説明

免疫応答誘導方法

本発明は、ワクチン抗原及びアジュバントの組み合わせに関する。
具体的には、ワクチン抗原及び粘膜アジュバントとしてのインターフェロンα類を、同時に又は時間差をおいて、同一の投与ルートから経粘膜投与することを特徴とするものである。
かかる経粘膜投与により、種々のワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体及び抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を効果的に誘導することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、種々のワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を効果的に誘導する方法、ワクチン組成物、粘膜アジュバント、ワクチン抗原と粘膜アジュバントとの組合せ物、並びにインターフェロンα類を有効成分とするワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための粘膜アジュバントに関する。
更に詳しくは、本発明は、ワクチン抗原と、該ワクチン抗原のアジュバントとを用いて、ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導する方法であって、
(1)ワクチン抗原を経粘膜投与すること、
(2)アジュバントの有効成分としてインターフェロンα類を使用すること、
(3)該アジュバントを、前記ワクチン抗原と、同時に、または時間差をおいて投与すること、並びに
(4)該アジュバントを、前記ワクチン抗原と、同一の投与ルートで経粘膜投与すること
からなる方法、ワクチン組成物、粘膜アジュバント、ワクチン抗原と粘膜アジュバントとの組合せ物、並びに粘膜アジュバントを用いた粘膜免疫応答賦活方法等に関する。
【背景技術】
ワクチンは、生きた感染性の病原体を用いる生ワクチンと、病原体やその毒素を不活性化した非感染性の不活性化ワクチンの2種に大別され、これまでそのほとんどが注射剤として用いられている。循環器官に送達させる注射剤形のワクチンは、全身性の免疫応答を誘導することがよく知られている。
なお、生ワクチンは自然免疫に最も近い免疫応答能を獲得することができるが、ワクチン株の病原性のコントロールが困難であり、生体内での変異による毒性復帰等の人体への安全性が懸念されている。不活性化ワクチンは、生ワクチンに比べ安全性は高いが、一般に免疫原性が低く、分泌抗体の誘導という点において効果が十分でなく、実用化が困難である。このため、ワクチン抗原に対する免疫誘導を促進する物質、すなわちアジュバント、例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムやリン酸カルシウムなどヒト用としてわずかに用いられている無機塩を有効成分とするアジュバント、IL−2,4,12やインターフェロンγなどのサイトカインなど各種免疫アジュバントの開発が試みられている([特許文献1][非特許文献1]、[非特許文献2]、[非特許文献3])。しかしながら、これらは注射剤とすることで全身性の免疫応答を誘導するものであり、粘膜面における誘導を達成するものではなかった。
多くの感染性病原体は、外界と直接接している器官の表面を覆う粘膜、例えば鼻腔粘膜、口腔粘膜、肺粘膜、消化管粘膜、膣粘膜などを通じて生体内に進入する。従って、粘膜における抗原特異的免疫応答により免疫力を賦活させる方がより効果的に感染性病原体の進入を防御できると考えられている。このような観点から、従来の注射剤ワクチンに代わる次世代ワクチンとして、上記の粘膜に経口、経鼻、経肺、経膣等の投与法で経粘膜投与する「粘膜ワクチン」の研究が盛んになってきている。最新のアプローチによれば、「粘膜ワクチン」は全身性免疫応答のみならず、粘膜免疫応答をも同時に誘導すること、粘膜免疫応答の誘導は粘膜におけるIgA抗体、例えば糞便中のIgA抗体を測定することにより評価することが可能であること、その作用メカニズムについてはまだ詳かではないが粘膜組織上で侵入した病原体に特異的なIgA産生前駆細胞は侵入箇所だけでなく血流等によって全身の他の粘膜部位にも播種され、侵入箇所の粘膜部位は勿論、侵入箇所以外の粘膜部位においてもIgA抗体を多重に分泌し、さらに血流に入りIgGを産生することも知られるようになった。
ワクチンの経粘膜投与においても、ワクチン自体の免疫原性は低く、経粘膜投与されるワクチンとともに投与されるアジュバント、すなわち「粘膜アジュバント」の利用が試みられている。
コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素、グラム陰性菌由来リポポリサッカライド等において粘膜アジュバントとしての可能性について検討されたが、経粘膜投与に拘わらず安全性面での懸念があり実用化には至っていない。
さらに、安全性の観点から、サイトカインなどでも検討されており、IL−12、インターフェロンβに粘膜アジュバント作用があることが報告されている([特許文献2]、[特許文献3])。
