説明

内燃機関用バルブ構造

【課題】中空バルブを採用しつつ、内燃機関の燃焼時において該中空バルブが軸線方向に弾性変形することを可及的に防止し得る構造簡単な内燃機関用バルブ構造を提供する。
【解決手段】中空形状のステム部材におけるフレア部は拡径部及び縮径部を有する。該拡径部及び縮径部によって挟持されるように蓋部材がかしめによって前記ステム部材に連結されている。燃焼室及びガスラインを遮断する際に弁座及び前記拡径部の外周面が当接するシール領域は、前記燃焼室とは反対側の端部が、前記蓋部材と前記拡径部の内周面とが接合された接合領域における前記燃焼室側の端部と前記軸線方向に関し同一位置又は該端部より前記燃焼室から離間された位置に配置されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン又は2輪車用エンジンや汎用エンジン等の内燃機関に適用されるバルブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関における燃料ガス供給ライン及び燃焼ガス排出ラインにそれぞれ開閉弁として介挿されるバルブを中空形状とし且つ中空部にクーラントを封入する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
詳しくは、特許文献1に記載のバルブは、軸部及び該軸部から拡径されたフレア部を有する中空のステム部材と、該ステム部材の中空部を閉塞するように前記フレア部に溶接された蓋部材とを備えている。
【0004】
このように、前記バルブを中空形状とすることによりバルブ自体を軽量化でき、該バルブを付勢するコイルスプリングや該バルブを前記コイルスプリングの付勢力に抗して移動させるバルブ駆動機構の小型化及び簡略化を図ることができる。
【0005】
しかしながら、従来の中空バルブにおいては、内燃機関の燃焼動作時における前記バルブの弾性変形に対して十分な考慮がされていなかった。
即ち、前記バルブは、内燃機関の燃焼動作中に、通常、燃料ガス供給ライン側では約450℃、燃焼ガス排出ライン側では約800℃の高温に晒される。
前記従来の中空バルブは、前記中空部内に金属ナトリウムを封入することでバルブ自体の温度上昇を抑えて、該バルブの弾性変形防止を図っているが、前記金属ナトリウムの作用のみによって該バルブの熱変形が生じないような温度にまで温度上昇を抑えることは困難である。
特に、前記従来の中空バルブのように、前記中空部が溶接によって密閉されていると、温度上昇に伴い該中空部の内圧が急激に上昇することになり、該内圧によってバルブが大きく弾性変形する虞がある。
【0006】
さらに、前記燃焼室は燃焼時に80気圧程度まで圧力が上昇する。つまり、前記バルブは、自身の温度上昇による弾性変形に加えて、前記燃焼室からの圧力によっても弾性変形する虞がある。特に、前記バルブを中空形状とする場合には、該バルブは、前記燃焼室からの圧力によって軸線方向に大きく弾性変形する虞がある。
【0007】
このようなバルブの弾性変形を考慮して、前記バルブ駆動機構と前記バルブの外端部との間にはクリアランスが設けられているが、該クリアランスを大きく取りすぎると前記バルブ駆動機構が前記バルブを押圧する際の騒音が増大するという不都合が生じる。
他方、前記クリアランスを小さくし過ぎると、前記バルブの弾性変形に伴って、前記バルブ駆動機構が該バルブによって突き上げられることになり、該バルブ駆動機構を構成するカム部材等の損傷を招くことになる。
【特許文献1】実開平5−50008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、中空バルブを採用しつつ、内燃機関の燃焼時において該中空バルブが軸線方向に弾性変形することを可及的に防止し得る構造簡単な内燃機関用バルブ構造の提供を、一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するために、シリンダヘッドに設けられた弁座と当接することで燃焼室及びガスラインを遮断し且つ前記弁座から離間することで前記燃焼室及び前記ガスラインを連通し得るように、前記シリンダヘッドに軸線方向移動可能に装着されるバルブと、前記バルブを前記弁座へ向けて付勢するコイルスプリングとを備え、前記バルブの前記燃焼室とは反対側の外端部を押圧し得るように配設されたバルブ駆動機構によって該バルブが前記コイルスプリングの付勢力に抗して前記燃焼室側へ押動されると前記燃焼室及び前記ガスラインが連通され且つ前記バルブ駆動機構による押動力が作用しない際には前記コイルスプリングによって前記バルブが前記弁座に着座して前記燃焼室及び前記ガスラインが遮断されるように構成された内燃機関用バルブ構造を提供する。
