光触媒の製造方法
【課題】 紫外光や可視光に応答する光触媒機能を有し、微細構造をもつ結晶性の良好な酸化被膜を製造する。
【解決手段】 マイクロアーク酸化法により、酸化物となったときに光触媒作用を発現する金属またはその金属を含む合金あるいは合板の表面を酸化させる。
【解決手段】 マイクロアーク酸化法により、酸化物となったときに光触媒作用を発現する金属またはその金属を含む合金あるいは合板の表面を酸化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光や可視光の照射によって触媒作用を発現する光触媒の製造方法に関する。特に、光触媒機能を有する金属酸化物被膜を任意の形状および大きさに製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりから、有害物質を低減させる技術に注目が集まっている。特に光触媒は、それ自体は化学的に変化せずに効果が半永久的に持続することから、大きな期待が寄せられている。光触媒は、その材料のもつバンドギャップ以上のエネルギの光が照射されると、導体へ電子が励起される性質をもつ。このような光励起が起こるとき、電子のもつ還元力および正孔のもつ酸化力が、水の分解や有機物の分解・浄化などの光触媒作用を発現する。特に光触媒のもつ細菌類の殺菌効果は、空気清浄器や防菌型冷蔵庫等の日用品にも広く利用されている。
【0003】
光触媒機能を有する材料としては、酸化チタンTiO2が最も優れた材料として知られている。また、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ等の酸化物も光触媒機能を有することが知られている。
【非特許文献1】A. Fujishima and K. Honda, Nature238, 37-38 (1972).
【非特許文献2】日本化学会、光が関わる触媒化学 [季刊 化学総説 No.23]、学会出版センター、1994.
【非特許文献3】橋本和仁、藤島昭、電気化学、61、1057-1061 (1993).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化チタンを光触媒として利用する場合、酸化チタンは粉末であるため、何らかの基板に固定する必要がある。そのような方法として、有機バインダーまたは無機バインダーを加えてスラリーとし、これを用いて酸化チタンの被膜を形成する方法が知られている。
【0005】
しかし、この方法では、酸化チタンがバインダー中に分散した状態で基板上に固定されるため、基板とバインダーとの結合が弱い場合には生成された膜が剥離することがある。また、酸化チタン粉末がバインダー中に均一に分散していない場合には、照射した光が均一に酸化チタン粉末に照射されず、光触媒反応の効率が低下することになる。さらに、酸化チタン粉末、基板、バインダーはそれぞれ異なる物性の材料であり、使用環境の著しい変化や機械的に加工する際に酸化チタン膜が破壊されることも予想され、酸化チタン膜を長期的に安定に維持することは困難である。
【0006】
酸化チタンの被膜を形成する方法としては、上述の方法の他に、溶射や塗布、あるいは琺瑯も考えられる。溶射は、火炎やプラズマを利用して吹き付けて金属表面に溶融接着させる方法である。塗布はペンキのようなものであるが、焼付け等の処理を含むこともある。琺瑯は、ガラスの粉(フリット)と酸化チタン等を混合したスラリーを金属表面に塗布し、ガラスを800度程度に加熱して再溶融することにより、ガラス被膜を金属表面に形成する方法である。これらの方法で得られる被膜は、基板となる金属と生成される金属が異なる場合にも利用できる。しかし、得られる膜は必ずしも光触媒として適したものではなく、また、材質が異なる材料同士では、生成される金属酸化物被膜と基板の物性の違いから、バインダーを用いた場合と同様に安定性に十分な配慮をしなくてはならない。
【0007】
酸化チタン以外の光触媒機能を有する金属酸化物についても、同様の課題がある。
【0008】
本発明は、このような課題を解決し、高品質で安定性に優れた光触媒を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、マイクロアーク酸化法により金属表面に酸化物被膜を直接生成させることで、光触媒機能を有する多孔性で基板との密着性の高い均一な酸化物被膜を形成することを特徴とする。
【0010】
すなわち本発明は、基板の表面に光触媒機能を有する金属酸化物被膜を形成する光触媒の製造方法において、基板はその酸化物が光触媒作用を発現する金属またはその金属を含む合金あるいは合板であり、この金属またはその金属を含む合金あるいは合板の表面をマイクロアーク酸化法により酸化させて金属酸化物被膜を生成することを特徴とする。
【0011】
酸化物が光触媒作用を発現する金属としてはチタンが好ましいが、アルミニウム、ジルコニウムあるいはニオブを用いることもできる。
