部の中心部を通る断面における前記凸部の頂部および前記凹部の底部の少なくとも一方に、前記断面における前記凸部の第1凸部幅または前記凹部の第1凹部幅よりも小さい第2凸部幅または第2凹部幅を有する複数の微細構造体が形成されている微細凹凸構造を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、反射防止性能等の光学性能を向上させることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明の一実施の形態である微細凹凸構造の構成の一例を示す略平面図である。
【図1B】本発明の一実施の形態である微細凹凸構造の構成の一例を示す断面図である。
【図1C】本発明の一実施の形態である微細凹凸構造における基本構造の一例を説明するための概念図である。
【図2A】本発明の他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す平面図である。
【図2B】本発明の他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態である光学素子の製造方法によって得られた光学素子の構成例を示す斜視図である。
【図8】本発明の他実施の形態である光学素子の製造方法によって得られた光学素子の構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態では、一態様しとして、凹または凸形状の微細構造体の隣接する断面での凸断面形状の頂点部に、前記断面形状での凹部幅もしくは凸部幅よりも小さな凹形状または凸形状の微細構造体を形成させる。これにより、光が入射する最表面部の平坦部を減らすことができ、反射防止効果をより効率的に得ることができる。
【0015】
より具体的には、一例として、光学素子表面の少なくとも一部に、ベースとなる微細構造体の頂点部や、凹部の底に小さなサイズの微細構造体を形成させる。
これにより、光が入射する最表面部の平坦部を減らすことが可能となり、例えば、可視光波長に対して反射防止効果を効率的に得ることが可能となる。
【0016】
また、それぞれの小さいサイズの微細構造体が形成されたベースの微細構造体の高さまたは深さがバラツキを持ち一定でない形状とする。
【0017】
これにより、反射防止効果がさらに向上するとともに、均一なピッチや高さおよび深さの微細構造体において生じるような、特定の光入射方向に対して反射防止効果が大きく減少する異方性や、干渉縞等を抑止できる。
【0018】
以上のことから、光学素子の最表面の平坦部を減らすことが比較的容易に可能となるとともに、高さまたは深さがランダムなことから異方性も抑制され、反射防止性能等の光学性能を向上させた光学素子を得ることができる。
なお、「反射防止効果が、レンズ表面に入射するある特定の入射方向の光に対して悪化すること。」を本願では反射防止効果の異方性という。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1Aは、本発明の一実施の形態である微細凹凸構造の構成の一例を示す略平面図である。
図1Bは、本発明の一実施の形態である微細凹凸構造の構成の一例を示す断面図である。
図1Cは、本発明の一実施の形態である微細凹凸構造における基本構造の一例を説明するための概念図である。
【0020】
なお、本実施の形態では、各図において、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向、は図示のとおりとする。
図1Aは基板上に形成された微細凹凸構造10(微細凹凸構造)を上面から見た図であり、図1Bは図1Aの線A−A’部分の断面図を示している。
【0021】
本実施の形態の微細凹凸構造10は、凸頂部12(頂部)を連ねた稜線部13(稜線部)に沿って網目状に連続する凸部11(凸部)に取り囲まれるように複数の凹部15(凹部)が配列された構成となっている。
【0022】
例えば、微細凹凸構造10が配置形成される後述のプリズム110のような光学素子の光学面が平面の場合には、当該光学面に平行なX−Y平面が凹部15の配列面であり、凹部15の深さ方向(すなわち光学面の法線方向)がZ方向である。
【0023】
本実施の形態の微細凹凸構造10の場合、凸部11の稜線部13から分かれる稜曲面14(すなわち凹部15の内周面17)は、外側、すなわち凹部15の側に凸となっており、凸部11の断面の幅寸法が凹部15の深さ方向に曲線的に増加している。
すなわち、連続した凸部11に囲まれた凹部15の断面形状は、例えば、凹底部16に向かって先細りの略ロート形を呈している。
【0024】
このように、本実施の形態の微細凹凸構造10は、単に配列面であるX−Y平面に穴を離散的に配列形成した構造とは全く異なり、隣り合う凹部15と凹部15の境界部にはX−Y平面に平行な平坦部はほとんど存在せず、凸部11の凸頂部12を連ねて網目状に連続する稜線部13を境に隣り合う凹部15の内部に落ち込む稜曲面14が存在するだけである。そして、この凸部11の稜曲面14が、同時に凹部15の内周面17となる構造である。
