説明

免疫比濁法及びそのための試薬

【課題】 被検試料中の乳びによる影響を回避して免疫比濁法の正確性を向上させることができる免疫比濁法及びそのための試薬、並びに免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法及びそのための添加剤を提供すること。
【解決手段】 免疫比濁法では、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤の存在下で抗原抗体反応を行なう。免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法では、免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を共存させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫比濁法及びそのための試薬、並びに免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法及びそのための添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査において、生体試料を被検試料とする場合には様々な反応系に影響を及ぼす物質が存在する。代表的なものとしてヘモグロビン、ビリルビン、乳び(高脂検体)、リウマチ因子などが知られている。その作用としては、反応系への直接作用や光学測定での使用波長に吸収を持つことによる。干渉物質の影響とは測定値の正確性に影響するものである。
【0003】
特に乳びについては、血中に存在するトリグリセリド(TG)が異常高濃度となることである。TGとはグリセリンに3つの脂肪酸がエステル結合した脂溶性の高い物質であり、血中ではカイロミクロン(CM)や超低密度リポ蛋白(VLDL)と呼ばれる蛋白とリン脂質の集合体のコア部分に存在している。
【0004】
これら乳びの干渉作用の回避に最も一般的な方法として界面活性剤の添加がある。しかし、この方法は多量の界面活性剤の使用が必要となるため、免疫比濁用試薬の適用に制限がある。また、被検試料を前希釈することにより干渉物質の濃度を低下させる方法もあるが、希釈操作により干渉物質と共に目的物質濃度も低下するため、試料中の低濃度物質を検出する測定系では利用が困難となる。更に、希釈操作が加わることにより測定時間も延長し、迅速性に欠けるものとなる。
【0005】
【特許文献1】特開平8-233816号公報
【特許文献2】特開平10-213582号公報
【特許文献3】特開2001-188065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、被検試料中の乳びによる影響を回避して免疫比濁法の正確性を向上させることができる免疫比濁法及びそのための試薬、並びに免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法及びそのための添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を、免疫比濁法の反応液中に共存させることにより、被検試料中の乳びによる影響を回避し免疫比濁法の正確性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤の存在下で抗原抗体反応を行なう免疫比濁法を提供する。また、本発明は、免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を共存させることを含む、免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法を提供する。さらに本発明は、感作粒子又は抗血清、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素、非イオン界面活性剤及び緩衝液を含む免疫比濁法用試薬を提供する。さらに本発明は、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を含む、免疫比濁法における、乳びによる干渉作用の防止用添加剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法に従って免疫比濁法を行なうことにより、被検試料中の乳びの影響が回避され、免疫比濁法の正確性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
免疫比濁法とは、抗原抗体反応により生じる、反応液の濁度を光学的な吸光度の変化に基づいて、被検試料中の抗原又は抗体を検出又は定量する方法である。測定の感度を高めるため、通常、被検試料中の目的抗原又は目的抗体と抗原抗体反応する抗体又は抗原が、ラテックス粒子のような粒子上に不動化されており(感作粒子)、抗原抗体反応により該感作粒子が凝集することに起因する光学的性質の変化に基づいて被検物質の検出又は定量が行なわれる(これは免疫凝集法、ラテックス粒子を用いる場合は特にラテックス凝集法とも呼ばれる)。もっとも、感作粒子を用いることなく、抗原抗体反応での濁度を検出する抗血清もしばしば用いられる。これは免疫比ろう法とも呼ばれ、本発明で言う「免疫比濁法」には免疫比ろう法も包含される。
【0011】
本発明の方法に供される被検試料としては、特に限定されないが、通常、乳びにより免疫比濁法の正確性が低下する恐れがある試料が好ましく、例えば、血清、血漿やその希釈物のようなCM、VLDL等のリポ蛋白を含むかもしれない試料を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0012】
本発明に用いるアルブミンの起源は何ら限定されるものではなく、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ等のいずれの動物であってもよく、特に、広く用いられているウシ血清アルブミン(BSA)を好適に用いることができる。さらに組み替え体等の合成アルブミンの使用も可能である。使用量としては、抗原抗体反応を行なう反応系中の終濃度で0.3〜5w/v%が好ましい。
