説明

免疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法

【課題】
免疫機能に関連するインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼに着目して、ウィルス疾患などの免疫抵抗性疾患の治癒効果、治療効果、悪化防止の形質を獲得させた、ヒトを除く動物の育種方法を提供すること。
【解決手段】
本発明の育種方法の特徴は、トランスジェニック動物の作製方法を利用して、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼの遺伝子を欠質または制御領域の変異を起こすことであり、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼの活性を阻害せしめた動物は、免疫抵抗性疾患に対する治癒効果のある内因性サイトカインの発現増加を示し、副作用の少ない治癒効果、延命効果の形質を付与することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルス感染性疾患などの免疫抵抗性疾患の自然治癒効果および悪化防止遅延効果の形質をヒトを除く動物に付与する育種方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人を含む動物では、ウィルスをはじめ種々微生物の感染により、体内に炎症が起きて疾患状態となることが知られている。炎症自体は、外来侵入者であるウィルスなどの微生物を排除、無効化させるシステムである免疫系の防御システムのひとつの発現形態であるが、感染したウィルスなどが、免疫系の防御システムに対する抵抗性を持っている場合には、炎症が長期にわたり、長期間の炎症が、組織の硬化、変質、遺伝子の異常による癌化など身体の異変を引き起こし、場合によっては、動物の生命の危険をもたらす。
【0003】
例えば、口蹄疫は口蹄疫ウィルスの感染に引き起こし、口内や舌など口腔部分に水泡炎症が起き、摂食障害や歩行阻害が起きて、家畜の生産性低下を引きこす。
口蹄疫が深刻視される理由は、その感染力とされているが、その感染力をもたらす原因は、罹患した家畜から大量に口蹄疫ウィルスが生産されて、撒き散らすことである。罹患した家畜から発生した大量の口蹄疫ウィルスにより、家畜が接触した餌を通じて、畜舎内に拡大するばかりでなく、口蹄疫ウィルスを含有した塵や土ホコリなどが気散して、広域に感染を広げることにある。
【0004】
また、多量の口蹄疫ウィルスに暴露されると、発病も短期間で起きると言われており、一端、発生すると、その対策は大規模かつ長期となり、経済的な被害も深刻なものとなる。
【0005】
その対策として、家畜への対策としては、ワクチン接種を行なうが、感染発症を遅延する効果のみであり、被害の発生抑制には、程遠い効果しか得られない。
一端、発生すると、ワクチン接種を行なっていても、生存している家畜を殺処分する必要がある。
【0006】
近年、ウィルスに対する治療薬も開発が進展しており、家畜などヒトを除く動物に対して、抗ウィルス薬の利用検討も考えられているが、効果維持のために長期の連続投与が必要であり経済的な負担が大きく、動物に対しても、副作用があり、また、ヒトの食糧として飼育される動物に対しては、残留する成分が、摂食したヒトに対する影響、安全性も懸念されるため、現時点では、現実的な対策となりえない。(非特許文献1)
【0007】
現状では、PCR法などにより、感染したウィルスの種類を確定したうえで、家畜を殺処分し、その家畜が飼育されていた場所から数kmの範囲に大量の消毒操作がされる方法でしか、行ない得ない状況である。
家畜などの動物は、その経済性から密集して飼育されるものであり、ウィルス感染などの微生物感染に対しては、感染したウィルスなどの微生物が、感染した動物から増えないこと、および、感染した動物の発病および悪化を遅延することが必要であるが、その要請に答える技術は提供されていない状況である。
【0008】
一方、ウィルス感染など微生物感染が起きると、動物体内では、炎症反応が起き、その応答反応には、体内の酵素反応が関連しており、トリプトファンが関連する物質であることが知られている。
トリプトファンは、酵素であるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼによりキヌレニンに変換され、キヌレニンは、さらに、他の酵素群により変換されて、炎症に関連する細胞群に影響を与え、炎症反応に影響を与える。インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼは分子量48,000:酵素分類EC 1.13.11.42の、ヘム含有酵素である。インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼにより代謝されたトリプトファンは、キヌレニンとなり、さらに代謝されて、キノリン酸となる。
【0009】
一方、インターフェロンなどの炎症に関わるサイトカインは、モノサイトなどの血液中の免疫関連細胞や、神経細胞、肺細胞、肝臓細胞などの細胞内のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼの活性を、劇的に誘導し上昇させる。
【0010】
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼは、腫瘍細胞においても発現され、免疫システムに対しての腫瘍細胞の 抵抗性に関与している可能性が示されている(非特許文献2)。
【0011】
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼの活性阻害によりトリプトファンの代謝を阻害することで、Tリンパ球の活動に影響を与えて、HIVなどの免疫不全を引き起こすウィルスに対抗する治療効果を訴求したインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ阻害剤が開示されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。しかし、開示されている阻害剤をウィルス感染対策に用いる場合には、家畜などの動物に連続的に投与することが必要であるが、経済的に負担が過大であることや、注射などヒトに対する治療のような方法での適用は難しい、また、残留性と、食肉とした場合の安全性という問題があり現実的ではない。