【0012】
金属表面に直接に酸化物被膜を生成する方法としては、陽極酸化法が従来から知られている。陽極酸化法もマイクロアーク酸化法も共に、酸化させる金属を陽極とした系に直流または交流電流を流し、電気分解によって酸素を発生させて、金属表面に酸化物被膜を生成させる。これらの方法では、用いる金属の表面に直接に酸化物被膜を生成させるため、成膜プロセスが簡便でありながら、従来の方法と比較して、均一で、結晶性が高く、安定性に優れ、密着性の高い酸化物被膜を得ることができる。さらに、これらの方法では、用いる金属の形状および大きさに制約がないことから、使用する用途に応じて任意の形状および大きさの光触媒を製造することが可能である。さらに、合金や酸化物被膜を生成させるべき金属と他の金属または合金を張り合わせた合板の表面やメッキなどの積層金属表面にも酸化物被膜の生成が可能であり、多岐にわたる応用が考えられる。
【0013】
マイクロアーク酸化法が陽極酸化法と異なる点は、陽極酸化法では放電は起きないのに対し、マイクロアーク酸化法では、高電圧の印加により金属表面で絶縁破壊を起こし、電極間に連続的に放電が生じることである。この連続的な放電により、膜厚成長が促進される。陽極酸化法では基板金属表面の酸化処理の作用が強く、生成される金属酸化物被膜の結晶性や微細構造が光触媒として必ずしも十分ではないのに対し、マイクロアーク酸化法によれば、結晶性、多孔性等を詳細に制御可能であることから、より高品位で安定性に優れた光触媒機能を有する酸化物被膜を生成することができる。
【0014】
また、マイクロアーク酸化法では、電解液、電圧印加時間、電圧、電極間距離等の処理条件を調整することにより、酸化物被膜の微細構造や厚膜を調整することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、マイクロアーク酸化法により金属表面へ酸化物被膜を生成させ、これを光触媒として利用する。金属表面に酸化物被膜を直接生成させることで、光触媒機能を有する多孔性で基板との密着性の高い均一な酸化物被膜を得ることができる。また、基板の形状および大きさを変更することで、自由な形状および大きさの光触媒機能を有する酸化物被膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1はマイクロアーク酸化法による金属表面への膜の生成方法を簡単に説明する図である。この方法では、金属酸化物被膜を生成させたい金属を陽極1、カーボン電極を陰極2として電解液3に浸し、両電極を電源4に接続する。陽極1で絶縁破壊を引き起こす程度の高電圧を陽極1と陰極2との間に印加することにより、局部的放電を連続的に発生させる。陽極1と陰極2との間に流す電流は、直流でも交流でもよい。電解液3としては、例えばリン酸アルカリ系水溶液が用いられる。陽極1の形状や大きさは電解液に浸すことが可能である限り任意であり、平板状の金属の表面だけでなく
湾曲した金属表面や金属パイプの内側に金属酸化物被膜を生成させることができる。
【0017】
図2ないし図5は、マイクロアーク酸化の処理条件による被膜の状態の違いの例として、電解液の種類を変えて生成した酸化チタン被膜の表面状態をSEMにより観察した結果を示す。陽極としてアセトンで脱脂したチタン金属薄板、陰極として高密度カーボンを用い、電流密度2A・dm-2の直流電流により30分間マイクロアーク酸化を行った。図2は電解液として0.01MのNaH2PO4、図3は0.01MのNa3PO4、図4は0.01M、モル比1:3のNaOH+Na2HPO4混合水溶液、図5は0.02M、モル比3:1のNaOH+Na2HPO4混合水溶液を用いたときのものである。
【0018】
図6ないし図9は、同様の例として、酸化アルミニウム被膜の表面状態をSEMにより観察した結果を示す。チタン金属薄板の代わりにアルミニウム薄板を用い、図2ないし図5の例と同様の処理を行った。図6は電解液として0.025MのNaOH、図7は0.025MのNa2SiO3、図8は0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を用いたときのものである。また、図9は電解液として0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を用い、直流電流ではなく交流電流を用いたときのものである。
【0019】
図2ないし図9の表面状態の観察結果から、マイクロアーク酸化処理に用いる電解液によって、生成される金属酸化物被膜が大きく影響を受けることが確認された。
【実施例1】
【0020】