前記バルブは、前記シリンダヘッドに形成された軸線孔に直接又は間接的に軸線方向移動可能に挿通された軸部及び該軸部から前記燃焼室側へ延び、自由端部が開放端とされたフレア部を有する中空のステム部材と、前記開放端を閉塞するように前記フレア部にかしめにより固着される蓋部材とを有する。
前記フレア部は、前記燃焼室側へ行くに従って拡径された拡径部であって、外周面が前記弁座と当接し得るように構成された拡径部と、変曲点を挟んで該拡径部から前記燃焼室側に延びる縮径部とを有し、前記蓋部材は、前記拡径部及び前記縮径部によって挟持される。
前記弁座と前記拡径部の外周面とが当接するシール領域は、前記燃焼室とは反対側の端部が、前記蓋部材と前記拡径部の内周面とが接合された接合領域における前記燃焼室側の端部と前記軸線方向に関し同一位置又は該端部より前記燃焼室から離間された位置に配置されている。
【0010】
好ましくは、前記シール領域は、前記燃焼室とは反対側の端部が、前記接合領域における前記燃焼室とは反対側の端部と前記軸線方向に関し同一位置又は該端部より前記燃焼室から離間された位置に配置され得る。
【0011】
好ましくは、前記シール領域における燃焼室側の端部は、前記接合領域における燃焼室とは反対側の端部よりも軸線方向に関し前記燃焼室に近接され得る。
【0012】
好ましくは、前記蓋部材と前記拡径部の内周面との間には、前記蓋部材の径方向外方への弾性変形を吸収し得る緩衝部材が介挿される。
好ましくは、前記ステム部材及び前記蓋部材によって画される内部空間に粉状クーラントが収容される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る内燃機関用バルブ構造は、中空形状とされたステム部材におけるフレア部の拡径部及び縮径部に蓋部材をかしめによって連結されていると共に、対応するガスライン及び燃焼室の間を遮断する際に前記拡径部の外周面と弁座とが当接するシール領域は、前記燃焼室とは反対側の端部の軸線方向位置が、前記蓋部材と前記拡径部の内周面とが接合する接合領域における前記燃焼室側の端部の軸線方向位置と同一又は該軸線方向位置よりも前記燃焼室から離間するように構成されている。
斯かる構成によれば、内燃機関の燃焼時における前記蓋部材の径方向外方への弾性変形を抑えることができ、これにより、前記バルブの軸線方向他方側(前記燃焼室から離間する側)への弾性変形量を可及的に低減化することができる。
従って、バルブの軸線方向他端部と該他端部に作用するバルブ駆動機構との間のクリアランス量を小さくして該バルブ駆動機構の騒音を低減化しつつ、前記バルブから前記バルブ駆動機構に不要な押圧力が作用することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る内燃機関用バルブ構造の好ましい実施の形態につき、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態に係る内燃機関用バルブ構造100が適用された内燃機関500(エンジン)の一例を示す部分模式断面図である。
【0015】
図1に示す内燃機関500は、燃焼室610,該燃焼室610に燃料ガスを供給する為の燃料ガス供給ライン620及び該燃焼室610において燃焼された後のガスを排出する為の燃焼ガス排出ライン630が形成されたシリンダヘッド600を有しており、前記内燃機関用バルブ構造100は前記シリンダヘッド600に適用されている。
【0016】
前記内燃機関用バルブ構造100は、前記燃料ガス供給ライン620及び前記燃焼ガス排出ライン630を開閉制御し得るように前記シリンダヘッド600に軸線方向移動可能に装着されたバルブ1と、前記バルブ1を付勢するコイルスプリング60とを備えており、前記バルブ1の外端部(前記燃焼室610とは反対側の端部)を押圧し得るように配設されたバルブ駆動機構700によって前記バルブ1が前記コイルスプリング60の付勢力に抗して軸線方向一方側(前記燃焼室に近接する側)へ押動されると前記燃焼室610及び対応する前記ガスライン620,630が連通し、且つ、前記バルブ駆動機構700による押動力が作用しない際には前記コイルスプリング60によって前記バルブ1が前記シリンダヘッド600に形成された弁座601に着座して前記燃焼室610及び対応する前記ガスライン620,630を遮断するようになっている。
