説明

免疫学的測定方法及び試薬キット

【課題】検体として精製が不十分な血清を用いても、正確に生体試料中の測定対象成分を測定できる試薬キットを提供する
【解決手段】凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼを含む第一試薬と、生体試料中の測定対象成分に対する抗原又は抗体を感作させた担体粒子を含む第二試薬と、を備えた試薬キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の測定対象成分を免疫学的に測定する方法及び該方法に用いられる試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体内に病原体などの非自己物質が侵入しているかどうかを診断するための方法の一つに、免疫学的測定方法がある。該方法は、生体内に侵入した非自己物質又は該非自己物質に対して産生された抗体を抗原抗体反応に基づいて測定する方法である。該方法を用いて診断できる感染症の一例として、梅毒を挙げることができる。梅毒はトレポネマ・パリダム(Treponema pallidum)というバクテリアが生体内に侵入することによって起こる慢性感染性疾患である。梅毒の診断方法のひとつに、血清中の脂質抗原に対する抗体(抗リン脂質抗体)を測定する方法がある(脂質抗原試験;STS)。STSでは、該病原生物と交叉抗原性を有するカルジオライピンなどの脂質抗原に対する抗体を測定対象成分とする。
【0003】
STSにより抗リン脂質抗体を測定する際に用いられる試薬として、抗リン脂質抗体測定試薬が知られている(例えば、特許文献1)。脂質抗原を感作したラテックス粒子を含む該抗リン脂質抗体測定試薬を血清に添加することによって、ラテックス粒子表面に感作された脂質抗原と血清中の抗リン脂質抗体とが、抗原抗体反応を起こし、血清中の抗リン脂質抗体量に応じてラテックス粒子が凝集する。このラテックス粒子の凝集に基づいて抗リン脂質抗体量を測定する。
【0004】
特許文献1記載の抗リン脂質抗体測定試薬による測定の検体として用いられる血清は、例えば高速凝固タイププラスチック真空採血管(極東製薬工業製)などを用いて、血液から精製することができる。該採血管によると、血液中の血球などの成分を凝固させ、分離することによって血液から血清が精製される。
近年では検査の迅速化は重要な課題の一つであるが、上記採血管を用いて短時間で凝固反応を行った場合、十分に精製された血清を得られず、このような血清が検体として検査に用いられることがある。精製が不十分な血清は凝固因子を含み、凝固因子を含む血清を検体として用いると、正確に抗リン脂質抗体量を測定できないことがあった。
【特許文献1】特開2001−242171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、検体として精製が不十分で凝固因子を含む血清を用いても、正確に生体試料中の測定対象成分を測定できる免疫学的測定方法及び試薬キットを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
本発明は、第一の観点から、生体試料中の測定対象成分を抗原抗体反応に基づいて免疫学的に測定する方法において、前記生体試料に凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼを添加した後、前記測定対象成分に対する抗原又は抗体を感作した担体粒子を前記生体試料に添加して前記測定対象成分を測定することを特徴とする免疫学的測定方法を提供する。
【0007】
本発明の第一の観点による免疫学的測定方法によると、生体試料に凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼを添加することによって非特異反応を抑制することができるため、精製が不十分で凝固因子を含む血清を検体として用いても正確に生体試料中の測定対象成分を測定できる。
【0008】
本発明は、第二の観点から、凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼを含む第一試薬と、生体試料中の測定対象成分に対する抗原又は抗体を感作させた担体粒子を含む第二試薬と、を備えた試薬キットを提供する。
【0009】