[特許文献2]には、IL−12を鼻腔内投与することにより粘膜免疫を増強する方法が開示されている。本文献にはIL−12の有効投与量が0.5μg/kg−150μg/kgと記載されている。一方、マウスで1μgのIL−12を6日間連続で経鼻投与した場合、50%のマウスの死亡が確認されている([非特許文献4])。また上述の好ましい投与量、マウスにおけるIL−12の経鼻投与時のバイオアベイラビリティが10%−20%(対注射投与時皮下注および腹腔内投与)であるとの報告([非特許文献5],[非特許文献6])、およびIL−12皮下投与のヒト臨床試験結果において、0.03μg/kg−0.5μg/kgの投与量で副作用が報告([非特許文献7])されている。以上のことから考察すれば、IL−12の粘膜アジュバントとして使用においては、未だ安全性面に課題が残されている。また、IL−12は抗癌剤等の目的で、これまでヒト臨床試験が行われてきているが、未だその毒性によりヒト実用化に至っていないサイトカインである。
一方[特許文献3]には、同時にあるいは別に投与した抗原に対し、鼻腔、口腔および咽頭粘膜経由投与によるインターフェロンβをアジュバントにするワクチンに関する発明が記載されている。具体的には、破傷風トキソイドを抗原とし、インターフェロンβをアジュバントとして、これらを同時に、経鼻投与した場合の血清中の抗破傷風トキソイド抗体価(IgG)がコントロール群に比較し、該アジュバントが高い抗体産生増強作用を有し、極微量で達成できたことが記載されている。
なおインターフェロンβを抗ウィルス剤、抗癌剤として投与した際、副作用のひとつである蛋白尿の発現がインターフェロンα投与時と比較して高頻度で発生することが報告されている([非特許文献8])。
このように、サイトカインが粘膜アジュバントとして検討される中、ヒト使用実績の豊富なサイトカインのひとつであるインターフェロンα類が粘膜アジュバント作用を有し、粘膜アジュバントとして使用できること、そのアジュバント作用が優れていること、インターフェロンα類を粘膜アジュバントとするときに、ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導しうることについては、これまで全く知られていない。
【特許文献1】特公平8−32633号公報
【特許文献2】WO99/44635号国際公開パンフレット
【特許文献3】特開2000−154148号公報
【非特許文献1】M.Takahashi et al,Drug Delivery System,Vol.14
【非特許文献2】R.K.Gupta et al,Vaccine,Vol.13
【非特許文献3】H.P.A.Hughes,Veterinary Immunology and Immunopathology,Vol.63
【非特許文献4】Victor C.H.et al,International Immunopharmacology,3(2003),801−809
【非特許文献5】Prosper N.B.et al,Advanced Drug Delivery Reviews,51(2001),71−79
【非特許文献6】Mariarosaria M.et al,The Journal of Immunology,162(1999),114−121
【非特許文献7】Vicente C.et al,Journal of Hepatology,32(2000),317−324
【非特許文献8】Kuramoto I.et al,肝臓,33(1992),517−523
【発明の開示】
本発明者らは、種々のワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を効果的に誘導する方法、その際に使用しうる粘膜アジュバントの選択に鋭意研究を重ねた結果、通常は抗ウィルス剤等として用いられているインターフェロンα類が粘膜アジュバント作用を有すること、そのアジュバントとしての作用にも優れていること、インターフェロンα類を粘膜アジュバントとするときに、ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導しうることを見いだした。さらに、インターフェロンα類を粘膜アジュバントとして用いるとき、ワクチン抗原の経粘膜投与ルートと同一の投与ルートで粘膜アジュバントを投与した際、種々のワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を効果的に誘導しうることを見いだし、本発明を完成させるに至ったものである。
すなわち、本発明は、
「ワクチン抗原と、該ワクチン抗原のアジュバントとを用いて、ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導する方法であって、
(1)ワクチン抗原を経粘膜投与すること、
(2)アジュバントの有効成分としてインターフェロンα類を使用すること、
(3)該アジュバントを、前記ワクチン抗原と、同時に、または時間差をおいて投与すること、並びに
(4)該アジュバントを、前記ワクチン抗原と、同一の投与ルートで経粘膜投与すること
