説明

光弾性測定方法およびその装置

【課題】複数層からなる透過性を有する測定対象物から、所定層に作用している主応力の差とその方向を高速かつ精度よく求めることのできる光弾性測定方法およびこれを用いた装置を提供する。
【解決手段】異なる偏光角の光を測定対象物Wに向けて照射する複数台の光学ヘッド4A−4Cを備えた光学ユニット5と測定対象物Wを相対的に水平移動させ、測定対象物Wの所定層の同一焦点から反射して戻る反射光を各光学ヘッド4A−4Cで検出する。このとき光学ヘッド内のGLPに反射光を透過させ、測定対象物Wを構成するガラス基板W1,W2に作用している応力によって偏光状態が複屈折により変化した第2偏光と初期の光路に戻る第1偏光に分離し、第2偏光をピンホールに通過させて所定の焦点面から反射して戻る第2偏光のみを検出する。各光学ヘッド4A−4Cによる測定結果に基づいて、所定のガラス基板に作用している主応力の差とその方向を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルやプラズマディスプレイパネルなどのような透過性を有する測定対象物に作用する応力や歪みなどを測定するための光弾性測定方法およびその装置に係り、特に、微小間隙をおいて配備された2枚の貼り合せ基板のそれぞれの基板に作用している応力を高速かつ精度よく測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板のような透過性を有する測定対象物に作用している応力を求める方法として、次のような方法が知られている。第1の方法として、平坦なテーブルに平面保持された測定対象物に光を照射し、測定対象物の表面および裏面から反射して戻る反射光を測定する。このとき、その反射光の変化から測定対象物に作用している主応力の差とその方向を求めている。また、第2の方法として、測定対象物に向けて照射した光のうち、測定対象物を透過した透過光の変化から測定対象物に作用している主応力の差とその方向を求めている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、共焦点方式で、かつ反射方式の光学系が提案されている(非特許文献2)。
【0004】
【非特許文献1】最新 応力・ひずみ測定・評価技術(第49頁−第66頁) 監修:河田幸三 発行:株式会社 総合技術センター
【非特許文献2】2003年度博士論文 反射型レーザ光弾性実験装置の開発と皮膜の応力評価への応用 東京電機大学大学院研究科・機械システム工学専攻博士課程 島 靖郁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の各方法では次のような問題がある。
【0006】
第1および第2の方法のいずれも1枚の透過性を有する測定対象物である基板に対しては、有効に機能する。しかしながら、光学特性、特に屈折率の異なる光学特性を有する複数の素材が積層された基板を、微小間隙をおいて配備した2枚の貼り合せ基板について主応力の差とその方向を測定する場合、2枚の基板のいずれの基板に、または両方の基板に作用する主応力の差とその方向を精度よく求めることができないといった問題がある。
【0007】
すなわち、上記貼り合せ基板について、2枚の基板のいずれの基板、または両方の基板に作用する主応力の差とその方向を測定するために第1の方法を適用した場合、貼り合せ基板から反射して戻る反射光は、各基板の表面および裏面から戻るものが全て合成される。そのため、主応力の差とその方向を知るのに必要なそれぞれの基板の裏面からの反射光のみを取得したくても、個々に容易に分離することができない。
【0008】
また、第2の方法を適用した場合、貼り合せ基板を透過した透過光は、全てが合成され、基板ごとに透過した透過光を個々に分離することができない。
【0009】
また、非特許文献2の方法では、測定に中心的な役割を担った素子として非偏光ビームスプリッタを使わざるを得ない。その事が光弾性信号(複屈折)の消光比を著しく劣化させており、微少な複屈折を検出できないといった問題点がある。
【0010】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、光学特性として屈折率の異なる複数の素材が積層された基板、特に微小間隙をおいて積層された貼り合せ基板について、応力の作用している基板を正確に分別するとともに、その基板に作用する主応力の差、主応力の差の作用する方向を高速かつ精度よく求めることのできる光弾性測定方法およびその装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこでこの発明は、上記目的を達成するために次のような構成をとる。
【0012】
すなわち、第1の発明は、複数層からなる透過性を有する測定対象物の各層に作用する主応力の差、主応力の差の作用する方向、およびオフセット値の少なくとも主応力の差、主応力の差の作用する方向を測定する光弾性測定方法であって、
照射手段からの照射光を光学手段を介して直線偏光にし、
レンズを介して前記測定対象物に直線偏光を照射しながら、レンズと測定対象物を光軸方向に沿って相対的に前後移動させて層同士が接触する複数の接触界面のうち所定の接触界面に焦点を合せ、
前記測定対象物から反射して戻る反射光を光学手段に透過させて初期の光路を戻る第1偏光と、当該第1偏光と直交する第2偏光を別光路に分離して出力し、
分離された前記第2偏光のうち焦点面から反射して戻る偏光のみをピンホールに通過させて検出する光学ヘッドを少なくとも3台備え、
前記各光学ヘッドから測定対象物に照射される直線偏光が、それぞれ異なる入射角となるように整列配備した状態で、当該光学ヘッドと測定対象物を相対的に平行移動させつつ、各光学ヘッドから照射されて所定層の同一の接触界面から反射して戻る偏光を当該光学ヘッドごとに検出し、
検出された前記各偏光の少なくとも3つの異なる角度θでの光強度の変化量に基づいて、主応力の差φ、主応力差の作用する方向α、および、オフセット値Cをφsin(2(α−θ))+Cからなるモデル式から求める、
ことを特徴とする。
【0013】
(作用・効果) この光弾性測定方法によれば、直線偏光が測定対象物に照射されると、焦点を合せた接触界面(焦点面)から反射して戻る反射光と、それ以外の界面などから反射して戻る反射光とが合わさって光学手段に戻される。この反射光は、光学手段によって初期の光路に戻る第1偏光と、第1偏光とは個別光路に出力される第1偏光と直交する第2偏光とに分離される。そして光学手段から出力される第2偏光は、ピンホールを通過するときに所定の接触界面の焦点面から反射して戻る偏光のみが抽出される。換言すれば、所定層のみを透過して戻る偏光のみが抽出され、この第2偏光の光強度が層ごとに1台の光学ヘッドによって検出される。
【0014】
