説明

光触媒層の形成方法

【課題】耐アルカリ性、耐水性等に優れた光触媒層を各種基材上に形成し得る方法を提供する。
【解決手段】シリコン変性アクリル樹脂、ケイ素含有化合物、並びにジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物、を有機溶媒に溶解又は分散させてなる組成物を用いてプライマー皮膜を形成した後、ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物を溶媒に溶解した組成物を用いて中間層を形成するか、或いは中間層を生成することなく、光触媒性酸化物粒子、ジルコニウム化合物及び溶媒を含有する組成物を用いて光触媒層を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光触媒層の形成方法、及び光触媒層が形成された物品に関する
【0002】
【従来の技術】近年、酸化チタンに代表される光触媒の強い酸化力が注目されており、光触媒を含む皮膜を各種基材上に形成することによって、大気中に存在する窒素酸化物などの有害物や各種基材の表面に付着した汚れを分解してセルフクリーニングの効果を発現させることが試みられている。特に、無機材料を用いて光触媒層を形成することによって基材表面を親水化し、表面に水膜を形成して降雨などによって汚れを流し落とし表面を清浄に保持すること等を目的とした技術が盛んに研究されている。
【0003】光触媒を各種基材表面に付与するためには、通常、光触媒を各種バインダーで結着させて基材上に光触媒層を形成する方法が採用されている。特に、薄膜状の光触媒層を形成するためには、バインダー成分として、珪素アルコキシドやそのオリゴマーを単独または複合して用いたり、これに更に、シリコーン樹脂、シリカゾル等を添加して、形成される光触媒層の可撓性を向上させる方法等が広く採用されている。しかしながら、これらの方法では、形成される光触媒層に光触媒としての機能は認められるものの、皮膜がシロキサン結合で形成されているために、アルカリや水に対する耐久性が低く、屋外で用いる場合には、風雨にさらされるため十分な耐久性を発揮できず、しかもコンクリート系の外壁などを基材とする場合には、基材自体から出てくるアルカリ成分が、シロキサン結合の劣化を促進することが確認されている。特に、温水やアルカリ性洗剤等にさらされる水まわりの環境下では、その傾向はより一層強くなり、膜の劣化が進行して膜の溶出や剥離が起こるという問題がある。
【0004】また、光触媒層を各種基材上に形成する際に、バインダーとして珪素アルコキシドやそのオリゴマーを用いて無機質皮膜を形成する場合には、基材との密着性を向上させるために、光触媒層を形成する前に、カップリング剤による処理やプライマー処理を行うことが多い。この内で、プライマー皮膜は、有機質材料からなる基材上に形成する場合には、光触媒の高い酸化分解力から基材を保護する目的や、光触媒を含む皮膜と基材との結合力の不足を補う目的で使用されており、無機基材の場合にも、皮膜と基材との密着性を向上させることを目的として使用されている。
【0005】珪素アルコキシドやそのオリゴマー等の金属アルコキシドをバインダーとして光触媒層を形成する場合には、各種樹脂をシリカやシリコーンまたはその縮重合体で変成したものをプライマーとして用いて、基材とプライマー皮膜との密着性と、プライマー皮膜と光触媒層との密着性を同時に実現しようとする試みがなされている。
【0006】しかしながら、この様なプライマーを用いる場合には、光触媒層とプライマー皮膜との結合はいわゆるシロキサン結合をベースとしたものである為、耐薬品性、耐候性、耐水性等が十分では無く、特に、水まわりで用いる場合には、耐水性、耐アルカリ性等が不足するという問題がある。また、初期的に十分な密着性が得られたとしても、プライマー皮膜と光触媒層との界面から劣化が進行しやすいという欠点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主な目的は、耐アルカリ性、耐水性等に優れた光触媒層を各種基材上に形成し得る方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のシリコン変性アクリル樹脂を、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物と特定のケイ素含有化合物と共に有機溶媒中に溶解又は分散させてなる組成物を用いてプライマー皮膜を形成した後、ジルコニウム化合物をバインダー成分として光触媒層を形成する方法によれば、上記目的を達成し得る光触媒層が得られることを見出した。更に、バインダー皮膜と光触媒層との間に、ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物を溶媒に溶解した組成物を用いて中間層を形成する場合には、より耐アルカリ性に優れた光触媒層を形成できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】即ち、本発明は、下記の光触媒層の形成方法、及び光触媒層が形成された物品を提供するものである。
1.
(I)(a)アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂、(b)一般式(1):R1aSiClb(OH)c(OR2d(式中、R1はアミノ基及びカルボキシル基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、R2は、置換基としてアルコキシル基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aは、0〜3の整数、bは0〜2の整数、cは、0〜3の整数、dは0〜4の整数であって、a+b+c+d=4である)で表される化合物、及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物、並びに(c)ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の、有機溶媒に溶解又は均一に分散できる金属化合物を有機溶媒に溶解又は分散させてなる組成物を、基材上に塗布し、硬化又は半硬化状態としてプライマー皮膜を形成した後、(II)光触媒性酸化物粒子、ジルコニウム化合物及び溶媒を含有する組成物を、該プライマー皮膜上に塗布し、硬化させて光触媒層を形成することを特徴とする光触媒層の形成方法。
2.
(I)(a)アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂、(b)一般式(1):R1aSiClb(OH)c(OR2d(式中、R1はアミノ基及びカルボキシル基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、R2は、置換基としてアルコキシル基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aは、0〜3の整数、bは0〜2の整数、cは、0〜3の整数、dは0〜4の整数であって、a+b+c+d=4である)で表される化合物、及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物、並びに(c)ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の、有機溶媒に溶解又は均一に分散できる金属化合物を有機溶媒に溶解又は分散させてなる組成物を、基材上に塗布し、硬化又は半硬化状態としてプライマー皮膜を形成し、(II)ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物を溶媒に溶解した組成物を、該プライマー皮膜上に塗布し、硬化又は半硬化状態として中間層を形成した後、(III)光触媒性酸化物粒子、ジルコニウム化合物及び溶媒を含有する組成物を、中間層上に塗布し、硬化させて光触媒層を形成することを特徴とする光触媒層の形成方法。
3.プライマー皮膜を形成するために用いる組成物において、(a)成分のアクリル樹脂と(b)成分のケイ素含有化合物を、(a)成分のアクリル樹脂の側鎖に存在するシリル基に(b)成分のケイ素含有化合物の全部又は一部が結合したアクリル樹脂として用いる上記項1又は2に記載の光触媒層の形成方法。
4.プライマー皮膜を形成するために用いる組成物において、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂が、一般式(2):CH2=CR3 (COOR4 )(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R4は、置換基を有することのある炭素数1〜9の1価炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステル、一般式(3):CH2=CR3 (COOR5)(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R5は、エポキシ基及びグリシドキシ基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有する炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステル、及び一般式(4):CH2=CR3 (COOR6)(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R6は、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基により置換された炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とする共重合体である上記項1〜3のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
5.プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、一般式(2)の(メタ)アクリル酸エステル、一般式(3)の(メタ)アクリル酸エステル、及び一般式(4)の(メタ)アクリル酸エステルの共重合反応前又は共重合反応後に、一般式(1)の化合物及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物と、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物を添加して得られたものである上記項1〜4のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
6.プライマー皮膜を形成するために用いる組成物において、(c)成分の金属化合物が、ジルコニウムアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類の加水分解物、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド類、チタニウムアルコキシド類の加水分解物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムアルコキシド類、アルミニウムアルコキシド類の加水分解物、及びアルミニウムキレート化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1〜5のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
