説明

光電センサ

【課題】投光部側と同期することなく受光部の受光信号を復調する際に、消費電力を低減すると共に信号検出レベルを向上させる。
【解決手段】受光部20は基準電圧を発生する基準電圧発生回路27を有する。BPF回路24はこの基準電圧を、抽出する信号の中心値に設定し、受光信号からキャリア周波数付近の信号を抽出することによりノイズ成分を除去する。絶対値回路25はBPF回路24の出力信号をその基準電圧で全波整流し、投光部10からの信号成分を検波する。LPF回路26は絶対値回路25の出力信号から高周波成分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、受光量の変化に基づいて検出対象物を検出する光電センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電センサにおいて、外乱光(例えば、高周波点灯されるインバータ方式の蛍光灯)に起因したノイズ成分を抑制するために、投光部側で投光素子を駆動するパルス信号を外乱光の周波数よりも十分高い周波数で変調する方法が用いられていた。そして、受光部側では、投光部からの照射光を受光し、受光した信号をバンドパスフィルタ(以下、BPF)処理してノイズ成分を抑制していた。BPFの出力信号は、整流回路およびローパスフィルタ(以下、LPF)を用いて復調されることになるが、従来はこの整流回路において投光部側のクロック信号に同期する必要があった。しかしながら、透過型光電センサは投光部と受光部が別体で構成されており、投光部のクロック信号を受光部へ供給できなかった。
【0003】
そこで、投光部と受光部を有線接続して、投光部からクロック信号を供給する方法があるが(例えば、特許文献1参照)、光電センサを設置する上で配線工数作業を伴うため好ましくない。他方、一般的な無線通信では送信データからクロック信号を再生する方法があるが、透過型光電センサにおいては検出対象物によって通信路が遮断される場合があるため、クロック信号を再生することは非常に困難である。
【0004】
一方、受光部がクロック信号による投光部との同期を行わず、BPFの出力を直接、比較器を用いて評価する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2では受光部において、比較器によりBPFの出力信号レベルを予め決められた制限レベルに制限したパルス信号にし、パルス幅比較器がこのパルス信号のうち、予め決められた制限幅より小さい幅を持つパルスを抑圧する。これにより、投光部から到来し得ない、非常に幅の狭い干渉パルスが除去される。対照的に、非常に幅の広いパルスは、有効なパルスと干渉パルスの重畳が生じているかもしれないため、制限幅に狭められる。そして、評価ユニットにおいて、各パルスの幅を広げて積分し、閾値と比較することにより信号成分を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−40720号公報
【特許文献2】特許第4243824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の場合、受光部の整流回路において投光部側のクロック信号に同期する必要があるという課題があった。
【0007】
これに対し、上記特許文献2の場合は同期不要であるが、高周波変調された信号を復調せずにパルス幅の計数を行うので、比較器、パルス幅比較器および評価ユニットを高速に動作させる必要があり、消費電流が大きくなるという課題があった。また、評価ユニットにおいて復調せずにパルス幅を引き延ばすことで、ノイズ等による誤検出の可能性も生じる。
また、比較器において半波成分のみを検出すると、全波整流を行った場合と比べて信号検出レベルが低下する可能性がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、投光部側と同期することなく受光部の受光信号を復調する際に、消費電力を低減すると共に信号検出レベルを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の請求項1に係る光電センサは、受光部が、受光した光を電圧に変換した受光信号について、キャリア周波数を中心周波数にした信号を抽出するバンドパスフィルタ回路と、バンドパスフィルタ回路が抽出した信号の振幅が略中心となる値を基準値に用いて、当該基準値以下の信号を反転させて全波整流する整流回路と、整流回路が全波整流した信号について、所定カットオフ周波数以下の信号を抽出する第1のローパスフィルタ回路とを有するものである。
【0010】
