説明

光沢アルミニウム材料の製造方法

【課題】多量の重金属を必要としないで光沢を有するアルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム材料を効率よく製造することができる方法および当該製造方法に好適に使用することができる光沢アルミニウム材料用めっき液を提供すること。
【解決手段】光沢を有するアルミニウム材料を製造する方法であって、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムの存在下でアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させることを特徴とする光沢アルミニウム材料の製造方法、ならびに光沢を有するアルミニウム材料の製造に用いられるめっき液であって、有機溶媒にアルミニウムハロゲン化物と、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムとが溶解されていることを特徴とする光沢アルミニウム材料用めっき液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢アルミニウム材料の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、複雑な形状を有する基材に対しても適用することができる光沢アルミニウム材料の製造方法および当該製造方法に好適に使用することができる光沢アルミニウム材料用めっき液に関する。
【0002】
本発明の製造方法は、複雑な形状を有する基材に、平滑で美麗な光沢を有するアルミニウムめっき皮膜を形成することができるので、当該製造方法によって得られた光沢アルミニウム材料は、例えば、電気・電子材料、自動車用部品などの車両用材料、建築材料、船舶材料、航空機材料、家庭用品、光学機器、装飾品などの幅広い用途への応用が期待される。
【0003】
なお、本願明細書において、光沢アルミニウム材料とは、基材の表面にアルミニウムめっき皮膜が形成されている材料を意味し、当該光沢アルミニウム材料に用いられる基材は、アルミニウム以外の金属、例えば、ニッケル、銅などの金属や炭素、導電性有機材料で構成されていてもよい。
【背景技術】
【0004】
従来、金属メッキ材料として亜鉛めっきが広く用いられているが、地球上における亜鉛資源が枯渇しつつあることから、亜鉛に代わる金属が必要とされている。亜鉛に代わる金属としてクロムを用いることが考えられるが、クロムは、毒性が強いため、その使用および廃棄に対して厳しく規制されていることから、クロムの代替となる金属が求められている。
【0005】
一方、アルミニウムは、地球上に豊富に存在し、耐食性に優れ、毒性が低いことから、新しいめっき材料として用いることが期待されている。アルミニウムをめっき材料として用いる場合、アルミニウムは、その水溶液から電析させることができないため、トルエンなどの非水系有機溶媒が用いられためっき液、イミダゾリウム塩などの常温溶融塩めっき液などを用いることが検討されている。しかし、これらのめっき液は、安全性、生産性、コストなどの点で課題が多いため、現在のところ実用化されるには至っていない。
【0006】
このような状況下で、比較的安全でかつ安価なめっき液として、ジメチルスルホンが溶媒として用いられた電解アルミニウムめっき液(例えば、特許文献1参照)および溶融塩電気アルミニウムめっき浴(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかし、これらのめっき液またはめっき浴のなかで光沢を有するめっき皮膜は、添加剤としてマンガンを用いることによって形成されているが(例えば、特許文献2の段落[0025]の「表3」に記載の「実施例10」参照)、光沢を有するめっき皮膜を形成するためには、多量のマンガンを必要とするという欠点がある。
【0007】
したがって、近年、マンガンなどの重金属の使用量が少なくても光沢を有するアルミニウムめっき皮膜が形成されたアルミニウム材料を効率よく製造することができる方法の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−291490号公報
【特許文献2】特開2008−195989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、多量の重金属を必要としないで光沢を有するアルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム材料を効率よく製造することができる方法および当該製造方法に好適に使用することができる光沢アルミニウム材料用めっき液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1) 光沢を有するアルミニウム材料を製造する方法であって、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムの存在下でアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させることを特徴とする光沢アルミニウム材料の製造方法、および
(2) 光沢を有するアルミニウム材料の製造に用いられるめっき液であって、アルミニウムハロゲン化物と、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムとが有機溶媒に溶解されていることを特徴とする光沢アルミニウム材料用めっき液
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によれば、多量の重金属を必要としないで光沢を有するアルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム材料を効率よく製造することができる。また、本発明の光沢アルミニウム材料用めっき液によれば、多量の重金属を必要としないで光沢を有するアルミニウム皮膜が形成されたアルミニウム材料を効率よく製造することができる。
【0012】
本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によって得られた光沢アルミニウム材料は、例えば、電気・電子材料、自動車用部品などの車両用材料、建築材料、船舶材料、航空機材料、家庭用品、光学機器、装飾品などの幅広い用途への応用が期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は比較例1で得られためっき皮膜の光学写真、(b)は実施例1で得られためっき皮膜の光学写真、(c)は実施例2で得られためっき皮膜の光学写真である。