【0017】
詳しくは、前記燃料ガス供給ライン620及び前記燃焼ガス排出ライン630は、それぞれ、ポート620P,630Pを介して前記燃焼室610に連通されている。
そして、前記バルブ1は、前記シリンダヘッド600に設けられた弁座601に着座することで対応する前記ポート620P,630Pを閉塞し且つ前記弁座601から離間することで対応する前記ポート620P,630Pを開放し得るように、前記シリンダヘッド600に軸線方向Xに関し移動可能に装着されている。
【0018】
図2に、前記バルブ1の縦断面図を示す。
図1及び図2に示すように、前記バルブ1は、中空のステム部材10と、該ステム部材10に連結される蓋部材20とを有している。
【0019】
前記ステム部材10は、前記シリンダヘッド600に形成された軸線孔に直接又は間接的に軸線方向移動可能に挿通された軸部11と、前記軸部11の一端側から前記燃焼室610へ向けて延びるフレア部12とを有しており、前記フレア部12が開放端とされた中空部15を有している。
【0020】
本実施の形態においては、前記軸部11は、前記軸線孔に固設された中空のバルブガイド650(図1参照)に軸線方向移動可能に挿通されている。前記バルブガイド650における軸線孔の上端開口と前記軸部11との間はシール部材660によってシールされている。
【0021】
前記ステム部材10は、例えば、鉄鋼,耐熱鋼,ステンレス及びチタン合金等の板状部材を絞り加工することによって、形成することができる。
なお、図1及び図2中の符号90は、前記中空部15の前記開放端とは反対側の端部を閉塞する為に前記軸部11の外端部に挿入されたプラグであり、該プラグ90は前記軸部11の中空部15に挿入された状態で、かしめ処理されている。
【0022】
前記蓋部材20は、前記ステム部材10の中空部15を閉塞するように該ステム部材10にかしめによって連結されている。
詳しくは、前記蓋部材20が前記ステム部材10にかしめによって連結された後の状態において、前記ステム部材10のフレア部12が、前記軸部11の軸線Xを基準にして、一端側(即ち、中空部15の開口端側)へ行くに従って拡径された拡径部12aと、変曲点12bを挟んで該拡径部12aから一端側に延びる縮径部12cとを有するようになっている。
【0023】
前記縮径部12cは、縦断面視において、前記拡径部12aに対して交差するように構成されている。
即ち、前記拡径部12a及び前記縮径部12cは、図2に示すように、前記拡径部12aの縦断面視外形線と前記縮径部12cの縦断面視外形線とが略平行ではなく、所定角度で交差するように構成されており、且つ、前記蓋部材20は斯かる構成の拡径部12a及び縮径部12cによって挟持されるようになっている。
【0024】
斯かる構成の前記バルブ1は、前記ステム部材10を中空形状とすることにより軽量化を図ることに加えて、内燃機関作動中における前記中空部15内の圧力上昇を有効に防止することができる。
【0025】
即ち、前記バルブ1は前記燃焼室610に臨むように配設されている為、該バルブ1は、内燃機関の作動中において、通常、燃料ガス供給ライン620では約450℃、燃焼ガス排出ライン630では約800℃の高温に晒されることになる。
従って、温度上昇に伴う前記中空部15の内圧上昇によって前記中空部15が膨張するように該ステム部材10が弾性変形する虞がある。
特に、ステム部材10の軽量化を図る為に、該ステム部材10の肉厚を薄くした場合にはその危険性が高くなる。
【0026】
この点に関し、前述の通り、前記バルブ1においては、前記拡径部12a及び前記縮径部12cによって挟持されるように該蓋部材20がかしめによって前記ステム部材10のフレア部12に連結されると共に、かしめた後の状態の縦断面視において、前記縮径部12cが前記拡径部12aに対して交差するように構成されている。
斯かる構成を備えている為、内燃機関の作動時において、該バルブ1が高温に晒されると、前記拡径部12aと前記縮径部12cとの間の変曲点12bが前記軸部11の軸線Xを基準にして径方向外方へ熱膨張し、これにより、前記ステム部材10と前記蓋部材20との間に、前記中空部15を外部に連通する隙間が生じることになる。
従って、温度上昇に伴う前記中空部15の内圧上昇を有効に防止することができ、これにより、温度上昇に起因する前記ステム部材10の弾性変形を防ぐことができる。