からなる方法」に関する。
また、本発明は、「ワクチン抗原と粘膜アジュバントとしてのインターフェロンα類とを含み、これらのワクチン抗原と粘膜アジュバントとは、同時にまたは時間差をおいて、同一の投与ルートから経粘膜投与してワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するワクチン組成物」に関する。
さらに、本発明は、「ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための粘膜アジュバントであって、該粘膜アジュバントの有効物質としてインターフェロンα類を含み、かつ該粘膜アジュバントが前記ワクチン抗原と同時または時間差をおいて前記ワクチン抗原の投与ルートと同一の投与ルートで経粘膜投与されるものである粘膜アジュバント」に関する。
さらにまた、本発明は、「ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための、ワクチン抗原と粘膜アジュバントと組合せ物であって、粘膜アジュバントは有効物質としてインターフェロンα類を含み、かつ該粘膜アジュバントが前記ワクチン抗原と同時または時間差をおいて前記ワクチン抗原の投与ルートと同一の投与ルートで経粘膜投与されるものである組合せ物」に関する。
また別に、本発明は、「インターフェロンα類を有効成分とするワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための粘膜アジュバント」、あるいは「ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための粘膜アジュバントを製造するためのインターフェロンα類の使用」、あるいは「ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導して免疫力を高める必要のある対象者に、前記ワクチン抗原と同時または時間差をおいて、かつ前記ワクチン抗原と同一の投与ルートで、有効成分としてインターフェロンα類を含有する粘膜アジュバントを投与することからなる粘膜免疫応答賦活方法」に関するものでもある。
本発明でいう「インターフェロンα類」とは、白血球型インターフェロンともいい、マクロファージにより産生される各種天然型インターフェロンα、それらインターフェロンαの遺伝子を組み込んだ大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物由来細胞などの遺伝子組み替え体が産生したものを精製した遺伝子組換え型インターフェロンα、各種インターフェロンαのコンセンサス配列を有するようなコンセンサスインターフェロンα、例えばインターフェロンアルファコン−1、等の何れをも用いることができる。特に限定はされないが、中でも人体への安全性を考慮して、安全性の確保されている市販品のインターフェロンα類が好ましい。
本発明でいう「ワクチン抗原」とは、主に蛋白質もしくはペプチド性抗原を意味し、例えばインフルエンザヘマグルチニンAに代表されるような感染性微生物に対する防御抗原から製した蛋白質もしくはペプチドからなるワクチン抗原等を挙げることができる。すなわち、ワクチンの対象となり得る感染性微生物、ウィルス由来の蛋白質もしくはペプチド性成分であれば特に限定されるものではない。これらの中には感染性微生物が産生する毒素系蛋白質を不活性化したもの、例えば破傷風トキソイド、百日咳ワクチン、生ワクチン等を不活性化した不活性化ワクチン、具体的にはポリオ、風疹、麻疹、狂犬病、インフルエンザ、HIV、A型肝炎ワクチンなども含まれる。さらには、対象抗原を遺伝子組み替え等の技術により製したワクチン、例えばライム病ワクチン、B型肝炎ワクチン等をあげることができる。また、生ワクチン抗原を含むことも可能である。例えば、ポリオワクチン、ロタウィルスワクチン、コレラワクチン、破傷風ワクチン、ジフテリアワクチン、腸チフスワクチン、E.Coli.ワクチン、水痘ワクチン、インフルエンザワクチン、H.Pyloriワクチン、等を挙げることができる。これらワクチン抗原は、必要に応じて1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明でいう「ワクチン組成物」とは、ワクチン抗原を下記に例示する種々賦形剤を添加し、また種々製剤手法により調製した組成物を意味する。また本発明でいう「粘膜アジュバント」も同様に、有効成分としてインターフェロンα類を含み、種々賦形剤を添加し、また種々製剤手法により調製した組成物も含むことができる。
また「ワクチン抗原と粘膜アジュバントとの組み合わせ物」とは、両者を含む組成物を含むことができるが、必ずしも組成物の形態である必要はない。ワクチン抗原と粘膜アジュバントとが別個のものとして存在する、例えば用時調製して用いるキット製剤等も含むことができる。
本発明でアジュバントとして用いられるインターフェロンα類の一回投与量は、一般に注射剤として用いられている最低投与量以下であれば特に限定されないが、0.5−500万IUの範囲で用いることが好ましい。0.5−50万IUの範囲で用いることがさらに好ましく、0.5−1万IUの範囲で用いることが特に好ましい。