【0025】
そして、微細凹凸構造10が配置される光学面が平面の場合には、微細凹凸構造10の稜線部13の包絡面が平面となり、光学面が曲面の場合には、微細凹凸構造10の稜線部13の包絡面が当該曲面となる。
ここで、本実施の形態の微細凹凸構造10の形状を特徴付ける各種寸法の一例について説明する。
【0026】
凸頂部12から凹底部16までのZ方向の距離が、凸部11の凸部高さHであり、同時に凹部15の凹部深さDであり、構造的に両者は等しい。
また、凹部15の中心(本実施の形態での正確な定義は後述する)を通り、Z方向に平行な線が、凹部15の中心線15cである。
【0027】
そして、隣り合う個々の凹部15の中心線15cを含む断面が、線A−A’の断面である。
なお、図1Aの例では、線A−A’は直線であるが、複数の凹部15の各々の中心線15cを連ねるX−Y平面内の直線がジグザグの場合もあり得る。
【0028】
線A−A’の断面において、凸部高さHの1/2(=H/2)の位置における幅が、凸部11の凸部幅Wh(第1凸部幅)である。
同様に、凹部15の凹部幅Wd(第1凹部幅)は、凹部深さDの1/2(=D/2)における幅である。
【0029】
また、線A−A’の断面において凸部11を挟んで隣り合う二つの凹部15の中心線15cの距離が凹部中心部間距離Lである。
本実施の形態の微細凹凸構造10における上述の各部寸法の具体的な一例を以下に例示する。
すなわち、凹部深さDの平均値は、一例として200nm、凸部高さHの平均値は、一例として200nmである。
【0030】
また、凸部幅Whの平均値は、一例として60nm、凹部幅Wdの平均値は、一例として45nm、である。
また、凹部中心部間距離Lの平均値は、一例として105nmである。
【0031】
そして、本実施の形態の微細凹凸構造10による反射防止を実現する対象が、例えば可視光線(波長380nm〜780nm)の場合には、微細凹凸構造10における凹部中心部間距離Lの最大値Lmaxは、Lmax<380nmに設定される。
【0032】
ここで、図1Cを参照して、本実施の形態の微細凹凸構造10における各部の寸法やばらつきを評価する方法の一例を説明する。
上述の図1Aの例では、個々の凹部15のX−Y平面に平行な平面での断面形状は略円形の場合が例示されているが、例えば、楕円形、繭形、勾玉形等の任意の閉曲線の図形でもよい。
【0033】
また、図1Cでは、図示の便宜上、凹部15の輪郭を円形の実線で例示しているが、実際は、周囲の凸部11の稜線部13から凹底部16まで連続する曲面としての内周面17(稜曲面14)によって凹部15は形成されている。
なお、図1Cでは、凸頂部12(稜線部13)に形成される上部凹部18(微細構造体)の図示は省略されている。
【0034】
この本実施の形態では、一例として、図1Cに例示されるように、任意の形状の凹部15の中心は、当該凹部15を取り囲む凸部11の稜線部13が交差するすべての稜線交点13aを頂点とする多角形15aの重心15b(中心部)と定義する。
そして、中心線15cは、この重心15bを通りZ方向に平行な線分である。
【0035】
また、凹部中心部間距離Lは、微細凹凸構造10の配置面が平面や曲面に関係なく、隣り合う凹部15の重心15b間の距離とする。
【0036】
本実施の形態の微細凹凸構造10では、必要に応じて凹部15のサイズや形状(この場合、多角形15aの大きさや形状、さらには凹部15の位置関係、等)にばらつきを持たせて、微細凹凸構造10がむらなく配置されるようにすることができる。
【0037】
この場合の微細凹凸構造10における凹部15のサイズや形状、配列位置関係等のばらつきを評価する指標として、本実施の形態では、一例として、上述の多角形15aの稜線交点間距離15dのばらつきを用いることができる。
【0038】
ここで、図1Aおよび図1Bに例示されるように、本実施の形態の微細凹凸構造10の場合には、凹部15の間に位置する凸頂部12の稜線部13には、微細な上部凹部18がランダムに形成されている。
【0039】
この上部凹部18の上部凹部幅Wdt(第2凹部幅)は、凹部15の凹部幅Wd(第1凹部幅)よりも小さくなっている。なお、上部凹部幅Wdtの測定位置は、凹部幅Wdと同様に、上部凹部18の上部凹部深さDtの1/2の位置である。
【0040】
図1Aおよび図1Bに例示された断面A−A′の例では、断面上に位置する個々の凸頂部12に対して、上部凹部18として、右側から順に、一つの上部凹部18a、二つの上部凹部18bおよび上部凹部18c、一つの上部凹部18d、上部凹部18eが形成された場合が例示されている。
【0041】
