説明

免疫抑制−関連疾患の治療

割球様幹細胞を用いて、多数の免疫欠損症を治療するための方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願に対する相互参照
本出願は、2009年2月24日に出願された、米国特許出願第12/391,581号の優先権を主張する。該出願の内容は、全体として参照により本明細書に取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
免疫系は、病原体感染、細胞形質転換、および物理学的または化学的なダメージから生体を守る。免疫系が正常より活性が低い場合に、免疫欠損または免疫抑制が起こり、結果的に、致命的な感染または癌をもたらす。免疫抑制は、疾患の結果であるか、薬剤または感染症によって引き起こされる可能性がある。全身免疫抑制は、腫瘍増殖に続発する異常な骨髄造血、骨髄抑制療法ならびに増殖因子の投与およびその後の免疫抑制細胞由来の骨髄の拡大/流動に関連することがわかった。これらのミエロイド由来サプレッサー細胞(MDSCs, myeloid−derived suppressor cells)は、活性化されたT−細胞の数を減少し、複数の作用機構によるT−細胞機能を阻害することで、免疫抑制および免疫寛容をもたらす。従って、MDSCsは、促進腫瘍(pro−tumor)の役割を持っている。さらに、MDSCsは、腫瘍内微小環境においての変異誘導、血管形成および転移の促進、ならびに腫瘍性成長および炎症反応の両方の直接支援を含む多面的な活性をもつ。実際に、このような細胞は、感染症、炎症性病気、移植片対宿主病(Graft−Versus−Host Disease)、心的外傷性ストレス、および腫瘍性疾患を含む多数の病状で増加する。 (Dolcetti et al., Cancer Lett. 2008 Aug 28; 267(2): 216−25; Talmadge, Clin Cancer Res. 2007 Sep 15;13(18 Pt 1):5243−8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Dolcetti et al., Cancer Lett. 2008 Aug 28; 267(2): 216−25; Talmadge, Clin Cancer Res. 2007 Sep 15;13(18 Pt 1):5243−8
【発明の概要】
【0004】
要約
本発明は、成熟したまたは幼弱な動物から作製した幹細胞の集団、すなわち卵割球様幹細胞(BLSCs, blastomere−like stem cells)が、動物のMDSCsの数を著しく減少することができるという、少なくとも部分的に予期せぬ発見に基づいている。
【0005】
したがって、本発明の一態様は、患者の細胞増殖性疾患を治療する方法を特徴とする。当該方法は、細胞増殖性疾患の治療を必要とする患者にBLSCsを有効量で投与することを含む。
【0006】
細胞増殖性疾患は、無制御な、自主的な細胞増殖(悪性および非悪性な増殖を含む)およびMDSCs介在の免疫抑制を特徴とする疾患を指す。このような疾患の例としては、大腸癌、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、黒色腫、肺癌、膠芽細胞腫、脳腫瘍、造血悪性腫瘍、網膜芽細胞腫、腎細胞癌、頭頚部癌、子宮頸癌、膵臓癌、食道癌、卵巣癌、および有棘細胞癌が挙げられる。
【0007】
患者は、ヒトまたはヒト以外の動物を指す。ヒト以外の動物の例としては、免疫系を有するすべての脊椎動物が挙げられる。例えば、霊長類(特に高等霊長類)、イヌ、げっ歯類(例えば、ネズミ、またはラット)、モルモット、ネコ、家畜(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、またはブタ)などの哺乳類、およびトリ、両生類、爬虫類、などの非哺乳類動物が挙げられる。好ましい実施形態において、患者はヒトである。他の実施形態において、患者は実験動物または疾患モデルとしての適切な動物である。
【0008】
細胞増殖疾患の治療を受ける患者は、疾患に対する標準診断技術によって同定することができる。「治療」は、疾患、疾患の兆候、疾患に連発する病状、または損傷/疾患になりやすい傾向を治す、緩和する、軽減する、治療する、その発病を遅らせる、防ぐ、または改善する目的で、進行中の細胞増殖疾患に罹患するまたはそれに至る危険がある患者への組成物(例えば、細胞組成物)の投与を指す。「有効量」は、治療される患者において、医学的に望ましい結果を生み出すことができる組成物の量を指す。治療方法は、単独で行われてもよいし、他の薬物または治療と併用して行われてもよい。