本発明の第二の観点による試薬キットによると、第一試薬の凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼの作用によって、後の生体試料と第二試薬との混合の際に起こる非特異反応を抑制することができるため、精製が不十分で凝固因子を含む血清を検体として用いても正確に生体試料中の測定対象成分を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態の試薬キットは第一試薬及び第二試薬を具備する。以下に、第一試薬、第二試薬、及びこれらを用いた免疫学的測定方法について説明する。なお、本実施形態では検体として血漿、血清など生体から採取した試料を用いることができる。
【0011】
第一試薬には、凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼが含まれる。該プロテアーゼは、生体試料と後述する第二試薬との反応前に生体試料中の凝固因子を反応系から除外し、非特異反応を抑制する目的で第一試薬に添加される。この非特異反応は、血漿や精製が不十分な血清などの生体試料と第二試薬とを混合した時に起こり、血漿や精製が不十分な血清などに含まれる凝固因子が原因であると考えられる。非特異反応が起こると、生体試料中の抗リン脂質抗体量に関わらず後述の第二試薬中の担体粒子が凝集してしまい、正確な抗リン脂質抗体測定を行うことができなくなる。
凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼとしては、トロンビン、バトロキソビン、ヘモコアグラーゼなどが挙げられる。本実施形態ではこれらプロテアーゼから選択される一種又は二種以上のプロテアーゼを含む第一試薬を用いることができる。上記プロテアーゼの由来は凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するものであれば特に限定されない。例えばトロンビンとしてはヒト、ウシ、ウマ、ヤギ由来のものなどを使用することができ、バトロキソビンやヘモコアグラーゼとしてはBothrops属由来のものなどを使用することができる。また、これらプロテアーゼは遺伝子操作によって得られたものであってもよい。第一試薬に含有させるプロテアーゼの溶媒としては、精製水などを用いることができる。
【0012】
また、フォスファチジルコリンを感作した小径粒子(以下、フォスファチジルコリン感作小径粒子とする)を第一試薬に含有させてもよい。小径粒子は、例えばラテックス近赤外比濁法などの粒子凝集法で一般的に使用されるラテックス粒子を用いることができる。小径粒子の粒径は、凝集度の測定に影響を及ぼさなければ特に制限されない。後述の第二試薬に含まれる担体粒子よりも小さい粒径を有する小径粒子が凝集度の測定に影響を与えないため特に好ましい。
フォスファチジルコリンを感作した小径粒子を第一試薬に含有させることにより、フォスファチジルコリンと反応して測定を妨害する生体試料中の成分を、第二試薬添加前に反応系から除外することができ、フォスファチジルコリン由来の非特異反応を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、第一試薬に緩衝液を添加して、緩衝能を持たせてもよい。緩衝液は、検体と試薬との反応が最適な条件下で行われるようにpHを調整するものである。緩衝液は第一試薬のpHが6.5〜8.0となるようにその種類や量を選択することが好ましい。緩衝液の種類は特に限定されず、公知の緩衝液、例えばリン酸塩緩衝液、グッド緩衝液などを使用することができる。
【0014】
また、第一試薬に緩衝液を含有させるのではなく、第一試薬とは別に緩衝液を試薬キットに具備してもよい。この場合、フォスファチジルコリン感作小径粒子は、第一試薬及び/又は緩衝液に含有させることができる。
【0015】
第二試薬には、脂質抗原を感作した担体粒子が含まれる。担体粒子に感作する脂質抗原としては、例えばカルジオライピン、フォスファチジルコリン及びコレステロールが挙げられる。脂質抗原は、本発明の目的を達成するものであればその由来は特に限定されず、市販されているものを用いることができる。また、担体粒子として、ラテックス粒子を用いることが好ましい。凝集した粒子数を計数するためには、ラテックス粒子の粒径が均一であることが好ましく、この点では種々のモノマーを重合又は共重合させることによって得られる合成高分子が好適である。