【0027】
さらに、前記バルブ1においては、前記燃焼室610に開口する前記隙間によって、前記中空部15の内圧を逃がしている。従って、該バルブ1内へのエンジンオイルの混入防止及び該バルブ1の破損防止を有効に図りつつ、前記中空部15の内圧上昇を抑えることができる。
即ち、前記軸部11の他端部(前記フレア部12とは反対側の端部)近傍(図1のA部)に内圧逃がし孔を設けると、エンジンオイルがバルブ1の中空部15内に流入する虞がある。
また、前記軸部11から前記フレア部12に至る部分に前記内圧逃し孔を設けると、該内圧逃し孔付近が応力集中の場となり、ステム部材10が破損する虞がある。
【0028】
これに対し、本実施の形態においては、前記内圧逃がし孔として、前記ステム部材10と前記蓋部材20との間に生じる前記隙間を用いている。即ち、前記バルブ1においては、前記内圧逃がし孔が前記燃焼室110内に位置している。従って、該バルブ1内へのエンジンオイルの混入防止及び該バルブ1の破損防止を有効に図りつつ、前記中空部15の内圧上昇を抑えることができる。
【0029】
好ましくは、縦断面視において、前記縮径部12cを一端側(自由端側)へ行くに従って前記軸部11の軸線Xに近接するように構成し得る。
斯かる構成を備えることにより、前記ステム部材10の熱膨張時に前記変曲点12bが前記軸部11の軸線Xを基準にして径方向外方へ膨張し易くなり、これにより、前記隙間をより確実に得ることができる。
【0030】
好ましくは、前記ステム部材10を、前記蓋部材20よりも熱膨張係数の大きい材料で形成することができる。
例えば、前記ステム部材10をSUS305(温度範囲0℃〜100℃における線熱膨張係数16×10−6/℃)で形成し、且つ、前記蓋部材20をSUH3(温度範囲0℃〜100℃における線熱膨張係数11×10−6/℃)で形成することができる。
このように、前記ステム部材10を前記蓋部材20よりも熱膨張し易い材料で形成することにより、内燃機関の作動時において、前記ステム部材10と前記蓋部材20との間に前記隙間を確実に形成することができる。
【0031】
前記コイルスプリング60は、図1に示すように、前記バルブ1を軸線方向他方側の遮断方向へ向けて付勢するように構成されている。
具体的には、該コイルスプリング60は、基端部が前記シリンダヘッド600の外表面に係止され、且つ、先端部が前記軸部11に設けられた係止部材50に係止されている。
【0032】
本実施の形態においては、前記コイルスプリング60は、前記バルブガイド650を囲繞するように前記基端部から軸線方向他方側へ延びる大径部61と、前記大径部61から軸線方向他方側へ行くに従って縮径され且つ前記先端部で終焉するテーパ部65とを有している。
前記大径部61は、内径が前記バルブガイド650の外径よりも大径とされている。
一方、前記テーパ部65は、前記先端部における内径が前記バルブガイド650の外径よりも小径とされるように構成されている。
【0033】
このように、本実施の形態においては、基端側の前記大径部61の内径を前記バルブガイド650の外径よりも大径とすることにより、前記コイルスプリング60と前記バルブガイド650との干渉を防止しつつ、前記先端部の内径を前記バルブガイド650の外径よりも小径とすることにより、前記コイルスプリング60の先端部を前記バルブ1の軸部11の外表面に可及的に近接させている。
つまり、本実施の形態においては、前記コイルスプリング60の先端部の係止位置が、前記軸部11の軸線Xを基準にして可及的に径方向内方に位置するように構成しており、該先端部を係止する前記係止部材50の小型化及び軽量化を可能としている
【0034】
前記内燃機関用バルブ構造100は、前述の通り、前記バルブ駆動機構700によって、対応する前記ポート620P,630Pを連通又は遮断させるようになっている。
詳しくは、前記駆動機構700は、軸線回りに回転駆動される駆動軸710と、該駆動軸によって回転駆動されるカム部材720とを備えている。
そして、前記カム部材720が作動的に前記コイルスプリング60の付勢力に抗して前記バルブ1を軸線方向一方側(前記シリンダヘッド600に近接する方向)へ押動する際には、前記バルブ1が対応する前記ポート620P,630Pを前記燃焼室610に連通させる開放位置をとり、且つ、前記カム部材720による押動力が付与されない際には、前記バルブ1が前記コイルスプリング60の付勢力によって対応する前記ポート620P,630Pを前記燃焼室610に対して遮断させる遮断位置をとるようになっている。
