説明

光学素子保持装置及びそれを有するレンズ装置、撮像装置

【課題】 強固に保持した光学素子に対し、簡素な構造を用いて光学素子を変形させ、レンズ全体の結像性能を補正可能な光学素子保持装置を提供すること。
【解決手段】 光学素子保持装置は、光学素子を支持する支持手段と、該光学素子に隣接して光軸方向に押圧し該光学素子を該支持手段に対して固定する環状の固定手段と、該光学素子の複数の箇所に対して、該光学素子を該支持手段に対して光軸方向の成分を有する方向に押圧する押圧力を調整する調整手段と、を有する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、光学フィルター等の光学素子を保持する光学素子保持装置に関し、例えばTVレンズ等の撮像装置に用いられるレンズ鏡筒等のレンズ装置、撮像装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
レンズ系においては、高い結像性能が求められている。例えば、放送用TVレンズを構成するレンズ系においては、撮影映像のHD(ハイビジョン)化等により高い結像性能が求められている。そのため、レンズ系を構成する個々のレンズの収差を低く抑える必要がある。しかし、レンズの加工や保持により、レンズに変形が生じ、その結果として非点収差が発生するので、レンズ系を構成する個々のレンズの収差を低く抑えることのみによる、レンズ系の結像性能の向上には限界がある。
そこで、レンズ系の結像性能を向上させるために、レンズ系を構成する一部のレンズの面形状を積極的に変形させることにより、レンズ系を構成する他のレンズによる収差を打ち消すような収差を発生させ、レンズ系として高い結像性能を実現する技術がある。例えば、特許文献1では、レンズ支持点の高さを変化させることで、自重によるレンズ変形を発生させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−156713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術は、光学素子保持機構が複雑になるため、光学素子保持装置が大型化し、それに伴い組立性も悪くなる。また、当該技術は、レンズ自体の自重を利用してレンズを平置きで支持するものであり、主に半導体露光装置のように比較的外力が加わらない環境下で使用される装置において好適に用いられるものである。よって、外力の加わることの多い放送用TVレンズ等において用いるには適さない。
そこで、本発明の目的は、外力の加わることの多い環境下で用いられる光学素子に対して適用し得る光学素子保持装置であり、光学素子を変形させることにより意図的に収差を発生させ得る光学素子保持装置を提供することにある。また、当該光学素子保持装置により、レンズ系の結像性能を向上し得るレンズ装置、撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の光学素子保持装置は、光学素子を支持する支持手段と、該光学素子に隣接して光軸方向に押圧し該光学素子を該支持手段に対して固定する環状の固定手段と、該光学素子の複数の箇所に対して、該光学素子を該支持手段に対して光軸方向の成分を有する方向に押圧する押圧力を調整する調整手段と、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、外力の加わることの多い環境下で用いられる光学素子に対して適用し得る光学素子保持装置であり、光学素子を変形させることにより意図的に収差を発生させ得る光学素子保持装置を提供することができる。当該光学素子保持装置によれば、固定された光学素子に対し、支持手段の外部からの操作により光学素子を積極的に変形させることで、レンズ系の非点収差補正を行うことができる。また、光学素子を分解することなく該光学素子を変形させることができるので、レンズ全体の結像性能を確認しながら補正作業を行うことができる。さらに、構造が簡素なため、装置の小型化、軽量化にも効果が期待できる。
また、当該光学素子保持装置により、レンズ系の結像性能を向上し得るレンズ装置、撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の光学素子保持装置を示す図である。(a)は断面図、(b)は分解図を表す。
【図2】実施例2の光学素子保持装置を示す図である。(a)は押圧方向変換部材を介して押え環を押圧する場合の断面図、(b)は押え環を直接押圧する場合の断面図を表す。