7.プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、更に、ケイ素原子を含有しないアクリル樹脂を含むものである上記項1〜6のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
8.プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、更に、コロイダルシリカを含むものである上記項1〜7のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
9.プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、更に、硬化触媒を含むものである上記項1〜8のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
10.光触媒層を形成するために用いる組成物中のジルコニウム化合物が、溶媒に溶解又は均一に分散できるジルコニウム化合物である上記項1〜9のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
11.中間層の膜厚が0.001〜1μmである上記項2〜10のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
12.上記項1〜11のいずれかの方法で基材上に光触媒層を形成してなる光触媒層を有する物品。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の光触媒層の形成方法では、特定のシリコン変性アクリル樹脂を含有する組成物を用いてプライマー皮膜を形成した後、ジルコニウム化合物をバインダー成分とする組成物を用いて光触媒層を形成することが必要である。
【0011】以下に、本発明方法において形成するプライマー皮膜及び光触媒層について具体的に説明する。
プライマー皮膜本発明では、プライマー皮膜を形成するための組成物(以下、「プライマー組成物」という)として、(a)アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂、(b)一般式(1):R1aSiClb(OH)c(OR2d(式中、R1はアミノ基及びカルボキシル基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、R2は、置換基としてアルコキシル基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aは、0〜3の整数、bは0〜2の整数、cは、0〜3の整数、dは0〜4の整数であって、a+b+c+d=4である)で表される化合物、及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物、並びに(c)ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の、有機溶媒に溶解又は均一に分散できる金属化合物を有機溶媒に溶解又は分散させてなる組成物を用いる。
【0012】該プライマー組成物に含まれる各成分は、以下の通りである。
(a)アクリル樹脂該プライマー組成物に配合するアクリル樹脂は、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂(以下、「シリコン変性アクリル樹脂」という場合がある)である。このアクリル樹脂としては、上記した側鎖に存在するシリル基に基づくSi量が樹脂固形分重量に対して、1〜4重量%程度のものが好ましい。
【0013】この様なアクリル樹脂は、シリコン変性アクリル樹脂として知られているものであり、上記した条件を満足するものであれば、市販のシリコン変性アクリル樹脂を用いても良く、或いは、市販のアクリル樹脂をシリコン変性したもの、共重合反応によって合成したシリコン変性アクリル樹脂等を用いても良い。
【0014】本発明で好適に使用できるシリコン変性アクリル樹脂の例として、一般式(2):CH2=CR3 (COOR4 )(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R4は、置換基を有することのある炭素数1〜9の1価炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステル、一般式(3):CH2=CR3 (COOR5)(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R5は、エポキシ基及びグリシドキシ基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有する炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステル、及び一般式(4):CH2=CR3 (COOR6)(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R6は、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基により置換された炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とする共重合体を挙げることができる。
【0015】一般式(2)の(メタ)アクリル酸エステルにおいて、R4で表される基は、置換基を有することのある炭素数1〜9程度の1価の炭化水素基であり、特に炭素数2以上の炭化水素基が好ましい。この炭化水素基における置換基としては、カルボニル基を含む1価の基、ハロゲン原子、水酸基等を例示でき、これらの置換基を1個以上含むことができる。R4の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基、クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基;2−ヒドロキシエチル基等のヒドロキシ炭化水素基;2−アセトキシエチル基、2−アセトエチル基、2−(アセトアセトキシ)エチル基等のカルボニル基を含む1価の基を置換基として含む炭化水素基等を例示できる。
【0016】また、一般式(3)の(メタ)アクリル酸エステルにおいて、R5で表される基は、エポキシ基及びグリシドキシ基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有する炭化水素基であり、この炭化水素基としては、炭素数1〜4程度の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基が好ましい。エポキシ基及びグリシドキシ基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有する炭化水素基の具体例としては、グリシジル基、γ−グリシドキシプロピル基等を例示できる。
【0017】一般式(4)の(メタ)アクリル酸エステルにおいて、R6で表される基は、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基により置換された炭化水素基であり、この炭化水素基としては、炭素数1〜4程度の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基が好ましい。また、シリル基の置換基であるアルコキシル基としては、炭素数1〜4程度のものが好ましい。該シリル基は、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基以外に、Si原子に、炭素数1〜4程度のアルキル基が結合していてもよい。R6の具体例としては、トリメトキシシリルプロピル基、ジメトキシメチルシリルプロピル基、モノメトキシジメチルシリルプロピル基、トリエトキシシリルプロピル基、ジエトキシメチルシリルプロピル基、エトキシジメチルシリルプロピル基、トリクロロシリルプロピル基、ジクロロメチルシリルプロピル基、クロロジメチルシリルプロピル基、クロロジメトキシシリルプロピル基、ジクロロメトキシシリルプロピル基等を例示できる。
【0018】単量体として用いる一般式(2)〜(4)の(メタ)アクリル酸エステルについては、それぞれの一般式で表される化合物を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0019】上記一般式(2)〜(4)の(メタ)アクリル酸エステルを共重合して得られるアクリル樹脂は、単量体成分である一般式(2)の(メタ)アクリル酸エステルに含まれる基R4により、プライマー皮膜の靭性が改善され、炭化素基を有するケイ素化合物との相溶性も良好になる。特に、プライマー皮膜の靭性の改善効果の点からは、R4は炭素数2以上の炭化水素基が好ましい。また、一般式(3)の(メタ)アクリル酸化合物に含まれる基R5により、プライマー皮膜と基材との密着性が向上する。更に、一般式(4)の(メタ)アクリル酸化合物に含まれる基R6により、アクリル樹脂と、Si化合物やZr化合物、Ti化合物、Al化合物等との間に化学結合が形成され、これによりSi化合物、Zr化合物、Ti化合物、Al化合物等が硬化皮膜中に固定化される。
【0020】一般式(2)〜(4)の三種類の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体において、単量体として用いる各(メタ)アクリル酸エステルの使用割合は、三種類の単量体の合計量を基準として、一般式(2)の(メタ)アクリル酸エステル10〜70モル%程度、一般式(3)の(メタ)アクリル酸エステル10〜70モル%程度、一般式(4)の(メタ)アクリル酸エステル5〜50モル%程度とすればよい。
【0021】更に、上記した一般式(2)〜(4)の(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステルも単量体成分として用いることができる。その配合量は、共重合体を構成する単量体の合計量を基準として、50モル%程度以下とすればよい。
【0022】シリコン変性アクリル樹脂の合成方法としては、有機溶媒中での溶液重合、乳化重合、懸濁重合によるラジカル重合法、あるいはアニオン重合法、カチオン重合法等を用いることが出来る。
【0023】溶液重合によるラジカル重合法としては、例えば、一般式(2)〜(4)の(メタ)アクリル酸エステルからなる単量体を有機溶媒に溶解し、ラジカル重合開始剤を加え、窒素等の不活性気体気流下で加熱して重合反応させればよい。
【0024】ラジカル重合の条件については、特に限定的ではないが、有機溶媒中の単量体濃度は、通常、40〜60%程度とすればよく、ラジカル重合開始剤の濃度は、通常、0.001〜0.1%程度とすればよい。重合反応温度は、60〜100℃程度とすれば良く、反応時間は、通常、1〜24時間程度とすればよい。
【0025】有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテルなどを用いることができ、ラジカル重合開始剤としては、クメンヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ第3ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素−Fe2+塩、過硫酸塩−NaHSO3 、クメンヒドロペルオキシド−Fe2+塩、過酸化ベンゾイル−ジメチルアニリン、過酸化物−トリエチルアルミニウムなどを用いることができる。
