説明

光音響イメージング装置およびその制御方法

【課題】光音響トモグラフィー装置において、従来の照射体系に比べて被検体の広い領域で高いコントラストの画像を得るための技術を提供する。
【解決手段】被検体に複数の方向から光を照射可能な光源と、光を照射された被検体から発生する音響波を検出する検出部と、検出した音響波から被検体情報を算出する算出部と、被検体情報から画像データを生成する生成部を有し、算出部は、複数の方向のそれぞれから異なるタイミングで光を照射した時の音響波に基づいて、それぞれの方向での照射に対応する複数の被検体情報を算出し、生成部は、被検体内の領域ごとに、複数の被検体情報に基づいて複数の被検体の画像データが生成された場合にコントラストが高くなる画像データを所定の基準に従って選択し、各領域において選択された画像データを組み合わせた画像データを生成する光音響イメージング装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響効果を用いるイメージング装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エックス線や超音波を用いたイメージング装置は医療分野を中心に非破壊検査を必要とする多くの分野で使われている。医療分野においては、生体の生理的情報、つまり機能情報がガン等の疾患部位の発見に有効なことから、機能情報のイメージングの研究が行われてきた。ただし、エックス線診断や超音波診断では生体内の形態情報しか得られない。そこで、機能情報をイメージングすることができ、さらに非侵襲である診断方法として、光イメージング技術の一つであるPhotoacoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー
)が提案されている。
【0003】
光音響トモグラフィーとは、光源から発生したパルス光を被検体に照射し、被検体内で伝播・拡散した光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波を音響検出器で受信し、画像化する技術である。光音響トモグラフィーにおいては、受信された音響波の時間による変化を、被検体を取り囲む複数の個所で検出する。そして、検出された信号を数学的に解析処理、すなわち再構成することで、被検体内部の光学特性値に関連した被検体情報を三次元で可視化する。
【0004】
光音響トモグラフィーの技術により、被検体内の初期圧力発生分布から生体の光吸収係数分布などの光学特性値分布を得ることができ、被検体内部情報を得ることができる。また、近赤外光は生体の大部分を構成する水を透過しやすく、血液中のヘモグロビンで吸収されやすい性質を持つため、血管像をイメージングすることも可能である。
しかし、光を吸収するヘモグロビンを含む血液は生体中において表面付近から深部まで広い範囲に存在している。生体深部では届く光が減衰して弱くなり、その結果発生する信号(音響波の強度)が弱くなるため、画像のコントラストが低下し、血管像をイメージングすることが困難になる。
【0005】
非特許文献1においては、音響検出器とパルス光の入射方向が被検体を挟んで対向する位置にある。一方、特許文献1においては、音響検出器とパルス光の入射方向が被検体の同じ側に位置している。そこで、非特許文献1と特許文献1の技術を組み合わせて、被検体の両面からパルス光を照射することによって、被検体内部に多くの光量を入射させ、深部のコントラストを向上させることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0184042号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Manohar et al, Proc. of SPIE vol. 6437 643702-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、被検体の両側から光を入射させ、片側の光入射面に音響検出器を設置することによって、次に説明する透過型に比べて、光照射面近くのコントラストは向上する。しかしながら、ある深さより深い領域では、逆にコントラストが悪くなってしまうという問題がある。
【0009】
このメカニズムの説明のために、図1のように、照射体系を定義する。図1(a)のように、被検体に両側から光を照射し、片側の光入射面に設置された音響検出器で信号を得る照射体系を両面型とする。図1(b)のように、被検体に片側から光を照射し、光入射面と反対の面に設置された音響検出器で信号を得る照射体系を透過型とする。図1(c)のように、被検体に片側から光を照射し、光入射面と同じ面に設置された音響検出器で信号を得る照射体系を反射型とする。
【0010】
