説明

入力電力の監視装置及び入力電力の監視方法

【課題】1次側と2次側の通信を要するため導入が非常に困難である電源の入力電力の監視を、既存のシステムに後付で搭載ができる装置により安全規格上問題を生じさせずに実現する。
【解決手段】電源の入力電力の監視対象となる電源回路の2次側の出力電力を読み取る。読み取った前記出力電力を、前記電源回路の1次側の入力電力に変換する。変換した前記1次側の入力電力を通知する。また、前記電源回路の1次側には測定機構を有していないように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は入力電力監視回路とその演算モデル(Power Monitoring Circuit and the Formula)に関し、より詳細には、AC/DC電源回路における入力電力の監視・測定に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の飛躍的なコンピュータ機器の普及および半導体事業の発展、またデータの大容量化に伴い消費電力は上昇していく傾向にある。
【0003】
一方で地球環境への配慮が盛んに叫ばれ、省エネルギ化が急務の課題となっている。
【0004】
このような背景に鑑みて、各メーカでは電源の変換効率向上はもちろん機器の効率運用に焦点を当て、電力監視機能を用いたソリューションに関心が集まっている。
【0005】
電源は低負荷よりも高負荷で使用した方が高効率となる特性が一般的であり、電源と駆動機器が1対1の関係でなくn+nの電源で複数の機器を運用する研究なども行われている。
【0006】
そして、このような運用を行う場合、1つの電源がどの程度の電力で運用されているかをリアルタイムで認識できることにより総合的な運用効率を高めることができる。
【0007】
例えばホスティングサービスなどデータセンタでは限られた電力設備・スペース内で複数台のサーバをいかに高集積で運用できるかに関心があり、効率運用のソリューションは必須の技術と言える。
【0008】
さらにこうしたニーズを受けEnergy Star規格などの公的機関でも、誤差15%以内での電力監視と電源の80%以上の効率化が必須になってきている。
【0009】
このような、どの程度の電力で運用されているかをリアルタイムで認識するための技術として例えば特許文献1乃至4に記載の技術がある。
【0010】
ここで、一概に電力監視と言っても、電源にとっては出力電力と入力電力が存在する。
【0011】
前者の出力電力は電源2次側またはシステム内部で容易に後付でも読み取る機構が開発可能である。
【0012】
システムとの電力情報通信する手段としては一般的にI2C_Busがあり、近年ではPSMI,PM_Busのような電力監視専用の通信規格も存在する。
【0013】
一方で後者の入力電力は電源の1次側に測定回路を有する必要がある。
【0014】
しかし電源回路は多くの安全規格に提唱されているように1次側と2次側を完全絶縁する必要があるため、1次側の測定情報を2次側に伝えるためには光通信など入力と出力の絶縁が保たれた機構を用いる必要がある。
【0015】
こうした機構は後付での簡易な導入は困難であり、入力電力監視対応の専用電源を開発しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−192758号公報
【特許文献2】特開2007−135265号公報
【特許文献3】特開2006−184063号公報
【特許文献4】特開2003−44180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述のように入力電力を監視するには1次側に監視機構を設け、2次側と通信することが必須であり複雑な専用電源の開発が必要となるため、開発コスト増加、単価増大などのインパクトを生じる。
【0018】
また電力監視機能は1次側の監視機構を持たない既存のシステムに関しては後付での適応が困難である。
【0019】
また近年の技術では後付としてACタップ部分などで電力監視をする手法もあるが、いずれも導入が容易でなくコスト的な問題が浮上する。
【0020】
そこで、本発明は安全規格上問題を生じさせず、手軽に後付で入力電力を監視することが可能な、入力電力の監視装置及び入力電力の監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第1の観点によれば、監視対象となる電源回路の2次側の出力電力を読み取る電力監視手段と、前記電力監視部が読み取った前記出力電力を、前記電源回路の1次側の入力電力に変換する演算手段と、前記演算手段が変換した前記1次側の入力電力を通知する通信手段と、を備え、前記電源回路の1次側には測定機構を有していないことを特徴とする監視装置が提供される。
【0022】
本発明の第2の観点によれば、監視対象となる電源回路の2次側の出力電力を読み取る電力監視ステップと、前記電力監視部が読み取った前記出力電力を、前記電源回路の1次側の入力電力に変換する演算ステップと、前記演算ステップが変換した前記1次側の入力電力を通知する通信ステップと、を備え、前記電源回路の1次側については直接測定しないことを特徴とする監視方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来の既存電源では困難な入力電力を後付で手軽に監視することが実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の基本的構成を表す図である。
【図2】本発明の実施形態の基本的動作を表す図である。
【図3】一般的な電源の効率曲線を表す図である。
【図4】本発明の実施形態における1次関数近似モデルを表す図である。
【図5】本発明の実施形態における1次関数近似モデルのシミュレーション結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の実施形態の概略を説明する。本発明の実施形態は、概略、後付モジュールでも手軽に監視可能な2次側の出力電力を読み取り、入力電力に変換するというものである。特に、本実施形態では一般的なプログラムICで広く適応できるように、1次関数の近似モデルを用いた変換法を提案する。
【0026】
なお、本実施形態を説明するにあたり本明細書、図面及び特許請求の範囲で用いる各符号は以下の意味を有するものとする。
Vo: 電源の出力電圧(V)
Vr: 低抵抗Rカソード側の電圧(V)