該モノマーとしては、重合性不飽和芳香族類(例えば、スチレン、クロルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンなど)、重合性不飽和カルボン酸類(例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル賛など)、重合性カルボン酸エステル類(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレングリコール−ジ−(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニルなど)、不飽和カルボン酸アミド類(例えば、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニル、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニルなど)、重合性不飽和ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、共役ジエン類などを例示することができ、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。また、本実施形態では担体粒子としてスチレンを重合させることによって得られるポリスチレンラテックス粒子が好適に用いられる。また担体粒子の粒径は0.05〜10μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。
【0016】
第二試薬の調製に際しては、先ずカルジオライピン、フォスファチジルコリン及びコレステロールを有機溶媒に溶解させて抗原液を作成する。使用する有機溶媒は、メタノール、エタノールなどが好適に使用される。使用する各脂質抗原の質量に関しては、フォスファチジルコリンとカルジオライピンとの質量比の値(フォスファチジルコリンの質量/カルジオライピンの質量)が2〜15、好ましくは2〜10、コレステロールとカルジオライピンとの質量比の値(コレステロールの質量/カルジオライピンの質量)が6以下、好ましくは2〜6である。また、担体粒子の質量と脂質抗原の総質量との比が1000:30〜1000:95となることが好ましい。
【0017】
抗原液をスターラーなどで攪拌しながら、担体粒子を添加して混合する。この抗原液と担体粒子との混合液を攪拌しながらさらに有機溶媒を添加する。有機溶媒としては、エタノールやメタノールなどを用いることができる。また、この有機溶媒には、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、臭素イオンや塩素イオンのようなカオトロピックイオンを含有させることもできる。カオトロピックイオンとしては、抗リン脂質抗体との反応性を向上させられるので、チオシアン酸イオンが特に好ましい。第二試薬中のカオトロピックイオンの濃度は、30〜500mMの範囲で使用でき、100〜300mMが好ましい。
【0018】
次に、脂質抗原を含む抗原液と担体粒子と有機溶媒とを混合して調製した抗原混合液を常温下(好ましくは20〜25度)に一定時間静置し,脂質抗原を担体粒子表面に感作する。
【0019】
なお、本実施形態では第二試薬に含まれる担体粒子に、脂質抗原としてカルジオライピン、フォスファチジルコリン、及びコレステロールを感作しているが、担体粒子にコレステロールを感作せず、カルジオライピン及びフォスファチジルコリンのみを感作してもよい。
【0020】
前述の抗原混合液を遠心分離して上清を除去した後、ポリビニルアルコール(以下、PVAとする)溶液などを添加してブロッキング処理を行うことが好ましい。この場合、PVA溶液を添加してから超音波処理などを行って担体粒子を分散させる。その後この抗原混合液を常温下(好ましくは20〜25度)で一定時間スターラーなどで攪拌することにより、ブロッキング処理を行う。
ブロッキング処理とは抗原を感作した担体粒子をPVAなどによって被覆する処理のことである。この処理を行うことにより、感作する抗原以外の物質が担体粒子に吸着するのを妨げることができる。
ブロッキング処理には平均重合度が100〜10000、好ましくは200〜3000、鹸化度は50mol%以上、好ましくは70mol%以上のPVAを使用することができる。
またPVAのPVA溶液中の濃度は、0.01〜20%、好ましくは0.05〜10%に調整される。
【0021】
ブロッキング処理終了後、抗原混合液を遠心分離して上清を除去し、さらに分散剤を含む分散溶液を添加することが好ましい。この場合、分散溶液を添加した後に超音波処理などを行って担体粒子を分散させ、本実施形態の試薬キットに具備される第二試薬を得ることができる。分散剤は第二試薬中での担体粒子の分散安定性を確保するために用いられ、このような性質を有するものであればその種類は特に限定されず、市販されているものを用いることができる。
【0022】
上記のようにして得られた第一試薬および第二試薬を生体試料に添加し、生体試料中の測定対象成分を測定する。
以下、その測定方法を説明する。
【0023】
