説明

再生セメント原料及びそれを用いた再生セメント組成物

【課題】セメント硬化体より得られる再生セメント組成物の原料として有用な再生セメント原料、該材料を用いた、製造時に発生する二酸化炭素が削減された再生セメント組成物、及び、該再生セメント組成物を含む、製造時に発生する二酸化炭素が削減され、汎用性の高い混合セメント組成物を提供する。
【解決手段】セメント硬化体から、充填材料を分離回収した後に発生する再生微粉末であって、CaOとSiOとを、質量比(CaO/SiO)が0.6以上3.0以下の割合で含み、累積50%粒径が10μm以下であり、累積90%粒径が20μm以下の粉末である再生セメント原料、及び、該(A)再生セメント原料と(B)カルシウム原料、アルミニウム原料及び鉄原料から選ばれる少なくとも1種と、を含む混合物を、1300℃〜1500℃の温度で焼成して得られた焼結体を粉砕してなる再生セメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント硬化体由来成分を多量に含有する再生セメント原料及び該再生セメント原料を含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等のセメント硬化体に使用する材料は、わが国のマテリアルフローの半分近くを占めている。また、建設業からの廃棄物量は、全産業廃棄物の約20%を占めており、そのうちの約40%が解体コンクリート塊である。
解体コンクリートの再利用率は90%前後の高い値を示しているが、大部分が解体コンクリートを破砕して道路の路盤材に使用するものであり、骨材やセメントが循環する形のリサイクルは、あまり進んでいない。さらに、公共工事の減少により道路建設は急速に縮小しつつあり、路盤材への利用によるリサイクルも困難となりつつある。したがって、骨材はコンクリート用骨材に、セメント硬化体はセメント原料として再利用する循環型のコンクリートリサイクルを進める事が求められている。
リサイクル資源の有効活用の観点から、解体コンクリート等のセメント硬化体由来の有用な材料を回収して利用する方法が種々検討されている。なかでも解体コンクリートを粉砕し、そこに含まれる粗骨材、細骨材を回収する方法は広く行われており、再利用が可能な高品質の骨材を回収する技術が開発され(例えば、特許文献1及び2参照。)、JISも制定されている(JIS A5021)。
近年、骨材を回収した際に発生する粉末の利用についても注目されているが、粉末の再生利用に際しては、回収された粉末中に反応性の高いセメント成分と反応活性のない骨材成分が混在しており、反応活性のない骨材成分の含有量が多く、その割合が一定しないことから、再生利用が進んでいないのが現状である。
【0003】
通常、ポルトランドセメント1トン製造するに際して、原料の石灰石から約450kg、焼成エネルギーから約300kg、合計約750kgの二酸化炭素(CO)が発生する。セメント産業からの二酸化炭素発生の総量は、わが国全体の約4%を占め、セメントからの二酸化炭素削減が望まれている。
解体コンクリートから回収した粉末にはセメント硬化体の粉末が多く含まれているのであり、これをセメント原料としてリサイクルすれば、従来のセメント原料とは異なり、原材料の石灰石(CaCO)から二酸化炭素を除去した粉末であるため、回収した再生微粉末をセメント原料としてセメントを製造すれば、原料からの二酸化炭素の排出を大幅に抑制することができる。すなわち、全ての石灰石原料を再生微粉末でまかなう事ができれば、セメント製造時の二酸化炭素排出量をセメント1トン当り750kg/tonから300kg/ton(焼成エネルギー由来の二酸化炭素)近くへと約60%削減することが可能となる。
【0004】
このように解体コンクリートの循環型リサイクルは、骨材資源の保全、二酸化炭素の排出抑制等、セメント・コンクリートの環境負荷の低減に大きく貢献するのであり、これを可能とする技術が求められている。特に循環型リサイクルを実現するうえでネックとなっている再生微粉末をセメント原料として利用する技術が必要とされている。
再生微粉末をセメント原料として利用するための最も基本的な技術として解体コンクリート塊をそのまま破砕して粉末とし、それに不足する成分を添加して再生セメントを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この方法で得られる再生微粉末においては、セメントの主原料であるCaOとSiOのうち、再生微粉末から得られるCaOとSiO成分は質量で約30%を占めるに過ぎず、70%の石灰石を新たに添加しないと実用される再生セメント組成物が得られず、セメントのリサイクル技術としては限定的な効果しか有していなかった。
【0005】
これに対して、解体コンクリート塊から加熱すりもみ方式により構造体への再利用が可能な骨材を回収した後に残留する粉末をセメント原料とする技術が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。この技術では高度な処理技術で骨材を回収した後に残留する粉末を使用するため骨材に由来する粉末の量が少なく、CaO/SiO質量比で0.6〜0.8の粉末が得られているが、この粉末を使用した場合でも、セメントの主原料であるCaOとSiOに占める再生微粉末からのCaOとSiOの比率は40%〜45%であり、再生微粉末が主原料となるには至っていない。
上記の技術は、いずれも通常のポルトランドセメントの原料として再生微粉末を利用するものであり、再生微粉末に石灰石等の必要な成分を追加して1300〜1500℃で焼成して再生セメント組成物を製造するものである。
【0006】
これに対して、再生微粉末を400℃〜800℃で焼成することによりビーライト(2CaO・SiO)を生成させ再生セメント組成物とする技術が提案されている(例えば、特許文献5、及び6参照。)。このようにして得られるビーライトと水の混合物から得られる硬化体の強度は低く、ビーライト単独で構造体に使用するセメントとするのは難しいが、高炉スラグ微粉末と混合して使用することにより十分な強度を有するセメントを得ることができ、且つ、ビーライトの製造は焼成温度が低いためセメント製造時の環境負荷が小さいメリットがある。しかしながら、これらの技術もまた、解体コンクリート塊から粗骨材と細骨材を回収した後に残留する粉末をそのまま使用するものであり、再生微粉末の利用率が低く、環境負荷低減効果が限定的であるという課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3119093号公報
【特許文献2】特公平6−30755号公報
【特許文献3】特開平8−26794号公報
【特許文献4】特開2003−104763公報
【特許文献5】特開平10−114556号公報