R: 低抵抗Rの抵抗成分(Ohm)
Io: 電源の出力電流(A)。Io=(Vo−Vr)/R
Po: 電源の出力電力(W)。Po=Vo*Io
Pi: 電源の入力電力(W)
E: 電源の効率(%(百分率))。E=Po/Pi
Lx: 本実施形態で提案する1次関数近似モデルの定数損失成分(W)
Ly{Po=a}: 本実施形態で提案する1次関数近似モデルにおける、電源の最大定格に対してPo=a(%)の時の損失成分(W)。
Pi{Po=a}: 電源の最大定格に対してPo=a(%)のときの入力電力Pi
Po{Po=a}: 電源の最大定格に対してPo=a(%)の時の出力電力Po
次に、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0027】
本発明の実施形態である電源監視回路100は、図1に示すように電力監視部101、演算部102及び通信部103を有する。また、電源監視回路100は、AC/DC電源回路200及びシステム(Load)300に接続されている。なお、電源監視回路100は、今回「回路」として構成されているが、これを「モジュール」として構成することも可能である。
【0028】
電力監視部101は一般的な手法のように低抵抗の電圧降下分を測定して電源の出力する出力電力を演算する部分である。
【0029】
演算部102は上記の電力監視部101が演算した出力電力を入力電力に変換する演算回路である。
【0030】
通信部103は演算部102で得られた入力電力をシステム(Load)300に出力する機構である。なお、システム(Load)300に出力するに際しては、例えばI2C_Busを用いることが考えられるが、これはあくまで例示である。本実施形態においては、必ずしもI2C_Busを用いる必要はない。
【0031】
[動作の説明]
次に、本実施形態の動作を図2のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
本発明の実施形態である電源監視回路100は電源の出力側に実装される。
【0033】
まず、監視部101が電源から出力される電圧Voおよび低抵抗Rカソード電圧Vrを検知し電流Io=(Vo−Vr)/Rを測定する(ステップS10)。そして、監視部101は、この測定結果より電源の出力電力Po=Vo*Ioを計算する(ステップS11)。
【0034】
次に、演算部102がプログラムに応じて出力電力Poを入力電力Piに変換する(ステップS12)。
【0035】
変換プログラムに関しては図3のような一般的な電源の効率曲線を別途実測にて求め、効率Eを用いてPi=Po/Eで変換動作を行う。
【0036】
本実施形態では特にこの変換プログラムICに関して、図4のような入力電力Piと出力電力Poの関係モデルを提案する。
【0037】
この関係モデルについて説明する。電源の損失成分には定数損失成分Lxと最大定格のa(%)で電源を駆動した場合の出力電力に応じて変化する損失成分Ly{Po=a}があると仮定する。
【0038】
なおここでは1次関数近似のため、Ly{Po=a}は出力電力に比例する損失とする。この点、実際のところLEDやICの動作に必要な出力電力に依存することなく消費される駆動電力や出力電力に応じて変化する内部損失が電源回路には存在する傾向にある。
【0039】
まずは定数損失成分Lxを出力電力Po=0(W)の時の入力電力Piを測定し、Lx=Pi{Po=0}より求める。
【0040】
100V/200V系の両環境内で使用する場合は電源回路内のPFC効率を考慮するため複数の常用入力電圧にて測定し、その平均値にてLxを求める。
【0041】
次に出力電圧に応じて変化する損失成分Ly{Po=a}を求める。
【0042】
出力電力最大定格時(Po{Po=100})の入力電力Pi{Po=100}を測定し、次式により最大出力時のLy{Po=100}を求める。
【0043】
Ly{Po=100}=Pi{Po=100}−Po{Po=100}−Lx
これよりLy{Po=a}はLy{Po=a}=Ly{Po=100}/Po{Po=100}*Poの関数となる。
【0044】
よって入力電力Piと出力電力Poの関係は、Pi=(1+Ly{Po=100}/Po{Po=100})Po+Lxで表すことができる。
【0045】
実際に上記補正式を用いて図3の効率曲線を近似した一実現例のシミュレーション結果を図5に示す。
【0046】
これより極低負荷を除く実領域電力において誤差5%以内での入力電力監視が可能であるシミュレーション結果より得られ、実用性に関して指針を示すことができた。
【0047】
最後に上記の(ステップS12)ようにして演算部102で求めた入力電力情報などを通信部103にてI2C_Busなどを用いてシステム側へ通信する(ステップS13)。
【0048】
なお、上述の実施形態を実施するにあたり、演算部102に大容量のICもしくはマイクロコントローラを用いることができる場合、任意関数である電源の入出力効率曲線を乱数表でプログラムする手法や最小2乗法で高次関数に近似してプログラムすることにより、より監視誤差の精度を高めることができる。
【0049】
本発明の実施形態により従来の既存電源では困難な入力電力を後付で手軽に監視可能となる。
【0050】
なお、本発明の実施形態である電源監視回路は、ハードウェアにより実現することもできるが、コンピュータをその電源監視回路として機能させるためのプログラムをコンピュータがコンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み込んで実行することによっても実現することができる。
【0051】
また、本発明の実施形態による電源監視方法は、ハードウェアにより実現することもできるが、コンピュータにその方法を実行させるためのプログラムをコンピュータがコンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み込んで実行することによっても実現することができる。
【0052】
また、上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は非常に簡素で安価な構成で既存のシステムに適応ができる。一例としては、入力電力の監視は高集積のサーバ運用などに際して、カスタマーの電力設備のブレーカ容量に対してリアルタイムで電力の管理が可能となる、といった利用が考えられる。
【符号の説明】
【0054】
100 電力監視回路