【0009】
本発明は、有効量のBLSCsを、MDSCsレベルを減少する必要のある患者へ投与することによって、患者のMDSCsレベルを下げる方法も特徴とする。
【0010】
他の態様において、本発明は、患者の免疫抑制を克服する方法を特徴とする。当該方法は、有効量のBLSCsを、免疫抑制を克服する必要のある患者へ投与することを含む。当該免疫抑制は、MDSCsを介した免疫抑制になり得る。さらに他の態様において、本発明は、患者の免疫応答を調節する方法を特徴とする。当該方法は、有効量のBLSCsを、免疫応答を調節する必要のある患者へ投与することを含む。
【0011】
前述のいずれの方法において、当該患者は、細胞増殖疾患、感染症、または免疫不全病を有するもので有り得る。当該いずれの方法において、SLSCsを1x10〜1x1011個/回で投与し、好ましくは5x10〜5x1010個/回、またはより好ましくは1x10〜1x1010個/回で患者に投与する。宿主拒絶を最小限に抑えるまたは避けるために、当該細胞は、患者の自己細胞であることが好ましい。当該SLSCsは、二週間に一回、2〜5回投与、またはより好ましくは二週間に一回、3回投与することができる。必要であれば、SLSCsを投与する前に、当該患者をMDSCsのレベルについて調べることができる。患者由来のサンプルにおいてのMDSCsのレベルは、正常対象由来のサンプルにおいてのレベルより統計的に高い場合は、当該患者には、上述方法を用いた治療が適応である。SLSCsの投与効果を確認するために、SLSCsの投与後に、当該患者をMDSCsのレベルについて調べることもできる。例えば、もし投与後のMDSCsレベルは統計的に投与前より低いなら、SLSCsの投与は効果的である。
【0012】
本発明の一つ以上の実施形態の詳細は、下記説明において述べる。本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および特許請求の範囲から明白であろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明。
【0014】
本発明は、免疫応答を調節ならびに細胞増殖疾患および他の免疫欠損症のような関連疾患を治療するためのSLSCsの使用に関わる。
【0015】
SLSCsは、成熟したまたは若い動物の非胚性幹細胞の集団である。これらの細胞は、分化全能性であり、胚幹細胞と同様な分化能力を有する。国際公開第2007/100845号に参照する。通常の染色体対を含有すると、SLSCsは系統中立(lineage−uncommitted)となり、体のすべての体(非生殖)細胞を形成することができる。これらは、外胚葉(例えば、神経細胞、星状膠細胞、乏突起膠細胞、およびケラチン生成細胞)、中胚葉(例えば、骨格筋、平滑筋、心筋、脂肪組織、軟骨、骨、真皮、血球、靭帯組織、腱、および内皮細胞)、ならびに内胚葉(例えば、胃腸上皮、肝細胞、卵形細胞、胆道細胞、膵臓細胞(例えば、α細胞、β細胞、およびγ細胞など)、および導管細胞)由来の細胞を含む多様な系統に分化することができる。さらに、これらは、精原細胞に分化でき、生殖配偶子精子および/または卵子、ならびに胎盤の胎児(embryonic and fetal)部分の細胞および組織を形成することもできる。細胞は、系統誘導剤(Lineage−Induction Agents)、増殖剤(proliferation agents)、および分化抑制剤に反応する。一方、これらは、進行剤(progression agents)には反応しない。胚盤葉上層様(epiblast−like)幹細胞と同様、SLSCsはコンフルエンスでは接触障害されず、むしろ十分な栄養供給されている限り、細胞の多重融合層を形成する。SLSCsは、前駆もしくは分化細胞、胚葉系統幹細胞、または胚盤葉上層様幹細胞の表現型発現マーカーを発現しない。その代わりに、SLSCsは、胚幹細胞マーカーCD66e、HCEA、CEA、およびCEA−CAM−1のような一般的で特定の胚系統マーカーを発現する。SLSCsは、通常成熟組織では不活化している。しかしながら、そのような組織が損傷すると、SLSCsは損傷組織を修復するために活性化し、分化する。
【0016】