図10は本発明の第一実施例を示す図であり、チタン金属薄板に酸化チタン被膜を生成させる方法を示す。この実施例では、30×50×0.3mmのチタン金属薄板をアセトンで脱脂した後、露出している部分が1000mm2となるようにマスキング25を施した。このマスキング25を施したチタン金属薄板を陽極21とし、陰極22として高密度カーボン、電解液23として0.01MのNa3PO4を用い、電流密度2A・dm-2の直流電流により30分間マイクロアーク酸化を行って、酸化チタン被膜を生成させた。
【0021】
また、同じ寸法かつ同じ処理を施したアルミニウム薄板を陽極21に用い、電解液23に0.025MのNaOH水溶液を用いて、同様の処理により酸化アルミニウム被膜を生成させた。
【0022】
図11は得られた酸化チタン被膜および酸化アルミニウム被膜の光触媒機能の評価結果を示す。ここでは、得られた被膜について、メチレンブルーの分解性能により評価した。すなわち、5ppmのメチレンブルーを満たしたビーカーに上記被膜が浸かるように設置し、150Wのキセノンランプを用いて紫外光を照射して、メチレンブルーがどれだけ分解したかを、波長660nmにおけるメチレンブルー水溶液の吸光度の変化によって評価した。
【0023】
図11の結果から明らかなように、紫外光の照射時間の増加とともに、メチレンブルー水溶液の波長660nmにおける吸光度が低下していく傾向があることがわかる。この傾向は、酸化チタン被膜および酸化アルミニウム被膜のいずれでも観察された。酸化チタン被膜と酸化アルミニウム被膜との光触媒機能を比較すると、酸化チタン被膜の方が高い光触媒機能を示した。酸化チタン被膜では、紫外光を24時間照射した後のメチレンブルー水溶液の波長660nmの吸光度が0.01以下を示したことから、溶液中のメチレンブルーはほぼ分解されていると考えられる。一方、酸化アルミニウム被膜では、紫外光を24時間照射した後のメチレンブルー水溶液の波長660nmの吸光度が、紫外光照射前の半分の値であった。
【実施例2】
【0024】
図12は本発明の第二実施例を示す図であり、任意の形状を有する光触媒の製造方法の一例として、パイプ内壁の曲面部分に酸化チタン被膜を生成させる方法を示す。この実施例では、直径12mm×長さ50mmのチタン金属製の円筒形パイプの外壁にマスキング35を施し、このマスキング35を施したパイプを陽極31として実施例1と同様の条件でマイクロアーク酸化を行うことにより、パイプの内壁に酸化チタン被膜を生成させた。
【0025】
図13は得られた酸化チタン被膜の光触媒機能の評価結果を示す。ここでは、内壁に酸化チタン被膜が生成されたパイプを断面が半円状になるように切断し、その切断されたパイプの凹面に生成されている酸化チタン被膜全体がメチレンブルー水溶液を満たしたビーカー内で光源に向かい合うように設置し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0026】
図13の結果から明らかなように、紫外光照射前後のメチレンブルー水溶液の波長660nmの吸光度は大きく低下した。また、図11で示したチタン金属薄膜に生成された酸化チタン薄膜では、紫外光を24時間照射したときのメチレンブルーの波長660nmの吸光度は0.01であったが、図13の例では、ほぼ同じ程度の面積の酸化チタン薄膜でありながら、10時間の紫外光照射でメチレンブルーの波長660nmの吸光度が0.01となった。このことから、酸化チタン被膜に光が効率よく入射し、光触媒機能が向上したことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
マイクロアーク酸化法では、酸化物被膜を生成させる金属をあらかじめ任意の形状および大きさに加工することで、その形状および大きさに沿った酸化物被膜を得ることが可能である。この特性を利用し、有害物質を分解するための金属製フィルタや、換気あるいは脱臭のためのパイプの内壁に、光触媒機能を有する酸化物被膜を生成させることができる。また、外壁に付着した汚れを効率良く平行光を活用して除去するために、波状あるいは他の形状の金属板の表面に、光触媒機能を有する酸化物被膜を生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】マイクロアーク酸化法による金属表面への膜の生成方法を簡単に説明する図。
【図2】0.01MのNaH2PO4を電解液としてマイクロアーク酸化法により生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図3】0.01MのNa3PO4を電解液として生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図4】0.01M、モル比1:3のNaOH+Na2HPO4混合水溶液を電解液として生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図5】0.02M、モル比3:1のNaOH+Na2HPO4混合水溶液を電解液として生