本発明の粘膜免疫応答を誘導するための投与方法は、粘膜を経由する投与方法であれば特に限定されない。例えば経鼻投与、経口投与、経肺投与、経膣投与等に代表される経粘膜投与が挙げられ、粘膜における、または粘膜に存在するリンパ組織における吸収、作用を目的とする。「経鼻投与」とは、鼻孔への投与を意味し、製剤としては、例えば点鼻液、スプレー剤等をあげることができる。「経口投与」とは、一般的な経口、口腔内、咽頭への投与を意味し、製剤としては、例えば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、エリキシル剤、シロップ剤、トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、口腔内速崩壊錠等をあげることができる。「経肺投与」とは、気道呼吸器への投与を意味し、製剤としては、例えば吸入剤、スプレー剤等をあげることができる。「経膣投与」とは、膣への投与を意味し、製剤としては、例えば膣坐剤、膣錠、スプレー剤等をあげることができる。
また投与の際には、ワクチン抗原とインターフェロンα類は同じ粘膜に投与することが必要であるが、同じ粘膜であれば前投与、同時投与、または後投与の何れの投与でも可能である。「前投与」とは予めインターフェロンα類を投与した後、ワクチン抗原を投与することを意味する。「同時投与」とは、ワクチン抗原とインターフェロンα類を同時に前記粘膜へ投与することを意味し、少なくともワクチン抗原とインターフェロンα類とを含む組成物として投与しても良いし、別々の組成物として同時に投与しても良い。「後投与」とは、予めワクチン抗原を投与した後、インターフェロンα類を投与することを意味する。「時間差をおいて」とは、投与の際、上記「前投与」および「後投与」のいずれかを示し、その投与時間の差は、1分から12時間、好ましくは、5分から6時間、更に好ましくは5分から4時間であることを示す。
インターフェロンα類またはワクチン抗原に、適切な製薬学的に許容される医薬品添加剤を配合してそれぞれ別個の組成物とすることもできる。本発明でいう「組み合わせ物」とは上記インターフェロンα類を含む組成物とワクチン抗原、またはワクチン抗原を含む組成物との組み合わせを意味し、両者を一つの組成物とすることを意味しない。
また適切な製薬学的に許容される医薬品添加剤を配合して、少なくともインターフェロンα類およびワクチン抗原の両者を含む組成物とすることも可能である。
両者を含む組成物とする際のワクチン抗原およびインターフェロンα類の配合比率は、用いるワクチン抗原の活性等によるため一様に設定することは困難であり、限定的に解釈されるべきではないが、ワクチン抗原の割合を組成物全体の0.01−55%W/W、好ましくは0.05−50%W/W、さらに好ましくは0.1−45%W/W、インターフェロンα類の割合を組成物全体の0.01−5%W/W、好ましくは0.05−4%W/W、さらに好ましくは0.1−2.5%W/Wとすることができる。
本発明の「抗原特異的血中抗体」とは、特定の抗原に対してのみ産出される血中に誘導される免疫グロブリンを意味する。一般的にそのH鎖のアミノ酸配列の違いから5種類のクラス(IgM,IgG、IgA、IgD、IgE)が存在することが知られている。中でも、獲得免疫において主力を担うのがIgG抗体であり、血中で最も多い免疫グロブリンである。また「抗原特異的な粘膜面分泌抗体」とは、特定の抗原に対してのみ産出される粘膜面に分泌される免疫グロブリンを意味する。一般的に主に分泌型IgA抗体であることが知られている。IgA抗体は通常2量体を形成し、気道、腸管、唾液腺などの粘膜上皮細胞に存在する受容体を介して、粘膜表面に分泌され、広く粘膜面に分布する。したがって、本願発明の「抗原特異的血中抗体」および「抗原特異的な粘膜面分泌抗体」に関しては、それぞれ血中に存在するIgGおよび粘膜に存在するIgA(例えば糞便中IgA)を測定することとする。
また、製薬学的に許容される医薬品添加剤としては、例えば、塩類、界面活性剤、糖類、アミノ酸類、有機酸、その他水溶性物質等が挙げられ、これらの添加剤は1種または2種類以上を添加することができる。具体的な塩類としては、L−グルタミン酸カリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸カルシウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸マグネシウム、メタスルホ安息香酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化アルミニウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、糖類としては、D−ソルビトール、D−マンニトール、イノシトール、キシリトール、デキストラン、グルコース、マルトース、ラクトース、スクロース等が挙げられ、アミノ酸類としては、メチオニン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、グリシン、システイン、タウリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、グルタミン酸、リジン等が挙げられ、その他水溶性物質としては、アスコルビン酸、人血清アルブミン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ゼラチン、ゼラチン加水分解物、ヘパリンナトリウム等が挙げられる。