SLSCsは下記実験例1で述べられている方法または国際公開第WO2007/100845号中で記載されている方法を用いて準備することができる。一般的に、細胞は、血液、骨髄、および骨格筋などの成熟したまたは若い動物の多数組織から単離することができる。単離された細胞が確かにSLSCsであることを確認するために、(1)1μm未満である浮遊状態の細胞のサイズ、(2)細胞表面マーカー、例えば、CD66e、および(3)トリパンブルー染色陽性などの多数の特性を調べることができる。CD66eのような細胞表面マーカーに対する抗体を用いることができる。そのため、適切な抗体を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、または量子ドットのような適切な標識と結合させることができる。SLSCsはさらにそのような抗体を用いたフローサイトメトリーによって濃縮することができる。
【0017】
次に、濃縮された細胞は、標準的な技術によって試験される。細胞の分化能を確認するために、本分野で既知の方法によって、これらは、例えば神経グリア細胞、骨細胞、および含脂肪細胞を形成するように誘導される。例えば、細胞を流し、コンフルエンスまで培養し、骨形成培地または脂質生成培地に移し、適切な時間(例えば、3週間)インキュベートすることができる。例として、米国特許第7470537号、第7374937号、および第6777231号を参照する。骨形成の分化能は、フォンコッサ染色によって視覚化できるカルシウム蓄積の鉱化(mineralization)によって評価される。脂質生成の分化を調べるために、細胞内の脂肪滴をオイルレッドOによって染色することができ、顕微鏡で観察することができる。神経分化については、細胞を神経性培地中に適切な時間(例えば、7日間)インキュベートし、次いで、血清をなくし、β−メルカプトエタノールでインキュベーションすることができる。例として、米国特許第7470537号ならびに米国特許出願第20080274087号、第20080213228号、および第20080152629号を参照する。分化の後、細胞は、ネットワーク中に配置された伸長した神経突起様の構造をもつ屈折細胞体を示す。神経分化を確認するために、系統特異なマーカーの免疫細胞化学的な染色をさらに行うことができる。マーカーの例としては、神経特定クラスIIIβ−チューブリン(Tuj−1)、ニューロフィラメント、およびGFAPが挙げられる。
【0018】
また、単離細胞の固有性を確認するために、SLSCsの接触阻止の欠如を利用することができる。そのために、コンフルエンスまで単離した細胞を培養することができる。その条件下、SLSCsは球様細胞集合体、多融合層、またはメッシュ−ネット構造を形成することができる。対照的に、CD42細胞または血小板は、上述した細胞集合体のような構造を形成することができない。
【0019】
こうして確認されたSLSCsを、自然分化、老化、形態変化、増加した増殖速度、または神経への分化能における変化を示すことなく、非分化培地中でさらに10、20、50、100、または300分裂回数(population doubling)超に増殖させることができる。細胞は、使用前に標準的な方法によって貯蔵することができる。本明細書で述べられるように、SLSCsは、患者におけるMDSCsのレベルを下げるために使われる。
【0020】
「MDSCs」という用語は、病変が隣接する期(contiguous stages)の骨髄単球性分化をもたらすミエロイド由来の不均質な細胞集団のことを指す。この不均質は、表面マーカーの複雑な表現パターンに反映される。ネズミ科のMDSCsの主な表現型は、以下のマーカーによって明示される。そのマーカーとは、CD11b、Gr−1、F4/80int、CD11clow、MHCII−/low、Ly−6C、ER−MP58、CD31、およびIL-4Rαである。ヒトMDSCsは、Lin(lineage negative)、CD14、HLA−DR(human leukocyte antigen DR−negative)、CD15、CD34、CD11b、CD33、およびCD13を含む未熟な表現型を有する(Dolcetti et al., Cancer Lett. 2008 Aug 28;267(2):216−25; Talmadge, Clin Cancer Res. 2007 Sep 15;13(18 Pt 1):5243−8)。
【0021】
担癌動物および癌患者は、骨髄造血の欠陥を示し、結果的にMDSCsの蓄積をもたらす。腫瘍性成長の間に補給された(recruited)MDSCsは、局部的におよび全身レベルの両方に作用しながら、腫瘍進行をサポートする主な炎症のサブセット中に存在する。これらの細胞は、形質転換細胞が急増するための好都合な微環境を提供しながら、腫瘍進行を維持すること、新規突然変異を得ること、拡大することおよび宿主の免疫監視を避けることができる。さらに、MDSCsは血管新生に参加できる。