パルス光が被検体に入射するとき、被検体内部に存在する光吸収体から発生する音響波は、パルス光の照射時刻に発生し、被検体中を伝播してくるため、光吸収体から発生する音響波に対応する信号(吸収体信号)は、光照射時刻より遅れて得られる。一方で、被検体の界面においても音響波が発生するが、音響反射や音響検出器の帯域などに起因して、界面で発生した音響波に対応する信号(界面信号)が時間的に後ろまでリンギングし、ノイズとなる。また、被検体と音響検出器の間に被検体保持板など何らかの層が存在する場合、界面で発生した音響波がこの層の中で多重反射し、さらに多くのノイズが発生する。
【0011】
各照射体系におけるノイズ発生の影響について検討する。透過型では吸収体信号の後に界面信号が取得されるため、その後のノイズと吸収体信号は重ならない。反射型では最初に界面信号が得られ、その後のノイズと吸収体信号が重なるため、コントラストが悪くなる。また、両面型では反射型と同様に、最初に界面信号が得られ、その後のノイズと吸収体信号が重なるため、コントラストが悪くなる。このとき、ある深さより深い場所では、光量が多いことによるコントラスト向上よりも、界面信号に起因するノイズが重なることによるコントラスト低下の寄与が大きくなる。その結果、片側からの光照射である透過型よりもコントラストが低下してしまう。
【0012】
界面信号に起因するノイズの問題は、被検体の音響検出器側界面における音響検出器の感度がある範囲、つまり視野角の範囲に光が照射された場合に発生する。このような照射を明視野照射と呼ぶ。明視野照射では、界面の音響信号が音響検出器に直接検出されるために、ノイズが問題となる。これ以後、両面型と反射型の照射体系では明視野照射が行われるものとして説明を行う。
【0013】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光音響イメージング装置において、従来の照射体系に比べて被検体の広い領域で高いコントラストの画像データを得るための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、被検体に対して複数の方向から光を照射可能な光源と、光を照射された被検体から発生する音響波を検出する検出部と、前記検出部が検出した音響波に基づいて被検体情報を算出する算出部と、前記被検体情報に基づいて被検体の画像データを生成する生成部と、を有し、前記算出部は、前記複数の方向のそれぞれから異なるタイミングで被検体に光を照射した時に発生した音響波に基づいて、それぞれの方向での照射に対応する複数の被検体情報を算出し、前記生成部は、被検体内の領域ごとに、前記複数の被検体情報に基づいて複数の被検体の画像データが生成された場合にコントラストが高くなる画像データを、所定の基準に従って選択し、各領域において選択された画像データを組み合わせた画像データを生成することを特徴とする光音響イメージング装置である。
【0015】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、被検体に対して複数の方向から光を照射可能な光源と、光を照射された被検体から発生する音響波を検出する検出部と、前記検出部が検出した音響波に基づいて被検体の被検体情報を算出する算出部と、前記被検体
情報に基づいて被検体の画像データを生成する生成部とを有する光音響イメージング装置の制御方法であって、前記光源が、前記複数の方向のそれぞれから異なるタイミングで被検体に光を照射するステップと、前記算出部が、前記照射により発生した音響波に基づいて、それぞれの方向での照射に対応する複数の被検体情報を算出するステップと、前記生成部が、被検体内の領域ごとに、前記複数の被検体情報に基づいて複数の被検体の画像データが生成された場合にコントラストが高くなる画像データを、所定の基準に従って選択し、各領域において選択された画像データを合成した画像データを生成するステップと、を有することを特徴とする光音響イメージング装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光音響イメージング装置において、従来の照射体系に比べて被検体の広い領域で高いコントラストの画像データを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】照射体系を説明する図。
【図2】実施形態1に係る装置の構成を示す模式図。
【図3】実施形態1に係る装置のデータ処理の流れを示す模式図。
【図4】実施形態1に係る装置の動作を示すフロー図。
【図5】実施形態4に係る装置の構成を示す模式図。
【図6】実施形態4に係る装置のデータ処理の流れを示す模式図。
【図7】実施形態4に係る装置の動作を示すフロー図。
【図8】各照射体系の音響検出器からの距離とコントラストの関係を表す図。