先ず、生体試料と第一試薬とを混合させ、所定の時間経過した後に、さらに第二試薬を添加して反応させ、反応混合液を調製する。反応温度は、20〜50℃、反応時間は15秒〜20分である。所定時間反応させた後、反応混合液の凝集度を測定する。
【0024】
反応混合液の凝集を検出する手段としては、目視で判定する方法、反応混合液の吸光度の変化を測定する方法、カウンティングイムノアッセイ法(以下、CIA法とする)など、公知の測定法を用いることができる。
【0025】
ここで、CIA法による凝集度測定について説明する。
抗原又は抗体を感作した担体粒子と測定対象成分とを反応させると、測定対象成分の量に応じて担体粒子複数個が凝集する。凝集した担体粒子及び凝集しなかった担体粒子の一つ一つの大きさをフローサイトメータによって弁別し、これらをカウントする。凝集していない担体粒子のカウント数をM(Monomer)、2個以上の担体粒子が凝集したもののカウント数をP(Polymer)、MとPとの和をT(Total)とし、P/Tを凝集度として算出する。
【0026】
本実施形態では、凝集度の測定は次のようにして行うことができる。先ず、生体試料と第一試薬と第二試薬とを混合した反応混合液を希釈し、カウントに適切な担体粒子濃度に調整する。ついで、フローセルの中に形成されたシース液の層流中に、希釈された反応混合液を少しずつ押し出すと、担体粒子は一列になって、フローセルの中央を通過する。フローセルを通過する担体粒子に対し、フローセルに垂直な方向からレーザダイオードなどで光を照射する。光を照射された担体粒子から散乱した散乱光がフォトダイオードなどの受光素子によって受光される。
【0027】
散乱光が受光素子によって受光されると、散乱光の強度に応じた電気パルスが検出される。この電気パルスは光を照射された担体粒子が、凝集せず一個のとき、凝集して二個のとき,或いは凝集して三個のとき,など担体粒子の凝集状態に応じた大きさとなる。
【0028】
この電気パルスをその大きさで弁別してカウントし、P/Tを求め、これを凝集度とする。
上述のCIA法を用いた一連の操作は、分析装置によって自動的に行うことができる(例えば、免疫凝集測定装置PAMIAシリーズ(シスメックス製)を用いることができる)。
【0029】
(実施例)
1.反応緩衝液の調製
<フォスファチジルコリン感作小径粒子懸濁液の調製>
反応緩衝液の調製に先立ち、フォスファチジルコリン感作小径粒子懸濁液を調製した。小径粒子は粒径0.1μmのポリスチレンラテックス粒子を用いた。
フォスファチジルコリン100mg/mlのエタノール溶液を150μlとり、ボルテクスミキサで攪拌しながら小径ポリスチレンラテックス懸濁液(濃度10w/v%、粒径0.1μm;積水化学工業社製)1.5mlと混合した。
この混合液をボルテクスミキサで攪拌しながら、300mMチオシアン酸ナトリウム及び0.15w/v%塩化ナトリウムを含む水溶液3.35mlに添加した。引き続き、25℃の恒温水槽中で一時間静置した後、15000gで約1時間遠心分離を行い、上清を除去して小径ポリスチレンラテックス粒子の沈さを得た。ここに、0.067w/v%PVA(重合度500、鹸化度88.0±1.5mol%;クラレ製)、13w/v%硫酸アンモニウム、0.1w/v%3,3−ジメチルグルタル酸、0.08w/v%トリスヒドロキシメチルアミノメタン、及び0.07w/v%2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールを含むPVA溶液(pH8.0)を5ml添加し、超音波処理により小径ポリスチレンラテックス粒子を分散させ、25℃の恒温水槽中に約一時間静置し、これをフォスファチジルコリン感作小径粒子懸濁液とした。
【0030】
<反応緩衝液の調製>
本実施例では、トロンビン濃度の異なる6種類の反応緩衝液a〜fを調製した。
先ず、反応緩衝液aを調製した。精製水に0.16w/v%3,3−ジメチルグルタル酸、0.12w/v%トリスヒドロキシメチルアミノメタン、0.10w/v%2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、0.1w/v%アジ化ナトリウム、0.58w/v%塩化ナトリウム、1w/v%ウシ血清アルブミン、及び上述の2w/v%フォスファチジルコリン感作小径ポリスチレンラテックス粒子懸濁液を添加して反応緩衝液aを調製した。反応緩衝液aにはトロンビンは含まれていない。
次に、反応緩衝液b〜fを調製した。反応緩衝液b〜fは、反応緩衝液aの調製の際にウシ由来トロンビン(以下、単にトロンビンという)(伊藤ハム製)をさらに加えたものである。トロンビンの濃度はそれぞれ、反応緩衝液bが5U/ml、反応緩衝液cが10U/ml、反応緩衝液dが15U/ml、反応緩衝液eが20U/ml、反応緩衝液fが25U/mlである。