【0026】また、必要に応じて、分子量をコントロールのために、連鎖移動剤を添加することができる。連鎖移動剤としては、モノエチルハイドロキノン、p−ベンゾキノンなどのキノン類;メルカプトアセチックアシッド−エチルエステル、メルカプトアセチックアシッド−n−ブチルエステル、メルカプトアセチックアシッド−2−エチルヘキシルエステル、メルカプトシクロヘキサン、メルカプトシクロペンタン、2−メルカプトエタノール、1−ドデカンチオールなどのチオール類;ジ−3−クロロベンゼンチオール、p−トルエンチオール、ベンゼンチオールなどのチオフェノール類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール誘導体;フェニルピクリルヒドラジン;ジフェニルアミン;第3ブチルカテコールなどを例示でき、その使用量は、特に限定的ではないが、反応溶液中の濃度として、通常、0.001〜0.1%程度とすればよい。
【0027】本発明で用いるアクリル樹脂は、平均分子量が2000〜30000程度のものが好ましい。尚、本願明細書において、平均分子量は、測定カラムとして、昭和電工株式会社製のShodex 805を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準のポリスチレンの検量線から求めたものである。
(b)ケイ素含有化合物プライマー組成物に配合するケイ素含有化合物は、一般式(1):R1aSiClb(OH)c(OR2d(式中、R1はアミノ基及びカルボキシル基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、R2は、置換基としてアルコキシル基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aは、0〜3の整数、bは0〜2の整数、cは、0〜3の整数、dは0〜4の整数であって、a+b+c+d=4である)で表される化合物、及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種の化合物である。
【0028】上記一般式(1)の化合物において、R1で表される、アミノ基及びカルボキシル基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基における炭化水素基としては、炭素数1〜8個の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基が好ましく、アミノ基及びカルボキシル基から選ばれた置換基は1個以上存在することができる。R1の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等の炭素数1〜8のアルキル基;アミノメチル、アミノエチル等の置換基としてアミノ基を含む炭素数1〜8のアルキル基;カルボキシメチル、カルボキシエチル等の置換基としてカルボキシル基を含む炭素数1〜8のアルキル基等を例示できる。
【0029】また、上記一般式(1)の化合物において、R2で表される、置換基としてアルコキシル基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基における炭化水素基としては、炭素数1〜8個の炭素数1〜8個の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基が好ましく、この炭化水素基は、置換基として炭素数1〜4程度のアルコキシル基を1個以上含むことができる。R2の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等のアルキル基;メトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、イソプロポキシメチル、ブトキシメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、プロポキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル等のアルコキシル基で置換された炭素数1〜8のアルキル基を例示できる。
【0030】上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物としては、aが0〜3の整数であるモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−の各官能性のアルコキシシラン類が好適であり、その具体例としては、下記の化合物を挙げることができる。
Si(OCH3)4、Si(OC25)4、Si(OC37)4、Si(OC49)4、Si(OC511)4、Si(OC613)4、SiCl(OCH3)3、SiCl(OC25)3、SiCl(OC37)3、SiCl(OC49)3、SiCl(OC613)3、SiCH3(OCH3)3、SiCH3(OC25)3、SiCH3(OC37)3、SiCH3(OC37)3、SiCH3(OC49)3、SiCl(OH)(OCH3)2、SiCl(OH)(OC25)2、SiCl(OH)(OC37)2、SiCl(OH)(OC49)2、SiCl2(OCH3)2、SiCl2(OC25)2、Si(CH3)3OCH3、 Si(CH3)3OC25、 Si(CH3)3OC37、Si(CH3)2(C49)OCH3 等。
【0031】上記一般式(1)の化合物は、その化合物自体を直接プライマー組成物中に配合しても良く、或いは、縮重合反応生成物として配合しても良い。また、一般式(1)の化合物を後述する(c)成分の金属化合物と混合した後、縮重合反応を行って、縮重合反応生成物と金属化合物の混合物として、プライマー組成物に配合しても良い。
【0032】一般式(1)のケイ素含有化合物の縮重合反応は、有機溶媒中で水を添加して行うことができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体;トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム、ジアセトンアルコール等を用いることができ、これらの溶媒を1種単独又は2種以上混合して用いることができる。縮重合反応を行なうための水の添加量は、一般式(1)に含まれる加水分解性基であるClとOR2の合計量1モル当たり0.001〜0.5モル程度とすることが好ましく、0.01〜0.4モル程度とすることがより好ましい。水の添加量が0.001モル未満では十分な部分加水分解による重縮合生成物が得られず、0.5モルを越えると、重縮合生成物の安定性が悪くなりゲル化し易くなるので好ましくない。加水分解重縮合反応の進行には、適切な加水分解促進のための触媒を添加することもできる。この様な触媒としては、塩酸、酢酸、ハロゲン化シラン、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸、無機酸等を用いることができ、これらの触媒を1種単独又は2種以上混合して用いることができる。重縮合反応は常温で進行するが、反応を促進させるために、必要に応じて、加温(例えば、60〜100℃程度)してもよい。
(c)金属化合物:プライマー組成物に配合する金属化合物は、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の、有機溶媒に溶解又は均一に分散できる金属化合物をである。これらの金属化合物を配合することによって、形成されるプライマー皮膜の耐アルカリ性、耐酸性等の耐薬品性、耐水性、耐候性等が改善されて、皮膜の耐久性が向上する。
【0033】ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物としては、シリコン変性アクリル樹脂の側鎖に存在する、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基と反応して、該アクリル樹脂と金属化合物間に結合を形成できる化合物が好ましい。これらの金属化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0034】本発明で好適に使用できるジルコニウム化合物の例としては、ジルコニウムアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類の加水分解物、ジルコニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0035】ジルコニウムアルコキシド類としては、炭素数1〜8程度のアルコキシル基がジルコニウム原子に1〜4個結合した化合物、例えば、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド等を例示できる。
【0036】ジルコニウムアルコキシド類の加水分解生成物としては、例えば、有機溶媒中で、ジルコニウムアルコキシド類の加水分解性基に対して0.001〜0.5程度のモル比となる水を加えて、加水分解させて得られる生成物を用いることができる。この場合、有機溶媒としては、アルコールや酢酸エチル等のエステル化合物等を好適に用いることができ、この様な有機溶媒にジルコニウムアルコキシド類を溶解した溶液中に、水−有機溶媒混合物等の形で水を徐々に添加し、室温〜120℃程度の温度で0.5時間〜24時間程度、必要に応じて撹拌しながら放置して反応させればよい。
【0037】ジルコニウムキレート化合物としては、例えば、ジルコニウムのβ−ケトンエステル錯体、ジルコニウムのβ−ジケトン錯体、ジルコニウムのエタノールアミン類錯体、ジルコニウムのジアルキレングリコール錯体等を用いることができる。これらのキレート化合物は、ジルコニウムジブトキシドアセチルアセトナート、ジルコニウムブトキシベンジルアセトナート等の市販のキレート化合物でも良く、或いは、ジルコニウムアルコキシドに対して、アセチルアセトン、ジエタノールアミン、ジエチレングリコール等のキレート化剤を配位数が0.5〜8配位に相当する量を添加して調製したものでも良い。
【0038】本発明で好適に使用できるチタニウム化合物の例としては、チタニウムアルコキシド類、チタニウムアルコキシド類の加水分解物、チタニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0039】チタニウムアルコキシド類としては、炭素数1〜8程度のアルコキシル基がチタニウム原子に1〜4個結合した化合物、例えば、チタニウムエトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド等を例示できる。
【0040】チタニウムアルコキシド類の加水分解生成物としては、例えば、有機溶媒中で、チタニウムアルコキシド類の加水分解性基に対して0.001〜0.5程度のモル比となる水を加えて、加水分解させて得られる生成物を用いることができる。この場合、有機溶媒としては、アルコールや酢酸エチル等のエステル化合物等を好適に用いることができ、この様な有機溶媒にチタニウムアルコキシド類を溶解した溶液中に、水−有機溶媒混合物等の形で水を徐々に添加し、室温〜120℃程度の温度で0.5時間〜24時間程度、必要に応じて撹拌しながら放置して反応させればよい。
【0041】チタニウムキレート化合物としては、例えば、チタニウムのβ−ケトンエステル錯体、チタニウムのβ−ジケトン錯体、チタニウムのエタノールアミン類錯体、チタニウムのジアルキレングリコール錯体等を用いることができる。これらのキレート化合物は、市販のキレート化合物でも良く、或いは、チタニウムアルコキシドに対して、アセチルアセトン、ジエタノールアミン、ジエチレングリコール等のキレート化剤を配位数が0.5〜8配位に相当する量を添加して調製したものでも良い。
【0042】本発明で好適に使用できるアルミニウム化合物の例としては、アルミニウムアルコキシド類、アルミニウムアルコキシド類の加水分解物、アルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0043】アルミニウムアルコキシド類としては、炭素数1〜8程度のアルコキシル基がアルミニウム原子に1〜3個結合した化合物、例えば、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド等を例示できる。