【0012】
ウィルスへの抵抗性を付与する育種方法としては、対象とするウィルスの遺伝子を染色体に組み込んで、あらかじめ、感染前に体内にウィルスを発現させることにより、抵抗性を付与する方法が、動物でなく植物育種の方法として開示されている(特許文献4)。しかし、その方法では動物への適用技術の開示例はない。また、そのウィルス抵抗をもたらす仕組みは、ワクチン接種と同じ効果であるので、特定のウィルスのみへの対策の方法であり、同類のウィルス、変異した新種のウィルスに対しては効果が期待できない。
【0013】
動物へのウィルスの抵抗性付与の方法として、ウイルスの遺伝子配列に対するsiRNAの配列を持つ遺伝子を用いる育種方法が開示されている(特許文献5)。その方法では、ウイルスの遺伝子配列に対するsiRNAの配列により、感染した細胞内でのウィルスの遺伝子の生成・複製などを抑えることを期待するものであるが、siRNAの配列に規定される特定のウィルスに対しての効果に限定されるものであるので、特定のウィルスのみへの対策の方法であり、同類のウィルス、変異した新種のウィルスに対しては効果は低いと考えられる。
【0014】
特定のウィルスに対する抵抗性に限定せず、ウィルス全般に対してのウィルス抵抗性を付与できる育種方法の開示例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2010−504347
【特許文献2】特表2008−505937
【特許文献3】特願2006−508788
【特許文献4】特開2000−312540
【特許文献5】特表2008−534004
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所ニュース No.29 4-5 (2007年11月15日発行)
【非特許文献2】臨床化学 29 103-112、2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、ウィルス性感染などの微生物感染などによる免疫性抵抗性疾患に対して、ヒトを除く動物に対して、治癒効果や延命効果があって、かつ、感染したウィルスなどの微生物の増殖を防止して、感染拡大を防止する形質を付与する育種方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明者らは検討を重ねた結果、以下に示す特徴を有する疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法に関する発明を完成させるに至った。
【0019】
〔1〕 ウィルス感染性疾患などの免疫抵抗性疾患に対して抵抗性形質を付与した動物の育種方法であって、人を除く動物のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の喪失または発現を抑制することを特徴とする疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法。
【0020】
〔2〕 トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトすることを特徴とする前記〔1〕に記載の疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法。
【0021】
〔3〕 トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子発現の制御領域遺伝子をノックアウトすることを特徴とする前記〔1〕に記載の疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法。
【0022】
〔4〕 トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の構造遺伝子または制御領域遺伝子を組換えることを特徴とする前記〔1〕に記載の疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、ウィルス疾患などの免疫抵抗性疾患への抵抗性を付与する動物育種法を提供することができ、牛、豚などの家畜動物に適用でき、ウィルス疾患による損失・リスクの軽減が計れ、感染拡大の防止が図れ、経済的安定的に食料供給が可能となる。
【0024】
本発明は、ウィルス感染への抵抗性を付与した家畜動物を作り出すことができるので、家畜飼育において、ウィルス感染が発生した場合での家畜の生存率が向上し、肥育期間での家畜個体の死亡による損失を抑制できる。
【0025】
また、本発明による育種では、感染家畜からのウィルスの増殖を抑制する効果があり、密集して家畜を飼育する飼育舎内でウィルス感染が発生した場合においても、速やかに、感染個体を隔離処分できれば、口蹄疫ウィルスなどの蔓延力が強いウィルス感染に対しても、拡大・蔓延を抑制でき、経済的損失を防止できる。
【0026】
また、本技術を適用し育種した動物は、抗ウィルス剤やワクチンなどのウィルス感染対策としての高価な薬剤を用いる必要がなく、経済的なウィルス感染対策となる。
また、薬剤を動物に与えないので、肉・卵など食品中に薬剤の残留がなく、食品の安全性が向上し、食品産業・食品加工業にとってメリットがある。
【0027】
愛玩動物に適用した場合は、ウィルスなど微生物感染による個体死亡率(およびリスク)を低下させることができ、結果として、愛玩期間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ウィルス感染処理を行なったマウス(WT:野生 KO:ノックアウトマウス)のサイトカインであるインターフェロン発現の経時変化
【図2】ウィルス感染処理を行なったマウス(WT:野生 KO:ノックアウトマウス)のリンパ球におけるサイトカインであるインターフェロン発現
【図3】ウィルス感染処理を行なったマウス(WT:野生 KO:ノックアウトマウス)の増殖したウィルス(BM5)量