【図9】各照射体系により得られた光吸収係数分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、光音響トモグラフィーの技術を用いて音響波に基づく画像データを生成し、当該画像データに基づく画像を表示する光音響イメージング装置を対象としている。しかし本発明の適用対象は、必ずしも画像の表示装置を有する必要はなく、画像データを蓄積したり、表示装置に表示させたりする光音響イメージング装置であっても良い。
【0019】
また、本発明において、音響波とは、音波、超音波、光音響波と呼ばれる弾性波を含む。さらに、本発明において、「被検体情報」とは、光照射によって生じた音響波の発生源分布や、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、光吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布を示す。物質の濃度分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布、グルコース濃度分布などである。
【0020】
[実施形態1]
以下に、図2を用いて、本発明の基本的な実施形態である、実施形態1に係るイメージング装置を説明する。
【0021】
本実施形態におけるイメージング装置は、パルス光を被検体2に照射する光源1と、光源1から照射されたパルス光の光路を切り替える光路切り替え機3と、パルス光を導くミラーやレンズなどの光学部品4を備える。イメージング装置はまた、光吸収体5が光のエネルギーを吸収して発生する音響波6を検出し電気信号に変換するアレイ型音響検出器7と、前記電気信号に対して増幅やデジタル変換などを行う電気信号処理回路8を備える。イメージング装置はまた、被検体内部情報に関する画像を構築するデータ処理装置9と、画像を表示する表示装置10を備える。
【0022】
なお、アレイ型音響検出器7とは、音響波を検出する素子が面内方向に複数並べてある音響検出器であり、一度に複数位置の信号を得ることができる。また、光源1としては例えばレーザー光源を利用できる。光源1は複数の方向から同じタイミングで、または異なるタイミングで被検体に光を照射可能であれば良い。本実施形態のように、1つの光源からの光を切り替えや分岐して用いる他に、複数の光源を用意して、それぞれから照射を行っても良い。アレイ型音響検出器7は、本発明の検出部に相当する。
【0023】
次に図2、図3および図4を参照して、本実施形態の実施方法について述べる。図3はデータ処理装置9の内部構成と制御の流れを示した図であり、図4は本発明の実施方法を示したフロー図である。
【0024】
図3のデータ処理装置9内部において、光吸収係数算出部11は、電気信号処理回路8で作成されたデジタル信号から、被検体内部の被検体情報として光吸収係数分布を求める。メモリA12とメモリB13は記憶装置であり、それぞれ透過型の照射体系における吸収係数分布と、反射型の照射体系における吸収係数分布を記憶する。画像合成部14は、メモリAおよびメモリBに記憶された各吸収係数分布から合成画像データを生成する。
光吸収係数算出部11は、本発明の算出部に相当する。画像合成部14は、本発明の生成部に相当する。
【0025】
図4のフロー図において、まず、アレイ型音響検出器7と対向する面からパルス光を照射する透過型の照射体系になるように光路切り替え機3を設定する(ステップS41)。
次に、光源1から被検体にパルス光を照射する。光を吸収した被検体から発生した音響波を、アレイ型音響検出器7が、複数位置で取得し、夫々電気信号(音響信号)に変換する(S42)。
データ処理装置9の内部の光吸収係数算出部11が、音響信号に対して電気信号処理回路8が処理を行って得られた信号を用いて、透過型での光吸収係数分布を作成し、メモリA12に蓄える(S43)。
【0026】
次に、アレイ型音響検出器7側と同じ側の面からパルス光を照射する反射型の照射体系になるように光路切り替え機3を設定する(S44)。
その後、光源からパルス光を照射する。光を吸収した被検体から発生した音響波を、アレイ型音響検出器7が、複数位置で取得し、夫々電気信号(音響信号)に変換する(S45)。
データ処理装置9の内部の光吸収係数算出部11が、音響信号に対して電気信号処理回路8が処理を行った信号を用いて、反射型照射体系での光吸収係数分布を作成し、メモリB13に蓄える(S46)。
【0027】
次に、画像合成部14において、メモリA12とメモリB13に蓄えられている透過型での光吸収係数分布と、反射型での光吸収係数分布を、所定の基準に従い、後に詳述する方法によって組み合わせ、合成画像データを生成する(S47)。
最後に、得られた合成画像を表示装置10に表示する(S48)。
【0028】