【特許文献6】特開2005−320201公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した問題に鑑みてなされた本発明の課題は、セメント硬化体の有用な再利用を可能とする、セメントの原料として好適な再生セメント原料、及び、前記本発明の再生セメント原料を用いてなる、製造時に発生する二酸化炭素が削減された再生セメント組成物を提供することにある。
本発明のさらなる課題は、該再生セメント組成物を用いた、製造時に発生する二酸化炭素が削減され、汎用性の高い混合セメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、検討の結果、従来の再生微粉末が、単に解体コンクリートの破砕物を用いていたのに対し、特定の粒子径を有し、酸化カルシウム(CaO)と二酸化ケイ素(SiO)の含有比率が適正なものを選択して用いることで、有用な再生セメント原料が提供され、且つ、該再生セメント原料とともに、必要に応じてカルシウム原料やアルミニウム原料などを併用することで上記課題を解決しうることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明の構成は以下に示す通りである。
<1> セメント硬化体から、充填材料を分離回収した後に発生する粉末の分級品であって、CaOとSiOとを、質量比(CaO/SiO)が0.6以上3.0以下の割合で含み、累積50%粒径が10μm以下であり、累積90%粒径が20μm以下の粉末である再生セメント原料である。
<2> 前記セメント硬化体が、コンクリート硬化体であり、充填材料が、粗骨材と細骨材である<1>に記載の再生セメント原料である。
<3> (A)<1>又は<2>に記載の再生セメント原料と、(B)カルシウム原料、アルミニウム原料及び鉄原料から選ばれる少なくとも1種と、を含む混合物であって、該混合物に含まれるCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)が2.5以上3.7以下であり、CaOと(SiO+Al+Fe)との質量比〔CaO/(SiO+Al+Fe)〕が1.6以上2.9以下である混合物を、1300℃〜1500℃の温度で焼成して得られた焼結体を粉砕してなる再生セメント組成物である。
<4> さらに、セッコウを3質量%〜7質量%含有する<3>に記載の再生セメント組成物である。
【0011】
<5> (A)<1>又は<2>に記載の再生セメント原料と、(C)カルシウム原料及びシリカ原料から選ばれる少なくとも1種と、を含む混合物であって、該混合物に含まれるCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)が1.7以上2.3以下となる混合物を、400℃〜800℃の温度で焼成して得られた焼結体を粉砕してなる再生セメント組成物である。
<6> <3>〜<5>のいずれか1つに記載の再生セメント組成物30質量%〜60質量%と、粉末度3000cm/g〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末40質量%〜70質量%と、セッコウ2質量%〜9質量%とを、全体が100質量%となるように含有してなる混合セメント組成物である。
<7> <3>〜<5>のいずれか1つに記載の再生セメント組成物5質量%〜35質量%と、粉末度3000cm/g〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末60質量%〜90質量%と、セッコウ5質量%〜20質量%とを、全体が100質量%となるように含有してなる混合セメント組成物である。
<8> 前記混合セメント組成物における再生セメント組成物の含有量を100質量部としたとき、該再生セメント組成物の30質量%〜70質量%を、ポルトランドセメントで置き換えた<6>又は<7>に記載の混合セメント組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セメント硬化体の有用な再利用を可能とする、セメントの原料として好適な再生セメント原料、及び、前記本発明の再生セメント原料を用いてなる、製造時に発生する二酸化炭素が削減された再生セメント組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記再生セメント組成物を用いた、製造時に発生する二酸化炭素が削減され、汎用性の高い混合セメント組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる再生微粉末の粒径とCaO/SiO質量比の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態に係る分級装置の基本構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る分級装置で分級される解体コンクリート粉末の製造フローを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る分級装置で使用される分級ロータの構造及び作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第1の態様に係る再生セメント原料は、セメント硬化体から、充填材料を分離回収した後に発生する粉末であって、CaOとSiOとを、質量比(CaO/SiO)が0.6以上3.0以下の割合で含み、累積50%粒径が10μm以下であり、累積90%粒径が20μm以下の粉末であることを特徴とするものであり、原料として用いられるセメント硬化体は、解体コンクリートなどのコンクリート硬化体であることが好ましく、再生微粉末を得るために除去される充填材料としては、粗骨材と細骨材であることが好ましい態様である。
【0015】
本発明の再生セメント組成物は、前記本発明の再生セメント原料を用いることを特徴とする。再生セメント組成物としては、通常のポルトランドセメント組成物などと同様に用いられる第1の態様と、高炉スラグ微粉末との併用に有用な水硬性セメント組成物としての第2の態様が挙げられる。
即ち、本願請求項3に記載の、本発明の第1の態様に係る再生セメント組成物は、(A)前記本発明の再生セメント原料と、(B)カルシウム原料、アルミニウム原料及び鉄原料から選ばれる少なくとも1種と、を含む混合物であって、該混合物に含まれるCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)が2.5以上3.7以下であり、CaOと(SiO+Al+Fe)との質量比〔CaO/(SiO+Al+Fe)〕が1.6以上2.9以下である混合物を、1300℃〜1500℃の温度で焼成して得られた焼結体を粉砕して得られる再生セメント組成物である。
【0016】