【図4】ウィルス感染処理を行なったマウス(WT:野生 KO:ノックアウトマウス)の生存率の経時変化
【図5】ウィルス感染処理を行なったマウス(WT:野生 KO:ノックアウトマウス)の増殖したウィルス(EMCV)量
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のウィルス感染性疾患などの免疫抵抗性疾患に対して抵抗性形質を付与した動物の育種方法は、人を除く動物のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の喪失または発現を抑制することによって達成することができる。
【0030】
本発明において、動物のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を喪失または発現を抑制するための好適な実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではない。
【0031】
動物のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を喪失するは方法しては、トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトする方法がある。
【0032】
トランスジェニック動物の作製操作は、公知の種々の方法を用いて作製操作することができるが、その具体例を以下に示す。
【0033】
対象とする動物のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の配列情報は、既知の場合は、遺伝子データベースから配列情報を得ることができる。未知の場合は、類縁の動物の既知のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の配列情報を基にしたプローブをオリゴDNAまたは、PCR法などにより調製して、cDNAライブラリーを対象に、ハイブリダイゼーション法などのスクリーニング方法で目的の遺伝子を得て、DNA配列解読により、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の配列情報を得る。
【0034】
得たインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子情報を基に作製したプローブを用いて、対象とする動物のゲノム遺伝子ライブラリーを対象として、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子領域のゲノム遺伝子を得て、そのDNA配列を解析して、対象とする動物の染色体におけるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の染色体上の遺伝子配列情報を得る。
ネオマイシンなどの薬剤耐性の遺伝子の両端に、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の上流および下流のDNA配列を連結したDNAを作製して、遺伝子導入用のDNAとする。
遺伝子導入の対象の動物は、ヒトを除く動物であるが、遺伝子導入用のDNAに含まれる遺伝子配列情報は、ヒトを含む動物由来の情報である。
【0035】
遺伝子導入用のDNAを動物から採取した卵細胞に形質導入して、薬剤耐性で選抜し、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子が染色体上から喪失した細胞をPCR法により選抜確認して、動物の雌個体に戻して、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子が染色体上から喪失した動物個体を出産させる。例えば、対象動物がマウスの場合には、遺伝子導入用のDNAをマウスの初期胚または胚性幹細胞または受精卵などの分化全能性をもつ細胞に導入し、得られた細胞を偽妊娠マウスに移植後、生まれたマウスから遺伝子導入用のDNA配列を染色体上に有するマウスを、PCR法などで選別する。
【0036】
遺伝子導入法は、公知の導入方法を用いることができ、初期胚前核へ注入するマイクロインジェクション法や、ES細胞を用いるキメラ作製法、ウィルスベクターを用いるレトロウィルス法、核置換などによる体細胞核移植法や、精子を用いる精子ベクター法など、いずれの方法でもよい。
細胞の選抜には、薬剤耐性遺伝子に加え、致死遺伝子を組み合わせた構築した遺伝子導入用のDNAを作製して、ポジティブ・ネガティブセレクションなどの方法を用いてもよい。
【0037】
その出産した動物個体を掛け合わせて繁殖させ、PCR法やハイブリダイゼーション法などにより、その掛け合わせた動物の染色体上のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子が染色体上からホモで喪失したことを確認できた動物個体が、ノックアウト動物である。
【0038】
以上のようにして、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼを喪失したノックアウト動物は、ウィルスに感染した場合に、内因性のサイトカイン(インターフェロン)を増加し、ウィルスの増殖量を抑制でき、口蹄疫、ウエストナイルウイルス感染症、RSウイルス病、ウイルス性下痢・粘膜病、アデノウイルス病、コロナウイルス病、乳頭炎ウイルス病、ロタウイルス病エンテロウイルス性脳脊髄炎、サーコウイルス関連疾病、などの病気に耐性を得る。
【0039】
次に、トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子発現の制御領域遺伝子をノックアウトによってもインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を喪失することが可能である。
一例を、具体的に以下に示す。
【0040】
