説明

内燃機関用点火コイル

【課題】応力緩和材の拡散を防止するとともに、鉄心の上面側から発生するクラックの伸展をも確実に防止することのできる内燃機関用点火コイルを提供する。
【解決手段】一次コイル210および二次コイル220と、その二つのコイルを磁気的に結合させる一次コイル210の内周を通るセンタ鉄心110と、二次コイル220の外周を通るサイド鉄心120とを有し、一次コイル210、二次コイル220、センタ鉄心110およびサイド鉄心120を高電圧から絶縁するための絶縁材500に埋設させ、二次コイル220で発生する高電圧を高圧端子130を介して点火プラグに伝達する内燃機関用点火コイルにおいて、前記サイド鉄心120を覆う鉄心カバー300を設け、この鉄心カバー300の下面には凹部310を設け、この凹部310に応力緩和材700を塗布した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関の点火プラグに高電圧を供給し、火花放電を行うための内燃機関用点火コイルに関し、特に、絶縁を保持する絶縁材に発生するクラックの伸展を抑制する内燃機関用点火コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関用点火コイルは、自動車等のエンジンルーム内に取付けられる場合が多く、他のエンジン部品等から要求される寸法的制限が厳しく、小型化が進んでいる。また、それに伴って鉄心に発生する熱応力によって生じるクラックを防止する手段が種々提案されている。
【0003】
内燃機関用点火コイルは、例えば図4に示すように、閉磁路を形成するセンタ鉄心110とサイド鉄心120、センタ鉄心110の外周に巻回され通電されることによりセンタ鉄心110とサイド鉄心120を励磁する一次コイル210、一次コイル210の外周に巻回された二次コイル220等から構成されるコイル−鉄心組立体100、およびこれらを絶縁している絶縁材500が、絶縁ケース600内に収納されている。
【0004】
そこで、サイド鉄心120の熱応力を緩和するために、応力緩和材700が前記絶縁ケース600に形成された段部610に配設されている。そして、内燃機関用点火コイルは、さらに二次コイル220で誘起された高電圧を点火プラグに供給する高圧端子130、この高圧端子130に圧接されるスプリング140、このスプリング140を内収するラバー150、アダプタ160、ブーツ170等から構成されており、前記ブーツ170は、点火プラグをシールする。このような構成を備える内燃機関用点火コイルの一例は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−86439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、内燃機関用点火コイルにおいては、周囲温度の変化および点火コイルの動作に伴う自己発熱により、内部部品の構成材料による線膨張係数の差から熱応力が発生することが避けられない。例えば、内燃機関用点火コイルにおける構成部品の殆どが合成樹脂製であるのに対し、鉄心の線膨張係数は著しく小さい。このため、鉄心の外周角部に最大の熱応力が発生する。この熱応力により鉄心に接している絶縁材にクラックが発生し、その後、そのクラックが伸展して点火コイル表面に露出することがあった。
【0007】
一方、前記特許文献1に記載された内燃機関用点火コイルでは、鉄心の底面部側においてのみ応力が緩和されることになっていた。そこで、応力が緩和されていない部位では、依然としてクラックが発生していた。また、このクラックが伸展し、点火コイル表面にまで達する可能性があった。さらに、応力緩和構造がシリコーンゴムを充填して硬化させる必要があるため、工数がかかり高価な構造となっているのが現状であった。
【0008】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、応力緩和材の拡散を防止するとともに、鉄心の上面側から発生するクラックの伸展をも確実に防止することのできる内燃機関用点火コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、少なくとも一次コイルおよび二次コイルと、その二つのコイルを磁気的に結合させる前記一次コイルの内周を通るセンタ鉄心と、前記二次コイルの外周を通るサイド鉄心とを有し、前記一次コイル、二次コイル、センタ鉄心およびサイド鉄心を高電圧から絶縁するための絶縁材に埋設させ、二次コイルで発生する高電圧を高圧端子を介して点火プラグに伝達する内燃機関用点火コイルであって、前記サイド鉄心に、当該サイド鉄心を覆う鉄心カバーを設け、該鉄心カバーの下面に、凹部を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した内燃機関用点火コイルであって、前記鉄心カバーの凹部に、応力緩和材を塗布したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内燃機関用点火コイルでは、応力緩和材を塗布する際に、この応力緩和材が周辺に拡がってしまうことを確実に防止することができる。このため、応力緩和材を所望の厚さで塗布することができずに、熱応力によって発生するクラックの伸展を抑止する充分な効果を得られなかったり、所望の厚さを得るために予定以上の応力緩和材を消費してコストの増加を招くこともない。