また、本発明の第2の態様に係る再生セメント組成物は、(A)前記本発明の再生セメント原料と、(C)カルシウム原料及びシリカ原料から選ばれる少なくとも1種と、を含む混合物であって、該混合物に含まれるCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)が1.7以上2.3以下となる混合物を、400℃〜800℃の温度で焼成して得られた焼結体を粉砕して得られる再生セメント組成物である。
これら本発明の再生セメント組成物は、いずれも、セメント硬化体から粗骨材と細骨材に代表される充填材料を回収した後に発生するCaOとSiOとを含む粉末を分級して得られ、CaOとSiOとを、質量比(CaO/SiO)が0.6以上3.0以下の割合で含み、累積50%粒径が10μm以下であり、累積90%粒径が20μm以下の粉末である(A)再生セメント原料(以下、適宜、再生微粉末と称する)を含有することを大きな特徴とする。以下、まず、本発明の特徴的な成分である(A)再生セメント原料について、その製造方法とともに詳細に説明する。
【0017】
<(A)再生セメント原料>
本発明の再生セメント原料は、解体コンクリートなどのセメント硬化体から、粗骨材や細骨材などの充填材料を回収、除去した後に発生するCaOとSiOとを含む粉末を分級して得られ、CaOとSiOとを、質量比(CaO/SiO)が0.6以上3.0以下の割合で含み、累積50%粒径が10μm以下であり、且つ、累積90%粒径が20μm以下であることを特徴とする。
累積50%粒径が10μmを超える粉末の場合、細骨材など骨材成分を多く含むことになり、好ましくない。累積50%粒径は、好ましくは、10μm以下であり、より好ましくは、8μm以下である。但し、本発明の解体コンクリート由来粉末における粒径1μm以下の微粉末の含有量が多くなった場合には、粉末の凝集が生じやすくなるなどハンドリング性が低下するため、累積50%粒径の下限値は1μm程度であることが好ましい。
また、累積90%粒径が20μm以下であるとは、本発明の粉末における粒径20μm以上の粉末の含有量が10%以下であることを示すが、累積50%粒径、即ち、平均的な粒径が10μm以下であっても、20μm以上の比較的大きな粒径の粒子を含有する場合には、解体コンクリート粉末における成分として、セメント組成物の形成に寄与しない骨材成分の含有量が増えることになり、本発明の優れた効果を発現しない懸念がある。
【0018】
図1は建設後31年を経過した建築物を解体した時に発生した解体コンクリートから、特公平6−30755号公報に記載の竪型偏心ロータ式再生粗骨材製造装置を用いて粗骨材を回収し、粗骨材を回収した残りの粒径5mm以下の解体コンクリート細粒を製造し、得られた5mm以下の解体コンクリート細粒を、以下に詳述する連続式遊星ミルを用いて、粒径0.6mmを超える細骨材と0.6mm以下の粉末に分離した後、0.6mm以下の粉末を、遠心式風力分級装置を用いて種々の平均粒子径の粉末に分けた時に粉末が示すCaO/SiO質量比と平均粒子径の関係を示す。
図1に記載のように、驚くべきことに、累積50%粒径が10μm以下となることで、粉末中のCaO/SiO質量比が急激に大きくなることを見出した。すなわち、粗骨材と細骨材を回収した残りの粉末から平均粒子径が10μm以下の粉末を取り出すことで、セメント硬化体成分の多い粉末が抽出できることが明らかとなった。
【0019】
平均粒子径が10μm以下の粒子においてセメント成分が著しく増大する理由は必ずしも明確ではないが、粗骨材と細骨材を回収するための処理を行った時、セメント硬化体と骨材の一部が同時に破砕され粉末が生成するものの、セメント硬化体の方が軟らかいため、セメント硬化体から生成する粉末の方が小さな粒子径に集中するのではないかと推定される。
さらに遠心式風力分級機では気流による向心力と羽車による遠心力を利用して分級を行っているため、骨材粉(密度2.4g/cm〜2.6g/cm程度)とセメント硬化体粉(密度1.9g/cm〜2.2g/cm程度)の密度差も両者の分離に効果を発揮していると推定される。本発明は、上記の発見を基に、再生微粉末の利用率の高い再生セメント組成物とその製造方法の発明に至ったものである。
【0020】
なお、本明細書において、累積50%粒径及び累積90%粒径は、体積を基準として、以下の条件で測定したものであり、本発明においては、この条件にて測定した値を用いている。
粉末0.5gを、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム溶液中で3分間超音波分散させた後、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300:日機装(株)製)にて測定を行った。
【0021】
上述のように、本発明者らは、検討の結果、解体コンクリート粉末における上記累積50%粒径と、得られる粉末の組成に相関があることを見出した。即ち、累積50%粒径が小さくなるほど、得られる粉末中のCaO/SiO質量比が増加する傾向にある。
【0022】
本発明に用いうる(A)再生セメント原料の必要な物性としては、酸化カルシウム(CaO)と二酸化ケイ素(SiO)とを、質量比(CaO/SiO)が0.6以上3.0以下の割合で含むことが挙げられ、再生微粉末が適用されるセメント組成物の品質を制御するという観点からはこの比率は、1.0以上、2.5以下であることがより好ましい。
また、酸化カルシウムと二酸化ケイ素の含有量は、JIS R 5202(2004)またはJIS R 5204(2008)により測定することができる。
上記方法により、CaOとSiOとの含有量を測定し、含有比率を算出すればよい。
再生セメント原料における再生微粉末中のCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)が上記範囲において、再生セメント組成物を調製する際の二酸化炭素発生量を低減させることができ、且つ、得られた再生セメント組成物の硬化性が良好となる。
再生微粉末中の質量比(CaO/SiO)は、通常、測定により比率が上記範囲内である原料粉末を選択して用い、所要量の酸化カルシウムや二酸化ケイ素を添加し、含有比率をセメント組成物に好適な範囲に調製する。
【0023】
本発明の再生セメント原料は、例えば、解体コンクリート等のセメント硬化体を粉砕し、粗骨材や細骨材などの充填材料を取り除いて得た粉末を、分級して得ることができる。このとき分離された粗骨材や細骨材も再生品として使用することができることはいうまでもない。
以下、本発明の再生セメント原料の製造方法を詳細に説明する。
本発明に用いうる(A)再生セメント原料を製造するには、まず、解体コンクリート等のセメント硬化体から、粗骨材と細骨材とを回収する骨材除去工程を行う。ここで、粗骨材の分離は、解体コンクリートを破砕し、粗骨材を回収する公知の方法で行うことができるが、本発明における好ましい粗骨材の回収方法においては、加熱を行わない機械擦りもみ方式により行われることが、製造時の二酸化炭素の削減という観点から好適である。