この発明の請求項2に係る光電センサは、受光部が、受光した光を電圧に変換した受光信号について、キャリア周波数を中心周波数にした信号を抽出するバンドパスフィルタ回路と、バンドパスフィルタ回路が抽出した信号の振幅が略中心となる値を基準値に用いて、当該基準値以上の信号に半波整流する整流回路と、整流回路が半波整流した信号について、所定カットオフ周波数以下の信号を抽出する第1のローパスフィルタ回路とを有するものである。
【0011】
この発明の請求項3に係る光電センサは、受光部が、基準電圧を発生する基準電圧発生回路を有し、バンドパスフィルタ回路が抽出する信号の中心値は、基準電圧発生回路で発生した基準電圧によって決定し、整流回路は、基準電圧発生回路で発生した基準電圧を基準値に用いて整流するようにしたものである。
【0012】
この発明の請求項4に係る光電センサは、受光部が、バンドパスフィルタ回路が抽出した信号を平均化して平均電圧を求める第2のローパスフィルタ回路を有し、整流回路は、第2のローパスフィルタ回路が求めた平均電圧を基準値に用いて整流するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明の請求項1,2によれば、バンドパスフィルタ回路の出力の中心付近の値を基準値に用いて整流回路で整流するようにしたので、変調された受光信号を、投光部側と同期することなく復調することができる。また、復調する際にパルス幅を計数する等の高速動作が不要になるため、消費電力を低減できる。さらに、全波整流することにより、従来のように半波整流する場合に比べて信号検出レベルを向上させることができる。
【0014】
この発明の請求項3によれば、バンドパスフィルタ回路と整流回路が、基準電圧発生回路で発生する基準電圧を用いるようにしたので、整流回路においてバンドパスフィルタ回路の出力の中心値を基準値に用いた整流を実施でき、投光部側と同期させる必要がない。
【0015】
この発明の請求項4によれば、第2のローパスフィルタ回路がバンドパスフィルタ回路の出力の平均値を求めるようにしたので、整流回路においてバンドパスフィルタ回路の出力の平均値を基準値に用いた整流を実施でき、投光部側と同期させる必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1に係る光電センサの構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る光電センサの投光部の発するパルス光の一例を示す図である。
【図3】実施の形態1に係る光電センサの各処理段階の信号波形を示すグラフである。
【図4】実施の形態1に係る光電センサの各処理段階の信号波形を示すグラフであり、ノイズが重畳した場合である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る光電センサの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
図1に示す光電センサは、検出領域を間に挟んで向き合う状態に設置される投光部10と受光部20とを備えた透過型光電センサであり、受光部20は投光部10からの光の変化に基づいて検出領域に検出対象物体があるか否かを判定するものである。
【0018】
投光部10は、発光ダイオードなどの投光素子を有し、投光素子は一定の周期でパルス光を発する。近年、光電センサを利用する環境下ではインバータ式の蛍光灯を利用する場面が増えている。インバータ式の蛍光灯の変調周波数は〜100kHz程度であり、一般的に、投光信号の周波数と近い周波数で発光している。そこで、蛍光灯などの外乱光を除去するために、外乱光の周波数に比べて十分に高いキャリア周波数でパルス光を変調する。
図2は、高周波変調したパルス光の一例である。投光周期A(例えば100μs)の投光信号を、例えば100kHzの外乱光に対して十分に高いキャリア周波数1MHz(キャリア周期Bは1μs)で変調し、パルス列Cにする。なお、図示例では1回の投光を4つのパルスからなるパルス列Cに高周波変調しているが、この矩形波形に限定されるものではない。
【0019】
受光部20は、フォトダイオードなどの受光素子21と、IV変換回路22と、増幅回路23と、BPF回路24と、絶対値回路(整流回路)25と、LPF回路(第1のローパスフィルタ回路)26と、基準電圧発生回路27と、閾値設定回路28と、比較器29とを有する。
【0020】
次に、図3に示すグラフを参照しながら、受光部20の動作を説明する。
受光素子21は、投光部10から投光された光を受光して電流信号S1に変換する。この電流信号S1は、図3(a)に示すような矩形波であり、外乱光または検出対象物体が無ければ、図2に示す投光部10からのパルス信号と略同じ波形になるはずである。
IV変換回路22は、受光素子21が出力した電流信号S1を電流−電圧変換し、図3(b)に示すような電圧信号S2を出力する。増幅回路23は、IV変換回路22が出力した電圧信号S2の電圧増幅を行い、図3(c)に示すような受光信号S3を出力する。