画像合成部14の処理方法について述べる。本実施形態では、透過型での光吸収係数分布と反射型での光吸収係数分布から、それぞれコントラストの高い領域を切り出して、そのデータをつなぎ合わせる。コントラストを比較する各領域は任意の大きさ、形状とすることができ、最小単位は光吸収係数分布の最小構成単位である画素である。被検体の各領域において、合成に用いる照射体系を選択するための所定の基準としては、例えば透過型と反射型の組み合わせであれば、音響検出器からの距離に従って領域を切り分けるのがよい。
【0029】
このとき、それぞれの照射体系ごとのコントラストを、生体模擬材料を使った実験などにより、音響検出器からの距離の関数としてあらかじめ得ておくと良い。こうして得られた音響検出器からの距離とコントラストの関係に基づき、それぞれのコントラストの高い領域を切り出す領域として決定しておく。
【0030】
実際の生体は個人ごとに光吸収係数にもばらつきがあり、生体模擬材料と完全に一致するものではないので、ここで決定した切り出し領域は最適なものとは限らない。しかし、生体模擬材料の光学特性や音響特性を、おおむね生体に合わせて作成しておけば、決定した切り出し領域は有効であると言える。透過型での光吸収係数分布と反射型での光吸収係数分布から決められた切り出し領域のデータを切り出し、それらのデータをつなぎ合わせて、一つのデータとする。上記のように、本実施形態の処理により、コントラストの高い領域がつなぎ合わされて、高コントラストな画像を得ることが可能になる。
【0031】
また、本実施形態においては、取得する被検体情報として光吸収係数分布を例にあげて説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明においては、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、光吸収係数分布、酸素飽和度分布などの濃度分布等の被検体情報を算出してもよい。そして各照射方向での被検体情報を比較し、それぞれデータを切り出して組み合わせることで、各分布でコントラストの高い画像データを生成することができる。以下の実施形態においても同様に、光吸収係数分布を例として説明するが、これに限定されず、被検体内の初期音圧分布、初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、光吸収係数分布、酸素飽和度分布などの濃度分布等の被検体情報に適用できる。
【0032】
[実施形態2]
上記の実施形態1では、透過型の照射体系と、反射型の照射体系とを組み合わせた場合について説明した。実施形態2では、実施形態1で説明したもの以外の照射体系の組み合わせについて述べる。
【0033】
音響検出器側とは異なる側の面からパルス光を照射する照射体系と、反射型を含む照射体系の組み合わせであれば、本発明は有効である。例えば、音響検出器が被検体に接している面と垂直の方向からパルス光を入射する照射体系と、反射型の照射体系の組み合わせである。別の例として、透過型の照射体系と、両面型の照射体系の組み合わせである。そこで、実施形態1の光路を、これらの照射体系に組み替えて実施することができる。そして、双方の照射体系で得られた光吸収係数分布から、コントラストの高い領域をつなぎ合わせることにより、実施形態1と同様に高コントラストな画像を得ることができる。
【0034】
さらに、照射体系の組み合わせは2種類だけに限られず、3種以上であってもよい。例えば、音響検出器が被検体に接している面と垂直の方向からパルス光を入射する照射体系、透過型の照射体系、反射型の照射体系の3つの組み合わせである。それぞれの照射体系で別々に光吸収係数分布を作成し、あらかじめ測定したコントラスト等に基づいて、それぞれの光吸収係数分布から高いコントラストの領域を切り出して、つなぎ合わせることで、本発明を実施することができる。
この、3種以上の照射体系を組み合わせる方法では、2種類のときに比べて広い範囲でコントラストの高い画像が得られる。
【0035】
[実施形態3]
画像合成部14で行われる処理方法は、実施形態1で述べられた方法だけに限定されない。ここで述べる実施形態3は、画像合成部14の処理方法以外は、実施形態1で述べたものと同様である。以下、本実施形態において、画像データの合成に用いる照射体系を選択するための所定の基準について述べる。本実施形態では、被検体の各領域で一つだけの
照射体系を選択するとは限らず、複数の照射体系で得られた画像データを選択し、重み係数を用いて合成を行うことができる。
【0036】
本実施形態では、あらかじめ生体模擬材料を使った実験などを行い、透過型と反射型の照射体系ごとに、コントラストを、音響検出器からの距離の関数として得ておく。次に、音響検出器からの距離ごとに、得られたコントラストに応じて各光吸収係数分布に重み係数を乗じる。最後に、重みをつけた光吸収係数分布同士を足し合わせる。この処理は、足し合わせだけに限定されず、掛け合わせであってもよい。