少なくとも残り2台の光学ヘッドと測定対象物を水平方向に相対的に移動させ、上述の光学ヘッドと同一箇所に対して同様の処理が行われる。ただし、光学ヘッドは、個々に異なる偏光角の直線偏光を測定対象物に照射する。そして、各光学ヘッドによって検出された第2偏光の光強度の変化量を取得する。取得した複数個の光強度の変化量とその偏光の回転角度の位置情報と主応力の差φの小さい場合のφsin(2(α−θ))+Cからなるモデル式を用いることにより、測定対象物の各層に作用している主応力の差φ、主応力の差の作用する方向α、およびオフセット値の少なくとも主応力の差、主応力の差の作用する方向を求めることができる。
【0015】
すなわち、光学ヘッドごとに抽出された第2偏光の光強度から測定対象物の所定層で複屈折により変化を受けた偏光の変化情報が取得される。このとき主応力の差は、直線偏光の回転角度ごとの位置情報と光強度の変化から導き出される上記sinモデルのカーブの振幅が最大となる量として、その方向は、オフセット値Cと交差する角度として求めることができる。
【0016】
また、複数台の光学ヘッドと測定対象物を水平移動させながら同一箇所の同一焦点からの反射光をリニアに検出することができる。換言すれば、単一の光学ヘッドを光軸周りの所定角度に設定し直してから同一焦点からの反射光を測定するする必要がないので、高速な測定が可能となる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記分離過程で分離されて初期の光路を戻る第1偏光のうち前記焦点面から反射して戻る偏光のみをピンホールに通過させて検出する反射光検出過程を備え、
前記演算過程は、さらに予め求めた前記照射手段からの反射光の光強度に対する前記偏光検出過程で検出された偏光および前記反射光検出過程で検出された偏光の両光強度の変化量を求め、この変化量に応じて実測により求まる第2偏光から検出した偏光の光強度を補正することを特徴とする。
【0018】
(作用・効果) この方法によれば、光学手段で分離された第1偏光のうち焦点面で反射して戻る偏光のみが抽出される。したがって、第1偏光と第2偏光から抽出した両偏光の光強度から測定対象物を透過する過程で偏光が応力により受けた変化量が分かる。また、この変化量を補正する補正量を求めて補正処理をすることができる。また、測定対象物の照射側を第1層の第1面と定義し、この順で番号付けすると、第1層の第1面からの反射光の光強度の変化量は、複屈折の変化量を含まない。したがって、この第1面から反射する反射光の光強度を利用して光量で実測により求まる第2偏光を補正でき、測定精度を上げられる。
【0019】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記照射手段は、単一の光源からなり、当該照射手段からの照射光を光学ヘッドに均等に分光することを特徴とする。
【0020】
(作用・効果) この方法によれば、装置構成の小型化が可能となる。
【0021】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかにおいて、前記測定対象物の表面高さを検出し、
当該検出結果と予め決めた基準値とを比較し、求まる偏差に応じて前記光学ヘッドの高さを調整することを特徴とする。
【0022】
(作用・効果) この方法によれば、測定対象物の所定方向に連続的、または、全面にわたって主応力の差などを測定するのに有効に機能する。すなわち、測定対象物が傾斜していたり、反りやあおりが生じていたりする場合であっても、焦点位置を一定維持することができるので、2次元平面状に分布する所定層に作用する主応力の差を連続的に制度よく測定することができる。
【0023】
また、この発明は、上記目的を達成するために次のような構成をとる。
【0024】
すなわち、第5の発明は、複数層からなる透過性を有する測定対象物の各層に作用する主応力の差、主応力の差の方向、およびオフセット値の少なくとも主応力の差、主応力の差の作用する方向を測定する光弾性測定装置であって、
前記測定対象物に向けて光を照射する照射手段と、
前記照射手段からの光を透過させて直交する2方向の偏光成分からなる直線偏光にする第1光学手段と、
前記直線偏光を透過させて前記測定対象物の所定層の界面に焦点を合せるレンズと、
前記測定対象物の焦点面から反射して戻る偏光のうち初期の光路を戻る第1偏光と、この第1偏光と直交する第2偏光を別光路に分離して出力する分離手段と、
分離された前記第2偏光のうち前記焦点面から反射して戻る偏光のみを通過させるピンホールの形成された部材と、
前記ピンホールを通過した第2偏光の光強度を検出する第1検出手段とを備えた光学ヘッドと、
少なくとも3台の前記光学ヘッドを備え、当該各光学ヘッドから測定対象物に照射される直線偏光が、それぞれ異なる入射角となるように整列配備された光学ユニットと、
前記測定対象物を保持する保持手段と、
前記光学ヘッドのレンズと保持手段を偏光の光軸方向に沿って相対的に前後に移動させる前後移動手段と、
前記保持手段と光学ユニットを相対的に平行移動させる平行移動手段と、
前記光学ユニットと測定対象物を相対的に平行移動させつつ、各光学ヘッドから照射されて所定層の同一箇所から反射して戻る偏光を各光学ヘッドの第1検出手段ごとに検出し、当該各偏光の光強度の変化量と検出角度の位置情報に基づいて、主応力の差φ、主応力の差の方向α、および、オフセット値Cをφsin(2(α−θ))+Cからなるモデル式により求める演算手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0025】
(作用・効果) この光弾性測定装置によれば、保持手段に保持された測定対象物に向けて照射手段から照射された光が、光学手段によって直線偏光にされる。この偏光を照射しながら前後移動機構によって保持手段と測定対象物とが光軸方向に沿って前後に移動させられることにより、所定の界面に焦点が合わされる。その焦点面および他の界面などで偏光が反射して第1光学手段に戻され、各層を透過するときに複屈折による変化量の作用していない偏光が、第1偏光として初期光路に戻される。複屈折による変化量の作用して生じた反射光は、第2偏光として光学手段によって第1偏光とは別光路に出力される。
【0026】
第1光学手段から出力された第2偏光がピンホールを通過するときに、焦点の合わされた所定の界面から反射して戻る偏光のみが抽出され、この偏光が第1検出手段により検出される。同様に光学ユニットに備わった少なくとも残りの2台の光学ヘッドにおいても同じ処理を行う。ただし、各光学ヘッドから測定対処物に照射される直線偏光の偏光角がそれぞれ異なる。そして、各光学ヘッドから検出された第2偏光の光強度の変化量を取得する。
【0027】
演算手段は、光学ヘッドごとに取得した光強度の変化量と第2偏光の回転角度θの情報と主応力の差φの小さい場合のモデル式φsin(2(α−θ))+Cとを利用して、測定対象物の各層に作用している主応力の差、主応力の差の方向を求める。したがって、第1の方法発明を好適に実現することができる。
【0028】