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図6】0.025MのNaOHを電解液としてマイクロアーク酸化法により生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図7】0.025MのNa2SiO3を電解液として生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図8】0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を電解液として生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図9】0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を電解液とし、交流電流を用いて生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図10】チタン金属薄板に酸化チタン被膜を生成させる方法を示す図。(実施例1)
【図11】酸化チタン被膜および酸化アルミニウム被膜の光触媒機能の評価結果を示す図。
【図12】パイプ内壁の曲面部分に酸化チタン被膜を生成する方法を示す図。(実施例2)
【図13】得られた酸化チタン被膜の光触媒機能の評価結果を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1、21、31 陽極
2、22 陰極
3、23 電解液
4 電源
25、35 マスキング
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光や可視光の照射によって触媒作用を発現する光触媒の製造方法に関する。特に、光触媒機能を有する金属酸化物被膜を任意の形状および大きさに製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりから、有害物質を低減させる技術に注目が集まっている。特に光触媒は、それ自体は化学的に変化せずに効果が半永久的に持続することから、大きな期待が寄せられている。光触媒は、その材料のもつバンドギャップ以上のエネルギの光が照射されると、導体へ電子が励起される性質をもつ。このような光励起が起こるとき、電子のもつ還元力および正孔のもつ酸化力が、水の分解や有機物の分解・浄化などの光触媒作用を発現する。特に光触媒のもつ細菌類の殺菌効果は、空気清浄器や防菌型冷蔵庫等の日用品にも広く利用されている。
【0003】
光触媒機能を有する材料としては、酸化チタンTiO2が最も優れた材料として知られている。また、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ等の酸化物も光触媒機能を有することが知られている。
【非特許文献1】A. Fujishima and K. Honda, Nature238, 37-38 (1972).
【非特許文献2】日本化学会、光が関わる触媒化学 [季刊 化学総説 No.23]、学会出版センター、1994.
【非特許文献3】橋本和仁、藤島昭、電気化学、61、1057-1061 (1993).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化チタンを光触媒として利用する場合、酸化チタンは粉末であるため、何らかの基板に固定する必要がある。そのような方法として、有機バインダーまたは無機バインダーを加えてスラリーとし、これを用いて酸化チタンの被膜を形成する方法が知られている。
【0005】
しかし、この方法では、酸化チタンがバインダー中に分散した状態で基板上に固定されるため、基板とバインダーとの結合が弱い場合には生成された膜が剥離することがある。また、酸化チタン粉末がバインダー中に均一に分散していない場合には、照射した光が均一に酸化チタン粉末に照射されず、光触媒反応の効率が低下することになる。さらに、酸化チタン粉末、基板、バインダーはそれぞれ異なる物性の材料であり、使用環境の著しい変化や機械的に加工する際に酸化チタン膜が破壊されることも予想され、酸化チタン膜を長期的に安定に維持することは困難である。
【0006】
酸化チタンの被膜を形成する方法としては、上述の方法の他に、溶射や塗布、あるいは琺瑯も考えられる。溶射は、火炎やプラズマを利用して吹き付けて金属表面に溶融接着させる方法である。塗布はペンキのようなものであるが、焼付け等の処理を含むこともある。琺瑯は、ガラスの粉(フリット)と酸化チタン等を混合したスラリーを金属表面に塗布し、ガラスを800度程度に加熱して再溶融することにより、ガラス被膜を金属表面に形成する方法である。これらの方法で得られる被膜は、基板となる金属と生成される金属が異なる場合にも利用できる。しかし、得られる膜は必ずしも光触媒として適したものではなく、また、材質が異なる材料同士では、生成される金属酸化物被膜と基板の物性の違いから、バインダーを用いた場合と同様に安定性に十分な配慮をしなくてはならない。