この方法は、実施形態1において、つなぎ合わせ部分で不自然な段差が発生する場合、これを避けることができる。
なお、本発明において画像データを組み合わせるとは、実施形態1に示したように、画像データをつなぎ合わせる形態や、実施形態3に示したように画像データ同士を足し合わせたり掛け合わせたりして合成する形態を含む。
【0037】
[実施形態4]
実施形態4では、本発明を、音響検出器を移動させる広範囲のイメージングに適用する場合について説明する。
【0038】
図5、図6および図7を参照して、本実施形態の実施方法について述べる。図5は本実施形態に係る装置の全体構成のブロック図であり、図6はデータ処理装置9の内部構成と制御の流れを示した図であり、図7は本発明の実施方法を示したフロー図である。
【0039】
本実施形態では、図5にあるように、実施形態1の構成に、アレイ型音響検出器7の位置を動かす制御装置15が加えられている。なお、制御装置15によって複数位置の信号を取得することができるので、アレイ型音響検出器7は単素子の音響検出器に代えてもよい。制御装置15は、本発明の制御部に相当する。
図6のデータ処理装置内部においては、図3に示した実施形態1の構成に、メモリC16とメモリD17が追加されている。
【0040】
本実施形態の実施方法について説明する。図7のフローにおいて、まず、アレイ型音響検出器7と対向する面からパルス光を照射する透過型の照射体系になるように光路切り替え機3を設定する(S71)。
次に、光源1から被検体にパルス光を照射する。光を吸収した被検体から発生した音響波を、アレイ型音響検出器7が取得し音響信号に変換する。得られた音響信号をデータ処理装置9の内部のメモリC16に蓄える(S72)。
【0041】
次に、アレイ型音響検出器7と同じ面からパルス光を照射する反射型の照射体系になるように光路切り替え機3を設定する(S73)。
次に、光源から被検体にパルス光を照射する。光を吸収した被検体から発生した音響波を、アレイ型音響検出器7が取得し音響信号に変換する。得られた音響信号をデータ処理装置9の内部のメモリD17に蓄える(S74)。
制御装置15を用いてアレイ型音響検出器7を移動させ、複数の位置においてS71〜S74の処理を行う。制御装置15は、被検体の全体、または所定の領域の測定が終了するまでアレイ型音響検出器の移動制御を繰り返す(S75)。
【0042】
データ処理装置9の内部の光吸収係数算出部11は、透過型、反射型の照射体系ごとにメモリC16、メモリD17に蓄えられた信号から、それぞれ光吸収係数分布を算出する。算出された光吸収係数分布は、照射体系ごとに、メモリA12、B13に蓄える(S76,S77)。メモリA12には、透過型での照射により得られた音響波に由来する光吸収係数分布が記憶される。メモリB13には、反射型での照射により得られた音響波に由
来する光吸収係数分布が記憶される。
次に、得られた各光吸収係数分布を画像合成部14にて合成する(S78)。この手法については、実施形態1や実施形態3の方法を用いることができる。
最後に、得られたデータを表示装置10に表示させる(S79)。
【0043】
本実施形態の方法によれば、移動制御を行うことにより、被検体の広い範囲をイメージングすることができ、透過型と反射型の測定間タイムラグが短いので、体動など生体が動いた場合に懸念される、つなぎ合わせ部分の段差を軽減することができる。
【0044】
[実施形態5]
本実施形態では、照射体系ごとのコントラストを、測定された光吸収係数分布から得る場合について説明する。
コントラストは光吸収体の像とバックグラウンド部分の音響波の信号強度の比であることから、それぞれを測定時に求めることでコントラストを得ることができる。ここで述べる実施形態は、画像合成部14の処理方法以外は、実施形態1で述べたものと同様である。
【0045】
画像合成部14において、透過および反射のそれぞれの照射体系で得られた光吸収係数分布から、被検体内の各位置において、バックグラウンド部分の強度を算出する。
一方で、同じ光吸収係数の光吸収体が異なる位置にある場合、それぞれから得られる音響信号の強度は、光の強さに比例する。そして、それぞれの光吸収体に到達する光の強度は、生体内を通過した距離に応じた減衰の度合いにより定まる。よって、生体の平均光吸収係数を用いて、生体内の各位置における光の減衰の度合いを計算し、これをそれぞれの位置の光吸収体の像の強度とする。この光吸収体の像の強度と上記のバックグラウンド部分の信号強度から、それぞれの照射体系ごとにコントラストを算出し、それに基づいて光吸収係数分布を合成する。
【0046】
<実施例>
以下、本発明の実施形態1に従って測定を実施したときの結果について、具体的に記載する。また、比較対象として、透過型、反射型、両面型の各照射体系で測定を実施したときの結果も記載する。