第6の発明は、第5の発明において、分離手段で分離された第1偏光のうち焦点面から反射して戻る偏光のみを通過させるピンホールの形成された部材と、ピンホールを通過した偏光の光強度検出する第2検出手段とを備え、演算手段は、第1検出手段により検出された偏光の光強度を用いて第2検出手段により検出された偏光の光強度を除算するように構成することを特徴とする。
【0029】
(作用・効果) この構成によれば、第1および第2偏光から応力により受けた変化量が分かるとともに、この変化量を補正する補正量を求めることができる。また、第1層の第1面からの反射光の光強度の変化量は、複屈折の変化量を含まない測定対象物の第1面から反射する光量で補正でき、測定精度を上げられる。すなわち、第2の方法発明を好適に実現することができる。
【0030】
第7の発明は、第5または6の発明において、前記測定対象物からの反射光を入力させ、その光強度を予め決めた周波数に変調する光弾性変調器と、
変調されてピンホールを通過した第2偏光を入力させて予め決められた前記周波数成分の実測情報を抽出するロックインアンプとを備え、
前記演算手段は、前記測定対象物と同じ試料を用いて当該試料に圧縮および引っ張り応力を作用させたときの各主応力の差を直線偏光の向きを変数とする正弦波として予め基準情報を取得しておき、当該基準情報と実測情報とを比較し、測定対象物に作用している主応力の差の状態を特定することを特徴する。
【0031】
(作用・効果) この構成によれば、所定の周波数の変調に微少な複屈折を持った光弾性変調器(例えば、複屈折の大きさとして、0.001rad以下)を利用して第2偏光にかけるとともに、当該第2偏光をロックインアンプに入力させることにより、光弾性変調器の複屈折の大きさの2乗成分が無視でき、変調周波数と同じ成分のみの試料の複屈折と光弾性変調器の複屈折の積が直線偏光の回転角度を変数とする正弦波として抽出できる。したがって、予め同一試料で求めた圧縮および引っ張りの基準情報と、実測により求まる実測情報から得られたモデルの形状とを比較することにより、測定対象物に作用している主応力の差が圧縮であるか、それとも引っ張りであるかを容易に特定することができる。
【0032】
第8の発明は、第5ないし第7の発明のいずれかにおいて、前記分離手段で分離された第1偏光をピンホールに向う偏光と他の方向に向う偏光に分離する第1偏光分離手段と、前記第1偏光分離手段で他の方向に分離された偏光を検出する複数個の受光素子を2次元アレー状に配備して構成した検出手段と、
前記保持手段を傾斜させる駆動手段と、前記検出手段によって検出された偏光の位置に応じて保持手段に保持された測定対象物の傾斜量が前記演算手段により求められ、この傾斜量にしたがって前記駆動手段を作動させて前記保持手段の平行度を維持させる駆動制御手段とを備えることを特徴とする。
【0033】
(作用・効果) この構成によれば、保持手段に保持された測定対象物の平行度が維持されるので、測定対象物で反射して戻る第1偏光が、初期の直線偏光と光路と重なり合う。すなわち、光路ズレなく、焦点面から反射して戻る第1および第2偏光を各ピンホールに確実に通過させることができ、測定対象の偏光を精度よく検出することができる。
【0034】
第10の発明は、第5ないし第9の発明のいずれかにおいて、前記測定対象物の表面高さを検出する高さ検出手段と、
前記演算手段により表面高さの検出結果と予め決めた基準値を比較し、求まる偏差に応じて前記光学ヘッドの高さを調整するよう前後移動手段の作動を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0035】
(作用・効果) この構成によれば、測定対象物の保持状態に関わらず焦点位置を一定に維持することが可能となる。すなわち、第4の方法発明を好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る光弾性測定方法およびその装置によると、複数台の光学ヘッドと測定対象物を相対的に水平移動させながら、各光学ヘッドから異なる偏光角の直線偏光を測定対象物に照射し、焦点を合せた所定の同一層から反射して戻る反射光のうち偏光状態の変化した偏光成分のみを抽出し、この偏光成分の光強度の変化量と予め決めたモデル式を利用することにより、任意の層に作用している応力の影響で生じる複屈折の変化量をリニアに抽出することができる。この複屈折の変化量から任意の層に作用している主応力の差およびその方向を高速かつ精度よく求めることができる。なお、検出する偏光の光強度の変化状態から応力の作用している層も分別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、本実施例では、液晶パネルやプラズマディスプレイのように2枚の透過性を有するガラス基板を、微小間隔をおいて重ね合わせた測定対象物の各層に作用している主応力の差とその方向、およびオフセット値を求める構成について説明する。
【0038】
図1は本発明の光弾性測定方法を利用した実施例装置の概略構成を示す斜視図であり、図2は光学ユニット内および光学ヘッドの構成を示すブロック図である。
【0039】
この実施例装置は、図1および図2に示すように、単一の光源1と、光源1からの光を分離または全反射して3台の光学ヘッド4(4A−4C)のそれぞれに略均等な強度の光りを向かわせる3枚のミラー2(2A−2C)と、分離された各光を直線偏光にする直線偏光板3と、各直線偏光を測定対象物W(W1,W2)に向けて出力する3台の光学ヘッド4A、4B、4Cを備えた光学ユニット5と、測定対象物Wを載置保持する載置台6とから構成されている。なお、直線偏光板3は、本発明の第1光学手段に、載置台6は保持手段にそれぞれ相当する。
【0040】
光源1は、半導体レーザや白色LED(Light emitting diode)などのランダム偏光のものが利用される。なお、光源1は、本発明の照射手段に相当する。
【0041】
ミラー2は、光源1から出力される光の光路上に3枚の異なる特性のものが配備されている。光路の最上流に配備された第1ミラー2Aは、光源1から出力された光のうち1/3を反射して第1光学ヘッド4Aに向かわせ、残りの2/3を透過させる半透過型のミラーである。第1ミラー2Aの下流側に配備された第2ミラー2Bは、第1ミラー2Aを透過した光のうち1/2を反射して第2光学ヘッド4Bに向かわせ、残り1/2を透過させる半透過型のミラーである。最下流に配備された第3ミラー2Cは、第2ミラー2Bからの光を全反射して第3光学ヘッド4Cに向かわせる反射ミラーである。
【0042】
各光学ヘッド4A−4Cは、各ミラー2A−2Cからの光を透過させて測定対象物Wに向かわせるものであって、その光路の上流から順番に第1偏光検出部7、ファラデーローテータ8、直線偏光板9、λ/2波長板10、λ/4波長板11、回転ユニット12、対物レンズ13を備えて前後に移動する可動台14、および第2偏光検出部15とから構成されている。以下、これら各構成について詳述する。なお、可動台14は、本発明の前後移動手段に相当する。
【0043】