なお、図1Aおよび図1Bの場合には、説明を分かりやすくするため、上部凹部18は、凸頂部12の稜線部13に一致する位置に形成された場合が例示されているが、上部凹部18の中心が稜線部13から逸れた位置に、隣り合う凹部15の周辺部を浸食する状態で形成される場合もある。
【0042】
そして、この上部凹部18a〜上部凹部18eの形成によって凸頂部12が高さ方向に浸食されることにより、上部凹部18の形成位置の凸頂部12では、凸部高さHが、凸部高さH1〜凸部高さH4のように、上部凹部18のない凸部11の凸部高さHよりも小さい範囲で、一定でないように、ばらついている。
【0043】
すなわち、この例では、比較的小さな上部凹部18aが形成された凸頂部12では、凸部高さH4が凸部高さHよりもわずかに小さくなり、二つの上部凹部18bおよび上部凹部18cが形成された凸頂部12では、比較的大きく凸頂部12が浸食されることにより、凸部高さH4よりも低い凸部高さH3となっている。
【0044】
また、一つの上部凹部18dが、凸頂部12の両隣の凹部15に達する程度に大きく形成された部位では、凸頂部12の凸部高さH2が、上述の二つの場合の凸部高さH3と同程度になっている。
また、一つの上部凹部18eが形成された部位の凸頂部12では、凸頂部12の凸部高さH1が、凸部高さH2よりもわずかに高くなっている。
【0045】
このように、凹部15の間の凸頂部12に、さらに微細な上部凹部18が形成されていることにより、光が入射する最表面である凸頂部12の平坦部を減らすことができ、凸頂部12における光の反射が防止され、微細凹凸構造10の反射防止効果が一層大きくなる。
【0046】
また、上部凹部18の形成部位である凸頂部12の凸部高さHが、凸部高さH1〜凸部高さH4のように、適度にばらつくことにより、光の反射防止効果が一層向上するとともに、反射防止効果の異方性も効果的に解消される。
【0047】
また、凸頂部12の稜線部13が網目状に連続していることにより、摺動摩擦等に対する変形強度も大きくなり、外力による損傷を受けにくくなる。
【0048】
(実施の形態2)
図2Aは、本発明の他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す平面図である。
図2Bは、本発明の他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。なお、図2Bは、図2Aにおける線B−B′の部分の断面を示している。
【0049】
この実施の形態2の微細凹凸構造20の場合、凹部15の凹底部16に、凹部15よりも小さい下部凹部19(微細構造体)が形成されている。
すなわち、微細凹凸構造20の個々の凹部15の凹底部16には、ランダムな個数の下部凹部19(例えば、下部凹部19a〜下部凹部19g)が形成されている。
【0050】
下部凹部19の下部凹部深さDbは、凹部15の凹部深さDよりも小さい。同様に、下部凹部19の下部凹部幅Wdb(第2凹部幅)は、凹部15の凹部幅Wdよりも小さい。
なお、下部凹部19の下部凹部幅Wdbは、下部凹部深さDbの1/2の位置での測定値である。
【0051】
このように、本実施の形態の微細凹凸構造20では、個々の凹部15の凹底部16に、凹部15よりも小さい下部凹部19がランダムに形成されていることにより、微細凹凸構造20の凹部15の凹底部16における平坦部がほとんどなくなり、反射防止効果が、凹部15のみの場合よりも一層高くなるという効果が得られる。
【0052】
(実施の形態3)
図3は、本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
この実施の形態3の微細凹凸構造30は、上述の微細凹凸構造10と微細凹凸構造20の構造を組み合わせた例が示されている。
【0053】
すなわち、凹部15の間の凸部11の凸頂部12には、凹部15よりも小さい上部凹部18(例えば、上部凹部18a〜上部凹部18e)がランダムに形成されているとともに、凹部15の凹底部16には、凹部15よりも小さい下部凹部19(例えば、下部凹部19a〜下部凹部19g)がランダムに形成されている。
【0054】
この微細凹凸構造30の場合には、凸部11の凸頂部12および凹部15の凹底部16の双方の平坦部が、上部凹部18および下部凹部19の形成によって解消され、微細凹凸構造10や微細凹凸構造20よりもさらに高い光の反射防止効果、さらには反射防止効果の異方性の低減効果が得られる。
【0055】
(実施の形態4)
図4は、本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
この微細凹凸構造40(第2微細凹凸構造)は、上述の実施の形態1に例示された微細凹凸構造10を型として当該微細凹凸構造10の凹凸パターンが転写された凹凸形状を有する。
【0056】
すなわち、この微細凹凸構造40では、上述の微細凹凸構造10の複数の凹部15に対応した複数の孤立した凸部41を備え、これらの凸部41の間の位置に、上述の上部凹部18に対応した下部凸部42(例えば、下部凸部42a〜下部凸部42e)が形成された形状を呈している。
