説明

再利用可能な経時インジケーター

【課題】成分の移動および揮散を伴うことなく、経時的に変色して、一定期間の経過を目視で判別することを可能にし、かつ再利用可能な、経時インジケーターを提供する。
【解決手段】電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含む熱変色性組成物であって、電子受容性化合物として、2つの芳香環を有する、特定の一般式で示され、かつ融点が150℃を超える化合物を1種または複数種使用する組成物を、経時変色成分として有する、経時インジケーターを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色調変化によって、一定時間の経過を目視により判別するための経時インジケーターであって、加熱処理により再利用可能な経時インジケーターに関する。
【背景技術】
【0002】
色調の変化を利用した経時インジケーター(タイムインジケーターとも呼ばれる)は、既に種々提案されている。例えば、特許文献1(特開平2−290591号公報)は、色調変化と製品の有効期間と一致させることができ、製造等が簡便で、経済的にも低コストのタイムインジケーターとして、電子供与性呈色性有機化合物、揮散性を有するフェノール性水酸基を有する化合物及び常温で液体の有機化合物からなる混合物を基材に保持させてなり、大気中に露出時に上記フェノール性水酸基を有する化合物の揮散による一定経時退色変化を利用するタイムインジケーターを提案している。
【0003】
特許文献1において、フェノール性水酸基を有する化合物は電子受容性化合物であり、電子供与性呈色性有機化合物と結合して、発色する。常温で液体の(即ち、難揮発性の)有機化合物は、減感剤として作用する。同文献のタイムインジケーターは、フェノール性水酸基を有する化合物の経時的な揮散、および難揮発性の有機化合物の減色作用により、有色から無色に変化し、当該変化でもって有効期限(終点)を目視判別可能にする。
【0004】
これに対し、特許文献2(特開平7−27878号公報)は、特許文献1に記載のようなタイムインジケーターは、添加成分の使用環境への揮散による環境汚染の問題、インジケーターの色落の問題、および変色期間が使用環境に作用されやすく変色することが難しいという問題を有するとしている。同文献は、これらの問題を解決するために、熱可塑性樹脂あるいは接着剤からなるA層とB層を重ね合わせたとき該二層の間における分配係数[分配係数=(分配平衡時のB層中の電子供与性呈色性有機化合物の濃度)/(分配平衡時のA層中の電子供与性呈色性有機化合物の濃度)]が0.1以上である電子供与性呈色性有機化合物を含有して消色状態にあるA層と、電子受容性を有し消色状態にあるB層とを重ね合わせることにより、経時的にB層の発色が濃くなり、両層を重ね合わせてからの時間の経過を示すことができるタイムインジケーターを提案している。
【0005】
特許文献3(特開平7−27879号公報)もまた、特許文献2に記載された問題と同様の問題を解決するために、熱可塑性樹脂あるいは粘着剤からなるA層とB層を重ね合わせたときA,B両層の間での分配係数〔分配係数=(分配平衡時のB層中の電子受容性有機化合物の濃度)/(分配平衡時のA層中の電子受容性有機化合物の濃度)〕が0.1以上である電子受容性有機化合物と電子供与性呈色性有機化合物とを含有して発色状態にあるA層と、消色状態にあるB層とを重ね合わせることにより、経時的にA層が消色して色が薄れることによりA,B両層を重ね合わせてからの時間の経過を示すことができるタイムジンジケーターを提案している。
【0006】
特許文献4(特開平6−41442号公報)は、特許文献1に記載のタイムインジケーターが三成分を必須成分とするのに対し、二成分間の作用による色変化により的確に、薬効の終点や有効期間内の薬効成分の残存量を容易に判別することを可能にする、薬効指示性樹脂組成物を提案している。同文献は、具体的には、熱可塑性樹脂と揮散性を有する電子受容性有機化合物と難揮散性の電子供与性呈色性有機化合物とを溶融混練してなる、薬効指示性樹脂組成物を提案している。
【0007】
特許文献5(特開2002−129139号公報)は、基材上に温度及び/又は湿度ならびに経過時間に応じて変色する変色インキ層及び非変色インキ層を有する変色性経時インジケーターであって、当該基材と変色インキ層及び非変色インキ層とを隔離する隔離層を有し、変色インキ層の一部又は全部が外気にさらされるように隔離層上に変色インキ層及び非変色インキ層が形成されていることを特徴とする変色性経時インジケーターを提案している。このインジケーターは、環境条件(温度及び/又は湿度)と経過時間に応じた変色性能が1週間ないし2年間程度という長期間にわたって発揮されるとともに、その変色(色差)を正確に確認することができるという効果を発揮する。
