説明

光射出方向制御フィルム

【課題】 光線透過率を向上させ、しかも、モアレ縞が生じるおそれを抑制することのできる光射出方向制御フィルムを提供する。
【解決手段】 基材層1上の遮光層2に、硬化した光透過エラストマー層3と未硬化で透明の接着エラストマー層4とを順次積層して積層体5を形成し、積層体5を複数積層し、これら複数の積層体5を接着エラストマー層4により接着してブロック体を形成し、ブロック体をスライスしてカーナビゲーション装置のルーバー層を形成する。遮光層2をウレタン等により形成して遮光層2を15μm以下、最小で2μm程度の厚みにすることができるので、81%以上という高い光線透過率を容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のカーナビゲーション装置等に設置され、光の射出方向を規制する光射出方向制御フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅の窓等には、可視角の範囲を調整する光射出方向制御フィルムが使用されているが、この種の光射出方向制御フィルムは、図示しないが、複数の光透過層と遮光層とが交互かつ多重に積層して形成されている(特許文献1参照)。
光透過層は透明なシリコーンゴムを使用して形成され、遮光層は着色されたミラブルタイプのシリコーンゴムを用いて形成されている。
【0003】
ところで、係る光射出方向制御フィルムは、上記住宅の窓や日よけのブラインドの他、最近では図6に示す自動車のカーナビゲーション装置10にも利用されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特公平7‐56523号公報
【特許文献2】実願平5‐4971号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光射出方向制御フィルムは、以上のように構成されているが、最近のカーナビゲーション装置10に利用される場合には問題がある。すなわち、最近のカーナビゲーション装置10は、画素数が30,000以上に増加して高輝度化や高精細化が進み、高い光線透過率が要求されているが、従来の光射出方向制御フィルムでは遮光層が40μm以上と厚いので、高い光線透過率を得ることができないという大きな問題がある。
【0005】
係る問題の解消には、遮光層のシリコーンゴムを薄くするという手法が考えられるが、ミラブルタイプのシリコーンゴムは薄くすると厚さが不均一になったり、ピンホール等が生じるので、薄くするのは非常に困難である。
また、最近のカーナビゲーション装置10は、画素数が増加してピクセルサイズが小型化しているので、従来の遮光層のピッチ(280μm)では、モアレ縞が生じるおそれが少なくない。この問題の解消には、遮光層を狭ピッチ化するという手法が考えられるが、厚さ40μm以上の遮光層を単に狭ピッチ化するだけでは、光線透過率の低下を招くこととなる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、光線透過率を向上させ、しかも、モアレ縞が生じるおそれを抑制することのできる光射出方向制御フィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、複数の保護層の間に、遮光層と光透過エラストマー層とを交互に備えて光の射出方向を規制するルーバー層を介在させたものであって、
遮光層の厚みを15μm以下とするとともに、この遮光層にカーボンブラックを15〜40wt%配合したことを特徴としている。
【0008】
なお、光透過エラストマー層に、遮光層との接着成分を配合し、この接着成分を、(A)分子中に芳香族環を少なくとも1個有する有機化合物又は有機珪素化合物と、(B)シランカップリング剤とすることが好ましい。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における遮光層は、1〜7μmの厚みであることが好ましい。また、光射出方向制御フィルムは、自動車のカーナビゲーション装置の他、住宅の窓や日よけのブラインド等に適宜利用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光線透過率を向上させ、しかも、モアレ縞が生じるおそれを抑制することができるという効果がある。
また、接着成分を、(A)分子中に芳香族環を少なくとも1個有する有機化合物又は有機珪素化合物と、(B)シランカップリング剤とすれば、ウレタン製の遮光層とシリコーンゴム製の光透過エラストマー層とを確実に接着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における光射出方向制御フィルムは、図1ないし図5に示すように、基材層1の遮光層2に、硬化した光透過エラストマー層3と未硬化で透明の接着エラストマー層4とを順次積層して積層体5を形成し、この積層体5を複数個積層し、これら複数の積層体5を接着エラストマー層4により接着してブロック体6を形成し、その後、このブロック体6をスライスしてルーバー層7を形成するようにしている。
【0012】
光射出方向制御フィルムを詳細に説明すると、先ず図1に示すように、基材層1を用意して黒色の遮光層2をコータ等により積層形成する。基材層1としては、光透過エラストマー層3及び接着エラストマー層4の保護と剛性を期待できるものであれば、特に限定されるものではないが、酸、弱アルカリ、酸化剤に対する抵抗が大きく、光や熱に対して安定な市販のPETフィルム等が好適に使用される。