対象とする動物のゲノム遺伝子ライブラリーをから得たインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子領域のゲノム遺伝子を得て、そのDNA配列を解析して、対象とする動物の染色体におけるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の染色体上のプロモーター領域などの発現制御に関連する遺伝子配列情報を得る。その発現制御に関連する遺伝子配列の上流域の塩基配列および下流域の塩基配列をネオマイシンなどの薬剤耐性の遺伝子の両端に、連結したDNAを作製して、遺伝子導入用のDNAとする。
【0041】
遺伝子導入の対象の動物は、ヒトを除く動物であるが、遺伝子導入用のDNAに含まれる遺伝子配列情報は、ヒトを含む動物由来の情報である。
【0042】
遺伝子導入用のDNAを動物から採取した卵細胞に形質導入して、薬剤耐性で選抜し、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の発現制御に関わる遺伝子領域が染色体上から喪失した細胞をPCR法により選抜確認して、動物の雌個体に戻して、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の発現制御に関わる遺伝子領域が染色体上から喪失した動物個体を出産させる。
【0043】
遺伝子導入法は、公知の導入方法を用いることができ、初期胚前核へ注入するマイクロインジェクション法や、ES細胞を用いるキメラ作製法、ウィルスベクターを用いるレトロウィルス法、核置換などによる体細胞核移植法や、精子を用いる精子ベクター法など、いずれの方法でもよい。
【0044】
その出産した動物個体を掛け合わせて繁殖させ、PCR法やハイブリダイゼーション法などにより、その掛け合わせた動物の染色体上のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の発現制御に関わる遺伝子領域が染色体上からホモで喪失したことを確認できた動物個体が、ノックアウト動物である。
【0045】
以上のようにして、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼを喪失したノックアウト動物は、ウィルスに感染した場合に、内因性のサイトカイン(インターフェロン)を増加し、ウィルスの増殖量を抑制でき、口蹄疫、ウエストナイルウイルス感染症、RSウイルス病、ウイルス性下痢・粘膜病、アデノウイルス病、コロナウイルス病、乳頭炎ウイルス病、ロタウイルス病エンテロウイルス性脳脊髄炎、サーコウイルス関連疾病、などの病気に耐性を得る。
【0046】
さらに、トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の構造遺伝子または制御領域遺伝子を組換えることよれば、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子を喪失することあるいは発現を抑制することが可能である。
一例を、具体的に以下に示す。
【0047】
対象とする動物のゲノム遺伝子ライブラリーをから得たインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子領域のゲノム遺伝子を得て、そのDNA配列を解析して、対象とする動物の染色体におけるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の染色体上のプロモーター領域などの発現制御に関連する遺伝子配列情報、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子のイントロン部分、エクソン部分の構造情報を得る。
【0048】
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子発現調節の関わる遺伝子配列部分や酵素活性や酵素の基質特異性などに関わる遺伝子配列部分を対象として、塩基配列の変異、欠失、または、他の遺伝子配列の挿入を行なったDNAを構築し、さらに、ネオマイシンなどの薬剤耐性の遺伝子が発現できるように、連結して、DNAを構築し、そのDNAの両端に、染色体上のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の上流部分と、下流部分を連結させたDNAを調製して、遺伝子導入用のDNAとする。インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の塩基配列の変異、欠失、または、他の遺伝子配列の挿入を行なう対象の遺伝子配列は、イントロンを全部、または、一部を含む、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子配列でもよく、mRNAから得たcDNA配列でもよい。
【0049】
遺伝子導入の対象の動物は、ヒトを除く動物であるが、遺伝子導入用のDNAに含まれる遺伝子配列情報は、ヒトを含む動物由来の情報である。 インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子は、遺伝子導入用のDNAを動物から採取した卵細胞に形質導入して、薬剤耐性で選抜し、遺伝子導入用DNAの配列情報が染色体上に組み込まれた細胞をPCR法により選抜確認して、動物の雌個体に戻して、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の構造遺伝子または制御領域遺伝子を組換えた動物個体を出産させる。
遺伝子導入法は、公知の導入方法を用いることができ、初期胚前核へ注入するマイクロインジェクション法や、ES細胞を用いるキメラ作製法、ウィルスベクターを用いるレトロウィルス法、核置換などによる体細胞核移植法や、精子を用いる精子ベクター法など、いずれの方法でもよい。
【0050】
上記の操作により、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子発現調節の関わる遺伝子配列部分の塩基配列の変異または欠失させることができるので、得られた動物個体は、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子発現を変化させることができ、その遺伝子発現を変化させた動物個体の中から、特に、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子のmRNA発現が抑制または、喪失している動物個体を選抜して、繁殖育種に用いる。