【0022】
従って、MDSCsのBLSCs介在抑制は、癌治療および他の細胞増殖疾患の治療に用いられる。具体的に言うと、それは、異常に高いMSDCレベルによって特徴付けられる疾患の治療に用いられる。「癌」という用語は、制御できない細胞増殖、浸潤、および時には転移によって特徴付けられる疾患の分類を指す。癌細胞は、自律的増殖(すなわち、異常状態または細胞成長を急速に増殖させることによって特徴付けられる状態)をすることができる。この用語は、組織病理学的タイプまたは侵襲性の状態にかかわらず、癌性増殖または腫瘍形成プロセス、転移性組織または悪性形質転換した細胞、組織、もしくは器官のあらゆるタイプを含むことを意味する。癌の例としては、限定されるものではないが、白血病、肉腫、骨肉腫、リンパ腫、黒色腫、神経膠腫、褐色細胞腫、 肝臓癌、卵巣癌、皮膚癌、精巣癌、胃癌、膵臓癌、腎臓癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、頭頚部癌、脳腫瘍、食道癌、膀胱癌、副腎皮質癌、肺癌、気管支癌、子宮内膜癌、上咽頭癌、子宮頚部または肝臓癌、および未知の原発部位の癌が挙げられる。
【0023】
MDSCsは、腫瘍以外の、スーパー抗原刺激のような免疫炎症反応、ならびにトリパノソーマ症、サルモネラ症、およびカンジダ症のような感染症を含む病理学で表現されている。例えば、MDSCs数の増加は、盛んなまたは新たなT細胞応答を抑制する炎症、感染、および移植片対宿主疾患と関連することが分かる(Talmadge, Clin Cancer Res. 2007 Sep 15;13(18 Pt 1):5243−8)。MDSCsは、活性化されたT細胞の数を減らすことによって、大規模な免疫抑制の状態を誘発し、アルギナーゼ−1(ARG1)によるL−アルギニンの喪失、一酸化窒素、活性酸素種、および誘導型一酸化窒素合成酵素による活性酸化窒素種の産生を含む複数の機構によって、それらの機能を阻害することが示される。したがって、MDSCsのBLSCs介在抑制は、腫瘍学のためだけでなく、移植片対宿主疾患、炎症、および自己免疫疾患のためにも、MDSCsの除去を可能にする戦略を開発する際に使用することもできる。
【0024】
被検体におけるMDSCs関連免疫欠損症の治療、当該疾患の症状の軽減、または当該疾患の発症を遅延させる方法は本発明の範囲内である。当該疾患の一例は、細胞増殖疾患である。治療されるべき患者は、状態または関心のある疾患を診断するための標準的技術によって同定することができる。特に、もし患者におけるMDSCsのレベルが、同じ患者の昔のMDSCレベルより著しく高い、または正常の患者の場合より高いなら、当該患者を同定することができる。当該治療方法は、必要とする患者に上述のBLSCsの有効量を投与することを必要とする。
【0025】
したがって、本発明は、医薬組成物におけるBLSCsを提供する。治療的に有効な量のBLSCsおよび、任意の他の活性物質を製薬上許容しうるキャリアと混合することによって、医薬組成物を準備することができる。当該キャリアは、投与経路によって、異なる形態であってもよい。他の活性物質の例としては、MDSCsの免疫抑制活性を阻害する、MDSCsのリクルートメント(recruitment)を防げる、または生体の免疫機能を改善する化合物が挙げられる。
【0026】
従来の薬剤賦形剤および製造方法を用いて、上述の医薬組成物を製造することができる。あらゆる賦形剤を、崩壊剤、溶媒、造粒剤、湿潤剤および結合剤とともに混合することができる。本明細書において用いられる場合、「有効量」または「治療的に有効な量」という用語は、特定の疾患の少なくとも一の兆候またはパラメータを適度に改善させることができる量を指す。当該BLSCsの治療的に有効な量は、本分野で既知の方法によって測定することができる。疾患を治療するための有効量は、当業者に既知の経験的方法によって容易に測定することができる。患者に投与されるべき正確な量は、疾患の状態および重症度ならびに患者の健康状態によって変化しうる。兆候またはパラメータの適度な改善は、当業者が決定することができ、または医師に対して患者によって報告される。上述疾患の兆候またはパラメータの臨床学的にまたは統計学的に顕著な減退または改善は、本発明の範囲内であると理解されるであろう。臨床学的に顕著な減退または改善は、患者および/または医師に認識できることを意味する。
【0027】