【0008】
【特許文献1】特開平2−290591号公報
【特許文献2】特開平7−27878号公報
【特許文献3】特開平7−27879号公報
【特許文献4】特開平6−41442号公報
【特許文献5】特開2002−129139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1〜5に記載のタイムインジケーターは、その構成(即ち、色素の移動または揮発を伴う構成)からみて、いずれも使用回数は1回に限られ、繰り返し使用されるものではない。そのようなタイムインジケーターは、簡便に使用することができるという利点を有するものの、省資源および省コストという観点では必ずしも好ましいものではない。また、タイムインジケーターを繰り返し使用することができれば、それを、食器、保存用の容器および瓶、ならびに各種電化製品等に取り付けることによって、タイムインジケーターの利用範囲を非常に広くすることができると考えられる。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、変色を担う組成物において、成分が大きく移動せず、あるいは揮発せず、繰り返し使用することが可能な、経時インンジケーターを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含み、電子受容性化合物として、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃を超える化合物を1種または複数種含む、熱変色性組成物を含む、経時インジケーターを提供する。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
(一般式(1)〜(3)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、シクロへキシル基であり、X、YおよびZはそれぞれ独立して、ハロゲン、OH基、アルコキシ基、アルコキシアリル基、アリル基、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、またはシクロへキシル基であり、Cは、置換基を有してもよい炭素数5〜8のシクロアルカンまたは置換基を有してもよいフルオレン環である。)
【0016】
本発明の経時インジケーターは、熱変色性組成物の一成分である、電子受容性化合物(即ち、顕色剤)として、特定の化学式で示され、かつ融点が150℃を超える化合物を使用することを特徴とする。この特定の電子受容性化合物は、電子供与性呈色性有機化合物(即ち、発色剤)と反応して、呈色した後、発色濃度が経時的に変化するような、経時変色性を熱変色性組成物に与える。また、この特定の電子受容性化合物を含む熱変色性組成物は、経時変色した後、加熱することによって、その発色状態が回復し、その後、経時的にその発色濃度は再度変化する。したがって、このような熱変色性組成物を含む本発明の経時インジケーターは、経時的に、例えば、濃色から淡色へ変色し、かつこの変色を繰り返すことができるから、再利用可能である。
【0017】
本発明の経時インジケーターにおいて、熱変色性組成物は、マイクロカプセルに内包された、熱変色性マイクロカプセルとして存在してよい。マイクロカプセルに熱変色性組成物が内包されると、周囲に存在する物質による影響を受けにくくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の経時インジケーターは、上記特定の一般式で示され、かつ融点が150℃を超える化合物を熱変色性組成物の顕色剤として使用し、一旦、発色剤と顕色剤とを反応させて発色(または消色)させた後、その発色濃度が経時的に変化する性質を利用している。よって、この経時インジケーターは、熱変色性組成物の成分の揮発または大幅な移動を伴うことなく、経時的に変色することができる。また、本発明の経時インジケーターは、経時変色後、加熱することによって、元の発色状態(即ち、経時変色する前の発色状態)に戻ることができる。よって、本発明の経時インジケーターは、繰り返し使用することができるので、食品管理、および薬剤(特にバイオ医薬)の時間的な管理に加えて、各種物品および製品に対する繰り返しの時間的な管理(例えば、植木鉢に取り付けて、所定日数ごとに水をやる場合の水やりの管理)を目視で行うことを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の経時インジケーターは、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含み、電子受容性化合物として、特定の一般式で示され、かつ融点が150℃を超える化合物を1種または複数種含む、熱変色性組成物を含む。以下に、本発明の経時インジケーターに含まれる熱変色性組成物(以下、単に「組成物」と呼ぶことがある)を構成する成分について説明する。