第1偏光検出部7は、図2に示すように、第1非偏光ビームスプリッタ16、第2非偏光ビームスプリッタ17、レンズ18、ピンホール19の形成された板状物20、および第2フォトダイオード21から構成されている。なお、第1偏光検出部7は、本発明の第2検出手段に相当する。
【0044】
この構成のうち、光源1からの光が直接に入射する第1非偏光ビームスプリッタ16は、無極性のものである。つまり、光源1からの光を直進方向と直交方向に2分する。一方の光は測定系の外(図1中の一点鎖線の矢印で示す右方向)に出る。また、この実施例では、測定対象物Wから反射して戻る反射光を2分し、一方を第1偏光検出部7の第2フォトダイオード21に向かわせる。他方は、光源1側に戻る。
【0045】
つまり、第1非偏光ビームスプリッタ16は、測定対象物Wから反射した光を直角方向に分岐して第1偏光検出部7の第2フォトダイオード21に向かわせる。測定対象物Wを構成する各ガラス基板W1,W2の各表面および各裏面で反射して初期の直線偏光と同一光路に戻る直線偏光(以下、適宜「第1偏光A」という)のうち、偏光面が初期の偏光状態と同じ偏光成分が第1非偏光ビームスプリッタ16に戻される。
【0046】
ファラデーローテータ8は、第1偏光ビームスプリッタ16からの水平偏光を透過させて45°回転させる。この偏光を直線偏光板9に向せる。また、ファラデーローテータ8は、測定対象物Wから反射して戻る反射光についても透過させて45°回転させ、この光学系では垂直偏光成分のみに変換する。その結果、反射光の全光量が、第1偏光ビームスプリッタ16を直進透過せず、初期光と直交する第2フォトダイオード21に向かうようになる。
【0047】
直線偏光板9は、往復透過する初期光と反射光を直線偏光にする。
【0048】
λ/2波長板10は、直線偏光板9から入射する45°の直線偏光を透過させ、さらに45°戻し、元の水平成分である直線偏光に戻してλ/4波長板11に向かわせる。なお、測定対象物Wから戻る反射光についても透過させることにより45°戻し、このλ/2波長板10および下流側のλ/4波長板11との協働により偏光方向を90°回転させ第1偏光ビームスプリッタ16への反射光を垂直成分のみにする。
【0049】
λ/4波長板11は、λ/2波長板10から到達する直線偏光を透過させ、さらに45°傾かせ、円偏光にする。また、測定対象物Wから反射し、回転ユニット12に備わったグランレーザープリズム(以下、単に「GLP」という)23で分離されて同ユニット内の上流側のλ/4波長板22を透過して戻る第1円偏光Aを45°回転させて円偏光から直線偏光に戻す。つまり、測定対象物Wのガラス基板W1やW2に応力が作用している場合、光弾性により偏光の位相が変化し、この変化の生じた楕円偏光を通過させて、複屈折の変化量を含む直線偏光に変換する。
【0050】
回転ユニット12は、光源1側から順にλ/4波長板22、GLP23、および光弾性変調器24から構成されており、回転駆動機構25により光軸周りに回転するように構成されている。なお、回転駆動機構25は、本発明の回転手段に相当する。
【0051】
λ/4波長板22は、光源1側からの入射光と下流側のGLP23で分離出力される2つの直線偏光のうち初期光路光路を戻る偏光を透過させる。つまり、上流側からの円偏光を透過させ、さらに45°回転させて直線偏光に戻す。また、測定対象物Wからの反射光である楕円偏光をその内部に通過させることにより、その垂直成分をさらに45°傾け、円偏光にする。
【0052】
GLP23は、光源1側から到達した直線偏光を全透過させて下流側の光弾性変調器24に向かわせる。また、GLP23は、測定対象物Wから反射して戻る偏光を透過させたとき、入射時と同じ偏光面を有する直線偏光(垂直成分である第1偏光A)を初期光路に戻し、測定対象物Wを透過する過程で測定対象物Wに作用している応力の影響を受けて偏光状態が変化した成分(水平成分の第2偏光B)のみを抽出し、第1偏光Aとは異なる方向、つまり側面側から出力する。なお、GLP23は、本発明の分離手段に相当する。
【0053】
光弾性変調器24は、測定対象物Wに向う直線偏光を楕円偏光にする。また、測定対象物Wから反射し、測定対象物Wに作用している応力の影響で楕円偏光の向きが、光軸回りに微少に回転した楕円偏光をそのまま全透過させる。
【0054】
したがって、測定対象物Wに作用している応力の影響を受けた第2偏光Bの光強度の検出信号Isは、初期光の光強度の信号に比べて微小である。このような場合、外乱の影響で発生するノイズ成分が加わり第2偏光Bの検出信号Isを精度よく求めることができない。そこで、光弾性変調器24を用いて試料の複屈折量を変調し、その第2偏光Bの検出信号Isをロックインアンプ37に入力させることにより、第2偏光Bの検出信号Isの検出精度を向上させることができる。
【0055】
対物レンズ13は、可動台14に装着されている。すなわち、可動台14の前後移動に連動して光学系ユニット5から測定対象物Wに向かわせる楕円偏光の焦点位置を変位可能に構成されている。
【0056】
載置台6は、図1に示すように、載置保持した測定対象物Wを図中X、Y方向に水平移動できるよう構成されている。すなわち、載置台6は、測定対象物Wを平面保持し、モータなどの駆動機構を介してガイドレール26に沿って水平移動するY軸移動テーブル27と、同じくモータなどの駆動機構を介してガイドレール28に沿ってX軸方向に水平移動するX軸移動テーブル29とから構成されている。なお、Y軸移動テーブル27およびX軸移動テーブル29は、本発明の平行移動手段に相当する。
【0057】
図2に戻り、第2偏光検出部15は、反射ミラー30、レンズ31、ピンホール32の形成された板状物33、および第1フォトダイオード34から構成されている。つまり、GLP23から出力された第2偏光Bは、反射ミラー30で反射され、レンズ31により焦点となるピンホール32を通過した後に、第1フォトダイオード34で受光されるように構成されている。
【0058】
第1フォトダイオード34は、受光した光強度を検出信号Isに変換して制御ユニット36に送信する。なお、第2偏光検出部15は、本発明の第1検出手段に相当する。
【0059】
次に、第1偏光検出部7に戻り、第2非偏光ビームスプリッタ17は、無極性のものであり、光を直進方向と直交方向に2分する。つまり、第1非偏光ビームスプリッタ16から到達した光を分岐する。各々の光を第1偏フォトダイオード21と平行度検出器35に向せる。
【0060】
レンズ18は、第2非偏光ビームスプリッタ17から到達した直線偏光を集光して板状物20に形成されたピンホール19を通過するように焦点が合わされている。
【0061】
第2フォトダイオード21は、ピンホール19を通過した第1偏光Aを受光して、光強度の検出信号Irに変換して制御ユニット36に送信する。
【0062】
平行度検出部35は、反射光の光路ズレを検出している。図3に示すように、平行度検出部35は、4個のフォトダイオード35a−35dが2次元アレー状に隣接配備されており、第2非偏光ビームスプリッタ17から到達する直線偏光の光軸が互いに隣接し合う中心点Cに位置し、4個のフォトダイオード35a−35dにまたがって均等に受光されるようになっている。各フォトダイオード35a−35dで受光した直線偏光を光強度の検出信号に変換して制御ユニット36に送信する。なお、平行度検出部35は、本発明の検出手段に相当する。