【0013】
遮光層2は、各種のエラストマーに所定の物質が配合された溶剤が基材層1上に塗布されることにより形成され、完成後の厚みが15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは3μm以下とされる。この遮光層2の材料としては、薄膜化の観点から粘度の低い液状のウレタンゴムや耐熱性のシリコーンゴム等があげられる。これらの材料の増粘を防ぎ、薄膜加工を容易にしたい場合には、必要に応じて溶剤をトルエン等で希釈すれば良い。
【0014】
エラストマーに配合される所定の物質としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、セルロース誘導体、ウレタン樹脂、シリコーンゴム等に、酸化鉄黒、カーボンブラック、チタニウムブラック等の各種顔料、アニリンブラック等の各種染顔料、炭酸カルシウム、クレイ、珪藻土、アルミナ、湿式シリカ、乾式シリカ等の各種充填剤、金属粉末、カーボンファイバー、天然繊維、合成繊維、金属線等の短繊維粉末等の一種又は二種以上が配合されたものが使用される。これらの中でも、カーボンブラックが配合される場合、カーボンブラックは15〜40wt%配合される。
【0015】
このような所定の物質は、遮光層2の材料に配合されることにより、遮光層2が15μm以下に薄膜化されても十分な遮光性を確保するよう機能する。
但し、大量に配合すると、伸び、引き裂き強度に乏しく脆い薄膜の遮光層2になり、しかも、光透過エラストマー層3との積層の際、遮光層2にクラックの生じるおそれがある。したがって、遮光層2の材料としては、係る問題の少ないウレタンが好適である。
【0016】
遮光層2の完成後の厚さは15μm以下とされるが、これは15μm以下にすれば、光線透過率を向上させることができるからである。この際、3μm以下と薄くすれば、モアレ縞対策として遮光層2を狭ピッチ化した場合でも、80%以上の光線透過率を得ることができる。また、カーボンブラックの配合量は15〜40wt%であるが、これは、遮光層2の完成後の厚さを7μm以下とした場合、カーボンブラックの配合量を15wt%以上にしないと、遮光性を期待することができないからである。
【0017】
遮光層2が硬化したら、この遮光層2上に透明の光透過エラストマー層3を120μm程度の厚さに積層して硬化させ、この硬化した透明の光透過エラストマー層3上に未硬化で透明の接着エラストマー層4を20μm程度の厚さに薄く積層して積層体5を形成する。
【0018】
光透過エラストマー層3としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、セルロース誘導体、ウレタン樹脂、シリコーンゴム等を使用することができる。これらの中で、耐熱性に優れるシリコーンゴムを選択する場合、ウレタン製の遮光層2との接着性に問題があるので、ウレタン製の遮光層2に接着成分を介して積層接着すると良い。この接着成分は、以下に示す(A)成分の有機化合物又は有機珪素化合物と、(B)成分のシランカップリング剤とからなる。
【0019】
(A)成分は、接着性の付与に必須な成分であり、エポキシ当量が100〜5000g/lmolで、分子中に芳香族環を少なくとも1個有する有機化合物又は有機珪素化合物である。この(A)成分は、分子中に芳香族環を有することにより、シリコーン成分との相溶性が低下し、シリコーンゴムとウレタン製の遮光層2界面との接着性を向上させる。シリコーン成分と(A)成分に相溶性がある場合には、シリコーン成分中に(A)成分が分散しやすくなり、接着性が悪くなるので、(A)成分はシリコーン成分に半相溶性又は非相溶性であるのが良い。
【0020】
(A)成分は、グリシドキシ基等のエポキシ基を分子中に少なくとも1個有する成分である。このエポキシ基は接着性を発現させるために必要なものであり、エポキシ当量は100〜5000g/lmol、好ましくは120〜400g/lmolの範囲である。これは、エポキシ当量が100g/lmol未満の場合には、合成が困難になるとともに、シリコーン成分との相溶性が悪化し、ゴム物性にも悪影響を及ぼすからである。逆に、エポキシ当量が5000g/lmolを超える場合には、接着性が不十分になるからである。このような(A)成分としては、具体的に以下のものがあげられる。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
(A)成分の配合量は、シリコーン成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.05〜5質量部である。これは、0.05質量部未満の場合には、十分な接着性が得られず、逆に5質量部を超える場合には、物性の低下を招くおそれがあるからである。(A)成分は、予めウレタン製の遮光層2に処理しても良いが、作業性の観点から光透過エラストマー層3に配合しておくことが好ましい。
【0024】
(B)成分のシランカップリング剤は、(A)成分と併用することでウレタンとの接着性を向上させるものであり、例えばエポキシ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤やこれらの反応生成物等があげられ、好ましくは、1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を含有するものが良い。具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が好適である。