【図2】(a)は比較例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真、(b)は実施例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真、(c)は実施例2で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1〜2および比較例1で得られためっき皮膜の正反射率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法は、光沢を有するアルミニウム材料を製造する方法である。本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法は、前記したように、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムの存在下でアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させることを特徴とする。前記製造方法には、アルミニウムハロゲン化物と2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムとが有機溶媒に溶解されているめっき液を好適に使用することができる。
【0015】
アルミニウムハロゲン化物は、めっき皮膜を形成するためのアルミニウム原料として用いられる。好適なアルミニウムハロゲン化物としては、例えば、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、光沢を有するめっき皮膜を容易に形成させる観点から、フッ化アルミニウムおよび塩化アルミニウムが好ましく、経済性を考慮すれば、塩化アルミニウムがより好ましい。
【0016】
アルミニウムハロゲン化物は、通常、有機溶媒に溶解させて用いられる。アルミニウムハロゲン化物が常温で有機溶媒に溶解しない場合には、アルミニウムハロゲン化物が有機溶媒に溶解する温度以上の温度に加熱することにより、アルミニウムハロゲン化物を有機溶媒に溶解させることが好ましい。アルミニウムハロゲン化物が有機溶媒に溶解する温度は、当該アルミニウムハロゲン化物および有機溶媒の種類によって異なるので一概には決定することができない。通常、アルミニウムハロゲン化物が有機溶媒に溶解する温度は、150℃以下の低温であることから、本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法は、光沢アルミニウム材料をエネルギー効率よく製造することができるという利点を有する。
【0017】
アルミニウムハロゲン化物の量は、光沢アルミニウム材料を効率よく製造する観点から、有機溶媒1モルあたり、好ましくは0.05〜1モル、より好ましくは0.1〜0.5モルである。
【0018】
有機溶媒としては、アルミニウムの電析を効率よく行なう観点から、例えば、式(I):
(R12SO2 (I)
(式中、R1は、それぞれ独立して1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジアルキルスルホンが好ましい。ジアルキルスルホンとしては、例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジブチルスルホンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのジアルキルスルホンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのジアルキルスルホンのなかでは、アルミニウムの電析を効率よく行なう観点から、ジメチルスルホンが好ましい。なお、前記ジアルキルスルホンは、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの他の有機溶媒と併用してもよい。
【0019】
本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法は、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムの存在下でアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させる点に、1つの大きな特徴がある。
【0020】
本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によれば、このように2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムの存在下でアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させるという操作が採られているので、多量の重金属を必要としないで光沢に優れた光沢アルミニウム材料を効率よく製造することができる。
【0021】
2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘプタエチレンオクタミンなどの炭素数が1または2のアルキル基を2〜8個有し、アミノ基を2〜8個を有するアルキルポリアミンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルキルポリアミンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルキルポリアミンは、いずれも本発明において好適に使用することができるものであるが、それらのなかではテトラエチレンペンタミンは、光沢を有するめっき皮膜を容易に形成させる観点から好ましい。
【0022】
2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンの量は、アルミニウムハロゲン化物1モルあたり、得られる光沢アルミニウム材料の光沢を向上させる観点から、好ましくは0.0005モル以上、より好ましくは0.001モル以上であり、光沢アルミニウム材料をエネルギー効率よく製造する観点から、好ましくは0.1モル以下、より好ましくは0.05モル以下である。