【0007】
酸化チタン以外の光触媒機能を有する金属酸化物についても、同様の課題がある。
【0008】
本発明は、このような課題を解決し、高品質で安定性に優れた光触媒を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、マイクロアーク酸化法により金属表面に酸化物被膜を直接生成させることで、光触媒機能を有する多孔性で基板との密着性の高い均一な酸化物被膜を形成することを特徴とする。
【0010】
すなわち本発明は、基板の表面に光触媒機能を有する金属酸化物被膜を形成する光触媒の製造方法において、基板はその酸化物が光触媒作用を発現する金属またはその金属を含む合金あるいは合板であり、この金属またはその金属を含む合金あるいは合板の表面をマイクロアーク酸化法により酸化させて金属酸化物被膜を生成することを特徴とする。
【0011】
酸化物が光触媒作用を発現する金属としてはチタンが好ましいが、アルミニウム、ジルコニウムあるいはニオブを用いることもできる。
【0012】
金属表面に直接に酸化物被膜を生成する方法としては、陽極酸化法が従来から知られている。陽極酸化法もマイクロアーク酸化法も共に、酸化させる金属を陽極とした系に直流または交流電流を流し、電気分解によって酸素を発生させて、金属表面に酸化物被膜を生成させる。これらの方法では、用いる金属の表面に直接に酸化物被膜を生成させるため、成膜プロセスが簡便でありながら、従来の方法と比較して、均一で、結晶性が高く、安定性に優れ、密着性の高い酸化物被膜を得ることができる。さらに、これらの方法では、用いる金属の形状および大きさに制約がないことから、使用する用途に応じて任意の形状および大きさの光触媒を製造することが可能である。さらに、合金や酸化物被膜を生成させるべき金属と他の金属または合金を張り合わせた合板の表面やメッキなどの積層金属表面にも酸化物被膜の生成が可能であり、多岐にわたる応用が考えられる。
【0013】
マイクロアーク酸化法が陽極酸化法と異なる点は、陽極酸化法では放電は起きないのに対し、マイクロアーク酸化法では、高電圧の印加により金属表面で絶縁破壊を起こし、電極間に連続的に放電が生じることである。この連続的な放電により、膜厚成長が促進される。陽極酸化法では基板金属表面の酸化処理の作用が強く、生成される金属酸化物被膜の結晶性や微細構造が光触媒として必ずしも十分ではないのに対し、マイクロアーク酸化法によれば、結晶性、多孔性等を詳細に制御可能であることから、より高品位で安定性に優れた光触媒機能を有する酸化物被膜を生成することができる。
【0014】
また、マイクロアーク酸化法では、電解液、電圧印加時間、電圧、電極間距離等の処理条件を調整することにより、酸化物被膜の微細構造や厚膜を調整することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、マイクロアーク酸化法により金属表面へ酸化物被膜を生成させ、これを光触媒として利用する。金属表面に酸化物被膜を直接生成させることで、光触媒機能を有する多孔性で基板との密着性の高い均一な酸化物被膜を得ることができる。また、基板の形状および大きさを変更することで、自由な形状および大きさの光触媒機能を有する酸化物被膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1はマイクロアーク酸化法による金属表面への膜の生成方法を簡単に説明する図である。この方法では、金属酸化物被膜を生成させたい金属を陽極1、カーボン電極を陰極2として電解液3に浸し、両電極を電源4に接続する。陽極1で絶縁破壊を引き起こす程度の高電圧を陽極1と陰極2との間に印加することにより、局部的放電を連続的に発生させる。陽極1と陰極2との間に流す電流は、直流でも交流でもよい。電解液3としては、例えばリン酸アルカリ系水溶液が用いられる。陽極1の形状や大きさは電解液に浸すことが可能である限り任意であり、平板状の金属の表面だけでなく
湾曲した金属表面や金属パイプの内側に金属酸化物被膜を生成させることができる。
【0017】
図2ないし図5は、マイクロアーク酸化の処理条件による被膜の状態の違いの例として、電解液の種類を変えて生成した酸化チタン被膜の表面状態をSEMにより観察した結果を示す。陽極としてアセトンで脱脂したチタン金属薄板、陰極として高密度カーボンを用い、電流密度2A・dm-2の直流電流により30分間マイクロアーク酸化を行った。図2は電解液として0.01MのNaH2PO4、図3は0.01MのNa3PO4、図4は0.01M、モル比1:3のNaOH+Na2HPO4混合水溶液、図5は0.02M、モル比3:1のNaOH+Na2HPO4混合水溶液を用いたときのものである。
【0018】