反応緩衝液a〜fのpHは8.0に調整された。
【0031】
2.ラテックス試薬の調製
本実施例では、担体粒子として粒径0.7μmのポリスチレンラテックス粒子を用いた。
カルジオライピン(ウシ心筋由来;シグマ社製)1.0mg/mlのエタノール溶液250μl、フォスファチジルコリン(鶏卵由来;シグマ社製)10mg/mlのエタノール溶液250μl、及びコレステロール(ブタ肝臓由来;シグマ社製)6mg/mlのエタノール溶液250μlを混合して抗原液とした。
該抗原液を攪拌しながら,ポリスチレンラテックス粒子を含む懸濁液(10w/v%、粒径0.7μm;積水化学工業製)500μlを添加して混合し、ボルテクスミキサで攪拌しながら、300mMチオシアン酸ナトリウム(ナカライテクス製)及び0.15w/v%塩化ナトリウムを含む水溶液8.75mlに添加した。引き続き、25℃の恒温水槽中で約一時間静置した後、12000g、4℃で約30分間遠心分離を行い、上清を除去して、抗原を感作されたポリスチレンラテックス粒子の沈さを得た。
【0032】
次に、ブロッキング処理を行った。得られたポリスチレンラテックス粒子の沈さに、0.067w/v%PVA(重合度500、鹸化度88.0±1.5mol%;クラレ製)、13w/v%硫酸アンモニウム、0.1w/v%3,3−ジメチルグルタル酸、0.08w/v%トリスヒドロキシメチルアミノメタン、及び0.07w/v%2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールを含むPVA溶液(pH8.0)10mlを添加し、超音波処理によりポリスチレンラテックス粒子をPVA溶液中に分散させ、25℃の恒温水槽中で約一時間静置した後、12000g、4℃で約30分間遠心分離を行い、上清を除去して、ブロッキングされたポリスチレンラテックス粒子の沈さを得た。ここに分散溶液(23w/v%グリセリン、0.61w/v%トリスヒドロキシメチルアミノメタン、0.53w/v%2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、0.05w/v%アジ化ナトリウム、及び0.01w/v%PVA)10mlを添加し、超音波処理によりポリスチレンラテックス粒子を分散溶液中に分散させ、これを本実施例で用いるラテックス試薬とした。
【0033】
3.抗リン脂質抗体の測定
上述の試薬を用いて検体中の抗リン脂質抗体を測定した結果を以下に示す。
本実施例では、トロンビンを含まない試薬を用いて検体中の抗リン脂質抗体を測定した場合(反応緩衝液a及びラテックス試薬を用いた場合)と、トロンビンを含む試薬を用いて検体中の抗リン脂質抗体を測定した場合(第一試薬b〜fの何れか及びラテックス試薬を用いた場合)との測定値を比較し、トロンビンを用いることによって抗リン脂質抗体測定の際にどのような効果が得られるかを確認した。
【0034】
検体として、コントロール試料C0〜C3とSTS陰性血漿試料1〜3とを用いた。
C0はランリームSTS(シスメックス製)に具備されている検体希釈液であり、抗リン脂質抗体は含まれていない。C1〜C3はそれぞれランリームSTSに具備されているSTSキャリブレータ1〜3であり、抗リン脂質抗体が所定の濃度で含まれている。C2の抗リン脂質抗体濃度はC1の抗リン脂質抗体濃度よりも高く、C3の抗リン脂質抗体濃度はC2の抗リン脂質抗体濃度よりも高い。検体の凝集度がC1の凝集度以上の場合はSTS陽性、C1の凝集度未満の場合はSTS陰性と判定される。つまり、C0はSTS陰性、C1はSTS陰性とSTS陽性との境界値となり、C2及びC3はSTS陽性となる。なお、C0〜C3のいずれの試料にも凝固因子は含まれていない。
本実施例では、トロンビンが非特異反応を抑制することを確認するために、精製が不十分な血清よりも多くの凝固因子を含有する血漿を検体として用いた。STS陰性血漿1〜3は抗リン脂質抗体を含まず、ヒト由来である。
【0035】
本実施例ではCIA法によって凝集度測定を行った。測定には免疫凝集測定装置PAMIA−50(シスメックス製)を用いた。
測定に際し、先ず検体10μlを反応緩衝液80μlと混合した。約80秒経過後、ラテックス試薬10μlを添加して反応混合液を作成し、凝集反応を開始させた。約30秒後、約19μlの反応混合液を960μlのシース液に加えて約51倍に希釈した。希釈された反応混合液を、PAMIA−50の光学検出部に導入し、凝集度P/T(%)を測定した。
【0036】