【0020】
[電子供与性呈色性有機化合物]
電子供与性呈色性有機化合物は、発色剤とも呼ばれ、電子受容性化合物と反応して呈色する。電子供与性呈色性有機化合物として、公知の化合物を、任意に使用してよい。具体的には、フルオラン類、フルオレン類、ジフェニルメタンフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリルキノリン類、ジアザローダミンラクトン類、ピリジン系化合物、キナゾリン系化合物、ビスキナゾリン系化合物、エチレノフタリド系化合物、およびエチレノアザフタリド系化合物が、電子供与性呈色性有機化合物として挙げられる。電子供与性呈色性有機化合物は、2種以上混合して使用してよい。
【0021】
電子供与性呈色性有機化合物は、好ましくは、
2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、
3,6−ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン
である。
【0022】
電子供与性呈色性有機化合物の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、0.1重量%〜50重量%であることが好ましく、0.8重量%〜15重量%であることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物の含有率が小さい場合には、発色濃度が低くなることがあり、含有率が大きい場合には、地発色(消色状態での発色濃度)が大きくなることがある。
【0023】
[電子受容性化合物]
電子受容性化合物は、顕色剤とも呼ばれ、電子供与性呈色性有機化合物と反応して呈色する化合物であり、具体的には、活性プロトンを有する化合物、偽酸性化合物、または電子空孔を有する化合物である。さらに、本発明においては、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃を超える化合物を、電子受容性化合物として使用する。
【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
一般式(1)〜(3)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、シクロへキシル基であり、X、YおよびZはそれぞれ独立して、ハロゲン、OH基、アルコキシ基、アルコキシアリル基、アリル基、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、またはシクロへキシル基であり、Cは、置換基を有してもよい炭素数5〜8のシクロアルカンまたは置換基を有してもよいフルオレン環である。
【0028】
一般式(2)において、Cが炭素数6のシクロアルカン(即ち、シクロヘキサン)である場合、一般式(2)は下記式のように表される。
【0029】
【化7】

【0030】
具体的には、4−ヒドロキシ−4’−プロポキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−イソブチルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4−ヒドロキシ−4’−アリルオキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンおよびビスクレゾールフルオレンが好ましく用いられる。特に、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビスクレゾールフルオレン、4−ヒドロキシ−4’−アリルオキシジフェニルスルホン、および4−ヒドロキシ−4’−プロポキシジフェニルスルホンは、耐熱性に優れており、例えば、熱可塑性樹脂へ練り込んで使用するのに適している。
【0031】
上記特定の3つの一般式のいずれかで示され、かつ融点が150℃を超える化合物は1種のみ使用してよく、または複数種を混合して使用してよい。複数種の化合物を混合することにより、各化合物の特性を利用して、より良好な特性を有する熱変色性組成物を得ることができる。
【0032】
