説明

内燃機関

【課題】掃気効率を向上することが可能な内燃機関を提供する。
【解決手段】内燃機関Aは、シリンダ室1aが形成されたシリンダ1と、シリンダ室1aの上部に連通し、シリンダ室1aから排出された低温の排気ガスが導入される低温室14、低温室14の側部に連通する低温排気通路15、低温室14の上部に連通し、シリンダ室1aから排出された高温の排気ガスが導入される高温室12、及び、高温室12の側部に連通する高温排気通路13が形成された排気弁箱11と、シリンダ室1aと低温室14との間を開閉する主弁21と、高温室12を遮断しつつ低温排気通路14を開放する第一の状態と、高温室12を開放しつつ低温排気通路14を遮断する第二の状態と、を切換可能な副弁25と、を備え、低温室14の上壁14aは、主弁21の軸線に対して90度未満の傾斜角度に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、例えば、2サイクルのユニフロー型ディーゼル機関では、排気弁箱に1つの排気弁(以下、主弁という)が組み込まれ、この主弁を開閉させて、排気レシーバ(排気集合部)に燃焼ガスを排気すると共に、掃気も行っている。この掃気は、シリンダライナ内壁に設けられた掃気孔より掃気が導入されることにより行われる。また、この排気弁箱には、主弁とは別の副弁と、この副弁を介して分離される高温室と低温室とが設けられている。
【0003】
そして、主弁の開弁初期(排気の初期)に、シリンダから高い圧力と高い温度の燃焼ガスが高温室に導入され、当該高温室から高温の燃焼ガスを排気するための高温排気通路を通して、排気レシーバ(外部)へ排出される。また、主弁の開弁中期から閉弁するまで(排気の中期から後期)の間に、シリンダ内の残留の燃焼ガスが低温室に導入され、当該低温室から低温ガスを排気するための低温排気通路を通して外部に排出される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平02−145617号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる内燃機関においては、より良い機関性能を得るために、燃焼ガスの掃気効率を向上することが望まれている。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みて創作されたものであり、掃気効率を向上することが可能な内燃機関を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の内燃機関は、シリンダ室が形成されたシリンダと、前記シリンダ室の上部に連通し、前記シリンダ室から排出された低温の排気ガスが導入される低温室、前記低温室の側部に連通する低温排気通路、前記低温室の上部に連通し、前記シリンダ室から排出された高温の排気ガスが導入される高温室、及び、前記高温室の側部に連通する高温排気通路が形成された排気弁箱と、前記シリンダ室と前記低温室との間を開閉する第一の弁と、前記高温室を遮断しつつ前記低温排気通路を開放する第一の状態と、前記高温室を開放しつつ前記低温排気通路を遮断する第二の状態と、を切換可能な第二の弁と、を備える内燃機関であって、前記低温室の上壁は、前記第一の弁の軸線に対して90度未満の傾斜角度に形成されていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によると、排気ガスがシリンダ室から低温室へ導入されて流路方向を変える際の曲がり損失を低減し、有効通路面積を増大させることによって、掃気効率を向上することができる。
【0009】
内燃機関は、前記第一の弁が前記シリンダ室と前記低温室との間を開けた状態、かつ、前記第二の弁が前記第一の状態となった場合に、前記低温の排気ガスを前記低温排気通路へ案内する案内翼を備えることが望ましい。
【0010】
かかる構成によると、案内翼40によって、低温の排気ガスを低温室から低温排気路へと好適に案内することができ、曲がり損失を低減し、掃気効率をさらに向上することができる。
【0011】
また、内燃機関は、前記低温排気通路が接続された低温排気管と、前記高温排気通路が接続された高温排気管と、を備え、前記低温排気管は、前記高温排気管よりも上方に配置されていることが望ましい。
【0012】
かかる構成によると、低温排気管が高温排気管の上方に配置されているので、低温排気通路から低温排気管への排気ガスの流路の曲がりを緩やかにすることによって、掃気効率をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内燃機関における掃気効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の要部断面図であり、副弁が第一の状態に切り換えられた状態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る内燃機関の要部断面図であり、副弁が第二の状態に切り換えられた状態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る内燃機関の外観図であり、図1の裏側から見た図である。
【図4】本発明の実施形態に係る内燃機関の要部断面図であり、副弁及び案内翼を上から見た図である。
【図5】(a)は、本発明の実施形態に係る低温室付近の構造を示す模式図であり、(b)は、従来の低温室付近の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の内燃機関の排気通路構造の発明を実施するための形態を、図1〜図4を参照して詳細に説明する。図1に示すように、内燃機関Aは、シリンダ室1aが形成されたシリンダ(シリンダブロック)1と、排気弁箱11と、第一の弁である主弁21と、第二の弁である副弁25と、案内翼40と、を備える。