図6ないし図9は、同様の例として、酸化アルミニウム被膜の表面状態をSEMにより観察した結果を示す。チタン金属薄板の代わりにアルミニウム薄板を用い、図2ないし図5の例と同様の処理を行った。図6は電解液として0.025MのNaOH、図7は0.025MのNa2SiO3、図8は0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を用いたときのものである。また、図9は電解液として0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を用い、直流電流ではなく交流電流を用いたときのものである。
【0019】
図2ないし図9の表面状態の観察結果から、マイクロアーク酸化処理に用いる電解液によって、生成される金属酸化物被膜が大きく影響を受けることが確認された。
【実施例1】
【0020】
図10は本発明の第一実施例を示す図であり、チタン金属薄板に酸化チタン被膜を生成させる方法を示す。この実施例では、30×50×0.3mmのチタン金属薄板をアセトンで脱脂した後、露出している部分が1000mm2となるようにマスキング25を施した。このマスキング25を施したチタン金属薄板を陽極21とし、陰極22として高密度カーボン、電解液23として0.01MのNa3PO4を用い、電流密度2A・dm-2の直流電流により30分間マイクロアーク酸化を行って、酸化チタン被膜を生成させた。
【0021】
また、同じ寸法かつ同じ処理を施したアルミニウム薄板を陽極21に用い、電解液23に0.025MのNaOH水溶液を用いて、同様の処理により酸化アルミニウム被膜を生成させた。
【0022】
図11は得られた酸化チタン被膜および酸化アルミニウム被膜の光触媒機能の評価結果を示す。ここでは、得られた被膜について、メチレンブルーの分解性能により評価した。すなわち、5ppmのメチレンブルーを満たしたビーカーに上記被膜が浸かるように設置し、150Wのキセノンランプを用いて紫外光を照射して、メチレンブルーがどれだけ分解したかを、波長660nmにおけるメチレンブルー水溶液の吸光度の変化によって評価した。
【0023】
図11の結果から明らかなように、紫外光の照射時間の増加とともに、メチレンブルー水溶液の波長660nmにおける吸光度が低下していく傾向があることがわかる。この傾向は、酸化チタン被膜および酸化アルミニウム被膜のいずれでも観察された。酸化チタン被膜と酸化アルミニウム被膜との光触媒機能を比較すると、酸化チタン被膜の方が高い光触媒機能を示した。酸化チタン被膜では、紫外光を24時間照射した後のメチレンブルー水溶液の波長660nmの吸光度が0.01以下を示したことから、溶液中のメチレンブルーはほぼ分解されていると考えられる。一方、酸化アルミニウム被膜では、紫外光を24時間照射した後のメチレンブルー水溶液の波長660nmの吸光度が、紫外光照射前の半分の値であった。
【実施例2】
【0024】
図12は本発明の第二実施例を示す図であり、任意の形状を有する光触媒の製造方法の一例として、パイプ内壁の曲面部分に酸化チタン被膜を生成させる方法を示す。この実施例では、直径12mm×長さ50mmのチタン金属製の円筒形パイプの外壁にマスキング35を施し、このマスキング35を施したパイプを陽極31として実施例1と同様の条件でマイクロアーク酸化を行うことにより、パイプの内壁に酸化チタン被膜を生成させた。
【0025】
図13は得られた酸化チタン被膜の光触媒機能の評価結果を示す。ここでは、内壁に酸化チタン被膜が生成されたパイプを断面が半円状になるように切断し、その切断されたパイプの凹面に生成されている酸化チタン被膜全体がメチレンブルー水溶液を満たしたビーカー内で光源に向かい合うように設置し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0026】
図13の結果から明らかなように、紫外光照射前後のメチレンブルー水溶液の波長660nmの吸光度は大きく低下した。また、図11で示したチタン金属薄膜に生成された酸化チタン薄膜では、紫外光を24時間照射したときのメチレンブルーの波長660nmの吸光度は0.01であったが、図13の例では、ほぼ同じ程度の面積の酸化チタン薄膜でありながら、10時間の紫外光照射でメチレンブルーの波長660nmの吸光度が0.01となった。このことから、酸化チタン被膜に光が効率よく入射し、光触媒機能が向上したことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