電子受容性化合物の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、0.05重量%〜98重量%であることが好ましく、0.5重量%〜77重量%であることがより好ましい。電子受容性化合物の含有率が小さい場合には、発色濃度が低くなることがあり、含有率が大きい場合には、地発色が大きくなることがある。また、電子受容性化合物は、電子供与性呈色性有機化合物1重量部に対して、0.1〜100重量部の量で含まれることが好ましく、0.5〜20重量部の量で含まれることがより好ましい。
【0033】
[減感剤]
減感剤は、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物を溶解させることができ、その凝固または融解特性によって、呈色反応を制御することができる化合物である。本発明においては、例えば、汎用されている減感剤を選択することによって、−10℃〜60℃で変色するようにできる。具体的には、難揮発性疎水性有機媒体(または溶剤もしくは溶媒)が、減感剤として使用される。
【0034】
より具体的には、減感剤として、炭素数10以上の脂肪族1価アルコール、炭素数10以上の脂肪酸、炭素数6以上の脂肪酸モノアミド、および総炭素数13以上のエステル化合物を挙げることができる
【0035】
また、汎用減感剤として使用されている、脂肪族、芳香族および脂環式の1塩基酸と、脂肪族、芳香族および脂環式のいずれかの1価アルコールとの任意の組合せから構成される、総炭素数13以上のエステル化合物であって、下記の形態のものを、本発明において使用することができる。
・汎用減感剤の酸が多塩基酸であるもの。
・汎用減感剤のアルコールが多価アルコールであるもの。
・汎用減感剤の酸が多塩基酸で、アルコールが多価アルコールであるもの。
【0036】
あるいはまた、汎用減感剤である、総炭素数10以上の脂肪族ケトン化合物、および総炭素数10以上の脂肪族エーテル化合物を、本発明において、使用することができる。
【0037】
さらにより具体的には、減感剤として、ラウリン酸メチル、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸アミド、パルミチン酸メチル、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸メチル、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸メチル、およびベヘニン酸アミドを挙げることができる。
【0038】
減感剤の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、1重量%〜99重量%であることが好ましく、19重量%〜99重量%であることがより好ましい。電子供与性呈色性有機化合物の含有率が小さい場合には、地発色が大きくなることがあり、含有率が大きい場合には、発色濃度が低くなることがある。また、減感剤は、電子供与性呈色性有機化合物1重量部に対して、1〜500重量部の量で含まれることが好ましく、5〜100重量部の量で含まれることがより好ましい。
【0039】
経時インジケーターを構成する熱変色性組成物は、通常の熱変色性組成物に含まれる、その他の成分を含んでよい。以下、その他の成分について説明する。
【0040】
[紫外線吸収剤]
熱変色性組成物は、紫外線吸収剤を含んでよい。紫外線吸収剤は、太陽光に含まれる紫外線を選択的に吸収するものである。紫外線は、発色剤を、光反応により劣化させる。紫外線吸収剤はこれを防止するために用いられる。
【0041】
紫外線吸収剤は、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系、サリチル酸系、シュウ酸アニリド系、マロン酸エステル系、安息香酸系、ケイ皮酸系、およびジベンゾイルメタン系に大別される。より具体的には、ベンゾトリアゾール系のTinuvin326、トリアジン系のTinuvin40(いずれも、チバスペシャルティケミカルズ製)、シュウ酸アニリド系のHostavin3260HP、マロン酸エステル系のHostavinPR25(いずれもクラリアント製)、ベンゾフェノン系のサイアソーブUV531(サイテックインダストリーズ製)を使用することができる。
【0042】
紫外線吸収剤の含有率は、組成物全部の重量を基準としたときに、96重量%までであることが好ましく、61重量%までであることがより好ましい。紫外線吸収剤の含有率が大きい場合には、発色濃度が低くなる、変色がシャープでなくなる、および/または変色温度ヒステリシスが大きくなることがある。また、紫外線吸収剤は、電子供与性呈色性有機化合物1重量部に対して、50重量部までの量で含まれることが好ましく、10重量部までの量で含まれることがより好ましい。