【図3】実施例3の光学素子保持装置を示す図である。(a)は断面図、(b)はスペーサー部材がレンズに挟持された場合の図を表す。
【図4】実施例4の光学素子保持装置を示す図である。(a)は断面図、(b)は鏡筒外周から押圧を加えた状態を表す。
【図5】実施例5の光学素子保持装置を示す図である。(a)は断面図、(b)は鏡筒外周から押圧を加えた状態、(c)は(a)のA−A断面図を表す。
【図6】実施例6の光学素子保持装置を示す図である。(a)は断面図、(b)はスペーサー部材が押え環とレンズに挟持される場合を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。図1から図6は、本発明に係る光学素子保持装置の説明図である。
【実施例1】
【0009】
本発明の第1の実施例による、光学素子保持装置について説明する。
図1(a)は実施例1の光学素子保持装置の断面図、図1(b)は分解図を示す。
【0010】
光学素子であるレンズ1は、支持手段である鏡筒2によって保持されている。押え環3はレンズ1を鏡筒2内に固定する環状の固定手段であり、鏡筒2及び押え環3は各々螺子部2b、3aを有し、互いに螺合する。セットビス5は、鏡筒2の側面の複数箇所に光軸を中心とする半径方向(光軸に垂直な成分を有する方向)に貫通して設けられたタップ穴2aと螺合し、環状の第1の押圧方向変換部材4aに対して図1に示す矢印A方向に押圧力を与える。第1の押圧方向変換部材(第1の押圧方向変換手段)4aは、押圧方向変換部4cを介して第2の押圧方向変換部材(第2の押圧方向変換手段)4bと隣接し当接する。セットビス5、第1の押圧方向変換部材4a、第2の押圧方向変換部材4bは、調整手段を構成し、セットビス5によって第1の押圧方向変換部材4aに与えられた径方向内側(矢印A方向、あるいは、光軸と垂直な成分を有する方向)に向けた押圧力を、第1の押圧方向変換部材4aとレンズ1との間に配置された第2の押圧方向変換部材4bによってレンズ1を押圧する方向(光軸方向の成分を有する方向、矢印B方向)の押圧力に変換し、該押圧力を調整する。タップ穴2aは、光軸方向において押圧方向変換部材4aを臨む位置に設けられる。押圧方向変換部4cである第2の押圧方向変換部材4bの傾斜面(当接面)は、光軸方向に対して傾斜し、光学素子から離れる方向を向く法線を有し、第1の押圧方向変換部材4aは、第2の押圧方向変換部材4bの傾斜面(当接面)と隣接し当接する傾斜面(当接面)を有し、これら傾斜面(当接面)によって押圧方向変換部4cが構成される。なお、第2の押圧方向変換部材4bの該傾斜面(当接面)の法線の方向は、第2の押圧方向変換部材4bの内部から、外側に向く方向とするものとする。
【0011】
以上の構成において、セットビス5をタップ穴2aに締め込むことで、押圧方向変換部材4aを矢印Aの方向へ押圧し、押圧方向変換部4cを介して押圧方向変換部材4bを矢印Bの方向へ押圧する。レンズ1は外周近傍を押圧方向変換部材4bに押圧され、局所的に変形し、非点収差が変化する。
【0012】
この操作により、レンズ全体での非点収差を打ち消す特性を持つ非点収差をレンズ1に発生させ、レンズ全体での結像性能を補正する。ここで、レンズ1に発生する非点収差の特性は、セットビスを締め込むタップ穴2aを適宜選択し、また、セットビス5の締め込み量を変化させることにより、レンズ1に生じる非点収差の発生量を調整することができる。なお、非点収差調整後に、セットビス5の回転位置は接着剤により固定し、補正された非点収差の状態を維持することができる。
【0013】
以上、本実施例によれば、レンズ全体による結像性能を確認(非点収差の状態をフィードバック)しながら、セットビス5を締め込むタップ穴2aの選択、それぞれのセットビス5の締め込み量を調整して非点収差を補正することが可能となり、効率的にレンズ全体での結像性能を補正することができる。
【0014】
さらに、レンズ装置を固定したまま非点収差調整をすることができるので、調整を容易に行うことができる。また、簡素な構造で非点収差調整が可能となるため、部品数や工数等の点からコストを抑えることができる。
【0015】
なお、本実施例では、押圧方向変換部4cの形状を斜面で表記しているが、矢印A方向への押圧力を矢印B方向の押圧力に変える形状であれば良く、斜面に限定されない。
【実施例2】
【0016】
本発明の第2の実施例による光学素子保持装置について説明する。