また界面活性剤、有機酸類等を添加することもできる。具体的な界面活性剤としては、セスキオレイン酸ソルビタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート20、ポリソルベート80、マクロゴール400、マクロゴール4000、マクロゴール600等が挙げられ、有機酸類としては、オレイン酸、チオグリコール酸、乳酸等が挙げられる。また必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤、塩化ナトリウム等の浸透圧調整剤を添加してもよい。
また製薬学的に許容され得る上記以外の医薬品添加剤の添加も可能である。例えば、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、結晶セルロース等の賦形剤、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、ハイドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム等の結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム等の膨潤剤、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム等の滑沢剤、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル等の流動化剤、黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄等の着色剤、ゼイン、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、ハイドロキシプロピルセルロース等のコーティング剤、1−メントール、ハッカ油、ウイキョウ油等の芳香料、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラ安息香酸メチル、パラ安息香酸エチル等の保存剤、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸、ホウ酸またはその塩類等の緩衝剤等が、1種または2種以上適宜の量で選択される。
上記添加剤は例示のものに限定されるものではなく、その配合量は通常当業者が製薬的に使用し、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されるものではない。
また本発明の効果を妨げない範囲内において、他のアジュバント、例えば燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、燐酸カルシウム等を含めることも可能である。
組成物とする際には、従来より用いられているワクチンにインターフェロンαを添加し混合することにより容易に水溶液として調製することができる。また、ワクチン抗原液とインターフェロンα水溶液に、必要に応じて賦形剤や安定化剤等の添加剤を加えたものをスプレードライや凍結乾燥等の方法を用いて粉末化することも出来る。このようにして得られたワクチン抗原とインターフェロンαよりなる組成物はそのままの形で経粘膜投与に用いることが出来る。また必要に応じてDDS(Drug Delivery System)技術、例えばリポソーム、ナノスフェアーまたはマイクロスフェアー、生分解性キャリアー、粘膜付着性キャリアー等のキャリアーに、本発明のワクチン組成物を封入し、用いることも可能である。具体的には、PLGA等の生体内分解性高分子からなるマイクロスフェアーにワクチン抗原およびインターフェロンαを封入した組成物、ヒアルロン酸、キチン等からなる粘膜付着性マイクロスフェアーに、ワクチン抗原およびインターフェロンαを封入した組成物等である。また、粘膜リンパ組織への効率的かつ効果的な投与技術、例えば消化管粘膜リンパ組織に存在するM細胞、パイエル板への標的化技術、具体的には表面にM細胞特異的なレクチンや抗体分子を有するマイクロスフェアー等をキャリアーとしてワクチン抗原およびインターフェロンαを封入する技術を用いることも可能である。また、近年、報告されている不活性化サルモネラに代表されるような無毒化した菌やウィルス自体をキャリアーとして利用する技術を適用することも可能である。