【0043】
[紫外線散乱剤]
熱変色性組成物は、紫外線散乱剤を含んでよい。紫外線散乱剤は、太陽光に含まれる紫外線を物理的に反射又は散乱させる。その結果、紫外線の発色剤への作用が防止される。紫外線散乱剤は、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、α−酸化鉄、および酸化セリウム等の金属酸化物微粒子である。
【0044】
[光安定剤]
熱変色性組成物は、光安定剤を含んでよい。光安定剤は、紫外線によって発生するラジカルと発色剤とが反応して、発色剤が劣化することを防止する。具体的には、ヒンダードフェノールまたはヒンダードアミンを、光安定剤として使用してよい。
【0045】
[その他]
上記に示した成分以外の成分として、酸化防止剤(フェノール系、リン系、および硫黄系等)、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、非熱変色性染料、および非熱変色性顔料のいずれか一または複数の成分を含んでよい。熱変色性組成物が、非熱変色性染料または非熱変色性顔料を含む場合には、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物との反応によりもたらされる色と、当該染料または当該顔料着の色との混色から、経時的に、当該染料または当該顔料着のみの色へと変化していくこととなる。したがって、熱で変色しない染料又は顔料を併用すると、時間の経過を目視で確認することが、より容易となる場合がある。
【0046】
次に、この熱変色性組成物の製造方法を説明する。組成物は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物および減感剤、ならびに必要に応じて他の成分を、加熱溶解して製造することができる。その際の温度は、全成分のうち最も融点の高い成分が溶解するように選択され、一般には、120℃〜180℃の範囲内にある。
【0047】
あるいは、熱変色性組成物は、マイクロカプセルに内包させてよい。マイクロカプセル化により、熱変色性組成物をそのまま、例えば、インキまたはプラスチック成形体において使用する場合に生じる問題、即ち、1)変色の際に、固体−液体の状態変化を繰り返すため、成分のマイグレーションが起こりやすく、可逆的な変色性が持続する寿命が短くなる、2)ビヒクル成分(樹脂、溶剤等)が変色性に影響を及ぼしやすく、悪影響を及ぼすことがある、という問題が、回避または軽減される。マイクロカプセル化により、使用する際に周りの雰囲気との接触が遮断されることになるので、周辺に存在する物質による影響を防止できるからである。
【0048】
熱変色性組成物のマイクロカプセル化は次の手順に従って実施できる。まず、溶解助剤を必要に応じて用いて、カプセル壁原料と、熱変色性組成物を均一に減感剤に溶解させる。溶解助剤は、熱変色性組成物とカプセル壁原料を均一に溶解させることができ、熱変色性能を阻害しないこと、または後工程で取り除けることを要する。具体的には、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、含窒素系溶剤、シリコン系溶剤、および含ハロゲン系溶剤を、溶解助剤として使用できる。より具体的には、酢酸エチル、アセトン、およびメチルエチルケトンが、好ましく用いられる。
【0049】
カプセル壁原料は、樹脂主剤および架橋剤を含む。樹脂主剤は、カプセル内包物を分散相とするO/Wエマルションの界面で架橋剤と反応し、カプセル壁を形成する化合物である。架橋剤は、カプセル内包物を分散相とするO/Wエマルションの界面で樹脂主剤と反応し、カプセル壁を形成する化合物である。
【0050】
樹脂主剤および架橋剤の組み合わせの例は、次のとおりである。
【0051】
【表1】

【0052】
次に、30〜60℃に加温した乳化剤水溶液中に、中せん断撹拌しながら、カプセル壁原料と熱変色性組成物とを含む溶液を添加する。添加後、高せん断撹拌を行い、平均粒径数μmのO/Wエマルションを得る。乳化剤は、カプセル内包物を分散相とするO/Wエマルションの界面に吸着して、系を安定化させる両親媒性物質である。乳化剤は、具体的には、天然水溶性高分子、合成水溶性高分子、低分子界面活性剤、および無機微粒子である。樹脂主剤および架橋剤の組み合わせに応じた、乳化剤は次のとおりである。
【0053】
【表2】

【0054】
乳化剤水溶液は、乳化剤を0.1〜15重量%含む水溶液であることが好ましく、乳化剤を0.5〜8重量%含む水溶液であることがより好ましい。乳化剤の濃度が高すぎると、発泡することがあり、低すぎると、粒径が大きくなる、または乳化できなくなることがある。