図2は実施例2の光学素子保持装置を示し、(a)は押圧方向変換部材(第1の押圧方向変換手段)4aを介してセットビス5が押え環11(固定手段兼第2の押圧方向変換手段)を押圧する場合の断面図、(b)はセットビス24(押圧手段兼第1の押圧方向変換手段)が押え環11(固定手段兼第2の押圧方向変換手段)を直接押圧する場合の断面図を示す。
【0017】
本実施例の押え環11は、鏡筒2の螺子部2bと螺合する螺子部11aを有するとともに、半径方向内側(矢印A方向、光軸と垂直な成分を有する方向)への押圧力をレンズ1の方向(光軸方向、矢印B方向)への押圧力に変換する押圧方向変換部11bが一体に形成されている。押圧方向変換部材4aとレンズ1との間に位置する押圧方向変換部11bは、鏡筒2の外側から半径方向内側に向けた押圧力を光軸方向の押圧力に変換するための傾斜面として形成されている。傾斜面(当接面)である押圧方向変換部11bは、光軸方向に対して傾斜し、光学素子から離れる方向を向く法線を有する。
【0018】
図2(a)に示した実施例においては、タップ穴2aに螺合した押圧手段であるセットビス5により、第1の押圧方向変換手段である第1の押圧方向変換部材4aを半径方向内側に押圧する。第1の押圧方向変換部材4aと、第1の押圧方向変換部材4aが隣接し当接する、押え環11に一体に形成された押圧方向変換部11bとが協働して、半径方向内側に向けた押圧力は、レンズ方向(光軸方向の成分を有する方向、矢印B方向)に向けた押圧力に変換され、レンズを押圧することができる。
【0019】
図2(b)に示した実施例においては、タップ穴2aに螺合した押圧手段であるセットビス24は、押え環11に一体に形成された押圧方向変換部11bの傾斜面と隣接し当接する。これによって、セットビス24による半径方向内側(光軸に垂直な成分を有する方向)に向けた押圧力は、レンズ方向(光軸方向の成分を有する方向、矢印B方向)に向けた押圧力に変換され、レンズを押圧することができる。この態様においては、調整手段は、第1の押圧方向変換手段を兼ねる押圧手段としてのセットビス24と、第2の押圧方向変換手段を兼ねる固定手段としての押え環11によって構成され、第1の押圧方向変換部材4a及び第2の押圧方向変換部材4bがなくても同様の効果を得ることができる。他の符号は実施例1と同様につき説明を割愛する。
【0020】
本実施例において、非点収差を補正する方法は実施例1に記載した方法と同等であり、実施例1と同等の効果が得られる。さらに、図2(b)に示す構造の場合は、実施例1よりも簡素な構造で非点収差補正を行うことができる。
【0021】
本実施例においても、押圧方向変換部11bの形状を斜面で表記しているが、矢印A方向への押圧力を矢印B方向への押圧力に変える形状であれば良く、斜面に限定されない。
【実施例3】
【0022】
本発明の第3の実施例による、光学素子保持装置について説明する。
図3(a)は、実施例3による光学素子保持装置の断面図を示す。
【0023】
レンズ1aは、鏡筒21によって保持され、スペーサー部材22(第2の押圧方向変換手段)を介し、押え環23(固定手段)によって鏡筒21(支持手段)内に固定される。また、スペーサー部材22には、押圧手段であるセットビス24(押圧手段兼第1の押圧方向変換手段)によって鏡筒21の半径方向内側(矢印A方向、光軸に垂直な成分を有する方向)に向けた押圧力をレンズ1aの方向(矢印B方向、あるいは光軸方向の成分を有する方向)の押圧力に変換する押圧方向変換部22aが設けられている。押圧方向変換部22aは、セットビス24とレンズ1aとの間に配置されている。本実施例においては、セットビス24及びスペーサー部材22によって調整手段が構成される。鏡筒21及び押え環23は各々螺子部21bと23aを有し、互いに螺合する。セットビス24は鏡筒21の周囲に半径方向に貫通して設けられたタップ穴21aと螺合する。なお、スペーサー部材22の押圧方向変換部22aは、鏡筒21に設けられたタップ穴21aに対応する位置に設けられ、タップ穴21aに対応しない位置においては、図3(a)に示すような、例えば、矩形の断面形状を有し、押え環23による光軸方向の押圧力を受ける形状を有する。他の符号は実施例1と同様につき説明を割愛する。
【0024】
以上の構成において、セットビス24を矢印A方向へ締め込むことで、押圧方向変換部22aを介してスペーサー部材22は矢印B方向へ押圧される。レンズ1aは外周近傍をスペーサー部材22に光軸方向に押圧され、局所的に変形し、非点収差が発生する。
【0025】