「製薬上許容しうる」というフレーズは、ヒトに対して投与するときに、生理的に耐えられるおよび通常望まない反応を引き起こさないような組成物の分子全体および他の成分を指す。好適には、「製薬上許容しうる」という用語は、哺乳類、より好ましくはヒトでの使用に対して、連邦もしくは州政府の、または米国薬局方もしくは他の一般的に承認された薬局方にリストされている監督官庁によって、承認されていることを意味する。製薬上許容しうる塩、エステル、アミド、およびプロドラッグは、妥当な医学的判断の範囲内で、過度な毒性、炎症、アレルギー反応などを引き起こすことなく、患者の組織に接触させる際に用いることに適しており、合理的な利益/リスク比に見合っていて、意図している用途に有効である、それらの塩(例えば、カルボン酸塩、アミノ酸付加塩)、エステル、アミド、およびプロドラッグを指す。
【0028】
上述医薬組成物に適用されるキャリアは、希釈剤、添加剤、または賦形剤を指し、これらとともに化合物が投与される。そのような薬剤キャリアは、水および油のような滅菌された液体でありうる。水または水溶液、食塩水、ならびに水性ブドウ糖およびグリセロール溶液は、特に注射剤用途でキャリアとして好適に用いられる。適切な薬剤キャリアは、
E.W.Martin、第18版による「Remington’s Pharmaceutical Sciences」中に記載されている。
【0029】
当該BLSCsは、点滴または注射(例えば、静脈内、くも膜下、筋肉内、腔内、気管内、腹腔内、または皮下)、経口、経皮投与、または本分野で既知の他の方法によって個体に投入することができる。一例を挙げれば、当該細胞は、腫瘍または免疫抑制が発見された部位にまたは組織(例えば、肝臓または膵臓)中に直接注射することができる。投与は、二週間に一回であってもよいし、一週間に一回であってもよく、またはそれより頻回であってもよいが、病気または疾患の維持相の間には頻度を減らしてもよい。
【0030】
異種および自己移植細胞のBLSCsの双方を用いることができる。前者の場合は、ホスト反応を避けるまたは最小限化にするために、HLA適合を行わなければならない。後者の場合は、自己移植細胞BLSCsは患者から濃縮および精製され、後の使用のために保存される。ホストBLSCsは、生体外でホストまたはグラフトT細胞の存在下培養され、ホスト中に再導入される。これは、自身で当該BLSCsを認識し、およびT細胞活性の減少がよりもたらされるホストの利点を有する。
【0031】
投与量および投与回数は、当業者に公知の急性期の少なくとも1、またはより好適には1以上の臨床的兆候の減少または消失を伴う、寛解期の継続を確かにする、臨床兆候に依存する。より一般的には、投与量および投与回数は、上述した組成物を用いた治療を検討している病的状態または疾患の病理的兆候ならびに臨床的および亜臨床的兆候の減退に一部依存している。投与量および投与計画は、当業者によって認識されているように、治療される患者または哺乳類患者における共役効果および副作用、ならびに医師の判断とともに、投与される患者の年齢、性別、健康状態によって判断することができる。
【0032】
腫瘍部位へのMDSCsリクルートメント(recruitment)は、様々な腫瘍由来の、それらの活性化と同じようにミエロイド細胞の骨髄造血および動員に多大な影響を与える溶解性因子によって引き起こされる可能性があることが報告されている(Dolcetti et al., Cancer Lett. 2008 Aug 28;267(2):216−25)。分化全能性または分化多能性幹細胞(例えばBLSCsなど)は、MDSCsの活性化もしくは移動に介入し、またはMDSCsの分化を促進することができ、それによって、MDSCs介在の免疫抑制を克服する。
【0033】
したがって、BLSCs以外の分化全能性または分化多能性幹細胞は、上述のMDSCs蓄積を特徴とする免疫欠損症を治療するために用いられる。このような分化全能性または分化多能性幹細胞の例として、上述したBLSCsに由来する細胞、例えば、レチノイド酸およびTGF−βの存在下、BLSCsを培養することによって、それぞれ得られたSBR細胞およびSBT細胞などが挙げられる。分化全能性または分化多能性幹細胞の例として、国際公開第2007/100845号に記載されている胚幹細胞(ES細胞)、付着BLSCs(aBLSCs)、移行BLSCs(trBLSCs)、および胚盤葉上層様幹細胞(ELSCs)なども挙げられる。したがって、これらの分化全能性または分化多能性幹細胞を使って、上述の免疫欠損症を治療するための方法は、本発明の範囲内である。
【0034】