また、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子内で、酵素活性や酵素の基質特異性などに関わる遺伝子配列部分を対象として、塩基配列の変異、欠失することにより、または、他の遺伝子配列の挿入を行うことにより、得られた動物個体は、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子発現を変化させることができ、その遺伝子発現を変化させた動物個体の中から、特に、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子のmRNA発現が抑制または、喪失している動物個体を選抜して、繁殖育種に用いる。
【0051】
本発明の育種動物の動物種については特に限定されるものでなく、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、ラクダなどの哺乳動物が例示される。ニワトリやダチョウなど鳥類を育種対象としてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について詳細に説明するが、いずれの記述も本発明内容を好適に実施するための例であり、本発明による他の実施形態を制限するものではない。
【0053】
(実施例1-1)
本発明による、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼの遺伝子をノックアウトした動物として、マウスを用いて、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼの遺伝子のノックアウトマウスを作製した。
【0054】
トランスジェニックマウスの作製方法は、公知の方法を用いて、遺伝形質 C57BL/6L 系統のマウスを対象として、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子のエクソン3−5の配列情報を変えて置き換えた遺伝子配列を常法のβガラクトシダーゼ/ネオマイシン耐性の遺伝子と組み合わせて、b-galの発色または薬剤耐性を指標として選抜してトランスジェニックマウスを作製して、作製したトランスジェニックマウスを交配繁殖により、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をホモで染色体から脱落させたノックアウトマウスを作製した。
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子が染色体からホモで脱落していることはPCR法で確認した。
【0055】
実験では、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ活性を全身で欠損しているノックアウトマウスは、4−6週齢オスマウスを用いた。
作製したノックアウトマウスにおいては、臓器、血液などでインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ活性が検出されないことを確認した。
このインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウスは、体重増加や生殖能などに異常は認められなかった。
【0056】
ウィルス感染状態とするために、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウスに、LPBM5(マウス白血病ウイルス)を感染させた。比較対照として、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトしていないマウスを用いて、同様に、LPBM5(マウス白血病ウイルス)を感染させた。感染したマウスの2週間後、および、8週間後におけるインターフェロンの発現誘導状態を評価するため、感染後2週間目および8週間目の飼育したインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウスおよび、感染後2週間目および8週間目の飼育した野生株マウスから採取した細胞中のmRNA量を計測した。
【0057】
図1にインターフェロンα、インターフェロンβおよびインターフェロンγのmRNA量を18SリボゾームRNAとの比率で示した。感染処理後2週間では、インターフェロンγ(INFγ)が、野生株(WT)に比較してインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウス(KO)が増加し、8週間後では、インターフェロンα(INFα)およびインターフェロンβ(INFβ)が、野生株(WT)は大きく増加することなく、ノックアウトマウス(KO)では、顕著に増加していた。ゆえに、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトしたマウスでは、インターフェロンのmRNAが多く合成され、結果として、内因性のインターフェロンを体内で増加させていた。
【0058】
(実施例1−2)
実施例1−1で用いた感染実験のマウス(8週間飼育したマウス)から採取した血液中のリンパ細胞において、インターフェロンαおよびインターフェロンβの産生細胞である細胞表面のサブセットCD11c抗原の細胞におけるインターフェロンのmRNAの発現を分析した。