マイクロアーク酸化法では、酸化物被膜を生成させる金属をあらかじめ任意の形状および大きさに加工することで、その形状および大きさに沿った酸化物被膜を得ることが可能である。この特性を利用し、有害物質を分解するための金属製フィルタや、換気あるいは脱臭のためのパイプの内壁に、光触媒機能を有する酸化物被膜を生成させることができる。また、外壁に付着した汚れを効率良く平行光を活用して除去するために、波状あるいは他の形状の金属板の表面に、光触媒機能を有する酸化物被膜を生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】マイクロアーク酸化法による金属表面への膜の生成方法を簡単に説明する図。
【図2】0.01MのNaH2PO4を電解液としてマイクロアーク酸化法により生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図3】0.01MのNa3PO4を電解液として生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図4】0.01M、モル比1:3のNaOH+Na2HPO4混合水溶液を電解液として生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図5】0.02M、モル比3:1のNaOH+Na2HPO4混合水溶液を電解液として生成した酸化チタン被膜の表面状態のSEM写真。
【図6】0.025MのNaOHを電解液としてマイクロアーク酸化法により生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図7】0.025MのNa2SiO3を電解液として生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図8】0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を電解液として生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図9】0.025M、モル比1:1のNaOH+Na2SiO3混合水溶液を電解液とし、交流電流を用いて生成した酸化アルミニウム被膜の表面状態のSEM写真。
【図10】チタン金属薄板に酸化チタン被膜を生成させる方法を示す図。(実施例1)
【図11】酸化チタン被膜および酸化アルミニウム被膜の光触媒機能の評価結果を示す図。
【図12】パイプ内壁の曲面部分に酸化チタン被膜を生成する方法を示す図。(実施例2)
【図13】得られた酸化チタン被膜の光触媒機能の評価結果を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1、21、31 陽極
2、22 陰極
3、23 電解液
4 電源
25、35 マスキング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に光触媒機能を有する金属酸化物被膜を形成する光触媒の製造方法において、
前記基板はその酸化物が光触媒作用を発現する金属またはその金属を含む合金あるいは合板であり、
この金属またはその金属を含む合金あるいは合板の表面をマイクロアーク酸化法により酸化させて前記金属酸化物被膜を生成する
ことを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項2】
前記光触媒作用を発現する金属はチタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびニオブから選択された1以上の金属である請求項1記載の光触媒の製造方法。
【請求項1】
基板の表面に光触媒機能を有する金属酸化物被膜を形成する光触媒の製造方法において、
前記基板はその酸化物が光触媒作用を発現する金属またはその金属を含む合金あるいは合板であり、
この金属またはその金属を含む合金あるいは合板の表面をマイクロアーク酸化法により酸化させて前記金属酸化物被膜を生成する
ことを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項2】
前記光触媒作用を発現する金属はチタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびニオブから選択された1以上の金属である請求項1記載の光触媒の製造方法。
【図1】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−116398(P2006−116398A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305834(P2004−305834)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(500518717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(500518717)
【Fターム(参考)】
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