【0023】
ハロゲン化ジルコニウムとしては、例えば、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのハロゲン化ジルコニウムは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのハロゲン化ジルコニウムのなかでは、光沢を有するめっき皮膜を容易に形成させる観点から、塩化ジルコニウムが好ましい。
【0024】
ハロゲン化ジルコニウムの量は、アルミニウムハロゲン化物1モルあたり、得られる光沢アルミニウム材料の光沢を向上させる観点から、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.002モル以上であり、光沢アルミニウム材料をエネルギー効率よく製造する観点から、好ましくは0.05モル以下、より好ましくは0.01モル以下である。このように、本発明によれば、ハロゲン化ジルコニウムには重金属であるジルコニウムが含まれているが、当該ハロゲン化ジルコニウムの量が少なくても光沢を有するめっき皮膜を形成することができる。
【0025】
なお、本発明においては、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンおよびハロゲン化ジルコニウムは、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンとハロゲン化ジルコニウムとを併用する場合、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンおよびハロゲン化ジルコニウムの各量は、得られる光沢アルミニウム材料の光沢、製造効率などを考慮して適切に調整することが好ましい。
【0026】
本発明においては、アルミニウムを電析させる際に、めっき液を用いることができる。このめっき液は、アルミニウムハロゲン化物と2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムとを有機溶媒に溶解させることによって容易に調製することができる。より具体的には、めっき液は、例えば、アルミニウムハロゲン化物を有機溶媒に溶解させた溶液に、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムを添加することによって調製することができる。
【0027】
次に、アルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させる。このように、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムの存在下でアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させた場合には、光沢に優れた光沢アルミニウム材料を製造することができる。
【0028】
アルミニウムを電析させる際には、電解槽を用いることができる。電解槽の大きさおよび形状は、目的とする光沢アルミニウム材料の大きさおよび形状に適したものであればよく、本発明は、当該電解槽の大きさおよび形状によって限定されるものではない。電解槽を用いる場合、例えば、電解槽内に前記めっき液を入れ、当該めっき液中に陽極および陰極を挿入し、両極に通電することにより、アルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させることができる。
【0029】
アルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させる際には、陽極としてアルミニウム板が用いられる。アルミニウム板は、少なくとも表面がアルミニウムで形成されていることを意味する。したがって、前記アルミニウム板は、アルミニウムのみで構成されていてもよく、あるいはモリブデンなどの金属基材の表面がアルミニウムで被覆された複合体であってもよい。
【0030】
一方、陰極としては、例えば、ニッケル板、銅板、炭素電極、グラファイト電極などの基板が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。基板の形状および大きさは、特に限定されず、得られる光沢アルミニウム材料の用途などに応じて適宜決定することが好ましい。
【0031】
アルミニウムを電析させる際の陰極電位は、電析物を基板上に均一に析出させる観点から、アルミニウム参照電極に対して−0.5V以下であることが好ましく、電析効率を高める観点から−2.0V以上であることが好ましい。
【0032】
また、アルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液に通電する際の電流密度は、アルミニウムを効率よく電析させる観点から、好ましくは5mA/cm以上、より好ましくは20mA/cm2以上であり、アルミニウムの析出量を増加させる観点から、好ましくは100mA/cm以下、より好ましくは80mA/cm以下である。
【0033】
アルミニウムを電析させる際のアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液の温度は、当該アルミニウムハロゲン化物および有機溶媒の種類によって異なるので一概には決定することができないが、電析効率を高める観点から、アルミニウムハロゲン化物が有機溶媒に溶解する温度〜150℃であることが好ましい。このように、本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によれば、アルミニウムを比較的低温で電析させることができるので、アルミニウムめっき皮膜が形成されたアルミニウム材料を効率よく製造することができる。
【0034】
アルミニウムの電析に要する時間は、電解槽の大きさ、陰極電位などによって異なるので一概には決定することができないことから、アルミニウムの電析の終点は、電解槽中でアルミニウムが十分に析出するまでとすることができる。
以上のようにして光沢アルミニウム材料を効率よく製造することができる。
【0035】