また、本発明はヒトのみでなく、動物に対する粘膜免疫応答の誘導方法としても有用である。動物に使用する場合、該当する動物種のインターフェロンαを使用することが好ましいが、特に限定されるものではない。ヒトインターフェロンαが交差性、すなわちヒトインターフェロンαに対する反応性、を示す動物にあってはヒト型のインターフェロンαを用いても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例を挙げてさらに本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定的に解釈されるものではない。
【実施例1】
モデル抗原として文献で広く用いられているオブアルブミン(以下OVAと称す)を使用し、Yamamotoらの方法(S.Yamamoto et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.94,1997)に準じてマウス経鼻投与を行った。マウスは、C57BLマウス(雄、8週齢)を1群4匹あるいは5匹用いた。インターフェロンαはマウスインターフェロンαAを用意し、一回投与量1.5μg(6500U)/匹で抗原(OVAを100μg/匹)と同時に投与した。投与はすべて経鼻により行い、初回投与後、1週、2週の計3回の経鼻投与の後、初回投与日から数えて3週、4週および6週目に採血し、3000rpmで15分間遠心し上清を採取した。これら血清サンプル中のOVA特異的抗体価(血中IgG)についてELISA法により測定した(表1)。
比較例1
C57BLマウス(雄、8週齢)を1群5匹とし、OVAを一回投与量100μg/匹で投与した。投与はすべて経鼻により行い、初回投与後、1週、2週の計3回の経鼻投与の後、初回投与日から数えて3週、4週および6週目に採血し、3000rpmで15分間遠心し上清を採取した。これら血清サンプル中のOVA特異的抗体価(血中IgG)についてELISA法により測定した(表1)。


考察 表1に示されるように、すべての週においてインターフェロンα併用群は比較対照例1と比較して有意に高いOVA特異的血中IgG価を示した。本結果から、ワクチンをインターフェロンαと併用して経鼻投与することより全身性免疫応答を効果的に誘導できることが示された。
【実施例2】
実施例1と同様に、C57BLマウス(雄、8週齢)を1群4匹あるいは5匹とし、OVAを一回投与量100μg/匹で投与した。インターフェロンαは1.5μg/匹で抗原と同時に投与した。投与はすべて経鼻により行い、初回投与後、1週、2週の計3回の経鼻投与の後、初回投与日から数えて3週、4週および6週目の前日から約一日分の糞便を採取した。これら糞便サンプルを正確に250mg秤量し、トリス塩酸緩衝液(pH7.4)1mLを加え攪拌し、3000rpmで15分間遠心し上清を採取した。これら上清中のOVA特異的抗体価(糞便中IgA)についてELISA法により測定した(表2)。
比較例2
C57BLマウス(雄、8週齢)を1群5匹とし、OVAを一回投与量100μg/匹で投与した。投与はすべて経鼻により行い、初回投与後、1週、2週の計3回の経鼻投与の後、初回投与日から数えて3週、4週目の前日から約一日分の糞便を採取した。これら糞便サンプルを正確に250mg秤量し、トリス塩酸緩衝液(pH7.4)1mLを加え攪拌し、3000rpmで15分間遠心し上清を採取した。これら上清中のOVA特異的抗体価(糞便中IgA)についてELISA法により測定した(表2)。

考察
表2に示したように、実施例2は特に3週、4週において比較例3と比較して有意に高いOVA特異的糞便中IgA価を示し、経鼻投与によるインターフェロンα併用により、消化管粘膜上に免疫応答を誘導した。本結果から、経鼻投与によるインターフェロンα併用により全身性免疫応答のみならず粘膜免疫応答も誘導出来ることが示された。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、ワクチン抗原と、該ワクチン抗原のアジュバントとを用いて、ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方の誘導が達成され、従来よりも高い効果を有する粘膜ワクチンの製造が可能となり、感染症への予防に有効な技術を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチン抗原と粘膜アジュバントとしてのインターフェロンα類とを含み、これらのワクチン抗原と粘膜アジュバントとは、同時にまたは時間差をおいて、同一の投与ルートから経粘膜投与してワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するワクチン組成物。
【請求項2】
インターフェロンα類が、天然型インターフェロンα類および遺伝子組換え型インターフェロンα類から選択されたものである請求の範囲1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
インターフェロンα類の使用量が、0.5〜500万IUである請求の範囲1に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
ワクチン抗原が蛋白質またはペプチド性抗原である請求の範囲1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