【0024】
セメント硬化体から、充填材料である骨材を除去する工程において、粗骨材回収工程では、竪型偏心ロータ式再生粗骨材製造装置を用い、粗骨材と5mm以下の細粒(解体コンクリート細粒)とを分離し、粗骨材回収後に残存する解体コンクリート細粒からの細骨材回収には遊星ミル型解体コンクリート細粒処理装置を用いる方法がある。
以下、解体コンクリートから粗骨材を回収した後に残存する解体コンクリート細粒から、再生微粉末を回収する方法について、遊星ミル型解体コンクリート細粒処理装置による方法を例に挙げて説明する。
【0025】
遊星ミル型解体コンクリート細粒処理装置を用いて、遊星ミルのミル本体に取付けられ、前記ミル本体の軸回りに公転しながら自転するミルポットに気体を送り、該ミルポット内部で、細骨材の表面にセメント硬化体が付着した解体コンクリート細粒同士をすり合わせ、前記細骨材と前記セメント硬化体を分離させる。
このとき、前記遊星ミルの外部に設けられた粉末除去手段の送風装置から前記ミルポットへ気体を送り、分離された前記セメント硬化体を含む粉末を前記ミルポットから除去させ、除去された前記粉末を粉末回収装置で回収し、これを次工程である分級工程に付す。このとき得られる回収粉末は、本発明にて規定する粒度分布に適合し、セメント硬化体由来成分を多く含む本発明の再生微粉末と、骨材成分を多く含む粗粉が混合した解体コンクリート粉末であり、この解体コンクリート粉末を後述する分級装置により分級することで本発明の再生セメント原料(再生微粉末)が得られる。
また、セメント硬化体が除去された細骨材は、ミルポットの下方に設けた細骨材回収部で回収され、再生細骨材として利用される。
【0026】
得られた解体コンクリート粉末を、分級装置を用いて分級し、累積50%粒径が10μm以下であり、且つ、累積90%粒径が20μm以下である再生微粉末を得る。
この分級を行う際には、分級を密閉された空間内で行い、空間内の空気中の二酸化炭素を除去する方法、或いは、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを封入した装置内で行う方法をとることで、処理中のセメント由来成分の炭酸化を抑制することができ、本発明における如きセメント製造時に原料から分離される二酸化炭素の少ない粉末を得ることができる。
【0027】
なお、得られる粉末の炭酸化を抑制する目的で、分級工程のみならず、偏心ロータ方式や遊星ミル等の機械擦りもみ装置を用いた骨材除去工程においても、機械すりもみプロセスを密閉された空間内で行い、空間内の空気中の二酸化炭素を除去する方法、或いは、窒素ガスなどの不活性ガスを封入する方法をとることが好ましい態様である。
【0028】
分級装置としては、密封された循環路に気体を循環させることができる遠心式風力分級装置を用いることが好ましい。この分級装置を用いて、密閉された空間にて処理を行うと、分級開始初期に、密閉された空気中の二酸化炭素が粉末中に含まれるセメント由来成分と反応して、除去される。そして、二酸化炭素が除去された後は、二酸化炭素の少ない空気が循環することとなる。二酸化炭素の少ない空気を循環させることで、セメントによりアルカリ性となった粉末を、中性化することなく、アルカリ性を保持したまま回収できる。また、分級に用いる気体として、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性気体を用いた場合も、粉末中に含まれるセメント由来成分のアルカリ性を好ましい範囲に維持することができる。
【0029】
分級工程を経て、累積50%粒径が10μm以下に調整された再生微粉末は、CaO/SiOの含有比率が好適であるため、後述する本発明のセメント組成物に好適に用いられる。
【0030】
<分級装置>
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る分級装置10は、遠心式の風力分級装置であり、密閉された筒体17を備えた分級装置本体16を有している。筒体17は、中心線を鉛直方向に向けた円筒状とされ、上部と下部の円筒体をつなぐ中間部が、円錐状にくびれて径が細くされている。分級は筒体17の上部で行われ、分級される解体コンクリート粉末50は解体コンクリート粉末供給機12から、筒体17の中間部に供給される。
【0031】
解体コンクリート粉末供給機12は、投入口62から投入された解体コンクリート粉末50を一時貯蔵すると共に、所定量が供給部64から筒体17へ供給される。筒体17への解体コンクリート粉末50の供給は、解体コンクリート粉末供給機12の下部に設けられたスパイラル羽根63により行われる。スパイラル羽根63の回転により、解体コンクリート粉末50が供給部64を経て解体コンクリート粉末供給管14へ送り出され、解体コンクリート粉末供給管14の先端68から筒体17の内部に供給される。
【0032】
解体コンクリート粉末供給機12は、密閉構造とされており、大気中の二酸化炭素と解体コンクリート粉末50の反応が抑制される。なお、後述するように、分級装置10の全体が密閉構造とされており、分級された微粉74や粗粉72も大気中の二酸化炭素との反応が抑制される。
ここに、解体コンクリート粉末50は、図3の製造フローに示す手順を経て生成される。先ず、建物解体時に発生した解体コンクリート52を破砕し、破砕された粒径40mm以下の解体コンクリート52を竪型偏心ロータ式再生粗骨材製造装置54に投入する。竪型偏心ロータ式再生粗骨材製造装置54で処理された5mmを超える粗骨材56を回収し、残りの5mm以下の解体コンクリート細粒を連続遊星ミル型解体コンクリート細粒処理装置58に投入する。連続遊星ミル型解体コンクリート細粒処理装置58で処理された粒径が0.6mmを超える細骨材60を回収し、残りの粒径が0.6mm以下の粉末を遠心式風力分級機10に投入する。
【0033】
この粒径0.6mm以下の粉末が、セメント硬化体由来成分を多く含む再生微粉末と、骨材成分を多く含む粗粉と、が混合された解体コンクリート粉末50である。遠心式風力分級機10は、解体コンクリート粉末50を再生微粉末と骨材成分を多く含む粗粉と、に分級するよう制御される。
【0034】
図2に示すように、解体コンクリート粉末供給管14は、分級装置本体16の側壁を貫通して内部に挿入され、円錐体の最もくびれた位置よりやや下方に、粉末供給口68を上方に向けて開口している。解体コンクリート粉末供給管14の分級装置本体16の外側は供給部64と接続され、解体コンクリート粉末50が解体コンクリート粉末供給機12から供給される。また、解体コンクリート粉末供給管14は、ダクト33と解体コンクリート粉末圧送部76で接続され、後述する循環気体で解体コンクリート粉末50に圧力が加えられる。これにより、解体コンクリート粉末50を粉末供給口68から、上方(円錐体の最もくびれた位置)に向けて解体コンクリート粉末50を吹き出すことができる。
【0035】