【0044】アルミニウムアルコキシド類の加水分解生成物としては、例えば、有機溶媒中で、アルミニウムアルコキシド類の加水分解性基に対して0.001〜0.1程度のモル比となる水を加えて、加水分解させて得られる生成物を用いることができる。この場合、有機溶媒としては、アルコールや酢酸エチル等のエステル化合物等を好適に用いることができ、この様な有機溶媒にアルミニウムアルコキシド類を溶解した溶液中に、水−有機溶媒混合物等の形で水を徐々に添加し、室温〜120℃程度の温度で0.5時間〜24時間程度、必要に応じて撹拌しながら放置して反応させればよい。
【0045】アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムのβ−ケトンエステル錯体、アルミニウムのβ−ジケトン錯体、アルミニウムのエタノールアミン類錯体、アルミニウムのジアルキレングリコール錯体等を用いることができる。これらのキレート化合物は、アルミニウムアセチルアセトナート等の市販のキレート化合物を用いても良く、或いは、アルミニウムアルコキシドに対して、アセチルアセトン、ジエタノールアミン、ジエチレングリコール等のキレート化剤を配位数が0.5〜8配位に相当する量を添加して調製したものでも良い。
(d)プライマー組成物の配合本発明で用いるプライマー組成物は、上記した(a)シリコン変性アクリル樹脂、(b)一般式(1)の化合物及びその縮重合生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物、並びに、(c)ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物を有機溶媒に溶解又は分散させたものである。
【0046】該プライマー組成物における(a)成分であるシリコン変性アクリル樹脂と、(b)成分である一般式(1)の化合物及びその縮重合生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物の配合割合は、(a)成分と(b)成分の固形分量の合計量を100重量%として、(a)成分の固形分量5〜90重量%、好ましくは10〜80重量%と、(b)成分の固形分量10〜95重量%、好ましくは20〜90重量%程度とすればよい。また、(c)成分であるジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物の配合割合は、(a)成分と(b)成分の固形分量の合計量を100重量部として、(c)成分の固形分量を0.01〜20重量部程度、好ましくは0.1〜10重量部程度、より好ましくは0.1〜5重量部程度とすればよい。
【0047】また、該プライマー組成物中の上記(a)のシリコン変性アクリル樹脂、(b)のケイ素含有化合物、並びに(c)の金属化合物の濃度は、(a)〜(c)成分の固形分の合計量として、1〜30重量%程度、好ましくは3〜25重量%程度、より好ましくは5〜20重量%程度とすればよい。
【0048】該プライマー組成物の各成分を有機溶媒に溶解又は分散させる方法については特に限定はなく、例えば、市販のシリコン変性アクリル樹脂を用いる場合には、(a)〜(c)の各成分を有機溶媒中で均一に混合すればよい。また、一般式(2)〜(4)の(メタ)アクリル酸エステルを有機溶媒中で共重合させて、シリコン変性アクリル樹脂を合成する場合には、共重合反応を行った後、形成されたアクリル樹脂の溶液中に、上記(b)成分のケイ素含有化合物と(c)成分の金属化合物を、そのまま、又は適当な有機溶媒に溶解若しくは分散させて添加しても良く、或いは、共重合反応を行う前に、単量体成分である一般式(2)〜(4)の(メタ)アクリル酸エステルを含む溶液中に、上記(b)成分のケイ素含有化合物と(c)成分の金属化合物のいずれか一方又は両方について、必要量の全量又は一部を添加しておき、共重合反応後に、残分を添加しても良い。
【0049】特に、(b)成分のケイ素含有化合物と(c)成分の金属化合物を予め均一に混合しておき、この混合物を、共重合反応後又は共重合反応前に、シリコン変性アクリル樹脂と混合することが好ましい。
【0050】また、(a)成分のシリコン変性アクリル樹脂と(b)成分のケイ素含有化合物とが結合したポリシロキサン化合物を側鎖に有するアクリル樹脂が市販されており、この様なアクリル樹脂を用いることもできる。この様なポリシロキサン化合物を側鎖に有するアクリル樹脂は、上記した(a)成分と(b)成分の配合割合の範囲内において、(b)成分のケイ素含有化合物が(a)成分のシリコン変性アクリル樹脂の側鎖に結合したアクリル樹脂を用いることができ、好ましくは、樹脂固形分中に、ケイ素原子が、SiO2として、5〜40重量%程度含まれるアクリル樹脂を用いることができる。この様な様な市販されているポリシロキサン化合物を側鎖に有するアクリル樹脂を用いる場合には、このアクリル樹脂を溶解した溶液中に、(c)成分の金属化合物と、必要に応じて、残分の(b)成分のケイ素含有化合物を添加すればよい。
【0051】該プライマー組成物で用いることができる有機溶媒は、プライマー組成物中の各成分を安定に存在させ、かつ塗布対象の基材に対して悪影響を及ぼさないものであれば、特に限定はない。この様な溶媒としては、上記したアクリル樹脂の共重合反応時に用いることができる溶媒に加えて、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、ヘキサン、ヘプタン、ジアセトンアルコール等を例示できる。有機溶媒は、一種単独で用いる他、二種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。特に、有機溶媒を混合して用いる場合には、適宜溶剤の組み合わせを選択することによって、成膜時の溶液のレベリング性等を調整することができる。
【0052】本発明で用いるプライマー組成物には、更に、必要に応じて、上記したシリコン変性アクリル樹脂以外のケイ素原子を含有しないアクリル樹脂を添加することができる。この様なアクリル樹脂を配合することによって、形成される皮膜の可とう性を向上させ、クラックの発生を抑制することができる。この様なアクリル樹脂としては、通常の市販されているアクリル樹脂を用いることができるが、その他に、例えば、ガラス転移温度が低く柔らかい単量体を主モノマー成分とし、ガラス転移温度が高く硬い単量体をコモノマー成分として、更に、必要に応じて、官能基含有モノマーを少量用いて、共重合反応によって得られるアクリル樹脂を好適に用いることができる。
【0053】この様なアクリル樹脂において、 主モノマー成分としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が2〜12程度のアクリル酸アルキルエステルやメタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が4〜12程度のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。また、コモノマー成分としては、アクリル酸メチルやメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル等のアルキル基の炭素数が1〜3程度のメタクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレンなどが挙げられる。官能基含有モノマー成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸等の多価カルボン酸、及びこれらの無水物等のカルボキシル基含有モノマーや2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等やN−メチロールアクリルアミド等のヒドロキシル基含有モノマー等の他に、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマ−等が挙げられる。これらの官能基含有モノマー成分のうちで、特にヒドロキシル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー等が好ましい。
【0054】主モノマー成分の使用量は、コモノマー成分や官能基含有モノマー成分の種類や含有量により一概に規定できないが、一般的には全単量体成分量を基準として、上記主モノマーを50重量%以上用いることが好ましい。
【0055】合成方法としては、有機溶媒中での溶液重合、乳化重合、懸濁重合によるラジカル重合法、あるいはアニオン重合法、カチオン重合法等を用いることができ、上述したシリコン変性アクリル樹脂と同様の方法で製造できる。
【0056】ケイ素原子を含有しないアクリル樹脂の配合量は、本発明のコーティング組成物に配合するアクリル樹脂の全量(固形分)を基準として、50重量%程度以下とすることが好ましい。
【0057】本発明で用いるプライマー組成物には、更に、必要に応じて、コロイダルシリカを配合することができる。コロイダルシリカを配合することによって、形成される皮膜の可とう性が向上して、クラックの発生を抑制できる。また、形成される皮膜と基材との密着性が向上する場合があり、無機皮膜との密着性が向上する場合もある。コロイダルシリカとしては、有機溶媒分散性のコロイダルシリカを用いることが好ましく、コロイダルシリカが分散している有機溶媒の種類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体;ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン/n−ブタノール混合溶媒等を挙げることができる。コロイダルシリカの原料としても特に限定はなく、例えば、上記一般式(1)のケイ素含有化合物を原料としたコロイダルシリカや水ガラス等から製造したコロイダルシリカ等も使用できる。
【0058】コロイダルシリカの添加方法については、特に限定はなく、(a)〜(c)の各成分の混合前又は混合後の任意の時期に添加することができる。また、一般式(1)の化合物の縮重合反応前に、一般式(1)の化合物を含む溶液中にコロイダルシリカを添加して縮重合反応を行っても良い。特に、(b)成分のケイ素含有化合物とコロイダルシリカを予め均一に混合しておき、これを他の成分と混合することが好ましい。
【0059】コロイダルシリカの配合量は、(b)成分のケイ素含有化合物の固形分量100重量部に対して、固形分量として10〜95重量部程度とすることが好ましく、30〜90重量部程度とすることがより好ましく、50〜80重量部程度とすることが更に好ましい。
【0060】更に、本発明で用いるプライマー組成物には、必要に応じて、硬化触媒を配合することができる。
【0061】硬化触媒の具体例としては、塩酸、硝酸、リン酸、硼酸等の無機酸、酢酸、ギ酸、マレイン酸、フタル酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸、ジブチルスズラウリレート、ジブチルスズオクチエート、ジブチルスズアセテート、ジオクチルスズラウレート等の有機スズ化合物、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブトキシチタネート等の有機チタン化合物、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート等のリン酸エステル類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤、、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジン、メタフェニレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ化合物、エポキシ化合物等を挙げることができる。これらの内で、特に無機酸、有機スズ化合物、有機酸が好ましい。これら触媒の使用量は、触媒の種類により異なるが、例えば塩酸を使用する場合は、プライマー組成物に含まれる全固形分100重量部に対して0.1〜2重量部程度とすることが好ましい。このような硬化触媒は、使用時にプライマー組成物に添加して使用することが好ましいが、該プライマー組成物にあらかじめ添加した状態(1液型)としておいてもよい。