【0055】
高せん断撹拌後、低せん断撹拌に切り換え、架橋剤水溶液を徐々に滴下する。滴下後、60-90℃で3-12時間反応を行った後、室温まで冷却する。それにより、マイクロカプセルが分散したスラリーを得ることができる。
【0056】
マイクロカプセル化において使用する、上記原料および添加剤の好ましい使用量(括弧内はより好ましい使用量)は次のとおりである。
熱変色性組成物:5〜50重量部(10〜40重量部)
溶解助剤:0〜100重量部(0〜40重量部)
乳化剤水溶液:100重量部
樹脂主剤:1〜50重量部(2〜10重量部)
架橋剤:0.5〜25重量部(1〜5重量部)
【0057】
熱変色性組成物の量が多すぎると、乳化できないことがあり、少なすぎると、生産性が悪くなることがある。溶解助剤の量が多すぎると、生産性が悪くなることがあり、少なすぎると、発色濃度が低くなることがある。樹脂主剤の量が多すぎても、または少なすぎても、反応が不十分となり、カプセルの強度および耐熱性が低下することがある。同様に、架橋剤の量が多すぎても、または少なすぎても、反応が不十分となり、カプセルの強度および耐熱性が低下することがある。
【0058】
以上において説明した熱変色性組成物は、所定の温度にて、熱変色した後(即ち、発色した後)、発色濃度が経時的に変化する(一般に低くなる)性質を有する。発色濃度の経時的な変化の形態(例えば、経時変化の速度)は、減感剤と顕色剤の組み合わせによって調節することができる。さらに、この熱変色性組成物は、発色濃度が経時変化した後、加熱することによって、発色状態が経時変化前に戻り(即ち、発色濃度が高くなり)、その後、再度、経時的に発色濃度が変化する性質を有する。よって、この熱変色性組成物で経時インジケーターを構成すると、繰り返し使用することが可能となる。加熱は、組成物の成分にもよるが、一般的には、100〜150℃程度の温度で、10秒間〜5分間、処理して行う。加熱は、例えば、ヘアドライヤーを用いて実施してよい。
【0059】
本発明の経時インジケーターは、上記において説明した熱変色性組成物を、紙、布、フィルム、板および他のシート材料に含浸させ、または塗布して、シート形態にして提供してよい。あるいは、経時インジケーターは、熱変色性組成物を熱硬化性または熱可塑性樹脂に練り込み、成形することによって、成形体の形態で提供されてよい。あるいは、経時インジケーターは、ガラス、陶磁器およびセラミックの表面に塗布されて、塗膜の形態で提供されてよい。あるいは、上記の形態のインジケーターを、さらに通気性フィルムまたは不織布で包装してよい。あるいは、上記の形態のインジケーターは、押出しラミネート加工に付してよい。
【0060】
本発明の経時インジケーターは、有効期間または使用期限を有する物品の有効期間が終了したこと又は使用期限が到来したこと、あるいは有効期間終了前又は使用期限前の一定のときに(例えば一週間前に)達したこと等を目視で確認するために、使用することができる。そのような物品は、食品、防かび剤、防菌剤、除草剤、植物成長調節剤、フェロモン製剤、防虫剤、忌避剤、脱臭剤、芳香剤、医薬品、およびバイオ関係試薬等である。あるいは、本発明の経時インジケーターは、一定の期間または時間を繰り返し管理する必要がある場合、例えば、植物への水やりおよび施肥等、ならびに動物の給餌等において、使用され得る。
【実施例】
【0061】
(実施例1〜26、比較例1〜16)
表3〜6に示す、電子供与性呈色性有機化合物(発色剤)、電子受容性化合物(顕色剤)および減感剤を使用して、熱変色性組成物を調製した。具体的には、これらの3つの成分を、120〜180℃の範囲内にある温度で加熱溶解した。
【0062】
(測定用サンプルの作製)
70-100℃に加熱した熱変色性組成物を、No.5Cろ紙上に、0.05g滴下し、70℃10分加熱して含浸させたものを測定用サンプルとした。ただし、融点が100℃以上である電子受容性化合物を使用した熱変色性組成物の測定用サンプルは、含浸条件を100℃10分とした。
【0063】
得られた測定用サンプルの初期の発色状態および地発色状態、ならびに保存後の発色状態(発色濃度)を、コニカミノルタ(旧ミノルタ)株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて、白板校正板との色差を求めることにより評価した。色差は、下記の式で表わされる。式中、Lは明度指数、aおよびbはクロマティクネス指数を示す。詳細は、同装置の取扱説明書(特に第77頁)に記載されている。ΔEが大きいほど、発色濃度または地発色濃度が高いといえる。
【0064】
【数1】

【0065】
