説明

再生循環路に凝縮防止部を備えた燃焼チャンバー

【解決手段】 本発明は、ガスの噴射部(11)の下流にある首部(15)と、この首部の下流にあり、その壁部(30)の外側面が、動作中に、極低温製品を用い且つこの外側面を囲んでいる冷却システムにより冷却される拡散部とを有する燃焼チャンバー(10)に関する。この拡散部(20)は、その壁部(30)の内側面(32)に、温度補償部として機能するコーティング(40)を備え、これによりこのコーティング(40)の内側面の温度が、動作条件の下でこの内側面(42)上の燃焼ガスの凝縮温度より高くなり、その結果、凝縮が内側面(42)で生じないようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散部を有する燃焼チャンバーの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の説明において、用語「上流」及び「下流」は、燃焼チャンバーにおけるこのチャンバーの壁に沿った流体の通常の流れの方向に関連して定義される。用語「内側」及び「外側」は、それぞれ、燃焼チャンバーの内側及び外側に位置している(又は向けられている)領域を示す。
【0003】
本発明は、より具体的には、ガスの噴射部の下流にある首部と、この首部の下流にあり、その壁部の外側面が、動作中に、この外側面を囲んでいる冷却システムにより冷却される拡散部とを有する、燃焼チャンバーに関する。
【0004】
特に検討されるのは、その対称軸により規定された長手方向に延びるロケットエンジンの燃焼チャンバーであり、従ってこの燃焼チャンバーはほぼ回転対称である。従って、対称軸は、環状の燃焼チャンバーの場合とは異なり、燃焼チャンバー内に入っている。このような燃焼チャンバーにおいて、推進剤(燃料及び酸化剤の流体、例えば液体水素と液体酸素)は、チャンバー10の一端11で噴射器により噴射される。図1は、このような燃焼チャンバー10を示している。推進剤の燃焼反応は、噴射器の反対側に位置している首部15を通って放出される燃焼ガス(例えば水蒸気)を生成する。首部15(最小断面である燃焼チャンバーの位置)の下流において、チャンバーは拡散部20の付近で広がっており、このことは、首部15を通って放出される燃焼ガスの速度を増加させることを可能にし、これにより推力がエンジンにより供給される。このチャンバー10の拡散部20は、ロケットエンジンの拡散部80を経由して下流に延びている。拡散部80は、チャンバー10の拡散部20の下流端25に固定されており、燃焼チャンバー10とは別のロケットエンジン部品である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃焼チャンバー10の壁部は、通常、熱機械的抵抗と熱伝導率との間の最良の妥協点をもたらす銅又は銅合金から作られている。ロケットエンジンの動作中、拡散部20の壁部30を含むこれらの壁部は、非常に高い温度に達するので(燃焼ガスは、酸素及び水素の燃焼の場合、首部の上流において3500K付近になり得る)、これらの機械的特性を維持するために冷却されなければならない(これらの温度は、首部で1000Kを超えてはならない)。この冷却を行うための最も一般的な方法は、これらの推進剤が非常に低い温度であるため、推進剤の一つを、チャンバー10の拡散部20の壁部30の内部に又はこの壁部30に接触するように流すことからなる。
【0006】
実際には、現在使用されている推進剤は(その体積を最小にするため)液化ガスであり、従って、それらが燃焼チャンバー10に噴射されるときには非常に低い温度である。その結果、(これら推進剤の噴射前に)拡散部20の壁部30の周囲に流れるこれらの推進剤は、雰囲気温度よりもはるかに低い温度(20K乃至100K)である。雰囲気温度とは、約300Kの温度を意味する。
【0007】
この推進剤の流れは壁部30の冷却を可能にし、その結果、エンジンの動作中における壁部30の内側面32の温度は、拡散部20を通って放出される燃焼ガスの凝縮温度よりも低い。例えば、内側面32の温度は400K未満であり、例えば300K未満である。その結果、拡散部20を壁部30に沿って流れている燃焼ガス(酸素及び水素の燃焼の場合には水蒸気)は、この壁部30の内側面32で凝縮するが、このことは望ましくない。
【0008】
実際に、この凝縮はこの内側面32に沿った流れを生じさせ、このことは燃焼ガスの流れを妨げる。更にこの凝縮は、局所的に内側面32の温度の変動を引き起こし、このことはチャンバーの寿命低下につながり得る重大なストレスを局所的に発生させる。従って、その凝縮を排除するために、この壁部30の内側面32の温度を高くする必要がある。
【0009】
この内側面32の温度を上昇させるために考慮される一つの解決手段は、この内側面32と燃焼チャンバー内部の燃焼ガス(酸素及び水素の燃焼の場合には水蒸気)との交換表面を増大させるために、内側面32の粗さを増すことからなる。しかし、この解決手段は、この粗さが、交換表面が十分に増大されるために非常に細かくされなければならないことから、実施困難である。また、熱交換をモデリングすることは、このような粗い表面の場合には非常に複雑である。
【0010】