この操作により、レンズ全体での非点収差を打ち消す特性を持つ非点収差をレンズ1aに発生させ、レンズ全体での結像性能を補正することができる。ここで、セットビス24を螺合させるタップ穴21aの位置を適宜選択し、セットビス24の締め込み量を調整することにより、レンズ1aに生じる非点収差の発生量を調整することができる。なお、収差調整後にセットビス24の回転位置は接着剤により固定し、補正された非点収差の状態を維持することができる。
【0026】
本実施例によれば、実施例1に記載の効果を得ることができる。
本実施例では、押圧方向変換部22aの形状を斜面で表記しているが、矢印A方向への押圧力を矢印B方向の押圧力に変える形状であれば良く、斜面に限定されない。本実施例に記載の押圧方向変換部22aはスペーサー部材22と一体で形成されるが、実施例1と実施例2に記載するように一つ以上の複数部材に分かれても良い。さらに、本実施例に記載の押圧方向変換部22aは部分的であるが、スペーサー部材22の全周に設けても良い。
また、図3(b)に示すように、スペーサー部材22を直接押え環23により押圧せず、押え環23とスペーサー部材22の間にレンズ1bを配置し、スペーサー部材22は、レンズ1a、1bの間に配置する構成としても良い。
【実施例4】
【0027】
本発明の第4の実施例による、光学素子保持装置について説明する。
図4(a)は実施例4による光学素子保持装置の断面図、図4(b)は図4(a)において支持手段の外周からの押圧を加えた状態を示す説明図である。
レンズ1は、鏡筒31により保持され、押え環3によって鏡筒2内に固定される。鏡筒31は押え環3の螺子部3aと螺合する螺子部31bを有する。鏡筒31の側面の複数箇所に径方向(光軸に垂直な成分を有する方向)に貫通する貫通穴31aが、環状の第1の押圧方向変換部材(第1の押圧方向変換手段)4aを臨む位置に設けられている。第1の実施例と同様に、第1の押圧方向変換部材4aは、押圧方向変換部4cを介して第2の押圧方向変換部材(第2の押圧方向変換手段)4bと隣接し当接する。
【0028】
実施例1乃至3においては、タップ穴2aに螺合したセットビス(押圧手段)5により、鏡筒の半径方向内側への押圧力が加えられていた。本実施例においては、鏡筒31を径方向に貫通する貫通穴31aに配置される略球状の弾性体32が押圧方向変換部(第1の押圧方向変換手段)4aを半径方向内側(矢印A方向、光軸に垂直な成分を有する方向)へ押圧する。弾性体32は、鏡筒31の外周を包囲する環状のバンド33により矢印Aの方向へ押圧される。すなわち、本実施例における押圧手段は、弾性体32とバンド33により構成される。バンド33は、鏡筒31の外周に沿って貫通穴31a内に配置された弾性体32の位置まで摺動されて、弾性体32を押圧する。バンド33が弾性体32を押圧する位置にあるときには、バンドの半径方向内面側の切欠き33aが弾性体32と隣接及び当接し、弾性体32の反力によって、バンドが鏡筒の光軸方向に摺動して移動し貫通穴31aの位置から外れることを防止する。他の符号は実施例1と同様につき説明を割愛する。
【0029】
以上の構成において、貫通穴31aに弾性体32を設置し、バンド33を鏡筒31の外周に沿って摺動させることで、弾性体32により押圧方向変換部材4aを矢印A方向へ押圧し、押圧方向変換部4cを介して押圧方向変換部材(第2の押圧方向変換手段)4bを矢印B方向へ押圧する。レンズ1は外周近傍を押圧方向変換部材4bによって押圧され、局所的に変形し、非点収差を発生させる。
【0030】
この操作により、レンズ全体での非点収差を打ち消す特性を持つ非点収差をレンズ1に発生させ、レンズ全体での結像性能を補正する。ここで、レンズ1に発生する非点収差の特性は貫通穴31aの位置に応じて適宜選択し、また、弾性体32の材質や径を変化させて、弾性体32の弾性力を変化させることにより、レンズ1に加わる押圧力を変化させ、レンズ1に生じる非点収差の発生量を調整することができる。なお、収差補正後にバンド33を接着剤やビスにより鏡筒31に固定しても良い。
【0031】
本実施例によれば、実施例1に記載の効果を得ることができる。さらに、矢印A方向への押圧を行うために鏡筒31の外周にセットビス締め付け用の螺子部を設ける必要がないため、鏡筒31が薄肉形状の場合に非点収差補正を行う有効な手段の一つである。また、バンド33を摺動させて弾性体32を押圧するだけでレンズ1の非点収差補正ができるため、作業が簡単かつ、作業のバラツキが少ない利点がある。
【0032】