発色状態におけるΔEの測定は−5℃のクーラーボックス内で行い、地発色(消色)状態におけるΔEの測定は100℃のホットプレート上で行った。保存後の発色状態は、32℃で4日間保存してから、ΔEを測定して評価した。保存前後のΔEから、発色濃度の変化率を下式に従って算出した。
【0066】
【数2】

【0067】
さらに、変化率の値(絶対値)から、経時消色性を、次の基準に従って、評価した。
良好(○):|変化率|>10
悪い(×):|変化率|≦10
【0068】
各実施例および各比較例の変色組成物で作製した測定用サンプルの評価結果を表3〜表6に示す。各実施例および各比較例において、電子受容性化合物の融点は、SIIナノテクノロジー製TG/DTA6220を用いて測定した。測定は、N2流量200ml/分、昇温速度10℃/分にて行い、DTA曲線に現れた融解開始温度を融点とした。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
(実施例27〜31、比較例21〜25)
実施例1〜26、および比較例1〜20で調製した熱変色性組成物から選択した組成物を内包物とする、マイクロカプセルを作製した。マイクロカプセルの作製に使用した材料およびその量は次のとおりである。
【0074】
【表7】

【0075】
これらの材料を用いて、溶解助剤に、熱変色性組成物と樹脂主剤とを均一に溶解させ、それから、この溶液を、60℃に加温した乳化剤水溶液中に、中せん断撹拌しながら添加した。次に、高せん断撹拌して、平均粒径数μmのO/Wエマルションを得た。その後、低せん断撹拌を行って、架橋剤水溶液を徐々に滴下した。滴下後、60℃で1時間、90℃で1時間反応させ、室温まで冷却して、マイクロカプセルが分散したスラリーを得た。
【0076】
測定用のサンプルを、室温まで冷却したマイクロカプセル化熱変色性組成物を、No.1ろ紙にドクターブレード(200μm)で塗布し、室温で2時間乾燥して作製した。このサンプルを使用して、発色状態および地発色(消色)状態におけるΔEの測定、保存後の発色状態におけるΔEの測定を行った。これらの測定は、実施例1〜26に関連して説明した方法で行った。表8に、各実施例および各比較例の初期発色および地発色、保存後の発色濃度の変化率および経時消色性を示す。
【0077】
【表8】

【0078】
全ての実施例および比較例は、変色温度約30℃を境にそれよりも低い温度で黒色に発色し、高い温度で無色となる変化を繰り返すことが出来る、可逆熱変色性組成物である。融点>150℃の電子受容性化合物を用いた実施例1〜6は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10より大きく、インジケーターとして良好に機能し得るものであった。融点≦150℃の電子受容性化合物を用いた比較例1〜4は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10以内であり、経時消色性を示さなかった。
【0079】
実施例1〜6の熱変色性組成物に、減感剤としてステアリン酸アミドを加えた実施例7〜12は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10より大きく、インジケーターとして良好に機能し得るものであった。比較例1〜4の熱変色性組成物にステアリン酸アミドを加えた比較例5〜8は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10以内であり、経時消色性を示さなかった。
【0080】
融点>150℃の電子受容性化合物を2種類併用した実施例13〜17は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10より大きく、インジケーターとして良好に機能し得るものであった。融点≦150℃の電子受容性化合物を2種類併用した比較例9〜12は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10以内であり、経時消色性を示さなかった。
【0081】
融点>150℃の電子受容性化合物を3種類併用した実施例18は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10より大きく、インジケーターとして良好に機能し得るものであった。融点≦150℃の電子受容性化合物を3種類併用した比較例13は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10以内であり、経時消色性を示さなかった。
【0082】