【0062】また、本発明で用いるプライマー組成物には、形成される皮膜をより強固に硬化させるために、架橋剤として、アクリル樹脂中に含まれる水酸基や、金属化合物が加水分解することによって生成する水酸基と反応して架橋構造を形成する化合物も配合することができる。その具体例としては、イソシアネート基を持つ化合物が挙げられ、より具体的には、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物、イソシアヌレート化合物、ウレタンプレポリマー等が挙げられる。架橋剤の使用量は、(a)成分のケイ素含有化合物、一般式(3)の(メタ)アクリル酸エステル、及び一般式(4)の(メタ)アクリル酸エステルの合計モル数に対して、架橋剤中のイソシアネート基及びイソシアヌレート基の合計量が0.1〜10倍モル程度となるようにすることが好ましい。これらの架橋剤は、通常、2液型として、使用時にプライマー組成物に添加して使用すればよい。
【0063】本発明で用いるプライマー組成物には、更に、必要に応じて、各種顔料を添加することも可能である。添加する顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、リトボン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、クレー、カーボンブラック、鉄黒、フタロシアニンブルー、紺青、群青、レーキイエロー、黄鉛、オーカイエロー、ハンザイエロー、ベンガラ、レーキレッド、クロムバーミリオン、フタロシアニングリーン、酸化クロムなどが挙げられる。これらの顔料の使用量は、本発明のプライマー組成物により形成される皮膜の物性を低下させることのない範囲内において適宜選択すればよい。
【0064】更に、本発明で用いるプライマー組成物には、プライマー皮膜の特性を損なわない範囲において、各種樹脂用添加剤を加えることができる。この様な添加剤としては、例えば、紫外線安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐擦傷性付与剤、相溶化剤、接着性付与剤、着色剤、流動性改善剤、可塑剤、タレ防止剤、沈殿防止剤、消泡剤等が挙げられる。
【0065】本発明で用いるプライマー組成物は、一般に使用される混合方法により、各成分を均一に分散させることによって調製することができる。例えば、サンドミル、ディスパー、ボールミルなどを用いて均一に混合すればよい。
(e)プライマー皮膜の形成方法上記組成物を用いてプライマー皮膜を形成するには、該組成物を基材に塗布した後、空気中で室温〜200℃程度の温度で乾燥硬化させればよい。具体的な硬化温度は、プライマー組成物の具体的な組成や使用方法に応じて適宜決めれば良いが、例えば、硬化触媒や架橋剤を配合した場合には、室温付近の低温でも比較的短時間で硬化皮膜を形成できるが、硬化触媒や架橋剤を配合していない場合には、50℃程度以上に加熱することが好ましい。また、共重合反応後に(b)成分のケイ素含有化合物や(c)成分の金属化合物を配合した場合には、シリコン変性アクリル樹脂とこれらの成分との反応を促進させるために、50℃程度以上に加熱することが好ましい。
【0066】硬化時間については、プライマー組成物の組成や硬化温度によって異なるので一概にはいえず、使用条件に応じて、プライマー皮膜が硬化又は半硬化(JIS−K5400半硬化を示す。)状態となるまで放置すればよい。例えば、200℃程度の高温で硬化させる場合には、1分〜1時間程度で良好な硬化皮膜を形成できる場合がある。
【0067】本発明では、短時間でプライマー皮膜を形成できるように、プライマー組成物中に硬化触媒及び/又は架橋剤を配合するか、或いは、加熱してプライマー皮膜を形成することが好ましい。
【0068】塗布方法は、常法に従えば良く、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フロー、ロール、カーテン、ナイフコート、スピンコート等の通常の塗布方法を採用できる。
【0069】形成されるプライマー皮膜の好ましい厚さは、使用する組成物中の成分の種類や含量等によって異なるので特に限定的ではないが、通常0.1〜100μm程度とすればよく、0.5〜20μm程度とすることが好ましい。
光触媒層本発明において、光触媒性酸化物を含む皮膜である光触媒層を形成するには、光触媒性酸化物粒子、ジルコニウム化合物、及び溶媒を含有する組成物(以下、「光触媒層形成用組成物」という)を用いる。
【0070】以下に、該組成物について説明する。
(a)光触媒性酸化物粒子:本発明で用いることができる光触媒性酸化物粒子は、結晶の伝導帯と価電子帯の間のバンドギャップよりも大きなエネルギーをもつ光を照射すると、有機化合物の酸化還元反応に対し触媒活性を示す金属酸化物である。この様な金属酸化物の具体例としては、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、ブルーカイト型酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、三酸化ビスマス、三酸化タングステンなどを挙げることができる。
【0071】これらの光触媒性酸化物粒子の粒径については、光触媒反応が酸化物粒子の表面付近でおこるため、光触媒活性の見地からは、出来るだけ微細であることが好ましい。通常、平均粒径が0.005μmより小さいものは製造が難しいので、平均粒径0.005〜0.3μm程度のものが好ましく、平均粒径0.01〜0.1μm程度のものがより好ましい。該光触媒性酸化物粒子の比表面積は50〜400m2程度の範囲のものが好ましい。
【0072】光触媒性酸化物粒子の中でも、特に、酸化チタンは、上記粒径範囲の微粒子の入手が容易であり、また、無害で化学的に安定であることから、最も好適である。酸化チタンとしては、公知の方法で得られるものを特に制限なく用いることが出来る。加水分解で酸化チタンを得る場合には、加水分解により生成した酸化チタン含有ゾルを用いることもできる。また、このゾルから酸化チタン微粒子の粉末を得、これを溶媒に分散させて用いることもできる。その他酸化チタン微粒子は公知の気相法で得られたものでも良い。特に好ましい酸化チタン微粒子を得る方法は、操作しやすく、且つ安価であることから塩化チタンまたは硫酸チタンを加水分解する方法である。
(b)ジルコニウム化合物:ジルコニウム化合物は、光触媒層形成用組成物を基材に塗布した際に、形成される皮膜のバインダーとして作用するものであり、水、有機溶剤又はこれらの混合溶媒に溶解又は均一に分散できるジルコニウム化合物又はであれば、いずれも用いることができる。
【0073】この様なジルコニウム化合物の具体例としては、酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、リン酸ナトリウムジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、ジルコニウムアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類の加水分解物、ジルコニウムキレート化合物等を例示できる。
【0074】これらの内で、ジルコニウムアルコキシド類としては、炭素数1〜8程度のアルコキシル基がジルコニウム原子に1〜4個結合した化合物、例えば、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド等を例示できる。
【0075】ジルコニウムアルコキシド類の加水分解生成物としては、例えば、有機溶媒中で、ジルコニウムアルコキシド類の加水分解性基に対して0.001〜0.5程度のモル比となる水を加えて、加水分解させて得られる生成物を用いることができる。この場合、有機溶媒としては、アルコールや酢酸エチル等のエステル化合物等を好適に用いることができ、この様な有機溶媒にジルコニウムアルコキシド類を溶解した溶液中に、水−有機溶媒混合物等の形で水を徐々に添加し、室温〜120℃程度の温度で0.5時間〜24時間程度、必要に応じて撹拌しながら放置して反応させればよい。
【0076】ジルコニウムキレート化合物としては、例えば、ジルコニウムのβ−ケトンエステル錯体、ジルコニウムのβ−ジケトン錯体、ジルコニウムのエタノールアミン類錯体、ジルコニウムのジアルキレングリコール錯体等を用いることができる。これらのキレート化合物は、ジルコニウムジブトキシドアセチルアセトナート、ジルコニウムブトキシベンジルアセトナート等の市販のキレート化合物でも良く、或いは、ジルコニウムアルコキシドに対して、アセチルアセトン、ジエタノールアミン、ジエチレングリコール等のキレート化剤を配位数が0.5〜8配位に相当する量を添加して調製したものでも良い。
【0077】ジルコニウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。ジルコニウム化合物は、光触媒層形成用組成物の調製時に出発原料として用いられるが、該組成物の調製後に、水や有機溶剤と反応して別の化合物となってもよい。
【0078】光触媒性酸化物として、該水分散性ゾルの形態のものを用いる場合には、pHショックを起こさないように、該水分散性ゾルが酸性の場合には、酸性を示すジルコニウム化合物を用いることが好ましく、また、水分散性ゾルがアルカリ性の場合には、アルカリ性を示すジルコニウム化合物を用いることが好ましい。また、酸性ゾルにアルカリを添加したり、アルカリ性ゾルに酸を添加してジルコニウム化合物と混合することも可能である。
(c)溶媒:光触媒層形成用組成物の調製に用いる溶媒は、水、有機溶媒又は水と有機溶媒の混合溶媒である。有機溶媒としては、親水性のものが好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブなどのセロソルブ類を挙げることが出来る。溶媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、組成物の安定性、基材の種類、成膜時の乾燥条件、経済性等を考慮して決めることが好ましい。
【0079】尚、半硬化状態のプライマー皮膜上に光触媒性酸化物含有組成物を塗布する場合には、急激に膜の硬化を進行させることにより、膜質の劣化を引き起こし、白化現象等の原因となる場合があるため、溶媒としては、有機溶媒を単独で用いるか、或いは、有機溶媒を50重量%以上含む水と有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。
(d)光触媒層形成用組成物の配合:本発明で用いる光触媒層形成用組成物は、上記した光触媒性酸化物粒子、ジルコニウム化合物、及び溶媒を含むものである。
【0080】光触媒層形成用組成物中の光触媒性酸化物粒子の配合量は、該組成物の合計量に対して、1〜25重量%程度の範囲が好ましい。光触媒性酸化物粒子の配合量が不足すると十分な光触媒能を発揮できず、一方、配合量が多すぎると酸化物粒子の分散性が低下して粘度が増加し、該組成物が不安定となりやすいので好ましくない。