【0012】
また、鉄心の上面角部から発生するクラックの伸展を、応力緩和材において確実に阻止することが可能となる。したがって、クラックが点火コイル表面にまで達してしまい、絶縁不良や高圧出力の低下等の不具合を招くことがなく、安定した性能を持続し、耐久性に優れて高寿命化した内燃機関用点火コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る内燃機関用点火コイルの要部を示す概略縦断面図である。
【図2】図1におけるA部の拡大図である。
【図3】図1におけるB部の拡大図である。
【図4】従来の内燃機関用点火コイルの概略を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に、内燃機関用点火コイルは、自動車などのエンジンルーム内に取り付けられており、他のエンジン部品などから要求される寸法的制限が厳しく、小型化が求められている。そして、内燃機関用点火コイルは、少なくとも上面が開放し、下部に高圧タワー部を有する絶縁ケースと、この絶縁ケース内に収容されるコイル−鉄心組立体とで構成されている。
【0015】
図1は、内燃機関用点火コイルの要部を示す概略縦断面図である。先ず、図1に示すように、コイル−鉄心組立体100は、一次コイルボビンと、この一次コイルボビンの外周に巻線を巻回して形成され、一端が図示しない一の低圧端子に接続されている一次コイル210と、一次コイルボビンおよび一次コイル210の外側に位置する二次コイルボビンと、この二次コイルボビンの外周に巻線を巻回して形成され、一端が図示しない他の低圧端子に接続されている二次コイル220と、この二次コイル220および一次コイル210を磁気的に結合させ、閉磁路を形成するセンタ鉄心110およびサイド鉄心120とで構成されている。また、サイド鉄心120は、絶縁ケース600内にコイル−鉄心組立体100が収容された状態における上部が、鉄心カバー300で覆われている。
【0016】
そして、センタ鉄心110が一次コイル210および二次コイル220を貫通し、サイド鉄心120がセンタ鉄心110、一次コイル210および二次コイル220の外側に配設されることにより、一次コイル210への通電により二次コイル220および一次コイル210を磁気的に結合させ、閉磁路を形成している。
【0017】
また、コイル−鉄心組立体100の構成部品である二次コイル220の高圧側には、二次コイルボビンに取り付けられた接続導体230の他端が接続されている。そして接続導体230の一端231が、絶縁ケース600の高圧タワー部620に嵌着されている高圧端子130に接続されている。なお、内燃機関用点火コイルは、絶縁ケース600内にコイル−鉄心組立体100が収容された状態で、絶縁ケース600内にエポキシ樹脂などの絶縁材500が注入され、この絶縁材500が硬化することにより、絶縁ケース600内に収容されたコイル−鉄心組立体100の各部品の絶縁が維持されている。
【0018】
ところで、前記したように、内燃機関用点火コイルを構成する各部材の線膨張係数が異なるために生じる熱応力によって絶縁材500にクラックが発生してしまい、各部の絶縁が損なわれることがあった。そこで、従来から、サイド鉄心120の下面側に応力緩和材700を配設して、サイド鉄心120の下面側に発生するクラックの伸展を防止している。
【0019】
しかしながら、クラックは、サイド鉄心120の下面側から発生するばかりではなく、上面側から発生する場合もあり、このクラックが絶縁ケース600の壁面に達し、さらには絶縁材500の注型面にまで達することがある。
【0020】
そこで、この実施例においては、サイド鉄心120を覆う鉄心カバー300を設け、この鉄心カバー300の下面に凹部310を設けるとともに、この凹部310に応力緩和材700を塗布している。
【0021】
具体的には、図2に示すように、鉄心カバー300の下面に、断面図形状が矩形の凹部310を設けている。すなわち、凹部310を形成するように、鉄心カバー300の下面から下向きに延出する内側側壁320の下端が、サイド鉄心120の上面121に臨んでいる。一方、鉄心カバー300の下面から下向きに延出する外側側壁330の下端は、サイド鉄心120の上面外側角部122を超えて、サイド鉄心120の外側面123と絶縁ケース600を形成している側壁部660の内側面630との間にまで延出している。
【0022】
このため、この鉄心カバー300によって、サイド鉄心120の上面121を覆うことができるとともに、サイド鉄心120の上面外側角部122が、当該鉄心カバー300の凹部310の内側に位置することになる。なお、鉄心カバー300の上方側壁部340は、絶縁ケース600の側壁部660の内側面630に僅かな間隔で対峙している。
【0023】
また、この実施例においては、前記した鉄心カバー300の凹部310に、応力緩和材700を塗布している。すなわち、図2に示すように、凹部310の底面(天面)311から外側側壁330の先端(下端)331にかけて応力緩和材700を塗布している。なお、応力緩和材700としては、シリコーン系樹脂を使用するとよい。