解体コンクリート粉末供給管14の先端68は、筒体17のほぼ中央に配置されており、解体コンクリート粉末供給管14の先端68を囲む筒体17の側壁には、気流吐出口36が設けられている。気流吐出口36は、筒体17の側壁から拡散気流を吹き出して、筒体17の内部に供給された解体コンクリート粉末50を、筒体17の上部で拡散させる。
分級装置本体16の下部には、筒体17の一部を構成し、粗粉72を回収する粗粉捕集容器66が着脱可能に取り付けられている。
筒体17の上方には、分級ロータ20が設けられている。分級ロータ20は、鉛直方向に設けられた回転軸の軸心y回りに回転し、筒体17の内部に拡散された解体コンクリート粉末50に水平方向の遠心力を付与する。分級ロータ20はモータ70で回転力が与えられる。
【0036】
次に、図4を用いて分級ロータ20の構造、作用を詳細に説明する。
分級ロータ20は、図4(A)の鉛直断面、図4(B)の水平断面で示すように、平板状の羽根38が放射状に並べられた羽根車であり、羽根38は、上側板40と下側板41の間に同心円状に固定されている。
分級ロータ20は、所定の回転数で矢印Aの方向に回転し、拡散された解体コンクリート粉末50に遠心力Fを付与する。遠心力Fを付与された解体コンクリート粉末50は、分級ロータ20から遠ざかる方向に移動する。
【0037】
分級ロータ20の下側板41には、分級ロータ20と軸心yを一致させた微粉吸引管22が設けられている。微粉吸引管22の吸引口23は、下側板41の下方から挿入され、上方に向けて開口している。これにより、吸引口23から吸引される吸引気流で解体コンクリート粉末50に吸引口23に向かう力である向心力(吸引力)Rを与えることができる。
ここに、解体コンクリート粉末50が受ける遠心力Fは(1)式で求められ、向心力Rは(2)式で求められる。
【0038】
【数1】

【0039】
遠心力Fと向心力Rが等しくなる粒子径Dpを分級径とする。粒子径Dpが分級径以上の粉末(粗粉)72は、遠心力Fが向心力Rより大きくなるため分級ロータ20の外に移動した後、自然落下する。この粗粉72は粗粉捕集容器66で回収される。
一方、粒子径Dpが分級径以下の粉末(微粉)74は、向心力Rが遠心力Fより大きくなり、微粉74として微粉回収容器26で回収される。
粒子径Dpが同じであっても、粒子の密度が異なれば遠心力Fも異なる。例えば、骨材粉末46の密度は約2.6g/cmであり、セメント硬化体粉末44の密度は約2.2g/cmである。即ち、骨材粉末46の密度がセメント硬化体粉末44の密度より大きいため、粒子径Dpが同じ場合には、骨材粉末46の遠心力Fがセメント硬化体粉末44の遠心力Fより大きくなる。
【0040】
この密度の違いにより、篩やフィルターによる分別と異なり、解体コンクリート粉末50を、セメント硬化体由来成分を多く含む微粉74と、骨材成分を多く含む粗粉72に分級することができる。
また、図2に示すように、分級装置本体16の外部には、ダクト33、34、35が設けられ、微粉吸引部22、再生微粉末を回収するサイクロン式の微粉回収容器26、バグフィルタ30、解体コンクリート粉末供給機12の順に連結している。ダクト33、34とダクト35の間には、送風機32が設けられており、密閉した状態でダクト33、34、35の内部と分級装置本体16の内部に気体を循環させることができる。
これにより、送風機32は、吸引気流で、微粉吸引部22から微粉74を吸引し、サイクロン式の微粉回収容器26に回収する。また、ダクト33からの吐出気流で、解体コンクリート粉末供給圧送部76を介して解体コンクリート粉末供給管14から解体コンクリート粉末50を分級部本体16の内部に上方に向けて供給する。同時に、ダクト34からの吐出気流で、解体コンクリート粉末50を拡散させる。
【0041】
分級工程を経て、累積50%粒径が10μm以下に調整された解体コンクリート粉末は、既述のように、酸化カルシウムと二酸化ケイ素との含有比率が、セメント組成物に近い好適なものとなるため、後述する再生セメント組成物に好適に用いられる。
即ち、前記(A)再生セメント原料は、累積50%粒径10μm以下であり、CaO/SiO質量比が0.6以上であり、平均粒子径3μmでは約1.6に、2μmでは約2.0に達している。CaO/SiO質量比を1.6〜2.0とすれば、CaO/SiO質量比を3.0で製造するポルトランドセメントの場合、ポルトランドセメントに必要なCaOとSiOの量の65%〜75%を解体コンクリート粉末からの原料でまかなうことが出来る。
従って、本発明によれば、再利用率の高い再生セメント組成物が得られる。微粉末の粒子径のさらに小さなものを選択するとCaO/SiO質量比はさらに大きくなり、CaO/SiO質量比が3.0を上回るものを得ることも可能となる。しかし、微粉末の粒子径1μmを下回るものは、解体コンクリート由来粉末全体の中で使用できる量が限定的となり、効率的なリサイクルをするのが難しい。また、セメント製造時の取り扱いも難しくなる。さらにCaO/SiO質量比が3.0を上回るとポルトランドセメントの製造時の成分調整が難しくなる場合もあるので、CaO/SiO質量比は3.0以下とすることが望ましい。
【0042】
<再生セメント組成物>
本発明の第1の態様に係る再生セメント組成物は、前記本発明の(A)再生セメント原料、(B)カルシウム原料、アルミニウム原料、及び、鉄原料から選択される少なくとも1種を含有する混合物を、1300℃〜1500℃の温度で焼成して得られる焼結体を粉砕してなる。即ち、前記最適な(CaO/SiO)含有比率を有する(A)再生セメント原料に、(B)カルシウム原料、アルミ原料及び鉄原料から選択される少なくとも1種を添加することで、混合物中に含まれるCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)を2.5以上3.7以下、望ましくは2.8以上3.4以下とし、CaOと(SiO+Al+Fe)との質量比〔CaO/(SiO+Al+Fe)〕を1.6以上2.9以下、望ましくは1.9以上2.6以下となるように含有させる。
【0043】
ここで、(B)カルシウム原料(B−1)、アルミニウム原料(B−2)および鉄原料(B−3)とは、混合物中のカルシウム、アルミニウムおよび鉄の含有量を調整するために用いられ、(B−1)カルシウムの含有量を制御するために用いられるカルシウム原料は、混合物中のカルシウムの含有量を調整しうる限りにおいて、カルシウムが含有される化合物、組成物であれば特に制限はないが、具体的には、例えば、石灰石などが挙げられる。(B−2)アルミニウム原料としては、アルミニウムが含有される化合物、組成物であれば特に制限はないが、混合物中における酸化アルミニウム(Al)の含有量を調整することを目的とすることから金属アルミニウムよりも、アルミニウム化合物の形態で含まれるものが好ましく、具体的には、例えば、水酸化アルミニウム、フライアッシュなどが挙げられる。