表1には、上述の試薬を用いて測定したC0〜C3及びSTS陰性血漿1〜3の凝集度(%)を、反応緩衝液a〜fのそれぞれについて示した。STS陰性血漿1〜3の凝集度の値の後に示される(+)はSTS陽性であることを示し、(−)はSTS陰性であることを示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示されるC0の測定結果より、反応緩衝液aを用いたときの凝集度と、反応緩衝液b〜fの何れかを用いたときの凝集度とが非常に近似していることが分かる。C1,C2,及びC3の測定結果にも同様のことが言える。これは、トロンビンを添加してもトロンビンが抗リン脂質抗体とポリスチレンラテックス粒子に感作した脂質抗原との抗原抗体反応を妨げることなく、正確な測定値が得られるということを示している。
【0039】
表1より、反応緩衝液aを用いた場合はSTS陰性血漿1〜3の凝集度が、コントロールC1の凝集度(5.43%)よりも高い値を示していることが分かる。これは、STS陰性血漿中の凝固因子により非特異反応が起こり、ポリスチレンラテックス粒子が凝集したため抗リン脂質抗体が存在しないにも関わらずSTS陽性を示したと考えられる。
【0040】
一方、反応緩衝液b〜fの何れかを用いた場合、全てのSTS陰性血漿1〜3の凝集度が、コントロールC1の凝集度よりも低い値となり、STS陰性を示した。この測定結果は、トロンビンを添加することにより、STS陰性血漿中の凝固因子が原因で起こると考えられる非特異反応を抑制することができ、検体中の抗リン脂質抗体を正確に測定できたことを示す。
【0041】
以上の結果より、本発明の実施形態による試薬を用いることによって、凝固因子を含む生体試料を検体として用いても正確に凝集度を測定することができた。精製が不十分な血清は血漿よりも凝固因子の含有量が少ないため、精製が不十分な血清を検体として用いても本発明の実施形態による試薬を用いれば正確に凝集度を測定することができると考えられる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の測定対象成分を抗原抗体反応に基づいて免疫学的に測定する方法において、前記生体試料に凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼを添加した後、前記測定対象成分に対する抗原又は抗体を感作した担体粒子を前記生体試料に添加して前記測定対象成分を測定することを特徴とする免疫学的測定方法。
【請求項2】
前記プロテアーゼがトロンビンである請求項1記載の免疫学的測定方法。
【請求項3】
抗原抗体反応によって凝集した担体粒子に光を照射することにより得られる光学的情報に基づいて前記測定対象成分を測定する請求項1又は2の何れかに記載の免疫学的測定方法。
【請求項4】
凝固促進作用及び/又は抗線溶作用を有するプロテアーゼを含む第一試薬と、生体試料中の測定対象成分に対する抗原又は抗体を感作した担体粒子を含む第二試薬と、を備えた試薬キット。
【請求項5】
前記プロテアーゼがトロンビンである請求項4記載の試薬キット。
【請求項6】
前記第一試薬が緩衝剤をさらに含む請求項4記載の試薬キット。
【請求項7】
前記第一試薬のpHが6.0〜8.5である請求項6記載の試薬キット。
【請求項8】
前記生体試料が血漿又は血清である請求項4記載の試薬キット。
【請求項9】
前記測定対象成分が抗リン脂質抗体を含む請求項4記載の試薬キット。
【請求項10】
前記担体粒子に脂質抗原を感作することを特徴とする請求項4記載の試薬キット。
【請求項11】
前記脂質抗原がカルジオライピン及びフォスファチジルコリンを含む請求項10記載の試薬キット。
【請求項12】
前記脂質抗原がさらにコレステロールを含む請求項11記載の試薬キット。
【請求項13】
前記フォスファチジルコリンと前記カルジオライピンとの質量比の値が2〜15である請求項11記載の試薬キット。
【請求項14】
前記コレステロールと前記カルジオライピンとの質量比の値が6以下である請求項12記載の試薬キット。
【請求項15】
前記担体粒子に感作した前記抗原又は抗体の総質量と前記担体粒子の質量との比が、1000:30〜1000:95である請求項4記載の試薬キット。
【請求項16】
前記第一試薬が、前記担体粒子よりも粒径の小さい小径粒子をさらに含み、前記小径粒子にフォスファチジルコリンが感作されている請求項4記載の試薬キット。



【公開番号】特開2006−153590(P2006−153590A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342883(P2004−342883)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)