融点>150℃の電子受容性化合物を使用し、紫外線吸収剤を添加した実施例19〜23、25、26の経時消色性は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10より大きく、インジケーターとして良好に機能し得るものであった。融点≦150℃の電子受容性化合物を使用し、紫外線吸収剤を添加した比較例15および16は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10以内であり、経時消色性を示さなかった。電子供与性呈色性有機化合物を2種類併用し、融点>150℃の電子受容性化合物を使用した実施例24は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10より大きく、インジケーターとして良好に機能し得るものであった。電子供与性呈色性有機化合物を2種類併用し、融点<150℃の電子受容性化合物を使用した比較例14は、保存後のΔEの変化率の絶対値が10以内であり、経時消色性を示さなかった。
【0083】
経時消色性が良好でインジケーターとして機能する熱変色性組成物(実施例5、11、24、25、26)をマイクロカプセル化した実施例27〜31は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10%より大きく、インジケーターとして良好に機能し得るものであった。比較例1、6、14〜16をマイクロカプセル化した比較例21〜25は、保存後のΔEの変化率の絶対値がいずれも10以内で、経時消色性を示さなかった。
【0084】
また、経時消色した実施例1〜34の組成物およびマイクロカプセルを、100℃にて5分間加熱すると、経時消色前の発色状態となり、再び経時インジケーターとして使用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の経時インジケーターは、経時的に変色可能であり、かつ経時変色後に加熱することにより再利用可能であるので、食料品および薬剤等、有効期間または使用期限を有する物品の当該期間の終期または当該期限を、目視により判別するために使用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、および減感剤を含み、電子受容性化合物として、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで示され、かつ融点が150℃を超える化合物を1種または複数種含む、熱変色性組成物を含む、経時インジケーター。
【化1】

【化2】

【化3】

(一般式(1)〜(3)において、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、シクロへキシル基であり、X、YおよびZはそれぞれ独立して、ハロゲン、OH基、アルコキシ基、アルコキシアリル基、アリル基、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐アルキル基、フェニル基、またはシクロへキシル基であり、Cは、置換基を有してもよい炭素数5〜8のシクロアルカンまたは置換基を有してもよいフルオレン環である。)
【請求項2】
前記熱変色性組成物が、前記電子受容性化合物として、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビスクレゾールフルオレン、4−ヒドロキシ−4’−アリルオキシジフェニルスルホン、および4−ヒドロキシ−4’−プロポキシジフェニルスルホンをのいずれか1または複数を含む、請求項1に記載の経時インジケーター。
【請求項3】
前記熱変色性組成物が、非熱変色性染料および非熱変色性顔料のいずれか一方または両方をさらに含む、請求項1に記載の経時インジケーター。
【請求項4】
前記熱変色性組成物がマイクロカプセルに内包されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経時インジケーター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の経時インジケーターを、一定期間の間に変色させた後、加熱することにより、当該一定期間の開始時の発色状態に戻すことを含む、経時インジケーターの再生方法。

【公開番号】特開2010−127634(P2010−127634A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299473(P2008−299473)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)