【0021】
BPF回路24は、増幅回路23が増幅した受光信号S3を、キャリア周波数を通過域の中心周波数にしてフィルタ処理し、図3(d)に示すような電圧信号S4を出力する。この中心周波数は、基準電圧発生回路27から出力される基準電圧S7によって決定される。よって、BPF回路24によりキャリア周波数付近の周波数成分を抽出することになるので、キャリア周波数と異なる周波数をもつ外乱光に起因するノイズ成分を除去できる。
【0022】
絶対値回路25は、BPF回路24がフィルタ処理した電圧信号S4を、基準電圧発生回路27から出力される基準電圧S7と比較して正負を判定し、負の振幅を正側に折り返して全波整流し、図3(e)に示すような整流信号S5を出力する。このように、絶対値回路25は、投光部10側のクロック信号を同期信号として用いずに、投光部10からの信号成分を検波できる。また、BPF回路24と絶対値回路25で同一の基準電圧S7を用いるため、BPF回路24が出力する電圧信号S4の振幅の中心値を基準にして正負の判定を行い全波整流するようになるので、半波整流する場合とは違い基準値に満たない振幅のパルスも検出でき、信号検出レベルが低下することがない。
【0023】
LPF回路26は、絶対値回路25が全波整流した整流信号S5を、所定のカットオフ周波数でフィルタ処理して高周波成分を除去し、図3(f)に示すような復調信号S6を出力する。なお、カットオフ周波数は、予めLPF回路26に設定しておけばよく、例えば投光部10の投光周期Aに相当する周波数などとすればよい。
【0024】
閾値設定回路28は、基準電圧発生回路27が出力する基準電圧S7を予め設定された増幅率で増幅して閾値を生成し、比較器29へ出力する。なお、閾値設定回路28に与える増幅率をユーザが任意に変更できる構成にして、閾値を調整可能にしてもよい。
比較器29は、絶対値回路25およびLPF回路26にて復調した復調信号S6を、閾値設定回路28から出力される閾値と比較し、閾値以上の場合、投光部10からの信号成分と判定する。
【0025】
なお、比較器29の後段に検出部(不図示)を設け、この検出部が、比較器29により判定された投光部10からの信号成分を用いて、検出領域に検出対象物があるか否かを判定することになる。検出部の処理方法は公知の方法を用いればよいため、詳細な説明は省略する。
【0026】
ここで、投光部10からの信号成分に、外乱光に起因したノイズが重畳した場合を説明する。
図4(g)は外乱光(ノイズN)の波形であり、この外乱光が重畳した投光を受光素子21で受光すると図4(a)に示すような電流信号S1となる。なお、図示例では投光は最初の1回、即ち4つのパルスからなるパルス列のみである。
受光部20は、この電流信号S1を上述した手順で処理して受光信号S3を求め、続いてBPF回路24にてキャリア周波数に相当する基準電圧S7を中心周波数としたフィルタ処理を行うことによりノイズ成分を除去できる。続いて絶対値回路25にて電圧信号S4を全波整流し、LPF回路26にて高周波成分を除去することにより、図4(f)に示す復調信号S6のように、ノイズN成分が除去された、投光部10からの信号成分を抽出できる。
【0027】
以上より、実施の形態1によれば、所定のキャリア周波数で変調されたパルス列Cを、一定の投光周期Aで検出領域に向けて投光する投光部10と、検出領域からの光を受光する受光素子21と、受光素子21が出力する電流信号S1を電圧信号S2に変換するIV変換回路22と、電圧信号S2を受光信号S3に増幅する増幅回路23と、受光信号S3について、キャリア周波数を中心周波数として、基準電圧発生回路27が発生する基準電圧S7を中心値とした電圧信号S4を抽出するBPF回路24と、基準電圧発生回路27で発生した基準電圧S7であってBPF回路24が抽出した電圧信号S4の振幅の中心となる電圧を基準値に用いて当該基準値以下の信号を反転させて全波整流する絶対値回路25と、絶対値回路25の整流信号S5について所定カットオフ周波数以下の復調信号S6を抽出するLPF回路26とを備えるように構成した。このため、絶対値回路25が、BPF回路24の電圧信号S4の振幅の中心値に相当する基準電圧S7を用いて全波整流することにより、受光部20が投光部10側と同期することなく変調された受光信号を復調することができる。また、絶対値回路25およびLPF回路26において復調する際に、上述した特許文献1のようにパルス幅を計数する等の高速動作を不要としたので、消費電力を低減でき、ひいては光電センサの小型化が可能となる。さらに、絶対値回路25において全波整流することにより、従来のように半波整流する場合に比べて信号検出レベルを向上させることができる。
【0028】
実施の形態2.