【0016】
排気弁箱11は、シリンダブロック1の弁座2に装着されており、排気弁箱11内に形成された、高温室12、高温室12に連通する高温排気通路13、低温室14、及び、低温室14と連通する低温排気通路15を備える。
【0017】
低温室14は、シリンダ室1aの上部に連通しており、当該低温室14には、シリンダ室1aから排出された低温の排気ガス(燃焼ガス及び掃気ガス)が導入される。
低温排気通路15は、低温室14の側部に連通している。
高温室12は、低温室14の上部に連通しており、高温室12には、シリンダ室1aから排出された高温の排気ガス(燃焼ガス)が導入される。詳細には、低温室14の上壁14aには円形の孔部が形成されており、高温室12と低温室14とは、かかる孔部を介して連通している。
高温排気通路13は、高温室12の側部に連通している。本実施形態において、高温排気通路13は、図1の紙面奥側に延設されている。
【0018】
主弁21は、排気弁箱11及びシリンダブロック1内に収容されてシリンダ室1aと排気口2aとの間を開閉する弁であって、弁座2に着座することによってシリンダ室1aから排気口2aへの排気ガスの流れを遮断し、弁座2から離座することによって、シリンダ室1aから排気口2aへの排気ガスの流れを許容する。
【0019】
副弁25は、排気弁箱11内に収容されており、高温室13を遮断しつつ低温排気通路15を開放する第一の状態(図1)と、高温室13を開放しつつ低温排気通路15を遮断する第二の状態(図2)と、を切換可能な弁である。
第一の状態において、シリンダ室1aから排気口2aへ導入された(低温の)排気ガスは、高温室12へ流れずに、排気口2aから低温排気通路15を介して排気される。
第二の状態において、シリンダ室1aから排気口2aへ導入された(高温の)排気ガスは、低温排気通路15へ流れずに、排気口2aから高温室12を経由して高温排気通路13へ排気される。
【0020】
また、内燃機関Aは、低温排気通路15と配管51を介して接続された低温排気管41(図3参照)と、高温排気通路13と配管52を介して接続された高温排気管42(図3参照)と、を備える。図3に示すように、低温排気管41は、高温排気管42よりも上方に配置されている。
【0021】
図1に戻り、内燃機関Aは、主弁21の開弁動作を行わせる図示しない油圧シリンダと、油圧シリンダブロック30に設けられて副弁25の切り替え動作を行なう複数の、例えば3本の油圧シリンダ31(図1には、1本のみ図示)と、主弁21の弁ステム22の上部に固定されて主弁21の復旧動作を行わせる図示しない空気ピストンと、副弁25の弁ステム26の上部に固定されて副弁25の復旧動作を行わせる空気ピストン29と、主弁21の空気ピストンと副弁25の空気ピストン29を収容して空気圧を付与するための空気ばね室36を形成するケーシング35とを備えた構成とされる。
【0022】
この排気弁箱11は、一例として、2サイクルのユニフロー型ディーゼル機関に適用した場合を示している。この2サイクルのユニフロー型ディーゼル機関においては、シリンダライナ側壁に吸気口(掃気孔)があり、主弁21は排気及び掃気を行なう。
【0023】
主弁21の開弁動作は、高圧の油圧によって動作する前記油圧シリンダが弁ステム22を図中下方に押動することにより行われる。また、その閉弁動作(復旧動作)は、弁ステム22に取り付けられた前記空気ピストンが、弁ステム22を図中上方に引き上げることにより行われる。即ち、前記空気ピストンの下方に形成された空気ばね室36内の空気圧が、主弁21の閉弁動作の作動源となっている。
【0024】
図2に示すように、副弁25の切り替え動作は、油圧シリンダブロック30に設けられた複数の油圧シリンダ31が高圧の油圧によって動作して、空気ピストン29を図中上方に押動することにより行われる。また、その復旧動作は、油圧シリンダ31の油圧を逃がし、空気ピストン29により弁ステム26を図中下方に押動することにより行われる。即ち、空気ピストン29の上方に形成された空気ばね室36内の空気圧が、副弁25の復旧動作の作動源となっている。
【0025】
副弁25は、直円筒形状をなす弁体である円筒部25cを備え、円筒部25cの外径が排気弁箱11の排気口11aよりも僅かに小径とされ、円筒部25cの内径(副弁内径)が弁座2の排気口2aと略同径とされる。尚、排気弁箱11の排気口11aは、弁座2の排気口2aよりも大径とされる。副弁25の円筒部25cは、その内周面が弁ステム26の外周面に、複数の板状の輻(スポーク)25aにより連設されている。シリンダ室1aから主弁21を介して排出された排気ガスは、これらの輻25aの間を通して高温室12内に排出される。副弁25には、先端に後端(図中上端)から先端(図中下端)に向って縮径するスカート部25bが形成される。
【0026】
案内翼40は、低温排気通路15に設けられた扇形の板状部材である。案内翼40の基端は、副弁25の円筒部25cが摺動可能に収容された筒部17の下端に取り付けられており、案内翼40の先端の両縁は、低温排気通路15の内壁に取り付けられている。図1に示すように、本実施形態において、筒部17の下端は、第一の状態における円筒部25cの下端と同じ高さであり、第一の状態において、スカート部25bの下面と案内翼40の下面とはほぼ面一となるように設定されている。なお、主弁21の軸線と案内翼40の先端との距離Rは、シリンダ室1aのシリンダ径の0.5〜0.7倍に設定されている。また、低温排気通路15の底面と案内翼40とがなす角度αは、5〜15°に設定されている。また、案内翼40の扇形の角度β(図3参照)は、50〜70°に設定されている。