成熟したまたは若い動物由来の、例えばBLSCsなどの幹細胞に基づく治療戦略は、ES細胞に基づくものより多数の利点を持っている。第一、マーカーが良ければ、BLSCsは、成熟したまたは若い動物由来の組織から容易に得られる。第二、数多くのBLSCsは、血液(2×10個/mlを超える)から得ることができる。第三、BLSCsは、維持および拡張ならびに系統別の細胞へと分化するように誘発されるが容易である。第四、BLSCsは、一旦患者へと導入されると、奇形種に至らない、したがってES細胞より安全である。他にもたくさん挙げられるが、最後、BLSCsを入手および使用することは、胚を操るまたは破壊することおよびそれに関連する倫理問題を含まない。
【0035】
下記特定の実施例は、単に説明であると解釈されるべきであり、なんであれ決して開示の残余を限定するものではない。労することなく、本明細書の記載に基づいて、当業者が本発明を最大限利用することできるものと信じている。
【実施例】
【0036】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0037】
実施例1.BLSCsの単離
BLSCsの活性化、精製、および増殖方法は、国際公開第2007/100845号に公開されている。本実施例において、BLSCsは、2つの方法を用いてヒト患者の血液から精製された。その2つの方法とは、血漿分画法(plasma fraction method)および溶血法(hemolysis method)である。
【0038】
簡潔に、血漿分画法において、全血試料(1ml)は、標準方法を用いて第一のヒト患者から用意された。その後当該試料が4℃で約7−9日間保存され、BLSCsは、国際公開第2007/100845号に記載されたように当該試料から濃縮された。
【0039】
溶血法は、国際公開第2007/100845号に記載されたように、溶血分画を得るために用いられた。簡潔に、約1mlの全血試料は、第二のヒト患者から得られ、輸送培地(例えば、カタログナンバーMBC-HUB−MED−100−A004のモラガ培地、モラガバイオテクノロジー社、ロサンゼルス、カリフォルニア州)中にEDTAまたは他のCa2+錯化剤の存在下、約4℃で9日間程保存された。9日間後、全血試料中の赤色細胞は、約50mlの滅菌溶血溶液(例えば、カタログナンバーMBC-ASB−REBG−900A−001)を用いて、溶解された。遠心分離(例えば、1800xgで、10分間)し、デブリおよび溶解細胞を除去した後、得られた細胞ペレットを2mlのモラガ滅菌再構成溶液(MBC−ASB−REBG−900A−002)中に再懸濁させた。
【0040】
上記の二つの細胞集団は、FITCラベル化したanti−CD10抗体、PEラベル化したanti−CD66e抗体、APCラベル化したanti−CD90抗体を用いてフローサイトメトリーによって分析された。得られた結果を、以下の表1にまとめる。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示されるように、溶血法を用いる場合、単離された細胞の約5.81%、66.67%、および3.11%は、それぞれBLSCs(CD10CD66e)、移行BLSCs(trBLSCs、CD10CD66e)、および胚盤葉上層様幹細胞(ELSCs、CD10CD66e)である。単離された細胞の約0.62%、13.65%、および55.13%は、それぞれCD10CD90、CD10CD90(移行胚盤葉上層様幹細胞、trELSCs)、およびCD10CD90である。BLSCsは、それらのマーカー(CD10CD66e)に基づきさらに濃縮される。この方法(溶血法)は、1ml血液当たり約200×10BLSCsを得た。
【0043】
血漿分画法を用いる場合、単離された細胞の約9.14%、2.99%、および1.10%は、それぞれBLSCs、移行BLSCs、およびELSCsである。単離された細胞の約9.8%、2.2%、および1.46%は、それぞれCD10CD90、CD10CD90(trELSCs)、およびCD10CD90である。この方法は、1ml血漿当たり約239×10BLSCsを得た。
【0044】
BLSCsは、トリバンブルー(trypan blue)染色陽性であり、血小板の場合(CD42およびトリバンブルー染色陰性)と異なり、ほとんどの大きさは1μmより小さい。特に、国際特許公開第2007/100845号に記載されているように、核を持たないため、増殖および分化しない血小板と異なり、BLSCsは、培地中に急速に増殖ができ、未分化状態で維持し、拡張される。BLSCsは、接触阻止(contact inhibition)がなく、球様細胞塊、多数のコンフルエント層、およびメッシュネット構造を形成することができた。細胞の集合体は、細胞形態の変化をもたらした。対照的に、CD42細胞または血小板は、例えば細胞塊のような上記構造を形成しない