ワクチン抗原とアジュバントとが同時に経粘膜投与される形態の請求の範囲1に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
ワクチン抗原とアジュバントとが同時に鼻粘膜投与される形態のものである請求の範囲5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための粘膜アジュバントであって、該粘膜アジュバントの有効物質としてインターフェロンα類を含み、かつ該粘膜アジュバントが前記ワクチン抗原と同時または時間差をおいて前記ワクチン抗原の投与ルートと同一の投与ルートで経粘膜投与されるものである粘膜アジュバント。
【請求項8】
インターフェロンα類が、天然型インターフェロンα類および遺伝子組換え型インターフェロンα類から選択されたものである請求の範囲7に記載の粘膜アジュバント。
【請求項9】
インターフェロンα類の使用量が、0.5〜500万IUである請求の範囲7に記載の粘膜アジュバント。
【請求項10】
ワクチン抗原として蛋白質またはペプチド性抗原を用いた場合に、ワクチン抗原と同時にまたは時間差をおいて、該ワクチン抗原と同一の投与ルートで経粘膜投与される請求の範囲7に記載の粘膜アジュバント。
【請求項11】
ワクチン抗原と同時に経粘膜投与されるものである請求の範囲10に記載の粘膜アジュバント。
【請求項12】
ワクチン抗原と同一の投与ルートで、鼻粘膜投与される形態の請求の範囲11に記載の粘膜アジュバント。
【請求項13】
ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための、ワクチン抗原と粘膜アジュバントとの組合せ物であって、粘膜アジュバントは有効物質としてインターフェロンα類を含み、かつ該粘膜アジュバントが前記ワクチン抗原と同時または時間差をおいて前記ワクチン抗原の投与ルートと同一の投与ルートで経粘膜投与されるものである組合せ物。
【請求項14】
インターフェロンα類が、天然型インターフェロンα類および遺伝子組換え型インターフェロンα類から選択されたものである請求の範囲12に記載の組合せ物。
【請求項15】
インターフェロンα類の使用量が、0.5〜500万IUである請求の範囲13に記載の組合せ物。
【請求項16】
ワクチン抗原が蛋白質またはペプチド性抗原である請求の範囲13に記載の組合せ物。
【請求項17】
ワクチン抗原と粘膜アジュバントとを同時に、経粘膜投与する請求の範囲13に記載の組合せ物。
【請求項18】
ワクチン抗原と粘膜アジュバントとを同一の投与ルートで、鼻粘膜投与するものである請求の範囲17に記載の組合せ物。
【請求項19】
インターフェロンα類を有効成分とするワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するため粘膜アジュバント。
【請求項20】
ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導するための粘膜アジュバントを製造するためのインターフェロンα類の使用。
【請求項21】
ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導して免疫力を高める必要のある対象者に、前記ワクチン抗原と同時または時間差をおいて、かつ前記ワクチン抗原と同一の投与ルートで、有効成分としてインターフェロンα類を含有する粘膜アジュバントを投与することからなる粘膜免疫応答賦活方法。
【請求項22】
ワクチン抗原と、該ワクチン抗原のアジュバントとを用いて、ワクチン抗原に対する抗原特異的血中抗体および抗原特異的粘膜面分泌抗体の双方を誘導する方法であって、
(1)ワクチン抗原を経粘膜投与すること、
(2)アジュバントの有効成分としてインターフェロンα類を使用すること、
(3)該アジュバントを、前記ワクチン抗原と、同時に、または時間差をおいて投与すること、並びに
(4)該アジュバントを、前記ワクチン抗原と、同一の投与ルートで経粘膜投与すること
からなる方法。
【請求項23】
インターフェロンα類が、天然型インターフェロンα類および遺伝子組換え型インターフェロンα類から選択されたものである請求の範囲22に記載の方法。
【請求項24】
インターフェロンα類の使用量が、0.5〜500万IUである請求の範囲23に記載の方法。
【請求項25】
ワクチン抗原が蛋白質またはペプチド性抗原である請求の範囲23に記載の方法。
【請求項26】
同時に経粘膜投与する請求の範囲23に記載の方法。
【請求項27】
鼻粘膜投与するものである請求の範囲26に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/028561
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539570(P2004−539570)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012420
【国際出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】