101 電力監視部
102 演算部
103 通信部
200 AC/DC電源回路
300 システム(Load)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象となる電源回路の2次側の出力電力を読み取る電力監視手段と、
前記電力監視部が読み取った前記出力電力を、前記電源回路の1次側の入力電力に変換する演算手段と、
前記演算手段が変換した前記1次側の入力電力を通知する通信手段と、を備え、
前記電源回路の1次側には測定機構を有していないことを特徴とする監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の監視装置において、
予め求めてある定数損失成分と、前記出力電力に応じて変化する損失成分と、を用いることにより補正式を作成し、前記演算手段における変換は、前記補正式を用いることにより行われることを特徴とする監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の監視装置において、
前記定数損失成分は、以下の数式
Lx=Pi{Po=0}
但し、
Lx=定数損失成分 [W]
Pi=前記電源回路の入力電力 [W]
Po=前記電源回路の出力電力 [W]
Pi{Po=a}=前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)のときの入力電力Pi [W]
によって算出することを特徴とする監視装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の監視装置において、
前記出力電力に応じて変化する損失成分は、以下の数式
Ly{Po=a}=Ly{Po=100}/Po{Po=100}*Po
但し、
Io=前記電源回路の出力電流 [A]
Po=前記電源回路の出力電力 [W]
Pi=前記電源回路の入力電力 [W]
Lx=定数損失成分 [W]
Ly{Po=a}=前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の損失成分 [W]
Po{Po=a}=前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の出力電力Po [W]
によって算出することを特徴とする監視装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の監視装置において、
前記入力電力と前記出力電力の関係は、以下の数式
Pi=(1+Ly{Po=100}/Po{Po=100})Po+Lx
但し、
Io= 前記電源回路の出力電流 [A]
Po= 前記電源回路の出力電力 [W]
Pi= 前記電源回路の入力電力 [W]
Lx= 定数損失成分 [W]
Ly{Po=a}= 前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の損失成分 [W]
Po{Po=a}= 前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の出力電力Po [W]
によって表すことができることを特徴とする監視装置。
【請求項6】
監視対象となる電源回路の2次側の出力電力を読み取る電力監視ステップと、
前記電力監視部が読み取った前記出力電力を、前記電源回路の1次側の入力電力に変換する演算ステップと、
前記演算ステップが変換した前記1次側の入力電力を通知する通信ステップと、を備え、
前記電源回路の1次側については直接測定しないことを特徴とする監視方法。
【請求項7】
請求項6に記載の監視方法において、
予め求めてある定数損失成分と、前記出力電力に応じて変化する損失成分と、を用いることにより補正式を作成し、前記演算ステップにおける変換は、前記補正式を用いることにより行われることを特徴とする監視方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の監視方法において、
前記定数損失成分は、以下の数式
Lx=Pi{Po=0}
但し、
Lx=定数損失成分 [W]
Pi=前記電源回路の入力電力 [W]
Po=前記電源回路の出力電力 [W]
Pi{Po=a}=前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)のときの入力電力Pi [W]
によって算出することを特徴とする監視方法。
【請求項9】
請求項6乃至8の何れか1項に記載の監視方法において、
前記出力電力に応じて変化する損失成分は、以下の数式
Ly{Po=a}=Ly{Po=100}/Po{Po=100}*Po
但し、
Io=前記電源回路の出力電流 [A]
Po=前記電源回路の出力電力 [W]
Pi=前記電源回路の入力電力 [W]
Lx=定数損失成分 [W]
Ly{Po=a}=前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の損失成分 [W]
Po{Po=a}=前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の出力電力Po [W]
によって算出することを特徴とする監視方法。
【請求項10】
請求項6乃至9の何れか1項に記載の監視方法において、
前記入力電力と前記出力電力の関係は、以下の数式
Pi=(1+Ly{Po=100}/Po{Po=100})Po+Lx
但し、
Io= 前記電源回路の出力電流 [A]
Po= 前記電源回路の出力電力 [W]
Pi= 前記電源回路の入力電力 [W]
Lx= 定数損失成分 [W]
Ly{Po=a}= 前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の損失成分 [W]
Po{Po=a}= 前記電源回路の最大定格に対してPo=a(%)の時の出力電力Po [W]
によって表すことができることを特徴とする監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−22022(P2011−22022A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167737(P2009−167737)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000168285)エヌイーシーコンピュータテクノ株式会社 (572)