【0013】
本発明に用いる非イオン性界面活性剤はポリオキシアルキレン又はその誘導体が好ましく、特に、ポリオキシエチレン誘導体及びポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。また、非イオン性界面活性剤の分子量は、100〜5000が好ましく、さらには、500〜1000が好ましい。このような非イオン界面活性剤は種々市販されており(例えば、花王株式会社のエマルゲンシリーズ等)、市販の非イオン界面活性剤を好適に用いることができる。使用量としては、抗原抗体反応を行なう反応系中の終濃度で0.05〜5w/v%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜2w/v%である。
【0014】
本発明に用いられるリパーゼ活性を有する酵素としては、種々のリパーゼを利用することができる。リパーゼ活性を有しておれば、その起源は何でもよく、微生物由来でも動植物由来でもよい。種々のリパーゼが市販されており、このような市販のリパーゼを好適に用いることができる。使用量としては、抗原抗体反応を行なう反応系中のリパーゼ活性で100〜50000U/Lが好ましい。なお、リパーゼ活性の測定方法は周知であり、例えば、書籍「酵素ハンドブック」P416−417(朝倉書店 1982年出版)に記載された方法により測定することができる。また、リパーゼ活性と同時にコレステロールエステラーゼ活性を有する酵素も種々知られており、このようなリパーゼ活性とコレステロールエステラーゼ活性の両者を有する酵素を好ましく利用することができる。この場合の酵素の使用量は、抗原抗体反応を行なう反応系中のコレステロールエステラーゼ活性として100〜50000U/Lが好ましい(ただし、この範囲でかつリパーゼ活性が上記範囲に入ることが好ましい)。なお、コレステロールエステラーゼ活性の測定方法は周知であり、例えば、書籍「酵素ハンドブック」P420−421(朝倉書店 1982年出版)に記載された方法により測定することができる。
【0015】
免疫比濁法に用いられる感作粒子に感作される抗体又は抗原は特に限定されるものではなく、いずれの抗体又は抗原であってもよく、従来と同様、例えば、C−反応性蛋白(CRP)、リウマトイド因子(RF)、フェリチン(FER)及びミオグロビン(Mb)並びにこれらに対する抗体を例示することができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、免疫比ろう法の場合に用いられる抗血清の対応抗原も何ら限定されるものではない。
【0016】
上記した、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤の共存下において免疫比濁法を行なうことを除き、本発明の免疫比濁法は従来と同様に行なうことができる。すなわち、反応液中の感作粒子の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01〜0.5w/v%程度であり、反応は、通常、1℃〜56℃、好ましくは37℃で1分間〜10分間程度行なわれる。もっとも、反応条件はこれらに限定されるものではない。また、反応媒体としては、通常、グリシン緩衝液等の各種緩衝液が用いられる。反応溶液の濁度又は吸光度を反応の開始前と開始後一定時間後測定し、又は、反応の開始前及び開始後経時的に測定し、濁度若しくは吸光度の変化の大きさ(エンドポイント法)又は変化の速度(レート法)に基づき、被検物質の検出又は定量を行なう。なお、免疫比濁法は、手動により行なうこともできるし、市販の自動装置を用いて行うこともできる。
【0017】
本発明の方法では、まず、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を含む緩衝液と被検試料を反応させる第1工程を行い、次いで、感作粒子又は抗血清を添加し抗原抗体反応させる第2工程を行うことが、本発明の効果を最大限に得る上で好ましい。この場合、第1工程、第2工程とも、特に限定されないが、反応時間はそれぞれ、通常1分間〜10分間、好ましくは1分間〜5分間、反応温度は通常、1℃〜56℃、好ましくは37℃で行なわれる。
【0018】
本発明の免疫比濁法では、CMとVLDLのリポ蛋白に界面活性剤が作用して構造変化が起き、リポタンパク質のコア部分に存在するTGがリパーゼにてグリセリンと脂肪酸へ分解され、脂溶性の脂肪酸がアルブミンに吸着されることで乳びの干渉作用(すなわち、免疫比濁法の正確性に対する悪影響)が回避される。
【0019】
本発明は、また、緩衝液と、感作粒子又は抗血清と、アルブミンと、リパーゼ活性を有する酵素と非イオン界面活性剤とを含む免疫比濁法用試薬をも提供する。上記のように、2段階で反応を行なう場合には、免疫比濁法用試薬は、緩衝液を少なくとも含み、被検試料と先に混合される第1試薬と、緩衝液及び感作粒子又は抗血清を少なくとも含み、被検試料と第1試薬の混合物に添加される第2試薬とから成る2液系試薬であることが操作性及び試薬の安定性の観点から好ましく、この場合、アルブミンと、リパーゼ活性を有する酵素と非イオン界面活性剤は、前記第1試薬中に含まれる。この場合、第1試薬中の各々の物質濃度は、特に限定されないが、通常、非イオン性界面活性剤の使用量は0.1〜5w/v%が好ましく、アルブミンの使用量は0.1〜5w/v%が好ましく、リパーゼ、コレステロールエステラーゼの使用量は100〜50000U/Lが好ましい。なお、これらの試薬の他に、希釈液を用いて被検試料を先ず希釈してもよい。
【0020】