【0063】
制御ユニット36は、図4に示すように、ロックインアンプ37、演算処理部38、および駆動制御部39を含むとともに、外部に操作部40が接続されている。以下、各構成について具体的に説明する。
【0064】
ロックインアンプ37は、ノイズ除去として機能している。つまり、測定対象物Wからの反射光を光弾性変調器24に入射させ、反射光の偏光成分の光強度を予め決めた周波数で変調された周波数が参照信号として周波数発生器41からロックインアンプ37に入力されるとともに、第1フォトダイオード34からの第2偏光Bの検出信号Isがロックインアンプ37に入力される。このとき、第2偏光Bの検出信号Isから上記周波数と同じ周波数成分のみが抽出されるようになっている。
【0065】
演算処理部38は、主として2通りの処理を行っている。第1の処理として、載置台6に保持された測定対象物Wの反りなどの影響によって、焦点面から反射して戻る偏光が、第1偏光検出部7の第2フォトダイオード21および第2偏光検出部15の第1フォトダイオード33で受光されるように光路のズレの補正量を算出する。第2の処理として、測定対象物Wの所定のガラス基板W1またはW2に作用している応力によって発生する複屈折の変化量、光弾性係数、およびガラス基板の厚みのうちの未知パラメータ、並びに所定のガラス基板に作用する主応力の差とその方向、およびオフセット値を求める。これら具体的な処理については、動作説明で詳述する。なお、演算処理部38は、本発明の演算手段に相当する。
【0066】
駆動制御部39は、操作部40によって設定された条件に基づく駆動信号を各光学ヘッド4A−4Cの回転駆動機構25や図示しないアクチュエータに送信する。つまり、駆動制御物38は、回転駆動機構25が光源1からの初期光の光軸回りに回転ユニット12を任意の回転角度に回転移動するように制御する。また、駆動制御部39は、載置台6をXY平面上でそれぞれの方向に任意の速度で移動させる。
【0067】
これら各構成を含む制御ユニット36は、上記の処理以外に初期の設定条件に基づいて各駆動機構などの動作を制御する。
【0068】
周波数発生器41は、操作部40から設定された周波数情報を制御ユニット36を介して受信し、この受信信号に基づいて光弾性変調器24に所定の電圧を印加するとともに、光弾性変調器24に入射させた反射光の偏光成分の光強度を予め決めた周波数で変調された周波数を参照信号としてロックインアンプ37に送信する。
【0069】
次に、上記実施例装置を用いて、測定対象物Wの各ガラス基板W1,W2に作用する主応力の差と主応力の差の作用している方向を測定する一巡の動作および処理について、図5に示すフローチャートに沿って説明する。なお、測定対象物Wを構成するガラス基板W1,W2の両方に応力が作用している場合を例にとって説明する。
【0070】
オペレータは、操作部40を操作して測定対象物Wの総厚み、各光学ヘッド4A−4Cの設置角度と各移動テーブル26,28の移動速度、測定対象である主応力の差、主応力の差の作用する方向、直線偏向の回転角を求めるためのモデル式などの測定条件を設定入力する(ステップS1)。なお、この実施例の場合、各光学ヘッド4A−4Cは、第1光学ヘッド4Aを基準として0°に設定し、この基準に対して第2光学ヘッド4Bを45°、第3光学ヘッド4Cを90°に設定する。
【0071】
条件設定が完了すると、載置台6に測定対象物Wが載置保持されるとともに、各駆動機構が作動されて測定開始できる状態となる。この時点で可動台14が所定位置に移動して停止し、その位置で第1光学ヘッド4Aによるテスト照射が実行される。(ステップS2)。このとき、可動台14を昇降させながらテスト照射が実行される。
【0072】
光路ズレは、次のようにして行われる。光源1から測定対象物Wに向けて直線偏光が照射され、反射して戻る第1偏光Aを平行度検出器35で受光し、各フォトダイオード35a−35dの光強度の検出信号を制御ユニット36の演算処理部38に送信する。
【0073】
演算処理部38は、各フォトダイオード35a−35dが受光したそれぞれの光の強度値と各フォトダイオード35a−35dが受光した光の全量から求めた強度値の平均を比較し、求まる偏差に基づいて光源1から測定対象物Wまでの光路ズレの有無を判断する(ステップS3)。
【0074】
光路ズレが確認できた場合、演算処理部38は、測定対象物Wの反りなどの影響で起こる煽りを補正するための補正量を求めて信号変換する(ステップS4)。この補正信号に基づいて、駆動制御部39は、アクチュエータを作動させて載置台6の傾きを補正し、反射光が各フォトダイオード35a−35dに均等に照射させるようにする(ステップS5)。
【0075】
光路ズレの傾き補正処理が完了すると、再び可動台14を昇降させてテスト照射を行う。この時点で光路ズレが解消されていれば、その測定結果から測定対象となるガラス基板W1とガラス基板W2の裏面の焦点位置を検出する(ステップS6)。光路ズレが解消されていなければ、ステップS2からの補正処理が繰り返し行われる。
【0076】
測定条件の取得が完了すると、測定開始状態へと移行する。つまり、図6(a)に示すように、Y軸移動テーブル27の図中右上角部が第1光学ヘッド4Aの下方へと移動させられる。すなわち、駆動制御部39がY軸移動テーブル27およびX軸移動テーブル29の駆動機構の動作を制御して、Y軸移動テーブル27を測定開始位置に移動させる。
【0077】
同時に、取得済みの複数個の焦点から、先ずガラス基板W1の裏面が焦点となるように、光学ヘッド4A−4Cの可動台14が移動される(ステップS7)。
【0078】
測定開始状態が整うと、測定を開始する(ステップS8)。光源1から光が照射されると、図6(b)に示すように、Y軸移動テーブル27が右側に移動してゆく。このとき、先ず第1ミラー2Aで反射された光が直線偏光板3を透過して第1光学ヘッド4Aに入射する。この直線偏光は、測定対象物Wの右上角部側に光が照射される。つまり、直線偏光は、光学ヘッド4Aを透過する過程で光弾性変調器24により楕円偏光に変換され、測定対象物Wに到達する。
【0079】
測定対象物Wから反射して戻る反射光は、入射光と同一航路を通り光学ヘッド4Aへと戻る。反射光が光学ヘッド4Aと透過する過程で、先ず光弾性変調器24で変調されつつ、測定対象物Wに作用している応力の影響で楕円偏光の向きが、光軸周りに微小に回転した楕円偏光をそのまま全透過させる。
【0080】
光弾性変調器24を透過した楕円偏光は、GLP23を透過する。このとき、GLP23は。光源1からの入射光と同じ偏光面を有する第1偏光Aを光源1側の初期光路に戻すとともに、測定対象物Wに作用している応力の影響を受けた第2偏光Bを分離して側面から第2偏光検出部15に向けて出力する。
【0081】