【0047】
被検体は厚さ50mmで、探触子からの距離が10, 15, 20, 25mmとなる位置に光吸収体が設置されている模擬生体であり、光学特性、音響特性を生体の代表値と合わせてある。被検体は空気中に置かれ、Nd:YAGレーザーを用いて波長1064 nmのナノ秒オーダーのパルス光
を透過型、反射型、両面型の各照射体系で照射できるように、光学部品を調整した。また、1MHz±40%の周波数帯域を持つ2Dアレイ音響検出器を被検体に接着させた。アレイの素
子は、2mm幅、2mmピッチで、縦23×横15個並んだものである。
【0048】
透過型、反射型、両面型の各照射体系において、光源から被検体にパルス光を30回照射した。被検体から発生した音響波を2Dアレイ音響検出器で取得した。得られた電気信号は増幅されたのち、アナログデジタル変換されてデジタル信号が得られた。このとき用いられたアナログデジタルコンバータは、サンプリング周波数20MHz、分解能12bitであった。得られたそれぞれの素子のデジタル信号を平均化し、さらにその平均化信号に微分および低周波通過フィルタ処理を施した。そして、処理を施したデジタル信号に対して、それぞれのボクセルまでの伝播時間を調整し足し合わせる逆投影を行い、光の分布で除算することによって光吸収係数分布を得た。
【0049】
図8は、得られた光吸収係数分布から、各照射体系のコントラストを音響検出器からの距離の関数として算出した結果を示すグラフである。光吸収体の裏表を変えて2回の測定
が行われ、音響検出器からの距離10mm〜40mmの範囲でコントラストが算出された。
また、図9は各照射体系によって得られた光吸収係数分布のMaximum Intensity Projection(MIP)であり、音響検出器はZ=0 cmの位置に、Z軸に沿う方向に設置してある。図9(a)は両面型、図9(b)は透過型、図9(c)は反射型の照射体系に対応する。図9(d)は、本実施例により得られた結果である。図9(d)の4つの矢印は各光吸収体に対応している。なお、図9(a)〜(c)でも、図9(d)に示したのと同じ位置に光吸収体がある。
【0050】
本発明の比較例である透過型、反射型、両面型の各照射体系での結果について、図8、図9を参照しながら説明する。
透過型では、図8より、照射源近くの、音響検出器から遠い領域においてはコントラストが高くなっていることが分かる。一方、音響検出器から近い領域では光が少なくなるために、コントラストが低くなっている。このため、図9(b)に示すMIPでは、Z=1 cmに
ある光吸収体は不明瞭であった。
【0051】
反射型では、図8より、照射源近くの、音響検出器から近い領域においてはコントラストが高くなっていることが分かる。一方、音響検出器から遠い領域では光が少なくなるために、コントラストが低くなっている。さらに、界面から発生する信号のリンギングが光吸収体の信号と重なるために、多くの領域で透過型より低いコントラストになっている。このため、図9(c)に示すMIPでは、Z=1.5 cm以降にある光吸収体は不明瞭であった。
また、Z=1.0 cmの光吸収体も不明瞭に見えるが、これは色の表示範囲(図9(a)〜(d)それぞれの右側にある、細長いゲージで示される)が、Z=2.5cm以降にあるノイズによ
って引き上げられているためである。したがって、色の表示範囲を調整すれば、図8に示されるコントラストで光吸収体が表示される。
【0052】
両面型では、図8より、両側にある照射源近くの領域においてはコントラストが高くなっている。一方、中央付近の光が少なくなる領域ではコントラストが低くなっている。さらに、界面信号のリンギングが光吸収体の信号と重なるために、多くの領域で透過型より低いコントラストになっている。このため、図9(a)に示すMIPでは、Z=1.5〜3 cmの領域にある光吸収体は不明瞭であった。
【0053】
本発明を実施した例について述べる。図8から、音響検出器からの距離が10mmより近い領域は反射型のコントラストが高く、10mmより遠い領域は透過型の方が高くなっている。よって、反射型の0〜10mmの領域を切り出し、透過型の10〜50mmを切り出して、データを
つなぎ合わせた。これによって、0〜50mmの全範囲において、高いコントラストとなる画
像が得られ、図9(d)に示すMIPでは4つ全ての光吸収体を明瞭に視認することができた。
【符号の説明】
【0054】
1:光源,3:光路切り替え機,4:光学部品,7:音響検出器,8:電気信号処理回路,9:データ処理装置,11:光吸収係数算出部,14:画像合成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して複数の方向から光を照射可能な光源と、
光を照射された被検体から発生する音響波を検出する検出部と、