本実施例では、押圧方向変換部4cの形状を斜面で表記しているが、矢印A方向への押圧力を矢印B方向の押圧力に変える形状であれば良く、斜面に限定されない。また、本実施例に記載の押圧方向変換部4cは押圧方向変換部材4a、4bに形成されるが、実施例2に記載するような押え環11を用いても良い。
【実施例5】
【0033】
本発明の第5の実施例による、光学素子保持装置について説明する。
本実施例の光学素子保持装置は、実施例4による光学素子保持装置と同様に、略球状の弾性体32によって、押圧方向変換部材4aに鏡筒の半径方向内側に向けた押圧力が加えられる。本実施例と実施例4とは、弾性体32に押圧力を加えるための構成が異なる。以下、実施例4と異なる点を中心に説明し、同様の構成については、重複するため説明は省略する。
【0034】
図5(a)は実施例5による光学素子保持装置の断面図、図5(b)は図5(a)において支持手段の外周から押圧を加えた状態を示す断面図、図5(c)は図5(a)のA−A断面での断面図を示す。
【0035】
レンズ1は鏡筒41により保持され、押え環3によって鏡筒41内に固定される。鏡筒41の側面に複数箇所の貫通穴41aが設けられている。さらに、鏡筒41と押え環3はそれぞれ螺子部41bと螺合する螺子部3aを有し、互いに螺合する。貫通穴41aを通して弾性体32を半径方向内側(矢印A方向)へ押圧するバンド42は、面カム42aを有する。本実施例においては、調整手段は、弾性体32、バンド42、第1の押圧方向変換部材4a、第2の押圧方向変換部材4bで構成される。さらに、貫通穴41aを通して弾性体32によって押圧方向変換部材4aを押圧している際は、弾性体32の反力によってバンドが鏡筒の光軸方向に摺動して移動し、貫通穴41aの位置から外れることを防止するための、弾性体32と隣接し当接する切欠き42bを有する。鏡筒外周には直溝41cが形成され、バンド42を鏡筒41の外周に沿って回転したときに、弾性体32が光軸周りに回転することを規制する。また、バンド42を摺動させた時に面カム42aが貫通穴41aを臨む位置に規制するための段41dがある。他の符号は他の実施例と同様につき説明を割愛する。
【0036】
以上の構成において、面カム42aの間に弾性体32を保持し、バンド42を段41dに隣接し当接するまで、鏡筒41の外周に沿って摺動させる。さらに、バンド42を鏡筒41の外周に沿って回転させ、面カム42aによって弾性体32を矢印A方向へ押圧し、弾性体32によって第1の押圧方向変換部材4aを矢印A方向へ押圧し、押圧方向変換部4cを介して第2の押圧方向変換部材4bを矢印B方向へ押圧する。レンズ1は外周近傍を第2の押圧方向変換部材4bに押圧され、局所的に変形し、非点収差を発生する。
【0037】
この操作により、レンズ全体での非点収差を打ち消す特性を持つ非点収差をレンズ1に発生させ、レンズ全体での結像性能を補正する。ここで、レンズ1に発生する非点収差の特性は貫通穴41aの位置に応じて適宜選択し、また、弾性体32の材質や径を変化させて、弾性体32の弾性力を変化させることにより、レンズ1に加わる押圧力を変化させ、レンズ1に生じる非点収差の発生量を調整することができる。なお、非点収差補正後にバンド42を接着剤やビスにより鏡筒41に固定しても良い。
【0038】
本実施例によれば、実施例5に記載の効果を得ることができる。さらに、面カム42aの間に弾性体32を保持することで、弾性体32を押圧する時に弾性体32が落下することを防止し、非点収差補正の作業性を改善することができる。
【0039】
本実施例では、押圧方向変換部4cの形状を斜面で表記しているが、矢印A方向への押圧力を矢印B方向の押圧力に変える形状であれば良く、斜面に限定されない。また、本実施例に記載の押圧方向変換部4cは第1、2の押圧方向変換部材4a、4bに形成されるが、実施例2に記載するような押え環11を用いても良い。
【実施例6】
【0040】
本発明の第6の実施例による、光学素子保持装置について説明する。
図6(a)は実施例6による光学素子保持装置の断面図を示す。
【0041】
押え環51(固定手段)は、鏡筒2の螺子部2bと互いに螺合する螺子部51aを有し、レンズ1を鏡筒内に固定する。また、押え環51には、光軸方向に貫通するタップ穴51bが面51cの周方向の複数の箇所に設けられている。セットビス52(第1の押圧手段)は、タップ穴51bと螺合し、押え環51とレンズ1の間に配置されたスペーサー部材53(第2の押圧手段)に押圧力を与えてレンズの方向に押圧する。その際、スペーサー部材53は、セットビス52を締め付けたときにセットビス52が直接レンズ1に接することはなく、局所的な押圧力がレンズ1に与えられることはないので、レンズ1を傷つけにくくする。他の符号は他の実施例と同様につき説明を割愛する。