同様に、(B−3)鉄原料としては、同様の観点から、鉄化合物が好ましく、水酸化鉄、銅ガラミなどが挙げられる。
【0044】
混合物中の、Al、Feの含有量は、JIS R 5202(2004)またはJIS R 5204(2008)に記載の方法により測定することができる。
【0045】
得られた混合物を、1300℃〜1500℃、望ましくは1350℃〜1450℃の温度条件で焼成することにより、通常のポルトランドセメントと同様の焼結体、すなわちポルトランドセメントクリンカーを得ることができる。
これを粉砕して粉末とすることによって、解体コンクリートなどのセメント硬化体から得られた(A)再生セメント原料を用いて、本発明の第1の態様に係る再生セメント組成物が得られる。
さらに、本発明の好ましい態様においては、セメントの反応調節のためのセッコウを3質量%〜7質量%添加することによって、普通ポルトランドセメントと同様に反応し、硬化する再生セメント組成物を得ることができる。セッコウの含有量は3質量%〜6質量%の範囲であることがより好ましい。
本発明に用いうるセッコウは、例えば、二水セッコウ、無水セッコウ、半水セッコウのいずれでもよく、これらの一種又は二種以上を用いることができるが、これらの中では無水セッコウが好ましい。
【0046】
上記の技術は、セメント硬化体由来の再生微粉末を、通常のポルトランドセメントと同様に加熱して再生セメント組成物を得ようとするものであるのに対し、本発明の第2の態様に係る再生セメント組成物では、400℃〜800℃という低温で焼成することによって、水硬性を有するセメント組成物を得るものである。
従来、ポルトランドセメントを400℃〜800℃で焼成することによって、水硬性を有するセメント組成物が生成されることが知られている。この製造方法によれば、ビーライト(2CaO・SiO)が生成し、該ビーライトが水と反応した硬化体は、構造用のコンクリートとする程の強度を発現するものではないが、高炉スラグ微粉末の水和反応の刺激材として効果を発揮し、高炉スラグ微粉末と混合することによりポルトランドセメントと同様の硬化体を得ることができる。
【0047】
本発明の第2の態様は、この技術を応用したものである。前記本発明の(A)再生セメント原料は、CaOとSiOとの質量比〔CaO/SiO〕が0.6以上3.0以下であるのに対し、ビーライトではCaO/SiO質量比2.0であるので、CaO/SiO質量比がそれほど高くない0.6以上2.3以下の抽出した(A)再生セメント原料を使用すれば、ほぼそのまま使用してビーライトの製造が可能となる。
CaO/SiO質量比が0.6以上2.3以下である(A)再生セメント原料(再生微粉末)に、必要に応じて所要量の(C)カルシウム原料及びシリカ原料の少なくとも1種を添加して、CaO/SiO質量比を1.7以上2.3以下、望ましくは1.9以上2.1以下に調整した混合物を得る。この混合物を400℃〜800℃、望ましくは700℃〜750℃の温度範囲で焼成して得られる焼結体を粉砕することによって本発明の第2の態様に係る再生セメント組成物を得ることができる。
(C−1)カルシウム原料は、前記第1の態様で記載したカルシウム原料と同様のものを挙げることができる。また、(C−2)シリカ原料としては、混合物中のシリカ含有量を調整できるものであれば、特に制限はないが、例えば、ケイ石などが挙げられる。
【0048】
<混合セメント組成物>
上記本発明の第2の態様に係る再生セメント組成物は、焼成エネルギーは少ないものの、第1の態様に係る再生セメント組成物に比べて強度が低く、そのままでは構造体に使用するのは難しい。そのため、実用上充分な強度の硬化体を得る目的で、上記本発明の再生セメント組成物と高炉スラグ微粉末とを混合して、強度の高い硬化体を形成しうる本発明の混合セメント組成物を得る。さらに、本発明の第1の態様に係る再生セメント組成物においても、これを高炉スラグ微粉末と混合してなる混合セメント組成物とすることにより、セメント全体としての焼成エネルギーを抑制することも可能となる。
【0049】
混合セメント組成物としては、使用する目的等に応じて、以下に示す2つの態様をとることができる。
本発明の混合セメント組成物の第1の態様は、前記本発明の再生セメント組成物30質量%〜60質量%と、粉末度3000cm/g〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末40質量%〜70質量%と、セッコウ2質量%〜9質量%とを含有し、全体を100質量%とすることにより得られる混合セメント組成物であり、これは、高炉セメント組成物と同様に使用される。
また、本発明の混合セメント組成物の第2の態様は、前記本発明の再生セメント組成物の含有量を5質量%〜35質量%の範囲とし、これに、粉末度3000cm/g〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末60質量%〜90質量%とセッコウ5質量%〜20質量%とを含有させ、全体を100質量%としてなる混合セメント組成物であり、これが、高硫酸塩スラグセメント組成物と同様に使用される。
【0050】
上記本発明の混合セメント組成物の第1及び第2の態様において用いた本発明の再生セメント組成物の30質量%〜70質量%をポルトランドセメントで置き換えることにより、再生セメントの強度を向上させたり、また、原料として用いる解体コンクリート中の六価クロムの含有量が多い場合に六価クロム含有量を低減させたりすることができる。
ポルトランドセメントの置き換え量が、再生セメント組成物の30%未満では置き換えの効果が少なく、70質量%を上回ると再生セメント原料の利用の効果が少なくなるのでいずれも好ましくない。
【0051】
また、本発明の再生セメント組成物及び混合セメント組成物には、上記必須成分に加え、通常、セメント組成物に用いられる各種添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されない。
(製造例1:本発明に係る再生セメント原料1の製造)
築31年の建物解体時に発生した解体コンクリートを粒径40m以下に破砕し、特公平6−30755号公報に記載の竪型偏心ロータ式再生粗骨材製造装置を用いて、粒径5mmを超える再生粗骨材と粒径5mm以下の解体コンクリート細粒と、に分離し、粗骨材を回収した。次に粒径5mm以下の解体コンクリート細粒を、前記遊星ミル型の解体コンクリート細粒処理装置を用いて処理し、粒径0.6mmを超える細骨材を回収した。
次に、細骨材回収後に残留する0.6mm以下の解体コンクリート粉末を、遠心式風力分級装置((株)栗本鐵工所製シャープカットセパレーター KA50)を用いて分級し、抽出した。このとき、気体として、空気を用い、分級速度は2kg/hとした。
分級装置の分級ロータ回転数、風量、等の条件を制御することで、累積50%粒径が4μmの再生セメント原料1を得た。
