説明

内燃機関のガス流動制御装置

【課題】機関運転状態に応じて、吸気流動制御弁による吸気ポートの開口部の位置を変更可能とする。
【解決手段】内燃機関の吸気ポート2に、閉弁時に吸気ポート2の一部を閉塞することによって、ガス流動を制御する吸気流動制御弁10を設ける。アクチュエータにより駆動される回転軸11の回転位置に応じて、第1の閉弁状態(A)と、第2の閉弁状態(C)とで、吸気ポート2の開口部(15,16)の位置を異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のガス流路内のガス流動を制御するガス流動制御弁を備えたガス流動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の吸気ポート等のガス流路には、ガス流動を制御するためのスワール制御弁やタンブル制御弁等のガス流動制御弁が設けられている。例えば特許文献1には、各気筒の吸気ポートに吸気流動制御弁が設けられている。この吸気流動制御弁は、閉弁時に吸気ポートの一部を閉塞することによって、吸入空気(吸気)のスワール成分を強化するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−103066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の内燃機関のガス流動制御弁では、このガス流動制御弁の閉弁時におけるガス流路の開口部の位置が同じであり、機関運転状態等に応じて吸気ポートの開口部の位置を変更することができない。このために、例えば以下のような問題を生じる。
【0005】
高負荷時には、ウォータジャケット内を循環する冷却水の温度はシリンダヘッドに形成される吸気ポートの壁面よりも高くなるために、吸気ポートの壁面は冷却水により加熱された状態となっている。従って、例えば低負荷時における吸気温度の上昇を促進するように吸気ポートの開口部がウォータジャケットの近傍に配置されている構造の場合、高負荷時に、吸気流動制御弁の閉弁による吸気流動の強化によって吸気ポートから吸気への熱移動が促進されて、吸入空気温度が上昇し、ノッキングが発生し易くなって、耐ノック性が悪化する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、内燃機関のガス流路に設けられ、閉弁時に上記ガス流路の一部を閉塞することによって、ガス流動を制御するガス流動制御弁と、このガス流動制御弁の閉弁時におけるガス流路の開口部の位置を変更可能な開口位置変更手段と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガス流動制御弁の閉弁時におけるガス流路の開口部の位置を変更することが可能となる。従って、例えば本発明を吸気ポートに設けられる吸気流動制御弁に適用した場合に、吸入空気に対する温度要求に応じてガス流路の開口部の位置を切り換えることにより、ガス流動制御弁の閉弁時における吸気温度の過度な上昇を抑制して、耐ノック性の悪化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例に係る吸気流動制御弁の回転軸の回転位置に応じた姿勢を示しており、(A)が第1の閉弁状態、(B)が開弁状態、(C)が第2の閉弁状態を示す断面図。
【図2】上記実施例の吸気流動制御弁が適用される直列4気筒内燃機関の吸気ポートの近傍を示す断面図。
【図3】上記実施例の第1の閉弁状態を示す断面図。
【図4】上記実施例の第2の閉弁状態を示す断面図。
【図5】ノッキングの発生に応じて開口部の位置を切り換える場合の各特性値の変化を示すタイミングチャート。
【図6】吸気ポート壁面に分布する低温部の近傍にポート冷却用通路を設けた例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を直列4気筒内燃機関に適用した実施例について説明する。内燃機関のシリンダヘッド1には、4つの気筒に対応して4つの吸気ポート2が気筒列方向Fに並設されている。各吸気ポート2は、図示していないが、下流側端部で吸気弁を介して燃焼室に接続しており、この吸気ポート2を経由して吸入空気(吸気)が燃焼室へ供給される。
【0010】
そして、各吸気ポート2には、ガス流動を制御するガス流動制御弁として、吸気ポート2の一部を閉塞することにより、吸気のスワール流動を強化する吸気流動制御弁10が設けられている。この吸気流動制御弁10は、回転軸11に取り付けられ、この回転軸11から径方向一側に延在して、吸気ポート2のほぼ半分を閉塞するように、吸気ポートの略半分の大きさの薄板状の略半円形状をなしている。
【0011】