GLP23から出力される第1偏光Aは、第1偏光検出部7に戻る過程で各光学部材を通過することにより、直線偏光に戻される。
【0082】
各偏光検出部7、15に到達した第1偏光Aと第2偏光Bは、第1および第2フォトダイオード34、21で受光される。ここで、第1フォトダイオード34で検出された第2偏光Bの光強度の変化が、検出信号Isにリアルタイムに変化されるとともに、この検出信号Isと参照信号が制御ユニット36のロックインアンプ37に送信される。第2フォトダイオード21で受光された第1偏光Aの光強度の変化が、検出信号Irにリアルタイムに変化されて制御ユニット36の演算処理部38に送信される。
【0083】
ロックインアンプ37は、第2偏光Bの検出信号Isから参照信号と同じ周波数成分のみを演算処理部38に送信する。
【0084】
このとき、ガラス基板W1,W2に応力が作用している場合、各焦点面で反射して戻る反射光に第2偏光Bが含まれている。つまり、図7に示すように、ガラス基板1の表面と空気層との接触界面(焦点面P1)で反射して戻る反射光R1、ガラス基板W1とガラス基板W2との微小間隙の空気層とガラス基板W1の裏面との接触界面(焦点面P2)で反射して戻る反射光R2、空気層とガラス基板W2の表面との接触界面(焦点面P3)で反射して戻る反射光R3、およびガラス基板W2と載置台6との接触界面(焦点面P4)で反射して戻る反射光R4のそれぞれに、第2偏光Bの光強度の検出信号Isの成分が含まれている。
【0085】
各焦点面P1〜P4で反射して戻る反射光は、初期光と同一光路に戻され、再びGLP23を透過される。このとき、応力の影響を受けて生じた第2偏光Bと影響のない第1偏光Aに分離される。分離された第1偏光Aは、ピンホール19を通過することによって焦点からの偏光のみを通過させ上流側の第2フォトダイオード21で受光される。第2偏光Bは、第1偏光Aとは別光路に出力され、反射ミラー30で反射され、ピンホール32を通過して焦点から戻る偏光のみが第1フォトダイオード34に向かう。第1フォトダイオード34で受光された各焦点面P1−P4から反射して戻る第2偏光Bの光強度は、図8に示すように、3つのピークとして現れる。
【0086】
この実施例では焦点面P1−P4の4箇所あるので4つのピークが発生するはずであるが、3つのピークとなって現れる。この現象は、本光学系の焦点深度から、空気層の前後のガラス面で反射する光で干渉が生じて焦点面P2およびP3で反射して戻る反射光R2およびR3が合成されたものとなっていることが新たな知見として得られた。この図8で示す実線が、検出対象の光弾性信号であり、破線が測定対象物Wで反射して戻る反射光の信号である。
【0087】
したがって、演算処理部38は、先ず、これら第1および第2フォトダイオード34、21からの検出信号のうち焦点面P2、P3で反射して戻る合成された反射光に含まれる検出信号と焦点面P2で反射して戻る検出信号を抽出し、両検出信号Isの値を補正する。つまり、ロックインアンプ37から送信された第2偏光Bの検出信号Isを第1偏光Aの検出信号Irで除算したIs/Irで補正する。そして、この補正後の光強度値、測定時の光学ヘッド4Aの回転ユニット12の設定角度、および、Y軸移動テーブル27およびX軸移動テーブル29の位置情報を関連付けて記憶しておく。なお、この位置情報は、例えば両テーブル27、28を移動させるモータなど駆動機構の回転角をエンコーダなどのセンサでパルス信号として取得する。
【0088】
第1光学ヘッド4Aでの測定が完了すると、Y軸方向に整列配備された第2光学ヘッド4B、第3光学ヘッド4Cにより、第1光学ヘッド4Aと同じ焦点位置の測定が順番に実行される(ステップS8,S9,S10)。
【0089】
各光学ヘッド4A−4Cによる同一焦点P2の測定が完了すると、演算処理部38は、ガラス基板W1に作用している各主応力の差とその方向、直線偏向の回転角θ、および、オフセット値を測定結果とモデル式φsin(2(α−θ))+Cを利用して求める(ステップS9)。
【0090】
具体的に、演算処理部38は、記憶した位置情報から同一焦点の情報を抽出する。そして、3つの光強度値と各光学ヘッド4A−4Cの設置角度を利用し、前面ガラス基板W1の複屈折の変化量It(k)を以下に示すモデル式を利用して求める。
【0091】
It(k)=K(4Φ2 + 2ρΦsin(2(α−θk))) … (1)
【0092】
ただし、2枚のガラス基板の複屈折量は極僅か(ρ<0.01rad)の場合を想定しており、その2乗の項は省略する。
【0093】
ここで、kは光学ヘッド4A−4Cの識別記号でありk=1,2,3とし、tは時間、ρはガラス基板W1の複屈折量、αは主応力差の方向、θkは複屈折の方向と大きさを検出するためにガラス基板W1に対する光学ヘッドkの直線偏光の回転角、Φは光弾性変調器24による変調量の振幅の半分、Cは信号のオフセット値、Kは光源1の強度に関する値である。時間tは同一点を異なる時刻に各光学ヘッド4A−4Cで測定することを意味する。
【0094】
そして、図4に示すように、検出信号Isをロックインアンプ37に通すことにより、前面ガラス基板W1の複屈折の変化量は、次式(2)の1次式で表すことができる。
【0095】
It(k)=2KΦ[ρsin(2(α−θk)) ] … (2)
【0096】
すなわち、交流成分である複屈折の情報を含むρとαの信号成分のみが抽出される。そして、式(2)は、図9に示すように、回転角θkを連続変数とみなしたとき、正弦波(以下、適宜に「1次―正弦波」という)として求めることができる。ただし、式(2)で求まるsinカーブにおいて、実際の光学ヘッドではゼロレベルがずれる場合がある。したがって、上記(2)においてゼロレベルのずれ量をオフセットとして考慮すると、次式(3)によって表すことができる。
【0097】
It(k)=φsin(2(α−θk))+C … (3)
【0098】
なお、当該式のCは、オフセット量である。当該オフセット量は、レンズなどの光学系の残留複屈折から生じ、式(3)のモデルは、図9に示すゼロレベルのずれた1次―正弦波となる。この振幅Vを主応力の差として求めることができる。また、主応力差の方向は、このsinカーブがオフセット値Cと交差する角度αとして特定できる。この角度は複屈折が最大および最小となる角度から±45°の位置である。
【0099】
さらに、本実施例では同一試料を用いて作用する弾性応力の状態、すなわち、引っ張り状態と圧縮状態をキャリブレーションして予め求めておく。例えば、図9および10に示す位相が反転した回転角の2倍を変数とする2つの1次―正弦波が得られる。これら両1次―正弦波を基準モデルとして記憶しておき、測定対象であるガラス基板から得られる1次―正弦波と基準モデルとのαでの傾きを比較することにより、ガラス基板に作用している弾性応力が引っ張りであるか、それとも圧縮であるかを特定する。
【0100】
上述のように、ガラス基板W1の所定の1点での処理が完了する。同様にY軸に沿って測定対象物Wが、図6(c)に示すように、図中左他端に達するまでに連続または所定のサンプリングピッチで測定処理が繰り返し実行される。