本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によれば、複雑な形状を有する基材にアルミニウムめっき皮膜を形成することができるので、当該製造方法によって得られた光沢アルミニウム材料は、例えば、電気・電子材料、自動車用部品などの車両用材料、建築材料、船舶材料、航空機材料、家庭用品、光学機器、装飾品などの幅広い用途に使用することが期待されるものである。
【実施例】
【0036】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
実施例1
アルミニウムめっきの基本液として、ジメチルスルホンと塩化アルミニウムとを両者のモル比(ジメチルスルホン/塩化アルミニウム)が10/2となるように混合し、110℃に保ったものを用いた。この基本液にテトラエチレンペンタミンをジメチルスルホン10モルあたり0.003モル添加することにより、めっき液を得た。
【0038】
電析基板(陰極)として、エメリー紙で研磨した銅板またはニッケル板を用い、対極(陽極)にはアルミニウム板を用いた。
【0039】
次に、電析基板(陰極)および対極(陽極)を前記めっき液中に浸漬し、110℃の温度で60mA/cm2にて600秒間の定電流電解を行なった。
【0040】
その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウムめっき皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウムめっき皮膜を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡で観察するとともに、外観、表面粗さおよび正反射率を以下の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
〔外観〕
形成されためっき皮膜を目視にて色彩および光沢を観察し、光沢については、以下の評価基準に基づいて評価した。
(光沢の評価基準)
○:光沢に優れている。
△:半光沢である。
×:光沢がない。
【0042】
〔表面粗さ〕
アルミニウム皮膜の表面粗さは、表面粗さ測定器〔(株)東京精密製、サーフコム1400D−12M〕を用いて測定した。
【0043】
〔正反射率〕
アルミニウム皮膜の正反射率は、分光光度計〔大塚電子(株)製、瞬間マルチ測光システムMCPD−7700〕を用いて測定した。
【0044】
実施例2
実施例1において、テトラエチレンペンタミン0.003モルの代わりに塩化ジルコニウム0.01モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
実施例1において、テトラエチレンペンタミン0.003モルを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウムのめっき皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示された結果から、各実施例で得られためっき皮膜は、比較例1で得られためっき皮膜と対比して、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、光沢に優れ、表面が平滑であることがわかる。また、実施例2では、重金属であるジルコニウムを含む塩化ジルコニウムが用いられているが、その使用量が少なくても光沢に優れ、表面が平滑で光沢を有するめっき皮膜を有するアルミニウム材料が得られることがわかる。
【0048】
次に、実施例1〜2および比較例1で得られためっき皮膜の光学写真を図1に示す。図1において、(a)は比較例1で得られためっき皮膜の光学写真、(b)は実施例1で得られためっき皮膜の光学写真、(c)は実施例2で得られためっき皮膜の光学写真である。
【0049】
図1(a)に示されるように、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムを使用しなかった場合には、めっき皮膜の表面全体に凹凸が存在しているため、入射光を散乱することから、目視では無光沢となることがわかる。これに対して、実施例1〜2では、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、図1(b)および(c)に示されるように、めっき皮膜の表面全体に凹凸が存在しておらず、その表面が平滑であるので、入射光が散乱しないことから、目視では光沢を有することがわかる。
【0050】
したがって、実施例1および2によれば、表面が平滑であり、光沢を有するめっき皮膜が形成されることがわかる。
【0051】
また、実施例1〜2および比較例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。図2において、(a)は比較例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真、(b)は実施例1で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真、(c)は実施例2で得られためっき皮膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【0052】
図2(a)に示されるように、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムを使用しなかった場合には、めっき皮膜の表面全体に粒径が1〜20μmのアルミニウム結晶粒子が存在していることがわかる。これに対して、実施例1〜2では、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、図2(b)および(c)に示されるように、めっき皮膜の表面全体に粒径が20nm以下であるアルミニウム結晶微粒子が存在していることがわかる。
【0053】
これらのことから、実施例1および2によれば、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているのでアルミニウム結晶微粒子が生成するので、表面が平滑であり、光沢を有するめっき皮膜が形成されるのに対し、比較例1では、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムが用いられていないため、粗大なアルミニウム結晶が析出し、めっき皮膜の表面が粗くなることから、光沢が失われることがわかる。
【0054】