なお、図1は、前記燃料ガス供給ライン620及び前記燃焼ガス排出ライン630が共に、対応する前記バルブアッセンブリ100によって前記燃焼室610に対して遮断されている状態を示している。
【0035】
本実施の形態に係る内燃機関用バルブ構造100は、前記内燃機関500の燃焼時における前記燃焼室610の内圧上昇によって、前記バルブ1が軸線方向他方側へ弾性変形することを有効に防止する為に、前記構成に加えて下記構成を備えている。
図3に、図2におけるIII部拡大図を示す。
【0036】
図3に示すように、前記弁座601及び前記拡径部12aの外周面は、軸線方向一方側(前記燃焼室610に近接する側)の燃焼室側端部605bと軸線方向他方側(前記燃焼室610から離間する側)のガスライン側端部605aとの間に延びるシール領域605において、互いに当接するように構成されている。
一方、前記蓋部材20と前記拡径部12aの内周面とは、軸線方向一方側(前記燃焼室610に近接する側)の燃焼室側端部25bと軸線方向他方側のガスライン側端部25aとの間に延びる接合領域25において、互いに当接するように構成されている。
なお、該接合領域25は、好ましくは、1mm以上の長さを有するものとされる。
【0037】
斯かる構成において、本実施の形態に係るバルブ構造100は、図3に示すように、前記シール領域605の前記ガスライン側端部605aが、軸線方向位置に関し、前記接合領域25における前記燃焼室側端部25bと同一又は他方側(前記燃焼室610から離間する側)に位置するように、構成されており、これにより、前記内燃機関500の燃焼時に前記ステム部材10が軸線方向他方側(即ち、前記燃焼室610から離間する方向)へ弾性変形することを有効に防止し得るようになっている。
【0038】
即ち、前記内燃機関500の燃焼時に前記燃焼室610の内圧は、通常、80気圧まで上昇する。この際、前記燃焼室610に臨むように配置されている前記蓋部材20には軸線方向一方側から軸線方向他方側へ向いた圧力が作用し、これにより、該蓋部材20は、軸線方向他方側へ撓むように弾性変形すると共に、径方向外方へ伸長するように弾性変形する。
【0039】
前述の通り、前記蓋部材20は、軸線方向一方側へ行くに従って拡径された前記拡径部12aによって挟持されているから、該蓋部材20が径方向外方へ伸長すると、前記拡径部12aには前記接合領域25に対して直交する方向(図3中の矢印α)の力が作用する。
このような方向の力が前記蓋部材20から前記拡径部12aへ作用すると、前記ステム部材10は軸線方向他方側(即ち、前記燃焼室610から離間する方向)へ弾性変形しようとする。
この点に関し、本実施の形態においては、前述の通り、前記シール領域605の軸線方向他方側のガスライン側端部605aが前記接合領域25の軸線方向一方側の燃焼室側端部25bと同一若しくは該端部25bよりも軸線方向他方側(前記燃焼室610から離間する側)に位置されている。
【0040】
斯かる構成によれば、前記燃焼室610の内圧上昇に起因する前記蓋部材20の弾性変形のうち径方向外方への弾性変形を前記シール領域605によって有効に抑えることができ、これにより、前記ステム部材10の軸線方向他方側への伸長を防止することができる。
従って、前記バルブ1の他端部と前記バルブ駆動機構700との間のクリアランスを狭めて該バルブ駆動機構700の駆動時における静粛性を向上させつつ、該バルブ駆動機構700に前記バルブ1から不要な力が作用することを有効に防止できる。
【0041】
前記効果は、有限要素法に基づく解析によっても確認される。
図4に、前記シール領域605の前記ガスライン側端部605a及び前記接合領域25の前記燃焼室側端部25bの軸線方向距離Aを変化させた場合の前記ステム部材10の弾性変形量の変化割合を有限要素法に基づき解析した結果を示す。
なお、図4中において、A=0は前記シール領域605の前記ガスライン側端部605aと前記接合領域25の前記燃焼室側端部25bとが軸線方向に関し同一位置に位置する場合であり、A<0は前記ガスライン側端部605aが前記燃焼室側端部25bよりも軸線方向他方側(前記燃焼室610から離間する側)に位置する場合であり、A>0は前記ガスライン側端部605aが前記燃焼室側端部25bよりも軸線方向一方側(前記燃焼室610に近接する側)に位置する場合である。
【0042】