本発明は、拡散部がエンジンの動作中に凝縮をほぼ生じさせない内側面を有する燃焼チャンバーであって、作ることが容易な燃焼チャンバーを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、この拡散部が、その壁部の内側面に温度補償部として機能するコーティングを備えることで、このコーティングの内側面の温度が、動作条件の下でこの内側面上の燃焼ガスの凝縮温度より高くなり、その結果、凝縮がこの内側面で生じないという事実により達成される。
【0012】
これらの構成により、凝縮は、エンジンの動作中に燃焼チャンバーの拡散部の内側面でほとんど又は全く生じない。本発明による解決手段は、コーティングの内側面の粗さを増す必要がないため、既知の又は検討された解決手段よりも容易に実施される。また、コーティングの厚さや性質は、拡散部の動作条件に応じて選択されることが可能である。従って、本発明による解決手段は汎用性がある。
【0013】
コーティングの厚さは、首部の下流において下流方向に0値から徐々に増加するので有利である。
【0014】
従って、例えば、コーティングの厚さは、チャンバーの拡散部の下流端に向かって、首部のすぐ下流において0値から最大値に徐々に増加する。発明者は、試験を通じて、そのようなコーティングの厚さの分布により、コーティングの内側面で、長手方向にこの表面に沿ってほぼ一定の温度に到達可能になることを示した。実際に、コーティング厚さの漸進的な増加は(即ち、この厚さの急激な増加により段差が形成されることが無い)、チャンバー内の燃焼ガス(酸素及び水素の燃焼の場合には水蒸気)の流れが妨げられることを防止し、局所的な温度勾配が作られることを防止する。従って、コーティングのためのこのような構成は最適であり、要求された目的に最も近い。
【0015】
限定されない例として図示された実施形態の詳細な説明を読むことで、本発明はより良く理解され、その利点はより良く明らかになるであろう。説明は添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ロケットエンジンの長手方向の全体断面図である。
【図2】本発明による燃焼チャンバーの長手方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2は、図1のロケットエンジンの本発明による燃焼チャンバ10の長手方向の断面を示している。長手方向軸Aの回りで燃焼チャンバー10が回転対称であることを前提として、燃焼チャンバー10の半分だけが図示されている。噴射器11により噴射された推進剤の燃焼によって生成された水蒸気は、首部15を経由して拡散部20に排出され、そのため、ほぼ軸Aの方向に図2の左(上流)から右(下流)に流れる。
【0018】
拡散部20の壁部30の外側面は、冷却システムにより冷却される。例えば、この冷却システムは、極低温液体が流れる再生循環路(図示せず)である。
【0019】
コーティング40は、拡散部20の壁部30の内側面32に被覆される。従って、コーティング40の内側面42は、燃焼チャンバー10内を流れる蒸気と接触する。
【0020】
例えば、コーティング40は、拡散部20の壁部30の内側面32の全体、即ち、拡散部20の下流端25まで覆っている。
【0021】
燃焼チャンバーの拡散部20において、拡散部20はほぼ円錐となっているので、上流から下流に向かって、燃焼ガスが流れる表面がより大きくなり、この円錐形状により、燃焼ガスの膨張も引き起こされる。従って、壁部30に沿った熱流束は上流から下流に向かって減少しているので、一般に、この熱流束の減少を相殺するために、首部15から拡散部20の下流端25に向かって厚さが増加するコーティング40を被覆するようになった。
【0022】
図2に示すように、コーティング40の厚さは、上流から下流に向かって、拡散部20の下流端25まで、徐々に増加する。
【0023】
あるいは、コーティング40の厚さは、コーティング40の上流部で上流から徐々に増加し、そして拡散部20の下流端25までほぼ一定である。
【0024】
あるいは、コーティング40の厚さは、コーティング40の上流部で上流から徐々に増加し、それから減少し、又は、別の方法で拡散部20の下流端25まで拡散部20の形状に応じて変化するようにしても良い。
【0025】
コーティングは様々な材料から作られることができる。
【0026】
例えば、コーティングはセラミックからなる。
【0027】
従って、本発明による動作温度範囲で、且つその厚さに応じた温度勾配の変化範囲で、コーティングは優れた寿命を有し、その間はその熱特性及び耐摩耗性が保持される。特に、コーティングが剥離する傾向は非常に弱い。
【0028】
例えば、セラミックはイットリア安定化ジルコニアである。
【0029】
更に、コーティングは、拡散部の壁部の内側面に直接被覆された副層を備えても良く、セラミックはこの副層の上に被覆される。
【0030】
このような副層は、公知の方法により、基板へのセラミックの付着を向上させることができる。この基板は、本明細書の壁部30である。
【0031】
例えば、副層はMCrAIY方式であり、Mは金属である。
【0032】
例えば、この金属は、ニッケル、鉄、コバルト、又はこれらの金属の合金若しくは混合物である。
【0033】