この吸気流動制御弁10が取り付けられる回転軸11は、吸気ポート2における気筒列方向Fの中央を横断するように気筒列方向Fと直交する方向に延在している。各気筒の回転軸11は、それぞれ傘歯車12を介して一本の駆動軸13に連結されており、この駆動軸13の一端には、この駆動軸13を回転駆動するモータ等のアクチュエータ14が設けられている。従って、アクチュエータ14により駆動軸13を回転駆動することによって、傘歯車12を介して全ての回転軸11が回転して、各回転軸11に取り付けられた吸気流動制御弁10がそれぞれ開閉作動する。このアクチュエータ14の動作は、各種制御処理を記憶及び実行するエンジンコントロールユニット(図示省略)により制御される。
【0012】
図1は、回転軸11の回転位置に応じた吸気流動制御弁10の姿勢を示しており、(A)が第1の閉弁状態、(B)が開弁状態、(C)が第2の閉弁状態を表している。開弁状態(B)から回転軸11を所定方向に90度回転させると第1の閉弁状態(A)となり、この第1の閉弁状態(A)から更に所定方向に180度回転させるか、あるいは開弁状態(B)から上記所定方向とは逆方向に90度回転させると、第2の閉弁状態(C)となる。
【0013】
開弁状態(B)では、薄板状の吸気流動制御弁10が吸気ポート2の長手方向に沿うように配置されており、つまり吸気ポート2の長手方向視で回転軸11上に吸気流動制御弁10が配置される形となる。従って、吸気ポート2のうちで、回転軸11の一方側(図1の左側)の部分15と他方側の部分16の双方が吸気流動制御弁10により閉塞されることなく開放された状態となっている。
【0014】
これに対し、図1(A)に示す第1の閉弁状態においては、吸気流動制御弁10により吸気ポート2の一方側の部分15が閉塞されており、他方側の部分16のみが開放している。つまり回転軸11よりも一方側の部分に閉塞部、他方側の部分16に開口部が位置している。一方、図1(C)に示す第2の閉弁状態においては、吸気流動制御弁10により吸気ポート2の他方側の部分16が閉塞されており、一方側の部分15のみが開放している。つまり、この第2の閉弁状態においては、上記第1の閉弁状態とは逆に、回転軸11よりも一方側の部分15に開口部、他方側の部分16に閉塞部が位置している。
【0015】
このように本実施例では、回転軸11の回転位置に応じて、開口部(15,16)の位置が異なる第1の閉弁状態と第2の閉弁状態とに切換可能であり、つまり機関運転状態に応じて吸気ポート2の開口部(15,16)の位置を異ならせることが可能である。
【0016】
例えば、図3及び図4に示すように、各気筒の吸気ポート2の壁面に、低温部17と、この低温部17よりも吸気ポート壁面の温度が高い高温部18と、が分布する場合には、この温度分布に応じた形で開口部の位置が各気筒毎に設定される。
【0017】
具体的には、図3に示す第1の閉弁状態では、低温部17側が閉塞部、高温部18側が開口部となるように、各気筒の吸気流動制御弁10の開口部の位置が設定されている。この例では、#1気筒と#2気筒との間、及び#3気筒と#4気筒の間に低温部17が位置し、その反対側に高温部18が位置しているために、#1気筒と#3気筒では、低温部17に近い回転軸11の他方側(図の右側)の部分16に吸気流動制御弁10が位置し、#2気筒と#4気筒では、低温部17に近い回転軸11の一方側(図の左側)の部分15に吸気流動制御弁10が位置するように設定されている。このため、#1,#3気筒と#2,#4気筒とで回転方向が逆向きとなるように、傘歯車12の噛み合い方向を異ならせている。
【0018】
図4に示す第2の閉弁状態は、図3に示す第1の閉弁状態から回転軸11を180度回転させた状態であり、この第2の閉弁状態では、低温部17側が開口部、高温部18側が閉塞部となる。つまり、#1気筒と#3気筒では、高温部18に近い回転軸11の一方側(図の左側)の部分15に吸気流動制御弁10が位置し、#2気筒と#4気筒では、高温部18に近い回転軸11の他方側(図の右側)の部分16に吸気流動制御弁10が位置するように設定されている。
【0019】
図5は、本実施例に係る吸気流動制御弁10の作動の一例を示すタイミングチャートである。この例では、吸気流動制御弁10を閉弁状態とする機関運転条件の下で、ノックセンサ(図示省略)により検知されるノッキング信号に基づいて、吸気流動制御弁10による開口部の位置を変化させている。なお、ノッキング信号に代えて、機関要求負荷、スロットル開度TVO、あるいは吸入空気の要求温度に基づいて開口部の位置を切り換えるようにしても良い。
【0020】