分級処理後に得られた粉末について、粒度分布を測定した。測定は、粉末0.5gを0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム溶液中で3分間超音波分散させた後、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300)にて測定を行った。その結果、累積質量90%粒子径9.6μm、累積50%粒径4.1μmであることが確認された。
また、得られた粉末の成分分析を行い、CaOとSiOの含有比(質量換算)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(比較製造例1:再生セメント原料2の製造)
前記製造例1と同様にして、粒径5mmを超える再生粗骨材と粒径5mm以下の再生コンクリート細粒と分離し、粗骨材を回収した。次に、製造例1と同様にして、粒径5mm以下の解体コンクリート細粒を、前記遊星ミル型の解体コンクリート細粒処理装置を用いて処理し、粒径0.6mmを超える細骨材を回収した。細骨材回収後に残留する0.6mm以下の微粉末を再生セメント原料2とした。
【0055】
〔比較製造例2:再生セメント原料3の製造)
製造例1で用いたものと同様の築31年の建物解体時に発生した解体コンクリートを50mm以下に破砕し、ジョークラッシャーを用いて粒径5mm以下に破砕した。その後、これをダブルロールクラッシャーにて、全量を0.6mm以下の粒径に破砕し、得られた粒径0.6mm以下の微粉末を再生セメント原料3とした。
〔成分分析〕
得られた再生セメント原料2及び3を、製造例1と同様にして粒子径測定と成分分析を実施した。結果を前記表1に併記した。
【0056】
〔実施例1,比較例1〜2〕
(1)再生ポルトランドセメントの製造
製造例1,比較製造例1及び2で得られた再生セメント原料1〜再生セメント原料3の3種の各々に対して、石灰石(カルシウム原料)、水酸化アルミニウム(アルミニウム原料)、水酸化鉄(鉄原料)から選択される材料を添加して、CaO/SiO質量比を3.0に、CaO/(SiO+Al+Fe)質量比を2.2に調整し、ポルトランドセメントクリンカーを製造した。
これに無水セッコウを4質量%添加して鋼材を媒体としたボールミルで粉砕してブレーン値が3400cm/g〜3600cm/gに入る3種の再生ポルトランドセメント(本発明の再生セメント組成物である再生ポルトランドセメント−1、比較品の再生セメント組成物である再生ポルトランドセメント−2及び再生ポルトランドセメント−3)を製造した。
これらのセメント組成物の化学成分(JIS R5202(2004年)により分析)とブレーン値で示した粉末度を下記表2に示す。同表中には比較用に使用した普通ポルトランドセメントの化学成分とブレーン値も示している。
【0057】
【表2】

【0058】
〔実施例2,比較例3〜4〕
(2)再生ビーライトセメントの製造
製造例1,比較製造例1及び2で得られた再生セメント原料1〜再生セメント原料3の3種の各々に対して、石灰石(カルシウム原料)の粉末を添加して、CaO/SiO質量比を2.0となるように調整して750℃で1時間焼成し、再生ビーライトセメントクリンカーを製造した。
これを、鋼材を媒体としたボールミルで粉砕してブレーン値が3600〜3800cm/gに入る三種の再生ビーライトセメント(本発明の再生セメント組成物である再生ビーライトセメント−1、比較品の再生セメント組成物である再生ビーライトセメント−2及び再生ビーライトセメント−3)を製造した。これらのセメントの化学成分(JIS R5202(2004年)により分析)とブレーン値で示した粉末度を下記表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
(3)混合セメント組成物の製造
粉末度5800cm/gの高炉スラグ微粉末((株)デイ・シイ製)47質量%に対して、実施例1、比較例1〜2で得られた再生ポルトランドセメント−1、再生ポルトランドセメント−2、及び、再生ポルトランドセメント−3、実施例2,比較例3〜4で得られた再生ビーライトセメント−1、再生ビーライトセメント−2および再生ビーライトセメント−3の6種類のそれぞれの再生セメント組成物51質量%と、無水セッコウの総量が5質量%となるように無水セッコウを添加し、プロシェアミキサーを用いて混合して、再生混合セメント組成物−1(本発明品)、再生混合セメント組成物−2(比較品)、再生混合セメント組成物−3(比較品)、再生混合セメント組成物−4(本発明品)、再生混合セメント組成物−5(比較品)および再生混合セメント組成物−6(比較品)の6種類の混合セメント組成物を製造した。これらのセメントの化学成分(JIS R5202(2004)により分析)とブレーン値で示した粉末度を下記表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
〔再生セメント組成物、混合セメント組成物の性能評価〕
再生セメント原料−1を用いて製造した再生セメントが本発明の実施例であり、再生セメント原料−2および再生セメント原料−3を用いて製造した再生セメントおよび市販の普通ポルトランドセメントを比較例として、JIS R5201(2007年)に従ってモルタルの強度試験を行った結果を下記表5に示す。
また、下記表5中には、各々の再生セメントにおける再生微粉末の使用量(質量%)および二酸化炭素(CO)原単位を示す。CO原単位としては、1450℃で焼成する普通ポルトランドセメントの原料からの二酸化炭素を450kg/ton、エネルギーからの二酸化炭素を300kg/tonとし、エネルギーからの二酸化炭素は焼成温度に比例するとしている。また、高炉スラグ微粉末からの二酸化炭素はゼロとしている。
【0063】
【表5】



【0064】
実施例1および比較例1、比較例2のグループは再生ポルトランドセメント組成物のグループであるが、対照例1として示した市販の普通ポルトランドセメントを用いたセメント組成物に比べて、いずれも圧縮強度はほぼ同等である。対照例1では、本発明の(A)再生セメント材料は利用されていないため利用率は0%、また製造時に排出される二酸化炭素は1トン当たり750kgである。これに対して実施例1は(A)再生セメント原料の利用率が54%、二酸化炭素の排出量は507kgであり二酸化炭素の発生は約32%削減されている。
また、再生セメント原料1を使用した実施例1に比べ、再生セメント原料2、及び、再生セメント原料3を使用した比較例1と比較例2は、再生セメント原料の利用率は大幅に少なく、二酸化炭素の排出量も多い。