その次に、BLSCsを、国際特許公開第2007/100845号に記載されている方法、または当業者にはよく知られている方法を用いて、それらの分化能力について調べた。その結果によると、当業者に知られる条件下で誘導の際に、それらの細胞は、外胚葉、中胚葉、内胚葉、および精原細胞に由来するものを含む多様な系統に分化することが分かった。それらは、分化ポテンシャルを失うことなく、300を超える継代で未分化の状態で維持し、拡張される。それらは、奇形種を形成しなかった。
【0045】
実施例2.BLSCsの生体内の活性
BLSCsを、上記方法に従い、ヒト患者から精製し、1x10個細胞で自己移植の患者に投与した。投与後、0日目、14日目、および28日目に、ヒトから血液サンプルを得た。次いで、サイトメトリー分析は、血液のMDSCsおよびTregレベルを調べるために行われた。その結果、0日目、14日目、および28日目のMDSCs(CD14CD33CD11bLin)レベルは、それぞれ全抹消血液単核細胞(PBMC)の9.24%、2.19%、および0.35%であることが分かった。これらの結果は、BLSCsが大幅に患者のMDSCsのレベルを減少し、したがって、MDSCs関連免疫欠損疾患を持つ患者を治療するために使用することができることを示している。
【0046】
他の実施形態
本明細書で開示されているすべての特徴は、どのような組み合わせにおいても組み合わせることができる。明細書で開示されている各特徴は、同じ、等価の、または同様の目的を果たす他の特徴によって置換することができる。したがって、他で明示的に述べられていない限り、開示されている各特徴は等価のまたは他の特徴を有する包括的一群の一例に過ぎない。
【0047】
上述の明細書から、当業者であれば、本発明の本質的特性を容易に確かめることができ、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の用途および条件に適用するために、本発明の多数の改変および改良を行うことができる。したがって、他の実施形態もまた下記特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の割球様幹細胞(blastomere−like stem cells)を、細胞増殖疾患の治療を必要とする患者に投与することを含む、患者の細胞増殖疾患の治療方法。
【請求項2】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1011個で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記割球様幹細胞を一回あたり5×10〜5×1010個で投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1010個で投与する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記割球様幹細胞を二週間一回2〜5回投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記割球様幹細胞を二週間一回3回投与する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記割球様幹細胞は、患者自己細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記割球様幹細胞を投与する前または後に、患者におけるミエロイド由来サプレッサー細胞レベルを測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
有効量の割球様細胞を、ミエロイド由来サプレッサー細胞レベルを減少する必要のある患者に投与することを含む、患者におけるミエロイド由来サプレッサー細胞レベルの減少方法。