図5は、本実施の形態2に係る光電センサの構成を示すブロック図である。なお、図5において図1と同一または相当の部分については同一の符号を付し説明を省略する。
本実施の形態2では、受光部20aが新たにLPF回路(第2のローパスフィルタ部)30を備え、このLPF回路30が、BPF回路24の出力する電圧信号(図3(d)および図4(d)の電圧信号S4)を平均化して、絶対値回路25の正負判定用の基準値を求める。そして、絶対値回路25は、基準電圧発生回路27が発生する基準電圧に代えてLPF回路30が求めた平均電圧値を用い、BPF回路24の出力する信号のうち平均電圧値以下の信号成分を反転させて全波整流する。
【0029】
LPF回路30が求める平均電圧値は、基準電圧発生回路27が発生する基準電圧と同じように、BPF回路24の出力する電圧信号の振幅の中心付近の値であるので、絶対値回路25において上記実施の形態1と同様に、変調された受光信号を投光部10側と同期することなく全波整流することができる。また、全波整流することにより、半波整流する場合に比べて信号検出レベルを向上させることができる。
また、上記実施の形態1と同様に、復調する際にパルス幅を計数する等の高速動作を不要としたので、消費電力を低減でき、ひいては光電センサの小型化が可能となる。
【0030】
なお、本発明に係る光電センサは、投光部から受光部へ同期信号を供給する必要がないため、投光部と受光部が別体で構成される透過型光電センサに用いて好適であるが、用途はこれに限定されるものではなく、投光部と受光部が一体に構成される反射型光電センサなどに用いてもよい。また、光電センサに限らず、検出対象物体の検出有無に応じてオンとオフを切り替える光電スイッチに用いてもよいことは言うまでもない。
【0031】
また、上記実施の形態1,2では、絶対値回路25で全波整流を実施する構成にしたが、これに限定されるものではなく、半波整流を実施するように構成してもよい。
【0032】
また、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、上述した実施の形態の構成に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0033】
10 投光部
20,20a 受光部
21 受光素子
22 IV変換回路
23 増幅回路
24 BPF回路
25 絶対値回路(整流回路)
26,30 LPF回路
27 基準電圧発生回路
28 閾値設定回路
29 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のキャリア周波数で変調されたパルス列を、一定の周期で検出領域に向けて投光する投光部と、
前記検出領域からの光を受光して、当該受光量に基づいて前記検出領域の物体を検出する受光部とを備え、
前記受光部は、
前記受光した光を電圧に変換した受光信号について、前記キャリア周波数を中心周波数にした信号を抽出するバンドパスフィルタ回路と、
前記バンドパスフィルタ回路が抽出した信号の振幅が略中心となる値を基準値に用いて、当該基準値以下の信号を反転させて全波整流する整流回路と、
前記整流回路が全波整流した信号について、所定カットオフ周波数以下の信号を抽出する第1のローパスフィルタ回路とを有することを特徴とする光電センサ。
【請求項2】
所定のキャリア周波数で変調されたパルス列を、一定の周期で検出領域に向けて投光する投光部と、
前記検出領域からの光を受光して、当該受光量に基づいて前記検出領域の物体を検出する受光部とを備え、
前記受光部は、
前記受光した光を電圧に変換した受光信号について、前記キャリア周波数を中心周波数にした信号を抽出するバンドパスフィルタ回路と、
前記バンドパスフィルタ回路が抽出した信号の振幅が略中心となる値を基準値に用いて、当該基準値以上の信号に半波整流する整流回路と、
前記整流回路が半波整流した信号について、所定カットオフ周波数以下の信号を抽出する第1のローパスフィルタ回路とを有することを特徴とする光電センサ。
【請求項3】
受光部は、基準電圧を発生する基準電圧発生回路を有し、
バンドパスフィルタ回路が抽出する信号の中心値は、前記基準電圧発生回路で発生した基準電圧によって決定し、
整流回路は、前記基準電圧発生回路で発生した基準電圧を基準値に用いて整流することを特徴とする請求項1または請求項2記載の光電センサ。
【請求項4】
受光部は、バンドパスフィルタ回路が抽出した信号を平均化して平均電圧を求める第2のローパスフィルタ回路を有し、
整流回路は、前記第2のローパスフィルタ回路が求めた平均電圧を基準値に用いて整流することを特徴とする請求項1または請求項2記載の光電センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−83602(P2013−83602A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224900(P2011−224900)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)