【0024】
このように、鉄心カバー300に凹部310を設けて応力緩和材700を塗布するときは、応力緩和材700が周辺に拡散することがない。また、凹部310の上面外側隅部312においては、応力緩和材700を実質的に厚く塗布することが可能である。したがって、応力緩和材700を無駄に消費することがないし、所望の厚さを容易に得ることができる。
【0025】
一方、サイド鉄心120の下面側においては、絶縁ケース600の底板部640に設けた段部650に応力緩和材700を塗布している。すなわち、サイド鉄心120の下面125に対応する絶縁ケース600の底板部640に凹陥状の段部650を形成し、この段部650の起立片651と一次コイルボビンの外片211とに、サイド鉄心120の下面125が当接するようになっている。また、サイド鉄心120の下面125が、段部650の底面である絶縁ケース600の底板部640の内面に対向し、サイド鉄心120の下面外側角部126が、段部650内において、絶縁ケース600の底板部640と絶縁ケース600の側壁部660とが交差するコーナー部分の内側に位置している。そして、この段部650に、応力緩和材700を塗布している。
【0026】
この実施例のような応力緩和材700を備える内燃機関用点火コイルにおいて、例えば、サイド鉄心120の上面外側角部122からクラックCが発生した場合に、このクラックCの伸展は、鉄心カバー300の凹部310に塗布した応力緩和材700によって妨げられる。このため、クラックCが絶縁ケース600を形成している側壁部660の内側面630に達したり、この内側面630に沿って絶縁材500の注型面にまで達することがない。
【0027】
一方、サイド鉄心120の下面外側角部126からクラックCが発生した場合に、このクラックCの伸展は、絶縁ケース600の段部650に塗布した応力緩和材700によって妨げられ、クラックCが絶縁ケース600の底板部640や絶縁ケース600の側壁部660の内面にまで達することはない。
【0028】
なお、上記した説明は、図1において、右側に示すサイド鉄心120や鉄心カバー300等についてのものであるが、左側に示すサイド鉄心120や鉄心カバー300等についても同様であるので、説明を省略する。
【0029】
そこで、サイド鉄心120の上面121および下面125のいずれの側の角部からクラックCが発生しても、このクラックCの伸展を応力緩和材700において確実に阻止することが可能である。したがって、クラックCが点火コイルの表面にまで達してしまい、絶縁不良や高圧出力の低下等の不具合を招くことがなく、安定した性能を維持して耐久性の高い内燃機関用点火コイルを提供することができる。
【0030】
以上、本発明を図面の実施例について説明したが、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、適宜変更することができる。例えば、応力緩和材としては、シリコーン系樹脂ばかりではなく、他の樹脂を利用することもできる。
【符号の説明】
【0031】
100 コイル−鉄心組立体
110 センタ鉄心
120 サイド鉄心
121 上面
122 上面外側角部
123 外側面
125 下面
126 下面外側角部
130 高圧端子
140 スプリング
150 ラバー
160 アダプタ
170 ブーツ
210 一次コイル
211 外片
220 二次コイル
230 接続導体
231 一端
300 鉄心カバー
310 凹部
312 上面外側隅部
320 内側側壁
330 外側側壁
340 上方側壁部
500 絶縁材
600 絶縁ケース
610 段部
620 高圧タワー部
630 内側面
640 底板部
650 段部
651 起立片
660 側壁部
700 応力緩和材
C クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一次コイルおよび二次コイルと、その二つのコイルを磁気的に結合させる前記一次コイルの内周を通るセンタ鉄心と、前記二次コイルの外周を通るサイド鉄心とを有し、前記一次コイル、二次コイル、センタ鉄心およびサイド鉄心を高電圧から絶縁するための絶縁材に埋設させ、二次コイルで発生する高電圧を高圧端子を介して点火プラグに伝達する内燃機関用点火コイルであって、
前記サイド鉄心に、当該サイド鉄心を覆う鉄心カバーを設け、該鉄心カバーの下面に、凹部を設けたことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
前記鉄心カバーの凹部に、応力緩和材を塗布したことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−181728(P2011−181728A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45187(P2010−45187)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000174426)阪神エレクトリック株式会社 (291)