【請求項10】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1011個で投与する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記割球様幹細胞を一回あたり5×10〜5×1010個で投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1010個で投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記割球様幹細胞を二週間一回2〜5回投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記割球様幹細胞を二週間一回3回投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記割球様幹細胞は、患者自己細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記割球様幹細胞を投与する前または後に、患者におけるミエロイド由来サプレッサー細胞のレベルを測定することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
有効量の割球様幹細胞を、免疫抑制を克服する必要のある患者に投与することを含む、患者における免疫抑制の克服方法。
【請求項18】
前記免疫抑制は、ミエロイド由来サプレッサー細胞関連の免疫抑制である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1011個で投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記割球様幹細胞を一回あたり5×10〜5×1010個で投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1010個で投与する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記割球様幹細胞を二週間一回2〜5回投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記割球様幹細胞を二週間一回3回投与する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記割球様幹細胞は、患者の自己細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記割球様幹細胞を投与する前または後に、患者におけるミエロイド由来サプレッサー細胞のレベルを測定することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
有効量の割球様幹細胞を、免疫応答を調節する必要のある患者に投与することを含む、患者における免疫応答の調節方法。
【請求項27】
前記患者は、感染症または炎症性疾患を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1011個で投与する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記割球様幹細胞を一回あたり5×10〜5×1010個で投与する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記割球様幹細胞を一回あたり1×10〜1×1010個で投与する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記割球様幹細胞を二週間一回2〜5回投与する、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記割球様幹細胞を二週間一回3回投与する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記割球様幹細胞は、患者自己細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記割球様幹細胞を投与する前または後に、患者におけるミエロイド由来サプレッサー細胞のレベルを測定することをさらに含む、請求項26に記載の方法。

【公表番号】特表2012−518646(P2012−518646A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551250(P2011−551250)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/024735
【国際公開番号】WO2010/099044
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511158982)ステムバイオス テクノロジーズ,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】