【0101】
測定対象物Wが測定終端位置に達すると、駆動制御部39は、図6(d)に示すようにX軸移動テーブル29を所定ピッチで水平移動させ、その後にY軸移動テーブル27を反転移動させる。この間においてもガラス基板W1に対する測定が繰り返し行われる。
【0102】
ガラス基板W1の全面において測定が完了すると、駆動制御部39は、各光学ヘッド4A−4Cの可動台14を作動させガラス基板W2の裏面焦点に位置合せを行う(ステップS10)。
【0103】
各光学ヘッド4A−4Cの焦点の位置合せが完了すると、駆動制御部39は、ガラス基板W1の測定時の往路を測定光が通るように、Y軸移動テーブル27とX軸移動テーブル29の動作を制御してガラス基板W2の測定を開始する。この移動の間に上述のステップS8−S11の処理を繰り返し実行し、ガラス基板W2の裏面焦点からの反射光を検出し、ガラス基板W2に作用している主応力の差とその方向、およびオフセット値を求める。
【0104】
ガラス基板2の測定時において、制御ユニット36は、測定対象物Wが終端位置を判断しつつ(ステップS12)、終端位置に達した時点で測定対象である最終層のガラス基板W2であることが確認する(ステップS13)。ここで終端位置、かつ、ガラス基板W2であることが確認されると全測定処理が完了する。
【0105】
上述の構成を有する光弾性測定装置によれば、ガラス基板W1,W2に作用している応力の影響で偏光状態が変化して生じた垂直成分の第2偏光BのみをGLP23で分離して取り出すことができる。このGLP23で分離した第2偏光Bを、さらにピンホール32を通過させることにより、ガラス基板W1の裏面(焦点面P2とガラス基板W2の表面(焦点面P3)から反射して戻るガラス基板W1の応力の影響を受けた第2偏光Bと、ガラス基板W2の裏面(焦点面P4)から反射して戻るガラス基板W2の応力の影響を受けた第2偏光Bのみを抽出することができる。換言すれば、共焦点を利用することにより、任意のガラス基板(層)に作用している応力の影響を受けた第2偏光のみを測定できる。
【0106】
また、所定のガラス基板W1,W2の裏面に各光学ヘッド4A−4Cの焦点を合せた状態で、光学系ユニット5と測定対象物Wを相対的に水平移動させることにより、異なる偏光角の偏光が同一焦点に瞬時に照射される。したがって、測定処理を高速にすることができる。
【0107】
また、平行度検出器35を利用することにより、測定光の光路ズレを補正することができ、第1偏光Aおよび第2偏光Bを第1および第2フォトダイオード34、21で精度よく受光できる。
【0108】
さらに、複屈折量が既知の光弾性変調器24を回転ユニット12に介在させておくことにより、第2偏光Bの検出信号が微小であっても増幅させ、ロックインアンプ37を用いることにより、ガラス基板W1,W2に作用している微小な応力を精度よく測定することができる。
【0109】
なお、本発明は上述した実施例に限らず、次のように変形実施することができる。
【0110】
(1)上記実施例装置では、測定移動方向に沿って3台の光学ヘッド4A−4Cを1列に整列配備していたが、この形態に限定されるものではなく、3台以上であってもよいし、3台以上の光学ヘッドを2次元アレー状に配備した構成であってもよい。
【0111】
(2)上記実施例装置では、測定前に所定の位置で焦点位置をスキャニングして取得していたが、次にように実施してもよい。
【0112】
例えば、1次元または多次元ラインセンサなどで測定対象物Wの表面全体の高さの変動を予め測定し、マッピングデータを作成して制御ユニット36に記憶しておく。測定開始と同時に駆動制御部39がマッピングデータを参照し、各光学ヘッド4A−4Cの可動台14の昇降移動を調整しながら対物レンズ13から測定対象物Wの表面までの距離を一定に保つように制御する。すなわち、測定対象物Wの表面高さのバラつきに関わらず、測定対象である焦点位置が常に各光学ヘッド4A−4Cで検出されるように構成する。
【0113】
別例として、測定方向の先頭に配備される光学ヘッド4Aおよび/または4Cの前方にレーザセンサや光学センサを配備し、光学ヘッドが通る直前に測定対象物Wの表面高さを測定し、この測定結果に基づいて駆動制御部39が各光学ヘッドの可動台14の昇降を調整し、測定対象である焦点位置が常に一定に検出されるように構成してもよい。
【0114】
(3)上記実施例装置において、実測により求める1次―正弦波には、少なからずノイズ成分が含まれている。そこで、上記式(3)を利用して得られたデータに最小2乗方法を適用することにより、ノイズ成分を除去するよう構成してもよい。この構成によれば、主応力の差とその方向、並びにオフセット量の測定精度をさらに向上させることができる。
【0115】
(4)上記各実施例では、2枚のガラス基板W1,W2を間隙おいて配備した測定対象物Wを利用したが、測定対象物Wはこの形態に限定されるものではなく、間隙をなくし複数枚の透過性を有する測定対象物を密着させて積層したものであってもよい。例えば、ガラス基板同士、ガラス基板とフィルムなどのように屈折率の異なる測定対象物の組合せなどがある。
【0116】
(5)上記各実施例では、測定対象物Wの平行度が保たれている場合には第2非偏光ビームスプリッタ17および平行度検出器35を省いた構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施例装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】光学ユニット内の光学ヘッドの構成を示すブロック図である。
【図3】平行度検出部による偏光の受光状態を示す平面図である。
【図4】実施例装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】主応力の差とその方向を測定する一巡の処理および動作を示すフローチャートである。
【図6】実施例装置の動作を説明する図である。
【図7】測定対象物の各焦点面で反射する反射光の状態を示す図である。
【図8】第2偏光の光強度の検出状態を示す図である。
【図9】ロックインアンプにより得られる弾性信号の出力図である。
【図10】ガラス基板に作用している弾性応力の状態を示す比較図である。
【符号の説明】
【0118】
1 … 光源
2 … ミラー
3 … 直線偏光板
4 … 光学ヘッド
5 … 光学ユニット
6 … 載置台
7 … 第1偏光検部
8 … ファラデーローテータ
9 … 直線偏光板
10 … λ/2波長板
11 … λ/4波長板
12 … 回転ユニット
13 … 対物レンズ
14 … 可動台
15 … 第2偏光検出部
21 … 第2フォトダイオード
23 … GLP
24 … 光弾性変調器
27 … Y軸移動テーブル
29 … X軸移動テーブル
34 … 第1フォトダイオード
35 … 平行度検出器
36 … 制御ユニット
37 … ロックインアンプ
38 … 演算処理部
39 … 駆動制御部