図4から明らかなように、前記シール領域605の前記ガスライン側端部605aを、前記接合領域25の前記燃焼室側端部25bと軸線方向同一位置又は該燃焼室側端部25bよりも前記燃焼室610から離間位置に配置することにより、前記ステム部材10の弾性変形量(突き上げ量)を減少させることができる。
【0043】
なお、前述の通り、本実施の形態に係る内燃機関用バルブ構造100においては、前記内燃機関500の燃焼作動時には、前記ステム部材10と前記蓋部材20との間に隙間が生じるようになっている。
斯かる構成を備えることにより、前記燃焼室610の内圧によって前記蓋部材20が撓むように弾性変形しても、前記隙間の存在によって前記中空部15の内圧が上昇することを有効に防止できる。
【0044】
好ましくは、図5に示すように、前記シール領域605の前記ガスライン側端部605aを、前記接合領域25の前記ガスライン側端部25aと軸線方向同一位置又は該ガスライン側端部25aよりも軸線方向他方側(前記燃焼室610から離間する側)に配置することができる。
斯かる構成によれば、前記蓋部材20の径方向外方への弾性変形を前記シール領域605によってより有効に抑えることができ、これにより、前記ステム部材10の軸線方向他方側への伸長をより防止することができる。
【0045】
図3及び図5に示す構成において、より好ましくは、前記シール領域605の前記燃焼室側端部605bを、前記接合領域25の前記ガスライン側端部25aよりも軸線方向一方側(前記燃焼室610に近接する側)に配置させることができ(図5参照)、これにより、前記蓋部材20の径方向外方への弾性変形をより有効に抑えることができる。
【0046】
さらに、前記シール領域605の前記燃焼室側端部605bを前記接合領域25の前記ガスライン側端部25aよりも前記燃焼室610に近接する側に配置させる構成においては、前記シール領域605の前記燃焼室側端部605bを前記接合領域25の前記燃焼室側端部25bよりも軸線方向他方側(前記燃焼室610から離間する側)に配置させることができ(図5参照)、これにより、前記バルブ1の軸線方向他方側への弾性変形防止を図りつつ、該弁座601の可及的な小型化を図ることができる。
【0047】
さらに、好ましくは、図6に示すように、前記種々の構成において、前記蓋部材20と前記拡径部12aの内周面との間に、リング状の緩衝部材80を設けることができる。
斯かる緩衝部材80を設けることにより、前記蓋部材20の径方向外方への弾性変形を吸収し、該蓋部材20の径方向外方への弾性変形による前記ステム部材10への作用を有効に防止することができる。
より好ましくは、前記緩衝部材80は、前記ステム部材10及び前記蓋部材20よりも表面硬さの小さい材料によって形成される。斯かる材料としては、例えば、耐熱樹脂,Cu系合金,アルミ系合金又は鉛系合金が例示される。
【0048】
好ましくは、該バルブ1は、前記ステム部材10及び前記蓋部材20によって画される前記内部空間15に収納される粉状クーラント(図示せず)を備えることができる。
前記紛状クーラント付きのバルブ1は、前記ステム部材10の中空部15内に前記紛状クーラントを予め収容させた状態で、前記蓋部材20をかしめによって該ステム部材10に連結させることにより、形成される。
斯かる紛状クーラントとしては、例えば、平均粒径1μm以上の窒化アルミニウム又はセラミックスの粒状体を用いることができる。
前記紛状クーラントを備えることにより、前記バルブの温度上昇を有効に低減化させることができる。
【0049】
なお、本実施の形態においては、前記蓋部材20をかしめのみによって前記フレア部12に連結するように構成したが、内燃機関の作動中における熱膨張によって該蓋部材20と該フレア部12との間に隙間が生じる限り、該蓋部材20の周縁部の一部を前記フレア部12に対して溶接することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係る内燃機関用バルブ構造が適用された内燃機関(エンジン)の一例を示す部分模式断面図である。
【図2】図2は、図1に示す内燃機関用バルブ構造におけるバルブの縦断面図である。
【図3】図3は、図2におけるIII部拡大図である。
【図4】図4は、前記実施の形態に係る内燃機関用バルブ構造におけるステム部材の弾性変形量を有限要素法に基づき解析した結果を示すグラフである。
【図5】図5は、前記実施の形態に係る内燃機関用バルブ構造の変形例の部分縦断面図である。