実施例2、比較例3、比較例4のグループは再生ビーライトセメント組成物のグループであるが、対照例1に比べて圧縮強度は著しく低く、このままでは通常のコンクリート構造体に使用するのは難しい。しかし、地盤改良用のセメントや低強度のマスコンクリート等では、限定的であるが利用可能である。このグループの再生セメント組成物は、強度は低いものの再生セメント原料の利用率は著しく高くなり、二酸化炭素の排出量も少なくなる。また、実施例2を比較例3、比較例4と比べると、再生セメント原料1を使用している実施例2に比べ、比較品である再生セメント原料2、及び、再生セメント原料3を使用した比較例3、比較例4は再生セメント原料の利用率が低く、二酸化炭素の排出量も多いことがわかる。
【0065】
実施例3、比較例5、比較例6のグループは、高炉スラグ微粉末と再生ポルトランドセメントよりなる混合セメントのグループである。このグループのセメントの圧縮強度は、対照例1よりはやや低いもののコンクリート構造体に使用するのに十分な強度を示している。このグループの混合セメント組成物は、高炉スラグ微粉末との混合セメントであるため、再生セメント原料の利用率は下がるか、二酸化炭素の排出量は大幅に削減される。二酸化炭素の排出量の削減に重点を置いた使用法では、このグループのセメントの使用が有効である。再生セメント原料1を使用した実施例3は、再生セメント原料2、再生セメント原料3を使用した比較例5、比較例6に比べ圧縮強度はほぼ同等であるが、再生セメント原料の利用率は高く、二酸化炭素の排出量も少ない。
【0066】
実施例4、比較例7、比較例8のグループは高炉スラグ微粉末と再生ビーライトセメントよりなる混合セメント組成物のグループである。このグループのセメント組成物は、対照例1のポルトランドセメントよりは低い圧縮強度を示すものの、コンクリート構造体に使用するのに十分な強度を有している。再生ビーライトセメントである実施例2、比較例3、比較例4の強度が著しく低いのに対し、再生ビーライトセメントは高炉スラグ微粉末との混合セメントとすることにより十分な強度を発現することがわかる。
このグループのセメントも実施例3、比較例5、比較例6のグループと同様、混合セメント組成物であるため、再生セメント原料の利用率は低いが、二酸化炭素の排出量は再生ビーライトセメントの焼成エネルギーが少ないために、きわめて低くなる。実施例4の二酸化炭素の排出量は対照例1の20%弱に過ぎない。二酸化炭素の排出削減に重点を置いた使用方法では、このグループのセメントが最も適している。再生セメント原料1を使用した実施例4は、再生セメント原料2、及び、再生セメント原料3を使用した比較例7、比較例8に比べ圧縮強度は同等であるが、再生微粉末の利用率と二酸化炭素の排出量においてはいずれも比較例よりも優れている。
【0067】
上記のように本発明による実施例の再生セメント組成物及び混合セメント組成物は、いずれも、該当する比較例のセメント組成物に比べて再生微粉末の利用率と二酸化炭素の排出量において優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
10 遠心式風力分級装置(分級装置)
12 混合粉末供給器(混合粉末供給手段)
14 混合粉末供給管(混合粉末供給部)
16 分級装置本体
20 分級ロータ
22 微粉吸引部
26 微粉回収容器(微粉回収手段)
30 バグフィルタ(フィルター)
32 送風機(送風手段)
33 ダクト(通風路)
34 ダクト(通風路)
35 ダクト(通風路)
36 気流吐出口(気流吐出手段)
44 解体コンクリート由来粉末
44 セメント硬化体粉末
46 骨材粉末
50 解体コンクリート粉末
72 粗粉
74 微粉(再生微粉末)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体から、充填材料を分離回収した後に発生する粉末の分級品であって、CaOとSiOとを、質量比(CaO/SiO)が0.6以上3.0以下の割合で含み、累積50%粒径が10μm以下であり、累積90%粒径が20μm以下の粉末である再生セメント原料。
【請求項2】
前記セメント硬化体が、コンクリート硬化体であり、充填材料が、粗骨材と細骨材である請求項1に記載の再生セメント原料。
【請求項3】
(A)請求項1又は請求項2に記載の再生セメント原料と、(B)カルシウム原料、アルミニウム原料及び鉄原料から選ばれる少なくとも1種と、を含む混合物であって、該混合物に含まれるCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)が2.5以上3.7以下であり、CaOと(SiO+Al+Fe)との質量比〔CaO/(SiO+Al+Fe)〕が1.6以上2.9以下である混合物を、1300℃〜1500℃の温度で焼成して得られた焼結体を粉砕してなる再生セメント組成物。
【請求項4】
さらに、セッコウを3質量%〜7質量%含有する請求項3に記載の再生セメント組成物。
【請求項5】
(A)請求項1又は請求項2に記載の再生セメント原料と、(C)カルシウム原料及びシリカ原料から選ばれる少なくとも1種と、を含む混合物であって、該混合物に含まれるCaOとSiOとの質量比(CaO/SiO)が1.7以上2.3以下となる混合物を、400℃〜800℃の温度で焼成して得られた焼結体を粉砕してなる再生セメント組成物。
【請求項6】
請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の再生セメント組成物30質量%〜60質量%と、粉末度3000cm/g〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末40質量%〜70質量%と、セッコウ2質量%〜9質量%とを、全体が100質量%となるように含有してなる混合セメント組成物。
【請求項7】
請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の再生セメント組成物5質量%〜35質量%と、粉末度3000cm/g〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末60質量%〜90質量%と、セッコウ5質量%〜20質量%とを、全体が100質量%となるように含有してなる混合セメント組成物。
【請求項8】
前記混合セメント組成物における再生セメント組成物の含有量を100質量部としたとき、該再生セメント組成物の30質量%〜70質量%を、ポルトランドセメントで置き換えた請求項6又は請求項7に記載の混合セメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−6812(P2012−6812A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146633(P2010−146633)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/エネルギー・CO2ミニマム(ECM)セメント・コンクリートシステムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)