上記の通り、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を免疫比濁法の反応液に共存させることにより、乳びによる干渉作用が回避されるので、本発明は、免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を共存させることを含む、免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法をも提供するものである。また、本発明は、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を含む、免疫比濁法における、乳びによる干渉作用の防止用添加剤をも提供するものである。
【0021】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
試薬
以下の組成からなるフェリチン測定用ラテックス比濁用試薬を調製した。
第1試薬
170mM グリシン緩衝液 pH 8.3
50mM EDTA
100mM 塩化ナトリウム
0.5 % 非イオン界面活性剤ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル(花王社製エマルゲン709(商品名)
1 % BSA
10000U/L リパーゼ活性 (シュードモナス由来コレステロールエステラーゼ(リパーゼ活性とコレステロールエステラーゼ活性の両方を有する酵素、商品名CEN(旭化成社製))
【0023】
第2試薬
170mM グリシン緩衝液 pH 7.3
100mM 塩化ナトリウム
0.1 % 抗ヒトフェリチン抗体を感作したラテックス粒子
【実施例2】
【0024】
測定例
被検試料 無作為に抽出した臨床検体1例(血清)
試料調製 (試料1)被検試料に生理食塩液1/10量添加
(試料2)被検試料に静注用脂肪乳液(10%溶液)1/10量添加
測定方法 東芝TBA−30R型自動分析装置による測定
【0025】
自動分析装置による測定
前述の調製した試料10μLに第1試薬200μLを添加し、37℃で攪拌混合し、5分放置後、第2試薬100μLを添加し、更に37℃で攪拌混合した後、約2分間の凝集反応を570nmの吸光度変化量として測定した(実施例2)。同様に第1試薬に比較用緩衝液(実施例1の第1試薬から非イオン界面活性剤、BSA及び酵素を除外したもの)を用いた場合(比較例1)についても測定を行い吸光度変化量を求めた。またあらかじめ既知濃度のヒトフェリチンを含む試料を実施例2又は比較例1と同一条件で測定し、濃度と吸光度変化量の関係を表す検量線を作成しておいた。実施例2及び比較例1において求めたそれぞれの測定値(ng/mL)を比較した。
【0026】
結果を下記表1に示す。試料1と試料2は生理食塩液と静注用脂肪乳液がそれぞれ1/10添加されているが、FER濃度は同一であるので、静注用脂肪乳液を添加したことによる乳びの影響を受けずに測定することで2つの試料の測定値は等しい値を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示されるように、比較例1では、試料1と2の測定値差が83ng/mLに達するのに対し、本発明の実施例2では、測定値差は1ng/mLであり、本発明の方法の使用により、測定正確性が大幅に向上していることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤の存在下で抗原抗体反応を行なう免疫比濁法。
【請求項2】
前記酵素が、コレステロールエステラーゼ活性をさらに有する請求項1記載の免疫比濁法。
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレン又はその誘導体である請求項1又は2記載の免疫比濁法。
【請求項4】
前記抗原抗体反応を行なう系において、前記アルブミンの濃度が0.3〜5w/v%、前記酵素の濃度がリパーゼ活性で100〜50000U/L、前記非イオン界面活性剤の濃度が0.05〜5w/v%である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の免疫比濁法。
【請求項5】
前記非イオン界面活性剤の分子量が100〜5000である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の免疫比濁法。
【請求項6】
前記酵素がコレステロールエステラーゼ活性をさらに有し、前記抗原抗体反応を行なう系において、該酵素の濃度が、コレステロールエステラーゼ活性で100〜50000U/Lである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の免疫比濁法。
【請求項7】
被検試料を、前記アルブミン、前記酵素及び前記非イオン界面活性剤と接触させる第1工程と、次いで、第1工程後の被検試料を感作粒子又は抗血清と抗原抗体反応させる第2工程とを含む請求項1ないし6のいずれか1項に記載の免疫比濁法。
【請求項8】
被検試料が、血清または血漿である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の免疫比濁法。
【請求項9】
免疫比濁法を行なう抗原抗体反応系に、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を共存させることを含む、免疫比濁法における乳びによる干渉作用の防止方法。
【請求項10】
感作粒子又は抗血清、アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素、非イオン界面活性剤及び緩衝液を含む免疫比濁法用試薬。
【請求項11】
アルブミン、リパーゼ活性を有する酵素及び非イオン界面活性剤を含む、免疫比濁法における、乳びによる干渉作用の防止用添加剤。


【公開番号】特開2006−71574(P2006−71574A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258157(P2004−258157)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)