【0025】
(B)成分の配合量は、シリコーン成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1〜5質量部である。これは、0.1質量部未満の場合には、十分な接着性を得ることができないからである。逆に、5質量部を超える場合には、ゴム物性が低下したり、導通抵抗の上昇を招くおそれがあるからである。(B)成分は、(A)成分と同様に予めウレタン製の遮光層2に処理しても良いが、作業性の観点から光透過エラストマー層3に配合しておくことが好ましい。
【0026】
なお、接着成分(A)、(B)は、接着エラストマー層4にも配合され、接着エラストマー層4と遮光層2とを接着する。
【0027】
積層体5を形成したら、この積層体5を複数用意し、基材層1を剥離して複数の積層体5を上下方向に積層し、これら複数の積層体5を未硬化の接着エラストマー層4により接着して加熱加圧し、図2に示すブロック体6を形成する。そして、図2や図3に示すようにブロック体6を積層体5の積層方向と平行に薄くスライスして略紙片状のルーバー層7を形成し、このルーバー層7の表裏両面に透明の保護層8を接着層9を介しそれぞれ接着すれば、図4に示す光射出方向制御フィルムを製造することができる。
【0028】
ルーバー層7は、可視角の範囲、透光性、取扱性に鑑み、0.15〜0.40mmの厚さにスライスされる。保護層8の具体的な材料としては、厚さ0.01〜0.5mm程度、好ましくは厚さ0.05〜0.2mm程度のポリエステル、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリサルホン、ポリカーボネート等があげられる。また、接着層9は、例えばプライマーを含有したシリコーン型の接着剤からなり、保護層8あるいはルーバー層7に10〜30μmの厚さでスクリーン印刷されたり、塗布されることにより形成される。
【0029】
光射出方向制御フィルムを製造したら、図5に示すカーナビゲーション装置10の液晶パネル11と背面光源12(バックライト)との間に介在設置する。こうすれば、視野角を制御可能なカーナビゲーション装置10を得ることができる。
【0030】
上記によれば、遮光層2をウレタン等により形成して遮光層2を15μm以下、最小で2μm程度の厚みにすることができるので、81%以上という高い光線透過率を容易に得ることができる。また、遮光層2の厚さが均一でピンホール等の生じるおそれがない。さらに、遮光層2のピッチを135μm、最小75μmと狭くすることができるので、狭ピッチ化を図ることができる。したがって、モアレ縞が生じるおそれがなく、しかも、光線透過率の低下を招くこともない。
【0031】
なお、上記実施形態では単に保護層8を示したが、例えばサンドブラストやエンボスロールによる型押し等により、保護層8の光射出面を多数の凹凸、波形、山形等に粗して粗面化しても良い。こうすれば、液晶パネル11の裏面に接触する部分と非接触の部分が生じ、ブロッキング現象に伴う液晶表示の不具合を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る光射出方向制御フィルムの実施形態における基材層、遮光層、光透過エラストマー層、及び接着エラストマー層を順次積層した状態を示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る光射出方向制御フィルムの実施形態における複数の積層体によりブロック体を形成した状態を示す斜視説明図である。
【図3】図2のブロック体をスライスしてルーバー層を得た状態を示す斜視説明図である。
【図4】本発明に係る光射出方向制御フィルムの実施形態におけるルーバー層を示す断面説明図である。
【図5】本発明に係る光射出方向制御フィルムの実施形態におけるカーナビゲーション装置を示す説明図である。
【図6】自動車の車内に設置されたカーナビゲーション装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 基材層
2 遮光層
3 光透過エラストマー層
4 接着エラストマー層
5 積層体
6 ブロック体
7 ルーバー層
8 保護層
9 接着層
10 カーナビゲーション装置
11 液晶パネル
12 背面光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の保護層の間に、遮光層と光透過エラストマー層とを交互に備えて光の射出方向を規制するルーバー層を介在させた光射出方向制御フィルムであって、
遮光層の厚みを15μm以下とするとともに、この遮光層にカーボンブラックを15〜40wt%配合したことを特徴とする光射出方向制御フィルム。
【請求項2】
光透過エラストマー層に、遮光層との接着成分を配合し、この接着成分を、(A)分子中に芳香族環を少なくとも1個有する有機化合物又は有機珪素化合物と、(B)シランカップリング剤とした請求項1記載の光射出方向制御フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−162967(P2006−162967A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354297(P2004−354297)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】