40 … 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層からなる透過性を有する測定対象物の各層に作用する主応力の差、主応力の差の作用する方向、およびオフセット値の少なくとも主応力の差、主応力の差の作用する方向を測定する光弾性測定方法であって、
照射手段からの照射光を光学手段を介して直線偏光にし、
レンズを介して前記測定対象物に直線偏光を照射しながら、レンズと測定対象物を光軸方向に沿って相対的に前後移動させて層同士が接触する複数の接触界面のうち所定の接触界面に焦点を合せ、
前記測定対象物から反射して戻る反射光を光学手段に透過させて初期の光路を戻る第1偏光と、当該第1偏光と直交する第2偏光を別光路に分離して出力し、
分離された前記第2偏光のうち焦点面から反射して戻る偏光のみをピンホールに通過させて検出する光学ヘッドを少なくとも3台備え、
前記各光学ヘッドから測定対象物に照射される直線偏光が、それぞれ異なる入射角となるように整列配備した状態で、当該光学ヘッドと測定対象物を相対的に平行移動させつつ、各光学ヘッドから照射されて所定層の同一の接触界面から反射して戻る偏光を当該光学ヘッドごとに検出し、
検出された前記各偏光の少なくとも3つの異なる角度θでの光強度の変化量に基づいて、主応力の差φ、主応力差の作用する方向α、および、オフセット値Cをφsin(2(α−θ))+Cからなるモデル式から求める、
ことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光弾性測定方法において、
分離されて初期の光路を戻る第1偏光のうち前記焦点面から反射して戻る偏光のみをピンホールに通過させて検出し、
当該第1偏光と前記第2偏光の両光強度の変化量を求め、この変化量に応じて実測により求まる第2偏光から検出した偏光の光強度を補正する
ことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光弾性測定方法において、
前記照射手段は、単一の光源からなり、当該照射手段からの照射光を光学ヘッドに均等に分光する
ことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の光弾性測定方法において、
前記測定対象物の表面高さを検出し、
当該検出結果と予め決めた基準値とを比較し、求まる偏差に応じて前記光学ヘッドの高さを調整する
ことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項5】
複数層からなる透過性を有する測定対象物の各層に作用する主応力の差、主応力の差の方向、およびオフセット値の少なくとも主応力の差、主応力の差の作用する方向を測定する光弾性測定装置であって、
前記測定対象物に向けて光を照射する照射手段と、
前記照射手段からの光を透過させて直交する2方向の偏光成分からなる直線偏光にする第1光学手段と、
前記直線偏光を透過させて前記測定対象物の所定層の界面に焦点を合せるレンズと、
前記測定対象物の焦点面から反射して戻る偏光のうち初期の光路を戻る第1偏光と、この第1偏光と直交する第2偏光を別光路に分離して出力する分離手段と、
分離された前記第2偏光のうち前記焦点面から反射して戻る偏光のみを通過させるピンホールの形成された部材と、
前記ピンホールを通過した第2偏光の光強度を検出する第1検出手段とを備えた光学ヘッドと、
少なくとも3台の前記光学ヘッドを備え、当該各光学ヘッドから測定対象物に照射される直線偏光が、それぞれ異なる入射角となるように整列配備された光学ユニットと、
前記測定対象物を保持する保持手段と、
前記光学ヘッドのレンズと保持手段を偏光の光軸方向に沿って相対的に前後に移動させる前後移動手段と、
前記保持手段と光学ユニットを相対的に平行移動させる平行移動手段と、
前記光学ユニットと測定対象物を相対的に平行移動させつつ、各光学ヘッドから照射されて所定層の同一箇所から反射して戻る偏光を各光学ヘッドの第1検出手段ごとに検出し、当該各偏光の光強度の変化量と検出角度の位置情報に基づいて、主応力の差φ、主応力の差の方向α、および、オフセット値Cをφsin(2(α−θ))+Cからなるモデル式により求める演算手段と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の光弾性測定装置において、
前記分離手段で分離された第1偏光のうち前記焦点面から反射して戻る偏光のみを通過させるピンホールの形成された部材と、
前記ピンホールを通過した偏光の光強度検出する第2検出手段とを備え、
前記演算手段は、前記第1検出手段により検出された偏光の光強度を用いて前記第2検出手段により検出された偏光の光強度を除算する
ことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の光弾性測定装置において、
前記測定対象物からの反射光を入力させ、その光強度を予め決めた周波数に変調する光弾性変調器と、
変調されてピンホールを通過した第2偏光を入力させて予め決められた前記周波数成分の実測情報を抽出するロックインアンプとを備え、
前記演算手段は、前記測定対象物と同じ試料を用いて当該試料に圧縮および引っ張り応力を作用させたときの各主応力の差を直線偏光の向きを変数とする正弦波として予め基準情報を取得しておき、当該基準情報と実測情報とを比較し、測定対象物に作用している主応力の差の状態を特定する
ことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の光弾性測定装置において、
前記分離手段で分離された第1偏光をピンホールに向う偏光と他の方向に向う偏光に分離する第1偏光分離手段と、前記第1偏光分離手段で他の方向に分離された偏光を検出する複数個の受光素子を2次元アレー状に配備して構成した検出手段と、
前記保持手段を傾斜させる駆動手段と、前記検出手段によって検出された偏光の位置に応じて保持手段に保持された測定対象物の傾斜量が前記演算手段により求められ、この傾斜量にしたがって前記駆動手段を作動させて前記保持手段の平行度を維持させる駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項9】
請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の光弾性測定装置において、
前記測定対象物の表面高さを検出する高さ検出手段と、
前記演算手段により表面高さの検出結果と予め決めた基準値を比較し、求まる偏差に応じて前記光学ヘッドの高さを調整するよう前後移動手段の作動を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−91332(P2010−91332A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259859(P2008−259859)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)