【0027】
副弁25は、主弁21が開弁し始めた初期(排気の初期)において、空気ピストン29により図2に示す位置に切り替えられており、スカート部25bが排気弁箱11の排気口11a内に挿入され、かつ後端の外周面が排気口11aの内周面に摺接し、弁座2の排気口2aを通してシリンダ室1aと連通する。
【0028】
そして、副弁25が円筒部25c内の板状の輻25aの間を通してシリンダ室1aと高温室12とを連通させると共に、その円筒部25cにより低温室14を閉塞する。これにより、シリンダ室1a内の高温高圧の排気ガスが高温室12に排出され、高温室12から高温排気通路13へ排出される。
【0029】
副弁25は、主弁21の開弁の中期から後期(閉弁)までの間、空気弁29が油圧シリンダ31により図1に示す位置に押し上げられて低温室14側に切り替えられる。これにより、円筒部25cの上端が弁座16に着座し、高温室12が閉塞される。そして、低温室14がシリンダ室1aに連通されてシリンダ室1a内の残留の(低温の)排気ガスが、排気弁箱11の排気口11aから低温室14へ排出される。
【0030】
この排気ガスは、副弁25の先端に設けられたスカート部25bの傾斜している外周面に沿って、低温室14内へ円滑に導かれる。これにより、シリンダ室1aから排出された排気ガスが低温室14に良好に導入される。
【0031】
従来の内燃機関においては、図5(b)に示すように、低温室114は、当該低温室114の上壁114aの主弁121の軸線に対する傾斜角度は、90度に形成されていた。これに対して、図5(a)に示すように、本発明の実施形態に係る内燃機関Aの低温室14は、当該低温室14の上壁14a(の下面)の主弁21の軸線に対する傾斜角度θが、90度未満(例えば、60度)に形成されている。また、低温排気路15は、低温室14の上壁14aと同じ傾斜角度で延設されている。
したがって、本発明の実施形態に係る内燃機関Aは、低温の排気ガスがシリンダ室1aから低温室14へ導入されて流路方向を低温排気路15方向へ変える際の角度が鈍角となるので、かかる部位における曲がり損失を低減し、有効通路面積を増大させることによって、掃気効率を向上することができる。
【0032】
また、本発明の実施形態に係る内燃機関Aは、案内翼40を備えているので、低温の排気ガスを低温室14から低温排気路15へと好適に案内することができ、曲がり損失を低減し、掃気効率をさらに向上することができる。
【0033】
また、本発明の実施形態に係る内燃機関Aは、低温排気管41が高温排気管42の上方に配置されているので、低温排気通路15→配管51→低温排気管41という低温の排気ガスの流路の曲がりを緩やかにすることによって、掃気効率をさらに向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の内燃機関は、前記した実施形態に係る2サイクルのユニフロー型ディーゼル機関に限定されるものではなく、主弁と副弁とを有する内燃機関であれば、どのような形式の内燃機関にも適用することが可能である。また、装置の簡略化のため、案内翼40を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
A 内燃機関
1 シリンダブロック(シリンダ)
1a シリンダ室
2a 排気口
11 排気弁箱
12 高温室
13 高温排気通路
14 低温室
14a 上壁
15 低温排気通路
21 主弁(第一の弁)
25 副弁(第二の弁)
40 案内翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ室が形成されたシリンダと、
前記シリンダ室の上部に連通し、前記シリンダ室から排出された低温の排気ガスが導入される低温室、前記低温室の側部に連通する低温排気通路、前記低温室の上部に連通し、前記シリンダ室から排出された高温の排気ガスが導入される高温室、及び、前記高温室の側部に連通する高温排気通路が形成された排気弁箱と、
前記シリンダ室と前記低温室との間を開閉する第一の弁と、
前記高温室を遮断しつつ前記低温排気通路を開放する第一の状態と、前記高温室を開放しつつ前記低温排気通路を遮断する第二の状態と、を切換可能な第二の弁と、を備える内燃機関であって、
前記低温室の上壁は、前記第一の弁の軸線に対して90度未満の傾斜角度に形成されている
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記第一の弁が前記シリンダ室と前記低温室との間を開けた状態、かつ、前記第二の弁が前記第一の状態となった場合に、前記低温の排気ガスを前記低温排気通路へ案内する案内翼を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記低温排気通路が接続された低温排気管と、
前記高温排気通路が接続された高温排気管と、
を備え、
前記低温排気管は、前記高温排気管よりも上方に配置されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19364(P2013−19364A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154272(P2011−154272)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)