【0057】
この場合、凸部41の凸部高さHrは、上述の凹部15の凹部深さDとほぼ等しい。同様に、下部凸部42の下部凸部高さHbrは、上部凹部深さDtとほぼ等しい。
凸部41の凸部幅Whrは、凹部幅Wdとほぼ等しい。また、下部凸部42の下部凸部幅Whbr(第2凸部幅)は、上部凹部幅Wdtとほぼ等しい。
下部凸部幅Whbr(第2凸部幅)は、凸部幅Whr(第1凸部幅)よりも小さい。
【0058】
この微細凹凸構造40の場合には、孤立した微細な凸部41の間に、さらに微細な下部凸部42が存在するとともに、個々の凸部41の凸部高さHrもランダムになるので、光が入射する最表面部での平坦部がほとんどなくなり、高い光の反射防止効果が得られる。
また、凸部41の高さは一定でないので、反射防止効果の異方性の低減に効果がある。
【0059】
(実施の形態5)
図5は、本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
この実施の形態5の微細凹凸構造50(第2微細凹凸構造)は、上述の実施の形態2に例示された微細凹凸構造20を型に用いて転写形成された構造を有している。
【0060】
すなわち、この微細凹凸構造50では、上述の微細凹凸構造20の凹部15に対応した孤立した複数の凸部41が形成されている。
【0061】
さらに、個々の凸部41の先端部には、上述の微細凹凸構造20の下部凹部19(例えば、下部凹部19a〜下部凹部19g)に対応した一つまたは複数の、さらに微細な上部凸部43(例えば、上部凸部43a〜上部凸部43g)がランダムに形成されている。
【0062】
この場合も、凸部41の凸部高さHrは、凹部15の凹部深さDにほぼ等しく、上部凸部43の上部凸部高さHtrは、下部凹部19の下部凹部深さDbにほぼ等しい。また、上部凸部43の上部凸部幅Whtr(第2凸部幅)は、下部凹部幅Wdbとほぼ等しい。
上部凸部幅Whtr(第2凸部幅)は、凸部幅Whr(第1凸部幅)よりも小さい。また、上部凹部幅Wdtr(第2凹部幅)は、凹部幅Wdr(第1凹部幅)より小さい。
【0063】
このように、この実施の形態5の微細凹凸構造50の場合には、孤立した微細な凸部41の先端部に、さらに微細な上部凸部43がランダムに形成された構造であるため、光の反射防止効果および反射防止効果の異方性の低減効果を大きくすることができる。
【0064】
(実施の形態6)
図6は、本発明のさらに他の実施の形態である微細凹凸構造の構成例を示す断面図である。
この実施の形態6の微細凹凸構造60(第2微細凹凸構造)は、上述の実施の形態3に例示された微細凹凸構造30を型として用いて転写形成された構造を有している。
【0065】
すなわち、この微細凹凸構造60は、孤立した複数の凸部41と、その先端部にランダムに形成された、さらに微細な上部凸部43(例えば、上部凸部43a〜上部凸部43g)、および凸部41の間にランダムに形成された下部凸部42(例えば、下部凸部42a〜下部凸部42e)を備えた構造となっている。
【0066】
これにより、上述の微細凹凸構造40と、微細凹凸構造50の光の反射防止効果を併せた、一層大きな反射防止効果および反射防止効果の異方性の低減効果が得られる。
【0067】
(実施の形態7)
図7は、本発明の一実施の形態である光学素子の製造方法によって得られた光学素子の構成例を示す斜視図である。
図7には、上述の実施の形態1〜実施の形態6に例示された微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60を備えた光学素子K1の一例としてプリズム110の場合が例示されている。
【0068】
このプリズム110は、三角柱の三つの側面の各々に、反射コート形成面111、入射面112、出射面113が配置されている。
反射コート形成面111は、例えば、アルミニウム被覆層からなる反射面である。
【0069】
そして、光120の光路121に例示されるように、入射面112から入射した光120は、反射コート形成面111で反射され、出射面113から出射する。
入射面112および出射面113の各々の表面には、上述の微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60のいずれかが形成されている。
【0070】
この場合、入射面112および出射面113の各々の平面が上述の微細凹凸構造10におけるX−Y平面であり、法線方向が、Z方向となる位置関係である。
【0071】
本実施の形態の微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60を備えた光学素子K1であるプリズム110によれば、入射面112および出射面113等の表面に形成された微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60により、高い反射防止効果が実現され、高い光学性能を実現できる。