【図6】図6は、前記実施の形態に係る内燃機関用バルブ構造の他の変形例の部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 バルブ
10 ステム部材
11 軸部
12 フレア部
12a 拡径部
12b 変曲点
12c 縮径部
20 蓋部材
25 接合領域
25a 接合領域の軸線方向他方側の端部(接合領域のガスライン側端部)
25b 接合領域の軸線方向一方側の端部(接合領域の燃焼室側端部)
60 コイルスプリング
80 緩衝部材
600 シリンダヘッド
601 弁座
605 シール領域
605a シール領域の軸線方向他方側の端部(シール領域のガスライン側端部)
605b シール領域の軸線方向一方側の端部(シール領域の燃焼室側端部)
610 燃焼室
620 燃料ガス供給ライン
630 燃焼ガス排出ライン
700 バルブ駆動機構
X 軸部の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに設けられた弁座と当接することで燃焼室及びガスラインを遮断し且つ前記弁座から離間することで前記燃焼室及び前記ガスラインを連通し得るように、前記シリンダヘッドに軸線方向移動可能に装着されるバルブと、前記バルブを前記弁座へ向けて付勢するコイルスプリングとを備え、前記バルブの前記燃焼室とは反対側の外端部を押圧し得るように配設されたバルブ駆動機構によって該バルブが前記コイルスプリングの付勢力に抗して前記燃焼室側へ押動されると前記燃焼室及び前記ガスラインが連通され且つ前記バルブ駆動機構による押動力が作用しない際には前記コイルスプリングによって前記バルブが前記弁座に着座して前記燃焼室及び前記ガスラインが遮断されるように構成された内燃機関用バルブ構造であって、
前記バルブは、前記シリンダヘッドに形成された軸線孔に直接又は間接的に軸線方向移動可能に挿通された軸部及び該軸部から前記燃焼室側へ延び、自由端部が開放端とされたフレア部を有する中空のステム部材と、前記開放端を閉塞するように前記フレア部にかしめにより固着される蓋部材とを有し、
前記フレア部は、前記燃焼室側へ行くに従って拡径された拡径部であって、外周面が前記弁座と当接し得るように構成された拡径部と、変曲点を挟んで該拡径部から前記燃焼室側に延びる縮径部とを有し、
前記蓋部材は、前記拡径部及び前記縮径部によって挟持されており、
前記弁座と前記拡径部の外周面とが当接するシール領域は、前記燃焼室とは反対側の端部が、前記蓋部材と前記拡径部の内周面とが接合された接合領域における前記燃焼室側の端部と前記軸線方向に関し同一位置又は該端部より前記燃焼室から離間された位置に配置されていることを特徴とする内燃機関用バルブ構造。
【請求項2】
前記シール領域は、前記燃焼室とは反対側の端部が、前記接合領域における前記燃焼室とは反対側の端部と前記軸線方向に関し同一位置又は該端部より前記燃焼室から離間された位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用バルブ構造。
【請求項3】
前記シール領域における燃焼室側の端部は、前記接合領域における燃焼室とは反対側の端部よりも軸線方向に関し前記燃焼室に近接されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用バルブ構造。
【請求項4】
前記蓋部材と前記拡径部の内周面との間には、前記蓋部材の径方向外方への弾性変形を吸収し得る緩衝部材が介挿されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の内燃機関用バルブ構造。
【請求項5】
前記ステム部材及び前記蓋部材によって画される内部空間に粉状クーラントが収容されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の内燃機関用バルブ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−327357(P2007−327357A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157357(P2006−157357)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000175722)サンコール株式会社 (96)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)