【0081】光触媒性酸化物粒子に対するジルコニウム化合物の配合量は、光触媒性酸化物粒子100重量部に対して、ジルコニウム化合物をZrO2に換算した重量として、3〜400重量部程度とすることが好ましい。ジルコニウム化合物量が少なすぎる場合には、形成される光触媒層の密着性が不十分になりやすく、一方、光触媒性酸化物粒子に対するジルコニウム化合物の相対量が増大し過ぎると、光触媒能が低下するので好ましくない。また、光触媒性酸化物粒子が酸化チタンである場合には、ジルコニウム化合物と酸化チタンとの割合を変えることによって、紫外線照射による接触角の変化の程度を制御することができる。以上のことから、より好ましい配合量は、5〜200重量部程度であり、更に好ましい配合量は、10〜100重量部程度である。
【0082】該光触媒層形成用組成物には、必要に応じて、該組成物の皮膜形成性を高めるために、グリセリン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレングリコール等の増粘剤、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の分散剤等を配合することができる。また、必要に応じて、表面に付着した細菌類を暗所においても殺菌するため、銀、銅等の金属粒子を添加しても良く、また、光触媒活性を高めるために、パラジウム、白金等の白金族金属を添加しても良い。これらの添加剤は、それぞれ10〜10000ppm程度の量で用いることができる。
【0083】本発明で用いる光触媒性酸化物含有組成物は、上記した光触媒性酸化物粒子、溶媒可溶性ジルコニウム化合物、及び溶媒、更に、必要に応じて上記した各種添加剤を混合し、十分に撹拌することによって得ることができる。
(e)光触媒層の形成方法上記光触媒層形成用組成物を用いて光触媒層を形成するには、前述した方法で形成した硬化又は半硬化状態のプライマー皮膜上に、光触媒層形成用組成物を塗布した後、室温放置又は熱処理を行えばよい。具体的な硬化温度は、光触媒層形成用組成物の具体的な組成に応じて適宜決めれば良く、通常、20〜200℃程度、好ましくは80〜150℃程度とすればよい。硬化時間は、光触媒層形成用組成物の具体的な組成によって異なるが、一般に、100℃程度で硬化させる場合には、10分程度でよい。
【0084】塗布方法は、常法に従えば良く、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フロー、ロール、カーテン、ナイフコート、スピンコート等の通常の塗布方法を採用できる。
【0085】光触媒層の硬化皮膜の厚さは、特に限定的ではないが、0.01〜20μm程度とすることが好ましく、0.05〜5μm程度とすることがより好ましい。光触媒層が薄すぎる場合には、光触媒能が不十分であり、また、厚すぎる場合には、クラックが発生したり、皮膜が剥離し易くなるので好ましくない。
中間層本発明の光触媒層の形成方法では、上記したプライマー層と光触媒層との間に、必要に応じて、ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物を溶媒に溶解した組成物(以下、「中間層形成用組成物」という)を用いて中間層を形成することができる。この様な組成物を用いて中間層を形成することによって、更に耐アルカリ性、耐水性等を向上させることができる。
【0086】以下に、該組成物に含まれる各成分について説明する。
(a)ジルコニウム化合物:ジルコニウム化合物としては、水、有機溶剤又はこれらの混合溶媒に可溶性のジルコニウム化合物であれば、いずれも用いることができる。この様なジルコニウム化合物としては、具体的には、上記した光触媒層形成用有組成物に配合するジルコニウム化合物の内で、溶媒分散性の化合物である酸化ジルコニウムを除いた、その他の溶媒可溶性のジルコニウム化合物を用いることができる。
(b)チタニウム化合物:チタニウム化合物としては、水、有機溶剤又はこれらの混合溶媒に可溶性のチタニウム化合物であれば、いずれも用いることができる。
【0087】この様なチタニウム化合物としては、塩化チタン、硫酸チタン、チタニウムアルコキシド類、チタニウムアルコキシド類の加水分解物、チタニウムキレート化合物等を用いることができる。
【0088】これらの内で、チタニウムアルコキシド類としては、炭素数1〜8程度のアルコキシル基がチタニウム原子に1〜4個結合した化合物、例えば、チタニウムエトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド等を例示できる。
【0089】チタニウムアルコキシド類の加水分解生成物としては、例えば、有機溶媒中で、チタニウムアルコキシド類の加水分解性基に対して0.001〜0.5程度のモル比となる水を加えて、加水分解させて得られる生成物を用いることができる。この場合、有機溶媒としては、アルコールや酢酸エチル等のエステル化合物等を好適に用いることができ、この様な有機溶媒にチタニウムアルコキシド類を溶解した溶液中に、水−有機溶媒混合物等の形で水を徐々に添加し、室温〜120℃程度の温度で0.5時間〜24時間程度、必要に応じて撹拌しながら放置して反応させればよい。
【0090】チタニウムキレート化合物としては、例えば、チタニウムのβ−ケトンエステル錯体、チタニウムのβ−ジケトン錯体、チタニウムのエタノールアミン類錯体、チタニウムのジアルキレングリコール錯体等を用いることができる。これらのキレート化合物は、市販のキレート化合物でも良く、或いは、チタニウムアルコキシドに対して、アセチルアセトン、ジエタノールアミン、ジエチレングリコール等のキレート化剤を配位数が0.5〜8配位に相当する量を添加して調製したものでも良い。
【0091】チタニウム化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。チタニウム化合物は、中間層形成用組成物の調製時に出発原料として用いられるが、該組成物の調製後に、水や有機溶剤と反応して別の化合物となってもよい。
【0092】(c)溶媒中間層形成用組成物に配合する溶媒は、水、有機溶媒又は水と有機溶媒の混合溶媒である。有機溶媒としては、親水性のものが好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブなどのセロソルブ類を挙げることが出来る。溶媒は、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、組成物の安定性、基材の種類、成膜時の乾燥条件、経済性等を考慮して決めることが好ましい。
【0093】尚、半硬化状態のプライマー皮膜上に中間層形成用組成物を塗布する場合には、急激に膜の硬化を進行させることにより、膜質の劣化を引き起こし、白化現象等の原因となる場合があるため、溶媒としては、有機溶媒を単独で用いるか、或いは、有機溶媒を50重量%以上含む水と有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。
(d)中間層形成用組成物の配合:中間層形成用組成物は、上記したジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物を溶媒に溶解したものであり、該金属化合物を溶媒中で撹拌することによって得ることができる。
【0094】中間層形成用組成物には、更に、必要に応じて、ケイ素化合物を配合することができる。中間層形成用組成物にケイ素化合物を配合することによって、プライマー組成物中に含まれるケイ素含有化合物との馴染みが良くなり、プライマー被膜と中間層との密着性が向上する。
【0095】中間層形成用組成物に配合するケイ素化合物としては、水、有機溶剤又はこれらの混合溶媒に可溶性のケイ素化合物であれば、いずれも用いることができる。この様なケイ素化合物の具体例としては、プライマー組成物中に配合するケイ素含有化合物として示した一般式(1)で表される化合物、その縮重合体等を用いることができ、更に、一般式(5):R7eSiClf(OR8g(式中、R7は置換基を有することのある炭素数1〜8個のアルキル基及びアリール基から選ばれた少なくとも一種の基を示し、R8は炭素数1〜8のアルキル基を示し、eは、1又は2、fは0〜3の整数、gは0〜3の整数であって、e+f+g=4である)で表される化合物も用いることができる。一般式(5)で表される化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン等を挙げることができる。これらのケイ素化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0096】特に、上記一般式(5)で表される化合物を配合する場合には、形成される中間層の応力を緩和してクラックの発生を防止し、中間層の膜厚を厚くすることが可能となる。
【0097】ケイ素化合物の配合量は、中間層形成用組成物に配合するジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物とケイ素化合物についての金属酸化物に換算した合計量を100重量%として、ケイ素化合物の金属酸化物換算量を70重量%以下とすることが好ましく、50重量%以下とすることがより好ましい。ケイ素化合物量がこの範囲を超えて多くなると、ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物による効果が十分に発揮されず、耐アルカリ性、耐温水性等が十分に改善されないので好ましくない。
【0098】尚、添加するケイ素化合物の内で、一般式(5)で表される化合物の量は、金属酸化物に換算した量として50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。一般式(5)の化合物の量がこれを上回ると、十分な結合強度を有する中間層を形成できないので好ましくない。
【0099】中間層形成用組成物中に配合する金属化合物の濃度は、ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物の合計量に、必要に応じて配合するケイ素化合物の量を加え、これらの合計量を金属酸化物に換算した量として0.01〜20重量%程度、好ましくは0.1〜10重量%程度、より好ましくは0.5〜2重量%程度とすればよい。
(e)中間層の形成方法上記中間層形成用組成物を用いて中間層を形成するには、前述した方法で形成した硬化又は半硬化状態のプライマー皮膜上に、該中間層形成用組成物を塗布した後、室温放置又は熱処理を行えばよい。具体的な硬化温度は、中間層形成用組成物の具体的な組成に応じて適宜決めれば良く、通常、20〜200℃程度、好ましくは20〜150℃程度とすればよい。硬化時間については、中間層形成用組成物の組成や硬化温度によって異なるので一概にはいえず、使用条件に応じて、中間層が硬化又は半硬化(JIS−K5400半硬化を示す。)状態となるまで放置すればよい。
【0100】塗布方法は、常法に従えば良く、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フロー、ロール、カーテン、ナイフコート、スピンコート等の通常の塗布方法を採用できる。
【0101】形成される中間層の厚さは、特に限定的ではないが、0.001〜1μm程度とすれば良く、0.03〜0.5μm程度とすることが好ましく、0.05〜0.2μm程度とすることがより好ましい。特に、上記した一般式(5)の化合物を配合する場合には、中間層の膜厚を比較的厚くした場合にも、割れの発生を抑制することができる。
【0102】尚、上記した各層の膜厚は、0.1μmより厚い場合にはSEMの破断面観察により測定した値であり、これより薄い場合には、組成物の濃度と膜厚との関係を求め、使用する組成物の濃度の基づいて、外装点により求めた値である。この様な非常に膜厚の薄い中間層は、均一な皮膜とはならず、島状に酸化物が分散した構造となる場合もある。