【0072】
さらに、微細凹凸構造10〜微細凹凸構造30を備えた場合には、凹部15を取り囲む凸部11が、その凸頂部12を連ねた稜線部13が網目状に連続するように連続的に形成されていることにより、凸部が単独で孤立して形成されている形状に比べて、凸部11の外力に対する強度が大幅に向上する。
【0073】
さらに、本実施形態においては、一例として、凹部中心部間距離Lの平均値を可視光波長以下の105nmとすることにより、可視光線に対する微細凹凸構造10の反射防止効果がより顕著に発現される。
【0074】
(実施の形態8)
図8は、本発明の他実施の形態である光学素子の製造方法によって得られた光学素子の構成例を示す斜視図である。
【0075】
本実施の形態8の光学素子K2は、図8に例示されるように、例えば、第1面として有効径D0が5.4mm、曲率半径R0が3.5mmの球面である凸光学面131と、第2面として平光学面132を備えた平凸レンズ130である。
【0076】
そして、第1面である凸光学面131に、上述の実施の形態1〜実施の形態6に例示された微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60が形成されている。
なお、必要に応じて、平光学面132にも微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60を形成してよい。
【0077】
この場合、微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60が形成される凸光学面131が曲面であるため、上述のZ方向(凹部15の中心線15cの方向)が、凸光学面131の法線方向となるように、当該微細凹凸構造10が形成される。
【0078】
この場合、曲面からなる凸光学面131の表面全体で均一に、しかも異方性を生じないような反射防止効果が得られるように、凸光学面131の設計形状に合わせて、凹部15または凸部41のサイズや配列状態が決定することができる。すなわち、凹部15や凸部41に関する上述の凹部中心部間距離Lや、稜線交点間距離15dの標準偏差等のパラメータが設定される。
【0079】
本実施の形態8の光学素子K2によれば、表面に微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60を形成することにより、光が入射する最表面での平坦部による影響を解消して高い反射防止効果を実現できる。
【0080】
さらに、本実施の形態2においては凹部中心部間距離Lを可視光波長以下の105nmとすることにより、可視光線に対する微細凹凸構造10の反射防止効果がより顕著に発現される光学素子K2を提供することができる。
【0081】
すなわち、光学素子K2としての平凸レンズ130の凸光学面131に微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60が形成されていることにより、可視光波長に対して反射防止効果および高い光の透過率を具備する光学素子K2を提供することができ、また、入射光を効率よく集光することができる。
【0082】
このように、微細凹凸構造10を備えた平凸レンズ130は、入射光を効率よく集光できることにより、様々な光学系への適応が可能となる。
【0083】
なお、光学系において、特に入射側の第1面などの光が入射する位置に本実施の形態の、光学素子K1や光学素子K2を配置することにより、光学面内においてより効果的に反射防止効果を得ることができるため、高い反射防止能を有する光学系を構築することが可能となる。
【0084】
なお、上述の実施の形態1〜実施の形態3において凸部11と凸部11の間の凹部15の深さが反射防止効果および強度などの効果が実現できる範囲で異なってもよい。このような場合でも、凸頂部12が稜線部13をなすように連続して形成された凸部11と見なすことができる。
【0085】
なお、実施の形態8において、光学素子K2として、一方が凸光学面131で他方が平光学面132の平凸レンズ130を例示したが、両面とも曲面でも良く、また曲面形状であれば球面、非球面、自由曲面など、どのような曲面であっても構わない。また、微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60が形成される光学面が凹面の凹レンズでもよい。
【0086】
なお、実施の形態8において、凸光学面131における微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60の形成方向(この場合、凹部15の中心線15cの方向、またはZ方向)は反射防止効果および強度などの本発明の効果が保たれる範囲で、平凸レンズ130の光軸133に対して、同じ方向や傾いた方向など、凸光学面131の法線方向からずれて形成しても構わない。