次に、実施例1〜2および比較例1で得られためっき皮膜の正反射率の測定結果を図3に示す。図3に示された結果から、実施例1〜2で得られためっき皮膜は、いずれも、幅広い波長において反射率が高いことがわかる。なかでも、実施例2で得られためっき皮膜は、波長450〜1000nmの範囲で60%以上の高反射率を有することがわかる。これに対して、比較例1で得られためっき皮膜は、テトラエチレンペンタミンおよび塩化ジルコニウムが使用されていないため、波長450〜1000nmの範囲でほぼ一定の20%という非常に低い反射率を有することがわかる。これらのことから、実施例1〜2で得られためっき皮膜は、光沢性に優れていることがわかる。
【0055】
実施例3
実施例1において、テトラエチレンペンタミンの量を0.02モルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0056】
実施例4
実施例1において、テトラエチレンペンタミンの量を0.001モルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0057】
実施例5
実施例2において、塩化ジルコニウムの量を0.005モルに変更したこと以外は、実施例2と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約5μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0058】
実施例6
実施例2において、塩化ジルコニウムの量を0.015モルに変更したこと以外は、実施例2と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが約15μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0059】
実施例7
実施例1において、テトラエチレンペンタミン0.003モルの代わりにジエチレントリアミン0.003モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして定電流電解を行なった。その結果、電析基板の表面上には、厚さが10μmのアルミニウム皮膜が形成されていた。形成されたアルミニウム皮膜を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示された結果から、各実施例で得られためっき皮膜は、比較例1と対比して、テトラエチレンペンタミンまたは塩化ジルコニウムが用いられているので、光沢に優れ、表面が平滑であることがわかる。また、実施例5および6では、重金属であるジルコニウムを含む塩化ジルコニウムが用いられているが、その使用量が少なくても光沢に優れ、表面が平滑で光沢を有するめっき皮膜を有するアルミニウム材料が得られることがわかる。
【0062】
実験例
実施例2で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板または比較例1で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板を25℃の0.1M塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、当該電析基板を陰極として用い、銀−塩化銀参照電極を用いて陰極電位を−1.0Vから徐々に高めることによってアルミニウムめっき皮膜を酸化させたときの電流密度の変化を調べた。
【0063】
その結果、実施例2で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板を用いた場合には、初期の電流密度は0mA/cm2であり、陰極電位が−0.4Vを超えたあたりから電流密度が0mA/cm2から上昇して酸化電流が生じたのに対し、比較例1で得られたアルミニウムめっき皮膜が形成された電析基板を用いた場合には、初期の電流密度は0mA/cm2であり、陰極電位が−0.6Vを超えたあたりから電流密度が0mA/cm2から上昇して酸化電流が生じ、陰極電位が−0.5Vに到達するまでに電流密度が30mA/cm2を超えた。したがって、実施例2で得られたアルミニウムめっき皮膜は、比較例1で得られたアルミニウムめっき皮膜と対比して、格段に耐食性に優れていることがわかる。
【0064】
以上の結果から、本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によれば、耐食性に優れたアルミニウムめっき皮膜を有する光沢アルミニウム材料が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法によれば、資源枯渇のおそれがある亜鉛めっき材料の代替物として有用な光沢アルミニウムめっき皮膜を有する光沢アルミニウム材料を製造することができる。また、本発明の光沢アルミニウム材料の製造方法は、複雑な形状を有する基材に対しても適用することができるので、クロムめっきに代わる装飾めっきに利用することができる。さらに、本発明の製造方法によって得られた光沢アルミニウム材料は、複雑な形状を有していても均一な光沢アルミニウムめっき皮膜を有することから、例えば、電気・電子材料、自動車用部品などの車両用材料、建築材料、船舶材料、航空機材料、家庭用品、光学機器、装飾品などの幅広い用途への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光沢を有するアルミニウム材料を製造する方法であって、2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムの存在下でアルミニウムハロゲン化物の有機溶媒溶液からアルミニウムを電析させることを特徴とする光沢アルミニウム材料の製造方法。
【請求項2】
光沢を有するアルミニウム材料の製造に用いられるめっき液であって、アルミニウムハロゲン化物と2以上のアミノ基を有するアルキルポリアミンまたはハロゲン化ジルコニウムとが有機溶媒に溶解されていることを特徴とする光沢アルミニウム材料用めっき液。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−23712(P2013−23712A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157582(P2011−157582)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】