前記検出部が検出した音響波に基づいて被検体情報を算出する算出部と、
前記被検体情報に基づいて被検体の画像データを生成する生成部と、
を有し、
前記算出部は、前記複数の方向のそれぞれから異なるタイミングで被検体に光を照射した時に発生した音響波に基づいて、それぞれの方向での照射に対応する複数の被検体情報を算出し、
前記生成部は、被検体内の領域ごとに、前記複数の被検体情報に基づいて複数の被検体の画像データが生成された場合にコントラストが高くなる画像データを、所定の基準に従って選択し、各領域において選択された画像データを組み合わせた画像データを生成することを特徴とする光音響イメージング装置。
【請求項2】
前記複数の方向には、被検体に対して前記検出部と同じ側から、前記光源が光を照射する方向が含まれる
ことを特徴とする請求項1に記載の光音響イメージング装置。
【請求項3】
前記複数の方向には、被検体に対して前記検出部と対向する側から、前記光源が光を照射する方向が含まれる
ことを特徴とする請求項2に記載の光音響イメージング装置。
【請求項4】
前記所定の基準とは、被検体内の各領域の、前記検出部からの距離である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光音響イメージング装置。
【請求項5】
前記所定の基準とは、被検体内の各領域の、前記検出部からの距離であり、
前記生成部は、前記検出部からの距離が近い側の領域では、被検体に対して前記検出部と同じ側から前記光源が光を照射した際に発生した音響波に由来する画像データを選択し、前記検出部からの距離が遠い側の領域では、被検体に対して前記検出部と対向する側から前記光源が光を照射した際に発生した音響波に由来する画像データを選択する
ことを特徴とする請求項3に記載の光音響イメージング装置。
【請求項6】
前記生成部は、被検体内の領域ごとに画像データを選択する際に複数の画像データを選択することが可能であり、かつ、被検体内の各領域の前記検出部からの距離に応じて、選択した画像データに重み係数を乗じてから合成する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光音響イメージング装置。
【請求項7】
前記所定の基準とは、あらかじめ前記複数の方向から生体模擬材料に光を照射して得られた音響波に由来する複数の画像データから、被検体内の領域ごとに選択された、コントラストが高くなる画像データを得られる照射の方向である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光音響イメージング装置。
【請求項8】
前記生成部は、あらかじめ前記複数の方向から被検体に光を照射して得られた音響波に由来する複数の画像データから、被検体内の領域ごとに、被検体内の光吸収体とバックグラウンド部分の信号強度の比に基づくコントラストを求め、当該コントラストが高い画像データを選択する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光音響イメージング装置。
【請求項9】
前記検出部の被検体に対する位置を移動させる制御部をさらに有し、
前記検出部は、移動した各位置において被検体から発生する音響波を検出する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光音響イメージング装置。
【請求項10】
被検体に対して複数の方向から光を照射可能な光源と、光を照射された被検体から発生する音響波を検出する検出部と、前記検出部が検出した音響波に基づいて被検体の被検体情報を算出する算出部と、前記被検体情報に基づいて被検体の画像データを生成する生成部とを有する光音響イメージング装置の制御方法であって、
前記光源が、前記複数の方向のそれぞれから異なるタイミングで被検体に光を照射するステップと、
前記算出部が、前記照射により発生した音響波に基づいて、それぞれの方向での照射に対応する複数の被検体情報を算出するステップと、
前記生成部が、被検体内の領域ごとに、前記複数の被検体情報に基づいて複数の被検体の画像データが生成された場合にコントラストが高くなる画像データを、所定の基準に従って選択し、各領域において選択された画像データを合成した画像データを生成するステップと、
を有することを特徴とする光音響イメージング装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−61055(P2012−61055A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205926(P2010−205926)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】