基材本発明の光触媒層形成方法は、適用できる基材の材質については特に限定はなく、各種の材質の基材に対して適用することができる。例えば、金属基材、ガラス、セメント等の無機質基材、有機質基材、これらの基材の表面に有機物皮膜を形成した有機塗装基材等に対して、本発明方法によって耐アルカリ性、耐水性等の良好な光触媒層を形成することができる。特に、本発明方法は、有機質基材や有機物皮膜を形成した基材上に、光触媒層を形成する場合に、光触媒層と基材との密着性を大きく向上させることができる点で特に有用性が高い方法である。
【0103】これらの基材の内で、金属基材の例としては、アルミニウム、ジュラルミン等アルミニウム合金、銅、亜鉛、鉄、圧延鋼・溶融亜鉛めっき鋼・(圧延)ステンレス鋼等の鋼、ブリキ、その他の金属全般(合金を含む)等を挙げることができる。
【0104】ガラス基材の例としては、ナトリウムソーダガラス、パイレックスガラス、石英ガラス、無アルカリガラス等を挙げることができる。また、軟鋼板、鋼板、鋳鉄、アルミニウム等の金属表面にガラス質のホーローぐすりを焼き付けて被覆したホーローや、ケイ酸ソーダをスレートなどのセメント基材に塗布し、焼き付けた水ガラス化粧板等を用いることもできる。
【0105】無機質基材の例としては、繊維強化セメント板、窯業系サイディング、木毛セメント板、パルプセメント板、スレート・木毛セメント積層板、石膏ボード製品、粘土瓦、厚形スレート、陶磁器質タイル、建築用コンクリートブロック、テラゾ、ALCパネル、空洞プレストレストコンクリートパネル、普通煉瓦等を挙げることができる。
【0106】セラミックス基材の例としては、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等を挙げることができる。
【0107】有機質基材の例としては、プラスチック、木、木材、紙等を挙げることができる。これらの内で、プラスチック基材の例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性もしくは熱可塑性プラスチック、これらのプラスチックをガラス繊維、ナイロン繊維、カーボン繊維等の繊維で強化した繊維強化プラスチック(FRP)等を挙げることができる。
【0108】また、上記各種基材上に形成する有機物皮膜としては、たとえば、フッ素系、アクリル系、アルキド系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、アクリルシリコン系、塩化ゴム系、フェノール系、メラミン系等の有機樹脂を含むコーティング材の硬化皮膜等を用いることができる。
【0109】基材の形態については、特に限定はなく、例えば、フィルム状、シート状、板状、繊維状等の各種形態の基材を用いることができる。また、これらの形状の材料の成形体、または、これらの形状の材料もしくはその成形体の少なくとも1つを一部に備えた構成体等を基材とすることもできる。
【0110】基材は、上述した各種材料単独からなるものでもよいし、上述した各種材料のうちの2種以上を組み合わせてなる複合材料や、上述した各種材料の2種以上を積層した積層材料でもよい。
【0111】
【発明の効果】本発明の光触媒層の形成方法によれば、各種の基材に対して良好な密着性を有する光触媒層を形成することができる。本発明方法によって形成される光触媒層は、特に、耐アルカリ性、耐水性等に優れたものであり、各種の使用環境下において良好な密着性を長期間維持することができる。
【0112】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下において、単に「部」とあるのは、「重量部」を意味する。
製造例1以下の方法でプライマー組成物に配合する(A−1)、(B−1)、(C−1)及び(C−2)の各成分を調製した。
アクリル樹脂(A−1)攪拌機、加温ジャケット、コンデンサー、滴下ロート、窒素ガス導入・排出口及び温度計を取り付けたフラスコ中で、単量体成分として、n−ブチルメタクリレート(BMA)3.20部(22.5mmol)、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(SMA)1.24部(5mmol)及びグリシジルメタクリレート(GMA)3.20部(22.5mmol)と、連鎖移動剤としてγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.784部(4mmol)を、トルエン8.46部に溶解させてなる反応液に、アゾビスイソブチロニトリル0.025部(0.15mmol)をトルエン3部に溶解させた溶液を窒素気流下で滴下し、70℃で2時間反応させた。これにより、重量平均分子量1000の重合物が得られた。このアクリル樹脂溶液を(A−1)成分とする。
【0113】(A−1)成分は、単量体モル比率 BMA/SMA/GMA=4.5/1.0/4.5で、重量平均分子量1000のアクリル樹脂を含む固形分含有量40%の溶液であった。
(B−1)成分撹拌機を取り付けたビーカー中に、メチルトリメトキシシラン100部、テトラエトキシシラン20部、IPA−ST(イソプロパノール分散コロイダルシリカゾル:粒子径10〜20nm、固形分30%、水分0.5%、日産化学工業社製)105部、ジメチルジメトキシシラン30部、イソプロパノール100部を投入した後、この溶液の固形分に対して100ppmの塩酸と、メチルトリメトキシシランとテトラエトキシシランの合計量に対して3重量%の水を滴下し、攪拌しながら25℃で30分間加水分解を行って、(B−1)成分を得た。
(C−1)成分ジルコニウムテトラn−ブトキシド(85%―nブタノール溶液:和光純薬工業社製)を濃度10重量%となるように酢酸エチル(和光純薬工業社製 特級試薬)に溶解し、ジルコニウムテトラn−ブトキシドに対してモル比で2倍となるようにアセチルアセトン(和光純薬工業社製)を添加した。これを(C−1)成分とする。
(C−2)成分チタニウムテトライソプロポキシド((和光純薬工業社製)を濃度10重量%となるように酢酸エチル(和光純薬工業社製 特級試薬)に溶解し、チタニウムテトライソプロポキシドに対してモル比で4倍となるようにアセチルアセトン(和光純薬工業社製)を添加した。これを(C−2)成分とする。
製造例2製造例1で得たアクリル樹脂(A−1)29重量部(固形分量)中に(B−1)成分70重量部(固形分量)を添加し、酢酸エチル:n−ブタノール(重量比)=1:1の混合溶媒(いずれも和光純薬工業製試薬)で固形分濃度10重量%となるように調整した後、室温で120分間撹拌した。その後、(C−1)成分1重量部(固形分量)を添加し、25℃で6時間撹拌した。次いで、これに、酢酸エチル:n−ブタノール:エタノール(重量比)=1:1:1の混合溶媒(いずれも和光純薬工業製試薬)を加えて、固形分濃度5重量%に調整して、プライマー組成物を得た。これをプライマー組成物1(P−1)とする。
製造例3製造例2で用いた(C−1)成分に代えて、(C−2)成分1重量部(固形分量)を用いる以外は、製造例2と同様にして、プライマー組成物を調製した。これをプライマー組成物2(P−2)とする。
製造例4製造例2において、(C−1)成分を用いることなく、その他は製造例2と同様にして、プライマー組成物を調製した。これをプライマー組成物3(P−3)とする。
製造例5水中に四塩化チタン(純度99.9%)を滴下して、四塩化チタン濃度が0.25モル/リットル(酸化チタン換算2重量%)となるように溶液を調製した。この時、水溶液の液温が50℃以上に上昇しないように冷却装置で氷冷した。次に、この水溶液1リットルを還流冷却器付きの反応層に入れ、沸点付近(104℃)まで加熱し、60分間保持して加水分解し、水分散酸化チタンゾルを調製した。デカンテーションによって濃縮した後、旭化成工業(株)製電気透析装置G3を用いて酸化チタン濃度25重量%、pH5.5の水分散酸化チタンゾルを得た。この一部を採取して酸化チタンの粒径を電気泳動光散乱光度計で調べたところ、平均粒子経は0.05μm、比表面積は122m2/gであった。
【0114】次いで、この水分散酸化チタンゾルに塩酸を加え、酸化チタン濃度20重量%、pH4とした。次に、このゾル20gに酢酸ジルコニウム水溶液(ZrO2として22重量%含有)6gと純水28gを加え、光触媒層形成用組成物を調製した。この組成物におけるZrO2/TiO2(重量比)は33%であった。この組成物を光触媒層形成用組成物1(D−1)とする。
製造例6ジルコニウムsec−ブトキシドのsec−ブタノール溶液(濃度85%、和光純薬工業(株)製、試薬)と、エタノール:酢酸エチル:イソプロピルアルコール(重量比)=1:1:1の混合溶媒とを均一に混合して、ジルコニウムsec−ブトキシドの酸化ジルコニウム換算濃度が3.5重量%の溶液を調製した。
【0115】次いで、この溶液に、ジルコニウムsec−ブトキシドと等モル量の水を添加し、室温で24時間混合した。次いで、これに、光触媒性酸化物粒子であるTiO2(平均粒径約21nm、BET比表面積50±15m2/g、日本アエロジル製)を、TiO2:ZrO2(重量比)=3:7となるように添加し、ジルコニアボールを用いてボールミルにより24時間混合して、固形分の酸化物換算濃度が5重量%の光触媒層形成用組成物を得た。これを光触媒層形成用組成物2(D−2)とする。
製造例7ジルコニウムsec−ブトキシドのsec−ブタノール溶液(濃度85%、和光純薬工業(株)製、試薬)と、エタノール:酢酸エチル:イソプロピルアルコール(重量比)=1:1:1の混合溶媒とを均一に混合して、ジルコニウムsec−ブトキシドの酸化ジルコニウム換算濃度が1重量%の溶液を調製した。これを中間層形成用組成物1(E−1)とする。
製造例8チタニウムテトライソプロポキシドと、エタノール:酢酸エチル:イソプロピルアルコール(重量比)=1:1:1の混合溶媒とを均一に混合して、チタニウムテトライソプロポキシドのTiO2換算濃度が1重量%の溶液を調製した。これを中間層形成用組成物2(E−2)とする。
製造例9製造例7で得た中間層形成用組成物1(E−1)と製造例8で得た中間層形成用組成物2(E−2)を1:1(酸化物換算重量比)の割合で混合して中間層形成用組成物を調製した。これを中間層形成用組成物3(E−3)とする。
製造例10塩化ジルコニウム(ZrCl4)を水に添加し、混合して溶解させることにより濃度3重量%の溶液を調製した。これをエチルアルコールで3倍に希釈して、中間層形成用組成物を調製した。これを中間層形成用組成物4(E−4)とする。
製造例11四塩化チタン(TiCl4)を少量ずつ水に添加し、混合して溶解させることにより濃度3重量%の溶液を調製した。これをエチルアルコールで3倍に希釈して、中間層形成用組成物を調製した。これを中間層形成用組成物5(E−5)とする。
実施例1〜14及び比較例1〜6基材として ソーダライム板(100mm×100mm×2mm)(実施例1〜14及び比較例1〜4)又はポリカーボネート板(100mm×100mm×2mm)(比較例5及び6)を用い、この基材上に、上記した製造例1〜11で製造した各組成物を下記表1に示す組み合わせとなるように用いて、下記の方法で光触媒層を形成した即ち、まず、プライマー皮膜を基材にスプレーコートし、室温下で溶媒を乾燥させた後、120℃で30分間乾燥硬化させて、厚さ約2μmの硬化皮膜を形成した。次いで、中間層形成用組成物中に基材を200mm/分の速度で浸漬してディップコーティングして30分間乾燥し、次いで、光触媒層形成用組成物中に基材を200mm/分の速度で浸漬してディップコーティングして30分間乾燥した。乾燥温度は、ソーダライム板の場合は140℃とし、ポリカーボネート板の場合は120℃とした。尚、実施例1、2、8、9と比較例1〜6については、中間層を形成することなく、プライマー層上に光触媒層を形成した。