図2に示したように、感染処理したインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウス(KO)から採取した血液中のCD11c抗原のリンパ細胞は、インターフェロンα(INFα)およびインターフェロンβ(IFNβ)のmRNAの合成量が増加しており、感染処理した野生型マウス(WT)から採取した血液中のCD11c抗原の細胞におけるインターフェロンのmRNAの合成量に比較して約2倍の量を合成しており、ノックアウトマウスは、内因性のインターフェロンを増加させている。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様の操作方法で、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子のノックアウトマウスに、LPBM5(マウス白血病ウイルス)を感染させて、1週間後、2週間後、4週間後および8週間後の脾臓におけるウィルスの増殖量を計測した。比較対照として、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトしていないマウスである野生株マウスに対してLPBM5(マウス白血病ウイルス)を感染させた。
脾臓中のLPBM5(マウス白血病ウイルス)ウィルスのRNA量は、リアルタイムPCR法により定量した。脾臓細胞からRNAを回収し、LPBM5(マウス白血病ウイルス)ウィルス遺伝子の特異的プライマ−を用いた。ウィルスのコピー数は、脾臓細胞から回収したRNA1μgあたりで表現した。
【0060】
感染させて、1週間後、2週間後、4週間後および8週間後のノックアウトマウス(KO)および野生株マウス(WT)の脾臓中に含まれるLPBM5(マウス白血病ウイルス)のウィルス量を計測した結果を図3に示した。
【0061】
感染後8週間での脾臓中のウィルスの数は、野生株のマウス(WT)で増加していることが観察され、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウス(KO)では、有意に、脾臓中のウィルス増殖が抑制されていた。
【0062】
(実施例3)
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウスに、LPBM5(マウス白血病ウイルス)を感染させて、感染後120日間のマウスの生存率を計測した。比較対照として、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトしていない野生型マウスを用いて、同様に、LPBM5(マウス白血病ウイルス)を感染させて比較した。
【0063】
図4に示すように、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウス(IDO−KO)は、野生株のマウス(WT)に比較して、有意に、生存率が向上しており、感染したウィルスに抵抗性を示していた。
【0064】
(実施例4)
インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウスに、EMCV5(脳心筋炎ウィルス)を感染させて、その感染後2日および4日でのマウスの心臓におけるウィルスの遺伝子量を計測した。比較対照として、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトしていない野生株マウスを用いて、同様に、EMCV5(脳心筋炎ウィルス)を感染させた。
【0065】
図5のように、感染4日目において、野生株のマウス(WT)に比較して、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼノックアウトマウス(KO)は有意に、ウィルスの発現量が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
畜産を含む農業における家畜を対象として、本発明技術が実施できれば、ウィルス感染への抵抗性を獲得できるので、感染した場合の生存率も向上し、肥育期間での家畜個体の死亡による損失を抑制できる。
また、本技術を適用すれば、感染家畜からのウィルスの増殖が抑制できるので、密集して家畜を飼育する飼育舎内でウィルス感染が発生した場合においても、速やかに、感染個体を隔離処分できれば、口蹄疫ウィルスなどの蔓延力が強いウィルス感染に対しても、拡大・蔓延を抑制でき、経済的損失を防止できる。
【0067】
また、本技術を適用し育種した動物は、抗ウィルス剤やワクチンなどのウィルス感染対策としての高価な薬剤を用いる必要がなく、経済的なウィルス感染対策となる。また、薬剤を動物に与えないので、肉・卵など食品中に薬剤の残留がなく、食品の安全性が向上し、食品産業・食品加工業にとってメリットがある。
【0068】
愛玩動物に適用した場合は、ウィルスなど微生物感染による個体死亡率(およびリスク)を低下させることができ、結果として、愛玩期間を延ばすことができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィルス感染性疾患などの免疫抵抗性疾患に対して抵抗性形質を付与した動物の育種方法であって、人を除く動物のインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の喪失または発現を抑制することを特徴とする疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法

【請求項2】
トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子をノックアウトすることを特徴とする請求項1記載の疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法

【請求項3】
トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の遺伝子発現の制御領域遺伝子をノックアウトすることを特徴とする請求項1記載の疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法

【請求項4】
トランスジェニック動物の作製操作によりインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ遺伝子の構造遺伝子または制御領域遺伝子を組換えることを特徴とする請求項1記載の疫抵抗性疾患耐性もった動物の育種方法


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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