スロットル開度TVOが小さく、ノッキングの発生しない低負荷時(t0〜t1)、つまり高吸気温度要求時には、高温部18の側を開口部とする第1の閉弁状態(図3参照)として、高温部18の側に吸入空気を通過させることにより、吸入空気の温度上昇を促進して燃焼安定性の向上等を図ることができる。一方、スロットル開度TVOが大きく、ノッキングが発生する高負荷時(t1〜)、つまり低吸気温度要求時には、低温部17の側を開口部とする第2の閉弁状態(図4参照)に切り換えて、低温部17の側を吸入空気が通過するように開口部を設定することによって、吸気ポート2から吸入空気への加熱を抑制して、ノッキングの発生を抑制・回避することができる。
【0021】
図6に示す例では、低温部17の吸気ポート2の壁面温度をより積極的に低下させるように、低温部17の近傍となる#1気筒と#2気筒の間の領域、並びに#3気筒と#4気筒の間の領域に、冷却水が通流するポート冷却用通路19を設けている。このポート冷却用通路19は、機関本体を冷却するために冷却水が循環するウォータジャケット等の冷却水回路とは別に独立して設けられ、冷却水回路を循環する冷却水よりも低温の冷却水を流すことで、低温部17における吸気ポートの壁面温度を更に効果的に低下させることが可能となる。
【0022】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形・変更を含むものである。例えば、ガス流動制御弁としては、上記実施例のように吸気ポートに設けられてスワール流動成分を強化するものに限らず、タンブル流動成分を強化するものであってもよく、また、排気通路や排気還流通路などの内燃機関の他のガス通路に設けられるガス流動制御弁に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0023】
1…シリンダヘッド
2…吸気ポート
10…吸気流動制御弁(ガス流動制御弁)
11…回転軸
12…傘歯車
14…アクチュエータ
15,16…開口部、閉塞部
17…低温部
18…高温部
19…ポート冷却用通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のガス流路に設けられ、閉弁時に上記ガス流路の一部を閉塞することによって、ガス流動を制御するガス流動制御弁と、
このガス流動制御弁の閉弁時におけるガス流路の開口部の位置を変更可能な開口位置変更手段と、
を有することを特徴とする内燃機関のガス流動制御装置。
【請求項2】
上記開口位置変更手段は、上記ガス流動制御弁が取り付けられ、上記ガス流路の中央部を横断する回転軸と、この回転軸を回転駆動するアクチュエータと、を有し、
上記アクチュエータによる回転軸の回転位置に応じて、上記ガス流路の回転軸よりも一方の側に上記ガス流動制御弁が位置する第1の閉弁状態と、上記ガス流路の回転軸よりも他方の側に上記ガス流動制御弁が位置する第2の閉弁状態と、を切換可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のガス流動制御装置。
【請求項3】
上記ガス流路が内燃機関の各気筒毎に設けられる複数の吸気ポートであり、各気筒毎に、上記ガス流動制御弁の閉弁時における開口部の位置が設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関のガス流動制御装置。
【請求項4】
上記シリンダヘッドにおける吸気ポートの壁面には、低温部と、この低温部よりも温度の高い高温部と、が分布しており、
上記吸気ポートの壁面の温度分布に応じて、上記吸気ポートの開口部の位置が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関のガス流動制御装置。
【請求項5】
低負荷時には高温部側に開口部が位置し、高負荷時には低温部側に開口部が位置するように、上記開口部の位置を制御することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関のガス流動制御装置。
【請求項6】
上記シリンダヘッドには、冷却水が通流するポート冷却用通路が上記低温部に近接して設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載の内燃機関のガス流動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113173(P2013−113173A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258390(P2011−258390)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)