発明者は、ジルコニアで覆われたMCrAlYの副層で構成されているコーティング40を用いて試験を実施した。このコーティングは低温型燃焼チャンバーの内壁32に被覆されている。これらのテストは、50ミクロンから100ミクロンの間の厚さ(1W/m・K及び2W/m・Kに等しいジルコニア層の熱伝導率に対応する厚さであり、この層の気孔率のレベルに依存する)を有するジルコニアの層が、このコーティングが10MW/m2(MW=106W)付近の熱流束を受けているときにコーティング40の内側面42の温度を約100K上昇させるのに十分であることを明らかにした。
【0034】
必要なジルコニアの厚さは、5W/m・K(多孔質の副層)から15W/M・K(非常に緻密な副層)の間で変動する副層の熱伝導率からほぼ独立している。
【0035】
一般に、厚さが150ミクロン付近又は150ミクロン以上のコーティング40は、その内側面42で、ロケットエンジンの動作中にその内側面42での凝縮の形成を防止するために十分高い温度を達成することを可能とする。
【0036】
この凝縮が形成されることを防止するため、このコーティング40の内側面42の温度は、ロケットエンジンの動作条件の下で内側面42上の燃焼ガスの凝縮温度よりも高くなければならない。
【0037】
例えば、このコーティング40の内側面42の温度は、この凝縮温度よりも50K高い。
【0038】
この凝縮温度は、燃焼ガスの性質及び燃焼チャンバー内の圧力と共に変化する。
【0039】
本発明は、ロケットエンジンの燃焼チャンバーの場合について上述された。しかしながら、本発明は、ガスの噴射部の下流にある首部と、この首部の下流にあり、その壁部の外側面が動作中にこの外側面を囲んでいる冷却システムにより冷却される拡散部とを有する、あらゆる形式の燃焼チャンバーに適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの噴射部(11)の下流にある首部(15)と、この首部の下流にあり、その壁部(30)の外側面が、動作中に、極低温製品を用い且つ上記外側面を囲んでいる冷却システムにより冷却される拡散部(20)と、を有する燃焼チャンバー(10)であって、
上記拡散部(20)は、その壁部(30)の内側面(32)に温度補償部として機能するコーティング(40)を備え、これにより、コーティング(40)の内側面の温度が、動作条件の下で内側面(42)上の燃焼ガスの凝縮温度より高くなり、凝縮が内側面(42)で生じないようになっていることを特徴とする燃焼チャンバー(10)。
【請求項2】
上記コーティング(40)の厚さは、上記首部(15)の下流において下流に向かって0値から徐々に増加することを特徴とする請求項1に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項3】
上記コーティング(40)の厚さは徐々に増加し、そして上記拡散部(20)の下流端(25)までほぼ一定になることを特徴とする請求項2に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項4】
上記コーティング(40)はセラミックからなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項5】
上記セラミックは、イットリア安定化ジルコニアであることを特徴とする請求項4に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項6】
上記コーティング(40)は、更に、上記拡散部(20)の壁部(30)の内側面(32)に直接被覆された副層を備え、上記セラミックはこの副層の上に被覆されることを特徴とする請求項4又は5に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項7】
上記副層はMCrAIY方式であり、Mは金属であることを特徴とする請求項6に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項8】
上記コーティング(40)の厚さは、150ミクロンのオーダーであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項9】
上記コーティング(40)は、上記拡散部(20)の壁部(30)の内側面(32)全体を覆っていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の燃焼チャンバー(10)。
【請求項10】
上記冷却システムは、極低温液体が流れる再生循環路であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の燃焼チャンバー(10)。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−533014(P2012−533014A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519042(P2012−519042)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051445
【国際公開番号】WO2011/004127
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)