【0087】
ここで、本発明の上述の各実施の形態における光学素子K1および光学素子K2等に備えられる反射防止効果を有する微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60の形成方法について説明する。
本実施の形態の光学素子においては、どのような方法を用いて光学素子基板および光学素子曲面に微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60を形成しても構わない。
【0088】
微細凹凸構造10〜微細凹凸構造30を形成する方法としては、形成しようとする微細凹凸構造10〜微細凹凸構造30とは逆の凹凸形状を有する成形型を用いて光学素子を成形すると同時に光学素子曲面に微細凹凸構造10〜微細凹凸構造30を形成する方法を用いることができる。
【0089】
また、微細凹凸構造40〜微細凹凸構造60は、上述のように、微細凹凸構造10〜微細凹凸構造30を型として形成することができる。
【0090】
あるいは、光学素子の表面に硬化性材料を形成した後に形成しようとする微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60とは逆の凹凸形状を有する成形型を用いて硬化性材料に微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60の形状を転写し、硬化性材料を硬化させる方法を用いることができる。
【0091】
あるいは、光学素子曲面に直接的に電子線描画する方法を用いることができる。
また、これらの方法を任意に組み合わせて用いても構わない。
なお、形成しようとする微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60とは逆の凹凸形状を有する成形型の製作方法においてもどのような方法を用いても構わない。
【0092】
例えば半導体プロセスの電子線描画やイオンエッチングなどのリソグラフィー技術を利用して型基材に形成しようとする微細凹凸構造とは逆形状の微細凹凸構造を形成して型を作製する方法を用いることができる。
【0093】
あるいは、型基材に、目的の微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60を形成した後、ニッケル(Ni)などの金属を用いて電鋳法により反転型を作製する方法を用いることもできる。
【0094】
なお、この微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60の転写による形成の場合には、光学素子K1〜光学素子K2の基材の成形時に同時に形成してもよいし、基材の表面に被着された樹脂層に微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60を転写形成してもよい。
【0095】
あるいは、微細凹凸構造10〜微細凹凸構造60が転写された透明なシートを光学素子K1や光学素子K2の基材の表面に貼りつける方法でもよい。
以上のように、本発明の各実施の形態の光学素子によれば、光が入射する最表面部の平坦部をほとんどなくして、異方性のない高い反射防止効果等の光学性能を有する光学素子を提供することができる。
【0096】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0097】
(付記1).可視光波長よりも短い周期の凹部または凸部の複数の微細構造体の、隣接する凹部または凸部の中心線を通る断面において、凸断面形状頂点部の少なくとも一部に、前記断面における凹部幅または凸部幅よりも小さい凹部幅または凸部幅を有する複数の微細構造体が、光学素子表面の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする反射防止光学素子。
【0098】
(付記2).微細構造体の凹部深さまたは凸部高さが一定ではないことを特徴とする付記1記載の反射防止光学素子。
(付記3).光学素子表面が曲面であることを特徴とする付記1または付記2に記載の反射防止光学素子。
【符号の説明】
【0099】
10 微細凹凸構造
11 凸部
12 凸頂部
13 稜線部
13a 稜線交点
14 稜曲面
15 凹部
15a 多角形
15b 重心
15c 中心線
15d 稜線交点間距離
16 凹底部
17 内周面
18 上部凹部
18a 上部凹部
18b 上部凹部
18c 上部凹部
18d 上部凹部
18e 上部凹部
19 下部凹部
19a 下部凹部
19g 下部凹部
20 微細凹凸構造
30 微細凹凸構造
40 微細凹凸構造
41 凸部
42 下部凸部
42a 下部凸部
42e 下部凸部
43 上部凸部
43a 上部凸部
43g 上部凸部
50 微細凹凸構造
60 微細凹凸構造
110 プリズム
111 反射コート形成面
112 入射面
113 出射面
120 光