【0116】
【表1】


【0117】上記した方法で形成した光触媒層について、下記の方法で密着性、鉛筆硬度、耐光性、耐煮沸水性、及び耐アルカリ性を評価した。結果を下記表2に示す。
1) 密着性: JIS K 5400の碁盤目テープ法試験により基材への密着性を評価した。切り傷の間隔は2mmとし、ます目の数を25コとした。評価点数は、JIS K5400の基準で求めた。評価基準は以下の通りである。
10点:切り傷1本ごとが、細くて両側が滑らかで、切り傷の交点と正方形の一目一目にはがれがない。
8点 :切り傷の交点にわずかなはがれがあって、正方形の一目一目にはがれがなく、欠損部の面積は全正方形面積の5%以内。
6点 :切り傷の両側と交点にはがれがあって、欠損部の面積は全正方形面積の5〜15%。
4点 :切り傷によるはがれの幅が広く、欠損部の面積は全正方形面積の15〜35%。
2点 :切り傷によるはがれの幅は4点よりも広く、欠損部の面積は全正方形面積の35〜65%。
0点 :はがれの面積は、全正方形面積の65%以上。
2) 鉛筆硬度: 塗膜の損傷度は、JIS K 5400に基づいた鉛筆硬度により評価した。
3) 耐候性: JIS K 5400に準じて、アークカーボン式サンシャインウェザーメーター暴露試験を行った。試験条件としては63℃、降雨時間12分、降雨周期60分とした。評価方法は、2000時間暴露した後、予め保管しておいた見本品と比較して、著しい変化がなく且つ上記1)の密着性試験により8点以上のものを合格として○印で表し、部分剥離があるものを△印、全面剥離が生じたものを×印で表す。
4)耐煮沸水性:JIS K 5400に従って実験を行ない、1時間煮沸した後と6時間煮沸した後、膜の状態を目視で観察した。膨れ、割れ、剥がれ、ピンホール、軟化が認められず、試験片の光沢の低下や変色が試験前の試験片と比較して少ないものを合格として○印で表し、部分剥離があるものを△印、全面剥離が生じたものを×印で表す。
5) 耐アルカリ性試験:5%水酸化ナトリウム液を含浸させた脱脂綿をサンプル上に設置し、時計ざらで蓋をして室温で3時間、6時間、12時間又は24時間放置した後、試料を十分に水洗し、室温で2時間乾燥させた。乾燥後の膜の状態を目視で観察し、膨れ、割れ、剥がれ、ピンホール、軟化が認められず、試験片の光沢の低下や変色が試験前の試験片と比較して少ないものを合格として○印で表し、部分剥離があるものを△印、全面剥離が生じたものを×印で表す。
【0118】
【表2】


【0119】光触媒特性の測定実施例1〜14で作製した各試料について、下記の方法で光触媒分解特性と光触媒親水特性を測定した。
1.光触媒分解特性実施例1〜14で作製した各試料を50mm×50mmの平板状に切断し、その表面に、脱脂綿でオレイン酸(和光純薬工業 試薬)を塗布した。塗布量は、約0.1mg/cm2(約2.5mg/サンプル)とした。各試料について、精密天秤を用いて塗布したオレイン酸の重量を測定した後、ブラックライト蛍光灯(松下電器産業 (株)FL15BL−B)を用いて温度20〜25℃、湿度50〜70%の環境下で紫外線を照射した。紫外線照射計((株)トプコン)を用いてその強度を測定したところ1mW/cm2であった。
【0120】紫外線を24時間照射した後、精密天秤を用いて各試料を秤量し、分解されることなく残存しているオレイン酸量を求めた。
【0121】下記表3に、最初に塗布したオレイン酸を100重量%として、24時間後のオレイン酸の残存量を百分率で示す。
2.光触媒親水特性実施例1〜14で作製した各試料について、接触角計(協和界面科学(株)CA−X型)を用いて、試料表面における水の静止接触角を測定した後、上記した光触媒分解特性試験と同様の条件で紫外線を24時間照射し、その後、再度、各試料表面の水の静止接触角を測定した。
【0122】結果を下記表3に示す。
【0123】
【表3】


【0124】以上の結果から、実施例1〜14で作製した各試料は、光触媒特性を有効に発揮するものであることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(I)(a)アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂、(b)一般式(1):R1aSiClb(OH)c(OR2d(式中、R1はアミノ基及びカルボキシル基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、R2は、置換基としてアルコキシル基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aは、0〜3の整数、bは0〜2の整数、cは、0〜3の整数、dは0〜4の整数であって、a+b+c+d=4である)で表される化合物、及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物、並びに(c)ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の、有機溶媒に溶解又は均一に分散できる金属化合物を有機溶媒に溶解又は分散させてなる組成物を、基材上に塗布し、硬化又は半硬化状態としてプライマー皮膜を形成した後、(II)光触媒性酸化物粒子、ジルコニウム化合物及び溶媒を含有する組成物を、該プライマー皮膜上に塗布し、硬化させて光触媒層を形成することを特徴とする光触媒層の形成方法。
【請求項2】(I)(a)アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂、(b)一般式(1):R1aSiClb(OH)c(OR2d(式中、R1はアミノ基及びカルボキシル基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、R2は、置換基としてアルコキシル基を有することのある炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aは、0〜3の整数、bは0〜2の整数、cは、0〜3の整数、dは0〜4の整数であって、a+b+c+d=4である)で表される化合物、及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物、並びに(c)ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の、有機溶媒に溶解又は均一に分散できる金属化合物を有機溶媒に溶解又は分散させてなる組成物を、基材上に塗布し、硬化又は半硬化状態としてプライマー皮膜を形成し、(II)ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物を溶媒に溶解した組成物を、該プライマー皮膜上に塗布し、硬化又は半硬化状態として中間層を形成した後、(III)光触媒性酸化物粒子、ジルコニウム化合物及び溶媒を含有する組成物を、中間層上に塗布し、硬化させて光触媒層を形成することを特徴とする光触媒層の形成方法。
【請求項3】プライマー皮膜を形成するために用いる組成物において、(a)成分のアクリル樹脂と(b)成分のケイ素含有化合物を、(a)成分のアクリル樹脂の側鎖に存在するシリル基に(b)成分のケイ素含有化合物の全部又は一部が結合したアクリル樹脂として用いる請求項1又は2に記載の光触媒層の形成方法。
【請求項4】プライマー皮膜を形成するために用いる組成物において、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基を側鎖に有するアクリル樹脂が、一般式(2):CH2=CR3 (COOR4)(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R4は、置換基を有することのある炭素数1〜9の1価炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステル、一般式(3):CH2=CR3 (COOR5)(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R5は、エポキシ基及びグリシドキシ基から選ばれた少なくとも一種の置換基を有する炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステル、及び一般式(4):CH2=CR3 (COOR6)(式中、R3は、水素原子又はメチル基であり、R6は、アルコキシル基及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するシリル基により置換された炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とする共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項5】プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、一般式(2)の(メタ)アクリル酸エステル、一般式(3)の(メタ)アクリル酸エステル、及び一般式(4)の(メタ)アクリル酸エステルの共重合反応前又は共重合反応後に、一般式(1)の化合物及びその縮重合反応生成物から選ばれた少なくとも一種のケイ素含有化合物と、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及びアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の金属化合物を添加して得られたものである請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項6】プライマー皮膜を形成するために用いる組成物において、(c)成分の金属化合物が、ジルコニウムアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類の加水分解物、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド類、チタニウムアルコキシド類の加水分解物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムアルコキシド類、アルミニウムアルコキシド類の加水分解物、及びアルミニウムキレート化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項7】プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、更に、ケイ素原子を含有しないアクリル樹脂を含むものである請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項8】プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、更に、コロイダルシリカを含むものである請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項9】プライマー皮膜を形成するために用いる組成物が、更に、硬化触媒を含むものである請求項1〜8のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項10】光触媒層を形成するために用いる組成物中のジルコニウム化合物が、溶媒に溶解又は均一に分散できるジルコニウム化合物である請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項11】中間層の膜厚が0.001〜1μmである請求項2〜10のいずれかに記載の光触媒層の形成方法。
【請求項12】請求項1〜11のいずれかの方法で基材上に光触媒層を形成してなる光触媒層を有する物品。