【0042】
以上の構成において、セットビス52を締め込むとスペーサー部材53を介してレンズ1の外周近傍を押圧し、レンズ1を局所的に変形させ、非点収差が発生する。
【0043】
この操作により、レンズ全体での非点収差を打ち消す特性を持つ非点収差をレンズ1に発生させ、レンズ全体での結像性能を補正する。ここで、レンズ1に発生する非点収差の特性は、セットビス52を螺合させるタップ穴51bの位置、及び、セットビス52の締め込み量を調整し、レンズ1に生じる非点収差の発生量を調整することができる。なお、収差調整後にセットビス52の回転位置は接着剤により固定することができ、補正された非点収差の状態を維持することができる。
【0044】
また、図6(b)に示すように、スペーサー部材55(第2の押圧手段)が押え環54(固定手段)と嵌合していない場合でも、図6(a)に示す構造を用いた場合の効果を得ることができる。
本発明によれば実施例1に記載の効果を得ることができる。
【0045】
上記の実施例で説明した光学素子保持装置を有するレンズ装置は、簡易な構成でありながら、固定された光学素子に対し、支持手段の外部からの操作により光学素子を積極的に変形させることで、レンズ全体の非点収差補正を行うことができるという効果を有する。また、該光学素子保持装置を含む撮像装置も、本発明の同様の効果を奏することができる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 レンズ(光学素子)
2,21,31 鏡筒(支持手段)
3,23,51,54 押え環(固定手段)
4a 第1の押圧方向変換部材(調整手段)
4b 第2の押圧方向変換部材(調整手段)
5,24,52 セットビス(調整手段)
11 押え環(固定手段兼調整手段)
22,53,55 スペーサー部材(調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を支持する支持手段と、
該光学素子に隣接して光軸方向に押圧し該光学素子を該支持手段に対して固定する環状の固定手段と、
該光学素子の複数の箇所に対して、該光学素子を該支持手段に対して光軸方向の成分を有する方向に押圧する押圧力を調整する調整手段と、を有する、
ことを特徴とする光学素子保持装置。
【請求項2】
前記調整手段は、
前記支持手段を貫通する貫通穴を通して該光軸に垂直な方向の成分を有する方向に押圧する押圧手段と、
該押圧手段と隣接する環状の第1の押圧方向変換手段と、
該第1の押圧方向変換手段と隣接すると共に前記光学素子に隣接する環状の第2の押圧方向変換手段と、を有し、
該第2の押圧方向変換手段は、
該第1の押圧方向変換手段と該光学素子の間に配置され、前記光軸方向に対して傾斜する環状の傾斜面を有し、
該傾斜面で該第1の押圧方向変換手段と隣接する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子保持装置。
【請求項3】
前記固定手段が、前記第2の押圧方向変換手段を兼ねていることを特徴とする請求項2に記載の光学素子保持装置。
【請求項4】
前記押圧手段が、前記第1の押圧方向変換手段を兼ねていることを特徴とする請求項2又は3に記載の光学素子保持装置。
【請求項5】
前記調整手段は、
前記固定手段を前記光軸方向に貫通する貫通穴を通して前記光軸方向の押圧力を与える第1の押圧手段と、
前記光学素子に隣接すると共に該第1の押圧手段と隣接する環状の第2の押圧手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の光学素子保持装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学素子保持装置を有するレンズ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレンズ装置を含む撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−88516(P2013−88516A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227001(P2011−227001)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】