121 光路
130 平凸レンズ
131 凸光学面
132 平光学面
133 光軸
D 凹部深さ
Db 下部凹部深さ
Dt 上部凹部深さ
H 凸部高さ
Hbr 下部凸部高さ
Hr 凸部高さ
Htr 上部凸部高さ
K1 光学素子
K2 光学素子
Wd 凹部幅
Wdb 下部凹部幅
Wdt 上部凹部幅
Wdr 凹部幅
Wdtr 上部凹部幅
Wh 凸部幅
Whbr 下部凸部幅
Whr 凸部幅
Whtr 上部凸部幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
稜線部が網目状に連続する凸部と、前記凸部に囲まれた複数の凹部とを含み、隣接する前記凸部または前記凹部の中心部を通る断面における前記凸部の頂部および前記凹部の底部の少なくとも一方に、前記断面における前記凸部の第1凸部幅または前記凹部の第1凹部幅よりも小さい第2凸部幅または第2凹部幅を有する複数の微細構造体が形成された微細凹凸構造を具備したことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1記載の光学素子において、
前記微細凹凸構造における前記断面において、前記凸部の凸部高さ、および前記凹部の凹部深さ、の少なくとも一方が、一定ではないことを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の光学素子において、
前記微細凹凸構造を型として得られ、当該微細凹凸構造とは凹凸が逆の第2微細凹凸構造を備えたことを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光学素子において、
前記微細凹凸構造における隣り合う前記凹部の前記中心部の距離の最大値が、使用する光の波長よりも小さいことを特徴とする光学素子。
【請求項5】
稜線部が網目状に連続する凸部に囲まれた複数の凹部を含み、隣接する前記凸部または前記凹部の中心部を通る断面における前記凸部の頂部および前記凹部の底部の少なくとも一方に、前記断面における前記凸部の第1凸部幅または前記凹部の第1凹部幅よりも小さい第2凸部幅または第2凹部幅を有する複数の微細構造体が形成された微細凹凸構造を、光学素子の表面に形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の光学素子の製造方法において、
前記微細凹凸構造における前記断面において、前記凸部の凸部高さ、および前記凹部の凹部深さ、の少なくとも一方を変化させることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の光学素子の製造方法において、
前記微細凹凸構造を型として、当該微細凹凸構造とは凹凸が逆の第2微細凹凸構造を、前記光学素子の表面に形成することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法において、
前記微細凹凸構造における隣り合う前記凹部の前記中心部の距離の最大値が、使用する光の波長よりも小さいことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
稜線部が網目状に連続する凸部と、前記凸部に囲まれた複数の凹部とを含み、隣接する前記凸部または前記凹部の中心部を通る断面における前記凸部の頂部および前記凹部の底部の少なくとも一方に、前記断面における前記凸部の第1凸部幅または前記凹部の第1凹部幅よりも小さい第2凸部幅または第2凹部幅を有する複数の微細構造体が形成されていることを特徴とする微細凹凸構造。
【請求項10】
請求項9記載の微細凹凸構造において、
前記微細凹凸構造における前記断面において、前記凸部の凸部高さ、および前記凹部の凹部深さ、の少なくとも一方が一定ではないことを特徴とする微細凹凸構造。
【請求項11】
請求項9または請求項10記載の微細凹凸構造において、
隣り合う前記凹部の前記中心部の距離の最大値が、使用する光の波長よりも小さいことを特徴とする微細凹凸構造。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の微細凹凸構造を型として得られ、当該微細凹凸構造とは凹凸が逆の第2微細凹凸構造を呈することを特徴とする微細凹凸構造。
【請求項13】
請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の微細凹凸構造を成形面に付与したことを特徴とする成形型。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−107195(P2011−107195A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259039(P2009−259039)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】